授業報告
授業者:杉本喜孝・前原陽一
7月18日(木)に、国語と英語のコラボレーション授業を行った。京都工芸繊維大学の坪田康准教授にご助言とタブレットの貸与を受けたことで授業の実施をすることができた。
今回の授業の目的は「日本語と英語の音声について科学的に分析しよう」というものである。日本語は基本的に子音と母音の組み合わせで発音を行っているが、日常生活においてその点が意識されることはない。また英語は発音記号も明示されているため、日本語に比べれば発音を意識する機会は多いと言えるが、発音に気を取られているためか英語独特の強弱アクセントへの意識はやや弱いということができるのではないだろうか。
今回は音声レベルで日本語と英語に触れながら科学的に分析することを目標とするが、引いては発音やイントネーション、アクセントといったものについて自覚的になることも狙いとしたい。
ツールとしてはタブレットの逆再生アプリを使用する。逆再生アプリを使用すれば、音声(子音と母音の組み合わせ)について理解を深めることが可能である。例えば「まえはら」と機器に音声入力し、それを逆再生すると「らはえま」とは聞こえない。一度ローマ字として処理(maehara)し、それを逆再生した音声になる(araheam)のである。よって、アプリには「アラヘアム」と入力すれば、逆再生をした際に「まえはら」と聞こえる音声を獲得できる。
しかし、いくつかの例外がある。それを以下に列挙していく。
- 1.「にゃ(nya)」「にゅ(nyu)」「にょ(nyo)」などの拗音を含む文節の場合、子音の連続のため通常は発音できないが、半母音である「y」を「い」と発音することで逆再生が可能になる。「y」が半母音であることが良くわかる現象であり、同様の現象は「w」にもみられる。
- 2.助詞の「は」は、表記通りの「ha」という音声ではなく、「wa」というかたちで録音しなければならない。これはハ行転呼と言われる現象で、平安時代ごろから日本語にあった現象である。
- 3.「sokuhou(速報)」を逆再生した場合に「そくふぉう」と聞こえてしまう。これは逆録音する際に「uohukos」と入れるつもりが、中央の「h」を「f」として発音してしまうために起こっている。これを防ぐためには意識的に「f」ではなく「h」の発音をする必要がある。
- 4.「shi」の音声のうち「h」の音声は逆再生をした場合に拾い上げることができないため、「h」を含まない「すぃ」のような音になってしまう。この現象は「tsu」にもみられる。この3と4の現象は、ヘボン式のローマ字がいかに発音に忠実かを示す現象であるといえる。
これらの日本語の特徴を踏まえたうえで、授業の後半では英語の音声を録音し、英語科教員に質問をすることにした。まずは英語でも同じことが可能かという問いかけをし、生徒に考えさせる時間を取った。およそ三分の一の生徒が「できると思う」と答え、三分の二の生徒が「できないと思う」と回答した。それぞれの根拠は、「英語にも発音記号があるし、それ通りに逆の音声を録音したらできるはずだから」「確かに発音記号はあるが、日本語よりも発音が複雑で録音できないと思うから」と説得力のあるものであった。活動を行い、実際に英語科教諭に質問をしたところ、8つの班のうち5つで質問と応答が成り立ち、3つの班では失敗した。応答が成り立った班の質問も「Who are you?」のような単純なものが多く、質問が長くなれば理解しにくいという状態であった。
その結果を踏まえ、日本語と英語の音声的な違いについて言及した。それが以下の表である。
日本語 | 英語 | |
音節 | 基本は開音節(母音で終わる) ウォーク(woːku) |
基本は閉音節(子音で終わる) walk (wɔːk) |
母音の数 | 5 | 約26 |
子音 | 子音1+母音1が多い | 子音の連続も多い |
アクセント | 高低 | 強弱 |
授業後のアンケート結果も、生徒の学びの深まりや興味関心の高まりを示すものであった。以下アンケートからの抜粋である。尚、( )内は前原による補足である。
- ・イントネーションやスピードだけで全然違ってくることが分かった。
- ・子音だけになったときにどう発音するか悩んだ。
- ・人が音を感じ取って発する仕組みのすごさがわかった。
- ・日本語の時に子音が変化すること。(h→f、h→w)
- ・「r」の音や「n」を逆再生したときはどうなるのか知りたい。
- ・発音記号をもっとうまく使う方法は何か。
- ・他の言語でも可能なのか。
- ・強弱の調整や音の高低の調整が難しい。
- ・英語の方が難しかった。
- ・発音記号をそのまま読んでもいまいち。(忠実に発音できない)
- ・聞いた音声のまねをする方がうまくいった。
- ・「wa」ではなく「ha」を使ったらどうなっていたのか。
- ・英語で回文はつくることができるのか。(音声レベルで)
- ・「国宝」の発音が分からなかった。(破裂音kを含むため)
日本語と英語の違いについて、知識的なものだけではなく音声レベルで実感することができたため、貴重な時間になった。以下は指導案と、実際の活動の場面の写真である。
- 1 対象 2年A組40名
- 2 日時 令和元年度7月18日(木)
- 3 場所 121、122教室
- 4 単元名 「国語と英語を科学する!? 逆再生による分析」
- 5 単元についての詳細
○冒頭で確認したため説明を省く。 - 6 目標
○日本語の発音が子音と母音の組み合わせであることを確認し、日本語と英語の音声的な違いを理解する。 - 7 評価規準
○積極的に話し合いを行い、学習活動に取り組めたか。(観察)
○日本語の発音、英語の発音について理解を深められたか。(アンケート) - 8 本時の展開
過程 | 指導内容 | 学習活動 | 指導上の留意点 | 評価規準 |
---|---|---|---|---|
【第一時】 | ||||
導入 10分 |
・日本語の音声について | ・教員のデモンストレーションを聞き、授業の見通しを持つ。 |
・日本語が子音と母音の組み合わせであることを確認する。 ・教員自身が逆再生アプリを使用して確認していく。 |
・観察 |
展開1 25分 |
・逆再生の音声を用いることで日本語の音声的な理解を深める。 | ・逆再生を行いながら、文章の違和感に気付く。 |
・お題を提示する。 1.ありがとうございます。 2.醍醐寺は国宝だ。(hとf、ハ行転呼) 3.ニュースをお伝えします。(拗音、shi) |
|
展開2 10分 |
・逆生成をするとおかしくなってしまう部分をどのように解決したかを発表させ、共有する。 | ・お題の文章についておかしくなってしまう部分を修正し、その方法を発表する。 |
2つめのお題ではhとf、ハ行転呼について、3つめのお題では拗音、shiについて触れる。 ・できるだけ生徒から発音の工夫を引き出させる。 |
・観察 |
【第二時】 | ||||
過程 | 指導内容 | 学習活動 | 指導上の留意点 | 評価規準 |
導入 5分 |
・考えた内容を発表させる。 | ・英語でも同じことが可能かどうか、発音記号のプリントを参考にしながら考える。 |
・質問で使用するであろう単語の発音記号集(プリント)を配布し、英語でも逆再生でコミュニケーションを行うことができるか考えさせる。 ・両方の立場からの意見を吸い上げるようにする。 |
・観察 |
展開 25分 |
・第一時と同じく逆再生の活動に取り組ませる。 |
・英語の逆再生質問の作成に取り組む。 ・完成した質問は保存しておく。 |
・言語はコミュニケーションツールであることを踏まえ、「人に文章として意味が伝わるかどうか」を判断基準とすることを必ず伝える。 | ・観察 |
まとめ 10分 |
・日本語の発音が子音と母音の組み合わせであることを確認し、日本語と英語の音声的な違いを理解する。 |
・教員の話を聞く。 ・振り返りのアンケートを記入する。 |
・クラス全体の場で、記録した音声を英語教員に聞いてもらう。 ・日本語が開音節(母音で終わる言語)であることや、英語が閉音節(子音で終わる言語)であることを説明する。 |
・アンケート |