実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

平成22年度 先導的実践研究助成贈呈式レポート
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贈呈式を開催、約130人以上が出席、遠山敦子理事長の励ましを受ける

パナソニック教育財団では、視聴覚メディア・情報通信メディアを効果的に活用し、教育の課題改善に取り組んでいる実践的研究に対し、助成を行っています。第36回(平成22年度)は、「一般」の部門で71件、「特別研究指定校」には3件の助成が決定しました。 2010年5月14日に行った、その贈呈式の模様をお伝えします。

■実践研究助成とは・・・

視聴覚・情報通信メディアを生かした教育課題改善に対しての助成です。「一般」部門は自由課題で、小・中・高のほか特別支援学校や教育研究グループ なども対象としています。1年間の研究に対し、1件あたり50万円、約70件を選定します。一方、特定のテーマに沿った研究に関しては「特別研究指定校」と し、2年間の研究に対して1件あたり150万円を助成。小・中が対象で、1年に3校程度を選出します。今年度は、「一般」部門では227件の応募に対し71件、「特別研究指定校」では8件の応募に対し3件が決定しました。「一般」の助成先の中にはメキシコや オーストリアなど海外日本人校も2件含まれています。

■「子どもたちの目が輝く楽しい授業を」遠山敦子理事長が激励

壇上に立った遠山敦子理事長は、そのあいさつの中で、次のように述べました。「先日、横浜の小学校を訪問したところ、教室に大型テレビやパソコン、実物投影機などが整備され、子どもたちが活発にそれを使いこなしている様子を見ることができました。視聴覚メディア・情報通信メディアを生かした 授業はわかりやすく、子どもたちの意欲向上につながります。子どもたちの目が輝いていて、楽しそうに活動していたのが印象的でした。」「また、ICT活用の効用は、成績の向上だけにとどまりません。授業が楽しめることで自尊心が養われ、それが他者を尊重するやさしい気持ちを育むことにつながります。ICT活用に対する学校教育の期待 は、あらゆる面で大きいと言えます。来年度から小学校は新しい学習指導要領が施行されることもあり、これから行われる本格的な教育で、子どもたちの未来を確実なものにしていきたいと考えています。」

また、来賓である文部科学省生涯学習政策局の齋藤晴加参事官より、次のようなお話がありました。「政府のIT戦略本部では、小中高におけるIT活用を推進し、さらにわかりやすい授業、魅力ある授業の実現を目指しています。また、文部科学省は『「熟議」に基づく教育政策形成の在り方に関する懇談会』を設置、『学校教育の情報化に関する懇談会』で、電子黒板やデジタルテレビなどの導入・活用について検討しています。」さらに、田村哲夫常務理事が、応募状況や審査の経過について説明を行いました。「特別研究指定校については、これまでの研究の積み重ねによる成果が期待できます。一方、一般部門では、小学校については、子どもの“わかる”“できる”という実感を大切にした主体的な研究が見られました。中学校では、電子黒板活用のモデルを示した例があり、高校では、研究的要素が高いものが主流に なっていると言えます。いずれも、研究の成果をうまく工夫して、実際の授業に生かしていただきたいと思います。」最後に、遠山理事長から奨励状が授与されました。

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くるま座ディスカッションで活発に意見を交わす

開会のセレモニーの後、校種ごとにグループに分かれ、実践概要を発表して意見交換・情報交換を行う「くるま座ディスカッション」が開かれました。審査委員の先生方からの貴重なアドバイスを頂く場となっていました。

■審査委員のアドバイスも受けられる「くるま座ディスカッション」とは

実践研究助成の贈呈式で行われている「くるま座ディスカッション」は、文字どおり参加者がくるま座となり、お互いの顔を見ながら自由に意見交換をする場となっています。その目的は、「自分の研究計画の整理」「審査委員の先生方の助言により、研究の方向性を再考する」「助成先同士の研究交流・情報交流」と いったことになります。今年は、「小学校」「中学校」「高校」「特別支援学校」など、校種別に、10のグループができました。1グループ6〜8件程度を目安としましたが、特別研究指定校に関しては、助成先の3校のみで1つのグループを作りました。

■特別研究指定校同士が意見交換互いの目標を明らかにする

特別研究指定校については、テーマI「確かな学力の育成に向けたICTの活用」では、東京の練馬区立中村西小学校と広島の三原市立幸崎中学校が選定 され、テーマII「人間力の育成のための単元・カリキュラム開発」では、京都教育大学附属桃山小学校が助成を受けることになりました。

テーマIの練馬区立中村西小学校の石井盛博校長からは、「子どもたちが電子黒板を使って情報を共有し、さらに互いの意見を伝え合うことができるようになることを目指している」というお話がありました。また、審査委員の一人である堀田龍也玉川大学大学院教授からは、題材の選び方を工夫するといいということや、子どもたちに発表を行うためのトレーニングをすることが必要であるといったアドバイスがありました。

同じくテーマIの三原市立幸崎中学校は、全校生徒数88人という小規模校で、これから本格的に電子黒板の活用に取り組もうとしているところです。住元康 男教頭は、「教科別の教室を設けたので、そこに電子黒板を設置して活用したい」と語り、審査委員の木原俊行大阪教育大学教授は、「教科をまたいだ 活用ができるのでは」とアドバイスしていました。

テーマIIの京都教育大学附属桃山小学校は、すでに全教室に電子黒板を導入している、環境の整った学校です。平島和雄教諭は「言語活動など考えさせる教育の場で電子黒板を活用したい」と抱負を語り、審査委員の赤堀侃司白鴎大学教授からは、「人間力の育成に関し、ぜひ他校の活用例を参考にしてほしい」というお話がありました。


活発に意見を交わしながら教育者同士のネットワークを作る
■多彩な研究課題の中で自らの目的を見つめ直す

小学校のグループである「B」と「C」グループでは、主に授業におけるICT活用をテーマとした学校が集まっていました。「読む力の向上」「いじめ防止教育」など、さまざまな可能性が提示されました。




「D」グループでは、外国語活動など、特定の教科でのICT活用に焦点が当てられました。また、「大規模校での指導力向上」「離島で高速回線を利用して テレビ会議システムを導入」など、学校の環境に応じて独自の試みを行っている例も見られました。


「E」グループは、映画作りやふるさとの観察、日本の伝統文化など、ユニークなテーマに取り組む課題が見られ、中学校の「F」グループでは、「モバイル機器の活用」、「キャリアデザイン・コンクール」、「マッシュルーム栽培への挑戦」など、高度な内容に取り組む例が目立っていました。同様に、中学校のグループ 「G」では、ICTを、学校の中のより日常的な場面で活用するための工夫を聞くことができました。

「H」と「I」は高校のグループです。高感度地震計の製作、 Eラーニングなど技術に注目したものもあれば、人形劇、民俗文化の研究など、扱う題材を工夫した例も見られました。




「J」グループの特別支援学校では、ICTを肢体不自由のある児童生徒への支援機器として活用、発達障害のある児童などのためのデジタル図書「マルチメディアDAISY」の導入など、独特の研究課題があり、すでにさまざまな機器を使いこなして活動に取り組んでいる様子がうかがえました。
「くるま座ディスカッション」の時間は1時間強。終了の間際まで、熱心に意見交換が行われていました。締めくくりとして、山西潤一富山大学教授から、次のようなメッセージがありました。「この場で先生方が情報を共有し、ネットワークを作ることには、大きな意義があります。同じような活動に取り組んでいるほかの先生方と話をすることにより、自分の目標がより鮮明になるはずです。この実践研究助成は、単に助成を行うのではなく、こういった話し合いの場を設けるところに、大きな特徴があるのです」。

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懇親会を開催、貴重な情報交換の場に

「くるま座ディスカッション」の後、遠山敦子理事長、審査委員、そして助成先の参加者で懇親会を開きました。参加者は総勢100人以上となり、会場は大いににぎわいましたが、その懇親会でうかがった特色あるお話をご紹介します。

■学校の特色を生かしたユニークな取り組みの数々

実践研究助成には、全国のさまざまな学校からの応募があり、それぞれの地域の特色や学校の伝統、個性などを反映させた研究も見られます。愛知県 岡崎市立井田小学校の内田雅之教諭は、「地域の映像制作を通して取り組む表現力の育成」という研究を行っており、「学校は、古戦場などが残された 徳川家ゆかりの地域にあり、そういった場所を子どもの視点で映像に収め、次の世代に残すのを目的としております」。映像を作り、発表するだけでなく、 人の意見を聞き、自分の作品を見直す力も育てたいとのこと。助成金はデータ保存用のハードディスク購入やDVD制作などに使われるそうです。

同じ先端技術の活用でも、「赤外線サーモグラフィー」というユニークな機械に着目した先生もいました。「赤外線サーモグラフィーを有効活用した授業実践の開発」を行っている新潟市立新潟小学校の栗田貫教諭です。「暖かい空気は上に流れ、下には冷たい空気がたまるといったことを目で見て体感できるのが大きな利点です。食べ物の温度や体温の高さなども視覚的に表現することができます。理科だけでなく環境や健康など、さまざまな分野に生かすことができると考えています」。

英語やフランス語など、電子黒板を外国語教育に生かしているのは、カリタス小学校の麻田美晴外国語科主任と渡辺麻美子教諭です。「電子黒板は、海外の学校では当たり前のように使われているところもありますが、そういった外国の教材を活用すると同時に、自分たちでオリジナルのものを作っていき たいと考えています」。助成金は、機械を効果的に活用するためのテクニカル・アドバイザー招へいに利用する予定で、また、普段同様の活動を行ってい る他の学校と話し合う機会が少ないため、今回の助成をきっかけに、他校とのネットワークづくりができるのではないかと期待しているそうです。

中学校ではより高度な内容の活動が目立つようになり、大阪府の樟蔭中学校船田智史教諭は、生徒たちが自分で地域の商店街を取材し、フリーペー パーを作るという試みを行っています。「学校は創立して90年以上になりますが、地域とともに活動した経験が、これまであまりなく、フリーペーパー作りに よって地域に貢献すると同時に、グループとして主体的に行動する力を養いたいと思います」。

最後に、パナソニック教育財団の常務理事を務める赤堀侃司白鴎大学教授から、あいさつがありました。「これから新しい研究を始める方々の熱意が伝わってくる、非常に晴れやかな会を開くことができました。一方で、熱意を持って突き進むだけでなく、皆さんの研究がどれだけ生徒や現場の先生方にとっ て役立つものになるか、常に検証しながら進んでいただけることを期待しています。8月の成果報告会でより良い報告が聞けることを楽しみにしています」

--- 取材・執筆・教育情報ライター 足立恵子(サイクルズ・カンパニー) ---