2023年度(第49回)実践研究助成 一般助成の優秀な研究成果報告書を紹介します。
※実践研究助成の助成校は研究計画に即して実践研究に取り組み、その成果を研究成果報告書にまとめます。当財団では、一般助成校の研究成果報告書の内容等を評価し、優れたものを表彰すると同時に、当該学校の実践の特長等を実践研究助成の専門委員が解説しています。一般助成校による実践研究の成果をより多くの方々に、より分かりやすくお伝えいたします。
2023年度(第49回)実践研究助成 一般助成の優秀な研究成果報告書を紹介します。
※実践研究助成の助成校は研究計画に即して実践研究に取り組み、その成果を研究成果報告書にまとめます。当財団では、一般助成校の研究成果報告書の内容等を評価し、優れたものを表彰すると同時に、当該学校の実践の特長等を実践研究助成の専門委員が解説しています。一般助成校による実践研究の成果をより多くの方々に、より分かりやすくお伝えいたします。
大﨑 理乃 信州大学 特任講師
佐藤 和紀 信州大学 准教授
瀬戸崎 典夫 長崎大学 准教授
泰山 裕 中京大学 教授
遠山 紗矢香 静岡大学 准教授
登本 洋子 東京学芸大学 准教授
水内 豊和 島根県立大学 准教授
脇本 健弘 横浜国立大学 准教授
(五十音順)
瀬戸崎 典夫 長崎大学 准教授
佐藤 和紀 信州大学 准教授
パナソニック教育財団は、これまでに有益な実践事例に助成を行い、その実践知を社会に広く共有することで、ICT活用の推進と教育課題の改善を支援してきました。2023年度、第49回一般助成を受けた学校(以下、一般助成校)は、69件(小学校22件、中学校15件、義務教育学校・小中一貫校2件、高等学校13件、中等教育学校・中高一貫校3件、特別支援学校7件、複数校の研究者による教育研究グループ7件)でした。この69件分の研究成果報告書を加えますと、合計して3,413件の実践研究の知見が蓄積されたことになります。
昨年度に引き続き、次の5つの観点から研究成果報告書を総合的に評価しました。
評価委員会における審議の結果、「優秀賞」5件、「奨励賞」10件が選出されました。「優秀賞」は、根拠となるデータと評価がなされ、研究成果報告書として参考になるようなまとめ方となっており、社会的に有意義で優れた実践例として評価された研究です。「奨励賞」は、いくつかの観点で特に秀でた工夫が認められた実践研究が選出されました。ここでは、これらの受賞校に共通する特徴について言及いたします。
<1人1台端末等を基本とした発展的な学習環境の提供>
第一の特徴として、GIGAスクール構想によって整備された1人1台端末等を基本とした発展的な学習環境の提供が挙げられます。
霧島市立川原小学校は、「タブレットを活用した観測・観察活動により、児童に科学的な概念を育ませるための実践」をテーマに、気象観測と植物栽培を組み合わせた教育プログラムの実践を試みました。1人1台端末の活用によってデータを持ち寄り、それらを集約することによって、児童らが科学的な概念を獲得する過程について報告されています。七飯町立大中山小学校は、「子供と教師によるリアルタイム・再編集型「情報活用能力マップ」の試み」をテーマに、教師中心の指導から児童の主体的な学びへの転換に着目しました。本実践研究では、情報活用能力の指導を児童に意識化させ、自ら情報活用能力を学んでいくような学習をどのように構築するのかを検討しています。新潟市立内野中学校は、「教育目標に基づく資質・能力の育成」をテーマに、ICTを効果的に活用することによって、生徒の「学びのエンゲージメント」と資質・能力について取り組んだ研究です。自己の成長をメタ認知するために、iOS端末の表計算アプリケーションを用いて自作のレーダーチャートを活用しています。鹿児島修学館中学校・高等学校は、「学校図書館の「学習・情報センター」機能の充実とICT活用との統合・融合」をテーマに、学校図書館の「学習・情報センター」としての機能を充実させることを目的としています。本実践研究では、図書館へのプロジェクタやスクリーンの導入に加えて、自分自身の端末から教室や家庭でも図書検索ができるように書籍検索サービスの導入や、授業での図書館利用のための教員研修など、具体的な実践内容が示されています。
また、ICTを活用した学習者の制作活動に着目した実践事例を紹介します。京都市立大淀中学校は、「エネルギー・環境問題を主体的・対話的に考える」をテーマに、社会科、理科、技術・家庭科が連携し、エネルギーと環境問題に対する多角的な理解を深めることをねらいとしました。生徒自身が作成したデジタル絵本を使用して海外の生徒との国際交流を行うことで、他者に伝える難しさを感じてもらうなど、生徒の国際理解と言語能力向上の観点からも興味深い実践でした。日本福祉大学付属高等学校は、「国際「探究」学習を“カンボジアの教室”と創る」をテーマに、生徒が興味・関心を持って取り組むことのできる生徒主体の探究活動とするため、高校生が英語学習動画を作成・配信し、現地からのフィードバックをもとに動画を改善するサイクルを繰り返しました。
以上に挙げられるように、GIGAスクール構想によって整備されたICT環境を利用しつつ、さらなる発展的な実践に取り組まれており、他の学校の参考になることが大いに期待されます。
<先端技術の活用による次世代の学び>
第二の特徴として、VR(Virtual Reality)やドローン、加速度センサー等の先端技術を活用した次世代の学びに向けた実践研究が挙げられます。
星槎もみじ中学校は、「不登校特例校における課題解決学習を深化させるためのVR教育の実践的研究」をテーマに、学習意欲が湧かない、受け身的な態度で学習する等の傾向がある生徒の実態に対して、HMDによる没入型のVR技術の活用可能性について検討しています。富岡市立富岡中学校は、「自己の特性を360°カメラの動画で振り返る活動を通して「社会的に共有された調整」が図れる生徒の育成」をテーマに、メタ認知で自己理解を促すために、360°カメラで撮影された動画を利用した振り返り活動を実践しています。奈良女子大学附属中等教育学校は、「国語科×社会科×哲学で学校と教科と時代を越えるSTEAMプロジェクト」をテーマに、中等教育国語科と社会科で活用可能な360°動画コンテンツを生徒がつくり、学びに活用するPBLを開発することを目指しています。また、生徒がつくった360°動画を複数校で共有することで、複数校による教科の枠組みを超えたSTEAM教育を提案し、教育的意義を検証しようと試みています。
その他の先端技術の活用として、長野県須坂高等学校は「学有林を題材とした探究活動・科目横断型学習プログラムの開発」をテーマに、ドローンを利用した植生遷移のデータ蓄積を行い、探究的な学習と教科学習の両方に導入できる教材の開発を試みています。立教新座中学校・高等学校は、「宇宙を題材とした小型センサーによる慣性力に関わる定量実験の開発」をテーマに、生徒の興味を大切にしながら、高等学校でも実現可能な実験環境の開発に取り組むものでした。かながわeye愛プロジェクトは、「重度重複障害児の学びを個別最適化する教材開発」をテーマに、視線入力の活用を深める取り組みとして、児童・生徒の実態に合った教材の開発や、学校外での利用の普及とともに、視線入力装置を活用する意義について検討しています。
さらに、先端技術の活用による教員研修に着目した実践事例を紹介します。三重大学教育学部附属小学校は、「360度VR授業映像を活用した教員研修デザインの構築と普及」をテーマに、360度VR授業映像を活用した教員研修デザインの構築と、その効果検証を試みています。空知情報教育研究サークル つたえーるは、「遠隔地を結ぶ授業研究と研修モデルの開発」をテーマに、メタバースプラットフォーム「ovice」を活用し、オンラインでの授業研究と研修を行う新しい方法を開発しました。広島県立福山特別支援学校は、「肢体不自由のある児童生徒に対する効果的な介助及び指導支援方法に関する教員の技術の短期習得を目指して」をテーマに、動作解析ソフトウェアを利用して、専門家およびベテラン教員の介助動作を分析し、その動作を初任者や初学者が視覚的に理解できるような研修プログラムの開発を試みています。
以上に挙げられるように、VR技術を中心にドローンや加速度センサー、視線入力装置、動作解析ソフトウェアなど、多様な技術が活用されており、先導的な実践事例として他の学校の参考になることが大いに期待されます。
<総括>
以上を総括しますと、児童・生徒や学校の実態を踏まえた上での明確な目的があり、その目的を達成するための実践に取り組めていたと思います。また、STEAM教育や制作活動を通した教科横断的な学びや、探究的な学びに関するテーマが多く、Society5.0に向けた資質・能力の育成に着目している点も特徴的でした。
具体的な評価の方法として、t検定による評価や、相関関係の分析による評価等による統計的な手法が用いられた実践もありました。さらに、学習者による自由記述をカテゴリ化することによって整理したり、KH Coderを用いたテキストマイニングによって、学習者らの記述を可視化したりするなど、研究成果の根拠を量的・質的データで丁寧に説明することができている点が高い評価に繋がったと思われます。また、実践研究のプロセスや成果について批判的に検討し、改善のポイントやその具体化について議論している実践も高く評価されていました。
本務に追われながらの多忙な毎日の中、本実践研究に取り組んでいただいた皆様に心から感謝申し上げます。また、本財団の助成による成果が、より多くの教育現場に広がり、児童・生徒にとっての充実した学びに寄与できることを期待しております。
なお、今回の研究成果報告書の評価は、実践研究助成の専門委員の中から次のメンバーが担当いたしました。(五十音順)
大﨑 理乃 信州大学
佐藤 和紀 信州大学
瀬戸崎 典夫 長崎大学
泰山 裕 中京大学
遠山 紗矢香 静岡大学
登本 洋子 東京学芸大学
水内 豊和 島根県立大学
脇本 健弘 横浜国立大学
三重大学教育学部附属小学校では、360度VR授業映像を活用した教員研修デザインの構築とその効果の検証が行われました。360度カメラを用いて、授業の様子を撮影し、VR技術を用いて、それぞれのニーズに応じた視点で授業の様子が見える環境を構築しています。 この実践のポイントは、そのような環境を構築するだけでなく、その環境を前提とした教員研修をデザインし、その効果を検証したことです。今回のプロジェクトで構築された教員研修の特徴は、1)授業映像以外の多様な資料へのアクセス、2)研修参加者による授業映像の15秒での切り取りの2点です。
1点目の授業映像以外の多様な資料へのアクセスでは、360度VR映像以外に指導案や板書、単元デザインなどの資料にアクセスできる環境を構築することで、授業を多様な視点で捉えることを可能にしています。2点目の研修参加者による授業映像の15秒での切り取りは、45分の授業映像を15秒で切り取り、なぜそこを切り取ったのか、なぜ他の部分を切り取らなかったのか、についてグループで共有することによって、研修の参加者それぞれの学びを共有するデザインを構築しています。
授業は参観者の数だけ切り取り方があります。360度VR授業映像と多様な資料によって、それぞれの参観者の視点からの授業参観を可能し、それを15秒で切り取り、それをもとに議論することで、その視点を共有し、多面的な学びを実現しています。教員養成大学の学生を対象とした効果検証でも、そのような多様な学びが支援されることが示されています。
このようなシステムを参考に、各地で教員の学びが変革していくことが期待されます。
本実践研究は、「主体的に学習に取り組む態度」に着目し、生徒の「学びのエンゲージメント」と資質・能力について取り組んだ研究です。「主体的に学習に取り組む態度」を「学びのエンゲージメント」の中の「認知的エンゲージメント」として位置づけ、効果的に向上させる方法について提案を行っています。また、「認知的エンゲージメント」が生徒の資質・能力の向上に関係していることを示そうと試みています。
実践では、自己の成長をメタ認知するためのレーダーチャートを活用しています。年度や学期の開始、終了時や各学校行事において、生徒は自身の資質・能力について、評価基準をもとに点数を記入しました。記入した点数はレーダーチャートとして可視化され、生徒は、それぞれの節目において、レーダーチャートをもとに、何を目的として活動するのか確認したり(目的意識の確認)、振り返り(学びのプロセスや成果の自覚)を行ったりしました。このように、実践では、生徒は自身の成長をメタ認知しながら、様々な活動に取り組みました。
評価では、生徒に対するレーダーチャートの有効性に関するアンケートや、エンゲージメント尺度による質問紙、レーダーチャートの項目を用いて分析を行っています。また、いくつかの学校行事や学習活動の場面を通じて、認知的エンゲージメントの向上と資質・能力の向上の関係についても検証をしています。その結果、レーダーチャートによる資質・能力の視覚化が認知的エンゲージメントの向上の1つの要因になっていたり、学習を重ねることによって認知的エンゲージメントや資質・能力が向上している様子が、データにより示されました。また、認知エンゲージメントと資質・能力について、相関分析によって、両者に関係があることも示されました。
本報告書は、生徒の認知的エンゲージメントと資質・能力について言及した研究で、学校ならではの工夫が読み取れます。また、Society5.0を見据えた学校の実態に合わせた目的が設定されており、統計的な手続きによる評価や生徒の様子や生の声を言語化するなど、成果の説得性の観点からも高く評価がなされました。
本実践研究は、高校生とカンボジアの小学生たちが日常的に交流する活動をとおして、生徒の能力向上と自己効力感への影響を検討するとともに、国際連携のモデル開発を目指したものです。生徒が興味・関心を持って取り組むことのできる生徒主体の探究活動とするため、具体的な活動は、高校生が英語学習動画を作成・配信し、現地からのフィードバックをもとに動画を改善するサイクルを繰り返しました。実践の評価では、質問紙調査により生徒の英語力やICT活用力、SDGsへの理解や当事者意識などの意識変容と能力向上が確認されています。また、生徒自身による能力向上に関する自由記述を共起ネットワークで分析した結果からは、交流を通して世界の諸問題解決への主体性が高まったことが示されています。さらに、動画作成を通じた達成感や自信、貢献度の向上から、自己効力感の高まりが確認されたことが報告されています。この実践は、理論的な枠組みを組み合わせて授業・交流をデザインしており、生徒主体の継続的な国際交流の好事例と言えるでしょう。異文化理解を深めつつ、生徒のさまざまな能力を伸ばす学習活動として参考になる点が多いと思われます。
報告書では、取り組みの背景から、内容、評価まで、一貫した理論的枠組みがあることが述べられており、非常に高いレベルで完成されたものでした。例えば、生徒が主体的に学習することを推進するための学習意欲の継続のために、インストラクショナルデザインの考え方であるARCSモデルに基づいた授業デザインを提案している点、生徒の自己効力感向上のためにKolbの経験学習モデルを適用した点などが、具体的に述べられています。また、評価についても、自由記述のネットワーク分析やアンケートの回答者数といった量的分析のほか、児童・生徒の成果物や発言に対する質的な分析を通して、複合的に評価されている点が、審査時に特に評価されました。
日本福祉大学付属高等学校は、これまでも実践研究に取り組んでこられ、2022年度には奨励賞を受賞されるなど、実績を積み重ねてきた学校です。本年の報告書は、これまでの継続的な研究における経験と知見を感じさせる報告書として、高く評価されました。
本実践研究では、中等教育国語科と社会科で活用可能な360°動画コンテンツを生徒がつくり、学びに活用するPBLを開発することを目指しています。また、生徒がつくった360°動画を複数校で共有することで、複数校による教科の枠組みを超えたSTEAM教育を提案し、教育的意義を検証しようと試みています。
360°動画コンテンツの制作を通して、文学作品の場面を歴史的・地理的・公民的な観点から可視化する活動は、各教科の見方・考え方をともなう教科横断的な創造活動であり、STEAM教育の実践として、他校にも参考になる事例だと思われます。また、ICTを活用した創造的な活動を促すことによって、Society5.0に向けた人材育成にも寄与し得ることが考えられ、非常に興味深い実践でした。360°動画の撮影の様子や動画編集等についても報告書に記載されており、生徒らの活動をイメージすることができましたし、実際に制作した動画をYouTubeで確認できる点も高く評価されました。さらに、動画制作をした生徒らの振り返りを整理することで、制作活動を通したPBLの効果についても言及できていました。なお、本実践研究では、高校生らが制作した360°動画を中学校の授業で活用しており、異なる校種も含めた複数校での共同的な学びのシステムを構築することができた点も評価されました。
また、360°動画を活用した授業のメリットについて、生徒から得られた自由記述を分類することで整理しています。結果から、360°動画が和歌の読解と鑑賞に役立つものであるということを生徒らが実感するなど、本実践の有用性を示すことができています。さらに、メリットだけではなく、デメリットについてもまとめられており、「動画によるイメージの固定化への危惧」や「動画の限界への気づき」などについて言及していることから、本実践を批判的に検討できていることが伺えました。
さらに、本実践に加えて、メタバースプラットフォームである「cluster」を利用したバーチャル環境の構築への取り組みについても言及されており、今後の発展的な研究が期待されました。
特別支援学校における個別最適な学びの探求と、それを組織全体の課題として検討するという2つの側面についてしっかり取り組んだ、特別支援教育分野における教育実践研究のあり方として素晴らしいものと評価できます。事例として挙げられた児童生徒の発達や学びはもとより、それらの取り組みから示された教材開発や授業改善のあり方など、この報告書を読んで他者が得られる知見は大きいと考えます。
より専門的な見地から具体的に述べますと、視線入力装置はGIGAスクール構想実現において、ICT端末とともに全国の多くの肢体不自由特別支援学校において整備されたものの一つです。しかし、視線入力装置の活用となると、まだまだ購入してみたという段階であり、児童生徒がそれを用いて既存のゲームをしてみるという程度にとどまっている実践が多いのが実情です。しかし、この実践では、児童生徒の意思伝達の入出力デバイスとしての定着のその先、つまりどのように教科の学びや自立活動にこれを活かすかまでをしっかり取り組んでおり、また提案できているところが素晴らしいと感じました。また子どもたちの今とこれからを見据えた他者、地域とのつながり、そして社会的自立を見据えウェルビーイングを志向した際に、このデバイスを用いて何をできるようにするのかという視点から、できることを増やすことを考え実践しているところも大変参考になります。
本研究に取り組んだ先生方が、視線入力装置を生かした教材開発などさらなる取り組みの深化を目指すととも、全国の視線入力装置を取り入れている肢体不自由特別支援学校に対して、本研究で明らかにされた有効性について普及していくことを期待しています。
七飯町立大中山小学校は、情報活用能力の育成に向けた実践を行っている。大中山小学校の問題意識は、教師の指導から児童の主体的な学びへの転換です。情報活用能力の指導を児童に意識化させ、自ら情報活用能力を学んでいくような学習をどのように構築するのかを検討しています。
そこで、「やまっこ情報活用ずかん」を作成し、児童と教員がともに情報活用能力に主体的に向かい合える環境を構築しています。情報活用能力は学習の基盤となる資質・能力に位置付けられ、各教科等の学びを通して育むことが求められています。「やまっこ情報活用ずかん」に実践事例が整理されていることは、多くの学校の参考になると思われます。
また、その評価の方法も特徴的です。情報活用能力についてのアンケートを、児童だけでなく教師も対象に行い、その結果を比較しながら取り組みを評価しています。教師・児童両方が向上した項目、教師・児童ともに減少した項目、教師と児童の結果がずれている項目にわけて分析することで、取り組みを詳細に評価し、その効果と課題を明らかにしています。
現時点では、小学校には情報活用能力はそれを専門的に扱う時間がありません。各教科等の目標と合わせて指導される情報活用能力をこのような取り組みによって明示的に育成を試みた実践は、今後多くの学校の参考になると思われます。
霧島市立川原小学校のビオトーププロジェクトは、全児童が参加する小規模校の特性を活かし、気象観測と植物栽培を組み合わせた教育プログラムとして特色ある実践例です。このプログラムは科学的概念の理解を促進し、協働的な学びの場を提供することで、児童一人ひとりの観察力と思考力を育てたことが、報告書から伝わってきます。
本プロジェクトでは日常的な気象観測と植物の観察が計画的に行われました。児童は一人一台のタブレットを使用して、教員が開発したアプリケーションを通じて植物の観察データを記録しました。このアプリは気象データと植物の生長記録を時系列で表示するため、児童が生長過程を気象データと関連付けながら直感的に捉えることを可能にしました。また、夏休みの学習会では、高学年がパソコンを用いて気象データを整理し、低学年はそのデータを用いてグラフを作成するなど、児童の段階に合わせた学習活動が提供されました。
本プロジェクトは、児童が観察を通じて、一人一台端末でデータを持ち寄り、それらを集約することによって科学的な概念を学習する過程を示したものと評価できます。また、児童が体験できる自然現象を核として、小規模校ならではの協働的な学習を一層深めることにつながったとも考えられます。今後もこのような活動が継続的に行われていくことを願っています。
本実践研究は教育現場でのVR技術の有用性を検証した取り組みです。不登校特例校として実践を続ける中で、これまで生徒の興味関心が薄い分野において学習意欲が湧かない、受け身的な態度で学習するという傾向がありました。課題解決の場面においても、意見を出せない、その場の流れにまかせてやり過ごす生徒も見られました。そこで、VR機器を取り入れることで、仮想空間において生徒が多様な意見を表出し、特に、学びに対する自らの主体的な関心と感じたそのままを表現(外面描写)することができないかという仮説のもと、実践に取り組みました。
具体的な実践例として、タンザニアの模擬狩猟(ゾウ被害問題)、人類史の体験、能楽堂鑑賞、避難訓練(火災現場)などが挙げられます。評価はアンケートや生徒の感想文をもとに検証しています。例えば、生徒の外面描写反応の気づきとして、生徒は、模擬狩猟では、「狩りは怖いってことを知った。矢が刺さったら血しぶき出てた。」などの生々しい感想を挙げており、直接VR作品中に描かれたもの以外の何か、を感じていると分析をし、VRが表面や表層、外面などを表現できる貴重なツールとして評価をしています。
本実践研究は、VRを活用した教育実践として様々な取り組みを行っており、同様の実践を行おうとしている他校の参考になると思われます。今後、VRの活用をきっかけに、さらに生徒の意見を引き出すような取り組みが期待されます。
研究課題 | 報告書 |
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自己の特性を360°カメラの動画で振り返る活動を通して「社会的に共有された調整」が図れる生徒の育成 ~ICT機器の活用で実現!思考の「聴こえる化」によるメタ認知で自己理解を促すキャリアパスポート~ |
OECD「生徒エージェンシー」とは、生徒が社会に対して良い影響を与える能力を指し、その育成はAARサイクル(Anticipation-Action-Reflection)を通して実践されます。このサイクルは生徒に自己の学びと行動を振り返らせ、他者やクラス全体の利益を考慮する思考を促しますが具体的な方法はまだ十分に確立されていません。
この研究では、エージェンシーの具体的な育成方法を探求するために、第1学年の全クラスが参加する形で、数学の授業を360°カメラで撮影しました。この動画を視聴し、生徒たちは自分たちの授業参加を「I視点」、「You視点」、「We視点」の三つの角度から評価しました。このアクティビティを通じて、生徒は自分たちの行動を客観的に観察し、授業の改善点について自ら提案する機会を持ちました。さらに、どのように授業を進めるべきか、またクラス全体の学習方法についても考察した点が高く評価されました。
加えて、生徒がどれだけ社会的視点を持っているかを評価するために、アンケートとキャリアパスポートの記述を分析した結果、360°動画を視聴した後の反省を通じて他者との関わり方に対する意識が向上しており、前年度に比べて「授業は誰のものか」という問いに対する他者を含む回答が増加していることが確認されています。
この研究の成果は、AARサイクルと360°動画の活用が、生徒のエージェンシー育成に非常に有効であることを示したことが参考になります。生徒が自らの学びや行動を振り返ることで、より社会的な学習の調整が促され、教育実践において新たな学習スタイルとしての可能性を開くものです。これは今後のカリキュラム開発や教育方針の改善に大きく寄与する可能性があり、生徒一人一人の社会的責任感やエージェンシーの強化に繋がる重要なアプローチです。
京都市立大淀中学校のエネルギー環境教育プロジェクトでは、社会科、理科、技術・家庭科が連携し、エネルギーと環境問題に対する多角的な理解を深める教育が行われました。このプロジェクトでは、ICTを活用した教材開発と授業実践を中心として、生徒が対話的な学習を通じてエネルギー・環境問題への理解を深めることが目指されていました。
特徴的な活動として、生徒が作成したデジタル絵本を使用して海外の生徒に読み聞かせを行ったことでした。この交流は、生徒の国際理解と言語能力の向上に寄与したと考えられます。また、シンキングツール(バタフライシート)を用いた授業では、高レベル放射性廃棄物の地層処分問題を班で議論したことで、生徒たちは科学的な問題解決の過程を体験することができたとも考えられます。
この教育プロジェクトは、生徒だけでなく先生方にとっても、主体的・対話的で深い学びを実現するための授業実践の共有という意味で有効だったと思われます。特に、様々な教科での学習に一貫性を持たせる取り組みは、カリキュラム・マネジメントの事例としても意義深いと考えられます。こうした活動が継続的に行われることで、生徒の学びの深化とカリキュラム・マネジメントが一体的に進んでいくことが期待されます。
高等学校において、量子力学や相対性理論について深く学習する機会はほとんどなく、大学のような学習環境を整備することも現実的ではないでしょう。本研究実践では、「天文」「宇宙開発」に対する日本の高校生の関心が他分野に比べて高いこと(国立青少年教育振興機構(2014)「高校生の科学等に関する意識調査」)などの結果も踏まえ、「宇宙」を題材にして、生徒の興味を大切にしながら、高等学校でも実現可能な実験の開発に取り組むものでした。
本実践研究では、「宇宙」という言葉から「無重力」はよく連想されますが、高校生が「無重力」の状態を、誤解なく正しくとらえることができるように、さらに初等中等教育においても実践可能な小型センサーを用いた慣性力に関わる定量実験を開発しています。また、実験の開発だけでなく、15回にわたる講座「相対性理論に基づく宇宙論と測定」が行われました。こうした実験の開発や講座の実現は、連携大学との議論も何度も重ねられて行われたものでした。
報告書では、探究活動アンケートと相対論アンケートの結果、生徒へのインタビューから実践研究の成果が詳細に報告されています。相対性理論の難しい計算の克服、特殊相対性理論との扱いの工夫など今後も継続した研究により、改善が求められるものの、生徒の興味を持続させながら、最先端研究や大学物理の内容を高校物理とつなげた試みが高く評価されました。
鹿児島修学館中学校・高等学校の実践研究は、学校図書館の「学習・情報センター」としての機能を充実させることを目的としたものです。本実践研究は、①図書館での授業実践の頻度が低い、②蔵書が検索しにくい、③生徒のレポートの引用情報にインターネット上の情報のみのものが多い、④学校図書館を活用した学習について学校全体での共通認識がない、といった具体的な課題の解決を目指し、図書館の環境整備、蔵書検索システムの導入、職員研修会などに取り組んでいます。これらの取り組みの成果として、図書館での授業時間数の増加や、生徒のレポートへの書籍からの引用の増加などが報告されています。
本実践研究が取り組んだ学習・情報センターとしての学校図書館機能の強化というテーマは、探究的な学びの充実が求められる近年の学校にとって重要なテーマであり、本実践研究の成果は多くの学校の参考になると考えられます。ICT活用による学校図書館機能の充実だけでなく、探究的な学びの促進という視点でも興味深い実践研究です。
報告書には、図書館へのプロジェクターの導入や、生徒と図書館との関係強化のための書籍検索サービスの導入、授業での図書館利用のための研修や事例作りなど、具体的な内容がその背景と共に述べられているため、同様の課題を抱える学校に役立つものと評価されました。また、実践研究の評価についても、利用者の声を元にした質的な評価、利用者数や利用授業数といった量的な評価を組み合わせ、目標に対して適切かつ総合的に行なっている点が評価されました。
全国の初等中等教育の学校などが、学校林を保有することはあまり知られていません。本研究実践校は、児童生徒の自然環境への意識を高め、身近に体験するために植えられた学校林がほとんど活用されていないことに着目し、学校林を題材とした学習教材の開発に取り組んでいるものです。
学校林を題材とした学習プログラムの開発にあたっては、森林の管理が行き届かず、安全に懸念」があることから、「①学校林における探究活動の安全性を確保し、継続的な活動が可能であること」を前提に、学校林の活用が単なる体験で終わらないように「②教科学習とつなげるために、生物基礎で学ぶ植生遷移の内容が含まれること」として教材の作成に挑戦しています。
開発までの取り組みにおいては、ドローンを活用して、学校林表面の植生遷移の様子を空撮してデータの蓄積を行い、探究的な学習だけでなく、教科学習でも利用することができる学習教材の開発を行っています。笹の繁殖などの困難にも遭遇するものの、生徒らは活動をとおして、植生だけでなくそこに住む動物や昆虫にも目を向けるようになったり、データを蓄積することの重要さを実感したりしていることが高く評価された。
植生遷移のデータの蓄積や分析は一朝一夕にできるものではなく、水質との関連性においても、今後の継続した取り組みも期待されます。
研究課題 | 報告書 |
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肢体不自由のある児童生徒に対する効果的な介助及び指導支援方法に関する教員の技術の短期習得を目指して ~教員の専門性向上に向けた専門家と初任者の動作解析比較を基にした研修プログラムの開発~ |
肢体不自由児や重度障害児の教育現場において必ず挙げられるのが、児童生徒の身体補助にまつわる教員の腰などへの身体的負担の問題です。学校現場ならではのニーズに対し、本研究では、ICT端末で簡便に使える動作解析アプリを用いてベストな方法について探究しそれを教員研修にて普及させることができました。
障害児に携わる教員が安定した移乗介助をできるようになることは一番には児童生徒の安心安全な学校生活につながるとても大切なことです。実は、当初は理学療法士や作業療法士のような身体介助の専門家の介助スキルをモデルにして動作解析を行う予定であったものの、実際には専門家と教員とでは介助シーンなどの違いにより難しいことに気づけたことも、大きな研究の知見であったと思います。教育現場にある課題をICTで解決したこの取り組みは、特別支援教育分野におけるICT活用の一つのあり方を提示したものとして意義が大きいと考えます。
今後は、こうした教員側の視点だけでなく、介助や支援を受けた児童生徒側の心理的効果や、今回の研究助成によって整備された環境を用いて児童生徒たち自身のできることを増やす取り組みに活かしていくなどの発展が望まれます。
研究サークルのメンバーが転勤により地理的に離れたことで、研修会の開催が困難になったことが研究の着想となっています。これを解決するため、メタバースプラットフォーム「ovice」を活用し、オンラインでの授業研究と研修を行う新しい方法を開発しました。このシステムを使うことで、メンバーは場所や時間に束縛されることなく、指導案の検討や授業資料の共有、研修実施が可能となり、実際に対面で会っているかのような研修参加体験を実現できるようになったことが高く評価されました。
さらに、空知教育センターの夏季研修講座では、オンラインと現地参加を融合したハイブリッド形式で研修を行い、広範囲にわたる配信を実施しました。また、若手教員サポートとしては、コロナ禍の中でもメタバースを利用し、教育者同士が集まり新たなコミュニケーションの場を提供しました。このように各種研修では、参加者が自由に議論に参加し、意見交換が活発に行われ、地理的な制約を超えて協力し合う新しい教育モデルが提案されています。
また、アンケート調査では、従来のテレビ会議システムとメタバース「ovice」の比較から、メタバースが多くの点で肯定的に評価されました。特に、討議の活性化、参加者の自発性、コミュニケーションの容易さが際立っていました。メタバースでのアバター操作により、自由なグループ間の移動が可能となり、対面での交流に近い体験を提供しており、心理的障壁も低減されています。さらに、画面共有の機能もスムーズに利用できるため、研修会はより充実した内容になり、遠隔地や育児中の教員も気軽に参加できるようになりました。このことから、メタバースは教育環境の質を向上させる有効な手段であると確認されました。
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