春日井市 活動報告(愛知県)

研究課題

みんなで思考・判断・表現し合える子を育成するための情報端末の日常的な活用
実践校 春日井市立出川小学校
アドバイザー 東北学院大学 教養学部 稲垣 忠 准教授
成果目標

児童生徒の確かな学力を育成するため、従来から取り組んできたICT活用に加えて、数校に各40台程度の情報端末を導入し、情報端末の効果的な活用法の開発や教職員研修体制の構築を進める。

  • 児童生徒各自の情報端末を活用した授業についての実践研究を行う。
  • 今後各校で無理のない活用を推進するために、各種の研修パッケージを作成し、校内研修体制の構築を図る。
  • 既設の市内教育ネットワークを活用し、各校で開発した教材等を市教委センターサーバーで共有することにより、各校での活用を促進する。

2014年度4-12月期の取り組み内容

【第1期】 平成26年4月~平成26年9月

◆情報端末の日常的な活用のための環境・体制、学習形態等に関する研究

・実物投影機やデジタル教科書、フラッシュ型教材など、これまでに日常的に活用してきたICTと、情報端末の活用との融合について、担当部会を編成し、無線LAN、充電器、デジタル教材などの環境整備やその扱い方のルール作成、学習指導における情報端末活用の学習形態や具体的な活用方法などを研究し、体制を整えた。

・情報端末機器の導入後に、機器の扱いなどについて校内研修を実施した。

○校内研修(7月29日および8月16日)
平成26年7月29日には、提供されたタブレット端末と教材提示用ソフトウェア「e-トーキー」の操作研修を全職員対象に実施した。 また、8月16日には無線LAN環境も整備が完了したため、本番環境での第2回目の操作研修を全職員を対象に実施した。

導入されたレッツノートAX

導入されたe-トーキー

SEの方を講師に研修

e-トーキー操作を研修中

実機を操作しながら・・・

保管庫も設置してもらいました

○校内授業研究会1 平成26年7月2日(水)

・学習規律の徹底と日常的なICT活用をもとにした学習指導についての研究授業と協議、全体会を実施した。

・教務主任研修会としても実施した。

校内授業研究会の公開授業

当日の全参観者数は130名以上

校内授業研究会全体会

教務主任研修会

【第2期】 平成26年10月~平成27年1月

◆情報端末の日常的な活用に関する実践研究1(おもに個人での活用とその発展)

・学習指導における情報端末の活用について、グループ内での意見交換や発表などを中心に授業検討・授業実践・協議の流れで実践を重ねる

・校内授業研究会を実施し研究授業をもとに協議するとともに、外部講師から情報端末の活用についての指導・助言を受け、課題を明確にし、校内全体での方向性を共有した。

○校内授業研究会2 平成26年10月22日(水)

・学習指導におけるグループでの情報端末の活用に関する研究授業と協議として実施した。

・教務主任研修会としても実施した。

○校内授業研究会3 平成27年1月14日(水)

・学習指導におけるグループでの情報端末の活用とその発展に関する研究授業と協議として実施した。

・教務主任研修会としても実施した。

タブレットPCの公開授業

指導者 稲垣准教授のご指導

タブレットPCの公開授業

富山県からも視察

タブレットPCの公開授業

その他の公開授業

アドバイザーの助言と助言への対応

実物投影機など提示形のICT機器の活用の日常化を着実に進めてきたからこそ

◎アドバイザーの助言→ICTに振り回されない授業づくりが出来ている。

■助言への対応→アナログ的なノートや板書とデジタル的なタブレット端末等の活用を融合した提案を模索したい。

しっかりしたネットワーク環境があるからこそ

子ども・先生が安心して使え、日常的な活用を進めることが出来る。

安定的な環境を維持するための支援のあり方を、継続的に確保する方策を検討。

パナソニック財団のバックアップがあるからこそ

これからの時代の目指す学びの姿を考えた提案を!

単年度・単発の検証ではない先を見据えた研究実践を実施する体制を作る。

※出川小学校におけるタブレットPCの1時間の授業での活用場面は総じて、短時間でピンポイントな「禁欲的な」活用であるが、授業展開の中に無理なくタブレットPCを取り入れていく方向性は今後も続けていくべきであるとの指導をいただいた。

稲垣先生の助言

本期間の成果

・タブレット端末を授業で安定的に使うための環境整備、および教員の最低限のスキルを身につけることが出来た。

・授業でのタブレットPCの「使いどころ」や実物投影機など他のICT機器との「棲み分け」の感覚も少しずつではあるが、掴むことが出来た。

・子どもたちも、タブレットPCの操作への戸惑いはなくなり、意図した速さで授業を展開することが出来るようになった。

今後の課題

タブレット端末を有効に活用した指導法や指導内容、またタブレットPCや授業支援ソフトの活用スキルそのものの向上がまだまだ必要である。また、現在はタブレットPCの利用場面をあえて限定的にしているが、より幅広い利用の仕方にチャレンジしていくことが必要と感じる。

今後の計画

・1人1台の情報端末活用の前提となる、日常的なICT活用と学習規律の徹底を基盤とした授業のあり方を明確にする。

・1人1台の情報端末活用の前提となる、日常的なICT活用と学習規律の徹底を基盤とした授業のあり方を明確にする。

・1人1台の情報端末を活用した授業についての事例集を作成する。

・1人1台の情報端末を活用した授業についての校内授業研究会を核とした校内の授業研究の仕組みや、市教委との連携で実施していく研修の仕組みを整理し、研究成果の発信・還元方法のモデルとしてまとめることで、今後の各校での自主的・自立的な授業研究の継続につなげる。

・27年11月に公開研究発表会を開催し、1人1台の情報端末の日常的な活用について、成果を広く公開し、普及を図る。

・整理しまとめたモデルを普及モデルとしてリーフレットにまとめたり、学校ホームページにより情報発信したりすることで、本市のみならず、全国の学校や自治体での1人1台の情報端末を活用した授業の推進のために必要な情報提供を行う。

・同じ学習内容について、1人1台の情報端末を活用した授業を行った学校と活用しない授業を行った学校間で児童調査を行い、1人1台の情報端末の活用による学習効果を明確にする。

アドバイザーコメント
東北学院大学教養学部人間科学科 稲垣忠 准教授

タブレットを導入した学校ではどんな実践からはじめていけばよいのか。出川小学校の取り組みはモデルのひとつになり得ると思う。40台1教室分の端末導入は、コンピュータ室とそう違う訳ではない。普段の教室ではなく、専用の教室に移動する点も似ている。

 

従来のコンピュータ室は、インターネットに接続して調べ学習に使う、プレゼンテーションなどの制作活動、タイピングなどの技能習得といったところが代表的な使い方だった。これらの学習活動は、情報活用能力を育成する面から現在も重要であるだけでなく、21世紀型スキルに代表されるこれからの学力として、ますますその重要性は増してくる。子どもたち全員が1人1台を持つ「完全1人1台」になるまでは、コンピュータ室にいけば端末を出したり運んだりすることなく、すぐに使える環境は無くすべきではない。40台にこだわらずに、グループに1台、数人に1台といった形で教室に持ち込んで使用したり、体育館などで使うといった導入からはじめてもよい。

 

出川小学校では、5年生を中心的に活用する学年としてまず位置づけ、空き教室をタブレット学習に使える専用教室とした。教室の机や提示機器はそのままに、1人1台の端末を利用できるようにし、実践を重ねてきた。そのベースにあるのは、提示機器を中心とした普通教室でのICT活用である。プロジェクターや実物投影機を使って見せたいものを大きく写す、導入場面でフラッシュ型教材を活用するといった日常的なICT活用がしっかり定着しているからこそ、次の一歩として従来の授業の延長線上にタブレット活用を位置づけることができた。

 

一人ひとりがタブレット上で学習活動を展開できる良さとして出川小で着目されたことのひとつに、豊かな試行錯誤の機会を与えられることが挙げられる。算数のシミュレーション、社会科の地図など、アナログでは出来なかったり、手間がかかっていたところを自分で画面上の図に描き込み、操作することにより、自分の考えを深めることができる。電子黒板と連動していることで個々の考えを容易にクラス全体で練り合うために共有することもできる。タブレットで紙のノートを単純に置き換えるのではなく、タブレット上の教材がより子どもの思考を深められる場面に着目した活用と言えるだろう。

 

ICTを導入する際、「これまで見たこともないような授業をつくろう」と意気込みすぎると、研究授業のときだけ使う、打ち上げ花火的な活用になりかねない。従来の授業の延長線上に地道に、着実に活用の可能性を広げようとしているのが出川小の取り組みの特徴である。ただし、現時点では教師の綿密な授業設計のもとで使用場面を規定する教師主導型のICT活用の範疇を超えるものではない。「アクティブラーニング」と言われるような児童が主体的に情報を集め、整理し、伝え合い、問題を解決する道具としてタブレットをどう活用していけるだろうか。その鍵はコンピュータ室でこれまで取り組まれてきた学習活動と教室でのICT活用の融合にある。出川小の学校全体で授業改善に取り組む先生方の前向きな姿勢が、その強力な基盤になるにちがいない。

2014年度1-3月期の取り組み内容

【第3期】 平成27年1月~平成27年3月

◆情報端末の日常的な活用に関する実践研究1(おもに個人での活用とその発展)

・学習指導における情報端末の活用について、グループ内での意見交換や発表などを中心に授業検討・授業実践・協議の流れで実践を重ねる。

・校内授業研究会を実施し研究授業をもとに協議するとともに、外部講師から情報端末の活用についての指導・助言を受け、課題を明確にし、校内全体での方向性を共有した。

○校内授業研究会3 平成27年1月14日(水)

・学習指導におけるグループでの情報端末の活用とその発展に関する研究授業と協 議として実施した。

・教務主任研修会としても実施した。

TPC の公開授業

児童機の意見を集約し共有

○稲垣忠准教授指導日 平成27年2月23 日(月)

・5年生における算数と外国語活動でタブレット端末を用いた授業およびタブレットを用いなかった場合の授業との比較を中心に、授業公開を実施した。

・その後、全校で協議会を持ち、稲垣忠准教授にご指導・助言をいただいた。

TPC の公開授業

TPC の公開授業

○校内現職教育委員会に於いて、次年度の研究計画を策定した。
□校内授業研究会等実施日

・6月11日(木)校内授業研究会(タブレットPCを用いた授業で6年生中心)

・6月26日(金)校内授業研究会

・9月29日(火)校内授業研究会

・11月13日(金)実践発表会

アドバイザーの助言と助言への対応

5年→6年での日常的活用を今後も進めるために

◎アドバイザーの助言→「タブレットPCがあってもなくても」という段階から「あった方がいい」、そして「ないとできない」という段階まで進めたい。

■助言への対応→単元の後半部分の活用中心の授業の中でも、児童が主体的にタブレットPCを活用する場面を設定するようにしたい。

タブレットPC活用の他学年への展開をすすめるために

どの学年でもタブレットPCを日常的に活用することが大切である。

グループ1台、2 から3人で1台という活用方法を探っていく。

これからの時代の目指す学びの姿を構築するために!

教室でのタブレットPCの1人1台環境の日常化に向けて、今後の授業デザインを見直したい。

従来の授業の延長線上でタブレットPCの扱いを考えるか、授業デザインを見直していくのかの議論を全校で行う。

※子どもたちにつけたい力の変化にICT だけでは対応できない。授業の中でチャート図な どのツールを活用することも手段である。

本期間の成果

・タブレット端末を授業で安定的に使うための環境整備、および教員のスキルが向上した。

・授業でのタブレットPCの「使いどころ」や実物投影機など他のICT機器との「棲み分け」の感覚をつかみ、教科や単元によってふさわしいICT機器を活用しながらも、より多くの場面でタブレット端末を活用できるようになった。

・子どもたちも、タブレットPCの操作への戸惑いはなくなり、意図した速さで授業を展開することが出来るようになった。

・教材提示用のソフトウェアの利用にも慣れ、児童の意見をタブレット端末で収集し、大型ディスプレイで提示するなど柔軟な授業展開が実施できるようになった。

今後の課題

タブレット端末を有効に活用した指導法や指導内容、またタブレットPC端末や授業支援ソフトの活用スキルのさらなる向上が授業の効率化のためには必要である。また、現在まではタブレットPCの利用場面をあえて限定的にしていたが、今後はグループ別学習での利用など、より幅広い 利用の仕方にチャレンジしていくことが必要と感じる。

1年間の取り組みの成果

・1人1台の情報端末を活用した授業についての校内授業研究会を核とした校内の授業研究の仕組みや、市教委との連携で実施していく研修の仕組みを構築していくことができた。また、、研究成果の発信・還元についても年間3回の校内授業研究会を通して継続に行うことができた。

成果についての自己評価・感想(気づき) / 次年度への思い

・実質的には9月からのスタートであったが、継続的にタブレットPCを用いた授業実践を行うことができた。教科や単元によって、タブレットPCの利用度や活用のしやすさが異なっていることが改めて認識できたが、タブレットPCを用いた授業開発そのものに関してまだ十分に取り組めていない。
来年度は、より多面的な視点で授業でのタブレットPCの活用方法を研究したい。

アドバイザーコメント
東北学院大学教養学部人間科学科 稲垣忠 准教授

1クラス分のタブレット端末を導入した出川小学校の最初の1年(といっても9月から開始のため実質半年だが)を振り返ってみよう。前回のコメントでは、豊かな試行錯誤の機会をつくる端末活用をとりあげた。デジタル教材を子どもたちひとり一人が自分で操作できることによる気づきをどう深め、どうクラスで共有するか。従来の教師による提示を中心とした活用から一歩進めた取り組みの可能性を見定めようとされていた。

 

その後、2月に再度訪問する機会があった。算数と外国語活動の時間を拝見したが、興味深いのは、同じ授業場面を1つのクラスではタブレットのある教室で、もう1つのクラスではほぼ同じ学習活動をタブレット無し(ただし、提示機器等は使う)で行っていたことである。算数では、長方形の1辺の長さをのばしていくと、面積が比例関係になることをつかむ場面。2つの数の関係を示した表をプレゼンテーションソフトで作成し、配布。児童は表にタブレット上で気づいたことを画面に書き込み、電子黒板上で共有した。対してタブレット無しのクラスでは、同じ表を印刷して配り、実物投影機で提示、共有した。タブレット上では、スライドの枚数から思いついたアイデアをいくつも書きこみができる。「書きやすさ」では紙に劣るものの、提示した際の「見やすさ」はタブレットは圧倒的だ。2人ペアで見せ合うのにもちょうどよい。この授業でのタブレットの良さは、「お互いの考えを見えやすくする」にあったと思う。一方で、多様な考えはともすれば授業のねらいから外れた考えも含めて共有されることになる。子どもの考えをどう受け止め、授業展開に生かしていくか、学習課題の性質、単元上の位置づけを含めて討議された。また、ここで練り合った児童の考えは、そのままではノートに残らない。端末を共有する中で、学習の軌跡をどう残し、振り返りできるようにしていくかも今後の課題のひとつだろう。

 

外国語活動の授業では、レストランの店員と客の立場になり、好きなランチメニューを注文する活動場面で、タブレット上のデジタル教科書が活用された。画面上でメニューを指でタッチし、ドラッグするだけで自分の好きなメニューをつくることができる。元の画面に戻すことも一瞬だ。一方、紙で実施したクラスでは、メニューを小さなカードにして配り、机上で必要なものをとりあげて同じ操作を行った。2人ペアの組み合わせをずらしながらできるだけ多くの練習の機会を設けようとしていたが、タブレットの方が繰り返しできる数は明らかに増えていた。紙では元に戻したり、並べなおしたりする手間があるのが、デジタルの教材であればボタン1つでリセットできる。繰り返しの練習を効率よくできることも、ICTのメリットと言えるだろう。なお、ここで問題となったのは、タブレットを使ってペア活動する際の「視線」である。対面のコミュニケーションを重視した学習活動だからこそ、お互いの目をみて、しっかり話し、聴くことを期待したい。タブレットが入り込むことで、それぞれに自分の画面を見る時間が長くなり、不自然なコミュニケーションになる問題が指摘された。ペアやグループで活用する際、どのようなコミュニケーションを期待するのが適切で、どのような環境で、何を指導しておくべきか、さまざまな学習形態にトライしながら、検証していく必要がある。

 

以上の2事例に限らず、出川小学校では日常的にさまざまな活用が広がりつつあるようである。研究授業後の検討会では、実はICTの話はあまり話題には上らない。むしろ、学習課題の示し方、子どもたちの意見の取り上げ方、授業展開を中心に議論が進む。ICTの良さを実感しつつも、高めるべきはICT活用の細かなノウハウではなく、まずもって授業として成立させること。この意識が共有されているからこそ、5年生に限られた現在の活用であっても、学校全体でその授業を議論できていると言えるだろう。とはいえ、学年限定の環境を学校の取り組みとして今後も続けていくのはやはり無理がある。グループ1台、2〜3人に1台など、1人1台の手前の活用方法であれば、限られた台数であっても、複数のクラス、学年で取り組みやすくなるはずだ。

 

事後検討会において私からは「授業デザインの見直し」について言及した。ただしこれはICTをより良く活用するための方策ではない。学校として育てたい力をどうとらえ、授業を設計するのかが前提である。出川小が掲げてきた「思考・判断・表現しあえる子」の姿に近づいているかどうか、あるいは「21世紀型スキル」に代表される新しい学力を意識していくのか。子どもたちの実態と学校として目指すものとの間で授業デザインを議論いただければと思う。ICTの日常活用が十分になされている出川小学校だからこその、ICTありきでない実践研究を期待している。

 

なお、2月には教育同人社より「春日井市・出川小学校の取り組み 学習規律の徹底とICT有効活用」が出版された。出川流の授業づくりとそこでのICT活用の姿の詳細は同書をご参照いただきたい。

2015年度4-7月期の取り組み内容

【第4期】 平成27年4月~平成27年7月

・学習指導における情報端末の活用について、グループ内での意見交換や発表などを中心に、練習問題の自己採点としての使用なども加え、授業検討・授業実践・協議の流れで実践を重ねる。

・校内授業研究会を実施し研究授業をもとに協議するとともに、外部講師から情報端末の活用についての指導・助言を受け、課題を明確にし、校内全体での方向性を共有した。

○稲垣忠准教授指導日 平成27年6月11日(木)

・6年生における算数の授業「分数÷分数」と「文字と式」においてタブレット端末を用いた授業およびタブレットを用いなかった場合の授業との比較を中心に、授業公開を実施した。

・その後、全校で協議会を持ち、稲垣忠准教授にご指導・助言をいただいた。

タブレットを使っての計算練習①

タブレットを使っての計算練習②

タブレットを使っての計算練習③

タブレットを使っての思考

お互いの考えを伝え合う

考えを全体で発表

○稲校内授業研究会1 平成27年6月26日(金)

・学習指導におけるグループでの情報端末の活用とその発展に関する研究授業と協議として実施した。

・市教務主任研修会としても実施した。

アドバイザーの助言と助言への対応

◎アドバイザーの助言→単元後半の児童の主体的な活用場面での使用について、手放しのタイミングの意識化を図るとよい。

■助言への対応→教える場面と自分の考えを持つ場面を考えた授業展開を意識し、手放すタイミングを考えた授業展開に取り組みたい。

情報活用能力の育成をめざした活用も意識していきたい。

タブレットを使って調べたり、表現したりする授業展開の可能性を探って行きたい。

グループ一台でもいろいろな活動ができる。これにももっと取り組めるとよい。

来年度以降、どの学年でもタブレットを使っていけるよう、グループ一台での活用の仕方を探って行きたい。

本期間の成果

・タブレット端末を授業で安定的に使うための環境整備、及び教員のスキルが向上した。

・授業でのタブレットPC「使いどころ」や実物投影機など他のICT機器との「棲み分け」の感覚をつかみ、例えば、分数計算の習熟のための使用など、より多くの場面でタブレット端末を活用できるようになった。

・子どもたちも、タブレットPC操作への戸惑いがなくなり、意図した速さでの授業展開ができるようになった。

・教材提示用のソフトウェアの利用にも慣れ、児童の意見をタブレット端末で収集し、大型ディスプレイで提示するなど、柔軟な授業展開が実施できるようになった。

今後の課題

タブレット端末を有効に活用した指導法や指導内容、またタブレットPC端末や授業支援ソフトの活用スキルのさらなる向上が、授業の効率化のためには必要である。今後は、グループ別学習での利用や、調べ学習、表現する手段としての活用など、更に幅広い活用の仕方を探って行く必要がある。

今後の計画

公開授業を行う中でアドバイザーの助言をいただきながら、更に幅広い活用の仕方を探りつつ、その成果と課題を追求していきたい。

公開授業・公開研究会の計画

・8月24日(月)アドバイザーの助言をいただきながらの指導案検討会(6年生中心)

・9月29日(火)校内授業研究会

・11月13日(金)実践発表会

アドバイザーコメント
東北学院大学教養学部人間科学科 稲垣忠 准教授

ワンダースクールの取り組みも2年目に入った。昨年の夏に整備されて以降、40台の端末を「その教室にいけばいつでも使える」環境で数多くの実践が5年生の子どもたちと教師らにより、積み重ねられてきた。昨年まで5年生だった子どもたちは6年生になり、6月に訪問した際にはなんだか急に大きくなったように見えた。

 

算数の2つの授業を参観した(報告に記載されている実践である)。いずれも、同じ場面を1つのクラスではタブレット教室で、もう1クラスは普通教室でタブレットを使わず実施していた。帯分数のわり算では、授業の最後に習熟のためにタブレットが活用された。個別のドリル的な使用方法である。紙のドリルと違い、計算結果を入力すれば、すぐに正誤にフィードバックが表示される。問題は、教師が表計算ソフトで自作した。3つのレベルに分かれており、背景色が異なるため、電子黒板で一覧表示をすると、クラス全体でどの辺の問題まで進んでいるのか、どの児童がつまずいているのかを即座に判断できる。授業進行に役立つ工夫と言えるだろう。

 

もう1つは、「文字と式」の単元で台形や三角形の求積公式と結びつけ、式が何を表現しているのか説明する学習だった。タブレット上で図形に書き込み、自分の考えを表現し、電子黒板で共有する。昨年から取り組んできた出川小では定番的な活用である。紙の上に鉛筆で書き込んだものを実物投影機で写す場合と比べ、タブレット上での書き込みは視認性では圧倒的に勝る。その一方で、端末の画面上で定規を置く訳にもいかず、まっすぐな直線を頂点にぴったり合わせて引くのは、直線ツールを用いても容易ではない。本授業では、図形のどの部分と式がどう対応しているのかをマーキングするために用いたことで、正確な作図の必要性を回避していた。

 

個別学習での活用と一斉授業での活用の2つの場面を確認することができた。タブレットは端末だけあっても授業で日常的に使うには十分ではない。ふだんの授業で使える教材コンテンツの充実が期待される。ドリルであれば、学習者の解答に応じた出題レベルの調節や、学習履歴を蓄積・視覚化し、教師の指導や学習者のメタ認知に役立てるといった機能は既に市販品で実現されている。シミュレーションでは、書き込むだけでなく、図形を切り離して移動・回転させたり、操作経過を記録し、発表時に順に再生できるといったソフトもある。本実践にみられるような教師目線で求められる工夫や活用する上での着眼点が、市販品にもフィードバックされていくことを期待したい。

 

この日の事後検討会では、タブレットの使い方以上に議論が白熱した点があった。子どもたちの思考を支えるための指導と、身につけた知識を活用させる場面の線引きである。例題をみんなで取り組みながら身につけるべき考え方や技能をしっかり習得させる。それを活用した練習問題に取り組む際、「足場かけ」をしすぎてしまえば、自分で思考する余地がなくなってしまう。かといって完全に手放してしまえば、出来ない子が続出してしまうかもしれない。教科書の練習問題には1つ1つ意図があり、変化球やレベルアップが巧みに仕組まれている。失敗させない万全のお膳立てを期すのではなく、変化やレベルのちがいにつまずく子どもたちを受け止め、グループやクラスで学び合いを通じてつまずきを共有し、解決方法を見いだしていく中に思考は生まれる。ICTを児童の思考を共有する道具として活用するには、タブレットの使い方の工夫だけでなく、こうした子どもの思考そのものを見つめ、学びの場に展開していく教師の授業力が問われる。

 

基礎基本の確実な習得のためのICT活用と学習規律の徹底を基盤にした出川小らしいタブレットの使い方は、ある程度そのパターンが見えてきたからこそ、授業の在り方の議論へと深まりつつある。2年目の取り組みがどう展開していくか、ますます楽しみである。なお、11月13日には本プロジェクトの実践発表会が開かれる。全26学級の授業公開が予定されている。ぜひご参加いただきたい。

2015年度8-12月期の取り組み内容

【第5期】 平成27年8月~平成27年12月

・学習指導におけるタブレットPCの活用について、グループ内での意見交換や発表などを中心に、「授業検討・授業実践・協議」の流れで実践を重ねる。

・校内授業研究会を実施し研究授業をもとに協議するとともに、外部講師からタブレットPCの活用についての指導・助言を受け、課題を明確にし、校内全体での方向性を共有した。

○稲垣忠准教授指導日 平成27年9月29日(火)
・6年生における算数の授業「図形の拡大と縮小」と社会科の授業「江戸幕府と政治の安定」においてタブレットPCを用いた授業およびタブレットPCを用いなかった場合の授業との比較を中心に、授業公開を実施した。
・その後、全校で協議を持ち、稲垣忠准教授にご指導・助言をいただいた。

隣同士で考えを伝え合う

考えを全体で発表する

考えを発表する

考えを集約する

資料を大きく写して見る①

資料を大きく写して見る②

資料を見ながら考えを発表

教師による補足

○授業実践発表会 平成27年11月13日(金)

・学習指導におけるグループでのタブレットPCの活用とその発展に関する授業を公開した。

・市教務主任研修会・市初任者研修会としても実施した。

6年生算数「比例と反比例」

5年生の教科書に出てくる表を、タブレットPCから見る資料として用意した。授業前半で学習したことをもとに、表が比例しているかどうかを、児童が判定し、班で説明し合うことができた。

6年生社会「長く続いた戦争と人々の暮らし」

たくさんの資料から自分が必要な資料を選んで読み取り、情報を集めるためにタブレットPCを使った。子どもたちは、集めた情報をもとにグループや班で話し合うことができた。

6年生算数「立体の体積」

円柱の体積の求め方を習得し、タブレットPCで児童が自分のペースで円柱の体積の問題に挑戦した。個々のスピードで取り組むことにより、習熟を図ることができた。

アドバイザーの助言と助言への対応

◎アドバイザーの助言→子どもの思考場面を模索し、タブレットPCならではの教材の可能性を求めたい。

■助言への対応→教える場面と自分の考えを持つ場面を考えた授業展開を意識し、子どもたちの思考場面での有効な活用を図りたい。

一つの考えで満足せず、他も考えられる子を育てたい。そのための活用時間の保証を図りたい。

より端的な習得と前倒しの学習活動を図り、思考場面での活用の時間の確保に努めたい。

タブレットでは、思考の過程が残らない分一つの思考にいってしまう。他にも考えたくなるような揺さぶりを考えていきたい。

時間の確保と同時に、思考を促すような声かけを考えていきたい。

本期間の成果

・タブレットPCを授業で安定的に使うための環境整備、及び教員のスキルが向上した。

・授業でのタブレットPC「使いどころ」や実物投影機など他のICT機器との「棲み分け」の感覚をつかみ、算数に限らず、他の教科やより多くの場面でタブレットPCを活用できるようになった。

・子どもたちも、タブレットPC操作への戸惑いがなくなり、意図した速さでの授業展開ができるようになった。

・授業支援のソフトウェアの利用にも慣れ、児童の意見をタブレットPCで収集し、大型ディスプレイで提示しながら意図的な指名をするなど、柔軟な授業展開が実施できるようになった。

今後の課題

タブレット端末を有効に活用した指導法や指導内容、またタブレットPC端末や授業支援ソフトの活用スキルのさらなる向上が、授業の効率化のためには必要である。今後は、教える場面と自分の考えを持つ場面を考えた授業展開を意識し、子どもたちの思考場面での有効な活用を図りたい。また、違った教科での活用や活用場面を模索していきたい。
様々な思考を促すような声かけについても考えていきたい。

今後の計画

タブレットPCの活用を6年以外にも広げ、更に幅広い活用の仕方を探りつつ、その成果と課題を追求していきたい。

公開授業・公開研究会の計画

平成28年度にも校内研を公開予定

アドバイザーコメント
東北学院大学教養学部人間科学科 稲垣忠 准教授

11月13日の授業実践発表会は、出川小学校がワンダースクールプロジェクトに参加される前から取り組んできた、日常的なICT活用と、本プロジェクトで積み重ねてきた、1人1台のタブレットを用いた授業開発の集大成とも言える機会だった。

 

出川小学校では全てのクラスで実物投影機やプロジェクターといった提示系のICT機器は普段から日常的に活用されている。子どもたちが到達すべき目標に対して、有用なものを、必要なだけ使う。「どう使うか?」ではなく、「授業のねらいに対して、この提示はどれだけの意味があったのか」を問う。本来の意味での「教科指導のための」ICT活用をしっかり積み重ねてきたのが出川小学校である。

 

一方、タブレットに関しては2年間の試行錯誤の成果がみられるものだった。6年生は自治体で整備する端末の活用も含め、3つのクラスで授業を公開した(もう1クラスもタブレットを使った公開をしたかったそうだが、台数の制限により今回は見送られたとのこと)。これまでの習熟、試行錯誤、情報収集といった活用パターンがそれぞれの授業で意味のある形で埋め込まれていた。

 

算数「立体の体積」では習熟場面で活用された。以前、レポートしたエクセルのマクロを使った自動採点型の自作コンテンツが活用された。子どもたちは自分のペースで習熟問題に取り組み、即座に正誤が表示される。各児童の画面を電子黒板上で一覧表示しておくことで、教師は全体の様子を把握できる。これら2つの機能により、教師は児童の個別支援の時間を増やすことができる。自動採点であれば丸を付ける時間を省略できる。一覧表示されていれば、どの児童がつまずいているか、把握も早い。

 

社会「長く続いた戦争と人々のくらし」では、ジグソー学習による情報収集が行われた。ジグソー学習とは、米国の教育学者アロンソン(1986)が提唱した指導法である。学習課題を明らかにするために必要な資料をグループの人数分用意し、グループ内で各自分担して読み取る。途中、同じ資料をみている児童だけで集まり、大事なポイントや伝えるべきことを整理・確認する。もう一度、元のグループに戻り、お互いの情報を伝え合う。こうして1人1人が自分の集めてきた情報や考えに責任感と、伝え合う必要感をもって集まることで学び合いが活性化する。授業では、表面的な伝え合いにならないように、教科書資料だけでなく、Web上の資料についても教師が吟味し、議論が深まるよう工夫されていた。

 

算数「比例と反比例」では、発展課題として下学年の教科書の中から、比例や反比例の関係を見つけ出す学習活動が設定された。パワーポイントのスライドには、これまで学習してきたさまざまな単元における数値の変化をあらわす表が貼り付けられている。児童は班の中で分担して、どの表を説明するか選び、スライドにペンを使い、横でくらべる、縦でくらべる、2つの説明方法を選んで書き込でいった。デジタルなら教科書紙面に直接、自分の考えを書いたり、消したりの試行錯誤も難なくできる。共有する場面では、2つの説明がそれぞれ書かれている画面を選び、電子黒板に並べて表示することで、説明の仕方のちがいが際立つように工夫されていた。

 

6年生の先生方と子どもたちが追究してきたことは、いかに日常の授業に違和感なく、タブレットを活用するかだった。児童を対象にした質問紙調査からも「タブレットを使わない授業は先生が丸をつけにくる時間がかかるから、ぼくはタブレットの方が自分のペースできていい」「Aの絵とBの絵を比べてちがうところや同じところはありますか?と聞かれたときにタブレットを使うとみにくいところを大きくしたり小さくしたりできる」といった声があった。その一方、教室を移動すること、端末起動の待ち時間、バッテリーの管理、タッチの操作性など課題点も言及されていた。今後の本当の意味での1人1台、つまり1学級分の台数で特定の授業時間だけ1人1台環境ではなく、全員が所持するような環境へとステップアップしていくための、貴重な実践が積み重ねられたと思う。とはいえ当面、春日井市では完全1人1台、あるいは40台とはいかずに、グループに1台、2人に1台を見据えた整備から進められていく。ワンダースクールの成果が他の学年、他の学校にどのように波及していくのか、今後の取り組みを見守りたい。

 

参考文献 A.アロンソン(1986) ジグソー学級―生徒と教師の心を開く協同学習法の教え方と学び方, 原書房