実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

第36回特別研究指定校(活動期間:平成22〜23年)

京都教育大学附属桃山小学校の活動報告/平成22年度8月〜12月
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セールスポイント

即戦力育成! 教師の卵も活用

 これからの学校では、必要に応じてICT機器を活用することの重要性がますます増大していきます。そんな現状に対応できる力を身につけるために、本校の実習生も積極的にICTを活用した授業に取り組んでいます。

ICT活用データベースシートの作成

 個々で作成された教材等を全体で共有して、その利用価値をさらに高めることを目標に「ICT活用データベースシート」を作りました。データが増えていくことによって、より活用しやすくなることを期待しています。

各教科におけるICT機器の利活用が進展

 各教室に電子ボードが配置され、既存の機器と併せて効果的な教育環境が整いました。授業時間だけに限らず、児童が気軽に利用する姿も見られ、いろいろな場面への活用が広がっています。

「IT」ではなく「ICT」

 大きなテーマである人間力の育ちに迫るキーワードであるコミュニケーション。IT機器の間にCが存在する意義が確かに感じられるようになってきています。実際に様々な場面で使われていくことによって「IT機器」が「ICT機器」として質的発展していくというのが実感です。

実践経過

9月 ○ 5年 体育「跳び箱運動」
  • 子どもたちは,見本の技の動画を見てイメージを持ち,技に挑戦します。どうすればきれいに,そしてうまく技ができるかを,デジタルカメラで撮影した自分のものと見本を比べながら練習していきます。見本の技は、実習生が作成したものを活用しています。視覚からイメージを持つというアプローチも有効であると思いました。

算数ソフト導入研修会
  • 電子ボードもいろいろソフトがあってこそ活用が広がります。算数の教材作成ソフトを導入し,これからの活用に向けての実習をしました。
  6年 社会「骨が語る歴史の真実」
  • 本校の元副校長川端健治先生を迎え、「確かな学力」や「豊かな社会力」を育てる「言語活動」の在り方〜 「ことばで伝え合う力」をどう育てるか?〜という内容で研修会を開いた。この研修会は本年度は、毎月1回開くことを計画している。理論的なことと、その理論が授業場面でどのように活用されるのかということを具体的な例をもとに講演していただいた。
  ○ 教育実習での活用
6年 算数「分数のかけ算・割り算」 1年 算数「ながさくらべ」
 本校は,100名を超える実習生がやってきます。これから教職を目指す学生にとって,ICT機器の活用も大きな課題となっています。授業の中でどう生かすかなど,学生とも議論しながら活用を進めています。子どもたちの思考の流れに対応するのはなかなか難しいですが,こういう経験は,実習生にとっても大きな財産となることでしょう。
10月 3年 国語 漢字学習
  • 漢字学習において,筆順を視覚的に確認するために,光村のデジタル教科書を活用し,電子ボードを使っています。子ども一人一人が,担当する漢字を決めます。そして,子どもたちがミニ先生となり学習を進めています。
○ ミニICT活用研修 「電子ボードの活用」
  • 絵本の読み聞かせを行うときに,絵本を電子ボードに映し出して提示すれば,子どもたちにとって見やすいのではないかという意見が出ました。そこで、電子ボードを活用するための自主的な研修が行われました。絵本を大きく拡大することで、子どもたちは、より集中して,聞くことができました。
11月 ○ パナソニック教育財団からのアドバイザーによる訪問指導

  • 今年度2回目のパナソニック教育財団研修会がありました。東京から財団の方と指導者の赤堀侃司先生計3名,教育大学から浅井先生,富永先生,谷口先生が来られました。また教育新聞社から記者も来られました。3校時,1年生宮本学級「算数」と4校時 3年生平岡学級「社会」の授業を公開しました。5校時は,全学級公開。6校時は,赤堀先生に「人間力」のお話を伺いました。そして放課後に授業研究会を開きました。「子どもたちが自分たち自身で学ぼうとしている授業が展開し,非常に楽しく,また興味深く授業を見せてもらった」という感想をいただきました。本校の今まで目指してきたものが「人間力」につながっていくと確信できました。また,チームを組んで授業に取り組んでいる(ベテランの授業わざと若手の機器活用能力の融合)ことについても高く評価していただきました。
  2年 算数「かけ算」
  • かけ算の立式の考え方を説明する時に,電子ボードに自分のノートの画像をキャプチャーし,手元には,自分のノートを持ちます。これにより自分のノートを見ながら,友だちの方を向いて発表できるのです。発表するときに自分のノートを持っている安心感は,子どもたちにとっては,大きな支えとなるのです。
  4年 「エネルギー授業」 
  • 4年生は,ゲストティチャーに幸さんを迎え,エネルギーの授業をしました。6回シリーズで,エネルギーについてのお話を聞いたり,エネルギーコンテストに向けての参考になるようなアドバイスをいただいたりしました。発明はなんのためということを子どもたちに投げかけ,「目的を持って,エネルギー変換や活用の大切さを考えながらもの作りをしてもらえたら」と幸さんは,考えておられます。
12月 5年 理科「おもりがうごくとき」
  • 5年生では,ふりこの実験でパソコンやデジカメを使いました。ふりこにはどのような謎が隠されているのか,自分たちで方法を考えて実験をしました。その手助けとしてパソコンや,デジカメを使いました。実験で出てきたデータは,電子黒板に打ち込んで平均を出していました。子どもたちは,大人より早く機器に慣れて使いこなしていきます。
  校長先生のスピーチ
  • 2年1組の「校長先生のスピーチを聞きたい」という願いがかない,坂東校長先生が「自然に学ぶ」というお話を2年生に行いました。校長先生は,新幹線の形が「かわせみのくちばし」からヒントを得たこと,パンタグラフは「ふくろう」の羽を参考にしたことなどを話してくださいました。ふくろうの羽はほとんど風切り音がしません。それは夜獲物を捕獲するときに,音を立てずに近づくためです。また,獲物を素早く捕らえるために鋭いつめがあります。足はにわとりと違ってつめの間際までふさふさとした羽で覆われています。これは獲物に反撃されても怪我が少なくて済むようにということだそうです。自然にいる動植物は,本当によく考えられた仕組みを持っています
  ○ ミニICT研修会 「タブレットPCにできること」
  • タブレットPCのデモ機を1台企業からお借りしました。
    まずは,いろいろ使ってみました。使っていくうちにアイディアが浮かぶのです。まさにIT機器を挟んだコミュニケーションの「ICT」です。このようなミニ研修会の中で,ベテランの教師の授業力とICT機器の良さが融合していくのを感じました。
  PTAと学校の共催 「情報化社会における子どもの安全を考える」 
  • PTA副会長・上之下さんと北村先生に講師をしていただき,現代の子どもを取り巻く情報環境についてのお話をお聞きしました。上之下さんは,今年夏に東京で開かれた全国PTA総会の分科会で携帯電話の恐ろしさについて聞いてこられました。また北村先生は昨年教員の中央研修で同じく携帯やインターネットの恐ろしさについて研修を受けてこられました。学校としても印刷物を配布したり,懇談会でお話してきたりしていますが,今一歩携帯やインターネットの恐ろしさについて保護者の方の関心が薄いのではと危惧していました。今回昼の部と夜の部で100名の方々に来ていただくことができました。 このような取り組みは来年度も続けていきます。
  1年 朝の会 係活動
  • 図書係が,「靴下の中のプレゼント」の読み聞かせに活用しました。子どもは,実物の絵本を持ちながら本を読み,聞いている子どもは,その絵本の画像を電子ボードで見ながらお話を聞きました。10月に行ったミニ電子ボード研修会が生かされ,実践したものです。
 

成果と課題

  • そこにあるからこそ
     電子ボードなどのICT機器は,まずそこにあり,使ってみたいという意欲から活用が始まります。このことは,大人も子どもも同じで,困ったときに一緒に考えてくれる人の存在も大切です。子どもも大人も一緒にこれからも利活用を進めていきたいと考えています。


  • ICTデータベースシート作成
     ICT機器を活用した授業の共有をはかるためにデータベースシートを作成しました。従来の指導案に1枚付け加えるだけのものを作成し,少しでも負担の軽減にと考えました。このシートを活用してデーターベース化できるように今後は考えていきたいと思います。


  • 活動の共有
     教育実習,運動会,学芸会・・・と行事がたて込んでいることもあり,学年以外で実践を共有する時間がなかなか取りにくかったです。自然発生的なミニ研修会も行われたが全体の共有とまで行きませんでした。利活用は行っていても,授業をしているので,それを画像などで記録に残せないということがあります。インターンシップなどの学生にも協力してもらい,記録も残していきたいと思います。


  • 機器の不具合の調整
     電子ボードを利活用するが,固まってしまったり,思うように動かなかったりすることがしばしば起こります。その調整を行うとともに,対処の方法も学んでいかなければならないと考えています。
 

裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

    「IT」ではなく「ICT」
     電子ボードへの取り込みを、子ども自身ができるようになってきました。また,操作に戸惑っている子どもに、他の子どもが教える場面もよく見られます。ICT機器を通してコミュニケーションが活性化されている場面でもあります。まさに「IT」ではなく「ICT」と感じた一場面でした。
    子どもが,子どもに教えるだけでなく,子どもが教師に教えたり,若い教師がベテランの教師に教えたりするなど,使い方や活用の仕方については,双方向のコミュニケーションが見られてきています。「子どもたちが自分たち自身で学ぼうとする授業を展開するための支援の一つとしてICT機器を活用し始めています。ベテランの授業のわざと若手の機器活用能力の融合という目指す形が見られはじめています。」
    しかしながら,ICT機器は,思うように動いてくれないときもあります。ICT機器ともコミュニケーションがとれればと思ってしまう今日この頃です。改めて人間の力の偉大さに気づきました。

 

解説と講評

コメント:白鴎大学 教授 赤堀侃司先生

1.ICTの活用について
 始めに、ICTを、実に細やかに、そして、効果的に活用している実践に敬意を表したい。それぞれに、意味がある使い方になっている。例えば、以下のような実践である。

@ 振り返りということ
 体育の跳び箱運動の様子をデジタルビデオで記録して再生することで、自分の姿を振り返ることが、容易にできる。 私たち大人でも、自分のことを知っているようでよく知らないというのは、経験的に知っているが、他人から指摘されると、微妙な感情が働く。しかし、そのままを映し出す機械であれば、誰でも素直に、自分を振り返ることができる。その良さが、よく出ている。ICTという道具は、なかなか思うように動いてくれないことがあると書かれているが、その通りで、人と道具の関わりは、まるで人のつきあいと同じで、相手のことをよく知ることで、コミュニケーションができる。異文化理解に似ているであろう。

A 使い方を見つけるということ
 理科で振り子の実験を電子黒板を用いて行い、さらに平均値を出す試みは、高校の実験のような高度な印象を持った。実際に、このような実験が高校でよく実施されている。興味深いのは、このような使い方を、子供達が考えて実験したという事実で、それは子供達が、電子黒板から引き出したとも言える。バフチンというロシアの研究者は、それを対話と呼んでいる。人は他人だけと対話しているのではなく、物とも自分自身とも対話していると言う。子供達は、電子黒板と対話しながら、平均値を計算し、新しい使い方を見いだしたのであろう。今後も、子供達の発想に期待したい。

2.人間力の育成とICTの関わりについて
 前回に、人間力についての基礎的な文献について紹介したが、今後は、さらにその関わりについて、議論を継続したい。PISAを代表とするような国際学力調査では、知識から能力に移行しつつある。そのような広い能力を含めて、学力と呼んでおり、 この意味では、学力の世界標準ができあがりつつある。アメリカの21世紀汎用スキルも、同じような能力や技能に注目しており、道具を使う能力、コミュニケーション能力、コアとなる教科の知識などを挙げているので、基礎基本の知識と、人間力ということになろう。

 以上から、本研究では、ICTという道具を使う場合における、子供同士の対話の特徴や、教材や自分との対話の特徴など、その過程や知見を明らかにすればいいかもしれない。つまり、人間力とICT活用を切り離さなくても、自然に関連していくのではないかと思われる。
今後とも、このような実践の継続を期待したい。
 
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