第4部 成果報告会
主催者挨拶
ICT環境を整備し、主体的・対話的で深い学びを実現
小野元之(パナソニック教育財団 理事長)
本日は一般のお客様も多く、220名の方にご来場いただいております。ご存じの通り、学習指導要領が大きく変わろうとしています。各教科の中でも、情報活用能力を育成することが学習指導要領でしっかり求められています。
主体的・対話的で深い学び、いわゆるアクティブラーニングといわれる、子どもたちが学習の中に自ら入っていく教育が実現できるような授業づくりをする上で、ICT環境を整備していくことが必要になってきます。学校の特色を活かしながら、先生方が協力し合い、いい授業を創り上げ、子どもたちに元気に羽ばたいてもらうためにも、学校教育の充実を図ることが大事だと考えております。
専門委員長挨拶
ICTを中核として教育と関わる時代のヒントに
吉崎静夫 氏(日本女子大学 教授)
当財団には50人の教育の情報化・教育実践のすぐれた研究者がいて、助成の審査と特別指定校への年3回、計6回の訪問指導をしています。学習指導要領の本格実施が目前に迫り、アクティブラーニングを実践するために、ICTは有効なのか、どう使えばいいのか、どのような授業場面で使え
ばいいのかが模索されています。情報活用能力は、すべての教科の基盤としても挙げられています。さらに、先生の勤務時間の効率化にICTは役立つのかなど、ICTを中核としながら教育と関わっていかなければならない時代になりました。2年間の特別研究を終えた6校の成果を、次の実践のヒントにしていただきたいと思っております。
来賓ご挨拶
子どもたちの豊かな学びにつながる実践事例に期待
佐藤有正 氏(文部科学省 生涯学習政策局 情報教育課 課長補佐)
パナソニック教育財団には設立以来3000件を超える実践研究助成を通じ、教育の情報化の発展・普及に多大なるご尽力をいただき、深く敬意を表すると共に厚く御礼申し上げます。
学習指導要領が大きく変わり、教育の情報化、情報活用能力の育成がますます重要になってまいります。ICTを使い、子どもたちの学びを豊かにできるのではないかということにも大きな期待が寄せられています。そんな中、こうした先進的な事例をうかがえることを大変うれしく思っています。このような機会を通じて、優れた実践事例や成果が広く普及されていくことで、多くの子どもたちの豊かな学びの実現につながっていくことを期待しています。
第42回 特別研究指定校・特別指定校 成果発表
プレゼンテーションで伝える力・思考力が向上
古河市立上大野小学校
話の苦手な子どもたちがタブレットを使ってプレゼンテーションをすることで、表現力・思考力・判断力が高まるのではないかと思い、研究を進めてきました。プレゼンテーションをペア、グループ、前に出て行うものとランク分けし、評価するための「マスター・オブ・プレゼンテーション」という制度を考えました。認定して表彰するので、子どもたちは競うようにプレゼンテーションを行うようになりました。
成果としては、子どもたちの伝える力・思考力が向上。顔を上げ、はっきりした声で、ジェスチャーまでつけ、わかりやすい表現ができるようになりました。今後の課題としては、自分の意見を言い、相手の言いたいことを意識して聞き、合意形成を取りながら結論を出すという学習活動の必要性を感じています。なりました。成果としては、子どもたちの伝える力・思考力が向上。顔を上げ、はっきりした声で、ジェスチャーまでつけ、わかりやすい表現ができるようになりました。今後の課題としては、自分の意見を言い、相手の言いたいことを意識して聞き、合意形成を取りながら結論を出すという学習活動の必要性を感じています。
学習到達目標を達成できたかどうかをチェック
アドバイザー 中橋雄 氏(武蔵大学 教授)
実践の一例を紹介すると、教科書の地図を見て経路を言葉で表現する授業で、外国人にもわかるオリジナルの地図記号を考えてみようという活動につなげていました。タブレットに書いた個人の考えを転送提示し、多様な考えから、自分が思いつかなかったアイディアを学び、その上で
プレゼンテーションをするという協働的な学習が行われていました。聴衆から発表者に対するフィードバックもありました。私からは、プレゼンテーションによって学習到達目標を達成できたか、報告することを提案。自己評価、総合評価、指導のポイントをチェックして授業をデザインすることで、より充実した実践になったと考えられます。聴衆から発表者に対するフィードバックもありました。私からは、プレゼンテーションによって学習到達目標を達成できたか、報告することを提案。自己評価、総合評価、指導のポイントをチェックして授業をデザインすることで、より充実した実践になったと考えられます。
スマートディバイスの活用でBYOD社会に対応
大阪教育大学附属平野小学校
子どものインターネット利用率が高くなり、BYOD社会の到来が予想されることから、一人ひとりが自らのスマートディバイスを利用した教育実践を行ってきました。アクセスポイントを改修し、ICTを活用した75事例をまとめ、私的ディバイスを持ち込む際のガイドラインをPTAと作成しているところです。参観日には保護者の私的ディバイスを使いましたが、普段はクラウドシステムを活用してデータを共有し、反転学習を行いました。
休日も子どもたちは通信し合いながら学習を進め、自発的な深い学びに発展しました。個人で調べて協働的に作成したプレゼンを世界の子どもたちに発信する、グローバルな学習も行いました。課題は、家庭用ディバイスの持ち込みが難しく、台数が不足していることです。積立金を徴収し、一括して大型ディバイスを購入することも計画しています。
反転授業でブラッシュアップや振り返りの時間を確保
アドバイザー 豊田充崇 氏(和歌山大学 教授)
ICTを活用した授業はどうしても準備などで、まとめる時間が短くなってしまう。この部分を反転授業形態にして、ブラッシュアップや振り返りの時間をしっかり取らないといけません。
成功した体育の事例では、家で先生の見本や自分の演技の映像を見ることで学びの深化につながっていきました。宿題の提出を他の生徒にも見える化することで、新たな意欲にもつながりました。これだけ自由に使えるようにすればネットトラブルもたくさん起きますが、生きた教材ぐらいに思わないと対応は難しい。今回の研究を起爆剤とし、さらなる探求的な研究につなげていけるのではないかと思っています。
「かく活動」とICT活動を関連づけた授業を実践
広島市立藤の木小学校
本校は恵まれたICT環境にありますが、タブレットPCを活用した際に児童がノートに何も書いていなかった背景があり、「かく活動」とICT活動を関連づけ、主体的・対話的で深い学びの実現を目指してきました。「身につけようかくスキル11」を児童に明示し、朝には「スキルアップタイム」を設け、モデルの軸を児童に移した「学習過程モデル」を更新。
その授業実践を「かく活動実践シート」、「実践記録」としてまとめました。成果としては、学校全体で「かくスキル」を具体化できたことが教師の指導の見通しにつながり、新たに赴任した先生にも受け入れられました。児童は図や絵を使ってかくことが増え、タブレットは情報収集、ノートは整理・分析という使い分けを意識するようになりました。今後は、学び方のスキル(情報収集―整理・分析―まとめ・表現)を鍛えるためのICTスキルを追究していきたいと思っています。
学習の質を上げ、支えるものとしてICTを活用
アドバイザー 高橋純 氏(東京学芸大学 准教授)
当校では一人1台のPC活用の研究をずっと進めており、手作りの学習シートの蓄積が相当数あります。かく活動の際に、学習の質を上げ、あるいは学習の質を支えるものとしてICTを役立てようと考えてきたわけです。次に何をすべきかという学習パターンが子どもたちに身についているの
で、学習を進めるスピードが速いのも特徴です。さらに、習得した個別のスキルを生きて働く力にするには、どのようにICTスキルを発揮すればいいかを検討し、学習過程モデルを開発。学習の進め方がわかるので、その分、内容に集中でき、かくことの内容の質が上がったものと考えております。
予習動画による反転学習で主体的な学びを実現
篠山市立丹南中学校
反転学習を中心に3年間の実践研究を行ってきました。本校では予習動画を全教科で自作し、1、2分程度の動画を授業でも積極的に使っています。リコーダーの音階や理科の実験の手順、音声をつけた英語の文法の説明などの動画です。予習でわかった生徒は誰かに言いたくてうずうずし、わからなかった生徒に教えます。その結果、先生のまとめを聞きながら、一番聞きたいところで集中力が高まります。
「新しいことは自分で探って授業を聞いたほうが面白い」という生徒の感想もあり、主体的な学びが身についたことがわかります。篠山市では、5つの中学校が学習素材などを共有できるシステムを整備しました。生徒によって納得するのに必要な時間は違いますが、予習と教え合いを組み合わせると一定時間内にかなりの生徒が納得できますし、予習動画の自作は教員の資質向上にも役立ちます。
授業展開が速く、教え合いや学び合いも
アドバイザー 寺嶋浩介 氏(大阪教育大学 准教授)
先生方がつくった動画をサーバーにアップし、生徒が家で見るという反転授業を行いました。このような取り組みが公立学校でも可能だということで、広がりのある実践になりました。授業でやることがわかっているので、授業展開が速い。
生徒が発表するシーンも増えましたし、授業の本質を突くような教え合いや学び合いが、グループ学習の形を取らなくても自然な形でなされる効果もありました。ただ、生徒が主体的に参加し、対話も進めてはいたのですが、学びがさらに深まっているかどうか。ここは、さらに追究していかないといけないテーマとなっています。
問題解決型協働学習で21世紀型学習スキルを育成
神奈川県立生田高等学校
ICTを使った授業で、生徒が自らを表現できる武器としてICTを活用しきれていない状況を改善したいと考え、21世紀型学習スキルの中でも「仕事の方法」を重点的に育成することにしました。ICTを使った問題解決型協働学習を授業やLHR、総合的な学習の時間、部活動で実践。事例を積み上げることで「問題解決型学習モデル図」を作成し、文部科学省の学習モデルに当てはめると、
対話的で深い学びを重視した事例が多いことがわかりました。紙とICTを使ったグループ学習では、ICTのほうが活気があり、聞く態度もよく、活発なコミュニケーションが見られるなど、授業担当者の手応えも違いました。21世紀型学習スキルの能力や学習意欲、コミュニケーション能力が向上し、教員の意識も変わりましたが、まだ個の部分が弱いので、今後は一人1台を使ったICT活用に取り組んでいきます。
教科横断型の実践で深い学びとICTの日常化を実現
アドバイザー 脇本健弘 氏(横浜国立大学 准教授)
こうした取り組みを高校で進めていくのは大変だったと思います。まずは各教科で教科の目標に合わせて、どんな活用ができるのか検証を進めていく。そこで、さまざまな成果の蓄積ができてきたわけです。各教科での実践を集めることで、異動してきた先生が見てもすぐわかるようにな
っていて、すばらしいと思いました。教科横断型でやることで生徒の深い学びにもつながり、ICTの活用が日常的になっていったのだと思います。今後はBYODを導入し、生徒の情報端末を授業に活かしていくということで、公立学校では難しいとは思いますが、事例として蓄積していき、他の学校の参考になればいいなと思っています。
キャリア発達を促すツールとして動画やアプリを活用
岐阜県立郡上特別支援学校
卒業した生徒の8割が障害者雇用による一般就労をしますが、自己理解不足やコミュニケーション力不足からつまずきやすく、キャリア発達を促すツールとしてICTを利活用した作業学習(喫茶サービス)を考えました。自分の姿を振り返るツールとして動画やアプリを活用し、課題を再確認するツールとしてバーチャルリアリティのシステムを導入。
教師はキャリア発達評価票を活用して評価を検討しました。俯瞰した映像から自分の行動を見て言語化し、生徒同士で対話することでメタ認知が育まれていきました。今後の展開としては、生徒の実態に合わせたアプリ改良やレジスターのアップデートを重ねていきます。生徒の動機づけや既有知識までの補助にICTを利活用し、自己認識する中で育まれた、自分はこのことが確かにできるという根拠ある自信を今後も大切にしていきたいと思います。
ICTを活用し、人生を豊かにする力を伸ばす
アドバイザー 金子健 氏(明治学院大学 名誉教授)
今、特別支援教育の中で、インクルーシブ教育ということが盛んに言われています。誰一人取り残さないSDGsという言葉もよく聞きます。知的障害・発達障害のある子どもたちを補っていく時に大きな役割を果たすのがICTなのだと思います。
卒業後、社会参加するためにキャリアの力、つまり人生を豊かにする力を伸ばしていくことが求められています。喫茶店での実践の中には主体的・対話的で深い学びがありました。さらに、開発したアプリを卒業した子どもたちの仕事場でも活用し、社会に開かれた教育を学校で実践していました。ICTの力を借りることがライフキャリアを高め、豊かな人生を送ることにつながっていると感じました。
総括
人工知能が動き始めた今、求められる自立した生き方
赤堀侃司 氏(常務理事/東京工業大学 名誉教授)
今回は初めて、関西教育ICT展と一緒に開催させていただきました。人工知能が、一つの知識をもつ巨大な仕組みとして動き始めました。言われてみれば、私たちはコンピュータだらけの中を生きているわけです。
しかも、それが人間の代わりをし得る知能をもつに至っては、我々には何が求められるのでしょうか。文部科学省が出している「Society5.0に向けた人材育成」という文書を見ると、道具が道具を超えていきそうな現代において、自立した生き方がますます求められてくるのではないかと感じました。成果報告会が、これからもますます盛況に終わりますよう、お祈り申し上げます。