メッセージ

パナソニック教育財団40周年に寄せて Special Message「より良い学校づくり・授業改善を支えて40年」

vol.1 独自の研究助成制度で実践と成果普及を支援

今年で設立40周年を迎えた当財団の歴史は、一通の書簡から始まります。
1973年、元文部大臣で広島大学初代学長を務められた森戸辰男先生が、当時の松下電器産業株式会社の松下正治社長に宛て、視聴覚教育の重要性を説いた書簡を送りました。そのメッセージに共感した同社は、公共的な立場から視聴覚教育を支援する組織として、同年12月、松下視聴覚教育研究財団を設立しました。
今から40年前に、教育活動のツールとしての視聴覚機器、ICT機器の可能性に着目し普及を訴えた森戸先生。その思いに財団設立という形で応えた松下電器産業。両者の先見性と教育の充実を願う精神を受け継ぎ、発展させてきたのが、私たちパナソニック教育財団です。

当財団の事業には、大きく2つの柱があります。一つは、学校を対象にした「実践研究助成」です。ICTを活用して教育課題の改善に取り組む実践プランを毎年募集し、選定校に助成を行います。事業がスタートした1975年から本年度までで、助成実績は累計2700校近くに上ります。

多くの学校が関心を寄せる教育課題は、やはり授業改善です。学習の内容や目標は学習指導要領が定めていますが、学びの方法やスタイルは、子どもや学校、地域の特性に応じて創意工夫できる余地が大いにあります。優れたアイディアを学校全体で採用し、実践を通じて磨き上げ、より効果的な学習方法やスタイルとして確立させる。その取り組みをトータルで応援するのが、当財団の研究助成の特徴です。

もう一つの事業は、2005年から取り組んでいる「こころを育む総合フォーラム」です。宗教学者の山折哲雄先生を座長に、さまざまな分野の有識者に日本人の心の問題を議論していただくフォーラム活動では、議論の結果を踏まえた提言を出している他、各地でシンポジウムも開催。最近は座長と有識者の濃密な意見交換をネットで配信するなど、議論の内容を外に向けて公開する活動にも力を入れています。

また、全国で優れた取り組みをされている団体への褒賞も行っています。子どもたちの豊かな人間性を育む活動を民間の視点からサポートするという点で、効果的な仕事ができていると考えています。

vol.2 継続的な活動が育んだ学校現場や研究者との絆

私が2004年4月に理事長に就任してから、総合フォーラム事業の開始に加え、実践研究助成の分野でも変革を行いました。一つは、助成対象の整理と焦点化。小中学校を中心に、実践的な企画を持って学校を良くしよう、授業を充実しようとする活動を重点的に支援することにしました。

もう一つは、特別研究指定校制度の新設です。通常の研究助成(期間1年間、毎年80校前後を選定)とは別に、当財団が定める研究テーマに対して2年間の助成をさせていただくもので、研究成果や取り組みのノウハウを広く公開し、他校の参考になってもらうことを求めています。その分助成内容も充実させており、助成金の提供に加え、実践に詳しい研究者が学校を訪問し、専門的な見地からアドバイスをする機会も計6回設けています。

制度開始から今年で6年目となり、指定実績も30校近くに上ります。どの学校からも、通常の助成校以上に充実した成果が報告されています。

私も毎年、特別研究指定校の実践を見に行きます。どの学校も研究成果が隅々にまで行き渡っていて、特定の先生だけでなく、全てのクラスでICTの効果的な活用が定着しています。また、地域の人たちが学校の教育活動を熱心に支えているのも共通の特徴です。パナソニック教育財団の助成を受けた学校として、誇りを持ってサポートしていこうという雰囲気が随所に見られるのはうれしい限りです。こうした学校の多くが、その地域の教育活動の拠点になっていくことを期待しています。

学校単位のサポートだけでなく、全国の助成校の先生方や研究指定校のアドバイザーが集まり、成果や課題を共有する会も定期開催しています。教育工学を中心とする一級の研究者たちが、現場の実践者の思いを聞いてアドバイスし、研究者間でも情報交換します。

かつては小中学校教員として助成を受け、現在はアドバイザーとして関わっている研究者もいれば、学生や大学院生の頃からこの事業に参加していただいている方も多くいます。40年の歴史と実績によって培われた、研究者の皆さんや学校現場とのつながりこそ、当財団にとっての宝です。

vol.3 研究助成へのチャレンジ学校改善のきっかけに

今年も、一般と特別研究指定校の助成公募が始まっています。ぜひ多くの学校に応募していただきたいと思っています。

ポイントになるのは、校長のリーダーシップと核になる教員がいること。そして、校内の教員の一致協力はもちろん、保護者や地域の人々をも巻き込み、取り組みを外部へ広げていくプランと能力があるかどうかです。

実践研究に集中して取り組み、成果を上げることは、教育活動の他の部分にも好影響を与えます。教員が問題意識を共有し、保護者や地域とも連携しながら解決していく手法を学ぶことができるからです。そうした学校改善の一つのきっかけとして、この助成制度を有効に活用してほしいと考えています。

当財団は設立当初から、子どもたちの豊かな人間形成や学校の教育課題の解決に果たすICTの役割を重視してきました。日本でも教育の情報化は進みつつありますが、世界の最先端を行く国々と比べると歩みは遅く、私は焦りを感じます。

国主導の整備は全国一律に進める必要があり、どうしても時間がかかります。その点、民間なら先導的な分野に鋭く切り込んでいくことができます。優れたプランを持つ学校を選定し、専門家の英知を投入して先生方の取り組みをサポートし、成果を地域や全国へと広めていく。当財団が長年に渡って継続してきた活動は、日本の学校の情報化に質的な面で寄与していると自負しています。

こうした先導的な実践研究の一環として、2014年4月から、1人1台端末による協働学習の可能性を検証する「パナソニック ワンダースクール応援プロジェクト」を実施します。学校現場や教育委員会、研究者の皆さんと連携し、教育の情報化の次のステップにつながる成果を提示したいと考えています。

★本座談会は、平成25年12月2日の日本教育新聞に掲載された記事を転載したものです。