1.教育改革の背景
学習指導要領の前文には、一人ひとりの児童・生徒が多様な人々と協働し、持続可能な社会の創り手となるように育てていくと書かれています。その背景には、5つの大きなトレンドがあります。
①グローバル化
日本企業の外国企業とのM&Aが高水準で推移し、自動車業界では異業種とのコラボが広がり、業界を超えて協業し、異なる他者と新しい価値を生み出す社会になってきました。
②人口減少・少子高齢化
日本は2050年に人口が1億人を割る見込みですが、労働生産性はOECD諸国で下位。核家族やひとり親世帯が増え、子どもの周りにいる他者が少ない中で、多様な他者と協働する資質能力を育むうえで、学校の役割は大きくならざるを得ません。
③デジタル化(Society 5.0)
生成AIが進化する中で、ルーティンではなく、ICTを高いレベルで使う仕事が増えていくとされますが、日本のデジタル競争力はまだ低い状況があります。GIGAスクール構想が生まれた背景にはこうした状況もありました。
④変化の激しい、不確実性の時代
有形資産の陳腐化が進むスピードは年10%ですが、人的資本の価値は年40%のペースで失われるとの試算もある中、生涯にわたって学び続ける資質や能力、態度や習慣を身につける必要があります。
⑤人生100年時代
2007年生まれの子どもが107歳まで生きる確率は5割以上。我が国の職業生活もいったん入職してから終身勤め上げるモデルではなく、途中で学びの場に戻ったりリスキリングを行うマルチステージに移りつつあります。コロナ化で労働市場もメンバーシップ型からジョブ型へと流動的になり、培った知識や経験、人脈を次の会社に持ち込み、新しい価値を生み出す時代になっています。
2.データで見る我が国の教育と社会
日本型学校教育の成果として、OECDの教育政策レビューで日本の児童・生徒はトップクラスの成績でした。ところが、PISAの2018年の学習到達度調査では、テキストから情報を探す問題や、自分の考えが伝わるように根拠を示して説明する問題が苦手でした。さらに、当時はデジタルを学びでなく、遊びに使う傾向もありました。
日本は理工系学部の入学者がOECDで最下位クラスで、高等教育段階で理数系の定員を増やすとともに、初中教育段階で理数から降りてしまう子どもを減らしていく必要もあります。「自分の国に解決したい社会課題がある」と答える18歳も46.4%と他の国より少なく、民主主義にとって重要な当事者意識が足りない面もあります。自分で課題を見つけて解決策を考える学習を増やしていく必要があり、そこにもデジタル化が有効に作用します。
こうした中、学校教育のアップデートが求められるわけですが、学校現場を取り巻く状況は厳しいです。不登校も暴力行為も増え、厳しい状況にあります。教室の多様性も増しています。子どもたちの理解度や学力もバラバラです。また、時間外勤務はだいぶ減ったもののまだ高水準にあり、働き方改革の加速が必要です。学校のアップデートは働き方改革と両立する形で行われる必要があります。令和の日本型学校教育というコンセプトはこういう状況の中で出てきたものなのです。
3.令和の日本型学校教育 GIGAスクール構想
令和の日本型学校教育のキーコンセプトは個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実で、いずれにもICTが効率的に効くものと考えます。ここで、全国の実践事例をシェアします。
①学びの保障
ある小学校では臨時休校が終わってからも、オンラインで朝の会を実施し、授業をデフォルトで中継。不登校や病気療養中、保健室登校の子どもたちも受けられるようになりました。
②働き方改革の観点
英単語のテストにグループウェアを使えば、自動配布・回収・採点ができ、その分、子どもたちと向き合う時間が増えます。GIGA環境を職員会議や授業研究会、欠席・遅刻連絡やお便り等の校務にも活用すれば、働き方改革にもつながります。
③個別最適と自己調整
クラウドベースで授業設計や学習の手立てが共有できていれば、それぞれが学びたいことや課題と感じることに取り組む「授業の複線化」が可能になり、つまずく子を減らせます。
④家庭学習(持ち帰り)
表計算のソフトで、何を学習し、何が得意で何が苦手なのか、メタ認知を促し、自己調整させている小学校もあります。私たちはデジタル教科書を真ん中にして、そこに学習支援ソフトウェアやデジタル教材をくっつけることで授業を変革し、家庭と地域での学びをシームレスにつなげていきたいと考えています。