成果報告会

パナソニック教育財団
平成28年度
成果報告会

開催日 平成28年8月2日

子どもが学びの主体となるICT活用の工夫を13団体が発表

8月2日、東京・有明のパナソニックセンター東京にて、パナソニック教育財団主催の平成28年度 成果報告会が開かれました。会場には、全国各地の助成校やアドバイザーを務めた専門委員の先生方など約110人にお集まりいただき、研究成果報告書の優秀校の表彰式、これまでに助成を受けた学校・団体の成果報告、専門委員の先生方によるパネルディスカッション、交流会が行われました。
当日の様子を、映像と共にお伝えします。

ご挨拶

子どもたちの人生を充実させる、ICTの重大な役割

小野 元之 パナソニック教育財団理事長

私たちの実践研究助成は今年で第42回となります。本日は、助成期間が1年の一般助成校がまとめた研究成果報告書の中から優れたものを表彰するほか、助成期間が2年の特別研究指定校の取り組み過程や成果、学校と自治体と財団が取り組んだ共同研究の成果についても報告していただきます。最大の狙いは、子どもたちが身につけた新しい時代に必要な知識や能力をどのように活かして社会と関わり、人生を充実したものにしていけるかということ。学習指導要領や大学入試が大きく変わろうとしている改革の中で、ICTは従来にも増して重大な役割を担うようになるものと確信しています。

来賓ご挨拶

各所で進む、教育の情報化推進に向けた取り組み

磯 寿生氏 文部科学省 生涯学習政策局 情報教育課長

パナソニック教育財団には設立以来、累計約2900件もの研究助成等を通じて教育の情報化の発展・普及に多大なご尽力をいただき、深く敬意を表します。文部科学省も政府の日本再興戦略2016の第2期教育振興基本計画に基づき、教育の情報化を積極的に推進する、さまざまな取り組みを実施しています。8月1日、中央教育審議会で示された次期学習指導要領にも、教育の情報化のICT活用については随所に明記されています。また、2020年代に向けた教育の情報化に関する懇談会の最終まとめでも、教育の情報化に対応する今後の方策を発表しました。推進に向けては今後も教育委員会、学校関係者、地域のご理解が欠かせません。

表彰式

第41回 実践研究助成
一般助成 研究成果報告書 優秀団体表彰式

続いて、第41回一般助成研究成果報告書の優秀校の表彰式が行われました。専門委員の先生方に報告書を評価していただき、74団体から選ばれた14団体を表彰。最優秀校に輝いた岐阜県立郡上特別支援学校には、第42回実践研究助成の6校目の特別指定研究校として、9月より研究活動を推進していただきます。
表彰後、専門委員のメンバーである木原俊行 氏(大阪教育大学 教授)は全体講評として、「研究内容・活動の創意工夫、研究データの説得性、研究内容の適用可能性、実践の批判的検討、表現の工夫」という5つの観点から評価したことを明らかにしました。

支援アプリの開発で、コミュニケーション力を育む

最優秀校 岐阜県立郡上特別支援学校

本校では平成25年度から、知的障がいの生徒の卒業後の生活や就労に向けて、喫茶サービスの作業学習を始めました。26年度には接客をアシストしてくれるアプリを使い、一定の教育効果を得ましたが、お客様を意識したコミュニケーション力の育成にまでは至りませんでした。そこで本研究では、学校ごとの生徒の実態に合わせた、より汎用性のある接客支援アプリの開発に取り組み、生徒自身が自分の課題を主体的に見つけることができるものに改良できました。生徒それぞれの役割を明確にすることで、いかに活躍する場面を多くつくれるかが今後の課題です。さらに、ほかの分野にも応用できるものを目指していきたいと思います。

平成27年度 共同研究 成果報告
埼玉県立総合教育センター 墨田区教育委員会

「反転学習モデル」による学びの効果を検証

埼玉県立総合教育センター 大沼潤一 氏

先生が教材となる動画コンテンツを事前につくり、生徒が自分のペースで視聴することで事前にインプットし、授業中は演習やディスカッションによってアウトプットする「反転学習モデル」の授業を実践し、中学・高校の先生5人と効果を検証しました。鴻巣女子高校保育科では、実習着のボタンホールをつくる家庭科の授業で、事前に動画を視聴。このような反転学習を実践後にアンケートを実施した結果、「関心・意欲・態度」、「思考・判断・表現」いずれの項目でも高い評価が得られ、鴻巣女子高校では保育技能検定で高得点が出ました。ただ、家庭に視聴環境がない生徒には、休み時間や放課後に事前学習の機会を設定する配慮が必要です。

3者協定を結び、ICTの日常的な活用を推進

墨田区教育委員会 渡部昭 氏

墨田区では「いつでも、だれでも、どこでも」使えるICT機器の整備を目指してきました。昨年度は全中学校、今年度は全小学校でICT機器の常設を進めています。校長、副校長、ICTリーダー、主幹教諭が対象の「ICTマネジメント研修」も今年で6年目になります。昨年12月には横浜国立大学、パナソニック教育財団、墨田区の「3者協定」を結びました。各学校の校内研修に研究者を呼び、学校情報化診断を全校で展開するほか、実践のDVDもつくります。これからもサポートしてくださる方々の協力を得ながら、文部科学省が目指す「2020年度までに児童・生徒1人1台の情報端末による教育」を、整備だけでなく中身も含めて進めてまいります。

ICTを活用した協働学習で主体性・プレゼン力が向上

札幌市立厚別東小学校

本校の研究課題は、次期学習指導要領のキーワードであるアクティブラーニングとカリキュラムマネジメントを見据えたもので、主に総合的な学習の時間にICTを活用しました。ICT機器の利用が増えたことで、子どもたちの主体性やプレゼン力が向上し、ICTリテラシーの考え方も浸透。協働学習の成果をあげることができました。研究2年目の今年は授業デザインを意識しながら、研究課題の成果をより明確にできるよう努めてまいります。
アドバイザーコメント
中川一史 放送大学 教授

21世紀型スキル、協働学習、学習科学のエキスを共有化

本校は21世紀型スキル、協働学習、学習科学を視野に入れて、それを支えるツールとしてICTを授業にからめる取り組みを行ってきています。もちろん、3つのキーワードはそれぞれがとても大きなものであるため、すべてを授業で具現化できるわけではありませんが、その共通するエキスを日常の授業で意識化し、校内の職員が一丸となって共有化を図ってきました。これらの考え方をつなぐ一助として、ICTがうまく位置づいています。

時間軸、学習形態ごとにICT活用法を整理

板橋区立中台中学校

今年度より、生徒が各教科教室で授業に参加する「教科センター方式」の学校としてスタートしました。実践研究では、全教科のICT機器の活用場面を3つの時間軸と3つの学習形態ごとにまとめました。国語科ではスピーチや短歌の授業で動画や画像を活用したことで、全国学力テストの「考えをもつこと」という項目の成績が向上しました。授業モデルとして区内各校でも活用していただけるように、今年も授業デザインの研究を進めてまいります。
アドバイザーコメント
吉崎静夫 日本女子大学 教授

「教科センター方式」を活かした授業づくりが課題

ICT活用には「とにかくICTを授業に使う」「どういう場面で効果的に使うか」「どういう子どもに、どう使うか」という3段階があります。本校は昨年8月から第2段階に入り、「導入、展開、まとめ」「教師がICTを活用する一斉学習、生徒がICTを活用する一斉学習、生徒がICTを活用するグループ学習・個別学習」という枠組みに、ICT活用法を整理しました。今後は「教科センター方式」の中で、教科別と教科横断型それぞれのICT活用法を考えていくことが求められます。

言語活動に注目した研究を外部にも発信

文京区立第六中学校

本校では生徒の意見を深め合い、広げる機会が少ないとして言語活動に注目した研究を進め、その取り組みや成果の一部を文京区の中学校教育研究会や東京教師道場の公開授業で外部に発信しました。音楽と技術のコラボ授業ではグループでCMを作成。美術では作品から読み取ったことを寸劇にして発表し、解釈を深め合いました。今後はさらに授業実践やグループ協議等を進めて成果をまとめ、生徒の力を高めていきたいと思っています。
アドバイザーコメント
村松浩幸 信州大学 教授

ワークシートとの連動で教科の本質に迫る

本校は言語活動にICTを組み合わせ、汎用的なスキル、教科等の本質、教科等の固有の知識や個別スキルに関わる資質・能力の向上を目標としています。ワークシートとICT機器を連動して活用しているのが特徴で、CMづくりの授業では既存のCMの設計法をワークシートで分析するなど、各教科の本質に関わるような思考法を研究しています。こうしたワークシートの作成自体が、先生自身にとっても言語活動になっていくのではないでしょうか。

児童主体の協働学習による能力・意識の変化に注目

大阪市立堀江小学校

本校では総合的な学習における児童の能力や学習に対する意識の変容を分析しました。昨年度、たとえば5年生はアメリカに住む児童とスカイプで交流し、外国文化について調べました。公開授業の参会者からはよい評価をいただきましたが、今年度はより児童を主体にした授業を目指し、5年生は自分たちが考えた街づくりのアイデアを区長に提案しました。総合的な学習以外の時間に、児童主体の授業をどう進めていけるかが今後の課題です。
アドバイザーコメント
永田智子 兵庫教育大学 教授

次期学習指導要領にも通じるICT活用モデル

本校は平成25、6年度に大阪市のモデル校となり、ICT活用モデルをつくり上げました。全教員で取り組む土台があったからこそ、実践研究でも成果をあげることができたのです。学習指導要領改訂の議論が進む中で、問題解決型学習やアクティブラーニングが注目されていますが、これらは本校の取り組みとも共通する点があります。また、新任の先生も早々に公開授業ができるくらい校内研修が充実している点も、他校は学んでほしいと思います。

e-Portfolioの活用で学習成果を可視化

大阪府立東百舌高等学校

本校では、知識だけでなく興味や関心も育成する授業づくりに向けて、ICTを活用したアクティブラーニングの実践と評価に取り組みました。アクティブラーニングルームをつくり、実践を推進するTotal Plan委員会を設けました。情報デザインコースでは1人1台のタブレットを貸与し、学習成果を記録・蓄積できるe-Portfolioを活用したところ、81%の生徒が「学習に役立った」と評価。今後はBYODも視野に、授業デザインを見直していきます。
アドバイザーコメント
影戸誠 日本福祉大学 教授

アクティブラーニングにより“縦の線”を意識

本校はICT、アクティブラーニング、e-Portfolioという3つのキーワードで実践を展開しました。1人で試行錯誤し、仲間と考え、グループで検証し、自分で定着するという縦の線を意識できるのがアクティブラーニングの特徴です。今後は主体的な学びができるように、イエスかノー、あるいは答えを選択できる問いかけをして最後に意見を述べる展開にすることで、どの生徒も協働学習に加われるような工夫をしていってほしいと思います。

主体性高め、思考深めるアクティブラーニングを開発

芦屋市立精道小学校

平成26年度にタブレットを導入し、言語活動の充実や協働学習におけるICTの効果的な活用を探ってきた経緯から、さらに児童の主体性を高め、思考を深める実践にチャレンジしました。5年生の算数ではタブレットを使い、グループで合同な図形の作図法を考え、全体で検討する授業を行いました。今後は本校のアクティブラーニングと実践事例を関連づけながら、主体性の高まりや思考を深めるICT活用の場面を検証していきたいと思います
アドバイザーコメント
堀田博史 園田学園女子大学 教授

積み重ねた実践のモデル化が進行中

本校は言語活動の充実を目指した研究をしていたため、児童は学び合いや協働学習に慣れていて、ICT環境の整備も進んでいたため、研究に取り組みやすい環境がありました。1年目は深い学び、対話的な学び、主体的な学びをできるような実践を重ね、モデルを探す状態が続きました。2年目の今は校内研究を市内の学校に公開し、さまざまな意見を得ています。これをモデル化する作業が、授業研究発表会のある12月下旬までには完成する予定です。

校内OJTモデルの確立で学校全体の教師力が向上

米沢市立東部小学校

本校の教員は20代と50代の割合が高く、学級担任の指導力の差が課題だったことから校内OJTモデルの開発に取り組みました。まず「学習規律・学習指導の手引」を作成したところ、漢字や言語活動の習熟などで成果が表れました。さらに若手とベテランによるICT活用も含んだ授業研究会や、ベテランが若手に授業のノウハウを伝える若手塾、校内地留学、昨年度だけで88回にのぼる公開授業を実施しました。市内の先生方にも参観していただくことで、実践の普及にも努めました。その結果、若手とベテランが学び合うことで双方の授業力が向上し、学校全体の教師力が向上しました。今後もOJTモデルの追究・普及に努め、よりより学校づくりに取り組んでまいります。
アドバイザーコメント
堀田龍也 東北大学 教授

教員の急速な若返りの時代に必要なモデル

本校の研究の特徴は2つ。1つは、多層的な教育研修により全教員が同じ指導をできるようになったことで、学習活動に落ち着いて取り組む雰囲気ができ、学校としての安定感が生まれた点。2つめは、これらの取り組みが教員にどんな影響を与えたか内部評価を行い、若手とベテランに分けて分析した点です。成果は分厚い研究概要にまとめられています。教員の急速な若返りの時代を迎えた今こそ、多くの学校の参考にしていただきたいと思います。

協働学習により、発表が苦手な子の意見も抽出

つくば市立春日学園義務教育学校 (旧 春日学園つくば市立春日小学校・春日中学校)

ICTの活用により児童・生徒が考える時間を確保し、全員参加型の学習スタイルを構築し、校内にとどまらない学びの広がりが得られることを目標に、研究に取り組みました。6年生の校外学習では、鎌倉でタブレットを使って撮影した画像をホテルで発表し合い、3年生の社会科では、地域の特色を調べて県外の学校とスカイプで交流しました。動画を使った「反転学習」によって協働学習の時間が確保できるようになり、発表が苦手な子の意見も抽出し、共有することで考えを深めることが可能になりました。この2年の間につくった110の事例は「実践事例集」としてまとめました。また年3回の公開授業には1000人を超える来校者があり、研究を広めることができました。
アドバイザーコメント
木原俊行 大阪教育大学 教授

アイデアやエネルギー取り込み、新しい学校像を体現

本校の実践には、従来の授業が効率的・効果的に営まれている側面と、イノベーティブな側面の両方がありました。先ほども出ました3年生の社会科では、学びのパートナーが空間をも超えてしまっています。外のアイデアやエネルギーを学内に持ち込むことでイノベーションを活性化し、開かれた新しい学校像をマネジメントづくりでも体現しています。その根本に、授業づくりに対する先生の変わらない熱意がある点にも注目したいところです。

タブレットの日常化で新しい教育スタイルを追究

多摩市立愛和小学校

研究当初は、1人1台のタブレット等の恵まれたICT環境を活かせていない状態にありましたが、プログラミングの授業で児童が見せた主体的な学びの姿に希望を感じました。目標だった「授業のRe-design」はタブレットを朝学習や隙間時間、協働学習に活用できたことで80%達成しましたが、従来の授業にICTを付け足す感覚がまだ完全には抜けきれていません。保護者にはタブレットの持ち帰り学習にご理解いただき、サポーターから学びのパートナーへ変化する可能性を感じました。タブレットは子どもを学びの主語にするツールです。今回の取り組みは教員の指導観にも大きな影響を及ぼし、現在も実践報告や模擬授業を通して新しい教育スタイルの啓発に努めています。
アドバイザーコメント
寺嶋浩介 大阪教育大学 准教授

学び続けようとする若い先生たちの姿が印象的

この取り組みは若い先生が1人1台という環境の中で、いかに学校を変えることができるかというチャレンジでもあり、先生方は授業研究会を頻繁に行うなど、数をこなすことでタブレットを日常化しました。プログラミングや音楽の作曲などの新しい学習場面のほうが児童が生き生きとしていて、1人1台に合うこともわかってきました。ほかの地域の先生に研修を行うことで教員自身が学び続け、授業に還元していこうとする姿も印象的でした。

情報モラル教育と道徳の関連づけにICTを活用

揖斐川町立揖斐小学校

本校では授業や情報モラル教育、校務支援におけるICTの活用を進めてきましたが、情報モラルの授業後、智恵を磨く領域の正答率は高くなる一方、心を磨く領域では変化が見られませんでした。そこで情報モラルと道徳の授業を連続して行い、影響を調べました。さらにタブレットの持ち帰り学習を採り入れ、情報モラルと道徳の関連づけを図ったところ、保護者の理解も深まりました。研究の結果、情報モラルで智恵を磨く領域を扱った後、連続して道徳で心を磨く領域を扱うことで道徳的実践意欲が高まることがわかりました。また本校の児童会は、自分たちで情報モラルの実態を調査するなどの活動を展開していますが、これを支える動きがPTAや地域にも広がっています。
アドバイザーコメント
野中陽一 横浜国立大学 教授

情報モラル教育のカリキュラムマネジメントに功績

本校の最大の成果は、情報モラル教育をうまくカリキュラムマネジメントした点にあります。タブレットを持ち帰る家庭学習や児童会の取り組みも、上手にカリキュラムに溶け込ませました。ただ普通の学校では、ベースとなる情報モラル教育のカリキュラムを確立していない可能性が高いので、他校が取り組む際はどこに位置づけるか工夫する必要があります。今後は情報モラルだけでなく、情報活用力の育成にも取り組んでいただきたいと思います。


テーマ:「ICTを活用したアクティブラーニング」

[コーディネーター]

  • 新地辰朗 宮崎大学 教授

[パネリスト]

  • 影戸誠 日本福祉大学 教授
  • 木原俊行 大阪教育大学 教授
  • 寺嶋浩介 大阪教育大学 准教授
  • 野中陽一 横浜国立大学 教授

蓄積を活かし、学校文化を拓く実践に成果を実感

新地辰朗 宮崎大学 教授

今後ますます注目度が高まりそうなアクティブラーニングですが、本日は非常に参考になる実践をご披露いただきました。第42回の助成申請の内容を見ると462件中136件がアクティブラーニングをキーワードにしたものでしたが、採択結果は79件中16件にとどまっています。
京都大学の溝上慎一先生はアクティブラーニングを「一方向的な知識伝達型講義を聴くという受動的学習を乗り越える、あらゆる学習のこと」と定義していますが、別のとらえ方では「教育のパラダイム転換である」ともいわれています。そうすると「学習方法や授業デザインの工夫」が求められるようになる。その際、児童・生徒だけでなく教師のICT活用もテーマとなってきます。発表の中にも、これまでの蓄積を活かし、学校文化を拓いていくようなICTを活用したアクティブラーニングの実践が見られ、着実な成果をあげてきていると思われます。
ここからの時間は、これまでの歩みを振り返り、これから申請する学校の参考にもなるようなご意見を、それぞれの先生方のご経験やお立場からいただければと思います。

生徒をよく見て、生徒が発話する場面を増やす

影戸誠 日本福祉大学 教授

仕事柄、アメリカやオーストラリア、シンガポールなどに行くことがあります。そこから見えてくるのは、日本は各国の成功事例をバックグラウンドとして理論的に踏まえた上で、アクティブラーニングを定義しているということです。その集大成として深い学び、対話的な学び、主体的な学びといったことが大和言葉で定義されているわけです。
教育学者のパウロ・フレイレは「銀行型」すなわち、「預金が少ない人たちは増やすことこそが成功の要だという考え方」をやめようと唱えました。つまり「教えない授業」とは、先生がしゃべるより生徒がきちんと発話している授業のことを指し、そんな授業のほうがいいのではないかというわけです。
生徒のニーズや次の一手、学力や方向性よく見ていないと、アクティブラーニングはデザインできません。生徒は自分の中で了解できていないことを人前で話せませんから、先生は授業の中で生徒が発話する場面をしっかり増やしていけばいいのではないでしょうか。

アクティブラーニングを能動的にする3つの要素

木原俊行 大阪教育大学 教授

汎用的能力の育成とアクティブラーニングは近い関係にあります。アクティブラーニングとはすなわち「能動的である」ということを身体的(体系的)・知的(教材論的)・社会的(学びのパートナー)に繰り広げていく学びであり、それらが三重奏になったとき、ICTはその活動を活性化するのに貢献してくれます。
「身体的に」の例としては教室の外に飛び出して対称な図形を見つける小6の算数の授業、「知的に」の例としてはグループごとに打楽器や主旋律について分析後、それらを総合する小5の音楽の授業、「社会的に」の例としては各自で考えた風の音のオノマトペをグループで共有財産化する小1の国語の授業が挙げられます。
アクティブラーニングの普及には、先生の力量アップが欠かせません。ICT活用を持続的に発展させている先生の熱意を上昇させる要因には環境要因、個人的要因、教師文化要因がありますが、3つ目の要因は日本に特徴的なもので、校内研修などの学び合いの重要性を感じます。

実践の「共通化」を経て「個性化」を図る

寺嶋浩介 大阪教育大学 准教授

ICTを活用したアクティブラーニングにおいては、まず先生方が自分たちの実践を位置づけて一般化する「共通化」を図り、それを拡張する形でオリジナリティーあふれる「個性化」をすることが重要です。段階としては、単一の授業で学んだことについて質的に深い定着を図るところから、問題を解決する主体的な学びへと広げていく。そうなると単元レベルではなく、年間のカリキュラムに落とさなければいけなくなります。そこから、汎用的な能力を学校レベルでどう育てていけるかがポイントです。
ICT活用を位置づける際は教師の単純な提示にとどまらず、児童・生徒のICT活用へシフトさせることで、さらなる教育の可能性が期待できます。また、共通化で気をつけたいのは特定の型にこだわらないこと。そして「対話的な学び」に比べて共通理解しにくい「深い学び」や「主体的な学び」について、どう共有化していくかが重要です。
パナソニック教育財団のホームページには「お役立ち情報」という項目があります。今までの資産を見つめ直し、そこから各校で取り組んでみてもいいかもしれません

プアなICT環境でも情報活用能力を育む工夫を

野中陽一 横浜国立大学 教授

先日出された「2020年代に向けた教育の情報化に関する懇談会」の最終まとめを見ると、先導的な教育環境はハードルが高いから中間的モデルを提示しないといけない、とトーンダウンしていました。
たしかに現場は必ずしも十分なICTが整備されているわけではなく、地域格差も大きい。とはいえ、私たちの身近な情報はデジタルのほうが圧倒的に多い。だから、これからの情報活用能力の育成はデジタル情報の活用による深い学びをプアなICT環境の中で、どう行うかを考えなければいけません。まずは児童・生徒に資料が入った情報端末を渡すとか、そういうところから始めて、能動的な活動につなげていくのがいいかもしれません。
最近では、教員研修センターの学校教育の情報化指導者養成研修でも1人1台のタブレットを使います。こういう研修を各地域でも実施し、授業につなげていただく。それが授業デザインに、デジタル情報やアクティブラーニングを採り入れることにもつながっていくのだと思います。

総評

ICTを見事に調理した実践成果は財団の財産

赤堀 侃司 パナソニック教育財団 常務理事/東京工業大学 名誉教授

本日は長時間にわたり、活発な議論と発表をありがとうございました。ICTはいわば食材みたいなものです。その新しい食材を先生方は見事に調理してこられました。13団体の発表の中には子どもが主体になる学習をどう実現するかという、さまざまな工夫が見られました。専門家の先生方のアドバイスのもと取り組まれた、これらの研究成果は世界に堂々と発表できるものです。財団が蓄積した財産をどう国内外に広めていくかが今後の課題です。

グループディスカッション・交流会

各所で進む、教育の情報化推進に向けた取り組み

成果報告会の終了後、場所を移して、助成校の皆さん、アドバイザーの先生方、パナソニック教育財団関係者によるグループディスカッションと交流会が開かれました。
冒頭、藤田稔 パナソニック教育財団事務局長が「またこれで皆さんの成果という、かけがえのない財産が増えました。助成校の皆さんは、ぜひ次のステップに進んでください。まずはグループごとに対話的な学びを深めてから自由な交流を楽しみ、限られた時間を有効にお使いください」と挨拶。
会場では、この日の学びをもとにした活発な議論や情報交換が行われました。

参加者の声

  • 内容が豊富であっという間に時間が経っていました。アドバイザー先生方のコメントが特に良かったです。自校の研究で不足している点にも気づくことができました。
  • 学校の研究活動の様子を聞くだけではわからない意味づけがアドバイザーの先生方の手によって行われて、更に各実践の価値や手法などを咀嚼できたように感じました。
  • 成果報告会での熱意あふれる発表はとても印象に残りました。また、情報交流会でのざっくばらんな意見の交流で、迷いながら取り組んでいる我々にエールを送っていただきありがたかったです。
  • 大変、充実した研修となりました。表彰式だけではなくこうした研修を通して、井の中の蛙にならないよう今後も精進していこうという気構えを持たせていただけました。
  • これからの実践に大いに役立てていきたいと思うヒントとなる発表をたくさん聞かせていただきました。

成果報告会 開催レポート