大阪市立新巽中学校

第45回特別研究指定校

研究課題

アダプティブ・ラーニングを地盤とした21世紀スキルとESD教育の推進
~全生徒を全教員で見守り、自己実現を可能にするICTとAIの効果的な活用~

2020年度01-03月期(最新活動報告)

最新活動報告
本期間は主に実践と振り返りの時間となった。パフォーマンス課題の実践においては......

アドバイザーコメント

寺嶋浩介先生
前回のアドバイスで,私は以下の2点をとりあげた。......

大阪市立新巽中学校の研究課題に関する内容

都道府県 学校 大阪府 大阪市立新巽中学校
アドバイザー 寺嶋 浩介 大阪教育大学 准教授
研究テーマ アダプティブ・ラーニングを地盤とした21世紀スキルとESD教育の推進
~全生徒を全教員で見守り、自己実現を可能にするICTとAIの効果的な活用~
目的 不登校生徒や特別支援学級など、環境が異なる全ての生徒たちに対して「個」に適した学力向上の手立ての仕組みを提案する。
定期テストを廃止し、単元テストと実力テストにすることで、個のできる、できないをより明確に見える化を図る。
PBL型学習を実践し、本校で定めたコンピテンシーを深め、生徒・教師双方向の“目指す生徒像”を確立する。
現状と課題
  • タテ持ち型編成、複数担任制を導入し、「すべての生徒を全教員で見守る」仕組みはある。
  • 普通教室のホワイトボード化、プロジェクタ据え付け、書画カメラの常設、WiFiといった基本的な整備は整っている。
  • 一斉画一的な学習指導から個に応じた支援や、学び方についての視点の共通認識が低いまま進んでいる。
  • できる、できないを明らかにした後の生徒への支援の手立てが整っていない。
  • 保護者が定期テストの在り方が変わることに対して不安な面を持っている。
  • 学力調査において低学力層の生徒が多い。
  • 全国平均や府平均から5ポイント以上下回っている教科がある。
  • 大阪市全体でも学力に関しては下位に位置している。
学校情報化の現状 機器等の使用に生徒・教師共に、慣れてきている。手段としてのICT活用に向けて実践例を共有・深化することが必要。
取り組み内容 1年目
  • 単元テスト実施を円滑に進め、生徒・教師・保護者にとってよりよい取り組みとして評価できる仕組みをつくる。
  • 個に応じた学習環境づくりとして、「みんなの学習クラブ」を導入する。
  • 学び方に重点をおき、学習方法のフレームワークを共有する。
  • PBL型の学習チームを編成し、学年の枠を越えて推進する。また、企業と連携して本校の特色にあった探究プログラムの仕組みを構築する。
2年目
  • 個に応じた学習支援を進め、Qubena(数学)といった学習教材の環境をつくる。
  • 別室や家庭と教室を通信機器でつなぐ。
  • 映像教材を学校で作成、共有し、学び直し等の手立てとして活用する。
成果目標
  • 単元テストによって、生徒は学び直しの機会やできないところにより焦点をあてて学習をすることができる。
  • 単元テストによって教師は教科の評価方法を改善する仕組みとなる。
  • 生徒は自らの課題に応じて必要な学習の手立てを考え、選択するようになる。教師も課題を明らかにし、コーチングの視点の向上につながる。
  • PBL型学習の推進に伴い、生徒はもちろん、教師も探究的なストーリーを描きながら授業をつくる力が深まる。これにより、学校経営においても同様に、課題解決の視点をもった教員集団が形成される。
  • 生徒が望めば自主的に学ぶ仕組みを整えることで、与えられたことをこなす学習の習慣から、自己責任で学習する習慣へ変容する。
助成金の使途 iPad 9.7インチ、iPad Smart Cover、プリンター、紙・インク・トナー代、旅費、講師謝金他
研究代表者 山本 昌平
研究指定期間 2019年度~2020年度
学校HP http://swa.city-osaka.ed.jp/swas/index.php?id=j672488
公開研究会の予定 令和2年2月22日(金)

本期間(4月~7月)の取り組み内容

この期間で実施した主な取り組みは大きく5つある。以下、それぞれの項目で報告する。

1)研究の方向性の共有とチーム編成

  • ・学校長をはじめ、教職員の入れ替わりが行われたこともあり、研究概要と取り組みの方向性を再確認し、今後の本校の目指す環境整備を明らかにした。<表1>はこれまでの取り組みの経緯をまとめたものである。また、<表2>は今後の整備によって創っていきたい本校の学習環境をまとめたものである。
  • <教員のグループワークの様子>

    ・4月3日に行った新年度会議では研究担当より、研究の概要の説明と、学校の課題を改善するグループワークを実施した。ICT活用、授業改善、設備面、情報共有のインフラなど多様な課題が明らかになり、まなボードを用いてまとめ、研究を通じて解消を図る内容を確認した。
  • ・4月中旬に本研究を推進するにあたって3つのチームを編成した。
    1. チーム学び方改善:すべての個に応じて(生徒も教師も)誰も取り残さない学習の仕組みをつくる
    2. チームPBL:探究的な学習を企業や社会と「継続的」に実施し、持続可能な探究的学習の仕組みをつくる
    3. チームインフラ:本校のすべての実践が、テクノロジーを土台として、その上に教育環境を再構築する仕組みとなるような環境整備をする

<表1> 〜学校改善の取り組み〜

<表2> 〜形にしたい学習環境〜

2)学び方や評価方法改善の手段として定期テストを廃止 → 単元テストへの移行

  • ・4月から本校は慣例化された定期テストを廃止し、単元テストへ移行した。個人の意識や手法に偏ることなく、全教員が当事者意識を強く持ちながら協働し、学び方や評価方法を改善する仕組みを整えるためである。教育効果を向上させる目的としては以下の3点が挙げられる。また、定着度や相対的な力を図ることを目的として到達度確認テスト(実力テスト)も学期に1回程度実施することとした。
    1. ①生徒、教師双方向にとって生徒のつまづきや指導の必要な重点を早期発見し、学び方の改善と、授業改善に努めるため
    2. ②相対評価の考え方から絶対評価の考え方に基づいた評価を充実させるため
    3. ③多様性ある生徒に対して、スモールステップで学習を積み重ねる環境を整え、再チャレンジ(学び直し)が可能な仕組みを整えるため

<単元テスト実施の様子>

<到達度確認テスト作成研修>

3)タブレット型学習教材の導入と、ICT活用研修

  • ・大阪市教育委員会から7月よりタブレットドリル(東京書籍)が導入された。すでに生徒への講習会は終わり、ネット環境が整っていれば、学校以外でも使用することができる。使用目的を以下の3点に焦点をあて、効果的な活用事例をつくる。
    1. ①放課後学習会や家庭学習での自学自習を推進するための手段として
    2. ②授業における個別最適化された学びを推進するための手段として
    3. ③単元テスト作成機能とし、自動採点化のシステムを構築するための手段として
  • ・googleフォームなども活用しながらアンケートやテスト作成の効率化を図る。

<タブレットドリルを使った数学の授業の様子>

4)全学年でのPBL型の学習プログラムの実践

  • ・社会とのつながりを持って継続的に探究的な学習者を育成するために、全学年でPBL型の学習実践を始めた。
    3年生:「しんたつ、つなぐプロジェクト」
    2年生:「Future Actions」
    1年生:「しんたつ、Jr.highつく〜るプロジェクト」
    と題し、非認知スキルや情報活用能力の育成を目的としている。2年生は『キャリア教育×グローバル教育』を主幹にすえ、マレーシアで学ぶ学生とのスカイプ交流やビデオレター、メッセージカードでの交流を行った。

<マレーシアとスカイプ交流の様子>

5)先進校視察等の充実

  • ・この期間で自主研修を含め、述べ15名の教員が視察等に行くことができた。
    1. ①株式会社COMPASSのQubena活用セミナー *5月25日 1名
    2. ②大妻中学高等学校視察 *5月31日 2名
    3. ③福井大学教育学部附属義務教育学校視察(音・保体・技)*6月7、21日 3名
    4. ④New education EXPO 2019 *6月15日 2名
    5. ⑤G Suite活用セミナー *6月22、23日 1名
    6. ⑥国際協力連続セミナー in JICA関西 *6月24日 3名
    7. ⑦千代田区立麹町中学校との交流 *6月28日 1名
  • ・大阪大学「学校づくり研究会」での発表 2名
    大阪大学の志水幸宏教授が主催する研究会で本校の取り組み実践を報告することができた。

アドバイザーの助言と助言への対応

テスト範囲、実施時間、一日のテスト量、精神的な落ち着き感、採点業務の増加など、方法的な改善策を講じる必要があることをご指摘いただいた。目的から手段を再整理し、運用可能な仕組みを整えるために以下の視点で整理いただき、その視点に基づき、2学期からの運用方法を共有し、改善計画をつくることができた。改善策は以下>>で示す。

  • ①単元テストを実施する目的を再定義すること
    >>「学び方の改善と授業改善」、「絶対評価の方法の充実」、「再チャレンジの機会の提供」の3点で再定義した。
  • ②単元テスト実施における問題点の整理と持続可能な取り組みにするための視点
    >>再定義した目的に沿ってテストルールの緩和案を作成した。
  • ③形成的評価と総括的評価のバランスの調和
    >>ペーパーテストで評価できること、ペーパーテストでなくても評価できること、そもそも教科を通じて身につけたい力とは何か?を全教員が当事者意識を持って見つめ直し、教科単位で改善策を講じた。

本期間の裏話

  • ・生徒たちも教師も新しいことや大きな変化を強いられることは文字通り、「大変」である。そんな中、与えられた環境の中で、いかによりよく学ぶか、よりよい仕組みを構築するか、この視点で双方ともに課題解決をしてくれた。アンケートを実施したが、「家庭学習の量が増えた」、「成績が上がった」と実感し、懇談時に肯定的な意見が寄せられたことに何よりも安堵した。というのも、「本当に意味があるのか?」、「目的を達成する仕組みとして機能してるのか?」と不安になるときも多く、前進しているのかどうか行き先不透明な時期があったからだ。もちろん改善すべき点も多く出たが、生みの苦しみを生徒と教師で共有し、改善することができたことは素敵なことあり、非常に喜ばしいことと感じた。
  • ・テクノロジーを基盤とした学校づくりの推進には、やはり情報セキュリティの視点というジレンマがあること。大阪市はイントラネットでネットワークを構築しているため、教育委員会とも方向性を共有し、「いつでもどこでも」学習の手立てが取れる環境整備を進めることができるかが課題である。

本期間の成果

  • ・単元テストをただ「定期テストの細切れテスト」のような認識で進めると非常に多くの課題が出ることがわかったこと。
  • ・生徒にとってはテストが続き、休みなく不安定な状況をつくり、教師にとっては採点作業やテスト作成が多くのしかかるということがわかったこと。
  • ・スモールステップを踏み、必要な教科の力を身につけるための手段としてテストを活用するためには、テストの質(内容や問いの精選、問題の種類など)に着目し、テストで測りたい力を明確に示し、目的に沿った問題作成を行うことが大切であるとわかったこと。
  • ・様々な問題点と向き合いながら進めたが、今後に向けた解決案について合意形成を図ることができたこと。
  • ・単元テストと到達度確認テスト(実力テスト)の両輪で生徒の学力を理解度と定着度の2つの視点で区分けし、総合的に評価する仕組み<表3>をつくることができたこと。
  • ・教員の協働力やチームで推進する力が高まったこと。
  • ・75分授業(6限+25分のモジュールタイム)の実技教科の前向きな活用事例(家・保体)ができたこと。
  • ・教師が学校の慣例に縛られることなく、自由な発想で本校の今の課題解決に向け、イノベーションを起こすことができるようになったこと。

<表3>

到達度テストと評定の関係(3年英語)

今後の課題

  • ・各教科の単元テストの質の変容
  • ・75分授業(6限+25分のモジュールタイム)のより良い活用方法の模索
  • ・タブレットドリルやgoogleフォームを活用した自動採点化システムの構築
  • ・個別最適化された学びを充実させるための授業改善
  • ・持続可能な運用による、自学自習を推進する環境づくり
  • ・デジタル教材を用いたテスト実施におけるルール作成とトラブル対応マニュアルの作成
  • ・テスト結果の通知方法や自己の課題を分析をしやすい資料の改善

今後の計画

  • ・7月22日〜26日 校内ICTスキルアップ研修会
  • ・9月3日 大阪市5B研究会(音楽)PBL型の学習実践
  • ・11月22日 公開授業
  • ・2月21日 校内研究発表会

気付き・学び

単元テストに移行することで「ペーパーテストで問うことができる力とは何か?」や「何のためにテストをするのか?」について考える機会となった。実際ほぼすべての学校がテストの点数によって評価を行い、評価材料としている。もちろん本校も然りである。しかし、そもそもテストの目的は何かと考えた時に、「評価をするためにテストをするのか」、それとも「教科を通じて身につけたい力を育むためにテストをするのか」どちらが優先されるべき目的なのであろうか。学校の目的が「社会に出て必要な力を身につけること」であるのであれば、テストも生徒を育てるための手段でしかない。実際に社会に出て中学校のテストの成績が何点だったかで評価されることはない。それよりもどんな知識を活用して問題解決するかであったり、0から1を生み出し、創造し、イノベーションを起こすことができる人材が評価され、求められる時代となっている。それならば、テストが生徒を育てるための仕組みとしてより充実したものとなるように変容させたいというのが単元テストへの移行の一番の思いであることに気づくことができた。
どのようにして生徒たちに力を身につけさせるか、単元テストへの移行も本校では学び方の手段でしかない。そんな風に思える実践としていきたい。

成果目標

  1. ・単元テストによって、生徒は学び直しの機会やできないところにより焦点をあてて学習をすることができる。
  2. ・単元テストによって教師は教科の評価方法を改善する仕組みとなる。
  3. ・生徒は自らの課題に応じて必要な学習の手立てを考え、選択するようになる。教師も課題を明らかにし、コーチングの視点の向上につながる。
  4. ・PBL型学習の推進に伴い、生徒はもちろん、教師も探究的なストーリーを描きながら授業をつくる力が深まる。これにより、学校経営においても同様に、課題解決の視点をもった教員集団が形成される。
  5. ・生徒が望めば自主的に学ぶ仕組みを整えることで、与えられたことをこなす学習の習慣から、自ら考え、選択し、行動することができる自律した学習者へと変容する。
  6. ・取り組みによってどんな生徒を育成したいのかを明確にする。また評価の視点をつくり、学校全体で同様の方向性をもって学校運営を推進する。
アドバイザーコメント
寺嶋 浩介 先生
大阪教育大学
准教授 寺嶋 浩介 先生

 「取り組むことが多すぎる」というのが,本校の研究計画についての率直な印象である。実はこれは多くの学校が抱える課題である。4月の助成式においては,他の特別研究指定校やそのアドバイザーの方々もそうおっしゃっていたと記憶している。今でも私の印象については,変わらないところもある。

 ただ,本校での議論を目にしていると,本校が掲げる課題の数々は,これからの時代に求められる「資質・能力」をどのように育成していくかに繋がるのではないかと言う点では共通しているように考えるようにはなった。単元テストを通して確かな評価を行い,学力を向上させる。ICTを活用したアダプティブな学習の場を提供し,基本的な学力を保証する。総合的な学習の時間を中心としたSDGsをテーマとした取り組みにより,思考力・判断力・表現力の育成や,学びに向かう力・人間性等の育成につなげる。

 前回訪問時においては,すでに導入し始めた単元テストを中心に,その意義について議論をしていた。報告書に書かれているような効果があったかどうかについて,本当に教科を越えて多くの先生方が実感されているかどうかは,今後の訪問時に確認をしたい。これらのテーマに取り組まれていく中で,外部に還元できそうな研究成果(とそうではないが,学校の知見としての成果にはなりうるもの)が精査されることを期待したい。それにはまだまだ学校ぐるみでの探究が必要である。

本期間(8月~12月)の取り組み内容

<校内的な取り組みについて>

1.チーム学び方改善

①単元テストの日程調整

2学期から単元テストの実施日を月の行事予定に組み込んだ。これによって、以下の3点に対して効果があった。

  • 1)生徒の学習の見通しがついた
  • 2)保護者へ実施日を明確に伝達できるようになった
  • 3)教師も範囲や予定を調整しやすくなった
②学び直しの手段

再テストを実施する教科を試行した。再テスト用の問題はほぼ同一の内容を出題し、生徒たちのできない点をできるに変える手段として実施した。しかし、全ての教科が実施できたわけではない。そのため、本校の学び直しの手立てとして、以下の方法を実施した。

  • 1)1学期同様、学期末に到達度確認テストを実施した。(範囲は1〜2学期全般)
  • 2)到達度確認テスト一週間前の部活動休止の期間に「フォロータイム」と称して、広範囲に渡る学習のサポートを行った。この際、タブレットドリルやiプリといったデジタル教材を主として自習サポートも行った。

2.チームPBL

①3年生の取り組みについて
1)プロジェクトのテーマの設定と背景

 43期生は3年間PBLを通して学習を進めてきた。文化発表会の発表を集大成として位置づけ、夏休み前から実行委員を募りプロジェクトを進めた。非認知スキルの育成や社会的な課題である自己肯定感の低さを克服させることを目的としてPBLに取り組んできた。

 PBLを行う際に、最も大切にするべきは子どもたちの衝動から発する学びへの思いをいかに生み出すかという点。これを抜きにしたテーマ設定や、PBLの実践には本質的な子どもの学びにつながらない。「なぜ“あなた”はその課題に取り組みたいのか」という子どもたち自身が持った衝動を出発点として、PBLを始める必要がある。そこで教師からの手立てとして夏休み明けより、実行委員のメンバーの内的な衝動を生み出す問いかけを投げ続けた。ここにかなり力を注いだ。その結果、今回の発表で彼らの伝えたい課題意識は、①これまでの自分たちの学びを1.2年生につなぐ②プロジェクトへの思いと意思を1.2年生につなぐ③学校を変えることで社会を変えるの3点であった。彼らはこれらをまとめ「つなぐプロジェクト~ちぇんじtheわぁるど~」というテーマを設定した。この3点を目的として彼ら自身が当日の発表を作り上げた。

2)働き方への提案

 教師側の手立てとしてこだわったもう一つの点は、今後の社会での働き方を意識したPBLの実践である。①自分のしたいこと・できることを通して仕事を作り、仲間を集めさせること。Keynoteチーム・ムービーチーム・ものづくりチーム・アシスタントチーム・表現チーム等にグループが形成された。②その日々の取り組みを同じ一つの部屋・フロアで行うこと。この2点によって子どもたちは対話を通して、多くの衝突を乗り越えながら発表を作り上げていった。“自分のしたいこと”よりも”発表の目的“を考えるときに何を選択すべきかという問いをお互いに投げ掛け合う対話が至るところで見られた。ここでの子どもたちの葛藤の答えとして、目的を最上位に置いた選択を全員でしていった点には大きな学びがあった。

3)ICT機器の活用

 子どもたちからムービー作成やKeynoteでの発表がしたいという申し出があり、テクノロジーを活用した発表となった。ムービー作成に関しては、写真を使ったスライドショーやMVのような映像を作り上げていった。デジタルネイティブである彼らにとっては、テクノロジーの活用やタイピングの能力は必要なリテラシーとなる。そして、自分たちで作りたいという思いをもっての作成であるため、どうすればより良くなるかを彼ら自身で探究し作成していった。ICTの活用の“手段の目的化”は多く見られるが、このようにPBLの目的の達成のためのICTの活用は非常の価値のあるものであった。

4)発表直前の大転換

 文化発表会に近づくにつれて、発表はある程度形になっていった。しかし、発表直前に2年生と発表の方法がほぼ同じだということが発覚し、2週間前に発表を考え直さなければならない状況になった。この問題に気づいた際、教員団ではこれを伝えるべきか否かを協議したが、子どもたちを信じて委ねる選択をした。その結果、子どもたちは2週間前にもかかわらず、発表を作り直す選択をした。そこで彼らは、発表を発表者からの一方向ではなく、観賞者を巻き込んだインタラクティブな発表へと転換させた。この選択をできたことこそが、目的を意識した選択をPBLを通して学んできた成果である。発表当日は、舞台上でのチャレンジを通して、鑑賞者が応援し共感しあい、ラストには体育館全体が総立ちとなり、1.2年生のみならず保護者、教員まで全てを巻き込んだ発表となった。

②1・2年合同探究プロジェクト

 Glocalをテーマに、まずは自分たちができる身近なところから進めようという主旨の元、12月からPBL型学習の後半戦がスタートした。生野区をフィールドとして、生野区の「今」と「未来」を発信・提言するものである。生野区役所へ突撃訪問、街角インタビューといった取り組みを懇談期間という時間を有効活用し実施している。また、情報提供を2年が1年に行うなど、タテのつながりも自分たちでつなぎながら実践している。

3.チームインフラ

①iプリの導入

 2学期からiプリの導入を行った。生徒たちが「自ら選択する」活動の一手として、また、副教材をやめた学習教材の保証という2つの視点から実施している。テスト前の学習時間やフォロー的な学習、授業中での学習といった場面で活用している。放課後学習会に参加すれば、毎日、いつでも自分の必要がドリルを手に入れ、自分の課題に沿った学習教材を手にすることができるような環境を整えることができた。

②マークシート採点やアンケート業務

 マークシートシステムが完成し、社会などの一問一答式のテストについてはマークシートで単元テストを実施することができた。単元テストの採点業務の緩和に一役買っている。また、生徒たちの資質・能力の育成の成果指標を図るためにアンケート評価を実施するが、そのような際に有効な手立てとすることができた。

4.校内研修・外部研修

①夏休み、ちょこっと研修会研修に関して

 夏休み中に教員対象のICTに関するちょこっと研修を実施した。目的は、教員のICTスキルの向上。平時の授業期間には時間を取りにくく、ICTに関する研修を実施できていない現状があった。そのため、夏季休業中にちょこっとの時間で興味のある教員が集まり、学び合いを行った。内容は以下である。

②エクセル研修

 エクセルでの業務が増えているが、基礎講座を実施した。成績算出で活用される場面が多いため、その際に活用の多い計算機能を学んだ。

③ワード研修

 ワードは授業プリントから学級通信等、様々な場面で活用されている。その際のショートカットキーの解説や、文章の体裁を整える際のポイントを共有した。

④G Suite研修(フォーム)

 大阪市では、Googleの個人IDを使用したG Suiteは活用できない。しかし、フォームであればID無しにアンケートを集めることは可能なため、生徒用のタブレットでの活用を考え実施した。

<校外的な発表、研修について>

  • ・Hero Makers 「未来の先生」へ至るEMBA型共創プログラム(教師1名)(8/20〜8/22)
  • ・Apple心斎橋field trip研修(10/4)
  • ・第45回 全日本教育工学研究協議会 全国大会にてPBL型実践の報告(10/18〜10/19)
  • ・第66回教育研究会大阪教育大学附属天王寺中学校高等学校へ参加(教師1名)(11/9)
  • ・教育実践学フォーラム参加(教師1名)(11/10)
  • ・セサミストリートエデュケーションサミットin大阪(教師3名)(11/10)
  • ・公開授業・研究協議(11/22)(全教員)
  • ・Ed camp NANIWA参加(教師1名、生徒1名)(11/23)
  • ・mini WAKZO pavilion参加(11/24)
  • ・教育実践学フォーラム参加(教師1名)(12/8)
  • ・GEG Sakaiにて実践報告(12/15)
  • ・第一回大阪市教育フォーラムにて実践報告(12/26)
  • ・Apple teacher取得(教師2名)
  • ・Google Certified Educator Level 1取得(教師1名)

アドバイザーの助言と助言への対応

前回の訪問時に、「テストで問える力には限界がある」という指摘をいただき、校内で共有するための手段としてワークショップを行った。その際に学校内で「学力とは何か」について議論したところ、大きく3要素に分類できるのではないかという議論に至った。また、これらを図る上で効果的な評価方法もそれぞれあるということに至った。それは下記の3つである。

  • 1)学んだ力(主に知識・技能)
    *ペーパーテストで測ることができ、特に反復させると効果が高いもの
  • 2)学びを活かす力(主に思考力・判断力)
    *ペーパーテストだけでなくパフォーマンステストやルーブリック評価も効果あり
  • 3)学びを活かそうとする力(主に主体性)
    *リフレクションシート、観察、目標設定シート

文部科学省のいう学力の3要素と同等であるが、「これらを育てるためにテストという評価方法がどれだけ有効か?」という疑問に向き合うきっかけとなった。もちろん、学力を数値化し、知識量を測る行為も大切である。その良さを踏まえた上で、それだけで測ることのできない力の評価方法とはどのようなものがあるか、また、それをみとるにはどんな授業設計が良いのか?という課題に出会うことができた。それを元に11月の公開授業のテーマを「パフォーマンスを評価する授業設計とは?」と設定した。さらに、「単元テストと授業の関連性やペーパーテストとパフォーマンスの評価を公表できれば有意義ではないか?」というアドバイスもいただいた。いづれにしても形成的評価と総括的評価の区分けが学校全体で必要であることをご指摘いただいたと認識している。

本期間の裏話

  • ・PBL型実践の後半戦がスタートし、1、2年生合同のプロジェクトを実施した。一般的には学年合同で実施することについては一定の不安もあるものだと推測するが、タテ持ち型実践をしている本校の強みだと感じた。
  • ・VUCAの時代に突入し、過去の経験に依存するのではなく、柔軟に学び続ける人が価値を生み出し、また計画に時間をかけすぎることよりも、ある種の計画的な無計画の中でまず行動することが、価値を見出す時代へと変容している。そんな中、2年生は生野区をよりよくするための提言を行う上で、「生野区の課題とは何だろう?」という問いに直面した。そんな中、自分たちだけの憶測や少ない情報だけを頼りにプロジェクトを推進しても何の価値も生まないのではという疑問が生まれた。そこで、生徒たちは区役所へ足を運び、地域の相談窓口へ向かっていた。その中で職場体験でお世話になった縁もあり、まちづくり課の担当までつないでいただき、たくさんの情報を得ることができた。もちろん、同じ行政機関として連携を取ることが必須であるが、課題設定をする中で、生徒たちが主体的に情報を集めようとする姿はプロジェクト型学習の良さだと感じることができた。
  • ・自主的に外部へ学びにいく教員が増えてきた。
  • ・生徒たちが知識伝達だけの学び方から脱却し、与えられるだけの学習から自ら学ぶ学習へと変容してきた。

本期間の成果

  • ・本期間だけでとは言えないが、学校の目的に沿った議論を重ねる中で無駄をなくし、教師1人で責任を負う仕組みを根本から是正する取り組みを実践してきた成果として、下記のグラフの通り、学力の向上、それと自己効力感の向上が顕著に見られた。これはPBL型授業を3年間実践した3年生のデータとなる。

*本校の取り組みの具体例

複数担任制、タテ持ち型編成、カリキュラムの是正、PBL型実践、副教材の撤廃、単元テストの導入など

今後の課題

  • 1)形成的評価と総括的評価の区分の明確化・校内での共有
  • 2)非認知的スキルの可視化・エビデンス評価
  • 3)学び直しの手立てとしての単元テストの効果的な評価方法のあり方
  • 4)ファシリテーションスキル、ジェネレーター(伴走者)としてのスキルの向上

今後の計画

  • ・1、2年合同「地域活性化」プロジェクト(生野区の「今」と「未来」を照らせ!)(12〜3月)
  • ・広東省東華初級中学との交流(2月6日)
  • ・学習発表会(2月末)

気付き・学び

 「結局、評価って何?」この問いに対し、この5ヶ月向き合い続ける日々となったが、その中で評価と評定の目的について考えてみた。評価することの最上位の目的は「生徒の現状を共有し、適切なタイミングに適切なフィードバックをすることで、これからの学びに対して見通しを持たせること」と定義したとする。つまり、「成長」に焦点を当てるということである。これに対し、評定の目的とは一体何なのであろう?例えばグルメサイト等でよく星の数を5段階で表し、平均値で評価している。これがいわゆる評定だと考えたとき、その評定を算出する人々の価値は様々で、味で評価をする人もいれば、接客で評価する人、店の雰囲気や食器、値段で評価する人もいるだろう。多様な価値基準や視点を総合して評定を算出しているのである。ひと目でわかるというメリットもあるが、店側からすると、「どんな視点を好評価してもらえたのか?」「どんな視点の改善が必要なのか」がわからなければ成長へのフィードバックとならない。これを教育に当てはめたとき、「何を持ってその評定となったのか?」ということが学習者に伝わらなければ、成長に対して何の改善の手立てにもならないということである。学期末に評定を確認したところで、その数字から自身のどこに振り返る余地があるのかがわからないままであれば、評定を算出する側も、される側もただ数字が大きければ喜び、低ければ落胆するだけのものでしかないだろう。このような経緯から、成果に価値付けする評定に求められるものと、成長に価値基準をおく評価とは、目的が全く異なるのではと捉えるようになった。そしてこの捉え方を混同してしまうが故に、生徒にとっての成長を優先すべき評価が、成果にのみ注視してしまい、「誰の、何のための評価なのか」に焦点が当たりづらい状況を生み出してしまうのではと考えるようになった。この疑問を取り組みの推進の中で明らかにし、「誰のための、何のための評価・評定なのか?」という問いの最適解を明確にしていきたい。

成果目標

  1. ・単元テストによって、生徒は学び直しの機会やできないところにより焦点をあてて学習をすることができる。
  2. ・単元テストによって教師は教科の評価方法を改善する仕組みとなる。
  3. ・生徒は自らの課題に応じて必要な学習の手立てを考え、選択するようになる。教師も課題を明らかにし、コーチングの視点の向上につながる。
  4. ・PBL型学習の推進に伴い、生徒はもちろん、教師も探究的なストーリーを描きながら授業をつくる力が深まる。これにより、学校経営においても同様に、課題解決の視点をもった教員集団が形成される。
  5. ・生徒が望めば自主的に学ぶ仕組みを整えることで、与えられたことをこなす学習の習慣から、自ら考え、選択し、行動することができる自律した学習者へと変容する。
  6. ・取り組みによってどんな生徒を育成したいのかを明確にする。また評価の視点をつくり、学校全体で同様の方向性をもって学校運営を推進する。
アドバイザーコメント
寺嶋 浩介 先生
大阪教育大学
准教授 寺嶋 浩介 先生

 一言でいうと,「取り組みを整理し,他の学校が分かる状態にする」ということをお願いしたい。今回の報告を見ると,かなり多くのことに取り組まれていることはよく分かる。しかしこのことにより,学校研究として何をやっているのかが不明確になる一つの要因となっている。取り組んでいる本人らはわかっていて,ここまで取り組んでいることに満足しているかもしれない。しかし,学校で行う研究はやはり誰にでもわかるように説明されるべきである。また,他の学校も取り組んでみたいと思え,そのときに参照できるものにならないといけない。

 そのためには,これまで本校が取り組まれたことを整理する必要がある。文部科学省が提示する3つの柱に対し,本校では,評価方法として,次のように取り組んでいるように見える。

1)何を理解しているか、何ができるか<学んだ力>

・ICTの活用によるドリルやマークシート

・単元テスト

2)理解していること、できることをどう使うか<学びを活かす力>

・単元テスト

・授業でのパフォーマンス課題

3)どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか<学ぼうとする力>

・SDGsを目指した取り組みでの発表等

 まずこれを基礎として,これからは語っていただきたい。そして1から3)それぞれについて,以下のことについて説明できるようにしていただきたい。

(a)それぞれ,どのように評価をすることを基本とするのか(上記したようなとらえ方で良いか?)

(b)(a)を意識すると,どのような授業(や授業における学習課題)となるのか

(c) そこに対して,ICTはどのような役割を果たしうるのか(例でよいので)

その中で特に重要だと思うのが,こうした取り組みにおいて,(b)や(c)がこれまでの授業と異なって,どのように改善され,充実できるのかが見どころになると思う。「評価」について議論をするだけではなく,それにより授業や教育方法がどのように充実するのか,具体事例とともに,見せていただきたい。

本期間(1月~3月)の取り組み内容

<校内的な取り組みについて>

1.チーム学び方改善

①テスト校時の見直し

今年度はG20、天皇即位に伴う10連休と、授業時数確保に向けた取り組みとして、放課後にモジュールをつくり、50分×6限+25分で単元テストを実施した。それに伴い、一部テスト勉強を当日に行う者が出てきた。もちろん学習の調整として空き時間等を活用することは推奨するのだが、調整と言い難い場面も目にするようになり、仕組みの面で調整することが必要となった。そのため朝に単元テストを実施する校時に変更し、プレ実施した。次年度は朝実施で45分の授業実施を進めることとした。

<通常校時とテスト校時>

②テストの分類

テストの種類と目的を再整理することとした。次年度へ向けてどのタイミングで何を目的としたテストを実施するのかを検討した。今年度の単元テストの月あたりの実施回数のは6〜7回程度となった。

<年間のテスト実施まとめ>

③パフォーマンス評価の導入

評価に対するフィードバックの根本的な仕組みだけを変えても、実際に身につけたい資質・能力を教科ごとに定義し、その育成を行わなければ意味がない。学んだ力をどのように活用し、その活用に対する評価をするための場面設定(課題設定)を行い、パフォーマンスを通じて評価することが大切だという見解となった。そこで2月27日に逆向き設計に基づいたパフォーマンス課題の研究授業を実施し、評価と課題のあり方について研修を行った。

2.チームPBL

しんたつサミット(1・2年合同学習発表会)を実施した。新型コロナウイルスの影響で来校予定であった地域関係者、区民、教育関係者、計約80名以上の参加はなかったものの、学年を越えて相互に発表し、生野区の魅力について、また生野区をよりよくするための提言を発表し議論しあった。3年生も参加予定であったがインフルエンザの蔓延により、同会場での参加ができなかった。そのため、zoomで会場と教室を繋いだ。サテライト会場では16名の参加があった。

また、大阪府庁へ万博や未来の大阪への提言、区役所との連携等の取り組みもあり、地域・社会へ参画するための取り組みの中で学ぶことができた。区長直々にビデオレターもいただき、地域をよりよくしたいという学びに火をつけることができた。

<3年生とつながるサミット>

<府庁提言プロジェクト>

<リゲッタさん協力のスリッパ>

3.チームインフラ

  • ①リアテンダント導入に向けて大阪市立大和川中学校へ視察を行った。
  • ②コロナ対応に伴うChromebook無料整備を推進中である。

アドバイザーの助言と助言への対応

 12月から計3回程度寺嶋先生の研究室へ伺い、これからの方向性に向けて整理をした。特に取り組みの多い本校の実践に対して整理と焦点化を図っていただいた。その上で今期にいただいたアドバイスは大きく次の2点である。

 1)パフォーマンス評価を実施するための逆向き設計の授業づくり提案

 2)教科指導が本丸であるにも関わらず、授業づくり推進の視点に欠けている点

 これらの助言に対し、今期は「パフォーマンス課題とは?」を校内全体が理解することを目的として、2月20日(木)に寺嶋先生に来校いただき、「思考・判断・表現力(学びを活かす力)の育成について」研修会を実施し、形成的評価や総括的評価といった評価のタイミングやその目的の違いについてご指導いただいた。それを元に次年度各教科で単元や領域でパフォーマンス課題を設定し、教科の目指す生徒像への見取りを行う方向性が生まれた。

本期間の裏話

  • ・新型コロナウイルスにより、校内の行事においては大打撃を受けた。1・2年の学習発表会、中国交流、卒業式という学年ごとの一番の主幹行事に入場制限がかかったことである。今年全学年が初めてプロジェクト学習の実践をし、同じ苦労を共にした経緯があるので、本来であれば、その分交流することの価値は高く、これからの学校を大きく発展させる行事となっていたはずである。この停滞した1ヶ月を抱えて次年度へ進まなければならない。しかしながら、学習発表会はzoomで場所をつなぎ、わずかではあるが交流できた部分もある。中国交流はできなかったものの、株式会社リゲッタさんにご協力いただき、地域の文化に触れる体験をすることができた。卒業式では、YouTubeで式の所作や動きを映像で予習し、当日は練習時間60分という中で、互いに伝達しながら練習を進めることができた。失われた2週間は映像で時をつなぎ、保護者へは開式前に映像で感謝のメッセージを伝え、入場制限がかかった会場はLive配信で100名を越える親族、在校生とつなぐことができた。多くの学生たちが落胆したであろう2月末。しかし、主体的な学びは世界を変える。そう感じさせてくれた中学生がいたことを伝えずにはいられない思いでいる。プロジェクト学習における学びの質を再確認するとともに、それに掛け合わせてICTの本質的な利用が学びを加速させることを目の当たりにした。新しいことを進めることはエネルギーがいる。しかし、それを実行できるだけの生徒と教師の有機的な関わりができたことを確認することができた。
  • ・臨時休校に伴い、「逆境を味方に」を合言葉に以下の研修等を実施した。
      ①zoom研修会の実施
      ②Google for education研修会の実施
      ③Slack研修会の実施
      ③評価に関する研修会
      ④high-tech-highのPBLの取り組み研修会
      ⑤YouTubeにおける反転授業(卒業式予習動画の配信)
      ⑥YouTubeのLive配信(zoom)機能の導入
    これらのことができたのも、会うことが制限される中で何ができるかという問いに向き合う学校の土壌があるからだと感じている。参加者は前向きで、逆境は時に人を育てるということを実感することができた。
  • ・年末にかけて、総合的な学習の時間のあり方、PBL学習を今後ずっと進めるのか、モジュールの実施を続けるのか、職員の打ち合わせ時間をどうするのか、単元テストのルールをどうするのか、情報共有のあり方をどうするのか、今まで進めてきたことに対して一度立ち止まり、見直す時間が設けられた。一定整理され次年度へ進むが、このような議論を進める上で障壁となるものを感じた。それは会議の進め方やあり方である。従来の職員会議は多数決制度で議長等の進行の元、決定してきた。今は学校長の一存で決定する仕組みである。それならばその仕組みに合わせて、会議の目的や方法、メンバーの精選等を検討し、広く意見を出しながら合意形成を図るものにしていくことが必要であると感じた。例えば「教務部になると、生活指導部への意見は専門ではないからできない」や「職員会議の前に主幹メンバーで一度議論をしている内容を、若手が職員会議で意見することなんて無理だ」など、このように捉えている教師や、学校の風潮があることも事実なのではないだろうか。部等を設定し、それぞれが責任を持って進めていくことのメリットももちろんあるが、学校としての最上位の目的がないと、それぞれのセクトで違う方向に行きかねないし、意見を出しづらい環境であることも見受けられた。さらなる組織改善の工夫も必要であることを強く実感した。

本期間の成果

  • ・アナログな仕組み整備についてある一定整理することができた。
  • ・逆向き設計の授業づくりに対して全教員が見通しを持つことができた。

今後の課題

  • ・チーム学び方改善
    →到達度評価に即した学校の教育課程、評価システムの構築
  • ・チームPBL(授業づくり含む)
    →問いのつくり方(逆向き設計に基づいた問いの立て方)の推進。
    →効率的な学びにするためのカリキュラム・マネジメント
  • ・チームインフラ
    →本校の取り組みに適したICT機器の整備を本格実施すること。

今後の計画

1.評価の目的を再整理し、目的にそって効果的かつ効率的な評価方法を確立する

  • 1)評価の最上位の目的を現状を共有し、適切なタイミングで適切にフィードバックし、学習者に次への見通しを持たせることとする。
  • 2)それに伴い、2週間に1回程度の頻度で5教科のペーパーテストを実施する。
  • 3)テストの種類をPテスト、Sテスト、Bテストの3つに分類し、評価するべき能力に最も適した方法で評価する。
    • ①Bテスト(BASIC KNOWLEDGE TEST)*知識技能・思考表現判断等のテスト
      単答選択式・並べ替え・計算技能、思考表現判断等の紙面上で問うことが可能な能力全般を評価するいわゆるペーパーテストのこと。単元や領域等をさらに細かく分割しショートスパンで実施することで、到達度を生徒教師双方向で認識し、学び直しの手立てをフィードバックする。
      5科:2週間に1回程度の実施 4科:学期末に1回程度の実施
    • ②Sテスト(SKILL TEST)*技能ベースのテスト
      実験器具や刃物、火器類といった制作道具の使用技術、英語科のスピーキング等の技能が身についているかを問う実技系の技能テストのこと。主に授業内で実施し、その能力を評価し、フィードバックする。
    • ③Pテスト(PERFORMANCE TEST)*パフォーマンス課題
      単元目標を達成しているかを逆向き設計に基いて場面・課題設定をし、課題解決に向けた活動のプロセス内で評価する。主に授業内で実施し、ルーブリックを提示することで、生徒に求める達成度を可視化してフィードバックする。

2.PBL学習により「資質・能力」と「主体的に学ぼうとする態度」を育成する

  • 1)評価の最上位の目的を現状を共有し、適切なタイミングで適切にフィードバックし、学習者に次への見通しを持たせることとする。
    • ①知識及び技能を獲得したり、思考力、判断力、表現力等を身に付けたりすることに粘り強く取り組もうとする姿
    • ②粘り強い取組を行う中で、自らの学習を調整しようとする姿
    • ③自身の感情の起伏をコントロールする姿
    • ④メタ認知力
    これらを踏まえ、学校としての求める生徒像の構築を図る。

3.1、2を推進する上での効果的、効率的なICT機器の導入

  • ・Bテストの効果的、効率的な実施に向けDNPリアテンダントの導入(採点業務簡略化)
  • ・P、Sテストの学習効果を高めるためのタブレットとネット環境の導入
    (クリエイティビティと全ての個に応じた学習展開を推進するためのツール)

1年間を振り返って、成果・感想・次年度への思い

 相対評価の平等性を担保するため、今までは同一のテストを同時間帯に実施し、そのテスト結果や明確な成果物を数値化し、序列をつくることで評価することが一般的であった。絶対評価へと評価の価値観が大きく転換されたにも関わらず、慣例的に同様の資料を元に、同様の評価材料で序列に基づいた評価をしているところも多かったのではないだろうか。相対評価であれば生徒たちがどのような到達度であろうと順位がつく。そのため授業者も「生徒たちにどのような力を身につけ、どんなスキルをもって社会参画すれば良いのか?」という問いに向き合わなくても授業を行うことが仕組みとしてできた。形骸化された評価方法から脱却を図らなければ、生徒の資質・能力の育成に向き合うことが難しいことがわかってきた。単元テストに変更することで、何のためにやるのか、評価とは何か、どんな力を身につけることが求められているのか、これらについて学校全体が否が応でも向き合わざるを得ない環境が生まれた。絶対評価で成長を促し、相対的な位置も添えてあげる。入試の制度も大きな変更がない今の学校現場では、これくらいの感覚の中で仕組みを整理するのが良いのではないかと考えるようになった。

 次年度へ向けて見えてきたことが2つある。1つは、生徒・教職員すべての人が変化の中に身を置き、常に学び続けることができる仕組みを整えること。もうひとつはこれらの仕組みにICTをいかに結びつけるかということ。正直、ICTに特化した取り組みについて大きく進んでいないのが本校の現状である。それでも生徒たちは確かな学びから非認知的スキルの向上はもちろん、相対的な得点力まで大きく向上した。(3年生は市平均程度、2年生は府平均を大きく上回る)もちろん経年変化で比較した時の結果である。ICTがふんだんに活用されていなくてもできる教師の改革はあるということである。しかし、生徒たちは間違いなくICT機器があるおかげで自分たちの表現の幅を広げ、コミュニケーションを活性化し、学びを深めてきた。これは大人も同様なのではないかと感じる。本校は「ICTがあった方が今の課題を乗り越えるのに最適だ。」全員がそう感じることができるだけの仕組み、整備、考え方の変容をこの一年で整えることができたと捉えている。次年度、さらなる躍進に向けて、生徒と共に走っていきたい。

 最後に、この1年に限らず、プロジェクト学習を進めることで実にたくさんの外部の方々にお世話になってきた。そんなつながりの中、学校改善を図ることができたことに感謝申し上げたい。コロナウイルスの影響ですら前向きに捉え、巣立っていった3年生がいる。未知の状況にもその場に応じて対応できるたくましい在校生がいる。このような生徒たちのこれからを、ともに育てて行ければ学校としてこの上ない幸せである。

成果目標

  1. ・単元テストによって、生徒は学び直しの機会やできないところにより焦点をあてて学習をすることができる。
  2. ・単元テストによって教師は教科の評価方法を改善する仕組みとなる。
  3. ・生徒は自らの課題に応じて必要な学習の手立てを考え、選択するようになる。教師も課題を明らかにし、コーチングの視点の向上につながる。
  4. ・PBL型学習の推進に伴い、生徒はもちろん、教師も探究的なストーリーを描きながら授業をつくる力が深まる。これにより、学校経営においても同様に、課題解決の視点をもった教員集団が形成される。
  5. ・生徒が望めば自主的に学ぶ仕組みを整えることで、与えられたことをこなす学習の習慣から、自ら考え、選択し、行動することができる自律した学習者へと変容する。
  6. ・取り組みによってどんな生徒を育成したいのかを明確にする。また評価の視点をつくり、学校全体で同様の方向性をもって学校運営を推進する。
アドバイザーコメント
寺嶋 浩介 先生
大阪教育大学
准教授 寺嶋 浩介 先生

 これまでは,「単元テスト」と言ったように大枠でしか語られなかった評価面について,3つのテスト(Bテスト,Sテスト,Pテスト)として整理された点に,本期間の特徴がある。今後,これを実質化させていってほしい。

具体的には,以下が求められる。

(1)これらのテストが学習で求められる成果となるのだから,まずこのテストの内容を検討した上で,授業を設計する考え方を徹底すること(いわゆる「逆向き設計」の考え方)

(2)「(生徒への)適切なタイミングで適切にフィードバック」という点について,各教科の事例を作るなど,より具体化すること

 さらに,Bテスト,Sテスト,Pテストのテストそのもの,あるいはそれに基づく授業づくりを意図したときに,ICTはどのように効果的に活用されうるのかについて整理し,知見を提示していただきたい。前者はテスト(評価)のためのICT活用,後者は授業を充実させるにあたってのICT活用と位置づけられる。

 教科学習におけるICTの活用について,手がついていないことは報告にもあるように,ひとつの大きな課題となっている。その一方で,PBLにおいて,柔軟にICTを活用している様子は,報告書からもうかがえる(ただし,実践研究としての成果が曖昧になるので,PBLの成果の強調よりも,教科学習の改善を意識して成果としていただきたい)。これまでやってきたICT活用を教科学習の中に委嘱する発想を持つと,意外と早く浸透するのではないかと期待している。

本期間(4月~7月)の取り組み内容

<休校期間中>

 休校により、本校の計画も大幅な路線変更を余儀なくされた。「居場所としての学校」「学習機会の保障」をキーワードに整備を進めることとなった。そんな中、GoogleのChromebook無料貸し出しの申請を行い、Chromebookの段階的な導入が決まった。3年生から順次取り入れることとなったが、それに伴い家庭のネット環境調査、教員研修、機器の整備や管理、端末活用における基本的なルールなどGIGAスクール構想の整備がきたかの如く急ピッチで進めることとなった。

 学習面においては家庭学習が持続的にできるようにすることを目的にオンライン授業(同期型・オンデマンド型)を実施した。できる教科から順次動画作成やフォーム作成をし、少しでも学習者にフィードバックを返す仕組みを整えた。

 居場所づくりとしては家庭での困り感を把握し、解決することを目的にオンラインHRを全学年実施し、学習環境はもちろん生活習慣やつながりを保つためのレクレーションなども実施した。また、道徳教材や地域企業と曲づくりを行うプロジェクト学習なども行った。分散登校やスクーリング等を絡めて実施することで、休校期間の中でも生徒たちとのつながりをある程度保ちながら、教員もモチベーションを維持しながら活動することができた。

 休校解除後もChromebook貸し出しができるかの打診を行った所、Googleからは快くGIGAスクール構想の準備が整うまでの期間(今年度いっぱい)延長の承諾をいただいた。これにより、当初予定していた端末の購入を変更し、校内に独自のWiFiルーターを設置することとした。以下にウィズコロナも想定した上での再開後の環境整備をまとめる。

<環境整備>

  • ・Chromebook一人一台端末として貸出(221台)
  • ・Chromebookの教員用兼生徒予備用端末の整備(16台)
  • ・G Suite for Education一人1アカウント(全生徒・全教員)
  • ・全普通教室WiFiルーター完備(11台)
  • ・iPad & Apple pencilの整備(各4台)
  • ・AI型学習教材Qubenaの導入(全生徒アカウント取得)
  • ・家庭でのネット環境整備100%
  • ・29人以下での学級編成

<学校再開後>

 学校が再開されてからは学級の再編成、45分×7時間授業や、0時間目にBテストを実施したりと、安心安全を担保し、学習量の確保と定着の確認、生徒たちへの到達度のフィードバックに努めた。単に教科書の内容の詰め込みではなく、ICTを活用して個別化・協働化された学びの実践を各教科行っていたのが印象的である。

<本期間のICT活用事例まとめ>

  •  個別最適化された環境で知識技能を効果的に効率的に学ぶ
  •  協働的な活動の中で情報収集を行い、多面的に自己の考えを深める
  •  プロジェクト学習を通じて教科の学びを組み合わせる

 漢字・意味調べの学習において検索を活用。(国語)

 登場人物の相関図をGoogleスライドにて作成。(国語)

  「私のワクワクする国の〇〇」をGoogleスライドにて作成。個別に作成し、プレゼンした。(社会)

 「Qubena」の導入。個に応じた課題を見つけ、AIが導いてくれるデジタル教材。(数学)

 「動物図鑑」の作成。共同編集で資料編集する。(理科)

 実験の説明動画を配信。迷った際に立ち戻ることができる。(理科)

 Chrome music Labを使い、絵と音の関連性について学ぶ。教科横断的な視点で学習する。(音楽)

 端末カバー作成動画作成。これによって全教室一斉に活動することができた。(美術)

 休校期間中や授業においてClassroomにて課題の連絡を行い、学習支援を行なった。(技術家庭)

 「Classroom」にて反転学習の実施。動画を見て事前に予習を行い活動の時間を充実させる。(保健体育)

 「Quizlet」等のアプリを活用した学習。単語等の一問一答を楽しみながら学ぶことができる。(英語)

 音読のスキルテストをClassroomにて提出する。評価がしやすく、双方向にとって有益な時間が生まれた。(英語)

 修学旅行の取り組みを休校期間中に実施。Meetとjamboardを活用して会議を進めている。(総合)

 地域の企業リゲッタ社長高本さんとの対談。曲作りのミッションを共有するための意見交流会。(総合)

 広教の「冗談のつもりだったのに」を活用し情報モラル×道徳を実施。スライド共有し全教員で指導した。(道徳)

 フォームで「迷惑」という程度についての感覚的なものを可視化し、互いの違いを知る材料として活用した。(道徳)

 吹奏楽部のオンラインレッスンの様子。コロナ禍でも距離感を保ちながら練習をすることができる。(部活動)

 SDGsについて学習。世界の課題という大きな問いからこれからの生き方について見つめていく。(特活)

*欠席生徒ともオンラインHRを実施
*教室の垣根を越えてオンライン授業を実施
*部活動懇談会などでMeet等オンラインの導入

アドバイザーの助言と助言への対応

 6月19日(金)に今年度1回目のアドバイス訪問を実施した。学校が本格的に再開されてからちょうど1週間経ったタイミングである。子どもたちが登校するから今まで通りではなく、これまでのオンライン学習のノウハウをいかに対面型とブレンドさせて、生徒の資質・能力の向上を図ることができるのかという視点で助言いただいた。また、今後のオンライン学習の手法も教授いただいた。

本期間の裏話

 導入こそ大変であったが、今となっては授業での活用も個別最適化される場面が増え、インタラクティブな学びが生まれている。また授業以外のあらゆる場面でICT活用の様子が見られる。休み時間や朝の時間、生徒会活動でも活用し、学びを深めている場面が見られた。今後は当たり前の環境になってくるのであろうが、そのような場面が公立中学校に日常的に出てきたことに嬉しさを覚えた。

 しかし、同時に問題も生じてきた。それは、昼休みや授業以外の時間の活用をどうするかという議論である。興味関心で授業や学習に関係のない使い方をする者が一定数出てきたのである。端末を日常的に使える環境を整えたのだから当たり前のことではあるが、初期指導のあり方が今後のICT活用の方向性を左右するであろうと感じた。もちろん自分のものではないのでプライベートな使用を控える指導は必要である。しかし、だからといって何でも制限したり、端末を奪って学校がすべて管理してしまっては今後の学校教育にICTが根付かない。そこで本校は端末を「言葉」と同列で整理することにした。私たちは生徒が言葉の使い方を間違えたとき、「しゃべるな!」と言葉を奪うような指導をするだろうか。答えはノーである。言葉は取り上げたり奪ったりするものではなく、使い・向き合い、失敗や成功を通じて身につけるものだからである。端末もこれと同じ姿勢で指導すればいい、日常的なコミュニケーションツールの1つに過ぎないのだから。と整理できるようになった。言葉も端末も使い方を間違えれば人を傷つける刃物にもなり得るし、人生を豊かにする最高の道具にもなり得る。この姿勢を根底に持った上で、様々な成長過程に応じて最適な設定をし、より良い活用ができる人材を育成する。そんな指導感を共有するまでが本期間の一番の山場だったように振り返る。今までにないぐらい目まぐるしく環境が変化した期間でもあり、全教職員が情報モラルに課題意識と当事者意識を強く持つ期間でもあった。

本期間の成果

 本期間、特にコロナのため学校の予定・計画が全て大幅な変更となった。その中で、本校の成果目標に照らし合わせて振り返る。

1)本期間は、再開2週間後からBテスト校時(0限+6時間授業)か7時間授業を 実施した。休校期間中実施したオンライン学習で本当に学力は定着したのかを見とる上で、Bテストは特に効果の高い取り組みとなった。前年度の問題とほぼ同等の問題を作成し、生徒には過去問を提示して目標設定や到達度を明確にした。前年度との経年比較を行なった結果、平均点比較ではほぼ同等の成果であった。再テストを実施する教科も自然発生的に増え、学び直しの機会提供や、できないところに焦点を当てた学びが推進された。ショートスパンで到達度を確認しながら進めることで時間の効率化にもつながった。

2)端末という学習の選択肢が増えたことで「自分は何をどう使えば学びやすいか?について考え、選択する場面が多く見られるようになった。端末があればそればかりを使うかといえばそうではなく、学習内容や目的に応じてプリントや教科書で学習する時もあれば、Qubenaや端末を使って学習することもあったということである。それぞれの手段の良さを生徒も教師もそれぞれ見直すことができた期間となった。

今後の課題

 情報モラルやリテラシー教育を一層充実させることや、このICT環境を保ち続けることも課題として挙げられる一方、校外学習やポスターセッションなど、直接的な対面の場面が設定できない状況が続いている。PBL等の総合的な学びの中で、外部との協働を通じた学びを設定できていないことが現在の決定的な課題だと言える。オンライン等に手段を変えながら外部とつながりのあるプロジェクトを進めること、Pテストの充実を計り、教科の学びを日常で活用する機会を増やすための授業実践をすること。この2点に焦点をあてて今後の計画を再編していく。

今後の計画

 今後はPBL型学習に限定することなく、教科の中でも探究的なストーリーを描きながら授業をつくる力を磨くことを進める。対面型のプロジェクトや行事に制約がかかる今の環境下で、今までのような生徒を育成するためには授業の時間の学びの質をより高める必要が出てきたからである。パフォーマンス課題の実践を推進することで探究的な学びのストーリーを描くことができる教員集団を形成していく。また、主幹行事である体育大会や文化発表会は現行のやり方から脱却し、縦割り編成を実施する。毎年立場を変えながら学ぶ取り組みへと仕組みから変えることで、学びの場面が増えるようにデザインする。

気づき・新たな学びなど

 「少し先の未来の学校」新巽の今はこんな言葉で表現できるのではと思うようになった。端末が日常にあり、いつでもどこでも使うことができる。学習の成果物はクラウドで生徒と教師で共有し、連絡や評価方法もClassroomで共有できる。生徒たちは共同編集機能で自分たちの思いを形にし、タイムリーにプレゼンし、コメントでフィードバックを得ることができる。動画を見て何度も学び直すこともできれば、Qubenaを使って学校内外問わず学ぶこともできる。教師は学習のログを確認し、生徒の取り組みをタイムリーに把握する。会議はMeetで行い、資料は共有することでペーパーレスで共有することができる。部活動でも学活でも場面を問わずに当たり前にICTを使うことができる。断片的だったICT活用場面がつながるとどんな風景か、感じられるだけの環境が整った。これに関してはGoogle、株式会社COMPASS等企業の全面的なサポートに感謝せずにはいられない思いである。

 使い始めて3ヶ月、ふと「一人一台端末もこんなもんか」と思ったことがある。どこかで環境が良くなればいい学校になるという淡い期待があったからかもしれない。もちろん端末が入ったことによって学びの手段や授業の形が変容したのは言うまでもない。しかしICTが入ったから目の前の子どもたちが変化したわけでもないし、学校として良くなったという訳でもない。ここまでの研究の中でいい学校とは何か、どんな生徒を育てたいか、そのためにICTはどう効果的に使うことができるか。こういった対話が根底にあったから、モノが整ったときに歯車が噛み合い、自然発生的な活用が生まれたのではないかと思う。大切なことはICTを使う目的だと再認識することができた。GIGAスクール構想が前倒しとなり、本校のように急にモノが揃う未来が公立中学校に確実に訪れようとしている。本校の教職員と生徒たちの実践が、少し先の未来で共有できる財産となることを信じて、残りの研究期間を全うしたい。

成果目標

  1. ・単元テストによって、生徒は学び直しの機会やできないところにより焦点をあてて学習をすることができる。
  2. ・単元テストによって教師は教科の評価方法を改善する仕組みとなる。
  3. ・生徒は自らの課題に応じて必要な学習の手立てを考え、選択するようになる。教師も課題を明らかにし、コーチングの視点の向上につながる。
  4. ・PBL型学習の推進に伴い、生徒はもちろん、教師も探究的なストーリーを描きながら授業をつくる力が深まる。これにより、学校経営においても同様に、課題解決の視点をもった教員集団が形成される。
  5. ・生徒が望めば自主的に学ぶ仕組みを整えることで、与えられたことをこなす学習の習慣から、自ら考え、選択し、行動することができる自律した学習者へと変容する。
  6. ・取り組みによってどんな生徒を育成したいのかを明確にする。また評価の視点をつくり、学校全体で同様の方向性をもって学校運営を推進する。
アドバイザーコメント
寺嶋 浩介 先生
大阪教育大学
准教授 寺嶋 浩介 先生

 この数カ月間,どこの学校も大きな予定変更が迫られた。休校,その後の分散登校,一斉登校・・・と多くのところが進めてきた。この中で,今までになくICT活用にスポットがあたった。「オンライン授業」という言葉が出てきて,学校側も対応を要求されることになった。

 多くの学校が何らかの理由をつけ及び腰の中,新巽中学校はchromebookの導入を皮切りに,生徒ひとり1台の活用や家庭からのアクセスを成し遂げた。それは,良い意味で一般化できるものではなく,多くの学校ではとても真似をすることのできないパワフルさがある。

 その中で,実際に機材が整備されてみると,従来の授業に比して授業改善の工夫が生まれてきているところについては,参考にできるところがある。従来から本校で見聞きしている授業よりも遥かに創造的な授業が展開されていると思う。これはただ環境を整備しただけではなく,先生方が知恵を出し合いながら,授業実施に向けて試行錯誤を重ねた結果だと思うので,評価したい点だし,他校も参考になるのではないかと思う。

 しかし,新巽中学校にはさらに頑張ってもらいたい。各種のICT活用事例は豊かになってきているのだが,それらを総合するような理論的な枠組みがまだできていない。昨年度まで話し合ってきた評価,そしてそれに基づく授業づくりが成立しきれていないからである。一部事例からはその考え方のようなものは読み取れるものの,成熟していない。もし各種評価から,オンライン授業や,普通教室でのICT活用を仕組むいわゆる逆向き設計の考え方が定着すれば,授業がより豊かになるのではないかと思う。

本期間(8月~12月)の取り組み内容

 本期間の取り組みの流れを先に整理する。

  • ・運用については45分×7限校時とBテスト+45分×6限校時を併用し、まずは進度の遅れを取り戻すべく実施を進めた。
  • ・総合・特活の授業も教科の授業に組み替え、6月から9月まで継続的に教科の学習を行った。前回のレポートにも記載したが、協働的な学習形式を多く取り入れたため、教科の中で今までの総合、特活で得やすい学びが生まれた。
  • ・本校は「可能な限り行事や取り組みを縮小することなく実施してあげたい」という意思決定を4月の時点で行っていたため、行事を洗練させ今までと同等の達成感や充実感を持たせるにはどうすれば良いかという問いを立てて進めた。
  • ・体育大会と文化発表会は同一のイベントとして「SHINTATSU2020」として実施した。
  • ・参観できない保護者にはオンライン配信を行なった。
  • ・11月からはPBLも始動することができた。1年生SDGs、2年生はe-sportsについて探究が始まった。可能な範囲で校外学習等も実施し、探究的な学習を進めることができた。
  • ・職業体験等実施できなかった行事もあったが、オンラインによる職業講話や双方向型のオンラインワークショップ、体験型施設への見学等で補うことができた。

上記のような流れでPBLや一人一台環境、プログラミングやゲームといった新しい価値への受け止め方、情報モラルやリテラシーの学びは確実に進めることができている。こちらについては最終のストーリーをまとめ、共有したい。今回は、課題であったパフォーマンス課題の進捗について重点的に報告する。

<パフォーマンス課題の実践と階層における考察>

1. パフォーマンス課題の必要性

 学校の勉強って、何でやらなきゃいけないの?大人になったら必要ないのに、なんで勉強なんてしなきゃいけないの?こういった子どもの声を聞くことがある。それに対してあなたはどう答えるだろうか?パフォーマンス課題はまさに、この問いに対する私たち指導者ができるアクションの一つであると考えるようになった。

 学校という場所は「他者に貢献するため」、「自己の人生を豊かにするため」に生き方を学ぶ場であるはずである。にも関わらず、学校での学びが生活と結びつかない理由は何なのか。パフォーマンス課題を考える上で、学習指導要領ならびに教科書と向き合うことが多かったが、その際、「なぜ教科書にはパフォーマンス課題に相当する問題の掲載が少ないのか」という問いが生まれた。はじめから掲載されていればいいのに。そんな思いが正直よぎった。特に数学の問題は、「無駄を削ぎ落とした抽象的な問題」が多く構成されている。すでに一般化されており、数学的解決をすることを前提とした課題設定になっている。もっと子どもたちの日常にあった問いがある教科書は作れないだろうか、もし自身が教科書を作るならと検討してみた。この時、「子どもたちの日常にあった問いがある教科書」というものそのものが間違っていることに気がついた。なぜなら教科書は「全国」の子どもたちが使うことを想定して作成するものだからである。その特性がある以上、一定の他者に偏ったストーリーを編成することができないことは自明である。そのため、教科書は日常の生活とつなぎやすい余白を残し、ストーリー性を薄め、子どもたちにとってイメージしづらい日常から離れた条件設定の問題を作成しているのだということを認識することができた。そのため、ただ教科書に書かれたままだけを指導すると、子どもたちの日常に結びつきにくく、現実と乖離した状態を生み出してしまうということである。そのように考えると、教科の抽象的な問題と子どもたちの日常のストーリーをつなぎ合わせてあげること、つまり「橋渡し」することが、私たち教師の役割ではないかと整理することができる。よってパフォーマンス課題とその評価は必然性を帯び、取り組む必要性があることが言える。

2. パフォーマンス課題の捉え方の整理

 パフォーマンス課題は教科の力を身につけた生徒が、日常や社会の中でその力をどのように活かすのか?」から逆算し、課題設定を行う。GRASPS(資料1)に沿って課題設定するところから始めたが、これらの要素をすべて満たしていても、生徒に当事者意識が生まれず、問題解決する目的意識を高めることができないところに課題が出てきた。そのため、生徒の当事者意識を強めるため、2つの軸で再整理をした。

 1つは「ストーリー性」である。誰のためにその課題と向き合うのか、何のために取り組むのか、どこに課題があるのか、解決した未来を想像し、その実現に向けて取り組む。学ぶ価値を見出せるストーリーを構成することが当事者意識を生み出す1つである。特にストーリーの作り方として、他者に貢献できるか?(社会をよりよくするストーリー)と、自己をよりよくするか?(自己の人生を豊かにするストーリー)の2点を意識すると当事者意識を生みやすいものになるのではと感じる。

 もう1つは「リアリティ(現実性)」である。場面設定が学習者の日常に即しているかも当事者意識を生み出す1つであるはずである。

 この2つに教科の「無駄を削ぎ落とした抽象的な問題」をつなぎ合わすことができれば、生徒たちが未来でどう振る舞えば良いかを考える課題設定になるのではないかと考えた。

<資料1>

パフォーマンス課題を構成する要素 GRASPS
GOAL 目的があるか
ROLE 役割があるか
AUDIENCE 相手があるか
SITUATION 状況の設定があるか
PERFORMANCE 完成作品は何か
STANDARDS 観点を設定しているか
3. 課題設定の階層整理

 課題設定には階層があることがわかってきた。パフォーマンス課題として大きく3つの階層に分けることにする。

<資料1>

レベル パフォーマンス課題の階層
Level 0 いわゆる教科書の問題。利用者が様々なため、想定する他者や自己の要素を取り除かれている。ゆえに教科のスキルを活用して解決する課題設定となっているが、その場面に対して解決する必要性を帯びていないし、自己の日常へのストーリー性もない。
Level 1 <当事者意識×>
ストーリー性があり、教科のスキルを活用して解決する課題設定となっているが、その場面に対して解決する必要性を帯びておらず、当事者意識に欠けた課題。
Level 2 <当事者意識△>
ストーリー性があり、教科のスキルを活用して解決する課題設定となっている。その課題場面が行事やPBL学習に関連付けられており、仮想的な設定であるが、当事者意識を持ちやすい課題。
Lebel 3 <当事者意識◯>
ストーリー性があり、複数の教科のスキルを活用して解決する課題設定となっている。その課題場面が行事やPBL学習、現実の課題に直結しており、現実場面において結果が反映され、試行錯誤を通じて教科のスキルを活用した場面設定となる課題。

<資料2>

4. パフォーマンス課題 1年数学 関数領域(比例と反比例)

【体調確認の受付は何ヶ所設置が適切だろうか?】

 新巽中学校は毎年2月に「vs 100人のリスナー」と題して来校者を招き、「SDGsの啓発」や「地域活性化への提言」、「テクノロジーと教育の可能性」といった社会へ向けた中学生の提言を発信するビッグイベントを実施しています。昨年はコロナの影響で来校者を呼ぶことはできませんでしたが、予定通り実施できれば、100人を越える人数が新巽中学校に集まっていました。そしてこれはどうやら君たちの進級に関わる大切なミッションでもあるようです。

 今年もコロナが収束してくれれば、地域、保護者、外部の方をお招きして「今、私たちにできること」を中学生ながら発信することになります。2年生はワクワクドキドキのイベントを、1年生はSHINTATSU LANDを現在計画していることがわかっています。これは経産省や文科省といった国の機関も注目している大きなイベントでもあるようです。

 少し気が早いですが、もし来校できる環境になった場合、今年ならではの課題があります。それはコロナ対策です。来校者の入場時には以下のことを実施することが求められています。

  • ・氏名、住所、連絡先を記入してもらうこと
  • ・検温をその場で実施すること
  • ・来校者の手の消毒を実施すること
  • ・マスク着用を徹底すること
  • ・記入時に貸し出した筆記用具は一回ごとに消毒すること
  • ・体調は良好かどうかを確認すること

 例年の流れでいうと、当日は直前のプレゼンリハーサル、舞台の確認、照明・音響の確認、プロジェクターの点検など、機材関係に教員の多くが手を取られてしまいます。また、今年度はオンライン配信などのサービスも実施するため、より多くの教員が手を取られてしまいます。そこで、受付の担当は生徒たちで実施することが予想されます。とはいえ、当日発表したり、機材の確認をするのは発表者である生徒たちも同じです。しかし、私たち新巽中学校の一員の誰かがやらなければならない仕事です。そこで、100人程度来校することを前提に受付の数は何ヶ所程度あれば適切か、受付にかかる時間と受付の数の関係を明らかにし、Googleスプレッドシートでグラフを作成し、Googleスライドで考えをまとめ、責任者である山本先生まで報告してください。

5. 実施する上でのカリキュラムマネジメントの工夫

 実際に実施するとなると、授業時数が膨らむことも事実である。それに対するカリキュラムマネジメントが年度当初に組まれているか、流動的なカリキュラム編成があるか。そこで下記の3つの改善案を提案した。

  • ・教科の枠を越えてパフォーマンスをみる場面設定をし、タイムシェアすること
    (これはICT活用することなくすぐできること)
  • ・総合の時間の使い方を見直すこと
    (むしろ総合に関連させて教科でできることをする方が日常に結びつけやすい)
  • ・知識技能における時間効率化をテクノロジーを活用して解決すること
    (動画、反転授業など時間効率化を図る手段はたくさん示されている)

アドバイザーの助言と助言への対応

 パフォーマンス課題は生徒の日常あった課題であることが望ましい。しかし、日常に重ねすぎると逆に1つの教科だけで解決できない課題となったり、提示する教師側の評価基準に必ずしもかからない場合が起こり得るということ。また、課題設定の段階でICT活用の場面の必然性があった方が良いことを助言いただいた。

>>日常に近づけるか、教科の評価に近づけるか、ここの分岐が一番設定において難しい部分であった。しかし、まずは学習指導要領に準拠した課題設定を進めることにした。また、ICT活用した成果物の作成を意識した。

本期間の裏話

 パフォーマンス課題に取り組んできてわかってきたことはレベル2の分岐である。日常的な状況に近づけるほど、当事者意識を持ちやすいが、一方で教科の観点で解決しなくて良いケースが生まれやすい。また、教科の観点で解決できる課題に近づければ近づけるほど、リアリティが減少し、問題解決の手段も限定的となり、当事者意識が芽生えづらいということである。基本的には教科の観点で解決できる課題を前提として、その中で目的や取り組む価値を生み出すような動機付けができるようになると、現実と教科の橋渡しとしては成立するといえる。

本期間の成果

  • ①課題設定の方向性を共有することができた。
  • ②P課題から逆算したSテストやBテストのあり方について検討することができた。
  • ③日常的な一人一台端末活用の場面が生まれた。

今後の課題

  • ①成果物の作成が急務である。G Suite for Education、Qubenaといったデジタルツールの活用場面や日常的な利用方法をまとめたもの、パフォーマンス課題の設定する上での一般化された資料などを成果物としてまとめていく。
  • ②授業参観や研究協議が難しい環境のため、実践した授業は動画で記録し、指導案とセットにする。

今後の計画

  • ①全教科の授業実践と撮影
  • ②成果物の作成
  • ③オンラインによる研究発表の実施

気づき・新たな学びなど

 パフォーマンス課題の実践を進めようとすればするほど、「限られた時間をどう使うか」という問いに向き合うことになるし、「生徒にどんな姿になって欲しいのか」という目的を明確にする作業が必要であった。また、子どもたちが進む未来の中で、どんな力を持って社会に送り出したいかという、いわゆる学校目標にも近いことを考えるきっかけともなった。学校での子どもたちの学びはどのように有機的につながり、どんな要素がどこに散りばめられているのか。これらにも目を向けざるを得ない場面が教職員に起こることもパフォーマンス課題に取り組む価値と言えるだろう。

 一方で、これらを充実させるためにICT機器はどのような位置付けであったかというと、「日常化された文房具」という言葉が一番適しているように感じる。生徒も教師も授業の中で日常的に使う。アプリが変わっても柔軟に活用できるし、資料を提示するのも印刷ではなくGoogle Classroomを活用する。フォームを使えばクラスの壁も越えて自分たちの思いを可視化し、自身の考えを深めることができる。しかし、ここまでの活用ができるようになるまでの背景は決して平坦な道ではなかった。「新しいモノ」や「新しい価値」と向き合うということは、「わからない」または「未知なるモノ」に対する不安と向き合うことと同義だからである。本校の生徒・保護者・教師、学校に関わるすべての人が未知なる環境の中で、不安と対峙し、未知なるものをどう受け入れるかという「モノの多様性」について日々向き合ってきたからこそ、端末は日常化された文房具としての位置づけになったということである。GIGAスクール構想によって一人一台端末環境が整うと、すべての学校がこの「モノの多様性」に向き合うことになるだろう。スマホは悪いモノなのだろうか?ゲームは悪か?端末は勉強の妨げになるモノなのか?今までの固定観念と対峙する時が今まさに訪れようとしている。果たしてモノに原因があるのか、それとも使い手の自己管理能力によるものなのか。本校は今まさに子どもたちと共に常識という価値観へ一石を投じる、そんな学びを推進していると感じる。新たな時代に新たな価値を生み出す子どもたちを学びの場は、新しいモノを受け入れ、学びに活かす。そんな場であってほしいと願う。

成果目標

  1. 単元テストによって、生徒は学び直しの機会やできないところにより焦点をあてて学習をすることができる。
  2. 単元テストによって教師は教科の評価方法を改善する仕組みとなる。
  3. 生徒は自らの課題に応じて必要な学習の手立てを考え、選択するようになる。教師も課題を明らかにし、コーチングの視点の向上につながる。
  4. PBL型学習の推進に伴い、生徒はもちろん、教師も探究的なストーリーを描きながら授業をつくる力が深まる。これにより、学校経営においても同様に、課題解決の視点をもった教員集団が形成される。
  5. 生徒が望めば自主的に学ぶ仕組みを整えることで、与えられたことをこなす学習の習慣から、自ら考え、選択し、行動することができる自律した学習者へと変容する。
  6. 取り組みによってどんな生徒を育成したいのかを明確にする。また評価の視点をつくり、学校全体で同様の方向性をもって学校運営を推進する。
アドバイザーコメント
寺嶋 浩介 先生
大阪教育大学
准教授 寺嶋 浩介 先生

 新巽中学校は1学期の間にオンライン授業を起点にして,これまで弱かったICT活用を劇的に進めた。その一方で,当初から課題として抱えてきた単元テストにはじまる評価の問題はそのまま手がついていなかった。前回は「(パフォーマンス課題に基づき)授業をより豊かにすること」をアドバイスしているが,ようやくその課題について,向き合いはじめた期間といえる。

 同校の報告書に,BテストやSテストなどというものがあるが,これは教科の基礎に関わる評価,いわゆる「学んだ力」を対象とするものである。これに対し,P(パフォーマンス)テストは,「学びを活かす力」の評価にあたる。私はPテストでは,生徒がより応用的な問題に向き合うことで学んだことを活かす場面が必要だと思う。そして,そうすることで総括的な評価場面だけではなく,あわせて授業の導入や展開についても授業改善を図ってほしいと考えた。この授業を考えていく際には,より現実的な場面が必要となるため,同校がこれまで取り組んできたICT活用が活かされるのではないかと思う。また,それによりこれまでの取り組みが深化すると考えた。この考え方が,ICT活用を目的にとどめるだけでもなく,またただの手段だけにとどめることでもない,ICT活用による授業改革につながるものだと思っている。

 実際のところ,ようやく考え始めたばかりのところで,試行錯誤というのが正直なところだと思う。しかし,実際の授業を見てみると,1人1台端末を活用して生徒が協働的に課題を解決していく姿や,生徒が発信することを意図した授業づくりが始まっており,私として期待していたような授業も報告されつつある。

 さて,本校の2年目の取り組みが終盤に差し掛かってきた。研究期間が終わっても,この取組については続けていってほしいが,学校研究として最後のまとめに向けてふたつのことに取り組んでいただきたい。

(1)教科の差をなくしてほしい。
 オンライン授業についても,上記した授業づくりについても,正直教科間の取り組みに差がある。なぜそのような差が生まれるのか,そしてその教科の先生だけの責任とせず,学校単位でその差を埋めていく努力をどのように図るのかを,考えていただきたい。

(2)他校に提供できるコンパクトな成果のまとめを作っていただきたい。
 本校は発信力はとても豊かで,それに向けて頑張って取り組んでおられる様子はよく分かる。しかし,それは自校や個人のみにその成果はとどまってしまう。外部に適用できるものとして,例えば,以下の事例をまとめて,成果として本財団のページに公表していただきたい。

(a)オンライン授業事例集
(b)各教科のテスト事例(Pテストーパフォーマンス課題を中心として)

本期間(1月~3月)の取り組み内容

 本期間は主に実践と振り返りの時間となった。パフォーマンス課題の実践においては実践事例集に記載したので、ここではそこに至るまでの校内での研修関係について記載する。

【ワークショップ型研修への移行】

 授業改善や学校の仕組み改善に関する研修全般をすべてワークショップ形式に切り替え、グループでディスカッションする仕組みを整えた。これにより、全体で発言するのは気が引けるがグループ内での対話の中なら発言できるといったことが増える傾向となっている。特に本校はこれまでたくさん仕組みを変えて「気づいたら混ざってる」取り組みを推進してきた。しかし、進めていく中で、それらの是非や改善について時間をかけて全体で振り返ることが少なかった。今回のきっかけを機に、下記の3つの視点で振り返りを行った。

1)タテ持ち・複数担任といった働き方について

2)評価(B・S・P)について

3)ICTと教育活動の親和性について

 振り返った内容は全てGoogleスプレッドシートで共同編集し、即座に共有した。今までであれば校内研修担当が書類をまとめフィードバックを返す作業が必要で、労力や時間のかかるものであった。これらの環境面が整ってくることで効果的で効率的な研修も計画することが容易になった。

 教員間の垣根を崩す仕組みとICTの融合、そして対話の場が整ってきたことにより、ずいぶんと心理的安全性が担保された環境に改善されたのではと評価している。現在は次年度の学校目標を全教員で整えるワークショップを実践しており、情報の整理はGoogle Jamboardにて行っている。ここまでの研究で培ってきたものが今後につながっていく手応えも感じることができた。

【成果物の作成】

 こちらはGoogleスライドを使い、全体で共同編集し作成を行った。最初のひな形のみ共有し、あとはそれぞれがアレンジして作成するものとした。こちらも共同編集で行うことでどのような成果物(ゴール)を作成すれば良いか、どんなレイアウトにすれば良いかなど、教えることなく全体で方向性を共有することができ、現在、事例を50以上まとめている。この1年、教師も生徒もみんなでより良い活用方法について向き合ってきた。活用の場面も実に多様で、「事例はあるが書くのが大変だ」とため息をもらすぐらい活用してきたことを改めて実感することになった。

【PBLでの活用場面】

 1・2年生は2月に学習発表会を行った。1年生はSDGs、2年生はe-sportsとエンターテイメントをテーマに実施した。こちらも学習場面とICTとの相性の良さを高く感じるものとなった。生徒のプレゼンテーション、教師のオンライン配信は定着しつつあり、発表をYouTubeの限定配信で届け、保護者や外部の方々とつながりを保ちながら、必要最小限の方々と対面による活動を実施し、安全・安心の学びの場を持続させることができたことは次年度へもつながるものだと実感した。

【研究発表時における活用について】

 2月22日(月)にオンラインによる研究発表会を実施した。発表、質疑応答、ICT活用の対話の3部構成で、発表以外は全てブレイクアウトルームにて本校の教員、そして生徒とともに交流した。本校に在籍してからPBL学習に向き合ってきた2・3年生も一緒に学びについて考える場となり、生徒の社会貢献への心の醸成にもつながった。

アドバイザーの助言と助言への対応

 オンラインにおける研究発表で、対話の場面をつくるようアドバイスをいただいた。参加者も40名近くあったので、全員が一律同じテーマで対話できるような問いだてが必要となったが、その助言のおかげで、全教員がこれまでの実践を振り返り、「私たちは何をしたかったのか」を改めて整理することができた。また、その実現の上で校内の研修も伝達型の研修には限界があることにも気づくことができ、リフレクションの推進へ大きなきっかけとなった。

本期間の裏話

 特に事例集を作成するにあたり、全教員に1枚以上提出を声かけたが、前述したように「ありすぎて書けない」という悩みが出てきたことである。それだけ学校の教育活動に一人一台環境が整ったことで活用に深まりが出てきており、今やどんなシチュエーションでも活用する姿をみる。本校は決してICTに先進的な学校であったわけではない。しかし教員が協働し、補い合う仕組みを整え、子どもたちと共に学ぶ。当たり前のことをただ当たり前に積み重ねてきたことで、たった1年でこれだけのことができるのだということを証明できたと思っている。

 また、失敗に寛容な集団育成ができたようにも感じている。これは大阪府チャレンジテストの結果で「失敗しても笑われない」の項目が高いことからも見て取れる。つまり、「心理的安全性」が担保された学びの場となっているということである。特に今年1年間、学習の中で全員が模索し、失敗し、そこから学ぶ営みを繰り返してきた本校だからこそ生まれた副産物ではないかと考える。逆に言えば、ICTを真の意味で活用する環境を整えるためには、失敗を受け止める一定の受け皿が必要だろう。そこには少なくとも学校レベルで管理するなど、ある程度学校に権限を譲与しなければ進まない一面も垣間見えたと感じている。「個別最適化された学び」が令和の日本型学校教育において大きく明示されている以上、自治体レベルで一律制限をかけるのではなく、学校単位で自ら考え、どのような力を育むのかから逆算して端末活用の環境を整えていくことが必要ではと考えるようになった。

<R2大阪府チャレンジテストの結果より>

 話は少し変わるが、PBLでゲームを題材にして見えた「モノの多様性」についても共有したい。2年生のe-sports探究については「なぜゲームは悪いものだと思われているのか?」という問いと、「ワクワクドキドキの仕組みって何だろう?」に迫るべく約半年間探究を進めた。そして最後の学習発表では「脱獄ごっこ」というUUUMが提供しているアプリを活用してe-sports大会を実践し、ゲームとの向き合い方や「なぜゲームは悪いものだと言われるのか?」といったテーマでプレゼンするなど子供たちと一緒にモノとの向き合い方、関わり方について考えることができたのは非常に価値があったと捉えている。以前のレポートで「端末は言葉と同じ。奪うものでもなく、正しい使い方へ導くことが大切だ」と報告を行ったが、これは別に端末に限った話ではない。YouTubeもSNSも、そしてゲームも正しい使い方をすることで人生を豊かにすることができるツールである。であれば、言葉と同様に失敗の中から学ぶことも必要な場面が出てくるだろう。端末やゲームと向き合うことで、新しいモノとの関わり方について考えを深めることができた。わからないから避ける、知らないから導入しないのではなく、今までと異なることを前提として受け入れる。そしてまずは使ってみる。間違った使い方や関わり方をしたら問いかけ、正しい方向に導く。改めてテクノロジーを導入する際の重要な心のあり方を考える期間となった。

 最後にオンライン発表に至るまでの裏話でこのセクションを終えたい。2月22日に実施したオンライン研究発表会に向けてZoomの使い方やブレイクアウトルームなど通信環境面も含め最終確認する研修を行った。ハウリングが起こらないような環境、WiFiが届く環境、退出してしまった場合の対処法、デジタル迷子の誘導などを中心に小一時間確認をした。なんてない研修であったが、ふとあることを思い出した。ちょうど一年前、休校期間になって真っ先にやったのが校内でのZoom研修会だったということを。その時は時間も十分にある中だったにも関わらず、アカウント取得だけで手一杯、つなげた人が何人いたかという状況であった。マイクのオンオフやなぜハウリングが起こるのかなど、今や基本的なことですらアタフタした記憶が蘇る。しかし、今回の発表会では全教員がこれらを使い、研修を無事に終えることができた。これは決して表に出ることのない、本校教職員の「コロナ禍における学びと居場所の保障」に向き合った賜物であるといえるだろう。本校の1年間がどのようなものだったか、実感するイベントであった。

本期間の成果

  • ・2年間の取り組みを再整理し、パフォーマンスで育みたい生徒の姿を共有することができた。
  • ・生徒の姿からどんな力を育んでいくのかを共通認識持つことができた。
  • ・事例集の作成ができた。
  • ・研究発表会に向けた研修が推進できた。

2年間の成果

  • ・生徒の成長に焦点を当てた到達度評価の手法と目的の枠組みが整理できた。
  • ・逆向き設計におけるパフォーマンス評価の推進によって、すべての教科で「どんな力を身につけてほしいか」「社会でどのように発揮してほしいか」について整理することができた。
  • ・ICT活用とパフォーマンスの相性のよさについて整理することができた。
  • ・情報モラルやリテラシー教育は、いつでもどこでも誰もが正しい使い方について考え、それに近づける営みが必要であることが理解できた。

今後の課題

  • ・パフォーマンス課題を含めた生徒の表現力の育成。そのためのICT活用
  • ・教員のWSを充実させる(集団的リーダーシップの醸成を図る)
  • ・さらなる表現方法の獲得のため、ドローン×プログラミングを進めていく
  • ・大阪市の整備した端末によるICT活用推進

2年間を振り返って

 この2年間を振り返って、思うことは1つ。当たり前のことをただ当たり前にするための奮闘だったということである。本校の取り組みの最上位の目的は、「すべての子どもに学習権と居場所の保障を」という従来から大切にされている理念そのものである。そして最上位の目標は「子どもたちが自身の人生を豊かにし、他者とよりよい社会をつくる」というとてもシンプルなものである。そしてこれらはもちろん、今までの教育現場が成し遂げ、「今」へつないできたものだということは言うまでもない。

 しかしこれらは、様々な要因によって達成が困難な状況にあると感じている。個に適した対応は年々増加し、複雑化している。日本の不登校問題も年々深刻化する一方である。もちろん子どもたちがよりよく生きるための一手となるのであれば、それらを惜しむことはない。だが、この「時間的」・「空間的」な課題は、教員の労働時間にも大きく影響を及してしまう。「子どもたちにとって個別最適な環境」と、それを実現する「教員の時間や余裕の捻出」という2つの課題を解決することが求められている。この問題は思ったよりも根が深く、「2つのバランスを保つ視点を探せばいい」といったものではなさそうである。この構造を根本から解決する仕組みを構築し、教育の「大切な営み」を守るにはICTが必要だ、そう考えるようになった。テクノロジーを基盤とした新たな学びの場を整えることが子どもの未来を照らし、教師の働き方を是正する一手になる。そう信じて、ICTの本格活用に向け、応募したことを思い出した。

 一人一台環境が整ったからといってスムーズに授業で活用できたわけでもなく、充実させるためには多少の苦労もあった。しかし、その2つの問題を解決するために、学校全体で少しの不安を抱えながらも新たな可能性に向けて動き始めた。研究としてはまだ一歩を踏み出したばかりなので、引き続き子どもたちのこれからをつくる学校として持続可能な取り組みを模索し続けていきたい。

 最後に、本校の多面的な取り組みを整理し、教科指導におけるパフォーマンスの視点を与え、ここまで導いてくれた寺嶋浩介准教授には本当に感謝をしている。アドバイスがなければどこに焦点をあてて推進すれば良いかまとまりのないまま進んでいたと感じている。

 また、このような機会を与えてくれたパナソニック教育財団の皆様にも感謝の意を申し上げ、結びとしたい。

成果目標

  1. 単元テストによって、生徒は学び直しの機会やできないところにより焦点をあてて学習をすることができる。
  2. 単元テストによって教師は教科の評価方法を改善する仕組みとなる。
  3. 生徒は自らの課題に応じて必要な学習の手立てを考え、選択するようになる。教師も課題を明らかにし、コーチングの視点の向上につながる。
  4. PBL型学習の推進に伴い、生徒はもちろん、教師も探究的なストーリーを描きながら授業をつくる力が深まる。これにより、学校経営においても同様に、課題解決の視点をもった教員集団が形成される。
  5. 生徒が望めば自主的に学ぶ仕組み(ICT機器当の整備・活用等)を整えることで、与えられたことをこなす学習の習慣から、自ら考え、選択し、行動することができる自律した学習者へと変容する。
  6. 取り組みによってどんな生徒を育成したいのかを明確にする。また評価の視点をつくり、学校全体で同様の方向性をもって学校運営を推進する。
アドバイザーコメント
寺嶋 浩介 先生
大阪教育大学
准教授 寺嶋 浩介 先生

 前回のアドバイスで,私は以下の2点をとりあげた。

(1)教科の差をなくしてほしい。
(2)他校に提供できるコンパクトな成果のまとめを作っていただきたい。

 この(2)について,同校が取り組んできたICT活用(その中には,2年目冒頭に意欲的に取り組んできたオンライン授業の取り組みも含む)について事例としてまとめていただいた。これについて,いずれの教科もまとめるように努力をされており,(1)のアドバイスについてもクリアしたと言える。事例集内の表現についてはまちまちなところがあるけれども,GIGAスクール構想によりひとり1台の情報端末が導入され,何から始めればよいかと考える学校にとっては大いに参考になると思う。

 新巽中学校は,特別研究指定校以前には本財団の一般助成校にも選ばれているが,ICT活用の先進校といえる学校ではない。自治体のモデル校などでもない。また,授業研究の歴史ある学校でもない。それだけに,手探りで進めてきた2年間だった。しかし振り返ってみると,この時代にあって学校の改革を進めていくことができるのは,計画性というよりも手探りでとにかく進めながら目的を作り上げていくスタイルなのかもしれない。

 とはいえ,今までやってきたことを持続可能とするためには,今後の実践の柱を明確にし,全員で共有すること,中心となってきた2名の教員以外にもリーダーシップを発揮する場を設けること,今後新しく赴任する教員を支援するための体制を整えること,という極めてオーソドックスな取り組みが求められると思う。