長岡市立関原中学校

第47回特別研究指定校

研究課題

自己の生き方を追求し,よりよい社会を創ろうとする能動的学習者の育成
~知・徳・体を総合的に育むICTを活用したキャリア教育の実践を通して~

2022年度01-03月期(最新活動報告)

最新活動報告
様々な教育データ(エビデンス)による2年間の研究の成果と課題の......

アドバイザーコメント

吉崎 静夫 先生
2022年11月25日に行われた公開研究発表会の後、私(吉崎)は......

長岡市立関原中学校の研究課題に関する内容

都道府県 学校 新潟県 長岡市立関原中学校
アドバイザー 吉崎 静夫 日本女子大学 名誉教授
研究テーマ 自己の生き方を追求し,よりよい社会を創ろうとする能動的学習者の育成
~知・徳・体を総合的に育むICTを活用したキャリア教育の実践を通して~
目的 ICTを活用して,これまで「知」に重点が置かれ,バラバラに育成されてきた「知」「徳」「体」を,キャリア教育(生活や社会,生き方)でつなぎ,すべての教育活動で6つの基礎的・汎用的能力を活用しながら総合的に育むことを目的とする。
現状と課題

生徒は明るく,素直で,授業態度も落ち着いている。しかし,学習の目的や将来の目標を見いだすことができず,受動的な態度の生徒が少なくない。学校区は,1小学校1中学校で,小中連携して「知」「徳」「体」の部会ごとに研修を深めている。しかし,各部会ごとの活動が行事化され,「知」「徳」「体」を校内で,総合的に育む仕組みがない。

学校情報化の現状 GIGAスクール構想により,ようやく ICT機器等が整備されつつある。教職員のICT活用に対する意欲も高く,期待も大きい。しかし,「学校情報化」の内容や学校のレベルを初めて知った状態である。生徒も,教職員も,他地域の先進校の取組や環境等の情報を得ることで,学校や地域の特徴を生かし,地域の学校情報化推進校としての役割を果たしたい。
取り組み内容 「知」:指導過程[導入,展開1(個の学び),展開(学び合い),まとめ]におけるICTを活用した授業改善
「徳」:ICT を活用した「学びのポートフォリオ」を活かした「キャリア・パスポート」の作成とその活用
「体」:ICT を活用した「自己理解シート」と「生活記録シート」の作成とその活用
成果目標
  • ○キャリア教育の基礎的・汎用的能力を育むICTを活用した授業改善
  • ○学びのポートフォリオおよびキャリア・パスポートのデジタル化
  • ○自己理解シート・生活記録シートのアプリ化
助成金の使途 Google Chromebook Acer、ブラザーA3プリンター、プリンターインク、研究リーフレット印刷費、WiFiレンタル他
研究代表者 田中 哲也
研究指定期間 2021年度~2022年度
学校HP https://www.kome100.ne.jp/sekihara-jhs/
公開研究会の予定 公開研究会:令和4年11月、日本キャリア教育学会:令和4年11月

本期間(4月~7月)の取り組み内容

  1. 1 研究内容の再検討
  2. 2 校内ICT環境整備
  3. 3 ICTを活用したキャリア教育の授業実践

アドバイザーの助言と助言への対応

  • ・キャリア教育の目的の一つとして,「もう一人の自分」の育成することの重要性,必要性についての助言を受け,研究目的および研究方法の再検討を行った。
  • ・研究主題の「能動的学習者」とは何かという指摘を受け,目指す生徒像を設定し,その具体化を図った。
  • ・「学びのポートフォリオ」の現実的な実施についてアドバイスをいただき,研究方法に具体的取り入れた。

本期間の裏話

  • ・研究内容が「知」「徳」「体」と広範囲にわたっており,それぞれが個別の取組として捉えられ,焦点が絞れない状況であったが,アドバイザーの先生方のアドバイスによって,焦点化され,研究の方向が明確になると同時に,職員の共通理解を図ることができた。
  • ・本研究に対する職員のモチベーションを上げるため,まずはICT機器の整備を行った。普通教室内にテレビ,書画カメラ,PCを常設し,「いつでも」,「だれでも」,「どこでも」I活用できるようにICT環境を整えた。
  • ・研究としてではなく,偶然にも東京の企業や海外の施設とつながる機会をいただき,ICT機器を活用したオンライン授業を実施した。生徒,職員ともに授業の成果を実感するとともに,ICT機器の活用について新たな知見を得,今後の授業を考えるきっかけとなった。

本期間の成果

1 研究内容の再検討を受け,新たに「研究構想図」を作成し,研究の方向を明確にするとともに,職員の共通理解を図ることができた(図1)。

2 GIGAスクール構想により以前に比べ格段にICT機器が整備されたが実際に活用するとなると不都合や不便さを感じる場面があった。そこで,その不都合な点や不便な点を一つ一つ解消するために,以下の校内のICT環境整備を行った(図2,図3)。

  • ・普通教室に,大型モニタ(テレビ),書画カメラ,PC,LANケーブルを常設した。
  • ・特別教室,体育館でWi-Fiを使用できるようにアクセスポイントを設置した。
  • ・特別教室,体育館に,大型モニタ(テレビ)とChromecast,無線LANアクセスポイントを設置した。
  • ・すべての学級にオンライン授業やオンライン授業参観で使用する広角WEBカメラとカメラスタンドを整備した。

図1 校内研究構想図

図2 教室内に常設された大型モニタ

図3 広角WEBカメラによるオンライン授業

3 ICTを活用したキャリア教育の授業実践

(1) 保健体育 ※学習指導案(図12)

図4 トレーニングの検索

図5 自己の課題とトレーニングプランの組立

(2) 英語 ※学習指導案(図13)

図6 将来の夢の紹介プレゼンテーション

図7 発表に合わせた機器操作の様子

(3) 理科 「Science職業講話」

図8 アメリカNOAAとのオンライン授業

図9 ドイツ南極基地とのオンライン授業

(4) 総合的な学習の時間 「オンライン職業講話」

図10 生徒から講師への質問の様子

図11 質問に答える講師

図12 保健体育学習指導案

図13 英語学習指導案

今後の課題

  • ・「学びのポートフォリオ」「キャリア・パスポート」「自己理解シート」「生活理解シート」の具体化とそれらを活用した授業を構想する。
  • ・日常的にICTを活用したキャリア教育の授業改善を図っていく。

今後の計画

  • ・8月20日(金)アドバイザー訪問 「知・徳・体の各部会からの提案と協議」
  • ・11月26日(金)アドバイザー訪問 「ICTを活用したキャリア教育の公開授業」
  • ・1月下旬    アドバイザー訪問 「学びのポートフォリオ,キャリア・パスポート,自己理解シート,生活記録シートを活用した公開授業」

気付き・学び

  • ・ICTの活用で,県内外の職業人や海外の機関とつながることに抵抗感が少なくなった。
  • ・地域を中核とした学校教育を,ICTを活用しグローバルな視点で教育活動を見直すことで,新たな教育活動の創造につながることを実感した。

成果目標

  • ・基礎的・汎用的能力を育み,教科のねらいを達成するICTを活用した「授業改善」
  • ・教科の学びと生き方をつなぎ,学習意欲の向上を図る「学びのポートフォリオ」の作成
  • ・学習活動の事実と考察により自己肯定感を育む「キャリア・パスポート」の作成
  • ・自己理解を促し,自己調整能力を育成する「自己理解シート」「生活理解シート」の作成
アドバイザーコメント
吉崎 静夫 先生
日本女子大学
名誉教授 吉崎 静夫 先生
  

 本期間は、新たな「研究構想図」の作成、校内ICT環境整備、ICTを活用したキャリア教育の授業実践が行われたことに特長がある。

●成果

(1)キャリア教育の視点の一つとして、「もう一人の自分を育成すること」の必要性を考慮することによって、研究目的がより明確になった。具体的には、「もう一人の自分」の視点から、これまでの学びや自己の行動を振り返り、自分のよさや課題に気づき、課題を解決しようとする意欲と態度を育むことをめざすということである。

そして、本校の特長は、自分のよさや課題に気づくための手がかりとして、ICTを活用した「学びのポートフォリオ」「キャリア・パスポート」「自己理解シート」「生活理解シート」を開発しようとしていることにある。

(2)普通教室に大型モニタ(テレビ)、書画カメラ、PC、LANケーブルの常設、さらに特別教室や体育館でWi-Fiを使用できるようにするためのアクセスポイントの設置など、校内のICT環境整備が一段と進んだことによって、一人一台端末を活用した授業がスムーズに展開できるようになった。

(3)保健体育、英語、理科、総合的な学習などで、ICTを活用したキャリア教育の授業実践が行われた。特に、アメリカNOAAやドイツ南極基地とのオンライン授業は注目に値する。

●今後の課題と期待

(1)生徒が「自己内対話(もう一人の自分との対話)」を通じて、自らの学びや行動を振り返り、自分のよさや課題に気づくことできるためには、どのようなデジタル・データ(「学びのポートフォリオ」「キャリア・パスポート」「自己理解シート」「生活理解シート」)が有効なのかを実践を通して検討してほしい。

(2)「もう一人の自分」には、「三人称的視点(自分の姿や成長を第三者の視点から、客観的に冷静に見つめるもう一人の自分)」と「二人称的視点(自分に寄り添い、励まし、ときには本音を引き出してくれるもう一人の自分)」が求められる。キャリア教育を通じて、「もう一人の自分」の三人称的視点と二人称的視点がどのように機能するのかを実践を通して検討してほしい。

(3)生きがい教育(キャリア教育)のためには、教育心理学者で東大名誉教授の市川伸一先生が提唱しているように、「なりたい自己(the self that I want to be)」と「なれる自己(the self that I am able to be)」を広げていくことが大切である。そして、ICTを活用したキャリア教育の実践を通して、「なりたい自己」と「なれる自己」の重なりを生徒に気づかせてほしい。

本期間(8月~12月)の取り組み内容

  1. 1 ICTの活用を通して,学習過程(「課題把握」「個の学び」「集団の学び」「振り返り」)をキャリア教育の視点(「学習内容」と「学習方法(資質・能力の活用)で見直し,工夫・改善した「教科」の授業実践
  1. 2 ICTを活用した「学びのポートフォリオ」「キャリア・パスポート」「自己理解シート」の作成とその活用
  2. 3 校内ICT環境整備

アドバイザーの助言と助言への対応

助言1

生徒が「自己内対話(もう一人の自分との対話)」を通じて,自らの学びや行動を振り返り,自分のよさや課題に気づくことができるためには,どのようなデジタルデータ(「学びのポートフォリオ」「キャリア・パスポート」「自己理解シート」「生活理解シート」)が有効なのかを実践を通して検討してほしい。

対応1

⑴「学びのポートフォリオ」

  • ・すべての教科で,単元の週末に学びのポートフォリオの記入の時間を設定することを共通理解した。
  • ・学びのポートフォリオの項目は,単元の学びでの「興味・関心」「生活や社会,将来とのかかわり」「異教科とのかかわり」の3つを共通項目とした。
  • ・クラスごとに「学びのポートフォリオ」のクラスルームを作成し,個人用のスプレッドシートに全教科のポートフォリオを記入する。
  • ・「学びのポートフォリオ」は,「キャリア・パスポート」記入時に活用させる。

⑵「キャリア・パスポート」

  • ・自己を振り返る基本となる「キャリア・パスポート」を年3回(学年初め,1学期末,学年末)とし,フォームから入力,エクセルで出力する。
  • ・入力内容は「これまでの自分」「今の自分」「これからの自分」の3つに構成され,「学びのポートフォリオ」と共通項目を設けた。
  • ・教師からのメッセージ,保護者からのメッセージ,それらを受けての自分の感想を書かせるように工夫した。

⑶「自己理解シート」

  • ・自己理解シートには,「知」は「NRT」「定期考査」「評定」,「徳」は,「Q-U結果の感想」「職業レディネステスト」,「体」は,「身長と体重の推移」「体力テスト」と3年間の教育データを1枚のシートにまとめた。

以上,3つのシートの入力を行ったが,効果的な活用と内容の検討が今後の研究の取組である。

助言2

キャリア教育を通じて,「もう一人の自分」の三人称的視点と二人称的視点がどのように機能するかを実践を通して検討してほしい。

対応2

全校朝会や職員研修で「もう一人の自分」について共通理解を図った。社会的・職業的自立を目指すキャリア教育を通して,授業の「振り返り」の場面において,三人称的視点と二人称的視点からの問いを設定する。さらに,相談活動を充実させそれぞれの視点から自己の行動の振り返りを促す。

助言3

ICTを活用してキャリア教育の実践を通して,「なりたい自己」と「なれる自己」の重なりを生徒に気づかせてほしい。

対応3

「なりたい自己」を自分の興味や夢,目標と捉え,「なれる自己」を自信や身に付けた資質・能力と捉え,それらをつなぐ力を本研究で育成する「学習意欲」「自己肯定感」「自己調整力」と考える。まずは,キャリア・パスポートで,自分の「なりたい自己」と「なれる自己」を明確にし,その重なり具合を定期的に評価していく。さらに,「学習意欲」「自己肯定感」「自己調整力」の向上と「なりたい自己」と「なれる自己」の重なりの変化を本研究で追究する。

本期間の裏話

 コロナ禍のため,第1回のアドバイザー訪問がオンラインでの研修となったが,アドバイザーの吉崎先生からのご指導や財団事務局の関戸様からのご説明をいただき,本研究の意義及び目的,具体的な取組が明確になった。これまで「何をやったらいいのか」「研究をやる意義は何か」と疑問を抱いていた職員もいたと思うが,全職員が研究内容を再確認し,研究に対する意欲を高めることができた。

 また,第2回のアドバイザー訪問では,アドバイザーの吉崎先生と財団事務局の石井様をお迎えすることができ,対面でのご指導をいただいた。全職員が研究への(もう後戻りはできない)覚悟を持つことができたと感じている。

 さらに,本研究に対する職員のモチベーションを上げるため,若手職員による研究授業を設定した。「学び(理科)」と「日常生活」,「学び(理科)」と「異教科(家庭科)」,「学び(実験)」と「ICT(実験動画)」,「学び(実験)」と「ICT(体験)」など,学びのつながりを十分に盛り込んだキャリア教育の理科の授業であったが,残念ながら参観職員が少なかった。今後の研究授業の在り方を考えるきっかけとなった。

 11月末で,これまで使用していた普通教室のプロジェクター,書画カメラ,マグネットスクリーンの市教育委員会のリース期間が終了し返却することとなった。助成金を活用させていただき,7台のプロジェクターと4本のマグネットスクリーンを購入させていただいた。ありがとうございました。

本期間の成果

1 ICTの活用を通して,学習過程(「課題把握」「個の学び」「集団の学び」「振り返り」)をキャリア教育の視点(「学習内容」と「資質・能力」)で見直し,工夫・改善した「教科」の授業実践

Jamboardでの実験結果の共有の様子

Googleformsでの振り返りの様子

2 ICTを活用した「学びのポートフォリオ」「キャリア・パスポート」「自己理解シート」の作成とその活用

⑴ Classroomとスプレッドシートで蓄積する「学びのポートフォリオ」生徒の記入例

(※実物は各教科ごとのシートに記入する。)

⑵ 3年間の教育データを可視化・集約した「自己理解シート」

⑶ Googleformsから入力し,エクセルで作成した「キャリア・パスポート」

3 校内ICT環境整備による国際交流授業の充実

 校内のICT環境が整備されたことにより,1学期に引き続き,国際交流授業の実施回数が格段に増加しました。グローバルな視点が求められる中,将来,自分の生き方を考える良いきっかけとなっている。

フィリピン留学生との交流1

フィリピン留学生との交流2

モンゴル留学生との交流授業

ウクライナの学校との交流授業

今後の課題

  • ・「学びのポートフォリオ」の記入内容の質的向上を図るため,「生活や社会,職業と関連付けた授業」,「他教科と関連付けた授業」のより一層のキャリア教育の授業改善
  • ・「キャリア・パスポート」の記入内容の質的向上を図る記入時における対話的活動の工夫
  • ・教育相談(進路相談)における「自己理解シート」活用
  • ・学級活動における「生活理解シート」の活用
  • ・学習過程において,「学習内容」と「資質・能力」育成の視点からのICTを活用したキャリア教育の授業改善

今後の計画

  • ・令和4年 2月 「キャリア・パスポート」を活用した学級活動の公開授業
  • ・令和4年 5月 「生活理解シート」を活用した学級活動の公開授業
  • ・令和4年 8月  公開授業研究会授業構想検討会
  • ・令和4年11月 「公開授業研究会」 学級活動2,教科1の3クラスの公開授業

気付き・学び

「学び」が生活や社会,将来(職業)とつながることが,同時に異教科とつながることになっていることに気付いた。これまで,職業人講師を招聘しての授業を,同じ学校の異教科の教員から教わることで,教職員集団の和が深まり,授業力の向上につながることを実感した。

成果目標

  • ・学びと生活や社会,将来をつなぎ,基礎的・汎用的能力を育むICTを活用した「授業改善」とキャリア教育を明示したカリキュラム表の作成による「カリキュラム・マネジメント」
  • ・教科の学びと生き方をつなぐ「学びのポートフォリオ」の蓄積と活用による「学習意欲の向上」
  • ・「もう一人の自分」の視点から学習活動の事実と考察を図る「キャリア・パスポート」の対話的活用による「自己肯定感の育成」
  • ・可視化された教育データで客観的に自己理解を促す「自己理解シート」と「生活理解シート」の効果的な活用による「自己調整能力の育成」
  • ・「なりたい自己」と「なれる自己」との重なり成長と「学習意欲」「自己肯定感」「自己調整力」との関係を調べる。
アドバイザーコメント
吉崎 静夫 先生
日本女子大学
名誉教授 吉崎 静夫 先生
  

2021年8月~12月

 本期間を通して、キャリア教育(生き方教育)を中核として、学習指導(授業)と生徒指導(学級会など)を推進することが明確な形になってきた。その際、一人一台端末を活用して、「学びのポートフォリオ」「キャリア・パスポート」「自己理解シート」を作成し、その資料(データ)を手がかりとしながら、生徒自身が自らの「学び」や「生活」をリフレクション(振り返り、省察)できるようになってきた。

●成果

(1)キャリア教育の視点からの授業づくりが明確になってきた。例えば、「生活や社会、生き方(職業)に関連した題材、教材を活用した授業」「他教科と関連した題材、教材を活用した授業」「職業人や他教科の教員を活用した授業」などである。

(2)生徒が自らの生活や学びをリフレクションするための「学びのポートフォリオ」「キャリア・パスポート」「自己理解シート」の作成方法や活用方法が明確になった。

(3)キャリア教育を通した育成したい資質・能力である「学習意欲」「自己肯定感」「自己調整力」をどのように育てるのかというストラテジーが明確になってきた。例えば、①教科の学びと生き方をつなぐ「学びのポートフォリオ」の蓄積と活用による「学習意欲の向上」、②「もう一人の自分」の視点から学習活動の事実と考察を図る「キャリア・パスポート」の対話的活用による「自己肯定感の育成」、③可視化された教育データで客観的に自己理解を促す「自己理解シート」と「生活理解シート」の効果的な活用による「自己調整力の育成」である。

(4)理科を担当する若手教員が、「学び」と「日常生活」、「理科」と「家庭科」、「実験」と「ICT(動画)」など、学びのつながりを十分に盛り込んだ授業をデザインし、実践した。今後の「キャリア教育の視点を取り入れた授業」のあり方を考えるきっかけとなった。

●今後の課題と期待

(1)本期間に行われた理科の授業実践のように、日常生活や他教科とつながる授業をさまざまな教科でデザインし、実践してほしい。そして、日常生活や他教科とつながる授業を、キャリア教育の視点から意味づけてもらいたい。

(2)キャリア教育を通して育成しようとしている資質・能力(学習意欲、自己肯定感、自己調整力)が生徒にどのように育っているのかを実証的に明らかにしてほしい。その際、生徒が作成した「学びのポートフォリオ」「キャリア・パスポート」「自己理解シート」の内容分析をしてほしい。例えば、テキストマイニング手法を活用することが考えられる。

本期間(1月~3月)の取り組み内容

1 ICTを活用したキャリア教育の授業実践

⑴ 3年生 学級活動「経済から10年後の生活をシミュレーションしよう」
⑵ 3年生 国語「広告の読み比べ」・自社の商品を宣伝しよう
⑶ 2年生 家庭科「食品の選択・購入」
⑷ 2年生 学級活動「キャリア・パスポートを活用した授業」

GoogleFormsでなりたい自分を入力

友達の良さを付せんを使って伝える

2 知の「学びのポートフォリオ」・徳の「キャリア・パスポート」・体の「自己理解シート」の実施とその活用方法の検討

3 学校評価による研究成果と課題の分析(基礎的・汎用的能力)

□生徒アンケートから (N=255)

(当てはまる4点,どちらかというと当てはまる3点,どちらかというと当てはまらない2点,当てはまらない1点とした平均)

 学校生活では,相手を認めたり,協力したり,人の役に立つなど,対人関係に関する項目は肯定的評価が高かった。しかし,自分を見つめたり,あきらめないで取り組んだり,自信をもって挑戦する個の取組に関する項目の肯定的な評価が比較的低い。特に,キャリアプランニング能力にかかわる「先を見通し,目標や計画を立てて努力している」や「将来なりたい職業や夢にの実現に向けて自分の進路を考えている」では,「当てはまる」と回答した割合は,2,3割と低くなっている。

□保護者アンケート (N=189)

 子供に身に付けたい資質・能力では,「課題対応能力」(やり抜く力・挑戦する力)と「キャリアプランニング能力」(見通す力・将来や生き方を考える力)と回答した保護者が多い。これらの力は,生徒が身に付いていないと感じている力と一致しており,保護者も実際の社会を生きていくうえで大切であると感じていることの現れであると考える。

□職員アンケート (N=18)

 様々な教育活動の中で,基礎的・汎用的能力の育成を意識して取り組んだ教職員が増加したしたことは,今年度の大きな成果である。

アドバイザーの助言と助言への対応

助言1

「キャリア・パスポート」の内容①「これまでの自分」を振り返ろう、②「今の自分」を見つめよう、③「これからの自分」を考えよう3つの構成は良い。

助言2

「教科と特別活動の連携によるキャリア教育が実践されている。」

助言3

「研究授業の中で、班活動で、自己評価を述べた後、授業者は、「自己評価以外の良い点を付せんに書いて下さい」と指示を出したが、自己評価と同じ良い点を書いて伝えてもよい。」

対応3 「自己評価と同じ良い点を書いて伝えることで、自己肯定感は高まる。実践していきたい。」さらに,自己評価は個人によって厳しい生徒もいれば,甘い生徒もいる。キャリア・パスポートを用いた教育相談を通して,対話的に生徒と関わり,正しい評価をできるよう自己評価能力を高めていく。

助言4

「生徒が、他者からの多様な意見をもらうことで、「もう一人の自分」を育てていくことができる。また、マズローの欲求5段階説にある社会的承認・承認欲求が満たされることで、自己実現(なりたい自分)に繋がる図式にも当てはまる内容が今回の研究授業で見られた。

助言5

研究2年目に向けての課題

⑴ ICTを活用したキャリ教育の全体図のバージョンアップ

  • ①育成したい資質・能力(自己肯定感、自己効力感、共感力、メタ認知など)の相互関係
  • ②キャリア教育のカリキュラム(教材、特別活動、道徳、総合的な学習)
  • ③多様な視点からの「自分(もう一人の自分、これまでの自分、いまの自分、これから自分、なりたい自分、なれる自分)の相互関係
  • ④キャリア教育のための授業づくり(社会や仕事とのつながり、教科間とのつながり、教科間の視点を取り入れた自己評価、振り返りと見通しなど)

⑵ 育成したい資質・能力の実態と変容を定量的・定性的に把握すること

本期間の裏話

 本期間は,年度の終盤ということもあり,「一人1授業公開」が活発に行われた。その中で,若手教員が指導案を起案してくれたことで,指導案の内容や書き方について指導や助言を行うことができ,自信をもって授業に臨む姿に,成長の手ごたえを感じている。また,「一人1授業公開」に積極的に参観する教員が増えたことは本期間の大きな成果である。

 しかし,ICTを活用した授業が活発になるにしたがい,機器やアプリケーションの使用におけるトラブル多々発生している。Googleクラスルームでの生徒の権限が設定されておらず,授業が止まってしまったり,ネットワークの接続がうまくいかず,音声や画像が出なかったりなど,活用しながら一つ一つの事象・現象の原因を探り,対処法を見つけ,全職員で共有し,教職員の情報活用能力を高めていきたい。

本期間の成果

 研究の目的や内容の理解が進み,ICTを活用したキャリア教育の授業実践が活発に行われるようになった。また,本校の研究の「知」「徳」「体」をつなぐ最重要ポイントの「キャリア・パスポート」を使った研究授業(3月10日(木))を通して、「キャリア・パスポート」の理解を深め,来年度の改善に向け,協議できたことは大きな成果である。

今後の課題

  • ・ICTを活用したキャリア教育の授業実践による「主体的・対話的で深い学び」の実現
  • ・ICTを活用したキャリア教育の授業実践における授業のユニバーサルデザイン化
  • ・ICTを活用したキャリア教育の授業実践と学力定着との関係分析
  • ・それぞれの「作成シート」の効果的な活用方法の検討と授業実践
  • ・「学びのポートフォリオ」と「キャリア・パスポート」のAIテキストマイニングによる分析
  • ・キャリア教育のカリキュラム(単元配列表)の作成によるカリキュラム・マネジメント
  • ・基礎的・汎用的能力を評価するための道徳性と関連付けたルーブリック表の作成と活用

今後の計画

  • ・令和4年 5月30日(月)「生活理解シート」を活用した公開授業
  • ・令和4年 8月18日(木)公開授業研究会授業構想検討会
  • ・令和4年11月25日(金)「公開授業研究会」学級活動と教科の授業全9クラスの公開授業

1年間を振り返って、成果・感想・次年度への思い

 ICTを活用したキャリア教育の授業が,動機付け,メタ認知,学習方略からなる「自己調整学習」につながること。さらに,それが,一人にとって必要な,みんなにとってあると便利な「授業のユニバーサルデザイン化」につながることを実感できた。

 また,本校の研究が,「自己決定理論」によって成り立っていることも明らかになってきたと感じている。

 今年度は、ICTを活用した授業実践を定着することができた。来年度は,授業実践に加え,キャリア教育の視点によるカリキュラム・マネジメント行い,研究主題の具現化を目指す。

 また,知・徳・体それぞれの部会で作成するシートが完成した。来年度はそれらを統合しながら効果的な活用を図る。

成果目標

  • ・基礎的・汎用的能力を育み,教科のねらいを達成するICTを活用した「授業改善」
  • ・「キャリア・パスポート」を年間を通して活用し、フォームを精選していく。
アドバイザーコメント
吉崎 静夫 先生
日本女子大学
名誉教授 吉崎 静夫 先生
  

2022年1月~3月

本期間を通して、日常生活や社会とつながる教科の授業(3年・国語科、2年・家庭科など)、そして自分のよさや自分の将来について考える学級活動が実践された。そして、それらの実践において、本校が開発した「キャリア・パスポート」や「学びのポートフォリオ」と、ICT(一人一台端末)が有効に活用されていた。さらに、キャリア教育を通して生徒に身に付けさせたい資質・能力についての「生徒評価(生徒自身による評価)」、「保護者評価(保護者による評価)」、「教職員評価(教職員による評価)」が、アンケート形式で行われた。

●成果

(1)キャリア教育(生き方教育)の視点から教科の授業を考えたとき、学習内容が日常生活や社会とつながっていることは大切である。本期間に実践された3年・国語科「広告の読み比べ」と2年・家庭科「食品の選択・購入」は、その好例であった。

(2)キャリア教育の視点に立った学級活動が積極的に実践された。3年「経済から10年後の生活をシミュレーションしよう」では、25歳(10年後)の消費生活をグループ仲間で考えている。これは、「これからの自分」を経済面からアプローチしたものとなっている。そして、2年「キャリア・パスポートを活用した授業」では、自分のよさ(今の自分)を自己評価した後、級友からの評価(他者評価)を受けて、再度、自己評価(これからの自分)を行っている。この実践は、本校が独自に開発した「キャリア・パスポート」が学級活動で活用された好事例となった。

(3)キャリア教育を通して身に付けさせたい資質・能力について、生徒(自己)、保護者、教職員を対象に実施したアンケート調査の結果は、実に興味深いものであった。例えば、保護者は、子どもたちに身に付けてほしい資質・能力として、「課題対応能力(やり抜く力、挑戦する力)」や「キャリアプランニング能力(見通す力、将来や生き方を考える力)」を高く評価しているが、自分の子どもたちにはそれらの資質・能力がまだ身についていないと見ている。一方で、保護者は、「人を思いやる力」「誰とでも分け隔てなくかかわる力」「人と協力して取り組む力」といった対人関係に関する資質・能力は、保護者のねがい以上に身に付いていると見ている。これらの結果は、生徒による自己評価とも符合している。

(4)ICT(一人一台端末)を活用して、本校が独自に開発したシート(「キャリア・パスポート」、「学びのポートフォリオ」)を作成する方法が確立してきた。そして、その作成シートをどのような教育活動に活用するのかといった考え方や方法が明確になってきた。

●研究指定2年目に向けての課題と期待

(1)1年目に行われた「ICTを活用したキャリア教育」は、実にすばらしいものがあった。そこで、2年目に向けて、キャリア教育の全体構想図をバージョンアップしてもらいたい。本校は、わが国の中学校・キャリア教育のモデル校になることが期待できるからである。その際、次の要因は全体構想図に組み込んでほしい。

①育成したい資質・能力(自己肯定感、メタ認知、課題対応能力、キャリアプランニング能力、対人関係能力など)

②キャリア教育のカリキュラム(教科、学級会活動、道徳、総合的な学習の時間など)

③多様な視点からの「自分(これまでの自分、いまの自分、これからの自分、なりたい自分、もう一人の自分など)」の相互関係

(2)「ICTを活用したキャリア教育」のための授業づくりをいろいろと実践して、他の学校に提案してほしい。

(3)キャリア教育を通して生徒に身に付けさせたい資質・能力についての「生徒評価(生徒自身による評価)」、「保護者評価(保護者による評価)」、「教職員評価(教職員による評価)」を2年目もアンケート形式で行い、1年目の結果と比較・検討してほしい。また、AIテキストマイニングによる分析も継続してほしい。

本期間(4月~7月)の取り組み内容

1 キャリア教育および研究についての共通理解

 研究2年目を迎え,年度始めの4月に新たな職員とともに,キャリア教育の研修および本校の研究についての共通理解を図った。

⑴ キャリア教育研修による共通理解(研修スライドの一部掲載)

 職員のキャリア教育に対する理解を深め,研究の意義や目的の共通理解を図った。

⑵ 校内研究構想図(グランドデザイン)による共通理解

 先回のアドバイザーの助言を受け,研究構想図を見直し,改善を図った。研究の目的,研究方法,具体的方策,評価等をデザイン化し,研究の方向や実践を確認した。

図1 校内研究構想図(グランドデザイン)

2 「生活理解シート」を活用した学級活動の授業実践

図2 健康観察用Google Forms

 生徒が毎朝行っている健康観察において,健康状態とともに,「起床時刻」「就寝時刻」「家庭学習時間」「メディア利用時間」をGoogle Formsから入力している(図2)。それらのデータから指定した期間の「起床平均時刻」「就寝平均時刻」「平均睡眠時間」「平均家庭学習時間」「平均メディア利用時間」を,数値で可視化する「生活理解シート」をGoogleスプレッドシートで作成した(図3)。

 そこで,望ましい生活習慣を身につける「体」の取り組みとして,「生活理解シート」を活用し,自分のこれまでの生活を具体的な数値データをもとに振り返るとともに,よりよい生活習慣にするための具体的な方策(方略)を考えたり,他者と共有したりすることを通して,自分にあった方策を工夫し,実行しようとする「自己調整力」の育成を図る学級活動の授業実践を行った。

図3 生活理解シート(スプレッドシート画面)

3 身につけさせたい資質・能力のルーブリック表の作成と生徒アンケートでの活用

 自己を客観的に評価できるよう,身に付けたい力の具体的な姿に道徳的価値項目を取り入れ,キャリア教育と道徳教育の一体化を図った。

表 身に付けたい力と道徳的価値項目を関連付けたルーブリック表

※下線部は道徳的価値項目を表す。下線部が認められないものをB評価,A,Bどちらにも当てはまらない場合をC評価とし,3段階とした。

4 「学びのポートフォリオ」と関連させたキャリア教育のカリキュラム表の作成

 各教科,各学年において,年間カリキュラム表(単元・題材一覧表)に,各教科においては,「他教科との関連」(黄色),「生活や社会,職業との関連」(青色),「関連するSDGsの目標」(桃色)のキャリア教育の視点を追加し,「学びのポートフォリオ」と関連させた(図4)。

図4 キャリア教育の視点を取り入れたカリキュラム表

アドバイザーの助言と助言への対応

1 アドバイザーの助言

 教科と特別活動(学級活動など)を連携する方策として,キャリア・パスポートの活用が有効である。「これまでの自分」「今の自分」「これからの自分」で構成されたキャリア・パスポートは,「自分」という時間軸でとらえられており,斬新なものである。そのキャリア・パスポートを活用し,「自己評価1」「他者評価」さらに「自己評価2」を取り入れた学級活動は,「もう一人の自分」の育成につながるもので,さらには,三人称による自己肯定感の育成につながるものであった。さらに,「なりたい自分」と「なれる自分」を広げ,その重なりを大きくする工夫をしてもらいたい。

 また,ICTを活用した「学びのポートフォリオ」「キャリア・パスポート」「自己理解シート」「生活理解シート」は,データ(エビデンス)に基づく生徒の「リフレクション」を促す有効な教材である。しかし,「リフレクション」は,本時の振り返りのような短時間のリフレクションも重要である。ぜひ,本時の授業で,「考えたこと」や「わかったこと」,「わからなかったこと」,「疑問にのこったこと」などを自分の情報端末にまとめて,「学びのポートフォリオ」を作成することも重要である。

 さらに,キャリア教育を通して身に付けた資質・能力(基礎的・汎用的能力)を明確にして,生徒,保護者,職員を対象にしたアンケートを実施し,実態を把握している。これらのアンケートの結果を的確に分析し,今後の研究に,授業改善に生かしていただきたい。

2 助言への対応

  • ⑴ 「なりたい自分」を年度初めのキャリア・パスポートに記入した「身に付けたい力」(目標)として,それから自分がどのように変化してきたかを定期的に考える機会を設定する。そして,学級活動で自分が「身に付けたい力」(身に付いた力)を評価することで,「なれる自分」を考えさせたい。その重なりを達成度として自己評価し,可視化する工夫をした。
  • ⑵ 短時間のリフレクションについては,各教科で行っている毎時間の自己評価をどのようにデータ化するかを教科の特性を生かして行っていきたいと考えている。
  • ⑶ 身に付けたい力のアンケートは,昨年度の結果から課題が明確になっており,今年度の結果と比較・分析し,研究の評価につなげたい。

本期間の裏話

 年度が変わり,新たな職員体制となったが,年度始めのキャリア教育研修と校内研究グランドデザインでの研究の共通理解を図ることで,スムーズなスタートができた。グランドデザインを作成したことで,取り組む内容や方向性が明確となり,研究に対する多忙感は少ないように感じている。また,グランドデザインを作成したことによって,今行われている教育活動が,研究につながっていることを再認識することができた。

 これまで「学びのポートフォリオ」「キャリア・パスポート」「自己理解シート」「生活理解シート」とICTを活用した様々なシートを作成したが,ICTサポーターによる専門の知識・技能によるところが多々あった。積極的に開発に取り組んでいただきましたことに,感謝申し上げます。

本期間の成果

  • ・学びと生活や社会,生き方との関連付けることによって,生徒の学習意欲を高めるICTを活用したキャリア教育の授業の授業実践および一人1授業公開が開始された。
  • ・「課題」「個の学び」「協働的な学び」「まとめ」の4つのプレートの活用による授業のユニバーサルデザイン化を意識し,みんながわかる,できる,たのしい授業による内発動機付けを共通理解できた。
  • ・キャリア・パスポートの記入や教育相談等を年間計画に位置付け,年間を見通した「キャリア・パスポート」や「自己理解シート」「生活理解シート」「学びのポートフォリオ」の活用の共通理解を図ることができた。
  • ・生徒に身に付けた力を生徒自身がより客観的に評価できるように生徒アンケートにおいて道徳的価値項目と関連付けた基礎的・汎用的な能力を評価するルーブリック表を作成し,自己評価において活用できた。

今後の課題

  • ・「学びのポートフォリオ」や「キャリア・パスポート」の記述内容の質的・量的向上の分析
  • ・「生活理解シート」の数値データの推移の分析
  • ・日常の授業におけるICTを活用したキャリア教育の授業実践(改善)
  • ・キャリア教育の中心である進路指導の充実

今後の計画

  • ・令和4年 7月27日 日本進路指導・キャリア教育研究協議全国大会全体研究協議会
  • ・令和4年 8月18日 第2回アドバイザー訪問 公開授業研究会授業構想検討会
  • ・令和4年11月12日・13日 日本キャリア教育学会第44回研究大会発表
  • ・令和4年11月25日 第3回アドバイザー訪問「公開授業研究会」 3学級授業公開
    1年生「英語」(学びと生活や社会,生き方(職業)とのつながり)
    2年生「学級活動」(キャリア・パスポート)
    3年生「学級活動」(生活理解シート)

気付き・学び

  • ・キャリア教育を進めていくに従い,キャリア教育の取組が「動機づけ」「メタ認知」「学習方略」であることに気づいた。そこで,自己調整学習の「動機づけ」「メタ認知」「学習方略」をキャリア教育の視点で捉えることで,知・徳・体がそれぞれ独立したものではなく,それぞれが関係しており,知・徳・体を総合的に育めると考えた。つまり,研究課題の「能動的学習者」を「自己調整学習者」と捉えることで,知・徳・体のそれぞれの教育活動が有機的に関連した活動であることを理解することができた。

成果目標

  • ・ICTを活用した「学びのポートフォリオ」「キャリア・パスポート」「自己理解シート」「生活理解シート」の活用における,知の「学習意欲」,徳の「自己効力感」,体の「自己調整力」の育成
アドバイザーコメント
吉崎 静夫 先生
日本女子大学
名誉教授 吉崎 静夫 先生
  

2022年4月~7月

 本期間は、①グランドデザイン(研究構想図)のブラシュアップ、②各教科と関連づけたキャリア教育のためのカリキュラム表の作成、③「生活理解シート」を活用した学級活動の実践、④身に付けさせたい資質・能力についてのルーブリック表の作成、⑤キャリア教育と自己調整学習との関係についての理論的検討など、「ICTを活用したキャリア教育」について顕著な研究成果を生むことができた。

●成果

(1)前回のアドバイザーの助言を受けて、グランドデザイン(研究構想図)のブラシュアップを図っている。このグランドデザイン(研究構想図)は、「育みたい資質・能力」「キャリア教育のためのICT活用」「12の研究プロジェクト」が明確に示されていて、本校の教職員の共通理解を促すばかりでなく、キャリア教育に関心をもつ教育関係者にとっても有益なものとなっている。

(2)各教科と関連づけたキャリア教育のためのカリキュラム表が作成された。具体的には、各教科・学年の年間カリキュラム表(単元・題材一覧表)に、「他教科との関連」「生活や職業との関連」「関連するSDGsの目標」を書き加えている。この「キャリア教育の視点を取り入れたカリキュラム表」は、キャリア教育を教科学習を通して実践していくための羅針盤となる。

(3)「生活理解シート」を活用した学級活動が実践された。生徒が毎朝行っている健康観察において、健康状態とともに、「起床時刻」「就寝時刻」「家庭学習時間」「メディア利用時間」をGoogle Formsから入力している。それらのデータから指定した期間の「起床平均時刻」「就寝平均時刻」「平均睡眠時間」「平均家庭学習時間」「平均メディア利用時間」が数値で一目瞭然にわかる「生活理解シート」がGoogleスプレッドシートで作成されている。生徒は、この「生活理解シート」に示された「自分の平均時間(時刻)」と「学年の平均時間(時刻)」を見比べながら、これまでの家庭生活を振り返り、今後の生活改善を考えることができる。「データ(エビデンス)にもとづくリフレクション(省察)」である。まさに、一人一台端末が有効に活用された授業(学級活動)である。

(4)身に付けさせたい資質・能力についてのルーブリック表が作成された。そこでは、12の資質・能力(見つめる力など)の具体的な姿を示すために、「向上心」や「個性の伸長」などの道徳的な価値項目が取り入れられている。その結果、本校がめざす資質・能力がA、B、Cの3段階で評価できるようになった。

(5)キャリア教育と自己調整学習との関係についての理論的検討がさらに行われた。その結果、本校の研究主題にある「能動的学習者の育成」を、「自己調整学習者の育成」ととらえることで、知・徳・体のそれぞれの教育的活動が有機的に関連した活動であると理解できるようになった。

●今後の課題と期待

(1)本校のキャリア教育の特長は、「一人一台端末といったICTを有効に活用していること」、「教科と特活(学級活動)の両面からアプローチしていること」「動機づけ、メタ認知、学習方略をキーコンセプトとする自己調整学習に理論的基盤を置いていること」にある。これら3つの特長とキャリア教育(生き方教育)との関係を、本校の教育実践の成果をふまえて検討・集約してほしい。

(2)本年11月に行われる「公開授業研究会」では、(1)で指摘したキャリア教育の3つの特長(キャリア教育とICT、キャリア教育と教科・特活、キャリア教育と自己調整学習)を具体的に見える形(生徒の学びの姿など)で示してほしい。

本期間(8月~12月)の取り組み内容

 本期間は,11月25日の公開研究会に向けての準備を中心に行った。8月18日の今年度2回目のアドバイザー訪問では,公開授業の指導案検討会を全職員で行った。知・徳・体3部会の授業者が指導案を提案をして、協議した。最後に,アドバイザーの吉崎静夫先生から以下の助言をいただいた。

 その後は,公開研究会当日に向け,3部会で「学習指導案」の検討と作成や「研究パンフレット」の作成,学びのポートフォリオ,キャリア・パスポート,自己理解シート,生活理解シートの各シートの「解説パンフレット」を作成し,全職員が研究内容の共通理解と実践に取り組んだ。※本報告書に掲載。

⑴ 8月18日 第2回アドバイザー訪問

〇1年A組英語学習指導案について(知の部会)

授業者からの提案

〇良い点

  • ・英語の学習の中に、地域社会や伝統・文化(つまり、長岡の花火)が組み込まれて、とてもよい。
  • ・英語の学習と職業(花火職人)とのつながりが、生徒の学習意欲(学びの有用性)を高めそうである。
  • ・導入での動画視聴、さらに長岡花火について調べたことをムーブノートに整理し発表するなど、ICTが有効に活用されている。

△課題(検討してほしい点)

  • ・花火師とのやり取りと、花火師の話は連続した活動の方がよいのではないか。
  • ・個の紹介文(英文)をどのようにして各班で1つの文章にまとめるのか。そもそも1つの文章にまとめる必要があるのか。このことは、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の問題でもある。
〇2年C組学級活動学習指導案(徳の部会)

グループ協議

〇良い点

  • ・キャリアパスポートが有効に活用されている。
  • ・「これまでの自分」と「今の自分」を見つめ、「これからの自分」を考えている。
  • ・3つの「身に付けたい力」の達成状況を数値で確認している。
  • ・ムーブノートやGoogle Formsなどのアプリが積極的に活用されている。
  • ・仲間のよさや頑張りを認めるとともに、仲間のアイデアを自分のこれからの取り組みに生かそうとしている。

△課題(検討してほしい点)

  • ・各生徒が「なりたい自分(夢、目標)」をどのように考えているのかが、わかりにくい。(例えば、「自分がめざす職業・仕事」「自分がめざす人間像(どのような人になりたいのか)」「自分が将来送りたい生活(できれば地元社会に貢献したい)」など)
  • ・学習課題である「“なりたい自分”になるための方法」が何を意味 いるのかが、わかりにくい。
  • ・「身に付けたい力」と「なりたい自分」との関係がわかりにくい。
〇3年C組学級活動学習指導案(体の部会)

アドバイザーの助言

〇良い点

  • ・ある期間の生活(就寝時刻、起床時刻、睡眠時間、学習時間、メディア接触時間)をデータにもとづいて振り返ることによって、自分の生活習慣に気づくことができる。
  • ・他者(級友)の生活習慣のよさや工夫点を見つけ、自分の生活改善に生かすことができる。
  • ・「睡眠」「学習」「メディア接触」の観点から、受験期の生活習慣を改善のための具体策(生活目標など)を考えることができる。
  • ・規則正しい生活習慣は健康の保持増進にとっても重要なことから、教科(保健体育)との関連が図られている。

△課題(検討してほしい点)

  • ・自分の生活習慣(生活時間)の何が課題なのか、その原因は何かをじっくりと省察できる時間を確保してほしい。
  • ・級友の生活習慣の工夫から学ぶことができるように、ムーブノートの閲覧の後、参考にしたい生徒とのPC(または対話)でのやり取りができる時間を確保してほしい。
  • ・規則正しい生活習慣は健康の保持増進にとっても重要なことから、教科(保健体育)との関連を図る必要がある。そのために、保健体育の教諭あるいは養護教諭とのTTを検討してほしい。

⑵ 11月25日(金) 公開授業研究会

 自己の生き方を追求し,よりよい社会を創ろうとする能動的学習者の育成~知・徳・体を総合的に育むICTを活用したキャリア教育の実践を通して~

 公開研究会には,県内外からおよそ60名の参加があり,全体会における研究概要の説明後,3部会に分かれて授業参観と授業協議会が行われた。すべての授業で,ICTの活用と基礎的・汎用的能力の育成を見どころとして行われた。また,学習内容も自分の生活や地域社会,職業とつなげ,ICTを効果的に活用したキャリア教育の授業が公開された。協議会では,ICTを活用した各シートの活用や生徒の変容など,活発に質問や意見が交わされ,充実した協議会となった。公開研究会の最後には,研究の総括として,アドバイザーの吉崎静夫先生から研究についての講評が行われ,本研究の意義について,教育心理学の視点から参加者にたいへんわかりやすい説明をいただいた。

<公開授業>
◆1年A組 英語
◆2年C組 学級活動
◆3年C組 学級活動
<協議会>
 
<全体会(アドバイザー講評)>
◆研究パンフレット
◆学びのポートフォリオの解説パンフレット
◆キャリア・パスポートの解説パンフレット
◆自己理解シートの解説パンフレット
◆生活理解シートの解説パンフレット
1年A組 英語 学習指導案
2年C組 学級活動 学習指導案
3年C組 学級活動 学習指導案

本期間の裏話

 公開研究会では、「職員みんなで研究会を盛り上げよう。」という校長先生の呼びかけが、具現化された研究会となった。配布資料の準備や校内環境整備、当日の担当業務の確認など,職員全体が参加される方へ「おもてなし」の気持ちをもってお迎えすることができました。また,駐車場整備や受付をPTA役員から担当していただいたり,学区の小学校の先生方,学校運営協議会の委員からも参加していただいたりし,学校,保護者,地域がかかわり,成功させた研究会となりました。長岡市の11月の下旬と言えば、雪もちらほら降ることもありますが、前日までの曇り空とはうって変わって、研究会当日は、天気も良く、全体会を行った体育館は研究会を後押しするような、ぽかぽかと暖かい空気が流れていました。

本期間の成果と課題

  • 〇生徒が,学習の目的や意義を考え,自己の学習や生活を振り返り,今後の学習や生活への意欲を高めることに,情報の蓄積や分析,可視化するICTを活用した4つのシートは,「学習意欲」「自己有用感」「自己調整力」の育成に有効であると考える。
  • 〇また,ICTを活用したキャリア教育を全校体制で取り組んだことにより,教員の知・徳・体に対する捉えが,これまでの5教科,道徳科,保健体育科の捉えから,将来を生きる力としての捉えに変化した。そして,全ての教育活動が子供たちの将来につながるキャリア教育であるということへの理解が深まり,教員の授業改善やカリキュラム・マネジメントが主体的に行われたことは大きな成果である。
  • ▲課題としては,「自己効力感」の評価が行われていない。今後,学校評価,学習評価等の教育活動の結果から「学習意欲」「自己有用感」「自己調整力」を評価したい。
  • ▲また,本実践が持続可能な取組となるには,教員のキャリア教育への理解が必要不可欠である。年度の取組で終わることのないようキャリア教育の研修を継続していくことが重要である。

今後の計画

令和5年 1月~3月

◆研究の評価

  1. ⑴学校評価アンケート(生徒・保護者・職員)の分析
    学校評価アンケートを昨年度の結果,7月の結果と比較・分析する。
  2. ⑵学習評価の分析
    1学期と2学期の各教科の観点別評価の変化を比較・分析する。
  3. ⑶ハイパーQ-Uテストの分析
    6月と11月のハイパーQ-Uテストの学級別変改を比較・分析する。
  4. ⑷「生活理解シート」の分析
    各学級の生活理解シートの「起床時刻」「就寝時刻」「家庭学習時間」「メディア活用時間」の年間の推移を比較・分析する。
  5. ⑸「学びのポートフォリオ」,「キャリア・パスポート」の記述内容の分析
    テキストマイニングを活用し,記述内容の変化を比較・分析する。

以上から,研究の成果と課題を明らかにする。

アドバイザーコメント
吉崎 静夫 先生
日本女子大学
名誉教授 吉崎 静夫 先生
  

2022年8月~12月

11月25日の公開研究発表会に向けて、8月18日に今年度2回目のアドバイザー訪問を行った。その日の指導案検討会では、知・徳・体3部会の授業予定者が指導案の提案をして、教職員全員でそれらの指導案を協議し、最後にアドバイザー(吉崎)から助言が行われた。

その後、公開研究発表会当日に向け、3部会で「学習指導案」の検討と作成、「研究パンフレット」の作成、学びのポートフォリオ、キャリア・パスポート、自己理解シート、生活理解シートの「解説パンフレット」の作成が行われた。

このように、本校は、アドバイザーの助言を的確に受け止め、その後の研究活動に助言を生かしていることがわかる。

●公開研究発表会について

11月25日の公開研究発表会では、「ICTを活用したキャリア教育」という本校の実践研究の特長が、研究概要の説明、公開授業、授業協議会を通して、参観者に十分に理解していただけたものと思われる。まさに、本校の実践研究は、学校教育の中核にキャリア教育(生き方教育)を据え、ICT(一人一台端末)活用という現代的な視点からのアプローチである。それは、今後のキャリア教育の優れたモデルとなるものである。そして、ICTとキャリア教育をつなぐ具体的な手立て(キャリア・パスポート、学びのポートフォリオ、生活理解シート、自己理解シート)を開発したことが、本校の最大の特長(わが国の学校教育への貢献)である。

●公開授業について

1年・英語「Lesson6 Discover Japan」

(1)英語の学習の中に、地域社会や伝統・文化(つまり、長岡の花火)が組み込まれて、とてもよい。そして、「長岡花火をオーストラリアの中学生に英語で紹介する」という学習課題が明確である。

(2)英語の学習と職業とのつながりが、生徒の学習意欲(学びの有用性)を高めている。そして、長岡花火財団職員との交流が、生徒の職業意識(キャリア教育)を促している。

(3)導入での動画視聴、長岡花火財団職員とのオンライン交流、さらに長岡花火について調べたことをムーブノートに整理し発表するなど、ICTが有効に活用されている。

2年・学活「“なりたい自分”になるための方法を考えよう」

(1)本校オリジナルの「キャリア・パスポート」が有効に活用されて、「自分に足りない力」や「自分に必要な力」を自覚させている。

(2)「これまでの自分」と「今の自分」を見つめ、「これからの自分」を考えている。そこには、「振り返り(これまでの自分)」と「見通し(なりたい自分)」の場が的確に設けられている。

(3)ムーブノートやGoogle Formsなどのアプリが積極的に活用されている。

(4)仲間のよさや頑張りを認めるとともに、仲間のアイデアを自分のこれからの取り組みに生かそうとしている。まさに、「協働的な学び」である。

3年・学活「自己の生活習慣の改善を図ろう」

(1)ある期間の生活(就寝時刻、起床時刻、睡眠時間、学習時間、メディア使用時間)をデータにもとづいて振り返ることによって、自分の生活習慣に気づくことができる。まさに、「エビデンス(データ)にもとづくリフレクション(振り返り)」である。

(2)他者(級友)の生活習慣のよさや工夫点を見つけ、自分の生活改善に生かすことができる。

(3)「睡眠」「学習」「メディア接触」の観点から、受験期の生活習慣を改善のための具体策(生活目標の設定など)を考えることができる。まさに、メタ認知(セルフモニタリング、セルフコントロール)である。

(4)規則正しい生活習慣は健康の保持増進にとっても重要なことから、教科(保健体育)との関連が図られている。

●今後の課題と期待

本校の実践研究は、「キャリア教育につながる基礎的・汎用的能力をエビデンス(データ)にもとづいて評価すること」が土台となっている。

そこで、本校の活動報告書(2022年8月~12月)にあるように、次のような

評価活動を続けてほしい。

(1)学校評価アンケート(生徒・保護者・職員)の分析

学校評価アンケートを昨年度の結果,7月の結果と比較・分析する。

(2)学習評価の分析

1学期と2学期の各教科の観点別評価の変化を比較・分析する。

(3)ハイパーQ-Uテストの分析

6月と11月のハイパーQ-Uテストの学級別変化を比較・分析する。

(4)「生活理解シート」の分析

各学級の生活理解シートの「起床時刻」「就寝時刻」「家庭学習時間」「メディア活用時間」の年間の推移を比較・分析する。

(5)「学びのポートフォリオ」と「キャリア・パスポート」の記述内容の分析

テキストマイニングを活用し,記述内容の変化を比較・分析する。

本期間(1月~3月)の取り組み内容

  • ・様々な教育データ(エビデンス)による2年間の研究の成果と課題の分析及び次年度の取組の検討

アドバイザーの助言と助言への対応

 アドバイザーからは「キャリア教育につながる基礎的・汎用的能力をエビデンス(データ)にもとづいて評価すること」が指摘された。これまでの教育活動の中で行われている膨大な教育データを分析し,それらからエビデンスとして抽出し,基礎的・汎用的能力の定着について分析を行った。また,知・徳・体の重点目標である「学習意欲」「自己効力感」「自己調整力」についても,データを基に分析を試みた。

本期間の裏話

 学校評価や学習評価など,1年間の教育活動の評価が蓄積される中で,学期との比較や昨年度との比較をしながら,研究の成果,生徒の変容が次々と現れてくることに喜びを感じた。しかし,データからは成果がみられないときやかえって数値が後退してしまったものもある。そのようなときに,なぜ,変わらなかったのか,後退したのかを謙虚に受け止め,分析することも,研究を進めていくうえで大切なことだと実感した。特に,生徒のキャリア発達が促され,成長するにつれて自己理解が進み,自己評価基準が厳しくなることがある。生徒の本質的な成長をどのように見取っていくかが,教師としての資質を高めることにつながると考えている。

本期間の成果

 本期間は本研究の目的である「基礎的・汎用的能力」「学習意欲」「自己効力感」「自己調整力」について,さまざまなデータ(エビデンス)を用いて,2年間の研究の成果と課題の分析を試みた。

1 基礎的・汎用的能力について

 生徒アンケートではルーブリック表を用いて基礎的・汎用的能力の自己評価を行った。7月と12月を比較した結果,大きな変化は見られなかったが,7つの力において,A評価が増加した。また,保護者アンケートからは,保護者は,昨年度と同様に,「挑戦する力」「やり抜く力」「見通す力」「将来を考える力(えがく力)」の4つの定着を望んでおり,研究による変化が見られなかった。

⑴ 生徒アンケートから(7月 N=236 12月 N=226)
⑵ 保護者アンケートから (R3.7 N=189,R3.12 N=155,R4.7 N=184,R4,12 N=153)

2 学習意欲

学習意欲については,生徒アンケートやハイパーQ-Uの結果から向上していることがわかる。

⑴ 生徒アンケートの結果から(7月 N=236 12月 N=226)
⑵ ハイパーQ-Uの結果から

※5段階評価(とてもそう思う5点,少しそう思う4点,どちらともいえない3点,あまりそう思わない2点,全くそう思わない1点)に,それぞれの回答した割合に掛け,合計を数値化したもので比較した。(最高5点)

⑶ 学習の観点別評価の結果から

 全校の1学期と2学期の学習の観点別評価A,B,C評価を各観点でその割合を比較した。その結果,1学期,2学期ともに,「主体的に学習に取り組む態度」が他の2つの観点に比べ,A評価が高いことがわかる。また,少しの変化ではあるが,「主体的に学習に取り組む態度」のA評価が1学期に比べ増加した。本研究の成果を学習評価から得ることはできなかったが,学習評価のデータを今後の教育活動や授業改善に生かしていきたい。

3 自己効力感

 自己効力感の評価は,課題対応能力の「最後までやり抜く力」と「自信をもって挑戦する力」の変化を分析した。生徒アンケートでは,「やり抜く力」は,ルーブリックのA評価が少し増加したが,「挑戦する力」には,7月と12月で変化は見られなかった。しかし,キャリア・パスポートの基礎的・汎用的能力の自己評価においては,「最後まで取り組む力」や「自信をもって挑戦する力」をこれから「身に付けたい力」,これまでに「身に付いた力」として評価しており,課題対応能力の向上を意識して取り組んでいたことがうかがえ,自己効力感が育まれていると考える。

⑴ 生徒アンケートの結果から(7月 N=236 12月 N=226)
⑵ キャリア・パスポートの記述から

4 自己調整力

 自己調整力については,生徒アンケートの結果(全校)から「当てはまる」の割合が上昇し,「当てはまらない」が減少したことがわかる。

 また,自己理解シートに入力されたデータの月ごとの数値をグラフ化し比較した。1,2年生は同じような推移を示したが3年生は高校受験への指導と進路意識の向上から学習時間の向上を見ることができる。今後はグラフで視覚化されたグラフを生徒に定期的に提示することで,自ら考え,判断し,行動できる生徒の育成を図りたい。

⑴ 生徒アンケートの結果から(7月 N=236 12月 N=226)
⑵ 自己理解シートの結果から

2年間の成果

 ICTを活用した,4つのシート「学びのポートフォリオ」「キャリア・パスポート」「自己理解シート」「生活理解シート」を全職員が日常的に活用することで,教職員のキャリア教育の理解が大きく進んだとともに,情報活用能力の知識や技術の向上につながった。研究を推進することで,本校の教育の目指す方向が明確となり,「基礎的・汎用的能力」を身に付け,「学習意欲」「自己効力感」「自己調整力」を育むことで,生徒一人一人のキャリア発達を促すことができたのではないかと感じている。

 また,生徒にとっては,ICTを活用したキャリア教育を通して,情報活用能力の向上とともに,自己理解(メタ認知)が深まり,学ぶ目的や学ぶ意義の理解につながった。

 さらに,保護者にとっても,基礎的・汎用的能力の視点から自分の子どもを評価することによって,キャリア教育及び本校の教育活動に対する理解がより深まった。

 2年間の研究によって,ICTを活用することにより授業における間接的キャリア教育や普段の生活での日常的キャリア教育を実現し,生徒,保護者,教師が子どもの将来という共通な目標を共有し,教育活動を推進できたことが最大の成果である。さらに,今後の継続的な取り組みで,学校風土としてキャリア教育が浸透していくことを期待している。

今後の課題(計画)

 本研究によって2つの学校課題が明確になった。1つは,基礎的・汎用的能力の「課題対応能力」(「やり抜く力」「挑戦する力」)とキャリアプランニング能力(「見通す力」「えがく力」)の育成である。生徒は意識はしているものの,生徒アンケートでは,他に比べて評価が低い。また,保護者はこれらの力を身に付けてくれることを願っている。教育活動において教師の意識的な指導と活動の工夫が必要である。

 また,2年間ICTを活用してキャリア教育に取り組んできたが,ハイパーQ-Uの「進路意識」が全国に比べ低く,6月と12月でも変化も見られなかった。授業におけるキャリア教育や,職場体験などの体験活動が自分ごととして捉えられず,自己の進路に結びついていないことが原因と考える。今後は,キャリア教育と進路指導をどのように関連付けながら指導していくかが最大の課題である。

2年間を振り返って

 2年間のパナソニック教育財団特別研究指定校として,一番変わったのは,職員の意識である。研究が進むにつれ,研究の目的や内容の理解が進み,職員室でもICTを使った効果的な実践を伝達し合う様子も見られるようになった。そして,ICTを活用したキャリア教育の授業改善が活発に行われ,キャリア教育の視点で自らカリキュラムを工夫・改善するなど,カリキュラム・マネジメントにつながった。キャリア教育が学校風土として定着し,生徒,保護者,教職員が目指す学校の姿,教育目標の具現化に向けてベクトルを同じにできたことは大きな成果である。

 GIGAスクール構想により1人1台タブレットが導入されたものの,校内全体のICT環境は不十分であった。パナソニック教育財団からの助成金により,いつでも,だれでも,どこでもICTを活用できるようにICT環境を整備することができた。また,学びを生徒の生活や社会,将来の生き方とのつながりを考えるキャリア教育の視点でICTの活用を工夫したことで,その活用が日常的となった。

 「ICT環境の整備」とキャリア教育による「ICTの日常的な活用」により,生徒,教職員の情報活用能力が向上し,本研究の目的が達成できたと考える。これからも「キャリア教育×ICT」という合言葉で,研究実践を重ね,学校全体で,キャリア教育(生き方教育)を全校体制でICTを活用しながら推進していきたい。

成果目標

  • ・ICTを活用したキャリア教育による「授業改善」「基礎的・汎用的能力」を育む。
  • ・教科の学びと生き方をつなぐICTを活用した「学びのポートフォリオ」の蓄積と活用による「学習意欲」の向上を図る。
  • ・「もう一人の自分」の視点から学習活動の事実と考察を図るICTを活用した「キャリア・パスポート」「自己効力感」を育む。
  • ・可視化された教育データで客観的に自己理解を促すICTを活用した「自己理解シート」と「生活理解シート」「自己調整能力」を育成する。
アドバイザーコメント
吉崎 静夫 先生
日本女子大学
名誉教授 吉崎 静夫 先生
  

2023年1月~3月

 2022年11月25日に行われた公開研究発表会の後、私(吉崎)は、次のような内容のコメントを『日本教育新聞』12月19・26日号に寄せました。

 「関原中学校の特色の1つは、ICTを活用したキャリア教育が実践されている点にある。一人一台端末を使い、生徒は『学びのポートフォリオ』、『キャリア・パスポート』、『自己理解シート』、『生活理解シート』の作成に取り組んでいる。それにより学習や生活を自己調整しようとする態度を育み、事実に基づくリフレクションも可能にしている。『ICT×キャリア教育』につながる具体的な手だてを開発したのは、同校の大きな強み。誰も予想できない出来事は、今後も起こり得ることが考えられる。生きる力を育む上で、キャリア教育の担う部分は大きい。学校教育の中核にキャリア教育を据え、ICT活用という現代的な視点からのアプローチ。客観的で信頼性の高いデータによって、その有用性が一層明らかになることを期待したい。」

 まさに、本期間の活動報告の内容は、上述のコメントの最後の部分で私(吉崎)が期待したことに、本校が真剣に取り組んだ成果です。

 このように、本校は、アドバイザーの助言を的確に受け止め、その後の研究活動にその助言を生かしていることがわかります。

●本期間の研究成果

(1)キャリア教育がめざす「基礎的・汎用的能力」についての生徒のアンケート評価(2022年の7月と12月の比較)において、いくつかの能力においてA評価が増加していました。このことは、本校のキャリア教育の実践成果であるといえます。特に、「自分を見つめる力」「他者を思いやる力」「人とかかわる力」「人と協働する力」「最後までやり抜く力」「先を見通す力」といった能力で顕著な向上が認められました。

(2)保護者アンケート調査から、保護者は、2021年度と同様に、2022年度も「最後までやり抜く力」「自信をもって挑戦する力」「計画を立て、先を見通す力」「自分の将来や生き方を考える力」の育成を期待していることがわかりました。とても興味深い調査結果です。まさに、OECD Education 2030でいう「エージェンシー」の概念と符合します。本校の保護者は、時代の動向をよく見ていることがわかります。

(3)2年間の「ICTを活用したキャリア教育」の実践研究を通して、一番変わったのは「教員の意識」だといいます。研究が進むにつれ、研究の目的や内容の理解が進み、職員室でもICTを使った効果的な実践を伝達し合う様子が多く見られるようになったといいます。実にすばらしいことです。

●今後の課題と期待

 本校の実践研究は、「キャリア教育がめざす基礎的・汎用的能力をエビデンス(データ)にもとづいて評価し、その評価結果をふまえて教育実践を改善すること」が土台となっています。

 そのためには、次年度以降も、次のような評価をさらに深化させるとともに、キャリア教育の一層の発展を期待します。

(1)「学校評価アンケート(生徒・保護者・職員)」、「学習評価」、「ハイパーQ-Uテスト」、「生活理解シート」の定量的な分析を続けてください。つまり、簡単な統計分析を行うことによって、学期間、学年間の変化を数字(数値)で比較・分析してください。

(2)「学びのポートフォリオ」と「キャリア・パスポート」の記述内容の定性的な分析をもっと行ってください。つまり、テキストマイニングなどを活用し、記述内容の変化をコトバで比較・分析してください。

(3)活動報告書にある「2年間の研究によって、ICTを活用することにより、授業における間接的キャリア教育や普段の生活での日常的キャリア教育を実現し、生徒、保護者、教師が子どもの将来という共通な目標を共有し、教育活動を推進できたことが最大の成果である。さらに、今後の継続的な取り組みで、学校風土としてキャリア教育が浸透していくことを期待している。」という指摘は、まさにその通りです。