実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

第37回特別研究指定校(活動期間:平成23〜24年)

酒田市立飛鳥中学校の活動報告/平成24年度1月〜3月
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セールスポイント

公開研究会が11月に終了して、1月からは成果をまとめてきました。
平成26年度に松山中学校と統合します。評価システムや支援システムを統合後にどのようにしていくのか、両校で話し合っていきます。

実践経過

2月・3月に松山中学校と統合後の評価について話し合いました。
単元評定の方法や単元テストの実施についての難しさが課題になりました。今後も話し合いを継続します。

 

成果と課題

本校の学習評価システムについては、来年度も同様に行っていきます。
統合前のまとめの一年として、新しいメンバーとともに、しっかり実践していきます。

 

裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

統合後の評価をどうするかについての話し合いは、難航を極めました。
統合してからの生徒指導や仲間づくりに重点を置くと、単元は大変だという意見が多いようです。

 

2年間の実践を終えての感想

研究主任をはじめ、研究に携わってきた職員は、みなほっとしているようです。公開研究発表会での<しゃべり場飛鳥>において、生徒達がこの研究を真摯に捉え、その成果と課題をしっかり考えていたことに驚きました。まさに、私達の苦労がすべて喜びに変わった瞬間でした。
課題は、高まった意欲を持続させて、学力の向上に繋げることでしょう。平成25年度も改良を加えて研究を進めていきます。

 

次年度以降、今回の成果をどのように展開するのか

研究テーマを変えました。今までサブテーマだったものをメインテーマにして、メインテーマをサブテーマにしました。 また、<学習評価システム>という言葉を学校研究の概念の中心に据えて、評価システム部・支援システム部の組織で研究をしていくことにしました。よりすっきりした形でのスタートです。

解説と講評

コメント:新潟大学 准教授 後藤康志先生

 2年間の助成期間の間,何度となく素晴らしい子どもたち,先生方に多くを学ばせていただくことができた。生徒の自律的な学びを支える評価・支援・授業の三位一体のシステムを作ろう,という試みはあまりにも遠い道のりに見えるかも知れない。実際,先生方のご苦労は大変だったと推察する。生徒指導上の問題が起きてから対処するのが「守り」の生徒指導,起きないように未然に手を打っていくのが「攻め」の生徒指導だと聞いたことがある。そして,「守り」の方がはるかに多大なエネルギーを要するとも。生徒一人一人が自らの学習に見通しを持ち,先生方から見守られている実感を持ち,実際に学力も伸びているとすれば,これ以上,強力な生徒指導はあるだろうか。優れた学習指導は同時に素晴らしい生徒指導にもなることを再確認させてくれた飛鳥中の取り組みであった。
 しかし,「今までと同じ」では実践研究はその輝きを失う。常に新しいチャレンジが教室を生き生きとしたものにすると考える。そういう観点から,いくつか問うてみたい。

「自律的に学ぶ子」と「学力の高い子」はイコールか?

 以下は,飛鳥中学校での検討会での議論であるが,「最終的にはやはり学力を高めたい」「見通しはもてるが,学力がこれから,という子をどうするか」,「そういえば学力はあるが,見通しはそれほど,という場合もあるな」。一見,よくある話である。下の表で整理すると,クラスのAさん,Bさん,一人一人はどのセルに入るのだろうか。

  見通しが持てる 見通しがもてない
学力が高い HH型 HL型
学力はこれから LH型 LL型

 飛鳥中の研究は,暗黙の内に「見通しが持てれば学力も上がる」,つまり全員がHH型になることを前提とした研究といえる。いわば「見通しが持てなくて,学力はこれから」のLL型をHH型に全ての生徒を導こう,という単線型を前提としていた。研究を経て,実は「学力はあるが,見通しが持てない」というHL型や,「見通しは持てるが学力はこれから」というLH型の子どもを見いだすことができたのである。これは非常に大きな成果だろうと考える。ルートはLL型からHH型だけではないかもしれない。LL型をどうやってLH型にするか。その次にはLH型をどうやってHH型にできるのか。成功例,失敗例を持ち寄って新しい働きかけを工夫し,取り組むことができるのではないか。

提案があり,持続可能な授業研究になっているか?

 このように考えると,その新しい働きかけは日々の授業や生徒指導の中で行われるはずである。今回,今後の課題で「授業のねらいの一層の吟味と評価規準の検討(学習マップのさらなる活用と工夫)」という一文があることは非常に力強い。その一方で,「では具体的に何をどうしようというのか?」を問いたいのである。確認したいのは,活用,工夫そのものが目的なのではなく,LL型やHL型,LH型をHH型にもっていく,ということが,目的であることだろう。問題は提案があるか,ないかであって,提案がうまく機能したかはその次のステップである。
 授業研究の形骸化が言われる中,中学校でこれだけの実質的な授業研究を積み重ねている飛鳥中学校は傑出していると認識してはいるが,だからこそ「ちょっとだけしんどいけど,すごくためになる」授業研究であってほしい。形式的な授業研究は多い。指導案など,必ず何枚も書く必要があるのだろうか?私は幸運にも,恩師である新潟大学の生田孝至先生に齋藤喜博先生の流れをくむ小学校の授業の見学に連れて行っていただいたことがある。そこで見た指導案は,主張点が極めて明瞭なB4用紙で1枚にも満たないものであった。これは衝撃だった。分厚くなければ指導案ではない,と思っていたからである。重要なのは提案であって,形式ではない。見た人が提案を理解し,一緒に検討できればそれでよいのである。そういう意味で,提案のある持続可能な授業研究を持続して欲しい。

校内研修のテーマと先生方個人のテーマを結びつけていけるか?

 今年も,飛鳥中学校で長く研究された先生が異動され,新しい先生が加わられたと聞いている。自律的に学ぶ学習者を育てようとする飛鳥中の研究が,新しい先生方にとってこれまで追求されてこられた個人のテーマとどう結びつくのか,気になるところであり,問うて欲しいことである。
 「同じような校内研究を経験して来ていないと困る」と言いたいのではない。むしろ「自律的に学ぶ子どもなどあり得ない」「そんなことより,効率的に教えることに労力を投じた方が良い」というのが信念であれば,「飛鳥中の研究は,明らかに私の信念とは対立する」ということをお互い認識することが重要である。何となく違うと思いながら形式的にお付き合いすると,おそらく何にもならないからである。例えば,なかなか子どもが自分から勉強しないことに悩んでいたとすればどうか。それは,子どもに自律的な学習習慣が付いておらず,上から押しつけて勉強させていたせいかもしれない。そうであれば,前任校やそれ以前で取り組まれていたいろいろな工夫が飛鳥中の研究によって相対化され,新しい意味を持つかも知れない。その違いが,飛鳥中の研究を進める上で新たな視点を提供してくれるかも知れない。
 校内研修のテーマと,個人が取り組んでいるテーマをどう結びつけたらいいのか。明確な解答は示せない。感覚的に,ではあるが,育てたい子どもの姿を共有して学校組織として取り組んでいる,ゴールは決めるがルートは教師一人一人の創造性に委ねてくれる,「ちょっとだけしんどいけど,すごくためになる」授業研究がある,そんな学校組織であれば,可能な気がする。そして飛鳥中学校のスタッフなら可能であるように思う。
 今後,さらに飛鳥中学校の取り組みに学ばせて頂きたいと思っている。


 
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