パナソニック教育財団
2019年度
成果報告会

開催日
2019年8月1日(木)・2日(金)
平成30年度成果報告会

多様な実践事例から学ぶ、ICT機器の効果的な活かし方

 8月1日と2日、インテックス大阪(南港コスモスクエア)で、パナソニック教育財団主催の2019年度 実践研究助成 成果報告会・シンポジウムを開催しました。

 昨年に引き続き、関西教育ICT展に併催する形となりました。

 1日のメインシンポジウムでは、2年間の実践研究助成を終えた第43回特別研究指定校4校の先生と、ご指導いただいた4名の研究者の先生方が、情報活用能力の育成について、活発な議論を展開しました。

 続くテーマシンポジウムでは、第43回特別指定校である御所市立名柄小学校の先生方が、会場と学校をテレビ会議(Skype)でつなぎ、遠隔授業について、ライブ感あふれる発表を披露してくださいました。

 当日の概要について内容の一部をご紹介します。

8月1日 メインシンポジウム・テーマシンポジウム

●主催者挨拶

小野元之

これからの時代に必須の技術や知識
共に考え、学校でのICT活用の課題を解決するヒントに

小野元之(パナソニック教育財団 理事長)

 私どもパナソニック教育財団は、1974年から全国でのべ約3100校に実践研究の助成をしてまいりました。その成果を多くの学校の先生方に見ていただくために、昨年からは成果報告会を関西教育ICT展と併せて開催しています。

 これから先の世界はICTやAIなど、様々な新しい技術がますます発展していくことでしょう。そこに子どもたちが適切に対応できるようにしていくことが大事だと考えております。本日の当財団の成果報告会・シンポジウムが、これからの時代に必須の技術や知識を共に考える場となり、今日の内容が多くの学校で課題を解決するヒントになれば幸いです。

●来賓ご挨拶

髙谷浩樹 氏

「学校教育の情報化の推進に関する法律」が成立
来年度に向けて、一人一台環境を推進

髙谷浩樹 氏(文部科学省 初等中等教育局 情報教育・外国語教育課 課長)

 学校の情報化については、これまで文部科学省も進めてはきましたが、諸外国と比べて遅れており、自治体間で格差があることに強い危機感を抱いています。文部科学省としましても、この6月に「新時代の学びを支える先端技術の活用推進方策」を打ち出し、国会でも、「学校教育の情報化の推進に関する法律」が成立しました。来年度に向けた政府の方針の中でも、一人一台環境に向けた施策を打っていくところです。その意味でも、この成果報告会の内容が一人でも多くの方に届けられることが必要だと思っています。改めて、関係者の皆様のご尽力に敬意を表しますと共に、お集まりの皆様のご活躍とご発展を祈念いたします。

成果報告会

【メインシンポジウム】
実践検証! 一人一台のタブレット環境の活かし方
~情報活用能力の育成を中心に~

●第1部 特別研究指定校の取り組みに学ぶ

田中祐希 氏

子どもの学びを深める活用法に向けて
情報教育カリキュラムを作成

田中祐希 氏(大阪初芝学園 はつしば学園小学校 教諭)

 本校は平成26年度に、全教室に電子黒板機能付きホワイトボードを設置し、無線LANを整備。3~6年の全児童がタブレットPCを個人所有しています。5年の算数では、まずは紙と鉛筆で考え、三角形が回転するアニメーションをタブレットに配信。タブレットに書き込みながら課題を考えました。

 また、各学年の先生から情報マイスターを一人決め、月1、2回の会議で検討し、各学年の情報教育カリキュラムを作成しました。

 最大の成果は情報活用の日常化です。とりあえずICTを活用しようではなく、児童へのアンケートも実施しながら、どうすれば子どもの学びが深まるかを検討し、ICTの活用を継続していきたいと考えています。

郡司直孝 氏

「身近な他者」から「公共の他者」へ
協働して発信する時こそ一人一台が力を発揮

郡司直孝 氏(北海道教育大学附属函館中学校 研究部長)

 2017年度より、BYODによる一人一台環境を実現。授業や学級活動でChromebookを利用した取り組みを行っています。2年の数学科では、身近な他者と公共の他者の間の「中間の他者」である1年生に対して、2年生の学習内容を伝えました。さらに作文コンクールや全国海洋教育サミットなど、「公共の他者」に向けた発信にも取り組みました。クラウド上で共同編集することで、お互いがつくったものを評価し、すぐに改善することができる。この他者との協働の時にこそ、一人一台環境が力を発揮するのではないかという結論に至りました。

久保田聡子 氏

日本以外の国への理解を深める
ダイバーシティ・コミュニケーション能力が向上

久保田聡子 氏(川崎市立川崎高等学校附属中学校 教諭)

 各教室にプロジェクター、スクリーン、パソコン、HDMIケーブルなどが備えられていて、BYODにて一人一台環境を整えています。今回は、日本以外の国の人たちへの理解を深める「ダイバーシティ・コミュニケーション能力」を高めることを目標にしました。2年の英語では、スライドやスクリプトを作成して、一時帰国するALTに英語で日本土産を紹介しました。3年の国語では、魯迅の『故郷』のせりふを切り取り、キャッチコピーを付けて、映画化を想定した2分間の予告映像をつくりました。一人一台のタブレットで撮影、編集、BGMづくりなどを分かれて行い、最終的に一つの作品に仕上げました。

森山結城 氏

グループ活動を4つの型に分類
生徒のわからなさを解決し、狙いを達成する

森山結城 氏(長岡京市立長岡中学校 研究主任)

 本校にあるタブレットPCは22台で、4~7人のグループ活動で使っています。プロジェクター、実物投影機、デジタルカメラ等と活用しながら研究を進めてきました。1年目の実践を4つの型に分類し、2年間で40~50のICT活動が生まれました。国語科では5、6人のグループをつくり、タブレットPCで平家物語の『扇の的』の場面をスライドにしました。本校のICT活用の目的は、①狙いを達成するため、②深い学びにつながる対話を促すため、③ICT機器だからこそできることを実現するため。この3点です。狙いや生徒のわからなさを解決する視点を外さないことが、よりよい授業の実現につながりました。

4校の取り組みから見えてくる
情報教育の新たな可能性と実現するための留意点

木原俊行 氏(大阪教育大学 教授)

 第1部では、第43回特別研究指定校の実践研究の知見を踏まえながら、一人一台の端末が実現している環境で、どのような情報教育の新たな可能性や、それを実現するための留意点があるのかを明らかにしていきたいと思います。4校は一人一台のタブレット等の端末環境あるいは、それに準ずる環境を有していますが、そこでどのような確かで豊かな取り組みが行われているのかを味わいながら、4校の取り組みに見える共通点や差異点を確認できればと思います。

課題設定や一人一台の活用法など
4校の共通点と差異点

小柳和喜雄 氏(奈良教育大学 教授)

 4校に共通していたのはICTの活用が協働的な学びと密接に関わりながら、教科等の学習の狙い達成に役立つように使われていた点です。その中に情報活用能力の育成も埋め込まれていましたし、課題の設定や、そこへ導く組み立てにも工夫が見られました。差異点としては、一人一台が日常利用されている場合もあれば、必要に応じて予約して使っている学校もありました。必要に応じてメディア選択をしているかどうか、また課題設定についても公共の他者を想定したり、現実的な需要にコミットしたりといった違いが見られました。

継続的な視点により取り組みが定着
グループで考えるからこそ対話が生まれる

浅井和行 氏(京都教育大学 副学長・教授)

 研究方法という視点から見た時、特別研究指定校は実践を始める前と最中と後で児童・生徒がどう変容したか、しっかり把握しておられました。以前、校長を務めていた京都教育大学附属桃山小学校が特別研究指定校になった際、助成から2年ほど経って、学校の取り組みとして継続されているかどうか調査が入りました。財団が継続的な視点で見ているからこそ、特別研究指定校の取り組みが定着してきているのだと思います。また、差異点については、一人一台がテーマにはなっていますが、日本の多くの学校が長岡中学のようにグループでタブレットPCを使っています。長岡中学の実践を参考にするなら、まずは一人で考え、グループで考える時にタブレットPCを使ったからこそ、2年間の取り組みの中で会話ではなく対話が生まれるようになったのだと思います。

情報活用能力をつけるカリキュラム
国のレベルで組むことが重要

吉崎静夫 氏(日本女子大学 名誉教授、横浜国立大学 客員教授)

 情報活用能力は、次の学習指導要領の中でも教科横断的につけたいとされる資質能力の一つです。文部科学省が数年前に行った調査によれば、子どもたちはICT機器には慣れていますが、複数のページを関連づけて問題解決する情報活用能力や、受け手の状況に合わせて情報発信する能力が育っているかどうかが疑問で、そのためのカリキュラムを組むことが国のレベルでも重要だということがはっきりしました。明瞭な目的をもった学習道具としてICTをどう使うかという学習方法と、資質能力の目標としての情報活用能力は分けて考える必要がありますが、今回の4校の実践にはこの点もしっかり入っていたと思います。

●第2部 情報教育の新しい体系を踏まえた実践を展望する

木原俊行 氏

「情報活用能力の体系表」に当てはめ
特別研究指定校の実践を位置づける

木原俊行 氏(大阪教育大学 教授)

 ここからは、文部科学省の事業であるIE-Schoolが実践研究で生み出した「情報活用能力の体系表」に基づいて、今回の実践校の取り組みを位置づけていきます。今の情報活用能力は、情報活用の実践力、情報の科学的な理解、情報社会に参画する態度の3つから成りますが、これを資質能力でまとめ直します。こうした体系表を各学校が自校のカリキュラムに落とし込むには、カリキュラム・マネジメントを行う必要がありますが、この取り組み自体が新学習指導要領への対応になります。特別研究指定校などの取り組みを体系表に当てはめ、どんなことに取り組まなければならないかを考えていきます。

浅井和行 氏

自分で考え、操作し、他者と議論することで
思考力と情報技術が練り上げられていく

浅井和行 氏(京都教育大学 副学長・教授)

 私は、一人一台環境によって育みやすい資質能力について考えてみました。自分で考え、操作する活動のあと、他者と議論することで学びの質は高まるのだと思います。その結果、一人ひとりの情報技術、操作スキルが伸びていきます。京都教育大学附属桃山小学校では、一人一台環境を続けたところ、6年の国語科で宮沢賢治の『やまなし』を読んで「一人ひとりが幸せで平和でない社会には宮沢賢治の世界観はない」といった、ICTを活用して思考を深める議論ができるようになりました。一人で考えたあとにクラスで議論したことで、思考力を練り上げながら、情報技術にも裏打ちされた学習が進んでいったと考えられます。

吉崎静夫 氏

すべての教科で活かせる情報活用能力
そのために有効なBYODという環境

吉崎静夫 氏(日本女子大学 名誉教授、横浜国立大学 客員教授)

 私がアドバイザーを務めた函館中学校では、情報活用能力をすべての教科に活かすカリキュラムが組まれていました。2年の国語科では作文コンクールに出すために、35人いる生徒のうち18人に個別指導をしていました。加えて、教室ではなく別の場所から「Googleクラスルーム」に入って指導に加わっている先生もいました。このような手法で大学の先生や小説家にも入ってもらうことで、新たなティーム・ティーチングが生まれそうな気がします。すべての教科で「思考力、判断力、表現力等」を育む際に情報活用能力は必要ですし、そのためにもBYODという環境は効果的だと思います。

小柳和喜雄 氏

ICTを効率よく使いこなし
深い学びのための考える時間を確保

小柳和喜雄 氏(奈良教育大学 教授)

 体系表で言うと、一人一台環境で育みやすいのは「知識及び技能」だと思います。「思考力、判断力、表現力等」は協働で課題を考える中で、「学びに向かう力、人間性等」は個人と協働両方の活動を通して身につけていくものだと考えています。深い学びのためには、じっくり議論する時間が必要です。知識・技能として情報活用能力のスキルをもっていると、ICTを効率よく使いこなすことができるので、その分、考える時間を確保しやすくなるように思います。

成果報告会

主体的・対話的で深い学びを充実させ
思考力、判断力、表現力を育む

木原俊行 氏(大阪教育大学 教授)

 一人一台の環境は、主体的・対話的で深い学びを充実させ、資質能力を育成しやすくするという点において、新学習指導要領対応だということが言えると思います。中でも、情報技術に関する技能を子どもたちにもたらすことは、川崎高等学校附属中学校の実証データが示している通りです。資質能力の中でも思考力、判断力、表現力、さらにそれが未知の状況に対応する課題の場合に顕著であることがわかってきました。

 また、一人一台ではあっても黙々と端末に向かうだけではなく、体を近寄せて人らしく学び合うことができれば、なおいいのではないでしょうか。

 これからの取り組みとしては、タブレット端末を使っている時こそ学習状況の把握に努める必要があります。一人一台環境は学習評価のツール、つまり子どもたち個別最適の学びを認め、促し、モニタリングするツールとしても資するのではないかと思います。

岸磨貴子 氏

【テーマシンポジウム】
「ライブ授業」で、広がる学び、深まる学び
~御所市立名柄小学校の遠隔授業
 2年間のノウハウ公開~

獲得する学びから生成する学びへ
子どもたちの多様性や才能を広げるライブ授業

岸磨貴子 氏(明治大学 准教授)

 名柄小学校は、3年前にSkypeを使ったライブ授業を始めました。今は全学年、全教科に実践が広がっています。インターネットを使って地域や世界とつながる学びでは何が起こるかわからず、先生方は即興的に対応してきました。ロシアの発達心理学者ヴィゴツキーの考えに基づき、私たちは子どもたちが頭一つ分背伸びできる教育環境をつくってきました。獲得する学びから生成する学びへ。つまり発達段階に応じて積み重ねていく垂直的学習ではなく、関心をもったことを横に広げる水平的学習を目指してきました。この探求的な学習を進めるためには意欲、情動、環境が必要になります。子どもたちがやりたいことを実現するためにICT環境を整えました。名柄小学校では、個々の子どもたちの多様性や才能を広げる、インプロバイザーとしての教師の姿を目にすることができました。

遠隔合同授業から海外との交流へ展開

山本訓子 氏(御所市立名柄小学校 教頭)

 名柄小学校は全校児童60人の小さな学校です。2015年は入学する子どもが一人でした。同じ学年の子と活動する場を設定しようと、2年生から隣の小学校と遠隔合同授業を開始。ほかにも海外との交流や社会見学など、いろいろな可能性が思い浮かび、全校でライブ授業を行うことになりました。そこで、まずは地元の警察署と教室をつなぎましたが、子どもたちの反応が悪く、リアルタイムのやり取りがうまくいきませんでした。ここから、私たち教師のさまざまな工夫が始まりました。

中谷瞳 氏

教科書だけではわからない学びを実感

中谷瞳 氏(現・橿原市立金橋小学校 教諭)

 ある時、6年の外国語の授業で、外国の子どもたちのリアクションを目にする機会がありました。そこから子どもたちは、自分でマイクをつくったり、ジェスチャーをしたりと変化していきました。

 薬品工場の見学をした時も、衛生面から子どもたちはガラス越しに見ることしかできませんでしたが、「エアーシャワーが見たかった」という声が児童からあがり、教師が代表してエアーシャワーに入らせてもらいました。そのライブ映像から風の勢いや音の大きさが伝わり、教科書だけではわからない学びがありました。

 本校にはICTに強い先生がいません。だからこそ力を合わせ、教師自身も頭一つ分の学びを積み重ねてきました。実践のたびに全員で振り返りをし、改善点を出し合ったことがレベルアップにつながったと思います。

災害に強い町づくりを市長に提案

谷本秀年 氏(御所市立名柄小学校 講師)

 5、6年の学習では、御所市長と交流する機会を設けました。その年は台風の被害がひどかったので、これまで御所市にどのような災害が起きたのかを市長に聞き、魅力ある市にするためには災害に強い町づくりが必要だと子どもたちが提案。5年生は名柄小学校が行っている防災の取り組みをリーフレットにまとめ、6年生は地域の森林組合長に聞いた防災のためにできることをグラフィックレコードとしてまとめました。これらの内容を、ライブ授業を通して市長に提案しました。

柳沢真由美 氏

レイアウトマップで英語の授業に備える

柳沢真由美 氏(御所市立名柄小学校 教諭)
※テレビ会議で参加

 5、6年のライブ授業では、海外の子どもたちに風呂敷を紹介しました。1台のカメラで風呂敷を包む様子を撮影し、もう1台のカメラで包み方を説明する様子を撮影しました。

 子どもたちの語彙力は限られているので、自分たちが用意した質問はすらすらでき、相手の言うことも何となく聞き取ることはできていましたが、新たに相手に聞きたい内容を英語にすることはできませんでした。

 そこで子どもたちは、あらかじめホワイトボードに5W1Hや、つながりのある単語を書いて質問の準備をしました。それらをレイアウトマップにまとめ、次の授業に備える工夫をすることで問題を解決しました。

8月2日【パネルディスカッション】
特別支援教育におけるICT活用

パネルディスカッション

 8月2日は、関西教育ICT展の特別支援教育におけるICT活用について考えるパネルディスカッションに、第43回特別研究指定校の愛知県立みあい特別支援学校が、大阪府立堺聴覚支援学校と共にパネラーとして参加。人型ロボットPepperを活用した実践研究についての発表を行いました。

岡田拓也 氏/野口直人 氏

ESDの視点で取り組んだ
対話型ロボット活用の可能性

岡田拓也 氏(愛知県立みあい特別支援学校 教諭)
野口直人 氏(愛知県立みあい特別支援学校 教諭)

 本校は平成23年度から、パナソニック教育財団の助成を受けてICT環境を整えてきました。一方で「共生社会の実現」を目標に掲げ、ESD活動にも取り組んできました。今回はPepperを使い、2年をかけて、教育分野におけるロボット活用の可能性について考えてみました。

 「自分の力を発揮する」事例としては、知的障害のある小学部3年の児童がPepperとの挨拶を繰り返すうちに、教師や友達にも自分から挨拶や話ができるようになりました。「社会に参加する」事例では、人前で話せず、集団にも参加できなかった高等部3年の生徒が、Pepperを自分の代わりとして操作することで自信をつけ、文化祭の最前列で太鼓の演奏を発表できるまでになりました。「社会に役立つ」事例としては、高等部の生徒会役員らがPepperと校内で挨拶運動をすることで笑顔の大切さに気づき、最寄り駅で挨拶運動を始めました。ESDの視点をもつことで、子どもの将来像をイメージして、小学部から高等部まで系統立った指導や支援が必要だと気づく機会になりました。

 Pepperの人工知能では教育活動に適した会話が難しかったため、途中から、アプリを使ってPepperをコントロールする実践方法に変えました。これらの実践内容は事例集とPepperの操作マニュアルにまとめました。相手がPepperだから合わせられるし、自分の思いを表現できるという子もいる一方で、恐れて近づけない子もいました。使用にかかる予算や労力・時間も今後の課題です。

ICTは障害のある子どもたちの「Stand by Me」
ツールより上位に人間がいることを忘れずに

田村順一 氏(帝京大学 教授)

 ESDが目指すのは、誰もが例外にならない共生社会をつくっていくことだと思います。みあい特別支援学校では、子どもがどう社会に貢献し、接点をもてるかという視点で実践を進めていきました。障害のある子どもたちは、①コミュニケーションの不成立、②意思決定の困難、③生活に必要な知識や技能の不足、といった生きづらさを抱えています。その結果、自己主張をせず、他人の言うままになったほうが生きやすいと考えてしまいがちです。

 ICTはパートナーにも、アシスタントにも、学習ツールにも、人とつながるツールにもなります。いつもそばにいて、ちょっとだけ助けてくれるICTは障害のある子にとっての「Stand by Me」なのかもしれません。