実践研究助成に応募するにあたって

 今日,教師の授業力量の向上,特色ある学校づくり,カリキュラム・マネジメントなどの見地から,学校等が実践研究を推進する必要性が高まっています。また,GIGA スクール構想の実現,それに続くICT環境の整備が検討される中で,これまでの教育実践にICTを組み入れ,個別最適な学びと協働的な学びの一体的展開という見地から授業改善を充実させようとする学校も多くみられます。

 このような状況の中で,パナソニック教育財団は,「ICT を効果的に活用して学校現場の教育課題の改善に取り組む実践的研究」を支援するための実践研究助成を行っています。それは,実践研究の充実に資する道具や舞台を学校等にもたらしてくれる,貴重な機会であるといえます。

 その重要な機会を得るための第一歩が,「申請書」の作成です。実践研究助成への応募の際に,各学校等は,申請書において,研究内容の独自性・計画性・具体性・継続性等をアピールすることになります。しかしながら,残念なことに,時折,研究の目的・意図や内容が理解しにくい,研究に関する見通しが明らかでない申請書を目にすることがあります。

 実践研究助成への応募にあたって,申請書を作成する際に,どのような点に留意すればよいのでしょうか。以下では,実践研究助成への応募にあたりどのような準備を行えばよいのか,また,どのような点に留意して申請書を作成すればよいのかを解説しています。ここに示すいくつかのポイントをふまえつつ,実践研究助成に応募するための準備,そして,申請書の作成に取り組んで頂きたいと思います。

1.申請書の作成を始める前に

 実践研究助成にさあ応募と思っても,いきなり申請書を書き始めることはできません。申請書の作成の前に,やっておくべきことがあります。

 まず,同僚や同志と,研究助成への応募,その意義や手順を確認しておきましょう。パナソニック教育財団の実践研究助成は,個人による研究を対象とするものではありません。組織による研究に対する助成事業です。したがって,学校や研究会等が,組織として,先述した財団の実践研究助成の趣旨に則った取り組みに着手できるかどうかについて,一定の見通しが必要になります。それを,学校等のリーダーと申請書を作成する立場の教師(研究主任等)が共通理解し,そして全教職員あるいは研究会のメンバー等に提案し,了承を得ておかねばならないでしょう。

 最近では,複数の組織が共同で実践研究に取り組むことが少なくありません。例えば,小中連携教育の推進などに取り組んでいる場合には,共通理解や了解もいっそう複雑になります。したがって,早めに実践研究助成への応募についての相談を始めねばなりません。また,研究助成に申請することを教育委員会等に届けておかねばならないというルールが存在するケースもありますので,この点の確認も必要です。

 なお,そうした合意形成過程では,申請書を作成する立場の教師等には,実践研究助成への応募について,その必要性や有効性を具体的・実証的に説明できることが望まれましょう。そのためには,学校教育目標をきちんと把握しておきましょう。実践研究は,それを踏まえたものになるはずですから。また,学校経営計画の中期目標の内容や学校評価の結果,さらには児童・生徒の学力調査の結果,助成によって実践研究が進展した事例(特にその学校が属する地域の先行事例)などに精通しておきたいものです。

2.申請書記入上の留意点

 それでは,申請書のいくつかの項目に関して,記入上の留意点を解説いたします。すぐれた申請書は,以下のような要件を満たしています。

(1)研究課題

 1年間(特別研究指定校の場合は2 年間)の実践研究の内容や方法を象徴するタイトルを付してください。「子どもが楽しく学ぶためのICT の利用」といった程度では,具体性に欠けるばかりでなく,当該校の実践研究の独自性も伝わりません。例えば,どのような資質能力を育成しようとするのか,いかなるICTを用いるのか,どのような教科・領域等を対象とするのか等についても,副題を付けるなどして,アピールしてください。

 研究課題の表記と実践研究が乖離しているケースもよく目にします。それを回避するために,「研究課題に取り組む目的(目指すもの)と取り組みの概要」等を記して,研究課題名はそれらと整合的な表現を考え,この欄を最後に記入するという手順をお勧めします。

(2)研究組織

 研究課題と研究組織は整合的なものであるはずです。また,申請者を含む研究組織における役割分担を「研究課題に取り組む目的(目指すもの)と取り組みの概要」や「実践研究実施計画」の叙述と呼応させる必要もあります。例えば,「習得-活用-探究の3つの学びの場の相互作用を充実させるカリキュラム・マネジメント-学習環境デザインの視点から-」という研究課題にチャレンジする学校では,その研究組織のメンバーの役割を「習得学習実践計画立案,実施及び成果物収集」「活用学習実践計画立案,実施及び成果物収集」「探究学習実践計画立案,実施及び成果物収集」の3つに定めています(一部改変)。また,それを支える「システム構築,評価データ収集・分析」も役割の1つに定めています。もちろん,プロジェクト研究を牽引するリーダーが誰であるのかも明確に示されています。このように,学校等が設定する研究課題に対して,組織としてどのように取り組んでいくのか,それを論理的・構造的に示すことが重要となります。

(3)助成履歴

 助成履歴は,それに引き続く「研究課題を設定した背景・経緯」や「研究課題に取り組む目的(目指すもの)と取り組みの概要」を裏づける情報として重要です。ここで「応募しなかった」を選んだから審査においてすぐさま不利になるようなことはありません。しかしながら,審査する側にとっては,各学校等のこれまでの実践研究の履歴と今回の申請の経緯・背景や目的・意図をより深く理解するために必要な情報となります。申請書を作成する立場の方にとっては,これまで取り組んできた(あるいは取り組もうとしてきた)実践研究と今回の申請の継続性や発展性を改めて確認するための機会となるはずです。

(4)参考にした先行研究や実践、当財団の研究成果報告書

 パナソニック教育財団のホームページには,実践研究の構想を練るにあたって参考となる情報が多数掲載されています。例えば,過去の助成先一覧のみならず,これらの学校等が作成した報告書も参照することができます。それらから,研究課題や研究目的等の設定,そして具体的な実践例等についての情報を得ることができます。こうした先行事例に触れることは,各学校等が行おうとする実践研究の参考になることでしょう。ぜひとも,キーワード検索して,参考となる報告書を入手し,それらのエッセンスを申請書の作成に活用してください。

(5)研究課題を設定した背景・経緯

 ここでは,後に記すことになる「研究課題に取り組む目的(目指すもの)と取り組みの概要」の内容が助成申請時までにどのように進められてきたのかを記すことになります。なぜこの研究課題に取り組む必要性があるのかを,児童・生徒の実態,学校等の実践研究の歴史等を参照しながら,出来る限り具体的に記入する必要があります。例えば,ある小学校の申請書には,次のような記述がなされていました(一部抜粋の上,改変)。

 まず①では,「主体的・対話的で深い学び」という,学習指導要領で求められている授業改善の視点が記されており,教育課題と自校の取り組みの接点が確認されています。

 次いで,②では,①の課題に申請時までにどのように取り組んでいるのか,それによってどこまで実践が進んでいるかが整理されています。そして,③では,②の自己点検の結果に基づいて,次なる課題を浮き彫りにしています。すなわち,②と③によって,これまでの取り組みと今回の申請との継続性・発展性が示されています。なお,紙幅に余裕があれば,②や③の論述に,児童・生徒の学力・学習状況調査や教員アンケートの結果などのデータを用いて,研究課題の妥当性を確認するとよいでしょう。

(6)研究に取り組む目的(目指すもの)と取り組みの概要

 実践研究実施計画と並んで,申請書の最も重要なパートとなります。ここでは,何を目指して実践研究に取り組むのかという点について,出来る限り具体的に記入する必要があります。まず,「研究課題を設定した背景・経緯」の最後に記した,現状の課題をどのように解決しようとするのかを提案する必要があります。その際に,実践研究助成の期間が1年間であること(特別研究指定校の場合は2年間)を踏まえてください。問題点のすべてを1年間の実践で解決することは不可能に等しいですから,問題解決に向けて取り組もうとする実践に優先順位をつけてください。その主なものが,「研究に取り組む目的(目指すもの)と取り組みの概要」となります。例えば,先に示した申請書の事例である,タブレット端末の「現在1人2台(学校用・家庭用)」の活用についてであれば,次のような叙述が考えられましょう。

 このケースでは,タブレット端末の1人2台環境における実践のターゲットを国語科と算数科の授業に絞っています。もちろん,その他の教科・領域の授業においても,こうした環境を生かす授業を当該校の教師たちは試みるでしょう。しかしながら,限られた期間ですべての実践を研究的に扱うことはできません。単元モデルに即して実践をていねいに構想する対象は限定的でかまいません。ご自身の学校等の規模や実践研究の歴史等を踏まえて,妥当であると思われる実践のボリュームを構想すべきです。

 一方で,どのような実践であれ,それがやりっぱなしにならないように,その記録をきちんと残し,それを分析して実践を評価が大切です。そして,上記の例のように,実践を評価するためには,評価データに多様性があることが望まれます。

(7)継続研究課題の場合のその発展性(継続助成申請校のみ記入)

 「(5)研究課題を設定した背景・経緯」に記した内容のうち,パナソニック教育財団の実践研究助成によって実現した実践,その評価によって明らかになった課題,それに応ずるためのさらなる助成の必要性等に関して,整理して述べてください。

(8)実践研究における創意工夫(実態に応じた創意工夫,ICTの特性を活かした創意工夫など)

 「(5)研究課題を設定した背景・経緯」と「(6)研究に取り組む目的(目指すもの)と取り組みの概要」の記載内容を踏まえて,助成を申請する実践研究の特長をアピールしてください。新規な実践であると,それ自体がアピールになりますが,他の学校等ですでに営まれている実践であっても,それを研究的に扱うことに価値を見出せる場合があります。すなわち,助成を申請する実践研究の特長を,学校等にとっての必然性,過去の実践からの発展性,他の学校等に対する影響などの視座からも検討して,この欄に記してください。

(9)実践研究実施計画

 本申請書でもっとも重要なパートです。「(6)研究に取り組む目的(目指すもの)と取り組みの概要」を詳細化したものとなります。この計画は,「1年間(特別研究指定校は2年間)」の研究活動の見通しを記すものです。表中の「贈呈式・スタートアップセミナー」「セミナーを踏まえた実施計画の再構築」「2学期実践の中間総括とまとめの計画策定」「研究成果報告書提出」が1年間の研究活動の節目となります。それらの間に,研究課題に即した実践が計画・実施・評価されるよう,全体計画を組みましょう。

 実践研究実施計画は,「具体的な取り組み内容(意図・手法)」と「取組に対しての評価手法・基準・検証」で構成されます。そして,両者は,当然,関連します。ある授業実践を6月に実施するのであれば,実践のデザインとともに,その効果等を把握するためにいかなる評価を行うのかについても,事前(5月まで)に構想しましょう。また,その記録を1学期中に分析し,分析結果を踏まえた,次なる実践の計画を夏休み中に策定するという流れが,理想的です。つまり,実践と評価の計画策定→実践とその記録の収集→実践記録の分析(評価)→次なる実践の計画策定というサイクルが,実践研究実施計画の表中に「複数」確認できるよう,このパートの記述を整えましょう。

 なお,評価のための記録やデータについては,(6)でも述べましたが,多様性があることが望まれます。例えば学力調査の実施,教職員や保護者向けアンケートの実施など,研究の目的・意図に即した評価材料の収集とその分析をいくつか構想するとよいでしょう。

 具体的な取組内容に,公開研究会の開催,研究紀要の作成・配布,学校等のホームページにおける知見の発信などを含めると,成果発信という見地からベターです。

 実践研究の推進に必要とされる「助成金使途」も,該当する内容・方法に応じて,記入欄に示さねばなりません。計画に示される研究活動と助成金使途との整合性には,十分に注意してください。例えば,先進校視察や研究会等への参加のための旅費が計上されているにもかかわらず,それが計画には示されていないケースが散見されます。

(10)助成金使途内訳

 助成金の使途をリスト化してください。その際に,助成金の活用方法に留意しましょう。時折,研究会等への参加のための出張費とか,講師謝礼が助成金のかなりの部分を占める計画を目にしますが,あまり好ましくありません。助成の趣旨からすれば,やはり,ある程度は,日常的に行われる,子どもの学習や教員の研修に直接的に資する環境整備や活動の企画・運営に助成金が費やされるべきでしょう。意外にも,計算間違いをしたまま提出されている申請書が少なくありません。この点にも注意を払ってください。

3.申請書を書き終わってから

 申請書を書き終わったら,その内容や表現について,何度も見直しをしてください。過去に助成を受けた,ある小学校の教師から,「本校の教育推進と連鎖しているか,これまでの研究を深めるものになっているか,プランやゴールは具体的,整合的かという視点で,申請書の記述内容を何度も点検・評価した」と聞いたことがあります。

 申請書の各項目がきちんと記述されていることもさることながら,例えば,「研究課題」「研究組織」「研究課題に取り組む目的(目指すもの)と取組の概要」「実践研究実施計画」「助成金使途内訳」の叙述が一貫しているか,整合的であるか,途中で「ズレ」が生じていないかを必ず確認してください。

 そして,申請書の点検は,複眼的に営まれるべきです。ある小学校では,申請書案を,教務主任・研究主任等で作成し,その内容を研究部会メンバーで検討し,そして最後に管理職に点検・評価してもらっています。それによって,校内の全メンバーがなんらかの形で申請書の作成にかかわり,学校内の研究に対する意識が高まったそうです。そうした副次効果も,この申請書の推敲には期待できます。なお,他校等の教師や教育委員会のスタッフ,さらには大学研究者等にも,申請書の内容や表現を点検してもらえると,その内容がぐっと充実します。

 なお,読み手に実践研究の特長が伝わりやすくなるよう,主張点を太字にするなどの表記の工夫にも取り組んでもらいたいと思います。

4.おわりに

 申請書のページ数は,限られています。各項目をいたずらに埋めるだけであれば,すぐに作成できるかもしれません。けれども,私たち専門委員の経験からすれば,その作成にかけた努力は,ウソをつきません。十分に準備された,よく練られた申請書からは,実践研究に対する熱意やしっかりとした見通しがひしひしと伝わってきます。

 そうした申請書を作成するための支援が,パナソニック教育財団のホームページで提供されています。例えば,同ホームページ「応募にあたってhttps://www.pef.or.jp/school/grant/about-application/)」においては,より確かな申請書を書くために参考となる情報(映像も含む)にアクセスすることができます。

 また,同ホームページ「優れた研究成果報告書のご紹介https://www.pef.or.jp/school/grant/evaluation/)」では,一般助成校の研究成果報告書のなかで特に優れているとして表彰されたものにアクセスすることができます。さらに,研究成果報告書をまとめる際のポイントを解説した「研究成果報告書をまとめるにあたって」も参照することができます。「申請書を作成する段階で,なぜ研究成果報告書について知る必要があるのか」と思われるかもしれませんが,申請書を作成することは実践研究のゴールを適切に定めることでもあります。目指すゴールにたどりつくためにはどのように取り組みをすすめていけばよいのか,研究成果報告書を参照することで,必要となる活動や組織的な実践研究を実現するための工夫に触れることができるはずです。

 これまで述べてきたようなポイントをおさえながら,「確かな申請書」を作成・提出してください。私たち専門委員等は,そうした申請書を目にするのを楽しみにしています。