11月13日の授業実践発表会は、出川小学校がワンダースクールプロジェクトに参加される前から取り組んできた、日常的なICT活用と、本プロジェクトで積み重ねてきた、1人1台のタブレットを用いた授業開発の集大成とも言える機会だった。
出川小学校では全てのクラスで実物投影機やプロジェクターといった提示系のICT機器は普段から日常的に活用されている。子どもたちが到達すべき目標に対して、有用なものを、必要なだけ使う。「どう使うか?」ではなく、「授業のねらいに対して、この提示はどれだけの意味があったのか」を問う。本来の意味での「教科指導のための」ICT活用をしっかり積み重ねてきたのが出川小学校である。
一方、タブレットに関しては2年間の試行錯誤の成果がみられるものだった。6年生は自治体で整備する端末の活用も含め、3つのクラスで授業を公開した(もう1クラスもタブレットを使った公開をしたかったそうだが、台数の制限により今回は見送られたとのこと)。これまでの習熟、試行錯誤、情報収集といった活用パターンがそれぞれの授業で意味のある形で埋め込まれていた。
算数「立体の体積」では習熟場面で活用された。以前、レポートしたエクセルのマクロを使った自動採点型の自作コンテンツが活用された。子どもたちは自分のペースで習熟問題に取り組み、即座に正誤が表示される。各児童の画面を電子黒板上で一覧表示しておくことで、教師は全体の様子を把握できる。これら2つの機能により、教師は児童の個別支援の時間を増やすことができる。自動採点であれば丸を付ける時間を省略できる。一覧表示されていれば、どの児童がつまずいているか、把握も早い。
社会「長く続いた戦争と人々のくらし」では、ジグソー学習による情報収集が行われた。ジグソー学習とは、米国の教育学者アロンソン(1986)が提唱した指導法である。学習課題を明らかにするために必要な資料をグループの人数分用意し、グループ内で各自分担して読み取る。途中、同じ資料をみている児童だけで集まり、大事なポイントや伝えるべきことを整理・確認する。もう一度、元のグループに戻り、お互いの情報を伝え合う。こうして1人1人が自分の集めてきた情報や考えに責任感と、伝え合う必要感をもって集まることで学び合いが活性化する。授業では、表面的な伝え合いにならないように、教科書資料だけでなく、Web上の資料についても教師が吟味し、議論が深まるよう工夫されていた。
算数「比例と反比例」では、発展課題として下学年の教科書の中から、比例や反比例の関係を見つけ出す学習活動が設定された。パワーポイントのスライドには、これまで学習してきたさまざまな単元における数値の変化をあらわす表が貼り付けられている。児童は班の中で分担して、どの表を説明するか選び、スライドにペンを使い、横でくらべる、縦でくらべる、2つの説明方法を選んで書き込でいった。デジタルなら教科書紙面に直接、自分の考えを書いたり、消したりの試行錯誤も難なくできる。共有する場面では、2つの説明がそれぞれ書かれている画面を選び、電子黒板に並べて表示することで、説明の仕方のちがいが際立つように工夫されていた。
6年生の先生方と子どもたちが追究してきたことは、いかに日常の授業に違和感なく、タブレットを活用するかだった。児童を対象にした質問紙調査からも「タブレットを使わない授業は先生が丸をつけにくる時間がかかるから、ぼくはタブレットの方が自分のペースできていい」「Aの絵とBの絵を比べてちがうところや同じところはありますか?と聞かれたときにタブレットを使うとみにくいところを大きくしたり小さくしたりできる」といった声があった。その一方、教室を移動すること、端末起動の待ち時間、バッテリーの管理、タッチの操作性など課題点も言及されていた。今後の本当の意味での1人1台、つまり1学級分の台数で特定の授業時間だけ1人1台環境ではなく、全員が所持するような環境へとステップアップしていくための、貴重な実践が積み重ねられたと思う。とはいえ当面、春日井市では完全1人1台、あるいは40台とはいかずに、グループに1台、2人に1台を見据えた整備から進められていく。ワンダースクールの成果が他の学年、他の学校にどのように波及していくのか、今後の取り組みを見守りたい。
参考文献 A.アロンソン(1986) ジグソー学級―生徒と教師の心を開く協同学習法の教え方と学び方, 原書房