つくば市立みどりの学園義務教育学校

第50回特別研究指定校

研究課題

一人一人が未来の創り手となるための探究的な学習の在り方
~個別最適なICTの利活用を通した教育DXの実現~

2024年度04-07月期(最新活動報告)

最新活動報告
2年間の研究の流れについて詳細を検討。その後、職員全体に周知し、2年間......

アドバイザーコメント

高橋 純 先生
「一人一人が未来の創り手となるための探究的な学習の在り方」の研究が始まった......

つくば市立みどりの学園義務教育学校の研究課題に関する内容

都道府県 学校 茨城県 つくば市立みどりの学園義務教育学校
アドバイザー 高橋 純 東京学芸大学 教授
研究テーマ 一人一人が未来の創り手となるための探究的な学習の在り方
~個別最適なICTの利活用を通した教育DXの実現~
目的 個別最適なICTの利活用を通した学習DXの実現を通して、一人一人が未来の創り手となるための探究的な学習の在り方を追求する。探究的な学びを通して、社会で生きるための問題発見・解決能力の育成を図りながら、自律(自己選択・自己調整)した探究学習を進める子供を育成する。
現状と課題
  • ・物事を多角的に見る視点が身に付いておらず、物事を多角的に見る視点が身に付いておらず、問題意識をもち、自分の探究したい事象から課題を設定することができない。
  • ・単元全体を1つのまとまりとして学習の見通しをもつことができず、解決の方法や学習の仕方を自己選択・自己調整することができない。
  • ・自分の解決した問題から、次のテーマに広げることができず、問題解決のサイクルを回すことができない。
学校情報化の現状 各教室への大型提示装置が配置されており、子どもたちも自由に使える状況にある。Micro:bitや Minecraftをはじめとしたプログラミング教材を授業で活用している。教職員のICTスキルに差があることが課題であり、職員研修等を計画的に実施していきたい。今後は本学園にSTEAMラボを設置する予定である。
取り組み内容 2年間を通して探究的な学びをつくばスタイル科(総合的な学習の時間)や教科の時間で実践していく。子供たちの学びの選択肢を広げるという意味でも、1年目は教師を3グループ(A:学習支援ツール・デジタルドリル・GIGA端末 B:生成AI・VR/AR C:STAMの視点・プログラミング)に分けてICTを活用した探究の良さを学ぶ。そして2年目にグループの枠を外し、様々な手法を選択しながら、探究的な学びを子供が実践できるようにする。
成果目標
  • ・自分の探究テーマにおける成果物のアウトプットの記述内容の質の向上
  • ・問題発見・解決能力を図る意識調査を実施し、学校全体として全項目で10パーセント以上の変容
助成金の使途 エレコム VRゴーグル VRグラス、PowerDirector 2024 Ultimate Suite アカデミック版、iPad、講師謝礼、ダッシュボードライセンス、OptiPlex マイクロ フォーム ファクター、HERO11 Black Mini
研究代表者 山田 聡
研究指定期間 2024年度~2025年度
学校HP https://www.tsukuba-school.jp/mido/
公開研究会の予定
  • ・令和6年度、令和7年度つくば市研究指定校研究発表
  • ・令和6年度日本教育工学協会全国大会つくばプレ大会
  • ・令和7年度日本教育工学協会全校大会つくば大会

本期間(4月~7月)の取り組み内容

【4月】

  • ・2年間の研究の流れについて詳細を検討。その後、職員全体に周知し、2年間テーマに向かって何をどう進めていくのか共通理解を図った。
  • ・職員全体を、3つのグループに編成した。【A:学習支援ツール・デジタドリル・GIGA端末 B:生成AI・VR/AR C:STEAM・プログラミング】グループでメンバーの確認とグループでICT機器を使用していきながら、どのような探究的な学びを展開できるのかを話し合った。
  • ・日頃から本校の研究に関わっていただいている玉川大学の久保田善彦教授を招聘し、2年間取り組む研究の有用性及び課題を精査することについて、探究的な学びや自己調整学習の視点から内容を検討し、ご指導をいただいた。

【5月】

  • ・4月に玉川大学の久保田善彦教授からご指導いただいた内容について、研究部で協議を行い子供の学ぶ過程やICTの活用等に関する部分を修正した。再度、久保田教授とのオンライン会議を開き、研究の方向性について指導・助言をいただいた。
  • ・探究的な学びを教師が実践していくことで子供の探究力にどのような変容が見られるのかを知るために第1回の探究に関するアンケートを全学園生に実施した。さらに久保田先生からのご指導もあり、先生の授業で意識したポイントと子供の変容を確認することで授業改善にもつなげられるということから教師にも同アンケートを実施した。

【6月】

  • ・6月28日(金)研究のアドバイザーである高橋純先生をお招きして授業研究を実施した。
    2年道徳、4年体育、5年算数、9年社会、9年英語において探究的な学びを公開し、指導・助言をいただいた。研究授業後、各グループに分かれて協議を行い今後の授業づくりの方向性を職員で協議した。
    研究協議後、高橋先生から「探究的な学び」について全体講話をいただいた。探究とは何なのか、個別最適な学びと協働的な学びをどのように充実させていくのかをご指導いただき、問いを創り出すためには教科書に掲載されている事実をしっかりと捉える必要性があることを全体で認識した。
  • ・2年 道徳 「森のともだち」 友情・信頼  主なICT機器:Microsoft Teams、Padlet
    友達をテーマに、学園生が「問い」を自ら考え、意見を共有しつつ深めていくといった探究的な活動を行った。意見の共有は、オンライン掲示板アプリ「Padlet」を使用し、学園生自らがもった疑問を集め、まとめていくことで学級全体の「問い」をつくれるよう、効果的な活用をした。
  • ・4年 体育 「ボールゲーム」 主なICT機器:HADO
    ネット型ゲームでは学園生同士が力を合わせたり、作戦を練ったりする活動が必要となってくる。本授業ではmeleap社のARコンテンツ「HADO」を用いた活動を行った。性別や運動経験、体力の差に影響を受けにくいため、運動が苦手と感じている学園生も力を合わせたり、作戦を練ったりする活動に意欲的に取り組んでいた。
  • ・5年 算数 「四角形の内角の和」 主なICT機器:geogebra
    四角形の内角の和が360°であることが様々な四角形で成り立つかどうかを調べる活動を通して、四角形の内角の和が360°であることの理由の説明を洗練する授業を行った。授業では「geogebra」という図形を書くソフトを使いながら教科書に掲載されている説明をどの四角形にも応用できるように一般化していくことをペアで行った。
  • ・9年 社会 「現代社会の特色と私たち」 主なICT機器:Microsoft Teams、Copilot
    現在社会の課題について学園生に周知させる新聞づくりのために取材ノートを作成する授業を行った。本授業では既習事項を基に将来の日本についての自分なりの考察を作成した。生成AI(Copilot)との対話によって、自分の考察を評価してもらいながらより良い取材ノートになるように取り組んでいった。
  • ・9年 英語 「Unit3 Animals on the Red List」  主なICT機器:Microsoft Teams、Padlet
    絶滅危惧種の生き物の紹介や自分たちにできる絶滅危惧種を守る行動について、ニュース番組を模したプレゼンテーションを作成することを目標に、絶滅危惧種について調べたり、英文のニュース原稿を作成したりする活動を行った。授業では、自分で活動の順番やペースを自由に決め、電子図書館の蔵書や翻訳ソフトなど様々なICTツールを使って活動に取り組んだ。

【7月】

  • ・本研究アドバイザーである高橋教授、外部アドバイザーの久保田教授のご指導のもと修正した研究の方向性と授業作りについて職員全体に周知し、各グループでどのような授業ができるか協議をする。
  • ・9月に公開授業が同じ研究テーマで実施されるので、チームごとに研究協議を行う。

アドバイザーの助言と助言への対応

○アドバイザーからの助言

  • ①課題の設定を重視するよりも、資料を読むなど事実をつかむことを大切にする。事実のとらえ方は事象の観察や教科書を読み問題をしっかりと把握する。
  • ②探究についての子供の変容等は、自分の納得解、最適解をどれぐらい書けるようにしていけるか。
  • ③子供の振り返りに関してはどんな学び方をしたかの事実を書かせ、何について納得し、何が分かったのかを記述するように視点を明確にする。
  • ④発表会のような、グループで何かを説明するのではなく、一人一人がアウトプットできる場を設ける。
  • ⑤子供達にもたせる意識として、他者と比較するのではなく、過去の自分と比較することで自分の成長を感じられるようにしていく。

○助言への対応

  • ①への対応
    課題の設定を学習の出発点として考えるのではなく、資料や教科書から分かることなどの読み取りを行い、事実をしっかりと捉えることを押さえる。さらに、事実と経験の差をもとに課題や問題を見だすようにしていく。
  • ②、⑤への対応
    振り返りにおいては、単元全体を通しての課題を設定する。学習前と学習後の自分の考えについて記述することにより、自分の学んだことや納得解、最適解をアウトプットでき るようにしていく。さらに、単元全体を通して、自分がどのように成長できたかを実感できるようにする。
  • ③への対応
    振り返りについては、学校全体でどの視点で書くのかについて共通理解(学習内容、学び方)を図り、同じシート(Excel)を用いて、振り返りを行う。
  • ④への対応
    学校の教育活動全体を通して、協働的に学ぶ良さが理解できるように教育活動を展開していく。さらに、学習中には間接的に説明活動や対話を促す声かけを行う。さらに、教師が各自の学習を見取りながら、学びが深まるであろう子供同士をつなげるように声を掛ける。

本期間の裏話

 昨年度の末に研究のテーマを「探究」とすることが決まった。自分自身探究とは何か分からない状態だったので、探究に関する本を読み、著者に連絡をとり自分なりに探究とは何かということを見つけるのがはじめの一歩だった。また、本研究アドバイザーである高橋先生に見せていただいた富山市立芝園小学校の授業の風景はすごいなと思いながらも、自分がしている授業との差に愕然としたのを覚えている。

 しかし、このようなことをしていると、教師という仕事も探究ではないのかと考えるようになった。答えのない問いに対して情報を収集し、整理・分析し、まとめ・表現を行う。自分で考えた内容を仲間にアドバイスをもらい再度修正する。

 子供に探究してほしいと考えるなら、教師が探究することを忘れてはいけないと感じた3か月間であった。

本期間の成果

 全教職員が研究の方向性を理解し、実践研究に取り組むことができた。また、高橋先生や久保田先生からアドバイスをもらいながら研究の方向性を修正し今後の授業づくりとして資料を作成できた。さらに、第1回訪問で高橋先生から、実体験を交えながら探究とは何かをご指導いただけたので、職員にとっても道筋がみえたことが大きな成果であると考える。

今後の課題

  • ・探究的な学びを学校全体でどのように進めていくのか系統表の作成。
  • ・ICTを用いて学びを深めるためにどのような活用方法があるのか事例を作成する。
  • ・Microsoftを用いた、成果物や振り返りの他者参照の仕方を模索する。

今後の計画

  • ・7月22日(月)に修正した研究の方向性と9月からの授業づくりにおける校内研修の実施。
  • ・第2回校内授業研に向けての研究協議。
  • ・9月12日(木)に実施される公開授業研における8月1日(月)、8月21日(水)の授業についてのグループごとの研究協議。

気付き・学び

 高橋先生から全体指導をいただいた際に探究的な学びを実践していくことで育てるべき資質・能力は何なのかについてのお話を伺った。VUCAの時代だからこそ答えのない問いに向かって自分で納得解や最適解を生み出す力が必要になってくる。その解は個別だけで考えたものではなく、他者の批判的な意見を取り入れ、何度も修正することも大切である。そのことを教員はもちろんだが、子供達が感じられるように日々の教育を進めていきたい。

成果目標

 9月以降の子供、授業者における探究的な学びを実践した単元におけるアンケートを実施する。6月にとったアンケートと比較し変容を見ていく。授業者が意識した探究的な学びにおける項目が子供としても結果に表れているか分析する。目標としては、授業者が意識した項目が、子供の6月のアンケートと比較して10ポイント向上。

アドバイザーコメント
高橋 純 先生
東京学芸大学
教授 高橋 純 先生

「一人一人が未来の創り手となるための探究的な学習の在り方」の研究が始まった。副題として「個別最適なICTの利活用を通した教育DXの実現」と示されている。長きにわたり教育の情報化に取り組んできたつくば市にとっても、新たなチャレンジであることは間違いない。

 探究であるからには、子供一人一人が主体的に学習を進めていかなくてはならない。その歩みは、子供一人一人それぞれとなる。つまり、副題にもある「個別最適」となる。学習課題、学習過程、学習形態、活用するICT等々を、子供自身が自己決定し、自らの力で学習できていることが究極の姿になるであろう。それは、見た目に、子供がバラバラに学習しているという意味ではなく、仮に皆が同じような姿で学習をしていたとしても、それらを自己決定しているかどうかが重要となる。「見た目」ではなく「質」の問題である。小学校低学年から、徐々に様々なことを自己決定し、自らの力で学習できるように指導していくことが重要となる。それが、本研究テーマにある「一人一人が未来の創り手」につながっていく。

 単純に子供に学びを委ねても、うまくいかないことは周知のことである。まずは、現行の学習指導要領でいえば、総則にある「学習の基盤となる資質・能力」の育成が、探究の基盤として重要となる。それは「言語能力」「情報活用能力」「問題発見・解決能力」等と言われるが、「一人一人が未来の創り手」を育む視点から、改めて検討が必要となるだろう。一人一台端末が整備され、クラウドがフル活用できるようになった時代における学習の基盤となる資質・能力である。

 また、子供一人一人が主体的に学びを進める場合、「場づくり」「学習環境づくり」が一層、重要となる。一斉指導の時のように手取り足取り指示し、教科書、限られた図書や資料、固定的にアプリを活用することだけでは、これまでと同じことの繰り返しになる。子供の求めに応じて応答できる場や、子供の進みに応じて個別に指導できる場などと、それらを支えるICTが重要となる。例えば、子供が前に進みたいとき、困ったとき等に、子供同士で協働したり、教師から助言を得たり、必要な学習材を手に入れたりできるかどうかである。クラウド環境の整備によって、学習材の提供のみならず、白紙共有、他者参照、途中参照などができるようになり、状況は一変した。つまり、子供一人一人の求めに応じて、動的に、無駄な手順がほとんどなく、いつでも、どこでも、何度でも、繰り返し、学習ができるデジタル学習基盤を生かしていきたい。

 1990年代に、学習指導よりも学習支援が重要とされ、それらに伴って学習環境が重要と指摘されていた。その後の学力論争などを経て、現在、再び、子供に学びを委ねる、場、などと言葉を変えて似た考え方が注目されているように思う。いずれも当時も今も重要性は変わらない。しかし、「学習の基盤となる資質・能力」「デジタル学習基盤」の2つの基盤を生かし、当時よりも高次元の実現を目指していくことが求められる。それが、本校の研究テーマによりよく迫る道筋だと思う。