柏市 活動報告(千葉県)

研究課題

学力向上に向けた,ICT活用の日常化について
~ICTを日常の学習活動に位置づける方策を求めて~
実践校 柏市立大津ケ丘第一小学校
アドバイザー 武蔵大学 社会学部 中橋 雄 教授
成果目標
  • 確かな学力の向上
  • 思考力,判断力,表現力の向上
  • 情報活用能力の育成
  • 教職員のICTを活用して授業をする能力の向上

2014年度4-12月期の取り組み内容

ICT環境の構築

・既存の柏市のICT環境に整合
児童は,PC室と同じIDとPWでログイン データは,PC室のサーバに保存

・電子黒板,充電保管庫(タブレットPC),アクセスポイントは,5年教室の隣の学習室に設置し,授業の際に移動する。

教員研修

・7月30日 研究の概要説明
タブレット・電子黒板を活用した実技研修①
(ログイン・カメラ機能・eトーキーの操作など)

・8月25日 武蔵大学 中橋先生による訪問アドバイス
「授業に生かすタブレットPCの活用について」
タブレット・電子黒板を活用した実技研修②
(eトーキーの操作方法など)

・11月21日 タブレット・電子黒板を活用した実技研修③
(eトーキーの操作方法)

・11月25日 タブレット・電子黒板を活用した実技研修④
(児童によるeトーキーの操作の仕方など)

校内研究

・10月24日 国語「白神山地からの提言」(5年)
調べ学習・プレゼンテーション作り・発表でタブレットPCを活用

・12月11日 算数「四角形と三角形の面積」(5年)
「学習探検ナビ(Benesse)」を活用し,児童が自力解決
eトーキーを活用し,自分の考えを転送し,全体で共有

  • 場の工夫

  • アドバイスしている場面

  • 児童が発表している場面

授業実践

・9月3日 理科「植物のつくりと実や種子」(5年)
タブレットPCのカメラでアサガオの花を撮影し 拡大して観察した。

・9月8日 総合的な学習の時間「平和学習」(6年)
「コラボノート(JR四国)」を活用し,原爆体験を聞いてお礼の手紙を作成した。

・10月5日 図工「マーブリング」(6年)
マーブリングのやり方を動画で撮影し,動画を 見ながら個別に学習を進めた。

・12月2日 総合的な学習の時間「職場体験発表会」(6年)
職場体験したことを,プレゼンテーションソフトを活用してまとめ,授業参観で発表した。

・12月11日 社会「校外学習新聞づくり」(5年)
「キューブきっず(スズキ教育ソフト)」を活用し,校外学習の新聞を作成した。

・12月15日 体育「台上前転」(3年)
自分の跳び方を撮影し,再生しながらフォームチェックをした。

・12月18日 国語「パネルディスカッション」(6年)
自分の考えを効果的に伝えるためのツールとして,タブレットPCを活用した。

アドバイザーの助言と助言への対応

アドバイザーの助言

・8月25日
単に,ICTを活用したからといって学力が向上するわけではない。重要なのは,ICTを活用した学習環境デザインと授業デザイン,そして指導方略である。

・12月11日
本時の授業は,一人一台端末活用実践の中でも,グッドプラクティスの1つであった。授業で使用したソフト「学習探検ナビ(Benesse)」は,児童の自力解決・試行錯誤を容易にし,他者へ伝えるためのツールとして,効果的であった。しかし,容易に図形を切って動かすことができるため,細かく切ってしまい,パズルのようになってしまった児童もいた。
「はかせ」(はやく・かんたんに・正確に)を児童に意識させて取り組ませるとよかった。また,児童の説明も,「切って,動かして」というように,ただの説明になってしまったため,数学的な言語で説明できるように指導していく必要がある。

助言への対応

・教師の発問の工夫と児童の思考の整理。

・児童の言語活動の充実を図る。

本期間の成果

・教師・児童ともに,タブレットPCの操作技能の向上

・授業改善に向けた,教員の意識改革と研修の充実

・コミュニケーションツールとして児童の学習意欲の喚起

・すぐに授業で活用できるコンテンツの整備

今後の課題

・研修や教材研究の時間の確保

・効果的なタブレットPC活用方法の研究

・市内の学校への広報活動

・授業プランに合致したコンテンツの整備

今後の計画

・公開研究会の開催と市内の学校への周知

・タブレットPCの効果的な活用実践事例の収集と周知

アドバイザーコメント
武蔵大学社会学部メディア社会学科 中橋雄 教授

大津ケ丘第一小学校では、ICTを日常の学習活動に位置づける方法について全ての学級で研究している。本プロジェクトで整備された電子黒板とタブレットPCは、どのクラスでも使えるようにアクセスポイントごと移動させることができるようになっている。ある学年だけが活用するのではなく、全校として取り組むことのメリットは大きい。

 

整備されたICTを効果的に活用する方法やトラブルを回避する方法は、多くの経験を通じて明らかになるものである。もちろん他校の実践事例なども参考にできるが、整えられた環境、学習者の実態に応じて、その方法が異なることは少なくない。そのため、「こんな活用方法があるよ」「そのトラブルはこうすれば回避できるよ」というように、学校内で各学級が蓄積した知を別の学級と共有することが、ICT有効活用の近道といえる。

 

いくつかの授業を参観させていただいたところでは、何のためにICTを活用するのか、その意義をよく考えて授業がデザインされていた。ICTは、これまでに出来なかった授業の形態、内容を学ぶために活かすことができるが、ICTを活用すれば必ず学力が向上するわけではない。教師の授業力がより一層重要になる。

 

本校では、すでに整備したICT機器で利用できる機能を把握するという第一段階を越えて、学習に活かされる活用場面を具体的に検討していく第二段階に到達することができている。機器操作研修だけでなく、他校の実践事例に学ぶ機会、校内での授業研究による議論など、多様な研修が行われてきた成果だと考えられる。これから取り組まれる発展的な実践にも期待したい。

2014年度1-3月期の取り組み内容

校内研究

・3月4日 社会科「自然災害を防ぐ」(5年)
調べ学習・スクリーンショットで撮影・eトーキーで転送・全体で共有・全体に発表する場面でタブレットPCを活用

授業実践

・1月27日 体育 「跳び箱運動 開脚跳び」
友だちが跳んでいる様子を撮影し,動画を見ながらグループでアドバイスをする場面でタブレットPCを活用。

  • 場の工夫

  • アドバイスしている場面

  • 児童が発表している場面

・2月 3日 体育 「跳び箱運動 かかえ込み跳び」
友だちが跳んでいる様子を撮影し,動画を見ながらグループでアドバイスをする場面でタブレットPCを活用。

・2月12日 体育「跳び箱運動 台上前転」

  • 学習探検ナビで
    ポイントを確認

  • 場の設定と動画撮影

  • 動画撮影を確認

アドバイザーの助言と助言への対応

アドバイザーの助言

・答えが一つに決まらない授業への取り組みとしてとてもよい実践であった。

・何のために調べて誰に発表するのか,ゴール(目的意識・相手意識)をしっかり設定する必要があった。

・発表の場面では,児童の立つ位置や体の向きに気をつけさせて,聴衆に投げかけるように発表できるとさらに効果がでてくる。

・eトーキーの操作も,授業プランに合わせて,もう少し簡単にできるようになると使い勝手もよくなる。

助言への対応

・調べ学習や発表の場面で,相手意識や目的意識を常に持たせながら学習を進める。

・発表内容のポイントをしぼり,聞いている人にわかりやすいような発表の仕方を習得させる。

本期間の成果

・児童のタブレットPCの操作技能の向上

・タブレットPCの活用教科の広がり

・市内小中学校へのワンダースクールプロジェクトの周知

今後の課題

・授業での効果的なタブレットPC活用方法の研修

・授業プランに合致したコンテンツの整備

・市内小中学校へのさらなる周知

1年間の取り組みの成果

・柏市の既存のネットワークに対応した環境整備

・教師のタブレットPCや電子情報ボードの操作技能の向上

・児童の学習意欲とタブレットPCの操作技能の向上

成果についての自己評価・感想(気づき)/次年度への思い

・4月に実践校が決定し,7月に機材設置,8月に研修,9月から実践授業というように,大変慌ただしい一年であったが,柏市立大津ケ丘第一小学校の先生方のご協力のおかげで,ワンダースクールプロジェクトが実践できたことが大きな成果である。

・柏市では,「学力向上に向けた,ICT活用の日常化」を研究目標に取り組んでいるが,まだ,日常化までは進んでいないのが現状である。ハードやソフトの面などの準備・事前の教材研究など,まだ課題が多い。来年度は,日常的な活動が増えるように計画的に実践していきたい。

・来年度も,児童の学力向上,教師の授業改善を意識して,ワンダースクールプロジェクトに取り組んでいきたい。

アドバイザーコメント
武蔵大学社会学部メディア社会学科 中橋雄 教授

ワンダースクールプロジェクトがはじまって間もない時期に大津ケ丘第一小学校で講演する機会をいただいた。その際に私が強調したのは、「普通教室における一人一台タブレット端末環境を活用した授業をデザインするにあたり、学習者にどのような学力を育みたいのか問いなおすことからはじめていただきたい」ということであった。

 

現代社会で生きる上で求められる学力の範囲は以前よりもひろがりを見せている。基礎的・基本的な知識や技能の習得だけでなく、それらを活用して複雑な課題を解決したり、知を探究したりする授業実践、さらに異なる専門性をもった他者と協働して新しい知を創造するような授業実践を充実させることはできないか、と問いかけた。そうした実践においてこそICTを活用する意義があると考えられているからである。

 

今回、研究授業として参観した社会科「自然災害を防ぐ」(5年)の授業において、その問に対する答えを見せていただいたように思う。この実践は、様々な資料を調べ、「自然災害を防ぐ」ために取り組まれてきた先人たちの知を収集するとともに、グループで話し合いながら課題解決提案を行うものであった。答えがひとつに決まらない課題に対し、情報を収集・記録・再構成して自らの考えを表現し、協働的に新しい知を創造する学習活動にICTが活用されていた。

 

現在の教育課程では、時間的な制約があるため答えがひとつに決まらない課題解決学習を通じて新しい知を生み出す学習を行うことは難しい。そうした制約の中で、知識理解が中心課題となりがちな教科学習においてもICTを活用して新しい知を創造する学習を実現できる可能性を示していただいた。今後のICT活用と教育課程の在り方を検討していく上でも参考にすべき重要な知見が得られたと言えるだろう。

2015年度4-7月期の取り組み内容

授業実践

実践① 6年社会科 武士の世の中へ 「頼朝が東国を治める」

・どうして頼朝は鎌倉に幕府を開いたのかを,画像から読み取り,自分の考えをタブレットPCに書き込む。

・タッチペンを活用し,色や文字の大きさを工夫しながら取り組んでいた。

・画面を拡大するなどして,自分の考えをわかりやすくグループの中で説明していた。

・児童は,自分の考えをeトーキーで転送する。

・教師は,児童の考えを集約し,発表する児童を選び,効果的な発表の順番を考える。

・児童は,自分の考えを電子黒板で説明する。

実践② 6年社会科 武士の世の中へ 「元の大軍がせめてくる」

・前時までの学習について,掲示物を活用して復習する。

・児童は,タブレットPCに配信された資料を見て,自分の考えを書き込む。

・資料を拡大することで,細かい所まで注意深く読み取っていた。

・タブレットPCに書き込んだ根拠をもとに,自分の考えを,グループの中で説明し合う。

・eトーキーで,自分の考えを転送する。

・教師は,児童の考えを集約し,電子黒板に提示する。

・幕府と元との戦い方・武器等の違いを着目している児童を選び,発表させる。

実践③ 6年算数 角柱や円柱の体積の求め方を考えよう

・まずは,タブレットPCは使わずに,ノートに自分の考えを書き込む。

・1つだけではなく,いろいろなやり方で求める。

・タブレットPCを立ち上げ,配信された資料に自分のやり方を書き込む。

・タッチペンを活用し,求め方と計算,答えを書き込む。

・eトーキーで転送する。

・自分の考えを,グループの中で説明する。

・教師が,電子黒板で児童の考えを集約し,発表する児童を選ぶ。

・児童は,自分の考えを電子黒板で発表する。

・ノートに,本時のまとめを記入する。

実践④ 1年生を迎える会「大一小クイ~ズ ~みんなできるかな~」

児童会(企画委員会)提案の「大一小クイ~ズ ~みんなできるかな~」での活用場面。1年生でも楽しめるように,児童会役員の子どもたちが学校あるある○×クイズを考え,その際に,タブレットPCのパワーポイントを使って発表した。

実践⑤ 4年理科 季節の生き物(夏)「ツルレイシの観察」

・ツルレイシの画像を,児童のタブレットPCに配信し,この後,ツルレイシがどのように育つか予想をさせる。

・児童は,自分の考えを書き込んだら,eトーキーで転送する。

・教師は,児童の考えを集約し,発表させる児童を選び,発表させる。

・NHK for School「夏のへちま(4年生)」を視聴させることで,ツルがネットに絡みついていく様子など,普段の観察ではわからない所まで学習することができた。

実践⑥ 6年体育 マット運動「創作マット運動」

グループごとに選んだ曲に,マット運動の技を組み合わせて演技した。練習の段階から,タブレットの動画機能を使って,技の出来栄え,美しさ,タイミング等,話し合いのたびに確認した。1学期に音楽を合わせた創作マット運動をすることで,秋の運動会の種目「組体操」につなげていきたい。

実践⑦ 部活動(陸上部の練習)

ハードルや走り高跳びでは,足の運びや跳び方などを動画で撮影して,フォーム等を確認するのに利用している。タブレットの方が,画面が大きくて見やすいが,ぼうけんくんの方が撮影しやすいという声が多い。

アドバイザーの助言と助言への対応

アドバイザーの助言

・有効であった点
資料を読み取る力,考える力
論拠を持って,説明する力
関心意欲の喚起:どちらが勝ったのか?

・検討すべき点
本時の目標達成に有効であったか?
資料と結果が繋がっていない

アドバイザーの助言への対応

・本時の目標を達成するための,効果的なタブレットPCの活用の方法を研究していく。

・グループ学習の際,タブレットPCを見せ合って話し合うなど,他者との関わり合いを促進させていく。

本期間の成果

・教師から配付された資料に,児童が自分の考えを書き込み転送する。教師は,転送されたデータから発表させる児童を選び,電子黒板を利用して発表させるというような,eトーキーを活用した基本的な授業の流れが確立できた。

・教科の中での活用だけでなく,学校行事や部活動など,幅広い活用が進んできている。

・各階に無線のアクセスポイントを設置することで,普通教室に常設しているプロジェクタでeトーキーを活用することができるようになり,使用する学年の幅が広がってきている。

・児童のタブレットPCを操作する力は,確実に伸びてきている。特に,eトーキーで教師に提出するデータには,文字の色や大きさ等を変え,見る人がわかりやすいように工夫する児童が増えてきている。

今後の課題

・2年目に入り,教師児童ともに操作への抵抗は少なくなり,授業での活用は進んできているが,まだ日常化までは進んでいない。

・本時の目標を達成するための,タブレットPCの効果的な活用方法を研究していく必要がある。

・本プロジェクトの取組を,柏市内の小中学校へさらに啓発していく必要がある。

今後の計画

・算数の学習者用デジタル教科書を導入したので,タブレットPCでの学習者用デジタル教科書の効果的な活用場面を研究していく。

・実践事例集の作成に向けて,準備を進めていく。

公開授業・公開研究会の計画

・2学期に公開研究会を実施する予定(日時はまだ未定)

アドバイザーコメント
武蔵大学社会学部メディア社会学科 中橋雄 教授

これまで数回にわたり大津ケ丘第一小学校での授業実践を参観してきた。そのたびに教師も子どもたちも機器に慣れ、より学習の本質に迫ることができるようになってきていると感じている。機器操作スキルが身についてきたということだけでなく、学習のためにどのようにICTを活用するとよいのか、ということが浸透してきたようである。

 

本校の実践において特徴的なことの1つに協働学習を取り入れた授業デザインを行っていることが挙げられる。授業の導入で前時の振り返りと本時のめあてを明確にしたうえで、自力解決活動をした後、グループで意見を交流させることで互いに学び合うような協働的な学習の機会を設ける。その上で教室全体での意見交流を行うという流れで進められている実践が多い。子どもたちが主体性を発揮する機会を作ることは望ましいことである。

 

しかし、ただグループワークをさせても学習を深めるような話し合いができるとは限らない。話し合いの技術に磨きをかけることはもちろん大切であるが、それ以上に、何のために議論するのか、何を提示して説明すればよいのかという指導が重要になる。そのために、学習環境デザイン(教室・教材・人)、授業デザイン(授業案)、関わりのデザイン(指導方略)という観点から授業を考えていくことが有効であろう。

 

本校では、こうしたことを意識した実践が行われている。タブレット端末は、実践の中で自力解決学習において試行錯誤するための道具として使われる。また、自分の考えを伝えるための資料を作る際に論拠となる資料を収集したり、編集したりする道具として使われる。さらに、他者に自分の考えを伝えるための道具として使われる。教師は、学習活動の目的に応じてタブレット端末を使い分ける指導を行っており、子どもたちもその使い分けを意識しながら活用できている。2014年度から継続的に実践に取り組んできた成果だと言えるだろう。

2015年度8-12月期の取り組み内容

授業実践

・身近にある長方形を探して,タブレットのカメラ機能で撮影する。

・撮影した画面に,長さの比を書き込み,eトーキーを活用して転送する。

・教師は,転送された画面を集約し,発表させる児童と順番を考える。

・教師は,発表させる児童の画面を拡大提示し,児童に発表させ,全体で共有させる。

4年国語 「ウミガメの命をつなぐ」

・NHK for School「お伝と伝じろう」を視聴し,キャッチコピーの作り方をつかませる。

・タブレットPCには,いろいろなPOPの写真を準備しておき,参考資料として活用させる。

・ぼうけんくんで撮影した画面を全体に提示することで,学習の進め方を確認する。

・ピラミッドチャートを活用し,グループの考えを精選していき,グループのPOPを作る。

6年算数 「順序よく整理して調べよう」

・タブレットPCと学習者用デジタル教材を活用し,遊園地で乗り物に乗る順序を各自で考え,本時の学習に興味を持たせる。

・ノートやタブレットPCを活用して,乗る順番が何通りあるかを自力解決する。

・自分の考えを,eトーキーを活用して,転送する。

・ノートに自分の考えを書いた児童は,ノートをカメラで撮影し,その画面を転送する。

・教師は,児童の考えを集約し,発表させたい児童を選び,前で発表させ,全体で共有させる。

・電子黒板に写した画面が小さくて見づらい場合は,各自のタブレットPCに画面を配信し,理解を深めさせる。

6年算数 「順序よく整理して調べよう」

・陸上部の練習で,「ぼうけんくん」を活用し,自分のフォームをチェックし,技能の向上を図った。

アドバイザーの助言と助言への対応

アドバイザーの助言

タブレットを効果的に活用するために重要なのは,育みたい力(目的)に応じた3つのデザイン

・学習環境デザイン(教室・教材・人・文化)

・授業デザイン(目的・発問・活動・評価)

・関わりのデザイン(指導方略・学習者同士)この3つのデザインを意識して授業作りをする必要がある。

タブレットを使う際のメリットとチェックする際のポイント

思考の可視化と共有

・学習に意味のある可視化と共有ができたか

思考と対話の活性化

・論拠をもって主張する対話が活性化できたか

多様な考え,他者に学ぶ

・多様な考えに触れて新しいものの見方や考え方を獲得できたか

アドバイザーの助言への対応

・タブレットを効果的に活用するために,3つのデザインを意識して授業づくりを行う。

・グループの中で,意見交流をさせる際に,何のために議論するのか目的意識をしっかりと持たせるような授業づくりをする。

本期間の成果

大津ケ丘第一小学校

・児童の学習意欲の向上と,教師の研修意欲の向上。

・児童のみならず,教師のタブレットPCや「ぼうけんくん」への抵抗感が少なくなったこと。

・校内無線LANを整備したことで,普通教室で自然なかたちでICTを活用した授業を展開することができるようになったこと。

・何でも,ICTがあれば良いというわけではないことに気がついたこと。

・ICTを使えば使うほど,板書やノートの重要性に気がついたこと。

・ICTを使わない時間(ノータブレットタイム)の必要性に気がついたこと。

教育委員会

・タブレットPCを活用した授業をする際に,1時間の授業の中で,どの場面で使うと効果的なのかを見極めて,授業づくりを行うことができた。

・児童が自力解決する際にタブレットPCを活用して試行錯誤したり,自分の考えを全体で共有する場面で活用したりするなど,大津一小のタブレットPCを活用した学習スタイルが定着してきた。

・タブレットPCを介して,他者との学び合いの学習スタイルが定着してきた。

今後の課題

大津ケ丘第一小学校

・単元に応じたICT機器の活用方法(何でもICT活用をしない)。

・ICT活用時の,ノート指導や板書計画。

・ICTの新しい使い方や新しいアプリケーション(ソフト)の上手な活用方法。

・ICTの動作環境の向上,ハード面の機能向上。

教育委員会

・ベテラン教員の大量退職や若手教員の増加に伴う指導力の低下を防ぐためにも,ICTの活用を含めた教員の授業力の向上が大きな課題である。

・教員のICTを活用した指導力の向上を図るだけでなく,児童生徒の発達段階に応じた情報活用能力の育成にも力を入れて取り組んでいく必要がある。

今後の計画

大津ケ丘第一小学校

・1月の校内授業研,千教研情報部会公開授業を終えてからの成果と課題を踏まえ,来年度の方向性を策定する。

・今年度の研修成果の積み上げをする。

・1時間の学習内容(思考の記録)をICTでいかに残すか。「その場かぎりのICTから学習成果が残るICTへ」~「あ~楽しかった!」から「あ~わかった!」へ~

・ICTを活用した授業の大一小独自の授業モデル,授業スタイルの策定。

教育委員会

・大津ケ丘第一小学校での2年間の検証結果を踏まえ,今後の柏市のICT環境整備にどう繋げていくかを検討していく。

・大津ケ丘第一小学校の実践事例を含め,ICTを活用した効果的な実践事例を市内の学校に広め,ICTを活用したわかる授業を推進していく。

アドバイザーコメント
武蔵大学社会学部メディア社会学科 中橋雄 教授

「学習者の思考を可視化・共有し、対話を活性化させ、他者から多様なものの見方・考え方・学び方を学ぶ」ICT活用について研究を進めてもらいたい。これは、プロジェクトが始まった当初から大津ケ丘第一小学校の先生方に要望してきたことのひとつである。

 

それを受けてか、あるいは、もとから取り組まれてきた授業スタイルだったのかもしれないが、以下に示す要素を組み合わせた実践に取り組む中でその要望に応えていただいたと感じている。

・活動の目当てと方法を伝える一斉学習

・タブレットPCで自力解決を行う個別学習

・タブレットPCを用いグループ内で考えを伝え合い学び合う協働学習

・タブレットPCに表された学習者の思考を教材化して説明し、目当ての達成を確認する一斉学習

 

例えば、算数(台形の面積の求め方を考える)、社会(災害対策の工夫を調べて伝える)、社会(幕府は元に勝てたのか写真資料を読み解き根拠をもって予想を説明する)、算数(順列の考え方を説明しあう)などの実践で、こうした要素を含む実践を参観することができた。

 

こうした実践に取り組んでいただいたおかげで、その後の研究協議は、充実したものになった。特に、答えがひとつに決まるような課題設定だけではなく、答えがひとつに決まらない学習活動においては、相応の教授方略を検討することが求められる。教授方略とは、「教授目標を達成するために、どのような学習環境を整え、どのような働きかけをするかについての構成要素と手順の計画」のことである(鈴木,2000)。

 

学習者の関心・意欲を高める発問、資料選定の工夫、学習者が考えを説明しあう際、タブレットPCに何をどのように書き込ませることで教授目標を達成できるのか。こうした教授方略について校内研究会で議論できたのは、意義深いことであった。これからもICTを有効に活用するための教授方略を追究していってもらいたい。

 

参考文献鈴木克明(2000)
「教授方略」日本教育工学会編『教育工学事典』実教出版