平成30年度(第44回)実践研究助成 一般助成表彰

  平成30年度(第44回)一般助成の優秀な研究成果報告書を紹介します。
※実践研究助成の助成校は研究計画に即して実践研究に取り組み、その成果を研究成果報告書にまとめます。当財団では、一般助成校の研究成果報告書の内容等を評価し、優れたものを表彰すると同時に、当該学校の実践の特長等を実践研究助成の専門委員が解説しています。一般助成校による実践研究の成果をより多くの方々に、より分かりやすくお伝えいたします

評価を担当いただいた専門委員

岸 磨貴子 明治大学 准教授

北澤 武 東京学芸大学 准教授

島田 希 大阪市立大学 准教授

瀬戸崎 典夫 長崎大学 准教授

福本 徹 国立教育政策研究所 総括研究官

森田 裕介 早稲田大学 准教授

(五十音順)

全体講評

森田裕介 早稲田大学 准教授

 パナソニック教育財団は、学校現場におけるICT活用の推進と教育課題の改善を支援するため、長きにわたり実践研究の助成を行ってきました。本助成の目的は、これからの社会を生きる子どもたちがよりよい学びを通して資質・能力を高めていけるように、価値ある教育実践を支援し、その成果を社会に広く普及させることと説明がなされております。(「実践研究助成」参照

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 この一般助成を受けた学校(以下、一般助成校)は、1年間にわたり実践研究に従事し、その成果を研究成果報告書にまとめて提出することとなっております。2000年度以降に提出された研究成果報告書は、すべて財団ホームページ「実践研究助成データベース」にて公開されています。平成30年度(第44回)は、73件(小学校30件、中学校16件、高等学校17件、特別支援学校9件、教育センター1件)に一般助成がなされました。この73件分の研究成果報告書を加えますと、合計して3,045件の実践研究の知見が蓄積されたことになります。

 一方で、2015年度(第41回)から、実践研究の知見を蓄積することに加えて、優れた取り組みを表彰するしくみが導入されました。また、優れた実践の特長を解説し、講評として掲載する取り組みも始まりました。本助成に関わる一般助成校のみならず、多くの学校にその取り組みを広くお知らせし、活用していただくためです。講評は、研究成果報告書と合わせて、先に述べた財団ホームページから閲覧することが可能となっております。

図1 評価プロジェクトの位置付け

図1 評価プロジェクトの位置付け

平成30年度(第44回)では、次の5つの観点から、研究成果報告書を総合的に評価いたしました.そして、73件の中から優秀7件、奨励6件、計13件の取り組みを選出いたしました。

  • 内容面1:研究内容・活動の創意工夫
    取り組みにその学校ならではの工夫を確認できる。
  • 内容面2:研究成果の説得性
    取り組みの成果を量的・質的データで説明している。
  • 内容面3:研究内容の適用可能性
    実践推進上の問題解決の過程を示しており、取り組みを他の学校が参照しやすい(つまづきや悩みにも言及している)。
  • 内容面4:実践の批判的検討
    取り組みを自己点検して、改善のポイントやその具体化を構想している。
  • 形式面 :表現の工夫
    分かりやすい文章で記されており、図表や写真が適切に用いられている。

13件の実践は、すべて、実践上のアイディアや実践研究の方法が秀でており、広く知らしめる価値があると評価プロジェクトが判断した取り組みです。「優秀賞」は,ICTの活用について参考になる要素が含まれた社会的に有意義で優れた実践を行った実践や、根拠となるデータを示すとともに、研究成果報告書として参考になるようなまとめ方がなされていた実践研究に与えられる賞です。特に、児童・生徒の資質・能力の育成やカリキュラム・マネジメントに示唆を与える取り組みで、汎用性が高いものを優秀賞といたしました。「奨励賞」は、他の実践と比較して秀でた工夫がみられる実践について与えられる賞となっております。これら受賞校の優れたポイントは、次の3点にまとめることができます。

 第一に、学習指導要領が求める授業デザインに関連した実践に着目し、ICTを効果的に活用している点です。例えば、世羅町立甲山小学校は、算数の授業にアクティブラーニングを導入し、主体的な学びを育むカリキュラムの開発に取り組んできました。中津市立鶴居小学校は、プログラミング的思考に着目し、算数や理科,家庭科などとの関連を図りながら、新たなカリキュラムを提案しています。北陸学院小学校では、教科を横断し、小学校英語の実践を行ってきました。篠山市立西紀中学校は、反転授業を導入し、主体的・対話的で深い学びにつながる授業をデザインし、実践しております。福井県立鯖江高等学校は、地域連携においてICTを活用し、教科横断学習による思考力・表現力・判断力の育成を行っています。これらの事例からわかるように、近年の教育実践で話題となっているテーマについて、効果的にICTを活用し、効果を示しているのです。

 第二に、教育現場における問題を抽出し、ICTを活用してよりよく解決する実践を行っている点です。例えば、豊橋市立多米小学校は、外国籍児童の言葉の指導を充実させるため、ICTを活用して主体的に生活できるよう自立支援を行っています。各務原地域特別支援教育推進部会は、境界線・不登校生徒の指導に着目し、問題に正面から向き合い、改善するための知見を示しています。東京学芸大学附属特別支援学校では、知的障害のある生徒に対して、「特別の教科 道徳」の授業開発を行っています。これらの事例は、現場の問題を解決するという、きわめて本質的な実践研究であり、多くの知見を提供してくれるものとなっています。

 第三に、新たなテクノロジを導入する挑戦的な実践研究です。お茶の水女子大学附属中学校では、ウエアラブルカメラとデジタルポートフォリオを組み合わせた学習活動の記録とメタ認知能力の育成が行われました。神奈川県立麻生総合高等学校では、ドローン操縦士育成プログラムの開発を行っています。福岡県立糸島高等学校では、ラーニングアナリティックスを導入しています。神奈川県立中原養護学校では、重度・重複障害児に対して、視線入力装置を用いたコミュニケーション支援を行う取り組みがなされています。これらの取り組みは、テクノロジを活用した教育実践としては、先進的かつチャレンジングなものです。

 以上を踏まえて、総括をしますとアイディアや有用性については、年々レベルが上がってきているといえます。また、成果報告書の書き方も改善され、他者に伝わる内容になっています。今後は、次の2点を検討することで、よりよい成果報告書の作成になると考えられます。

 まず、データ分析についてです。岬町立深日小学校の事例にみられるように、多くの成果報告書では、アンケートやテスト得点などの量的なデータを集計して統計的に示すことで、説得力のある結果を導くことができます。また、各務原地域特別支援教育推進部会のように、対話や活動などの質的なデータを収集し、丁寧に実践を記述することで、これまで見えてこなかった問題を明示したり、解決するためのアイディアを示したりすることもできます。さらには、量的なデータと質的なデータを補完的に組み合わせて、実践の評価を行うこともできます。実践研究に合わせて、どうしたら説得力のある結果を示すことができるのか、再考してみてはいかがでしょうか。

 次に、実践の振り返りについてです。前述したとおり、成果報告書は、他の学校で活用していただくものです。実践によって得られたいいことのみを書くのではなく、つまずいたところや苦労した点なども含めることで、実践値を広めることができます。また、自身の取り組みを批判的に振り返り、課題を明確に示すことによって、他の学校が実践をさらに発展させていくことができます。当財団の助成を受けた学校や組織が、学種や地域を超えた実践の共同体として知見を共有し、ともにより良い実践を目指すという視点で成果報告書を作成してみてはいかがでしょうか。本助成の成果が、多くの場で、よりよい実践の足掛かりになることを期待しております。

表彰校一覧

優秀賞(7件)

小学校3件、中学校1件、高校2件、特別支援学校1件

奨励賞(6件)

小学校2件、中学校2件、高校1件、特別支援学校1件

優秀賞(7件)

北陸学院小学校(石川県)
研究課題 評価者 報告書
絵本とタブレットを活用した外国語教育の充実
~楽しみながら言語感覚を育む~
明治大学 岸 磨貴子 准教授 報告書(PDF)
講評

 北陸学院小学校は、小学校において外国語を学ぶための様々な学習機会をICTを活用して生み出してきました。その軸となるのがOxford Reading Treeという絵本です。この英語絵本の音読は、児童が楽しみながら語学感覚を養い英語を学べる教材で、児童は具体的なイメージ(たとえばラッコが貝を割る様子)とそれに関する英単語(crack)をつなげながら学んでいきます。子どもが絵本の世界に入り込み、絵本の世界の表現(言語感覚)を身につけていける学習環境を整えていくという発想が大変独創的で、教育面でも研究面でも意義の高い研究だといえます。

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 本実践の特長は次の3点です。まず、上述したように実践および研究の着眼点が独創的であったことです。英語を「学ばせる」のではなく、子どもが「学びたい」と思える環境を作る(デザインする)点に、子ども中心の教育の本質的な問いが追求されていました。次に、他の学校への参照可能性と多様な発展可能性が示されている点です。本研究では、絵本の中での表現(言語感覚)を、日々の学校生活で使ってみたり、様々な教科に関連づけたり、オーストラリアの児童と会話したりするなどして発展的に実践が展開されていました。絵本を使った英語教育の実践そのものも価値がありますが、さらにそれを発展させていく可能性とその具体事例が示されていました。また、子どもにとって馴染みのある絵本、実際に英語を使う場面を想定して適切な絵本(表現)を選択するなどの工夫も示され大変参考になりました。最後に、子どもの変化が具体的に示されている点です。報告書の記述にあるように、子どもの“英語でなんというか知りたいという学ぶ姿勢”、すなわち、学びに向かう力が育っていることを確認できました。教育実践としても、研究としても意義の高い研究で、是非継続的に研究知見を蓄積、共有していただけることを期待したいと思います。

世羅町立甲山小学校(広島県)
研究課題 評価者 報告書
主体的な学びを育む算数科授業の創造
~学び合いを深める手段としてのICTの活用法~
大阪市立大学 島田 希 准教授 報告書(PDF)
講評

 世羅町立甲山小学校は、主体的で対話的な学びを育む算数科授業を目指し、学び合いを深める手段としてのICTの活用法について研究を進めてきました。同校では、児童が自らめあてをもち、問題の解決にむけて探究的な活動を展開する学習を「問題解決学習」と定義し、「課題把握」「自立解決(思考)」「学び合い」「まとめ」「振り返り」という学習過程を「甲山小授業スタイル」と名づけています。

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 同校では、平成28、29年度も算数科を研究教科として研修を重ねてきたそうです。それにより、授業を「視覚化」し、児童の理解を深めることができた一方、教師主導の授業になりがちであったと、報告書の「1. 研究の背景」で述べられています。つまり、同校における研究の軌跡が丁寧に描かれており、まず、この点が評価されます。

 また、報告書では、先述した甲山小授業スタイルに沿って、同校の実践やICTの位置づけが記述されています。それゆえ、読者は、同校での授業におけるICT活用の特徴をわかりやすく捉えることができるでしょう。また、授業のプロセスを説明するだけではなく、ある場面での児童の発言やノートへの記述について、写真を効果的に用いながら記されており、授業の様子がよくわかります。

 さらに、全国学力・学習状況調査の結果や児童による自由記述等、量的・質的データをもとに、研究の成果が分析されています。同校では、本研究を通じて、児童がより主体的に授業に参加すること等の成果があったと報告書に記しています。しかし、その一方で、「考えを深め合うところまでには至っていない」と、今後さらに検討すべき点を挙げ、「児童の思考の流れに沿った柔軟な授業展開」という方策を構想しています。つまり、同校における取り組みに対する批判的検討がなされており、その点についても評価されます。

中津市立鶴居小学校(大分県)
研究課題 評価者 報告書
プログラミング的思考力を高める教育課程・カリキュラムの創造
~実感を伴った検証過程のある授業づくりを通して~
大阪市立大学 島田 希 准教授 報告書(PDF)
講評

 大分県立中津市立鶴居小学校では、2016年度、2017年度にかけて「プログラミング的思考を高める」ことや「プログラミング教材の活用」に焦点化した研究を進めてきました。そこで確認された課題を解決するために、プログラミング的思考力を高めるための教育課程・カリキュラムの創造を目指した本研究がスタートしました。しかしながら、教職員の異動に伴う変化により、年度当初には、先述した研究目的に関する十分な共通理解には至らなかったようです。そこで、「学習指導要領には例示されてはいないが、学習指導要領に示される各教科等の内容を指導する中で実施するもの」に焦点化したプログラミングの実践例の収集を目指すことにしたそうです。

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 同校の報告書には、こうした研究の経緯やその中で生じた問題およびそれに対する解決策が丁寧に記されています。学校における実践研究は、同校で生じた教職員の異動など、様々な状況の変化やそれに伴って生じる課題と向き合いながら進めていく必要があります。同校の報告書からは、そうした実践のリアルな様子を感じる取ることができます。つまり、報告書において、学校における実践研究を進める際のつまずきや悩みに言及しており、他の学校が共感しながら、その内容を参照することができるという意味で、研究内容の適用可能性が高いといえます。まずは、この点が評価されました。

 さらに、同校における代表的な実践について、単にその内容を記すだけではなく、プログラミング的思考力を高めるポイントが説明されています。こうした記述は、今後、同様の取り組みを進めようとする他校にとって有益なものとなるでしょう。こうした実践のポイントに加えて、本研究の成果として「教科等でつけたいプログラミング的思考力」が一覧表にまとめられ、報告書に示されています。このように、実践を重ねるだけではなく、それを集約し、成果としてまとめられていること、この点についても評価されます。

篠山市立西紀中学校(兵庫県)
研究課題 評価者 報告書
主体的・対話的で深い学びにつながる予習及び授業におけるICT機器の活用
~映像教材等による予習で授業を見通し、ICTを活用した対話で思考を深める授業の創造~
東京学芸大学 北澤 武 准教授 報告書(PDF)
講評

 篠山市立西紀中学校の実践研究では、「ICTの活用による『授業に見通しをもたせる予習』と、『思考を深める対話』を核にした授業改善」を目標に掲げていました。そして、「効率的で短時間で視聴や作業が可能な予習映像教材等の作成」に取り組み、反転学習を実現させるとともに、対面の授業において「タブレットによる思考の可視化・瞬時の共有化・試行の繰り返しの特性をいかした協働学習」を実施しました。

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 本報告書は、ICT活用の目的と実践が分かりやすく記載されており、とても理解しやすい内容となっております。例えば、本研究の授業実践では、1年生社会、2年生数学、2年生美術、3年生理科について紹介されていますが、上述した2つの目標(「予習及び授業導入」と「共同学習」)の観点に分けながら、図とともに説明がなされています。そのため、掲載されている授業実践が、2つの目標を達成するために、具体的にどのような取り組みをしてきたかが読者に理解しやすい構造になっています。

 さらに研究の成果を明らかにするために、「予習動画等 ICT の活用による学びの見通しと意欲付け」の観点で生徒に意識調査を行っています。そして本研究実践後に、予習・復習への取り組みに変化が見られたことを数値として示しています。これに加えて、「定期テスト思考力問題無解答率状況」の結果をグラフ化して示したり、全国学力調査と市調査の全国的な状況と本校の結果を比較したレーダーチャートを示したりするなど、量的データに基づいた知見を導いていました。これらが説得力のある報告書として評価されました。

 本報告書には、「本校では予習により生み出した時間で、個人思考や集団思考の時間を十分とることをめざしていたが、 ICT導入までは、協働学習に時間をとられすぎて、振り返りの時間が十分確保できない課題があった」と、課題についての記述がなされていました。本研究で得られた成果だけでなく、課題についても言及されている点が、報告書として素晴らしく、他校の参考になると考えられます。

 今後、本実践研究が継続されるとともに、振り返りの時間が確保されるような協働学習が実現なされることを期待しています。

福井県立鯖江高等学校(福井県)
研究課題 評価者 報告書
鯖江市デジタルパンフレット
~地域を教材とした研究活動で深く地域と結びつく~
長崎大学 瀬戸崎 典夫 准教授 報告書(PDF)
講評

 鯖江高等学校では、鯖江市を紹介するデジタルパンプレット作成を通した地域探究活動によって、生徒らが主体的に学べる環境を提供することを試みました。また、地域と協働した学習活動や、フィールドワークを重視した活動を実践しており、鯖江市と連携した学習を実現できています。さらに、生徒たちだけではなく、教員がチームとして連携しながら授業改善に取り組むことをねらいとしており、他校にとっても非常に参考になる研究だと思われます。

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 また、江戸時代に鯖江市が藩の学問として推奨していた「算額」をテーマとして、日本史や古典、数学等を組み合わせた教科横断的な学習に取り組んでいます。教科の専門性が高まる高等学校において、教員らによる教科を横断した協働的な取組は、カリキュラム・マネジメントの観点からも非常に価値があると考えられます。

 さらに、デジタルパンフレット作成における工夫として、情報の授業では観光客にわかりやすく伝えるためのレイアウトを考案しています。また、英語の授業では海外からの観光客に伝えるために英語版デジタルパンフレットの作成に取り組んでいます。これらの活動には、「鯖江市に訪れる観光客」という具体的な対象が設定されており、生徒らにとってデジタルパンフレットを作成する意図や意義が明確化され、主体的・対話的で深い学びにもつながることが考えられます。

 以上のように、本研究は「地域社会との連携・協働」、「カリキュラム・マネジメント」、「主体的・対話的で深い学びによる授業改善」の観点からも大変意義深い実践であり、社会に開かれた教育課程の実現に向けて参考になる研究です。また、今後の展望として、「どのようにしたら観光客に見てもらえるか」を生徒らに考えてもらい、実際の観光客に対して「鯖江市の魅力を伝えるための研究」を進めると述べており、社会とつながる教育課程を検討する上でも、本研究のさらなる発展が期待できます。

福岡県立糸島高等学校(福岡県)
研究課題 評価者 報告書
オンライン学習支援システム導入による授業改善、学習改善の取組
~授業への学習支援システム、ラーニングアナリティクスの活用~
長崎大学 瀬戸崎 典夫 准教授 報告書(PDF)
講評

 糸島高等学校では、授業改善・学習改善をねらいとして、蓄積された生徒の学習と教員の指導の履歴を多面的な評価に活用することを目的としています。多面的な評価を行う上で、eポートフォリオだけでなく、学習行動やICT機器の操作履歴等の情報をビックデータとして収集して活用することは、学校教育において先駆的な取り組みでもあり、重要な研究であると考えられます。

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 本研究の成果報告書では、これまでの研究によって得られた成果や課題について丁寧に述べられており、研究としての位置付けが明確に示されています。また、研究を進める上でのプロセスについても具体的な機器の名称や数値的な情報等が示されています。さらに、研究の成果や課題等についても明確に示されているため、他校にとって参考になる実践であると思われます。

 代表的な実践として、オンライン学習システムを取り入れた、反転授業の実践が報告されています。また、家庭学習と学校での授業を効果的に連動させるべく、具体的な授業デザインが設計されています。家庭学習における生徒自身が担当する問題について、他の生徒が理解できるような解答の書き方や表現が生徒らには求められます。したがって、報告書に示されているように、思考力・判断力・表現力の向上にも有効だと考えられます。

 なお、本実践は,高大連携による実践であり,すべての高校がすぐに行えるレベルではありません.学習ログよる多面的評価および授業改善への活用については,研究成果が記載されておらず,報告書としても不十分であるといえます。しかしながら、ラーニングアナリティックスをテーマとした実践は唯一のものであり,無線LAN環境と端末台数による通信の課題に対し、クラウドサービスの利用や時間割変更による対応等、現実的な課題解決の手立てが述べられているなど,今後,同様の取り組みを行う際に参考になると考えました。また、1人1台のPC整備が困難である中、スマートフォンの利用を検討する等の対策についても示されており、他校にとっても大変参考となる実践として評価いたしました。

東京学芸大学附属特別支援学校(東京都)
研究課題 評価者 報告書
知的障害特別支援学校における「特別の教科 道徳」の授業開発
~資料の理解、意見の表出等を補助するデジタル教科書を活用して~
国立教育政策研究所 福本 徹 総括研究官 報告書(PDF)
講評

 これまで、特別支援学校(知的障害)では、「道徳の時間」について、生活の中での具体的な場面や活動を通じて物事を指導することが有効であるという児童生徒の特性を踏まえて、各教科等を合わせた指導の中で適宜、道徳性の育成を図ってきていました。新学習指導要領では、「考え、議論する道徳」への転換として、「特別の教科 道徳」が教育課程上に位置付けられています。また、教科等の学習の充実という状況の下、「道徳」の単独設置という高い現場ニーズに基づき、学習者用デジタル教科書を自作し、授業開発を行った上で、知的障害教育における道徳教育のポイントをわかりやすくまとめて示しています。

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 デジタル教科書の作成にあたっては、保護者や教員へのアンケートを実施し、内容項目を「A 主として自分自身に関すること」「B 主として他の人とのかかわりに関すること」に重点化しています。コンテンツの工夫としては、生徒の資料の理解を助けるため、動画、イラスト+文字(音声読み上げ)の2パターンを作成し、すべての生徒の意見の表出を目指し、選択肢を用意するとともに(架空の)友達の意見を参照して自己の意見の形成を促すこととしています。デジタル教科書の本体はiBooksAuthorで作成されていて、生徒のiPad中のiBooksにダウンロードして使用します。

 授業開発にあたっては、資料を映像化し提示すること、個々の言語発達水準に応じたワークシートを利用すること、の2点をポイントにしました。中学部3年生を対象にした研究授業では「個性の伸長」の授業を行い、意見の表出については選択肢から選ぶことや(架空の)友達の意見を参照して意見を述べることができるようになりましたが、資料の内容理解についてポイントを示しておくことが課題として示されました。

 このように、児童生徒の特性を考慮し、ニーズの分析に基づき、デジタル教科書を作成するとともに、実践によってその効果と今後の課題を明らかにしたものであり、優秀校に値するものであります。

奨励賞(6件)

豊橋市立多米小学校(愛知県)
研究課題 評価者 報告書
言葉の力を高め,主体的に生活する子どもを育てる自立支援のあり方
~特別支援学級の外国人児童を対象とした,タブレット端末の活用による語彙拡充の支援を通して~
明治大学 岸 磨貴子 准教授 報告書(PDF)
講評

 多米小学校の実践研究は、これからの日本社会が直面するであろう外国籍の児童の学習支援の具体的な方法を提示するもので、大変意義の高い研究です。外国籍の児童にとって、言語や文化の違う日本の学校で学ぶことは大変な苦労があります。一般的には、多様性を課題とするのではなく、学びのリソースにしていくことが期待されますが、そのためには、外国籍の児童たちが学校で自立して学習活動にアクセス、参加できるようになることが重要です。多米小学校の実践研究はまさに、外国籍の児童が学校における様々な学習活動にアクセスし、参加できるようにICTを活用した取り組みを行ってきました。

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 本実践の特長としては,まず、問題意識が明確で実践の意義が高いことが挙げられます。学校教育における外国籍の児童の現状と課題とそれに関する原因が明確に示されており、研究で何をめざしたいのか(研究の目的)に説得力がありました。次に、同様の課題を抱える学校にとって参考になる知見が丁寧に示されていることが挙げられます。例えば、利用する機器(タブレット端末)やアプリの選定も、その理由が示されていました。加えて、実際にどのように利用するかについての事例も詳細に示されていました。加えて、多様な観点からデータを収集し子どもの変化を捉えていることも挙げられます。子どもの変化を、観察を通して質的に記述しているだけではなく、学年のはじまり(5月)と終わり(3月)の変化、会話の正答率を示していました。

 本研究は外国籍の児童が学校における学習活動(行事や授業)に参加できるような自立支援が行われその成果も確認できたため、今後、外国籍の児童を含め児童の多様性を強みとした学校へと発展していくことが期待されます。

岬町立深日小学校(大阪府)
研究課題 評価者 報告書
子どもの体力評価および体力向上支援に関する研究
~全校での合同体育・健康教育によるICTを使った異学年の学び合い~
大阪市立大学 島田 希 准教授 報告書(PDF)
講評

 大阪府泉南郡岬町立深日小学校は、小規模校であるという状況をふまえた上で、保健体育における学びを充実させることを目指して、本研究に取り組んできました。その代表的な取り組みとして、体育における異学年での学び合いが位置づけられています。授業における話し合い活動を充実させるために「他者に伝えるべきこと」を同学年で深め、共有することで、発達段階が異なる異学年にわかりやすく、正確に伝えることができるという仮説のもと、そのツールとしてICTが位置づけられているという点に、同校の実践の特徴があります。

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 こうした実践の成果について、「立ち幅跳び」に関わる学習における5年生と3、4年生の記述内容を比較・検討することで、5年生から3、4年生に対して各部位の動きのポイントがほぼ正確に伝わっているという成果を導き出しています。このような分析方法は、異学年での学び合いに取り組む同校ならではのものであり、そうした点にも工夫が確認されます。

 さらに、同校の報告書では、現状においては「限定的なICT活用」にとどまらざるを得ないという状況をふまえた上で、その中で何ができるのかという点について検討することを研究の視点として据えています。そして、そうした状況であったからこそ、1つのタブレットを用いながら、異学年の児童同士が双方にとって意味のある対話を繰り広げることができたと結論づけています。つまり、同校と同じように、ICTの整備が十分ではない学校にとっても参考になる情報が示されており、研究内容の適用可能性が高い報告書に仕上がっていると考えられます。

お茶の水女子大学附属中学校(東京都)
研究課題 評価者 報告書
学びの自覚化と共有を引き出す授業デザインの研究
~学習者のメタ認知を促す、ウェアラブルカメラとデジタルポートフォリオの活用を通して~
東京学芸大学 北澤 武 准教授 報告書(PDF)
講評

 お茶の水女子大学附属中学校の実践研究では、生徒にウェアラブルカメラを装着し、様々な教科のパフォーマンス課題に対して、学習者がどのような解決プロセスを行っているかをデジタルポートフォリオとして記録しました。そして、生徒が記録した自身の動画をメタ的に振り返りながら、思考の整理を行う授業実践を行いました。本実践研究では、自分の学習過程をビデオで撮影した後、改めて自身の動画を振り返りながら確認するという試みは、メタ認知を促すICTの効果的な活用法の一つであることを明らかにしました。さらに、生徒の学習履歴をデジタルポートフォリオにどのように保存し、活用すべきかについて示唆を与えました。本実践研究の取り組みや知見は独創性が高く、評価のポイントとなりました。

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 報告書には、代表的な実践として、家庭科の調理実習の過程をウェアラブルカメラで記録し、どのような調理の手順で行ったかを動画で振り返る活動が紹介されていました。また、下級生を意識した授業実践を行うことで、自分たちが取り組んできた内容を下級生に対して分かりやすい伝え方を考え、これまで蓄積されたデジタルポートフォリオの成果物を活かしながら、下級生に対するレシピを作成するようになることが報告されています。家庭科以外でも、国語科、社会科、英語科、保健体育科での授業実践について、動画による自身のメタ的な振り返りや、他者との対話のためにデジタルポートフォリオを活用する具体的な授業実践が報告されています。これらの実践報告から、同級生や下級生など、他者に伝えるという表現活動のためにデジタルポートフォリオを活用するという試みによって、生徒の学習意欲を高め、かつ、思考力・判断力・表現力等の向上に繋がることが理解できます。

 今後、より高機能なウェアラブルカメラが普及するとともに、教育現場におけるデジタルポートフォリオの在り方が重視されてきます。引き続き、お茶の水女子大学附属中学校で、より多くの教科・単元で実践が行われ、他校の参考となる実践事例が蓄積、報告なされることを期待しています。

各務原地域特別支援教育推進部会(岐阜県)
研究課題 評価者 報告書
境界線・不登校生徒の学力を伸ばす方法
~客観検査と医療連携を活用して~
東京学芸大学 北澤 武 准教授 報告書(PDF)
講評

 各務原地域特別支援教育推進部会の実践研究では、中学校を対象に、障害やその傾向があるとは判断されにくい境界線にある生徒や不登校生徒を対象に、医療連携を図りながらICTを活用して学びを支援していく報告がなされました。まず、生徒の実態を把握したいが、医療機関でないと客観検査が受けられないという課題を解決するために、教員が初級専門研修を受けるなどして、校内でWISC-IV(知能検査)とKABC-II(認知検査と習得検査)の実施を可能としました。そして、報告書には、医療を取り込んだ組織的な個別支援を行うための手続きが、時系列で紹介に記されています。本研究で対象とした生徒や研究目的、そして、組織的な体制を整えるための教員の努力や詳細な手続きの記述が、高い評価を得ました。

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 本実践研究では、代表的な実践として、中学2年生の不登校の生徒について報告がなされています。不登校生徒は保護者の同意のもと客観検査を実施し、WISC-IV(知能検査)では知能は通常の下位、KABC-IIでは習得度の「ことばの書き」「計算」「なぞなぞ」が境界線レベルであると診断されました。そして、学校と連携する医師との受診を勧め、受診結果から、「限局性学習障害」と「自閉症スペクトラムの疑い」の診断が出されました。これらの診断結果から、「書き」と「計算」、「コミュニケーション」に対する支援が必要であることが明らかになりました。そこで、学校と家庭のICT環境を整え、当該の生徒と通級担当、担任がお互いの都合の良い時間にメールやTV電話を用いて、日常的なコミュニケーションをとるようになりました。

 以上のように、教員が客観検査に基づく根拠を理解しながら、医療と適切に連携し、ICTを活用して生徒の学習支援を行っていく実践が丁寧に報告されており、他校の参考になる報告書です。時間がかかる取り組みですが、今後、一人でも多くの不登校の生徒を支援する実践がなされ、同様な実践が全国に展開されることを期待しています。

神奈川県立麻生総合高等学校(神奈川県)
研究課題 評価者 報告書
目指せ! 次世代のドローン操縦士
~ドローン操縦士育成プログラムの確立に向けた授業改善~
長崎大学 瀬戸崎 典夫 准教授 報告書(PDF)
講評

 麻生総合高等学校では、ドローン操縦士の発掘および、育成を本格化し、空撮・農業・測量といった専門的な分野への活用に向けた研究が実践されています。本報告書では、具体的な経費の利用方法に加えて、ドローン活用講座における開講日程と飛行場所や、悪天候時の実践等に対する具体的な課題解決の過程ついて記述されており、他校にとって参考になる実践です。

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 代表的な実践として挙げられているドローン活用講座では、シミュレータとトイドローンの長所と短所を簡潔な表にまとめており、読者にも分かりやすいように選定理由が示されています。また、講座の内容がシミュレータ体験や飛行訓練等の演習だけに偏るのではなく、 ドローン運用上の注意点についての座学を導入しています。したがって、座学を導入することにより、ドローン操作の修得だけではなく、飛行空域や飛行許可についての法規についても学べる有効な講座を実践できたと言えます。

 また、ドローン操作時の事故についても真摯に受け止めており、接触や墜落等の事故発生状況や原因について、明確に示されています。実践を進める上でのトラブルを丁寧にまとめ、省察することで自身の研究を推進している点なども評価できます。

神奈川県立中原養護学校(神奈川県)
研究課題 評価者 報告書
重度・重複障害児への視線入力装置を活用したコミュニケーション支援
~ICTを活用した実態把握と教員の係わり方の変化~
国立教育政策研究所 福本 徹 総括研究官 報告書(PDF)
講評

 近年のICT・AT(アシスティブ・テクノロジー)の進化に伴い、重度・重複障害児の意思表出やコミュニケーションを支援する機器や技術の活用が広がっています。ATの一つである視線入力装置についても、近年では比較的安価に(ソフトウエアとともに)購入できるようになってきましたが、これらを活用した実践研究はまだ十分ではありません。そこで、本実践では,重度・重複障害児を対象にした視線入力装置を活用した意思表示を促す指導やその効果について検証をおこなっております。

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 具体的には、視線入力装置を活用することで重度・重複障害児の意思表示が促進される、教員にとっては重度・重複障害児の見え方や内言語を把握できる、教員と児童生徒のコミュニケーションの質・量が深まる、という仮説の下、事例生徒(中学部1年生)を対象にして、丁寧な実践を積み重ねてきました。実践にあたっては、初期には自立活動教諭の同席の下で姿勢の調整を行い、また、教員の発問・生徒の回答・教員の気づきとともに視線入力装置のログといった丁寧な記録を示していて、生徒の学習活動が視線入力装置によってどのように広がりを見せたかがわかります。そして、研究の成果について、成果報告会を行い、実践の有効性を検証するとともに他校への展開を志向しています。今回の実践紹介では事例生徒は1名でしたが、他の生徒への適用可能性についても検討が望まれます。

新しい機器の可能性を探るべく実践を行い、その記録をていねいに取って残すことで、今後の実践への期待を感じさせる研究です。