平成29年度(第43回)助成金贈呈式・スタートアップセミナー

平成29年度(第43回) 実践研究助成
助成金贈呈式・
スタートアップセミナー

開催日 平成29年4月28日(金)
場 所 パナソニックセンター東京
平成29年4月28日、東京都江東区のパナソニックセンター東京で、平成29年度(第43回) 実践研究助成助成金贈呈式を開催しました。今年度は特別研究指定校5校、一般助成校72校が助成を受けられます。
会場にはご来賓の皆様や初等中等教育関係者など、全国から160人の方々にお集まりいただきました。
この日は、奨励状の贈呈式やパナソニックセンター東京の施設見学、グループに分かれて研究を発表し、意見を交換し合うグループディスカッション、1日の学びや助成校同士の交流を深める情報交流会など、充実した時間をもつことができ、盛会のうちに終了しました。

第1部 助成金贈呈式

理事長挨拶

新しい学習指導要領が動き出す今、
実践研究を学校教育改革のきっかけに

パナソニック教育財団理事長 小野 元之

私どもは財団創設以来43年間、継続的に実践研究助成を行ってまいりました。そして、今年度は384件のご応募をいただきました。皆様ご承知のように、新しい学習指導要領が大きく動こうとしております。ICTの活用が学校教育を変えつつある今、この助成が何らかの一石を投じ、それらを推し進めていく力になればと心から願っております。
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一方で私どもは、学校教育でこれだけICT化が進んでいく中で日本人の心が失われてしまうのではないかということで、もう一つの柱として「こころを育む総合フォーラム」を実施しております。
助成先の皆様には実践研究のポイントとして、校長先生のリーダーシップとICTの核になる先生がいらっしゃること、校内のすべての先生方が協力し、保護者や地域社会も巻き込んで取り組みを広げていくことをお願いしたいと思います。実践研究に取り組むことが子どもたち同士の仲間づくりや、先生方と子どもたちの関係を密接なものとすることにつながり、学校教育をよりよく改革していく一つのきっかけになれば幸いです。

来賓代表ご挨拶

予測困難な時代の子どもたちに求められる
ICTを活用し、主体的に考え、解決する力

文部科学省 生涯学習政策局情報教育課 課長 梅村研氏

今回、助成を受けられる77の学校・教育機関の皆様、誠におめでとうございます。ご参集の皆様には日頃から教育情報化の推進に多大なご尽力をいただき、厚く御礼申し上げます。社会の変化が激しく将来の予測が困難な時代においては、子どもたち一人ひとりがICTを活用しながら主体的に考え、解決に取り組む力を育むことが必要です。
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昨年12月の中央教育審議会答申でも情報活用能力を「教科の枠を超えて、すべての学習の基盤として育まれ、活用される力」と位置づけ、カリキュラムマネジメントを通じて確実に育むこと、学校で日常的にICTを活用できる環境づくりを実現することが指摘されました。小・中学校の次期学習指導要領でも、各教科でコンピュータを活用した学習活動を充実すると共に情報活用能力育成の充実を図っているところです。
また昨年7月、2020年代に向けた教育の情報化に関する懇談会の議論をもとに策定した「教育の情報化加速化プラン」に掲げた各種施策を実行し、ICTを活用した新たな学びを進める所存です。
助成をお受けになる皆様には、さまざまな情報通信技術を効果的に活用し、創意工夫あふれる学びの実現に寄与されるよう大いに期待しております。財団や関係各位のご努力に敬意を表すると共に皆様のご健勝と発展を祈念し、お祝いの言葉といたします。

選考経過説明

財団HPの応募要領閲覧数が増加
申請書に量から質への変化

パナソニック教育財団 事務局長 藤田稔

今年度は登録(エントリー)数601件の中から384件が申請されました。昨年より約2割減少しておりますが、財団ホームページの具体的な応募要領の閲覧数は昨年より増えています。専門委員の先生方からも「申請内容の質が上がった」との声が多く聞かれ、量から質への変化があったものと推測しております。
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中でも、タブレットPCを活用してアクティブラーニングを実践したいという学校が多く見られました。審査は大学の研究者である47人の専門委員の先生方にお願いし、最終選考は5人の選考委員の方々が熱心な討議をしてくださいました。どの学校やグループもすばらしい申請書で採択されましたが、これを機に大いに飛躍し、限られた期間ではありますが充実した実践研究を行っていただきたいと思います。財団もしっかり応援してまいります。

奨励状贈呈

本年度、助成を受けられることとなった学校・団体の皆様に小野理事長より奨励状が贈呈されました。

第2部 施設見学

このあと、助成校の皆様にはパナソニックセンター東京の施設をご見学いただきました。1階の「アクティブラーニングキャンプ」では2020年を見据えて、オリンピックやパラリンピックについて一人ひとりが考え、行動するアクティブな学びの場をご提案しています。そして2・3階の「リスーピア」は実際に目で見て触れる体感型展示を通して、理数の原理・法則を学べる体験型ミュージアムとなっています。教材作成の一助となる情報が満載とあって、助成校の先生方は楽しみながらも積極的に展示を体験しておられました。

第3部 グループディスカッション

事務局からの連絡

研究成果報告書の評価により
一般助成校にも広がるチャンス

パナソニック教育財団助成事務局 金村俊治

一般助成校の皆さんには、これから始まる講演とグループディスカッションを参考に、研究概要をさらにブラッシュアップした改善計画を作成していただきます。さらに、年3回の写真レポートの提出、公開研究会の実施を経て、来年3月には研究成果報告書を提出していただきます。
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この研究成果報告書を評価した上で、一般助成校の中から選ばれた優秀校を来年8月の成果報告会に招待し、最優秀校を特別指定校として9月から助成する予定です。また、希望する学校のうち10校程度に、専門委員の先生(大学の研究者)による特別訪問アドバイスを行うことも予定しています。
助成校の写真レポートや公開研究会の情報、特別研究指定校の活動報告、過去の研究成果報告書などは財団のホームページで、ご覧になれます。ぜひ、ご活用ください。

講演

成果目標の設定と評価の方法について

横浜国立大学教職大学院教授 野中陽一氏

講演動画を見る
まずはパナソニック教育財団で、どのような実践研究が評価されているのかを見てみましょう。創意工夫、そして成果を量的・質的データで見せ、問題解決のプロセスを他の学校が参照できる形で示し、改善のポイントや具体化の方法が書かれている報告書は評価が高いとされています。
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また、助成校が4月に提出する資料「研究概要」の中には「学校情報化の現状」という項目もございます。4カテゴリー20項目で学校の情報化を自己評価する「学校情報化診断システム」というツールがあり、学校情報化の優良校、先進校、先進地域の認定も行っていますので、ぜひご応募ください。
平成27年度の助成校の研究活動の初期と終了時を比較してみると、まず教員のICT活用が上がり、児童生徒のICT環境の整備が上がる。そして、おそらく今後は児童のICT活用や情報活用能力が上昇し、それらを支えるのが校内研修や先生方のICT活用指導力の向上ということになるのでしょう。
とはいえ、成果目標や変容を具体的に示すのは非常に難しいことです。しかし、たとえばICT活用や情報教育のことが職員室で話題にのぼるようになったとか、カリキュラムが授業レベルから単元レベル、年間指導計画へと教科横断的に変化したというのも一つの成果です。そういう細かい成果の記述が、他の学校が取り組むときにも「ここが変わった」と認識する助けになります。
そのような変化の積み重ねや評価こそが、結果的には助成校の実践研究の成果の蓄積や持続的な発展、地域への還元につながるのではないでしょうか。

グループディスカッション

今年度の助成校77校のうち、この日参加された特別指定校5校、一般助成校67校の先生方が21のグループに分かれて研究概要を発表し、意見交換を行うグループディスカッションを実施しました。各グループには専門委員の先生方に加わっていただき、進行役・助言役をお願いしました。意見や助言は研究計画の改善や研究活動の充実に役立てられます。
この中から今回は、特別研究指定校3校が参加するAグループに密着しました。意見交換の一部をご紹介します。

タブレット一人1台で個に応じた指導が可能に

大阪初芝学園 はつしば学園小学校 教諭 橘淳治氏

本校は開校13年目の私学で、地元の多様な児童が入学してくるため学力差が大きく、個に応じた指導に適したツールということで、前校長が一人1台のタブレットを導入しました。児童が興味をもち、授業進度が早くなった感覚はありますが、評価の方法が確立していないことと校務の情報化の遅れが課題です。
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月2回は各学年の代表が集まるICT機器活用教育の定例会を開いています。ただ、公立のような人事異動がない私学なので、公開授業で外からの意見も聞いていきたいと思っています。学校には紙ベースの資源がたくさんあります。それを誰がどうデジタル化してポータルサイトに入れ、自宅学習に活用するのか、既存の教科とのバランスが取れたカリキュラムをどう構築するかについても、まだ研究途上です。
次期学習指導要領についていえば、プログラミングの考え方を児童にどう教えていくかということも研究課題に加えなければいけません。タブレットがいつでも、どこでも、誰でも使える文房具のような存在になるような授業のスタイルを2年で、どの学校でも使える形にして、地域にも還元していきたいと思っています。

意見交換

この発表に対し、専門委員の瀬尾美紀子氏(日本女子大学准教授)から「自宅学習は意欲が大事になってくるが、どのようなサポートをしているのか」という質問が出されました。橘先生は「調べてきたことを板書で発表してもタブレットで発表してもいいという自由度をもたせることで、タブレットを使ったほうが楽で、よりわかりやすくなることに気づかせるという形で興味づけをしています」と回答。
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さらに学校では、「これまでに教員がつくった計算問題のプリントをタブレットに取り込んで、朝、児童に解かせている」とのことで「自分の力に応じた問題に取り組めるので、進度の早い児童は上の学年の問題を先取りし、進度の遅い児童も他人の目を気にしなくて済む」というメリットがあることを紹介しました。
最後に、専門委員の吉崎静夫氏(日本女子大学教授)は「はつしば学園小学校が掲げる“はつしばスタイル アクティブラーニング”の内容がわかりにくい」と指摘し、「児童の使い方の実態を整理していった上で“はつしばスタイル”のカリキュラムをつくり上げていったほうがいいのではないか」と提案しました。

情報発信力を育成するカリキュラムを開発

北海道教育大学附属函館中学校 副校長 白川卓氏
教諭 郡司直孝氏

平成24年度からタブレットPCの導入を始め、一人1台の貸与を進めてきました。生徒はタブレットにダウンロードした議案書を見ながら生徒総会を行ったり、数学の問題を解いている過程を動画で撮影したり、オープンスクールに参加する小学生を対象に本学の説明をしたりしてきましたが、これまでは情報の収集がメインでした。
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しかし、情報収集だけなら附属の幼稚園や小学校でも取り組んでいます。そこから、さらに別の能力を伸ばし、情報収集だけでなく発信することまで考えて設定したのが、今回の研究課題「他者と協働して情報を整理・発信・伝達できる生徒の育成を目指して」です。さらに今年度からは「次期学習指導要領の趣旨を実現する」という研究主題を掲げ、生徒が目指す3つの資質能力として、教科の資質能力、市民として求められる資質能力、情報活用能力を設定しました。全教科の先生に単元ごとの資質能力シートをつくってもらい、これをもとに情報活用能力に関するカリキュラム表を作成しました。最終的には単元名をクリックすると学習指導案や単元の指導計画にリンクする資料に仕上げて、地域の他の学校にも提案していきたいと考えています。

意見交換

発表を受けて、専門委員の瀬尾美紀子氏は「相手を意識して情報を編集し発信する能力を評価する際は、国際学力調査の手法などを参考にして採り入れてみるといいのではないか」と提案しました。さらに、専門委員の小柳和喜雄氏(奈良教育大学教授)は「協働というからには、チームであるパフォーマンスを目指していく中で、個人がどう変わっていったのかも評価する必要がある。評価のターゲットが二つ出てくるのではないか」と指摘しました。
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この点について、郡司先生は「集まって何かをやり遂げる力は大事だと思う。そのためには、前段階として個人で役割分担をするスキルも身につけなければいけないが、どんな力を育てたいのか、はっきりしていない部分もあったので明らかにしていきたい」と回答。そして白川先生は「与えられた情報を一方的に消費するのではなく、情報を加工し、自らつくり出していく思考力を育てていきたい」と研究への思いを新たにされました。

対話型ロボットで社会性育む、21世紀にふさわしい学び

愛知県立みあい特別支援学校 教諭 中川恵乃久氏

本校は開校9年目の学校で、児童生徒数は小・中・高合わせて288人。自閉症の子どもが6割を占めています。コミュニケーションに課題のある子どもが多いので、タブレット端末で自分の要求を伝えながら他者と関わる取り組みを続け、近隣の小・中学校の特別支援学級にも紹介してきました。また、本校はユネスコスクールに加盟してサステイナブルスクールの指定を受け、「共生社会の実現」をテーマにしたESD活動に取り組んでいます。
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これらを組み合わせてできる「21世紀にふさわしい学び」として注目したのが、対話型ロボットのPepperです。Pepperとの会話を通して、自分の力を発揮する活動、社会に参加する活動、人に役立つ活動という3本の柱を軸に、子どもたちを伸ばしていこうと考えています。課題はPepper が1台しかないことと故障のリスクをどうするかです。また、技術的な支援も必要だと思うので、どこまでロボットに可能なのか、大学とも連携しながら、いろいろな事例を出していきたいと思っています。

意見交換

この研究を進めるポイントとして、専門委員の吉崎静夫氏は「子どもの発達段階に応じた活動モデル」と「ロボットとの関わりから人間との関わりへ移行するときに、どんな教師の支援が必要になるか」を考える必要があるとアドバイス。「そうすることで対話型ロボットの有効性と限界が見えてくる。1年目はターゲットを絞った定性的研究でいいと思うが、2年目は対象を増やして定量的研究にもっていくといい」と述べました。
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専門委員の瀬尾美紀子氏は、この研究を「自閉症の子どもが思いをもっていても伝える手段がないところを突破する可能性を秘めた、夢のある研究。子どもたちがロボットまでならできることと人にもできることを記録すれば、他の学校のヒントになる」と評価。
一方で、専門委員の小柳和喜雄氏からは「わくわくする研究ではあるが、万が一の危機管理も必要。Pepperがうまく起動しないときのために、代わりのICTもデザインしておいたほうがいい」と、ロボットの不具合を懸念する声も聞かれました。

全体講評

理想と現実のギャップを埋める日々の努力に感謝

パナソニック教育財団 常務理事/選考委員 赤堀侃司氏(東京工業大学名誉教授)

先ほど8つのグループを回りましたが、その中からいくつか紹介させていただきます。山武市立鳴浜小学校は、子どもがデジタルポートフォリオをつくる。そして先生が電子カルテをつくり、子どもの学習の記録と結びつけることで「成長していこう」というエネルギーに変えようとしていました。
また、静岡県立沼津工業高校はIoT時代のプログラミング学習にチャレンジしていました。考えてみれば、たとえば農業もさまざまなデータを取ったほうが生産量は上がるわけで、工業高校が社会と密接につながっていることを感じさせられました。
全体を通して感じたのは理想と現実のギャップです。そのギャップを埋めるのが先生方の努力であり、私ども財団が担っている大きなミッションでもあります。先生方の日々の努力と、すばらしい実践に心からお礼を申し上げます。

第4部 情報交流会

最後に、2階ブリッジへと会場を移し、情報交流会の時間をもちました。参加された助成校の皆様は、他校の先生方とこの日得た知識や情報を深め合ったり、これからの計画を話し合われたりと、歓談のひとときを楽しんでおられました。
1日の感想と、今後の研究に向けての抱負を特別研究指定校と一般助成校の先生方3名に、おうかがいしました。

参加者の声

特別研究指定校
川崎市立川崎高等学校附属中学校
校長 和泉田政徳氏

今まで、こういう場に参加した経験がなかったので、今日は研究を一つずつ積み重ねていくことの大切さを学びました。グループディスカッションでアドバイスをいただき、たくさんのことを考えすぎて行き詰まらないように、研究の焦点化をしっかり行うことが必要だとわかりました。課題を一つずつ“見える化”することで先生方の共通理解を形づくり、“学校”というチームを活性化していきたい。特別研究指定校に選んでいただき、本当によかったと思っています。

特別研究指定校
長岡京市立長岡中学校
教諭 森山結城氏

とても刺激的な1日でした。グループディスカッションでアドバイスをいただいたことで、スタートラインが見えてきて大変参考になりました。本校のICT環境はまだ十分ではありません。「ただICTを使うだけではダメ」というご指摘もいただいたので、今ある環境とメディアの特性、生徒の置かれている状況を考えて、どんな力をつけたいのかをはっきりさせ、あるものをうまく活用しながら「伸びたね」と言っていただけるような研究ができればと思っています。

一般助成校
大阪市立堀江小学校
教諭 宮本純氏

今日は学校の外からのアドバイスをいただき、大変勉強になりました。ハードルを高くしすぎず、できることから取り組むことが大事だと言っていただき、その通りだと思いました。グループで討議する中で、他校の先生やアドバイザーの先生ともつながることができて心強いです。
昨年度まで特別研究指定校として助成を受けていた本校は、今年度から新たにプログラミングに取り組んでいきます。先進的なチャレンジゆえに手探りでしたが、進むべき方向が見えてきました。