実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

第36回特別研究指定校(活動期間:平成22〜23年)

京都教育大学附属桃山小学校の活動報告/平成23年度1月〜3月
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セールスポイント

教育研究会において実践を発表
人間力育成カリキュラムの作成完成
研究の総括

実践経過

1月

○ 教育研究会 公開授業の検討会

 
2月

○ 教育研究会

全学級公開を行いました。その中の一部を紹介します。

2年 生活「ひろがれわたし」

小さいときの思い出のものを,子どもが持ち寄り紹介した。これまでは,実物を持ってきての紹介をしていた。しかし,とても貴重なものであり,持ってきたくても持って来られないものもあった。また,多くの子が発表できるように時間短縮の効果を考え,思い出のものを写真に撮りパソコンに取り込んだ。

前回は,デジタルカメラの画像でみていたので,小さくてわかりにくいところもあった。しかし今回は,班に1台のノートパソコンを準備することにより,大きな画面で見られ,わかりやすかったので,子どもたちの集中力も高まっていた。

また,これはもう定番になっているのですが,発表の時間に見通しをもてるようにするために,電子黒板にタイマーをうつした。そのことにより時間の配分を考えながら行うことができた。

5年 家庭科「本返し縫いと半返し縫い」

実物ではわかりにくいので,絵や図を用い,針の動きをイメージできるようにプレゼンテーションソフトを作成した。そしてそれを用いて,布の縫い方を子どもたちは学習した。その際に,針の動きが伴うところでは動画を活用した。

一度見ただけでは解りにくいので,つまずいた時に,いつでも見られるようにパソコンをセットして活用できるようにした。子どもたちは,自分の課題の克服の支援としてICT機器を活用していた。

6年 理科 「てこのはたらき」

「つりあうとは?」ということは,どういうことなのかというところから授業は始まった。そして,傾くのはどうしてかということについて,ミニホワイトボードで意見を共有した後に,一人一人がモビールを作り,つり合う条件を探そうとしていた。情報を共有する手段としてホワイトボードの活用とともに,写真をWifiの機能を用いて共有できるeye-fiというものを使用した。そして,その画像をプロジェクタで表示し,つり合う条件を共有できるようにした。当日は,時間の関係でeye-fiを用いての情報の収集で終わった。しかし,次時にそのデータを用いて,子どもたちが見つけたつり合う条件についての交流の学習に用いた。子どもたちは,画像のデータがあるので,時間が経過しても,その時の情報を思い出しやすいと言っていた。今後有効なツールのひとつになるであろう。

5年 算数「比べ方を考えてグラフに表そう」

ふたつの量を比べるのに数直線を電子黒板に映し出し,書き込みながら授業を進めた。また,子どものノートを写しだし,その考えを共有することにより,その理解を促すことができた。授業を進めていく中で,電子黒板に映し出した数直線よりも子どもたちのノートの方が解りやすいと感じたので,子どもたちのノートの提示を中心にして授業の展開を修正した。ICT機器ありきではなく,その場その場の状況の判断が大切であるとか改めて感じた。

3年 英語「絵本を作ろう」

絵本に出てくる登場人物,建物の名前,色の名前を学習する単元である。絵本作りをする前段階として,絵本をスキャナで取り込んだものをプロジェクタで投影し,大型絵本として子どもたちと声を合わせて読み聞かせした。絵本を大型化することで,細部の色や形,ものの名前を指し示しながら確認したりすることができた。また絵本を自分たちの手で実際に作ることをあらかじめ伝えておいたので,グループでどのような活動をこれからしていけばよいか,どのような練習をしておけばよいかという見通しを持って活動に取り組むことができた。

3年 道徳「これっていいのかな?」

情報モラルに関するさまざまな場面での判断について,お話教材を通して話しあった。お話教材を使って道徳を行う場合,どうしても内容理解についての個人差が問題となり,その後の話し合いについて議論が深まりにくいことがある。物語の登場人物やその場面を電子黒板でうつし話を読むことで,子どもたちがお話をより身近に感じ,内容がとらえやすくなった。また,お話を通して情報通信の場における問題点を話し合うことで,情報の漏洩の恐ろしさや不用意な発信について知る機会となった。また実際にメールなどの通信機器を扱う場合にどのようなことに気をつけて日々活動していけばよいかに気づくことができた。

   
3月

○ 教育研究会の振り返りと実践の総括

3月も実践を重ねながら,教育研究会の振り返りと実践の総括を行った。

3年 社会「昔っておもしろい」

 今回,お祭りで使う小道具(放り投げ松やなた)と服装は実物を見せることができた。そして,お祭りで歌う歌も実際に歌ってもらった。やはり実物の力はすごく,児童もとても興味を示していた。しかし,この授業のねらいはお祭りに携わっている人々の思いに迫ることである。やはりお祭りの準備や当日の様子がわからなければ,ねらいを達成することが難しい。もちろん,話だけでも伝わる部分はあるが,映像を使うことでその様子はさらに正確に伝わる。特に今回取り上げた松上げ祭りは「火」使うお祭りである。その迫力を言葉だけで伝えることには限界がある。

 しかしながら,お祭り当日の様子をDVDの映像で見た児童は,その迫力にとても驚いていた。そして,その映像を見た後に話を聞くことができたことで,お祭りに携わる人々の思いに迫ることができたようである。

 授業は終わるころには「松上げ祭りを見に行きたい」という声もたくさん聞かれた。

 

成果と課題

教育研究会の開催と研究紀要の完成が一番の成果である。これまでの実践の総まとめとなっている。本研究を進めるにあたって共通理解してきた5本の柱を中心に紹介する。

5本柱の実践

@ 基本的生活習慣の確立
ICT機器には,情報を切り取り再現できる良さがある。この点を生かし,子どもたちは自らの学校でおこる改善を要する現状を考えた。そして,改善をアピールする手段として,現状を再現し,デジタルカメラで記録した。そのデータをもとに,ポスターを作成し,他の児童への発信を行う活動を行った。視覚的に自分たちの生活や学校全体の様子を見つめなおす機会を持て,考えを深める場となった。

A異年齢交流の充実
異学年で学習する場を設定することで,自分たちの学習の様子を映像として残し,それをもとに学びあったり,教えあったり,助けあったりする姿が見られた。上の学年は,下の学年に分かりやすく伝えようとしていた。また下の学年は学習の見通しを持つことができた。

Bメディアの特性を生かした利活用
本校では,ICT機器を導入する以前にも子ども主体で授業を進めてきていた。そこで,これまで本校が大切にしてきた教育の理念を継承し研究していくことに加えて,ICT機器導入による新しい授業のスタイルやその効果を研究していこうと考えた。「アナログ」と「デジタル」を融合し,子どもたちの更なる育ちやその変化を見つめるために授業実践を重ねた。その経過の中で,活用の意図を明確にするために柴田功ら(2008)の「教育用理科コンテンツ活用に関する研究」を参考に「いつ」「どこで」「誰に」「何のために」使うのかという活用表を作成するに至った。大切なことは,授業の中で最も適切だと思われる方法を選択し,活用できる力である。

Cデジタル環境及び用具の整備と指導者の
スキルアップ

機器活用において必要なことは,自由に使える環境を整えるとともに,保管方法や使用状況がわかるようにすることである。また,機器の操作技能をはじめ,指導者側のスキルアップのために,定期的な研修を持ち,授業実践に活かせる機器の活用方法を指導者間で共有できるようにした。

D 情報のポートフォリオ的蓄積と再利用
システムの構築

作成した情報が増えていくと,作成したものが一度きりの使用に終わってしまうことも多く見られた。そこで,授業の実践をポートフォリオ的に蓄積し,再活用できるように,ICTデータベースシートを作成し,データベース化を行った。これをもとに,人間力向上のためのカリキュラムを作成した。このカリキュラムは,固定のもではなく,つけたい力を明確にすることにより,指導者の意図も生かせるように入れ替え可能なものとした。

これらの取り組みにより,「言葉で伝え合う力」の充実を図り,指導者も子どもも,
 @ 鉛筆やノートのように,ICT機器を活用する姿
 A 情報やメディアを選択し,活用する姿
が見られるようになったと感じている。活用しているというより自然に操作していく中で,ICT機器の存在は,どんどん透明化してきている。
 しかし,今後教師も子どもも入れ替え変わっていくので,管理や活用にあたっての共通理解は,一般化していかなければならないと思う。

 

裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

 やはり成果を形にすることは,非常にエネルギーを要する。子どもを前に,子どもとの授業実践ならば,双方が理解し合っていればよいが,それを文章化したり,他者に発信したりすることが大変であった。しかしながら,若い世代が増えてきた学校現場において,ベテランの教師と経験年数の少ない教師が,お互いに考えを共有し,それぞれの持つ良さを生かし協力できたことは,一番の成果であったと考える。

 

2年間の実践を終えての感想

 本研究を支えてくださった赤堀先生,浅井先生,富永先生そしてパナソニック教育財団の方々のご指導と多大なご協力ご支援に深く感謝申し上げる。
 本研究の指定を受け,全校をあげて取り組んできた。「人間力」という非常に難しい研究テーマではあったが,本校がずっと教育理念として継承してきた「創造性教育」が根底になると確信し,「人間力」という視点から全教員が共通理解し,学び直した。教員も子ども,今や電子黒板やICT機器は,日常にあるもので自然に取捨選択しながら使えるものになってきた。しかし,最初から今のような状態だったのではなく,中にはパソコンが自由に使いこなせない教員もいた。このような中で,高い教育技術を持つ経験豊かな教員と機器操作に堪能な若手の教員が協力して授業を作り上げていく姿が多く見られた。全教職員の努力と協力があったからこそ,この研究を進めることができたと感じている。

 「ICT機器の前に人間!」言われてみれば当たり前なのだが,大切なことである。機器は,やはり道具である。必要な時に必要なところで有効的にICT機器が使われるようになるにつれて,機器の使用が見えなくなってきた。その中で,次の3つのことが明らかになった。

@子どもはすごい! Aそれぞれのよさを生かす! BICT機器は触媒!

 日常の学習でも,子ども一人ひとりが発見したことをクラスで交流する場面はよく見られる。そんな時に自分の伝えたいことを写真や動画を使って紹介できたなら,その現場を実際に知らない者にとっても,発表者の思いに近づいて共感的に捉えたり,自分の問題として考えたりしやすくなる。そして,こういった「寄り添う」空気が流れることが,クラス全体の学ぶ意欲が高まることにつながる。自分の思いが相手に伝わる,相手の言うことが理解できる実感は,自己肯定感を育み,クラスの共同体意識を高める基盤となるものである。このようなこともICT機器が手助けすることができる。まさに
「ICT機器は,触媒!」なのである。

 「自立し共生する力」も「生きる力」も「気付き考え行動する力」も言うなれば全て「人間力」と言うことができる。「人間力」を定義することに随分と時間を費やしたが,人間が本来持つ力や理想実現に向けて高めていこうとする力を向上させていくためには,何が必要なのかを探っていくことが重要だと感じた。
 そんな中で子どもの変容が見られたのはうれしいことである。その中の一例を紹介します。
 クラスの中で自分を表出することに苦手意識を持っていたが,コンピュータ操作に長けているところを友達に認められ,授業中に頼りにされることが増えたのがきっかけに着実に積極性を高めていったA君。言葉による説明が不十分でまわりから理解されにくかったが,友達の話を共感的に聴くことの意義に気づき,認められる実感を得ることができたBさん。クラスの中で起こる,このような子ども一人ひとりの小さな物語を大切にしたいと思う。子どもの持つ人間力も大切であるが,それらの子どもの変容に気づき,しっかり認めるのも重要な教師力である。様々なきっかけで日々成長する子どもを支える教師力,保護者力,総じて学校力を再認識して,目標を明確にし,達成に向けてのステップを具体化していく作業に今後とも取り組みたいと考える。

 最後に,今後の研究につなげていくために次のようなことを大切にしていきたいと考えている。
 子どもの成長を語るとき,数値はもとより,客観的に目に見える証拠をもって示すことは難しい。それを少しでも分析的に見ていくために,学習の場で活用したICT機器の特性と「人間力」を構成すると考えられる様々な力を関連づけて指導の効果を確かめることを重視した。そして,ICT活用授業プランデータベースシートと関連させて,項目毎に指導のポイントを整理して,カリキュラム作成に取り組んだ。実際のところ「人間力育成のためのカリキュラム」と呼ぶには不十分な点が多く試行段階であると言える。今後検証を含めて質的な改善を図り,一般的な意味でのカリキュラムとして働くものに日々改善していくことが重要な課題であると考える。

 

次年度以降,今回の成果をどのように展開するのか

 校内研究をこれまで人間力のためのカリキュラムの開発と新教科開発の2本で実施していたが,次年度以降これらを1本化し,今回の成果を踏まえつつ,今回の助成における成果は,文部科学省指定の「メディア・コミュニケーション科」の新教科の開発にそのエッセンスを生かす。
 研究開発課題は,以下の通りである。
 豊かな社会力を身に付けるための基本は,人と関わる力である。メディアを選択し活用して,自分の思いや考えを伝え合うことができる力を育てるための教育課程・指導目標,内容,方法の研究開発を行う。

 

解説と講評

コメント:京都教育大学 教授 浅井和行先生

人間力育成カリキュラムの作成とその後

1.教育研究会

 様々な教科で,全校の学級数より多い数の授業が公開されました。授業では,ICTは教師の教材を提示するものから,子どもたちが学習を進めていく道具になっていました。先生方も学び続けておられ,教室で巡回しながら手持ちのPCと電子黒板をBluetoothでつなぎ,子どもの思考の流れを切ってしまわないようにしておられました。

2.「ICT活用」から「人間力」へ

 活動の振り返りにもICTを活用しておられました。本校が数十年にわたって取り組まれてきた「創造性教育」と「ICTの活用」がつながり,「人間力」に結実していったのだと思います。

3.総括

 「必要な時に必要なところで有効的にICT機器が使われるようになるにつれて,機器の使用が見えなくなってきた」ということはとても大事なことだと思います。本研究指定の取り組みのはじめに,赤堀先生から「メディアの透明化」について教えていただきましたが,それを実現されたようです。

3.附属桃山小学校の研究の発展

 2年間の特別研究指定校としての取り組みが終わりました。これからも附属桃山小学校では,「メディア」と「コミュニケーション」についての研究を財団とともに進めていかれる予定です。ご注目・ご期待下さい。

 
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