2023年度(第49回)助成金贈呈式・スタートアップセミナー

2023年度(第49回) 実践研究助成
助成金贈呈式・
スタートアップセミナー

開催日 2023年5月26日(金)
場 所 パナソニックセンター東京
オンライン集合写真

2023年5月26日、パナソニック教育財団は2023年度(第49回)実践研究助成 助成金贈呈式を開催しました。5月8日から新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更に伴い、4年ぶりの対面での開催となりました。この日は助成校の皆様や専門委員の先生方、財団の役員やご来賓の方々にお集まりいただきました。今年度は、特別研究指定校2校と一般助成校69校が助成を受けられます。

第1部の助成金贈呈式では主催者挨拶、文部科学省様からのご祝辞とご講演、決意表明、選考委員長からの励ましの言葉に続いて、前年度の「研究成果報告書」優秀賞3校が事例を紹介しました。

第2部のスタートアップセミナーでは、専門委員と助成先の先生方が16のグループに分かれ、実践研究について協議するグループディスカッションを行いました。「GIGAスクール構想」により1人1台端末の環境が整った今だからこそ、ICTを活用した優れた実践事例がますます求められていることを再認識させられる1日となりました。

第1部 助成金贈呈式

主催者挨拶

写真:小野理事長

世界トップレベルのICT教育環境
個別最適な学びにも、協働的な学びにも

パナソニック教育財団 理事長 小野 元之

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2023年度は、特別研究指定校と一般助成校を合わせて71校への助成が決まり、これまでの助成件数はのべ3413校となりました。GIGAスクール構想以前は、他の先進国と比べて遅れているとの批判もあった日本のICT教育の中身も、決して劣らないものに発展し、世界トップレベルの環境が整ってきました。

私どもの助成の特徴は、助成金の支援だけでなく、大学教育の専門家の方々によるオンラインでのサポートやオンラインセミナー、ICTを活用した学習の発表の場などをご用意していることです。来年の春には研究成果の報告書をまとめ、助成先以外の多くの学校にも参考にしていただければと思っています。コロナ禍が一段落して、新たな日常に向けた初等中等教育の在り方を考える中で、一人ひとりの児童・生徒にとっての個別最適な学びだけでなく、協働的な学びの実現においても、ICTの活用が非常に重要になってくることと思います。

文部科学大臣 永岡 桂子 様よりご祝辞

写真:武藤久慶氏

デジタル技術のよき創り手と使い手を育てる
求められる実践的な活用事例の横展開

文部科学省 初等中等教育局
修学支援・教材課長
武藤 久慶 氏(代読)

このたび助成を受けられることになった71の学校及び研究グループの皆さん、おめでとうございます。日本政府は「Society 5.0」を掲げ、仮想空間と現実空間の高度な融合により、人間中心の社会を築くことを目指しています。社会にデジタル技術が行き渡る中、こうした技術のよき創り手と使い手を育てることが、私たちには求められています。文部科学省ではGIGAスクール構想を掲げ、児童・生徒1人1台端末とネットワーク環境の整備をおおむね完了しました。これからは実践的な活用事例を横展開していくことが求められており、パナソニック教育財団の取り組みのもつ意義は、これまで以上に高まっています。

本日お集まりの皆様には、学校教育のデジタル化「教育DX」の可能性を発見し、他の学校や地域、教育関係機関に発信いただきたいと思っています。このような活動の積み重ねが、学校におけるICT活用の全国的な推進につながると考えます。文部科学省といたしましても引き続き、すべての子どもたちの可能性を引き出す個別最適な学びと協働的な学びの実現を目指し、GIGAスクール構想のセカンドステージに向けた検討に取り組んでまいります。

ご講演

写真:武藤久慶氏

なぜ令和の教育改革なのか、
GIGAスクール構想なのか?
~ネクストGIGAに向けて~

文部科学省 初等中等教育局
修学支援・教材課長
武藤 久慶 氏

1.教育改革の背景

学習指導要領の前文には、一人ひとりの児童・生徒が多様な人々と協働し、持続可能な社会の創り手となるように育てていくと書かれています。その背景には、5つの大きなトレンドがあります。

①グローバル化

日本企業の外国企業とのM&Aが高水準で推移し、自動車業界では異業種とのコラボが広がり、業界を超えて協業し、異なる他者と新しい価値を生み出す社会になってきました。

②人口減少・少子高齢化

日本は2050年に人口が1億人を割る見込みですが、労働生産性はOECD諸国で下位。核家族やひとり親世帯が増え、子どもの周りにいる他者が少ない中で、多様な他者と協働する資質能力を育むうえで、学校の役割は大きくならざるを得ません。

③デジタル化(Society 5.0)

生成AIが進化する中で、ルーティンではなく、ICTを高いレベルで使う仕事が増えていくとされますが、日本のデジタル競争力はまだ低い状況があります。GIGAスクール構想が生まれた背景にはこうした状況もありました。

④変化の激しい、不確実性の時代

有形資産の陳腐化が進むスピードは年10%ですが、人的資本の価値は年40%のペースで失われるとの試算もある中、生涯にわたって学び続ける資質や能力、態度や習慣を身につける必要があります。

⑤人生100年時代

2007年生まれの子どもが107歳まで生きる確率は5割以上。我が国の職業生活もいったん入職してから終身勤め上げるモデルではなく、途中で学びの場に戻ったりリスキリングを行うマルチステージに移りつつあります。コロナ化で労働市場もメンバーシップ型からジョブ型へと流動的になり、培った知識や経験、人脈を次の会社に持ち込み、新しい価値を生み出す時代になっています。

2.データで見る我が国の教育と社会

日本型学校教育の成果として、OECDの教育政策レビューで日本の児童・生徒はトップクラスの成績でした。ところが、PISAの2018年の学習到達度調査では、テキストから情報を探す問題や、自分の考えが伝わるように根拠を示して説明する問題が苦手でした。さらに、当時はデジタルを学びでなく、遊びに使う傾向もありました。

日本は理工系学部の入学者がOECDで最下位クラスで、高等教育段階で理数系の定員を増やすとともに、初中教育段階で理数から降りてしまう子どもを減らしていく必要もあります。「自分の国に解決したい社会課題がある」と答える18歳も46.4%と他の国より少なく、民主主義にとって重要な当事者意識が足りない面もあります。自分で課題を見つけて解決策を考える学習を増やしていく必要があり、そこにもデジタル化が有効に作用します。

こうした中、学校教育のアップデートが求められるわけですが、学校現場を取り巻く状況は厳しいです。不登校も暴力行為も増え、厳しい状況にあります。教室の多様性も増しています。子どもたちの理解度や学力もバラバラです。また、時間外勤務はだいぶ減ったもののまだ高水準にあり、働き方改革の加速が必要です。学校のアップデートは働き方改革と両立する形で行われる必要があります。令和の日本型学校教育というコンセプトはこういう状況の中で出てきたものなのです。

3.令和の日本型学校教育 GIGAスクール構想

令和の日本型学校教育のキーコンセプトは個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実で、いずれにもICTが効率的に効くものと考えます。ここで、全国の実践事例をシェアします。

①学びの保障

ある小学校では臨時休校が終わってからも、オンラインで朝の会を実施し、授業をデフォルトで中継。不登校や病気療養中、保健室登校の子どもたちも受けられるようになりました。

②働き方改革の観点

英単語のテストにグループウェアを使えば、自動配布・回収・採点ができ、その分、子どもたちと向き合う時間が増えます。GIGA環境を職員会議や授業研究会、欠席・遅刻連絡やお便り等の校務にも活用すれば、働き方改革にもつながります。

③個別最適と自己調整

クラウドベースで授業設計や学習の手立てが共有できていれば、それぞれが学びたいことや課題と感じることに取り組む「授業の複線化」が可能になり、つまずく子を減らせます。

④家庭学習(持ち帰り)

表計算のソフトで、何を学習し、何が得意で何が苦手なのか、メタ認知を促し、自己調整させている小学校もあります。私たちはデジタル教科書を真ん中にして、そこに学習支援ソフトウェアやデジタル教材をくっつけることで授業を変革し、家庭と地域での学びをシームレスにつなげていきたいと考えています。

奨励状授与・決意表明

写真:兵庫県立東播工業高等学校

日本型教育実践とSTEAM教育のベストミックスを模索

【特別研究指定校】
葛飾区立東金町小学校

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今回の研究テーマは、「アジャイル型学習の開発と評価~日本型教育実践とSTEAM教育のベストミックス」です。これまでの日本型教育実践とSTEAM教育を結びつけ、児童がより主体的・意欲的に学ぶ方法を模索します。児童だけでなく、教員も試行錯誤を繰り返しながら、学習活動の開発や改善につながる評価の手法を検証することで、新しい学びのスタンダードを実現できるよう、研究を進めてまいります。


写真:兵庫県立東播工業高等学校

VR活動で、建設のICT化に対応できる技術者を育てる

【一般】
兵庫県立東播工業高等学校

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本校は、東播地域の産業を担う人材を育成する専門高校です。各業界ではICT化が急進していますが、基礎技術を体得する旧来の実習を行っている現状です。財団に関わる皆様から助言や情報をいただきながら、レーザー測量により、文化財である民家をデジタルアーカイブ化し、VR活動をする実習を行うことで、建設のICT化に対応できる技術者を育て、生徒たちが将来に希望をもてる教育活動になるよう、取り組んでまいります。

選考委員長からの励ましのお言葉(録画)

写真:赤堀侃司氏

実践研究の多くは日常のアイデアから生まれる
子どもたちの元気やウェルビーイングにつながるものを

東京工業大学 名誉教授/選考委員長 赤堀 侃司 先生

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今回は一般助成校が214件、特別研究指定校が9件、合計223件、前年度比79%の応募がありました。パナソニック教育財団のホームページには、過去の実践研究の報告書があり、PDFファイルをダウンロードできます。私も検索することがありますが、たとえば、新しい年度を迎えたばかりの子どもたちが、1年の抱負を動画として残し、クラウドに保存するという実践報告がありました。クラウドであれば、いつでも振り返れますし、落ち込んだ時も、初めの頃の希望に燃える気持ちを思い出し、元気を出すことができます。

実践研究の多くは大上段に振りかざすというよりは、日常のちょっとしたアイデアから生まれたもので、財団のホームページを見ていると心が和みます。皆様には、この1年もしくは2年の間、子どもたちが元気になるような、あるいはウェルビーイングになれるような実践研究を進めていただけることをお祈りしております。

パネルディスカッション 
ー前年度の「研究成果報告書」優秀賞3校による事例発表ー

<コメンテーター>

東京学芸大学 教授       北澤 武 先生

長崎大学  准教授       瀬戸崎 典夫 先生

<発表校>

世田谷区立世田谷中学校

愛知県立一色高等学校(定時制) 

零の会(新潟市立沼垂小学校) 


写真:北澤武氏

導入
研究成果報告書を5つの観点で評価

東京学芸大学 教授 北澤 武 先生

研究成果報告書は次のような観点で評価しました。「①研究内容や活動の創意工夫、②研究成果の説得性、③研究内容の適用可能性、④実践の批判的検討、⑤表現の工夫」の5点です。これをもとに、優秀賞6件と奨励賞7件を選ばせていただきました。

優秀賞は、根拠となるデータと評価がなされ、研究成果報告書として参考になるようなまとめ方となっており、社会的に有意義で優れた実践例として評価された研究、そして奨励賞は、いくつかの観点で特に秀でた工夫が認められた実践研究を表彰させていただきました。その中から、今回は3校の先生方にご発表いただきます。


自閉症スペクトラムの生徒の職場体験に
VR空間での環境調整が有効かを検証

世田谷区立世田谷中学校

研究成果報告書

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特別支援学級にいる自閉症スペクトラムの生徒には、新しい環境が苦手、見通しのなさに不安を感じる、外部刺激の調整が難しいという特性があります。そこで、2年生で行われる職場体験にVR空間での環境調整が有効か検証したいと考え、VRでジョブトレーニングをしている飲食チェーンのコンテンツを使わせていただきました。

主要メンバーは3人で、時々専門家の方に来ていただき、大量の議事録を残しました。コロナ禍でリアルな職場体験ができなくなり、学校にカフェをつくりました。そのコーヒーが評判で、子どもたちはやり甲斐を感じていました。評価をどうするかで非常に悩み、専門家の方々やオンラインサポートの力を借りました。オンラインサポートはペースメーカーにもなってくれて、これがなければ、この実証はできなかったと思います。

評価は、VRの職場体験がカフェにどんな効果をもたらしたか、効果があった生徒となかった生徒の違いはどこから来るのかをインタビューで明らかにしていきました。個別最適化のためにVRを使ったのですが、さらなる個別最適化が可能で、それによってチャンスが広がることに気づくことができました。

●北澤 先生のコメント

特に、データを取るということと、評価で煮詰まったら外部の方と協力しながらやっていくということの大切さを私たちに伝えてくださる発表だったと思います。


写真:三浦拓眞先生

外国にルーツをもつ生徒の書道教育
映像視聴による学習効果を追求

愛知県立一色高等学校(定時制) 三浦 拓眞 先生

研究成果報告書

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本校は5割程度の生徒が外国にルーツをもつ生徒です。そこで、外国にルーツをもつ生徒の書道教育を充実させるために、ICTを採り入れた学習活動を行い、学習効果を追求しました。タブレットのカメラ機能を使った書字動作の撮影、共有ノートによる書き込み、ジグソー学習とエキスパート学習を合わせた伝え合いの活動などを行い、年間を通して、ロイロノート・スクールを活用しました。

指導に活かす評価と記録に残す評価以外に、研究のための評価をどこでするのかを意識し、映像視聴によって、生徒の自己調整学習が促進されるのではないかという仮説を立てました。タブレットは生徒がすぐにもち出せるよう、アクセスのよい廊下に設置。生徒の作品やワークシートに書いた表現の意図を映像視聴前後で比較し、分析するなどしました。

困った時は学習指導要領や先行研究をよりどころとし、用語の定義や背景を理解した上で報告書を書きました。有識者の方々との話し合いや学会への参加も積極的に行いました。オンラインサポートでアドバイスをいただきながら、KJ法やテキストマイニングの共起ネットワークも活用しました。そのおかげで、教員も生徒もわくわくするような楽しい実践となりました。

●北澤 先生のコメント

仮説を立てるとか、記録のタイミングを図る、そして練るというご助言が、非常にいいと思いました。三浦先生は書道のご所属ですが、教科横断的な評価の在り方を勉強されて、今回の研究に活かされたのだと思います。


写真:熊野昌彦先生

ハートレートモニターで心拍数を可視化
個別最適化された持久走の授業を実現

零の会(新潟市立沼垂小学校) 熊野 昌彦 先生

研究成果報告書

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零の会は新潟市の小学校や大学の先生など、約50名が在籍する体育サークルで、毎月、学習会を開催しています。これまでの体育授業は、苦手意識と嫌悪感しか与えてこなかったとの反省に立ち、個別最適化された持久走の授業を考えました。心拍数を測るハートレートモニターを1クラス分購入し、心拍数を可視化。これまでの研究から、最大心拍数の70~79%で走っても体力は高まると言われていて、自己有能感や気持ちよさをゴールとしました。

実態調査のあと、2校で実践を行いました。A校ではアンケートをもとに、形成的授業評価と診断的・総括的授業評価の統計分析を行いましたが、3時間目に評価が下がってしまいました。意欲を高めるためにチームで取り組んだため、もっと速く走りたい子が思い切り走れなかったのではないかと考え、B校では2人1組のマネージャースタイルにしたところ、自分にぴったりのペースで走れる個別最適な学びとなりました。

診断的・総括的授業評価は、毎月の学習会で改善策を議論したおかげで、学び方や運動目標の有意差がしっかり出ました。単元前後のアンケートで、持久走が「好き・どちらかというと好き」がA校では17%から89%に、B校では51%から93%に伸びました。速さだけではない、一定のペースというところに価値が生まれたことを示すことができました。

●北澤 先生のコメント

データに基づく教育は大事だと言われていますが、今回は本当に子どもたちがデータに基づきながら授業を行っていました。うまくいかないところは事前にはわからないものですが、そこを修正していくことの大切さも教えていただきました。


長崎大学 准教授 瀬戸崎 典夫 先生

●質疑応答

瀬戸崎 先生「実践研究に学校全体で取り組むにあたって、どんな工夫をしましたか?」

世田谷区立世田谷中学校「職員の中にはVRに興味がなく、苦手意識をもつ人もいたのですが、他のメンバーがVRで遊ぶのを見て、楽しさが徐々に伝わっていきました。Oculus Quest2は最初にチュートリアルのゲームがあるので、操作の仕方も遊びながら覚えることができました」

零の会「体育の教員の集団なので、できない子の気持ちがわかりにくく、まずはアンケートを行い、残念な結果を見て、課題意識をもつところから始めました。と共に、ハートレートモニターで解決するわくわく感があったからこそ、巻き込んでいけたのだと思います」

瀬戸崎 先生「実践研究の評価をどのようにデザインしたのか教えてください」

愛知県立一色高等学校「私たちの場合、書道の作品と文章が大きな軸になっていました。記録の観点で、ロイロノートの付箋機能を活用し、文章化を常に行いました。アンケート機能もあり、生徒一人ひとりがタブレットで質問に答えると、瞬時に数値が出ます。この文章化と数値化、質的な分析と量的な分析の二つによって、評価のデザインをしました」

第2部 スタートアップセミナー

グループディスカッション

グループディスカッションは特別研究指定校、一般助成校、オンラインサポート校が16グループに分かれ、助成校の先生方が研究概要を発表。それぞれのグループには専門委員の先生方(大学の研究者)にも加わっていただき、実践研究をブラッシュアップするために、今後の活動について協議しました。その中から、オンラインサポート校グループの意見交換の様子をご紹介します。オンラインサポート校には、今年度は、プロジェクト始まって最多の23校が参加しています。

オンラインサポートキックオフミーティング

オンラインサポートの全体説明
地域を超えて広がっていく実践研究を目指して

金城学院大学 教授 長谷川 元洋 先生

オンラインサポートが目指すのは、よい実践研究を生み出し、他校が参考にできる報告書をまとめ、その取り組みが地域を超えて広がっていくことです。2022年度の研究成果報告書の表彰では、優秀賞6件中3件、奨励賞7件中3件がオンラインサポートを受けていました。オンラインサポートでは、Slackというビジネスチャットツールを使用し、全体交流用とグループ間交流用の2階層のチャンネルを用意しています。さらに、Google Spreadsheetによる定期報告レポートを2カ月おきに報告していただき、その内容をもとに、テレビ会議によるグループミーティングが行われます。12月には中間発表会という形で、4月から12月までの実践研究の成果をまとめ、グループに分かれて交流する機会を設けています。他校の先生やサポーターからのアドバイスを受けて、最終報告書のまとめに入っていただきます。


学びのエンゲージメントプロセスによりメタ認知能力を向上

新潟市立内野中学校 野邉 勝一郎 先生

エンゲージメントプロセスということで、生徒が今の自分を自覚し、どんな目的をもって活動できるかを学び、どうなりたいのかというメタ認知能力を向上させ、新しい自分に迫っていく時に、そこを可視化することが学びにどう生きるかを明らかにしたいと思っています。

具体的には、たとえば修学旅行で宮城県に行く前に、宮城県の同年代の生徒や震災に遭った方々と事前学習という形でつながり、そのつながった視点をもって学習を進めると、どう成長できるのかを測りたいと考えています。

測り方としては行事や授業、修学旅行などのたびに、ルーブリックに従って点数化したアンケートに生徒が答えることで、レーダーチャートを作成し、活動前後の生徒の変容を目に見える形にしてメタ認知化する。さらに、生徒と教師とのやり取りを毎日記録した生活ノートにも、手書きで表を書いていくことで、年間を通して少しずつ大きくなっていく値を測っていきたいと思っています。

●他校の先生との質疑応答

Q「学びのエンゲージメントの評価では、熱中度などといった、いくつかの項目を見ていくのか、それともメタ認知を中心に見ていくのか、どういう構想なのか教えてください」

野邉 先生「生徒が現状を把握することによって熱中度が増していくという視点でとらえていて、だからこそ『今のままではまずい』とか『このまま頑張ればいい』というように心を揺さぶり、本気にさせたいと考えています。レーダーチャートの中にも、粘り強さや自分事意識、目的意識といった項目が入っています。教育目標に自分事として取り組む目的意識をもってもらい、そこに向かって生徒を本気にさせるイメージです」


学校図書館の機能充実を図り、探究学習を促進

学校法人津曲学園 鹿児島修学館中学校・高等学校 新名主 敏史 先生

研究の目的は、学校図書館の「学習・情報センター」としての機能の充実を図ると同時に、ICT活用と統合・融合させることで、国際バカロレア教育(IB)における探究学習を促進し、生徒が主体的に学べる情報活用能力を育むことです。

本校には、探究学習時に引用がネット情報のみの生徒が多い、学校図書館が活用しにくく、館内授業の頻度が低い、オンライン上で蔵書検索ができない、学校図書館の活用や育みたい力について議論したことがない、といった課題があります。

この助成で図書館に2台のプロジェクターを導入し、館内授業ができる状態になったので、図書館と生徒の端末を結びつけ、図書館活用の教員研修をしたいと考えています。目標は、生徒の情報活用能力を向上させ、授業時の学校図書館活用を平均週1回以上に増やし、図書館に足を運ぶ機会を増やすこと。さらに、学校図書館をどう活用し、どんな力を育むか、学校全体で共通認識をもち、HP等で校内外に発信していければと思っています。

●大阪教育大学 教授 木原 俊行 先生のコメント

学校図書館には司書や司書教諭の方がいらっしゃるので、そういう人材を最大限活かすといいと思います。もう一つには、図書館の活用について、先生方が必死になって考えるだけではなく、生徒に、どんな活用ができるかをデザインさせたり、プロデュースさせたりするという方法があります。本をよく読む子に、司書の見習いとして、レファレンス役を務めてもらってもよいかもしれません。図書館を探究の舞台にするためのアイデアの源泉や、それを運用する人材を生徒に求めれば、一石五鳥くらいにはなるかと思います。


<オンラインサポートのサポーター>(五十音順)

  • 新谷 洋介 先生
    (金沢星稜大学 教授)
  • 木原 俊行 先生
    (大阪教育大学 教授)
  • 今野 貴之 先生
    (明星大学 准教授)
  • 齋藤 大地 先生
    (宇都宮大学 助教)
  • 中橋  雄 先生
    (日本大学 教授)
  • 古田 紫帆 先生
    (大手前大学 准教授)
  • 山本 朋弘 先生
    (中村学園大学 教授)

パナソニックグループの学び支援プログラム紹介

写真:岡島啓太先生

パナソニックが提供する3つの人材育成支援プログラム

パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社
企業市民活動推進部
澤田 亜矢

私たちパナソニックは、貧困の解消・環境活動・人材育成(学び支援)という3つを重点テーマとして掲げ、企業市民活動に取り組んでいます。本日は、人材育成の支援プログラムを3つ、ご紹介します。

「Kid Witness News」は、小中高の子どもたちが自ら映像制作を行い、創造性やコミュニケーション能力を高め、チームワークを育むプログラムです。「私の行き方発見プログラム」は中学生が対象で、多種多様な役割をもって働くことや、自分らしい“行き方”を発見するための支援をするキャリア教育プログラムです。4つの教材提供に加えて、パナソニックの社員による出前授業も実施しています。そして「パナソニックキッズスクール」では、小中学生の子どもたちを対象に、タブレットやパソコンなどを使って授業や調べ学習ができるコンテンツを提供しており、7カ国語に対応しています。ぜひホームページをご覧ください。

キッド・ウィットネス・ニュース(KWN)

パナソニック キッズスクール

私の行き方発見プログラム

パナソニックの企業市民活動


写真:吉田崇先生,赤木隆宏先生

子どもたちが体験を通じて学べるパナソニックセンター

パナソニックオペレーショナルエクセレンス株式会社
パナソニックセンター東京
児玉 比佐子

2002年に東京・有明にオープンしたパナソニックセンター東京は、パナソニックグループのコーポレートショールームで、191カ国より1200万人以上のお客様にご来館いただいています。

2・3階には2021年、STEAM教育の要素を盛り込んだ「AkeruE(アケルエ)」がオープンしました。美術館と科学館、創作工房が一体となったクリエイティブミュージアムで、体験を通じて、子どもたちの知的好奇心や探究心、ひらめく力を育みます。今年3月には、1階のフロアが「Panasonic GREEN IMPACT PARK」としてリニューアルオープンしました。地球温暖化問題について、子どもたちが体験を通じて学び、何ができるかを自ら考えるスペースとなっています。いずれも、学びを深掘りするワークシートを用意しています。

4階には、ビジネスのお客様向けに、パナソニックグループの最新ソリューションや環境への取り組みをご紹介したショールームがありますが、7月より、高校生・大学生・教員の皆様に向けて、土曜日特別見学コースをスタートします。ホームページをご確認ください。

学校・教育団体向けご見学内容

Panasonic GREEN IMPACT PARK

AkeruE アケルエ

パナソニックセンター東京

まとめのご挨拶

写真:岡島啓太先生

いいとこ取りの授業デザインとネットワークの強化を

日本女子大学 名誉教授/専門委員長 吉崎 静夫 先生

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今日は皆さん、いろいろなヒントを得ていただけたのではないかと思います。専門委員の代表として、二つお願いがあります。

これまで私たちは、いくつかの事柄を二項対立的に考えてきました。リアルとオンライン、アナログとデジタル、個別と協働、習得と探究、教師中心と子ども中心などです。しかし、紙の教科書にもデジタルの教科書にも、それぞれの特色とよさがあります。当分の間は、いいとこ取りをした授業デザインが必要なのではないかと思います。

もう一つは、本日参加の先生方や研究者集団の皆さん、パナソニック教育財団の事務局がネットワークを形成して、ICTを活用した新たな教育実践を行う研究集団のコミュニティを一段と強化してほしいということです。教育実践の質を高めるには、第三者の多様な見方や考え方を採り入れることが必要だからです。そのためにも、これから行われるリアルでの交流会やオンラインでの情報交換会等を大いに活用してほしいと思います。

第3部 交流会

第2部終了後は、自由参加で交流会を開催し、助成先や専門委員の先生方約70名に参加いただきました。グループディスカッションとは異なる専門委員の先生方からの助言や、学校同士の情報交換など、活発な交流の場となりました。