パナソニック教育財団はワンダースクール応援プロジェクトの成果報告会を東京で6月4日、大阪で6月18日に、「NEW EDUCATION EXPO 2016」の会場で行いました。成果報告会の概要をご紹介いたします。
ワンダースクール応援プロジェクトの成果が書籍になりました。
『One to Oneへの道』 1人1台タブレットPC活用の効果測定と教育委員会・学校の挑戦
パナソニック教育財団はワンダースクール応援プロジェクトの成果報告会を東京で6月4日、大阪で6月18日に、「NEW EDUCATION EXPO 2016」の会場で行いました。成果報告会の概要をご紹介いたします。
ワンダースクール応援プロジェクトの成果が書籍になりました。
『One to Oneへの道』 1人1台タブレットPC活用の効果測定と教育委員会・学校の挑戦
パナソニック教育財団 事務局長 藤田 稔
私どもパナソニック教育財団は昭和48年の設立以来、ICT教育の普及・拡大に努めてまいりました。全国の小・中・高等学校を1年間で50万円、2年で150万円という2つの助成スキームで支援し、今では約2800の成果報告が蓄積され、財団の貴重な財産となっております。
この財産をもとに、財団設立40周年を機に立ち上げたのが「ワンダースクール応援プロジェクト」です。1人1台のタブレットPCを活用した未来型授業を実践し、エビデンスをもとにした学習効果の調査・分析を行い、その研究成果を普及・拡大することを目的に、4つの自治体とタッグを組んで2年間、取り組んでまいりました。その成果を本日、この場でご報告させていただきます。
奈良市立佐保小学校 教諭 岡田仁志 氏
佐保小学校は実践にあたり、平成26年度と27年度で全く別のプロジェクトチームを立ち上げました。26年度は環境開発チームと活用法開発チームを立ち上げ、ICTルームの環境づくりや情報活用能力の系統性の作成などを行い、全員で共有しました。27年度は習得・活用の場面でのICT活用法を開発する習得チーム・活用チームを立ち上げました。
一例を紹介すると、6年生の最後の算数ではICT機器をフルに活用し、佐保小学校を「算数の目」で見て取材したことをもとに問題づくりを行い、ホームページで発信しました。たとえば亀を使って本校の特徴である長い廊下を歩かせ、「速さ」で学習したことをもとに130mという長さを導き出しました。今後も、どんな場面でも使うことが当たり前になるようなICT活用を目指してまいります。
柏市立大津ケ丘第一小学校 教諭 松瀬穣 氏(現 流山市立八木南小学校 教諭)
本校は国語の研究指定を受け、言語活動を採り入れてきました。今回、そこに新たにICTと学校図書館を加えました。5年生の国語ではITアドバイザーと図書館指導員にも入っていただき、タブレットPCと図書館の本を併用した調べ学習を行い、情報を整理していく活用法を学びました。タブレットPC活用の場は委員会や児童会活動、部活動へと広がりました。
本校には興味関心が持続せず、基本的な学力の定着が不十分な子がいましたが、児童の意欲は着実に高まってきています。教員は20代・30代が中心ですが、若い分、新たな発想を出し合えたと思っています。授業のどのタイミングでICTを活用するのが効果的かを見極める「授業デザイン」の大切さもわかってきました。
富山市立芝園小学校 教諭 田村千佳子 氏
芝園小では全教室に実物投影機、プロジェクター、パソコン等を配備し、日常的に活用してきました。平成26年度にはタブレットPCを導入し、子どもの意欲や関心を高める資料を提示することで、教師・子ども共に端末の操作に慣れることができました。
27年度には、ペアやグループ学習にも活用しました。たとえば5年生の総合的な学習の時間には「芝園の魅力」についてまとめた資料をグループの仲間と見直したあと、ペアで説明し合いました。ノートには調べたことや考えを記録し、タブレットPCには相手に伝えることを意識した写真などの資料を取り込みました。活用法が広がったことで、自分の考えを伝え、友達の考えのよさにも触れながら、学びを広げていくことができました。
春日井市立出川小学校 校長 水谷年孝 氏
本校ではICT導入の前に学習環境を整えてきました。ノートづくりの指導を徹底し、授業のめあてをはっきりさせて振り返りを行いました。その上で提示型ICTを毎時間、どの教室でも活用するようにしました。
そこから「児童の学びのためのICT」としてタブレットPCを導入した結果、お互いの考えを画面上で抵抗なく見せ合えるようになりました。たとえば6年生の社会では資料を複数提示し、同じ資料を選んだ同士がグループとなって調べたことを話し合い、まとめて発表しました。また算数の練習問題では、先生が全員の取り組み状況を画面上で把握し、すぐに支援に入れるので、多くの問題をこなせるようになりました。今後は表現の道具としても活用したいと考えております。
奈良市教育委員会 指導主事 應田博司 氏
本市のICT活用は、平成16年度に国の小中一貫教育特区認定を受け、翌年、小中一貫校に「情報科」の時間を設置したことから始まりました。26年度には4小学校・2中学校を教育ICT活用モデル実証校とし、タブレットPC活用の実践研究を開始。その1校である佐保小学校で、パナソニック教育財団との共同研究に取り組み、学習意欲の向上や学習内容の定着を実感しました。
27年度には3小学校・1中学校を新たにモデル校とし、1人1台の環境を構築しました。その後も実践事例集の作成や、佐保小学校の公開授業などによって市内各校に取り組みを広げています。今後もICT活用の推進マネジメントができる教員や、ICTを活用して主体的に学ぶ児童・生徒の育成を目指してまいります。
柏市教育委員会 指導主事 冨高誠司 氏
柏市では平成24年度から小学校の全教室に電子黒板機能内蔵のレール付きプロジェクターを設置し、ICT活用が向上しました。デジタル教科書や授業で使えるコンテンツを整備すると共に、教職員の研修も充実させました。夏休み・冬休みには合計24回の情報活用研修講座を実施しています。また民間企業のITアドバイザーとも契約を結び、授業支援や教員研修の講師、教育委員会の支援などを委託しています。
大津ケ丘第一小学校におけるパナソニック教育財団との実証研究では、グループでの協働学習を必ず入れるようにしました。その結果、授業改善に向けて教員の意識も変わり、児童の学習意欲や情報活用能力も大きく向上しました。この成果を予算確保にどうつなげるかが課題です。
富山市教育委員会 指導主事 堀井良徳 氏
本市では、すべての小・中学校の普通教室にプロジェクターなどのICT機器を整備し、情報教育主務者研修会やICT活用・授業力UP研修会、初任者研修会、先輩教師が若手教師に熟練の技を伝える「とやま技塾」などの教員研修にも力を入れてきました。
ワンダースクール応援プロジェクトでは2年間の取り組みを3段階に分け、A段階はICT環境の構築や教員・児童の技能習熟、B段階は1人1台の端末の活用により従来以上の教育効果を得ることに重点を起き、C段階に入る頃には表現したり、互いの考えを交流したりする場面にも活用が広がりました。タブレットPCの日常的な利用が進んだことも大きな成果です。本研究の成果は、富山市の教育の質を向上させる上で貴重な資料となりました。
春日井市教育委員会 指導主事 前川健治 氏
春日井市は出川小学校での学習指導の研究やパナソニック教育財団の一般助成を経て、今回、ワンダースクール応援プロジェクトに取り組み、タブレットPCを使った授業法を開発しました。学習規律の徹底とICTの有効活用を中心とした、わかりやすい授業を日常的に展開していこうという「かすがいスタンダード」を市全体に広げるためです。
春日井市教育委員会の中には情報教育部会が置かれ、各校の教職員はそれぞれの立場から現場の意思を行政サイドに伝えることができます。また各校の教務主任には、出川小学校の公開授業に合わせて年3、4回の研修を実施しています。今後は出川小学校の成果をまとめた実践事例集を使って、この学習モデルを市内に普及・浸透させていきたいと考えています。
奈良教育大学 教授 小柳和喜雄 氏
アドバイザーを務め、今日は進行役の小柳です。発表者の皆様には本プロジェクトの支援体制、ICTアドバイザーの役割、研修にあたって大事にしていることなどを振り返っていただき、アドバイザーの皆様には、研修に関わってポイントだと思われたことをお話しいただければと思います。
奈良市教育委員会 指導主事 應田博司 氏
奈良市のICT支援員は機器操作のサポートやトラブル対応、授業設計支援などを行いますが、教員が自分たちで力をつけていくことを期待して月に数回しか学校を回りません。そして今年度は、校内研修の中心となって推進していく教員を育成するマネジメントリーダーの研修を始めました。
柏市教育委員会 指導主事 冨高誠司 氏
柏市には6人のICT支援員がいて、電話一本で学校の相談に乗ってくれます。教員の研修はすべて市が担当し、毎年100人ほど入ってくる初任者の情報モラル教育や、3年目の教員を対象にしたICT活用のカリキュラムづくりなどを行っています。情報担当者の育成が今後の課題です。
富山市教育委員会 指導主事 堀井良徳 氏
富山市では情報教育係の指導主事2人とICT支援員、情報教育専門委員の計4人がプロジェクトを担当しました。若手教員の育成も課題で、ICT活用・授業力UP研修会では体験型活動を採り入れ、参加経験のない教員が参加し、学校に必ず内容を伝達するよう義務づけています。
春日井市教育委員会 指導主事 前川健治 氏
春日井市にはICTアドバイザーがいないので研修で補っています。年間70人ほどの新任教員だけでなく2年目、3年目の少経験者にも模擬授業を行ってもらっています。教務主任相手に一般の先生が研修を行い、モチベーションアップにつなげるような仕組みを工夫しています。
東京学芸大学 准教授 高橋純 氏
私がアドバイザーを務めた富山市では教員研修の際、ベーシックな実践を模擬授業形式で伝えました。型で伝える研修をすれば応用が利くので、アイデアも広がっていきます。導入の第一歩としては「教科書の一部を拡大提示してきた実物投影機がタブレットPCに変わっただけ」というように、従来の授業との「のりしろ」を意識してもらうことも大事です。
武蔵大学 教授 中橋雄 氏
自立解決、協働学習、全体共有という流れで課題解決を行うとき、タブレットPCが話し合いをスムーズにしてくれるのは確かですが、グループを組み、タブレットPCさえあれば授業が成立するというものではありません。それぞれの場面でどのような問いを発し、支援をすればよいのか。その指導法を研修によって、どう広めていくか。自治体には今後も検討を重ねていただきたいと思います。
東京工業大学 学長相談役・名誉教授 清水康敬 氏
児童1人1台のタブレットPCを活用した学習環境がもたらす効果を示す「効果測定」を行うにあたっては、「児童用タブレットPC活用の学習効果についての明確なエビデンスを示す」、「学習効果を高めるための新しい授業スタイルを設計し普及する」という2つの目標を立てました。その上で、自治体がICTの整備や教員研修に積極的な4校を選定し、教員を対象とした意識調査と、児童を対象とした意識調査・客観テストを行いました。1人1台のタブレットPCを活用した授業としなかった授業のあとに意識調査・客観テストを実施し分析した結果、タブレットPC活用と学力向上、協働学習の関連性にとても興味深いエビデンスが出ました。
効果測定の結果は、今回発刊した書籍『One to Oneへの道』に詳しく掲載しておりますので、そちらをご覧ください。
『One to Oneへの道』 1人1台タブレットPC活用の効果測定と教育委員会・学校の挑戦
今回のプロジェクトでは、学校と教育委員会が連携したことで、これだけの成果が得られたのではないかと考えております。その背景と要因としては、①委託した自治体・教育委員会が適切な指導と支援を行い、教員研修にも積極的であった点、②実証校が目標を決めて研究・授業を実施した点、③経験豊富なアドバイザーが、それぞれの学校で指導してくださった点、④児童が意識調査と客観テストに真剣に取り組んだ点が挙げられます。
今後は、①学習指導要領の改訂に伴うICT活用の重要性、②デジタル教科書の位置づけについて示された方向性、③効果的なプログラミング教育の実現、④2020年代に向けた教育の情報化を踏まえて、ICT活用に対する、ますます柔軟な考え方が求められていくのではないでしょうか。
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