それでは,申請書のいくつかの項目に関して,記入上の留意点を解説いたします。すぐれた申請書は,以下のような要件を満たしています。
(1)研究課題
1年間(特別研究指定校の場合は2 年間)の実践研究の内容や方法を象徴するタイトルを付してください。「子どもが楽しく学ぶためのICT の利用」といった程度では,具体性に欠けるばかりでなく,当該校の実践研究の独自性も伝わりません。例えば,どのような資質能力を育成しようとするのか,いかなるICTを用いるのか,どのような教科・領域等を対象とするのか等についても,副題を付けるなどして,アピールしてください。
研究課題の表記と実践研究が乖離しているケースもよく目にします。それを回避するために,「研究課題に取り組む目的(目指すもの)と取り組みの概要」等を記して,研究課題名はそれらと整合的な表現を考え,この欄を最後に記入するという手順をお勧めします。
(2)研究組織
研究課題と研究組織は整合的なものであるはずです。また,申請者を含む研究組織における役割分担を「研究課題に取り組む目的(目指すもの)と取り組みの概要」や「実践研究実施計画」の叙述と呼応させる必要もあります。例えば,「習得-活用-探究の3つの学びの場の相互作用を充実させるカリキュラム・マネジメント-学習環境デザインの視点から-」という研究課題にチャレンジする学校では,その研究組織のメンバーの役割を「習得学習実践計画立案,実施及び成果物収集」「活用学習実践計画立案,実施及び成果物収集」「探究学習実践計画立案,実施及び成果物収集」の3つに定めています(一部改変)。また,それを支える「システム構築,評価データ収集・分析」も役割の1つに定めています。もちろん,プロジェクト研究を牽引するリーダーが誰であるのかも明確に示されています。このように,学校等が設定する研究課題に対して,組織としてどのように取り組んでいくのか,それを論理的・構造的に示すことが重要となります。
(3)助成履歴
助成履歴は,それに引き続く「研究課題を設定した背景・経緯」や「研究課題に取り組む目的(目指すもの)と取り組みの概要」を裏づける情報として重要です。ここで「応募しなかった」を選んだから審査においてすぐさま不利になるようなことはありません。しかしながら,審査する側にとっては,各学校等のこれまでの実践研究の履歴と今回の申請の経緯・背景や目的・意図をより深く理解するために必要な情報となります。申請書を作成する立場の方にとっては,これまで取り組んできた(あるいは取り組もうとしてきた)実践研究と今回の申請の継続性や発展性を改めて確認するための機会となるはずです。
(4)参考にした先行研究や実践、当財団の研究成果報告書
パナソニック教育財団のホームページには,実践研究の構想を練るにあたって参考となる情報が多数掲載されています。例えば,過去の助成先一覧のみならず,これらの学校等が作成した報告書も参照することができます。それらから,研究課題や研究目的等の設定,そして具体的な実践例等についての情報を得ることができます。こうした先行事例に触れることは,各学校等が行おうとする実践研究の参考になることでしょう。ぜひとも,キーワード検索して,参考となる報告書を入手し,それらのエッセンスを申請書の作成に活用してください。
(5)研究課題を設定した背景・経緯
ここでは,後に記すことになる「研究課題に取り組む目的(目指すもの)と取り組みの概要」の内容が助成申請時までにどのように進められてきたのかを記すことになります。なぜこの研究課題に取り組む必要性があるのかを,児童・生徒の実態,学校等の実践研究の歴史等を参照しながら,出来る限り具体的に記入する必要があります。例えば,ある小学校の申請書には,次のような記述がなされていました(一部抜粋の上,改変)。
まず①では,「主体的・対話的で深い学び」という,学習指導要領で求められている授業改善の視点が記されており,教育課題と自校の取り組みの接点が確認されています。
次いで,②では,①の課題に申請時までにどのように取り組んでいるのか,それによってどこまで実践が進んでいるかが整理されています。そして,③では,②の自己点検の結果に基づいて,次なる課題を浮き彫りにしています。すなわち,②と③によって,これまでの取り組みと今回の申請との継続性・発展性が示されています。なお,紙幅に余裕があれば,②や③の論述に,児童・生徒の学力・学習状況調査や教員アンケートの結果などのデータを用いて,研究課題の妥当性を確認するとよいでしょう。
(6)研究に取り組む目的(目指すもの)と取り組みの概要
実践研究実施計画と並んで,申請書の最も重要なパートとなります。ここでは,何を目指して実践研究に取り組むのかという点について,出来る限り具体的に記入する必要があります。まず,「研究課題を設定した背景・経緯」の最後に記した,現状の課題をどのように解決しようとするのかを提案する必要があります。その際に,実践研究助成の期間が1年間であること(特別研究指定校の場合は2年間)を踏まえてください。問題点のすべてを1年間の実践で解決することは不可能に等しいですから,問題解決に向けて取り組もうとする実践に優先順位をつけてください。その主なものが,「研究に取り組む目的(目指すもの)と取り組みの概要」となります。例えば,先に示した申請書の事例である,タブレット端末の「現在1人2台(学校用・家庭用)」の活用についてであれば,次のような叙述が考えられましょう。
このケースでは,タブレット端末の1人2台環境における実践のターゲットを国語科と算数科の授業に絞っています。もちろん,その他の教科・領域の授業においても,こうした環境を生かす授業を当該校の教師たちは試みるでしょう。しかしながら,限られた期間ですべての実践を研究的に扱うことはできません。単元モデルに即して実践をていねいに構想する対象は限定的でかまいません。ご自身の学校等の規模や実践研究の歴史等を踏まえて,妥当であると思われる実践のボリュームを構想すべきです。
一方で,どのような実践であれ,それがやりっぱなしにならないように,その記録をきちんと残し,それを分析して実践を評価が大切です。そして,上記の例のように,実践を評価するためには,評価データに多様性があることが望まれます。
(7)継続研究課題の場合のその発展性(継続助成申請校のみ記入)
「(5)研究課題を設定した背景・経緯」に記した内容のうち,パナソニック教育財団の実践研究助成によって実現した実践,その評価によって明らかになった課題,それに応ずるためのさらなる助成の必要性等に関して,整理して述べてください。
(8)実践研究における創意工夫(実態に応じた創意工夫,ICTの特性を活かした創意工夫など)
「(5)研究課題を設定した背景・経緯」と「(6)研究に取り組む目的(目指すもの)と取り組みの概要」の記載内容を踏まえて,助成を申請する実践研究の特長をアピールしてください。新規な実践であると,それ自体がアピールになりますが,他の学校等ですでに営まれている実践であっても,それを研究的に扱うことに価値を見出せる場合があります。すなわち,助成を申請する実践研究の特長を,学校等にとっての必然性,過去の実践からの発展性,他の学校等に対する影響などの視座からも検討して,この欄に記してください。
(9)実践研究実施計画
本申請書でもっとも重要なパートです。「(6)研究に取り組む目的(目指すもの)と取り組みの概要」を詳細化したものとなります。この計画は,「1年間(特別研究指定校は2年間)」の研究活動の見通しを記すものです。表中の「贈呈式・スタートアップセミナー」「セミナーを踏まえた実施計画の再構築」「2学期実践の中間総括とまとめの計画策定」「研究成果報告書提出」が1年間の研究活動の節目となります。それらの間に,研究課題に即した実践が計画・実施・評価されるよう,全体計画を組みましょう。
実践研究実施計画は,「具体的な取り組み内容(意図・手法)」と「取組に対しての評価手法・基準・検証」で構成されます。そして,両者は,当然,関連します。ある授業実践を6月に実施するのであれば,実践のデザインとともに,その効果等を把握するためにいかなる評価を行うのかについても,事前(5月まで)に構想しましょう。また,その記録を1学期中に分析し,分析結果を踏まえた,次なる実践の計画を夏休み中に策定するという流れが,理想的です。つまり,実践と評価の計画策定→実践とその記録の収集→実践記録の分析(評価)→次なる実践の計画策定というサイクルが,実践研究実施計画の表中に「複数」確認できるよう,このパートの記述を整えましょう。
なお,評価のための記録やデータについては,(6)でも述べましたが,多様性があることが望まれます。例えば学力調査の実施,教職員や保護者向けアンケートの実施など,研究の目的・意図に即した評価材料の収集とその分析をいくつか構想するとよいでしょう。
具体的な取組内容に,公開研究会の開催,研究紀要の作成・配布,学校等のホームページにおける知見の発信などを含めると,成果発信という見地からベターです。
実践研究の推進に必要とされる「助成金使途」も,該当する内容・方法に応じて,記入欄に示さねばなりません。計画に示される研究活動と助成金使途との整合性には,十分に注意してください。例えば,先進校視察や研究会等への参加のための旅費が計上されているにもかかわらず,それが計画には示されていないケースが散見されます。
(10)助成金使途内訳
助成金の使途をリスト化してください。その際に,助成金の活用方法に留意しましょう。時折,研究会等への参加のための出張費とか,講師謝礼が助成金のかなりの部分を占める計画を目にしますが,あまり好ましくありません。助成の趣旨からすれば,やはり,ある程度は,日常的に行われる,子どもの学習や教員の研修に直接的に資する環境整備や活動の企画・運営に助成金が費やされるべきでしょう。意外にも,計算間違いをしたまま提出されている申請書が少なくありません。この点にも注意を払ってください。