実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

第37回特別研究指定校(活動期間:平成23〜24年)

鹿児島市立山下小学校の活動報告/平成23年度1月〜3月
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セールスポイント

 これまで,研究テーマ「子どもたちの思考の錬磨を目的とした多様な教科・領域におけるICT活用の在り方〜電子黒板活用及び教育用デジタル周辺機器等の効果的活用〜」において,研究内容の二つの柱である「@多様な教科・領域における『思考の錬磨』の場面を取り入れた授業づくりの具体化」,「AICTを活用した子ども一人一人の『思考の錬磨』の過程の可視化とその評価方法の研究」の内,@についての研究と実践を中心に今年度(4月〜12月期)は進めてきた。
 そこで,1月からは@に関する研究と実践について継続して行いながら,研究の重点をAに移していくことにした。具体的には,子どもの内面の働きであり,見えにくく評価しにくいとされる「思考」やその錬磨の過程を,子ども自身が振り返りやすく,教師や他の友だちがよりとらえやすいように可視化していくために,どのようなICT機器のどのような機能が活用できるか,あるいは効果的であるかについて研究を行う。また,可視化の取組によって得られた子どもの「思考」を蓄積し,形成的な評価ができるようにしていく。

実践経過

 1月は,「思考の可視化」に関して研究部員による研究部会を毎週開き,文献や先行研究等を調べながら,研究の基本的な方向性や進め方についての共通理解を図った。また,研究部会で協議した内容については,職員全員による全体研修の場で提案し,協議を行った。その際,電子模造紙を活用することで,提案に対する全員の意見を集約,記録することで,建設的で効率的な研究が進められるようにした。
デジタルペンで予想を記入

 2月は,前月の研究協議に基づき,その検証を行うための研究授業を実施した。実施したのは第4学年の理科単元「物のあたたまり方を調べよう」の学習である。「コ」の字に切られた金属板の端を熱した時に,熱はどのように伝わるかを予想し,実験によって確かめることが,本時の目標であった。
 ここでは,中心となる思考場面を「予想する場面」に設定し,熱の伝わり方について,それぞれこれまでの学習や生活経験を基に予想させ,ワークシートに図や言葉を用いて表現させるようにした。その際,デジタルペンを活用して記入させることで,子どもたちの異なる予想を取り上げ,電子黒板上で一覧表示して比較できるようにした。

 3月は,一年次の研究内容とその成果を振り返ると共に,次年度の計画と今後取り組むべき課題について確認を行った。
 

成果と課題

 デジタルペンの効果
「再生機能」を使って説明
 2月に行った研究授業では,金属板の端を熱した場合の熱の伝わり方について,子どもたちが予想したことをデジタルペンで記入して発表させた。このデジタルペンの機能の一つに再生機能があり,この機能を使うことで,自分の予想について,友だちに発表する場合に,ワークシートに書き込んだテキストや図を書いた順に再生させながら,説明を加えることができた。このことは,その子どもが熱の伝わり方についてどのように考えたかを全員で共有したり,順序立てて把握したりする上でたいへん効果的であった。また,発表する際,既にデジタルペンで書き込んでいたワークシート上に,図や言葉を書き加えながら説明する子どももおり,表現能力の育成という面からも向上が図られていることが感じられた。

電子模造紙を活用した授業研究

 電子模造紙を使った授業研究
 授業研究では,端末のコンピュータから入力したテキストや図等を共有するソフトウェア(電子模造紙)を利用した。
 今回の授業仮説や授業の内容についての質問事項や意見について,それぞれが自分の端末から書き込むようにしたことで,短時間で全職員の考えを表示し確認することができた。このことにより,全職員の考えを集約したり,整理したりしながら,全員が協議に参加する授業研究を行うことができた。また,これらの意見や考えは,データとして蓄積するとともに,プリントアウトして配付することで,全員が研究の経過を振り返ることができると共に,成果と課題を把握しやすくなった。
 

裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

 今回の研究授業は,研修係自らが授業者を買って出た。これまでならば研究推進の先導的役割や研究授業等のマネジメントが中心だった研修係が自ら授業仮説を立て,自らでその検証を行うことで,より課題が明確になり,たいへん意味ある取組だったと,今回の授業者であった研修係の阿部教諭は振り返る。ただ,周囲の評価とは裏腹に,本人としては授業の完成度に納得がいかない様子で,再チャレンジの機会を窺っている様子である。
 

1年間の実践を終えての感想

 全員が年間一人3回ずつの検証授業(公開時も含む)を行い,一年次の研究のテーマであった「思考の錬磨」を可能にする様々な「思考活動」と「思考場面」におけるICT活用の研究及び実践に取り組んだ。今年度の研究により,子どもたちが思考を深め,確かなものにしていく「思考の錬磨」の過程においては,自分の考えと他者の多様な考えを比較することや,思考の過程を振り返ることが大切であり,その為には,リアルタイムで自他の考えを比較するソフトウェアの活用や,思考の変化をその都度,記録・表示させる機器の活用が重要,かつ効果的であることが検証できた。また,その過程で子どもたち自身がコンピュータやICT機器の端末に,自分の考えや判断を入力するように取り組んできたことによって,子どもたち一人一人のICT活用のスキルアップを図ることができた。
 

次年度への思い

 一年次の公開研究会では,県外から参加者60名を含めて,850人もの参加者があり,ICT活用に関する学校現場の関心の高さがうかがえた。「思考の錬磨」という研究テーマについて,なかなか方向性が見えず,年度当初は右往左往したこともあったが,宮崎大学の新地先生の適切なご指導,ご助言をいただいたことで,しっかりと研究の基盤を固めながら研究と実践を積み重ねることができた。
 二年次は,「思考の可視化」とその評価に重点を置いて研究を進めていくことになるが,常に「何のために可視化するのか」「果たして本当に子どもの思考を可視化できているのか」と問いながら,方法論のみに終始することなく研究を深めていきたい。また本校においては,電子黒板や書画カメラに加えて,特別研究指定校としての研究助成により,デジタルペン,デジタル教科書,ゲーム機端末による学習システム,電子模造紙等のICT機器が整備されてきた。これらの特性や多様な機能について精査しつつ,より効果的,効率的なICT活用に取り組んでいきたい。
 

解説と講評

コメント:宮崎大学 教授 新地辰朗 先生

 教師の誰もが関心を持つものの,一方では実体を捉えにくい側面のある“思考”に,ICT活用を工夫しながら,チャレンジしているのが山下小学校の特色です。その“思考の練磨”実現のために,校長先生や教頭先生を中心に全教員が一丸となって協議してきたプロセスに,先生方の熱意や教師としての使命感を感じてきました。一年間を通して,以下のような流れの中で,授業が実践・検証されてきました。

・“思考”,“思考活動”,“思考の練磨”について,定義や関連に関わる協議
・ 教科のねらいを到達させるために,“思考”を促す,また深めさせる工夫
・“思考”活動のねらい等(比較,関連付け等)
・“思考の練磨”に関わる方向性(総合的思考・創造的思考・論理的思考)
・“思考の練磨”の段階性(基礎的段階・発展的段階)
・“思考の練磨”を促す学習活動スタイル(個別的・協働的)
・ じっくり“思考”させるための授業づくりと授業における教師の働きかけ

 残りの一年は,“思考の練磨”の進捗(可視化された思考過程の評価)と習得させたい学力の定着との関係をつかみながら,授業のデザイン,教師の力量,ICT活用方法等,多面的な検証により,他の学校の実践に,さらに役立つ提案が可能になるものと思います。

 それぞれの児童が,自らが学びを求め,また多様に参加しながら,たどり着いてゆく授業を目指し,ICT活用を考案する一年となると思います。“思考の練磨”や“ICT活用”をキーワードに,教師力・学校力の充実をアピールできる学校と期待しています。

 
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