実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

第36回特別研究指定校(活動期間:平成22〜23年)

三原市立幸崎中学校の活動報告/平成23年度8月〜12月
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セールスポイント

教育研究会(11月25日)の開催

 1学年(国語)、2学年(数学)、3学年(美術)の3クラスで学習集団やICTを活用した授業を公開した。

国語科では、文字と写真を組み合わせ、視覚的にイメージを広げさせ、思考力・表現力を高めることをねらいとする授業を行った。詩「ウソ」の内容把握・読み取りをした後、自分がデジタルカメラで撮った写真と詩を組み合わせたスライドを作った。本時は、自作のプレゼンテーションを行い、グループ内で個々の作品を吟味し、他者の意見を聞き、推敲した作品を最後に学級全体に発表した。

数学科では、錯視図形を自作し、根拠を基に論理的に数学的な言葉で説明することができることをねらいとした。本時は、家庭学習で作成した錯視図形をパソコン等を使って完成させ、説明文を書くという個の作業の後、グループ内で説明し、ユニークな作品を学級全体に発表した。


美術科では、思い出のこもった写真を平面構成し、切り絵原画を制作することをねらいとした。本時は、画像編集ソフトを活用し、配置・部分選択・拡大縮小等の機能を使い、複数のデジタル写真を平面構成して切り絵原画を制作した。生徒作品の紹介は画像転送機能を使って行った。


分科会は,「学習集団づくり」「ICT活用」の2分科会とし、ポスターセッションの形式で実施した。まず、個々のポスターを基に一人5分間のプレゼンテーションを行い、その後ポスター横で待機し、参加者の質問に個別に答えた。参加者は、分科会の枠を越え、興味関心のある場所に移動して話を聞くことができたと好評であった。

ICT活用をテーマに授業研究を実施(2教科)(10月7日)

保健体育 3年「器械運動(跳び箱運動)」:
前時の開脚跳びを復習した後、水平開脚跳びについて、キーワードを板書したホワイトボードに教師が自作した動 画教材を映写し、静止画像でポイントの分析や確認を画像に書き込みをしながら行った。その後生徒は自分で選んだ段の跳び箱で練習し、そのようすをVTRの追いかけ再生機能を使って映し出し、自己の振り返りや評価をさせた。

理科 3年「水溶液とイオン」:
既習内容を板書や自作アニメーション教材で確認後、学習課題を把握させ、予想を発表させた。その後演示実験を行い、結果を基に個人で考察したものを班で交流し、書画カメラに取り込んで拡大したワークシートを用いて発表した。

実践経過

(1) 第9回 校内研修(8月29日)
安田女子大学の片上宗二教授、大阪教育大学の木原俊行教授にご来校いただき、教育研究会の公開授業の指導案の個別指導をしていただいた。また、分科会ごとにポスターセッションについて指導・助言を受けた。
 
(2) 第10回 校内研修(10月4日)
数学科(「一次関数」)の研究授業を学力向上対策事業として行った。安田女子大学の片上宗二教授、広島県教育委員会東部教育事務所の有木浩城主任指導主事から指導・助言をいただいた。他校の教員も参加した研究協議会の中で、グラフをアップにするなどICTを活用して視覚化したほうがよかった等の意見が出た。
 
(3) 第11回 校内研修(10月7日)
保健体育科、理科の研究授業を行った(内容は上記参照)。大阪教育大学の木原俊行教授、広島県教育委員会東部教育事務所の伊場田真彦指導主事から指導・助言をいただいた。また、木原教授から映像付きレポート(例えば、保健体育科:写真や長距離走のグラフなどを入れる、理科:デジタルカメラを利用した実験結果の記録を活用する など)を国語科との合科で作成するなどの助言を受けた。
 
(4) 第13回 校内研修(10月28日)
国語科(「故郷」)の研究授業を学力向上対策事業として行った。安田女子大学の滝浪常雄准教授からグループ学習での教師の役割や文学作品の論理的な読み取り等について指導・助言をいただいた。他校の教員も参加した研究協議会の中で、グループでの発表では前回の理科のようにICTを活用して時間短縮を図るべきだった等の意見が出た。
 
(5) 教育研究会(11月25日)
国語科・数学科・美術科の公開授業を行った(内容は上記参照)。安田女子大学の片上宗二教授に、@学力や学習意欲の幅のある子どもたちに対しての授業づくりに向けてのアイディアが示されていたこと A基礎基本と応用を相互に往復させるためのツールとしてICTを活用し、協働的な学びをつくっているのが幸崎中学校の実践の特長であること等を講評していただいた。また、大阪教育大学の木原俊行教授には、「活用型学力を育てる授業づくり」と題して、@学力の構造 A活用型授業の前提 B活用型授業とICT活用の接点 C活用型授業の充実に向けた校内研修の工夫の4観点から講演していただいた。市内の小・中学校の教員だけでなく、市外、県外からの参加者もあり、「ICTを活用した授業が参考になった」「ICTを活用した授業に取り組んでみたい」等の意見があった。さらに、5社のデジタル教科書等の展示もあり、ICTの活用を普及することができた。
 
(6) 第14回 校内研修(11月28日)
英語科(「Speaking Plus4」道案内−道順をたずねる・教える)の研究授業を学力向上対策事業として、デジタル教科書、ALTを活用して行った。三原市教育委員会の山垣内理恵指導主事に指導・助言していただいき、「電子黒板を使って視覚化し、話すこと、書くことで思考させるいい授業だった」との評価を得た。
 

成果と課題

成果
  • ICT機器を常設した教科型教室が整備され、教職員の活用技能や意欲が向上し、授業で使用する頻度が増えた。
  • ICT機器を効果的に活用することで、生徒の学習意欲を引き出し、活発な話し合いを促している。
  • 生徒アンケートでは、ICT機器の活用による「学習意欲」や「思考力」の深まりを生徒自身が実感している。
課題
  • ICT機器を活用する教材の準備にも時間がかかる。
  • ICT機器と板書の使い分けが充分にできていない。
  • 教科のねらいを達成するために、ICT機器をどの場面で取り入れることが学習意欲や知識の定着に効果的であるかの研究をさらに深めていく必要がある。

裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

教育研究会の分科会ではポスターセッションを実施したが、初めてという教員が大半で、「ポスターセッションとは何か」「ポスターはどのように作るか」から研修した。しかし、最初に作ったポスターはどれも文字が多く、意見を出し合って作り直していった。また、直前のリハーサルでは、5分という持ち時間を超えるものが多く、時間を計りながら修正を加えた。

解説と講評

コメント:大阪教育大学教授 木原俊行先生

ICT活用の進展を促す研究発表会のデザイン

 広島県三原市立幸崎中学校のICT活用のレパートリーは広い。教師が生徒の思考を活性化する資料を実物提示装置と大型ディスプレイを用いて彼らに示す場合から,生徒自らがネットワーク上で資料を検索したり,コンピュータで作品を発表したりする場合まで,同校の研究テーマたる,思考力・表現力の育成に向けて,各教師が様々なタイプのICT活用に取り組んでいる。

 そのようなICT活用の進展は,幸崎中学校の教師たちの授業研究に対する熱意を基盤としている。同校の活動報告をご覧いただければ,まず,その厚みに目を奪われる。10月から11月にかけて,なんと数多くの授業研究会が催されていることか――。研究発表会終了直後の11月28日にも,研究授業が実施されているのには,驚愕させられよう。もちろん,その質の高さには,さらに注目すべきだ。例えば,筆者も含めて数多くの助言者が幸崎中学校を訪れ,研究授業等に対して第三者評価を繰り広げている。小規模校ゆえに授業づくりのアイデアの多様化を進めにくいという問題点が,これによってクリアされているのだ。

 さらに,同校のICT活用の進展は,研究発表会の開催,とりわけそのデザインの巧みさによって促されている。例えば,当日の研究授業後の分科会の編成である。教科をまたいで意見を交換できるトピック「学習集団づくり」「ICT活用」を定めて,中高等学校の授業づくりでよく問題視される「教科主義」に陥る事態を回避している。また,そのような分科会で報告される事例が,当日の研究授業だけでなく,同校で過去に行われた研究授業で構成されている点は見事である。参加者が,同校の過去の実践に学ぶこともできたからだ。筆者も含めた2名の助言者による講評,デジタル教科書の展示等も,幸崎中学校の教師と他校の教師による,ICT活用に関する学び合いのよき材料や道具となった。

写真 幸崎中学校の研究発表会のポスターセッションの様子

 
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