続くパネルディスカッションでは、岸 磨貴子 氏(明治大学 准教授)の進行で、2020年度「研究成果報告書」表彰校4校に実践研究を発表していただきながら、「問いの立て方」について検証していきました。
実践研究へのアプローチには3つあります。1つは魚沼市立宇賀地小学校が実践したような「実践現場で起きていることをわかる研究」、2つ目が郡山ザベリオ学園中学校・福井市啓蒙小学校が実践したような「仮説を立て実証する研究」、3つ目は北海道函館水産高等学校が実践したような「アクションを起こし、変化を生み出す研究」です。
そして、研究の問いを立てるポイントは3つあります。1つは「答えが出る問いを立てること」、2つ目が「手に負える問いを立てること」、3つ目は「データにアクセスできる問いを立てること」です。この2つの観点から会話を始めましょう。
宇賀地は教育や学校への関心が高い地域ですが、児童数が減り、多様な人と関わる機会が少ないため、自分の思いを表現し、社会と関わる力に課題がありました。そこで3年前、卒業生たちが米やユリをモチーフにした本校のキャラクター「うかにぎり」をつくり、挨拶運動や運動会、校外学習などで活用してきました。
さらに当校では、情報活用能力を育む活動が情報教育計画に位置づけられていなかったため、「うかにぎり」を活用して情報活用能力を育み、探求・発信活動を充実させようと考えました。そこで、私たちは3つの問いを立てました。
①ICTを活用して探求・発信活動の充実を図ることで情報活用能力は高まるのか?
活動記録を写真で残し、4月と3月に児童の情報活用能力の変容を調査しました。
②ICT活用と「うかにぎり」の組み合わせによる効果はどうなのか?
写真を撮り、職員・児童の生の声を聞き、活動に対する意欲の変化を記録しました。
③若手教員のICT活用能力はどのように向上していくか?
4月と3月に職員にアンケートを行い、悩みや相談を記録していきました。
●岸先生のコメント
子どもたちの情報活用能力や意欲の変化を記録するために、写真を撮り、プロセスを丁寧に追ったのはよかったと思います。それを先生があとから意味づけ・解釈することは「わかる研究」では大切なこと。先生がその場その場で困ったことと解決のプロセスを記録したことで、先生の学びの軌跡もわかる研究になりました。
本校は支援を要する児童が15%と多く、通常学級には特性が強い児童が多い傾向にありますが、保護者は同学年の友達との関わりを強く希望しています。そんな中、春の体育祭で、ある児童がトイレに行っていて、50m走に出られなくなる事件が起きました。先生へのインタビューの結果、特別支援学級と通常学級の関係構築や子ども同士の交流ができていないことがわかりました。そこで学校全体として、要支援児童への専門的な知見からの研修と児童理解、教員間の風通しのよい関係構築、各教員が研究に参画意識をもち幅広く取り組むといったことを行い、その際にICTの活用がとても効果的でした。
ICT活用については、2019年度にも財団の助成をいただき、特別支援学級と通常学級でタブレットを活用し、貸出簿を作成して長期休業中は長期貸出を可能にしました。
2年目の2020年度は、通級指導の先生を巻き込んで各担当者・各学級に1台タブレットを所有し、通級担当者の指導力とICT活用力の向上を図りました。その結果、通級の子どもがタブレットでつくったものを自学級のお楽しみ会で発表し、みんなを楽しませる等という子どもの個性の伸長が見られました。また、アプリ購入時の情報交換などを通して、通級指導と特別支援学級と通常学級の先生同士の関係構築と評価に関する情報の共有にも役立ちました。
●岸先生のコメント
啓蒙小学校が立てた「特別支援学級と通常学級の交流を図ることで、児童同士の理解、教師の関係構築、保護者との連携は促進されるのか?」という問いについて、ビフォーアフターを見る時、数値だけではなく、質的な変化や子どもの発言などを観察していくことも大事なのだと感じました。
本校は幼稚園から中学校までの一貫教育です。一昨年度のアンケートで、受験などの目先のゴールを意識する生徒が多く、なりたい自分像を考える機会がないことがわかりました。そこで、生徒が1年間の大きなゴールをつくり、いろいろな活動の中で目標を設定して、自分でG-PDCAサイクルを回し、どれくらいできたかチェックする取り組みを行いました。
その際、「振り返りを蓄積するツールとして、タブレット端末は有効なのか?」という問いを立てました。生徒がいつでも振り返れるように、データはポートフォリオ「My Consul」に蓄積し、自分の成長を教員と保護者に発表する「成長インタビュー」の場を設けました。パワーポイントでまとめる作業を通して、生徒自身も成長を感じることができました。
生徒の変化を検証するためにルーブリックを作成し、7月と1月にはアンケートを実施。「主体性」に関しては7月はSランクが0、Aが26%だったのが、1月にはS・A合わせて42%に増え、「自己分析力」も大幅にアップして、Dを選択する生徒が減りました。タブレットについても尋ねたところ、手に取りやすく、すぐ確認できるところがいいとの意見が多数でした。
●岸先生のコメント
なりたい自分を見つけるためのICT活用という観点が面白いですね。有効性を確認するためにルーブリックのアンケートをつくり、子どもたちにも評価に参加してもらった点がいいと思いました。成長インタビューやアンケートで言語化されたものを分析したり、データの収集方法について生徒に聞いたのもよかったと思います。
職業高校として地域に求められるものがたくさんある中で、コロナ禍においても自分たちにできる活動は何かと生徒たちに問いかけました。生徒たちは海洋に関連した地域の課題を検索エンジンで調べ、市役所や漁協にも話を聞いて、海岸漂着ゴミと漁業についての調査研究活動を行うことにしました。
地域の漁獲量が減っているということで、インターネットで水温やCOD等の経年変化を調べ、海の変化を探るために、カヌーで海を見に行きました。食物連鎖の生産者である海藻が関係しているのではないかとの仮説を立て調べたところ、七重浜にはアマモが植生していましたが、海岸線には海藻がゴミと一緒に打ち上げられていました。
そこで、七重浜の海岸清掃・環境保全・海洋調査という3つの活動を設定しました。校内に呼びかけた9月の海岸清掃には81名が参加しました。拾ったゴミを分別したところ、家庭から出るプラスチックゴミの比率が高く、海洋ゴミのマイクロプラスチック問題について考えるきっかけになりました。
●岸先生のコメント
生徒たちから出てきた「やってみたい」「知りたい」「解決したい」という気持ち。その中から「海の変化はどうなっているんだろう?」という問いが生まれ、そこからわかってきたことをもとに、生徒たちはアクションを起こしました。そのプロセスの中で、ICTがさまざまな形で活用されていることを感じさせてくれる研究でした。
●全体ディスカッション
質問「うかにぎりは今も登場しますか?」
若井先生「運動会で、子どもたちがうかにぎりに届け物をする競技を考えたり、校外学習の時にぬいぐるみを連れて行ったり、地域の雪まつりに雪像が登場したりしています。1年生を迎える会で着ぐるみを着た6年生の生徒は、着ぐるみを着たら緊張しなかったと話していました。うかにぎりを媒体にすることで、表現・発信に対する抵抗が下がり、成功体験を繰り返すことで、実際にできるようになるのだと思います」
質問「データを取って検証する上で難しかったことは何ですか?」
大正先生「学びの定着など、いろいろな要素によって成果や評価が変わるという点で、データの数値化に苦労しました。その分、先生の面談などを通して、状況を把握するよう努めました」