主催者挨拶
「GIGAスクール構想」の実現が問われる
2022年度は大きな節目の年
パナソニック教育財団 理事長
小野 元之
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新型コロナがなかなか収束に至らず、大変厳しい状況が続く中、本日は多くの皆様にご参加いただき、誠にありがとうございます。2022年度は特別研究指定校が4件、一般助成が72件、合わせて76件への助成が決まり、これまでの助成件数はのべ3,346件となりました。
この2022年度は大変大きな節目になると、私どもは考えております。2020年度の小学校から始まった新しい学習指導要領が高等学校でもスタートし、コロナ禍と共に動いている「GIGAスクール構想」も実を挙げていく段階に入っています。
従来、財団の助成事業はICTの利活用を進めるために、ハード面での整備が強かった部分もありますが、これからは目の前にあるICTをいかに活用していくか、「GIGAスクール構想」を具体的にどう実現していくかが重要になってくるのではないかと感じています。財団としても、こうしたニーズの変化に的確にお応えできる活動を推進していきたいと考えています。
パネルディスカッション
―前年度の「研究成果報告書」優秀賞3校による事例発表-
<コーディネーター>
東京学芸大学 教授 北澤 武 氏
<コメンテーター>
信州大学 准教授 佐藤 和紀 氏
帝京大学 准教授 水内 豊和 氏
<発表校>
浜松市立雄踏小学校 菊地 寛 先生
(現・浜松市立浅間小学校)
京都橘中学校・高等学校 長谷川 卓也 先生
神奈川県立相模原中央支援学校 向田 昌樹 先生
前年度の「研究成果報告書」の中から優秀な研究実践として表彰された11件(優秀賞6件・奨励賞5件)を代表して、3校に実践事例を発表していただきました。その後、専門委員の先生方からコメントをいただき、最後に質疑応答の時間を設けました。
研究成果報告書を評価する5つの観点
東京学芸大学 教授
北澤 武 氏
研究成果報告書の評価について、ご説明します。今回は「①研究内容・活動の創意工夫、②研究成果の説得性、③研究内容の適用可能性、④実践の批判的検討、⑤表現の工夫」という5つの観点で評価し、優秀賞6件、奨励賞5件を選ばせていただきました。
優秀賞は、根拠となるデータがあり、評価がなされ、研究成果報告書として参考になるまとめ方となっていて、社会的に有意義で優れた実践例として評価される研究が選ばれました。そして奨励賞は、いくつかの観点で特に秀でた工夫が認められた研究が選ばれました。本日は優秀賞6件の中から、3校の先生にご発表いただきます。
本校は3年間、プログラミング教育の実践研究を行ってきました。その中で、教科横断的に情報活用能力を育成するには、ものづくりが有意義なのではないかとの知見を得ました。そこで6年生を対象とし、STEAM教育に取り組むことにより、問題解決において児童がどのように変容するかを明らかにすることにしました。研究の内容は以下の3つです。
①問題解決学習において、発達段階に合わせた付けたい力を設定する。
②STEAM教育を念頭に置いた、ものづくりを中核としたカリキュラム・マネジメントを行う。
③付けたい力をはっきりさせて、学習評価を行う。
「雄踏未来プロジェクト」と題して、総合的な学習の時間を中心に、理科や算数科、家庭科においても情報活用能力を育成する単元構想を立てました。たとえばあるチームはScratchを使って、町の観光を盛り上げるデジタルマップをプログラミングで作成。情報活用能力を育成するために、各チームには必要な情報をGoogle Classroomで提供しました。
成果としては、児童に付けたい力を教師が設定し、STEAM教育を念頭に置いたカリキュラムをつくれるようになりました。学習評価については、質問紙調査の結果、児童が複数の情報を収集し、友達と対話しながら、追究活動を行えるようになったことがわかりました。
●佐藤 和紀 氏のコメント
本校の特徴は次の3点に現れていると思います。
「①研究内容・活動の創意工夫」
カリキュラム・マネジメントがきちんとなされていて、ものづくりという考え方を中心にプログラミング教育を実施しています。
「②研究内容の適用可能性」
報告書にも実践が明確かつ具体的に記述されていて、他の学校にも大変参考になるところが高く評価されたのだと思います。
「③実践の批判的検討」
「情報活用の実践力尺度」や「探求的な学習による資質・能力」を測る質問紙調査を学習の前後に計画的に実施し、実態を踏まえて、子どもたちの学びを考察しています。
昨今のARの普及や新学習指導要領における情報Ⅰの必履修科目化、2020年度以降に入学した全生徒がiPadを所持していることを踏まえ、本研究では、プログラミングによるAR開発の実施に伴う関心意欲や学習効果、課題を明らかにすることにしました。
まずはロボットプログラミング部の活動で、本校のゆるキャラ「たちばにゃん」と記念撮影できるARアプリを開発し、文化祭で発表。生徒や教員などが100枚以上を撮影しました。生徒の感想からは興味関心が感じられましたが、開発したアプリを生徒のiPadにインストールできず、ARアプリから、ブラウザで利用できるWebARの開発へと転換しました。
続く高校1年生の授業では、クラスごとに水族館や動物園などのAR展示会を企画し、一人ひとりが3DCGのコンテンツと、それを表示させるWebページをつくりました。コロナ禍の影響で、私がプログラミングの見本を示す形になったのは残念でしたが、生徒の振り返りからは、過去に行った数独パズルのプログラミングより興味関心の高さがうかがえました。
京都府私立中学高等学校情報科研究会に評価してもらったところ、AR開発は情報デザインやプログラミング、問題解決など、複数の単元を横断した学習効果をもたらすという評価の一方で、生徒が意義や目的を見失わない指導の在り方が課題として挙げられました。
●北澤 武 氏のコメント
本校の特徴として、3つの観点を挙げたいと思います。
「①研究内容・活動の創意工夫」
ARのプログラム開発や、今年度から始まった高等学校の情報Ⅰに着目した点にオリジナリティを感じます。
「②研究成果の説得性」
過去に実施した数独パズルのプログラミングより生徒の活動意欲が高いことを、数値データに基づいて明らかにした点が高く評価できます。
「③実践の批判的検討」
実践の課題と改善策が具体的に記載され、プログラミング教育の視点からも参考になります。
本校には4部門・4学部があり、車椅子を使用する生徒が多い肢体不自由教育部門には、知的な遅れは軽度でも手指の動きに困難さがあったり、移動に制限があったりする生徒が複数名います。そこで、音声で操作できるAIスピーカー「Amazon Echo Show8(以下アレクサ)」を活用することで、学習や日常生活の課題を解決できるか検証することにしました。
肢体不自由教育部門高等部1年の生徒は、日常的な会話はできますが、話す声が小さく、返答に時間がかかったり、話に意識が向いていなかったりすることがありました。そこで、朝の会で係活動として担当している天気の発表に、アレクサを活用しました。
その結果、アレクサから今日の天気を集中して聞き取ろうとし、その内容を正確に、聞き取りやすい声で発表できるようになりました。取り組み当初の9月初旬は発表に62秒かかっていたのが、1月下旬には26秒で発表できるようになりました。アレクサを日常的に活用するようにもなり、調べ物や余暇のツールとして活用の幅が広がりました。
音声のみで活用できる楽しさや、伝わったという達成感を味わうことで、話すことに自信がもてるようになったのではないかと考えています。アレクサを使って、友達や教員と関わる研究についても検討したいと思います。一方で、課題によっては教員の言葉かけが必要で、生徒に寄り添ったサポートがあってこそ成り立つことも多いと感じました。
●水内 豊和 氏のコメント
特別支援教育の分野では、ICTは昔から学習や生活に不可欠なツールとして活用されてきましたが、ただ端末があればいいわけではなく、それぞれの子どもの興味関心や支援ニーズ、認知や運動面の状態などとの適合が非常に重要です。
本校は、対象生徒の心理検査や発達検査、身体面の状態の把握も丁寧に行っていますし、AIスピーカーである必然性も感じられました。学習場面での活用と教育的成果の客観的・定量的な評価を行った上で、生活や家庭の中にも導入しています。何よりも、生徒にとってのAIスピーカーのある生活の有用感が、多角的に報告されている点が高く評価できます。
●全体ディスカッション
質問「今回の研究に学校全体で取り組むために、どのような工夫をしましたか?」
菊地 先生「校内研修を年3回、計画的に行いました。あとは6年生の実践の際にGoogleのスプレッドシートを使って、先生方が何をしたか書き込んでもらい、私がコメントをすることで、どこで何をしているか、どんな力をつければいいか、共有できるようにしました」
長谷川 先生「この取り組みをオープンキャンパスとつなげて広報部と連携したり、文化祭とつなげて生徒指導部と連携したり。いろいろな部の職員と立ち話の中で、『こういうことをやりますよ』と日常的に話しながら進めたことで、学校全体に広まったのだと思います」
向田 先生「本校ではプロジェクトチームを立ち上げて、AIスピーカーと視線入力の先行研究と推進を進めてきました。さらに、実践事例をHPに掲載することで保護者に発信したり、プロジェクトチームのマスコットキャラクターを生徒に依頼したりすることで、学校全体の取り組みとしていきました」