古河市立上大野小学校
第42回特別研究指定校研究課題
~ICT活用で伝える力、思考力・判断力・表現力を育む教育活動~
古河市立上大野小学校の研究課題に関する内容
都道府県 学校名 | 茨城県 古河市立上大野小学校 |
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アドバイザー | 中橋 雄 武蔵大学教授 |
研究テーマ | プレゼンテーション力の向上で21世紀型学力を身に付ける学習活動に関する研究 ~ICT活用で伝える力、思考力・判断力・表現力を育む教育活動~ |
目的 | 今回の研究では、タブレット端末の効果的な使い方として、プレゼンテーションを取り上げ、その製作過程で思考力・判断力・表現力を身につけさせる授業のあり方を研究することとした。 |
現状と課題 |
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学校情報化の現状 | 平成27年9月から児童1人1台ずつタブレット端末(iPad)が配備されている。 書画カメラ、大型テレビ(学級に1台ずつ)配備 |
取り組み内容 |
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成果目標 |
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助成金の使途 |
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研究代表者 | 滝本 秀夫 |
研究指定期間 | 平成28年度~29年度 |
学校HP | http://kamiono.koga.ed.jp/ |
公開研究会の予定 |
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研究課題と成果目標
研究課題 | プレゼンテーション力の向上で21世紀型学力を身に付ける学習活動に関する研究 ~ICT活用で伝える力、思考力・判断力・表現力を育む教育活動~ |
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成果目標 |
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本期間の取り組み内容/アドバイザーの助言と助言への対応
取り組み内容 |
写真 1 朝のスピーチタイム 写真 2 係からのお知らせ |
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アドバイザーの助言と助言への対応 |
【4月11日事前訪問】
【6月27日:アドバイザー訪問より】考えを伝え、学びを深めるタブレット活用のために
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裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)
- 体育的行事の多さ
5月から6月にかけて体育的な行事が多く、職員研修を十分に行う時間が確保できなかった。今回は停滞してしまったが、今後の学校の繁忙期には「ミニ研修」という形で、簡単な意見交流を行う場を設定したい。 - 朝の会での活用によって負担なく高まるリテラシーと表現力
one to oneの環境を活かし、朝から常時活用してスピーチを行うことで、タブレット端末を容易に操作できる児童が増えている。また、常時自分の考えを表現する活動時間を確保できたことで、児童が抱いていた発表への消極性がなくなってきている。さらに、毎日スピーチを行っているため、聞き手側の児童の「聞く視点」が生まれ、発表者に対して質問や意見を述べることが活発となっている。
成果
6年生児童が、朝の会のスピーチを行うにあたって、話の構成や話し方、資料の用意をする際に心がけていることを書き出し、それをグルーピングして見出しをつけた。
6年生が「スピーチをする時に心がけていること」(記入例)
見出し | 記載内容例 |
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目線 | ・タブレットの画面を見ずに聞き手を見る。 ・聞き手の方をしっかりと見る。 |
ジェスチャー | ・ジェスチャーを入れると分かりやすい。 |
文字数 | ・文字は少なめにする。 ・多くても1〜2行程度。 |
質問の予想 | ・質問を予想して、答えを用意しておく。 ・全てを話さず、「質問させる」ことも大切。 |
以上のようなまとめをもとに他学年でも活用できるようなプレゼンテーションの評価基準を作成したい。
今後の課題
- 教師の主観によらない評価基準について学校全体での共通理解を図っていく。
- 教科部・学年部による「見せて聞かせてわからせる授業づくり」のための授業検討システム作りと実践を行っていく。
- 学習内容だけではなく、学習方法、学習習慣を身につけさせる指導法の提案の必要性がある。
- どの学校においても実施可能な校内OJTシステムを各学校へ普及していけるようにする。
今後の計画
【職員研修】(2016年7月〜8月)
- 教員がアクティブ・ラーニングを体験するワークショップ型研修の実施をする。 その際にシンキングツールを活用する。
- 「プレゼンテーション型授業」に適した教科及び単元の検討を行う。
①プレゼンテーション型授業が有効と思われる教科及び単元、領域のピックアップ
②プレゼンテーションを行うために必要な時間と形式(個人・グループ)の検討
③時間や形式を考慮して授業にA・B・Cの3段階のランク付けを行う。 - 教員によるプレゼンテーションの実施
夏休みの思い出について教員がタブレット端末を用いたプレゼンテーションを行う。 - 9月26日(月)の授業公開に向けた指導案の検討
気づき・学び
【朝のスピーチを通して】
- 学級経営として担任と児童、児童と児童の相互理解と信頼関係の構築が基盤となっている。学級経営として、一人一人の考えを認め、励ましていくことで児童が自己有用感をもてるようにしている。学級での生活や学校行事を通して培ってきた児童の自己有用感からスピーチへの抵抗感がなくなっていると強く感じる。またスピーチをして学級全体で話を聞いている雰囲気の中でさらに自己有用感を高めるという相互作用が見られた。スピーチを通して、学級が落ち着いてきている。児童たちはスピーチを楽しんでいる。
- スピーチに対して、聞き手の児童が質問などのリアクションがある。児童にとってはそれが嬉しいようでスピーチを楽しんでいる。また、担任からスピーチの良い点をあげてレビューを行うことも効果的であった。その後、今後の改善点を伝えた際に素直に受け止める児童が多いことが嬉しい。聞き手の児童もスピーチとその後のレビューを聞いているため、自分がスピーチを行う際に留意点を意識できるようになっている。
- スライドのテキストの文字数や画像の有効活用、体の向きなど担任からの指導の傾向を掴んだ児童が、自分のスピーチ内で応用するようになった。また、上手なスピーチを見た児童が真似るようになった。
- 前年度の6年生がまとめた「プレゼンのコツ」や昨年度のプレゼンの動画を見て、スピーチやプレゼンテーションの意味を理解した児童が多い。継続的な活動を記録することが、指導に役立つことを実感した。
- 武蔵大学 社会学部メディア社会学科 教授 中橋 雄 先生
本校の研究テーマは、「ICTを活用したプレゼンテーション能力の育成」であり、その教育方法を検討していくことである。本校の特色のひとつは、LTEでインターネット接続できるタブレットを1人1台環境で使用できることである。今後、全国の学校でタブレットを用いた教育が普及していくにあたり、どのような場面でどのような指導を行っていくことが効果的なのか研究することには大きな意義がある。
本校では、まず「プレゼンテーション力」の範囲を明確にして校内の全教員で考えを共有するところからはじめた。そして、どのような教科・単元でその指導を行う機会があるのか、指導の工夫にはどのようなことが考えられるか検討した。その過程を経て校内研究会での授業を参観させていただいた。
2年生の国語では、発表者が絵について言葉で説明し、聴衆が説明に従ってその絵を描く実践が行われた。児童がタブレットにペンで絵を描いたあと、クラス全員分の画面が前面のデジタルテレビに一覧表示された。絵が再現できている人もいれば、そうでない人もいる。自分が思ったように相手が解釈してくれるとは限らないということ、うまく伝えるためには、どのように表現する必要があるのかということについて学んでいた。
4年生の理科では、空気でっぽうの玉を遠くに飛ばすにはどうしたらよいか、体育館でグループごとに条件を変えて実験し、その実験の様子をタブレットで動画撮影した上で、それを見せながら結果を伝え合う実践が行われた。どのように撮影すると実験の様子を他のグループにわかりやすく伝えることができるのか考えながら撮影を行っていた。
6年生の総合的な学習の時間では、校区のよいところを調べてPRする方法・住みやすい街にするための改善方法を考える実践が行われた。タブレットでインターネット検索をして地域について調べ、グループで話し合いながらホワイトボードにまとめる。他のグループに思考の過程を伝える活動では、その内容をタブレットで撮影してプロジェクタで大きく映し出し、必要に応じて拡大するといったICT活用の工夫が見られた。
いずれの実践もよく練られた実践であるとともに、教師が様々な指導の工夫をしている様子を確認することができた。学校教育の現場では、学習者が自分の考えを他の人に伝える場面が数多くある。外部の聴衆に対する発表、学級内の全員に対して発表する機会、グループやペアで話し合う機会など、それぞれの場面に応じた伝え方、そのためのまとめ方がある。今後は、そのための教育方法・指導の工夫について体系的に整理するとともに、その指導方法を暗黙知のままにするのではなく、他の教師が参考にできるよう明文化されることを期待している。
研究課題と成果目標
研究課題 | プレゼンテーション力の向上で21世紀型学力を身に付ける学習活動に関する研究 —ICT 活用で伝える力、思考力・判断力・表現力を育む教育活動— |
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成果目標 |
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本期間の取り組み内容/アドバイザーの助言と助言への対応
本期間(8月~12月)の取り組み内容 |
資料 1 夏季休業中の各研究部の取り組み 研究組織
資料 2 研究組織
1年
3 年
5 年
特別支援学級
今回の研究授業を通して、本校のプレゼンテーション型授業を行う上での課題が明確となった。
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アドバイザーの助言と助言への対応 |
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裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)
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第3 回古河市教育ICT フォーラムの参加を経て
- 相手意識の芽生え
本校は全校児童が106 名と少ない。クラス替えもなく、6年間同じメンバーで学習しているため、話し手が多くを語らずともクラスメイトが言いたいことを察することができる。そのため、表現活動を行う際に「相手意識」のイメージをもちにくい児童が多い。古河市教育ICT フォーラムには、幅広い世代の複数の来場者がいるため、学校外の他者を意識する良い機会となった。 - チーム上大野の誕生
古河市教育ICT フォーラムに参加する代表児童に対して、第6学年では学級全員でサポートをした。発表の構成やスライドの提示方法、ジェスチャーの仕方など、学級の全員が一丸となって、効果的な伝え方を考える機会となった。
下級生の参加者に対しても6 年生が丁寧に助言をして、学校全体で参加者を応援する雰囲気が生まれた。フォーラムの当日も、会場に応援に来る児童、保護者もおり、「チーム上大野」の団結の強さを感じた。 - 圧倒的なパフォーマンス
本校の児童は、自分の考えを伝えるための手段として、タブレット端末を活用したり、ジェスチャーを加えたり、時にユーモアを交えたりと、堂々と発表をし、来場者を楽しませていた。発表の様子から日常的な活用から表現力が向上している事がわか った。自分の発表を楽しんでいる様子が分かった。 - 周囲の意欲の向上
古河市教育ICT フォーラムの会場に応援に来ていた児童たちが、楽しそうにプレゼンテーションをする発表者やそれに反応して拍手が起こる会場を見て、「次は出たい」と意欲を高めていた。互いに競い合い切磋琢磨してプレゼンテーション力を高める雰囲気が生まれたことは大きな収穫であった。
成果
- 朝のスピーチタイムの実施による児童の変容
5〜7 月に6 年生がプレゼンテーションの常時活動として実施していた朝の会のスピーチタイムを全校で実施した。常時活動としてスピーチを「話す」、「聞く」活動を取り入れることで、プレゼンテーションの経験を重ね、プレゼンテーションを行う際の話し 方や態度、聞き取り方、質疑応答などの視点とスキルの向上をねらいとした。
各学年の実践テーマと児童の変容は以下の通りである。 - ・「自分の好きな○○」(色、花、食べ物、歌、季節)
- ・クイズ作り
- ・毎日の朝の会で日直が実施している。とても喜んで活動し、自分の順番が来るのを楽しみにしている。
- ・意欲的に活動し、大きな声で行うことができている。
- ・進んでスピーチのためのスライドを作成している。
- ・クイズ作りでは、ヒントの出し方、見せ方に工夫が見られる。
- ・宝物を紹介しよう
- ・夏休みの思い出について
- ・作ったお話を紹介しよう(国語の授業で作成したもの)
- ・図工の作品紹介
- ・視線が下を向いてしまう児童が多い。
- ・約半数の児童の声の大きさが小さい。「聞かせる」意識が低い傾向にある。
- ・準備不足で途中でスピーチが止まってしまう児童がいる。
- ・発表自体を嫌がる児童はいない。
- ・「ラベリング」、「ナンバリング」を用いた発表をした児童もいる。
- ・発表を言い間違えたり、止まってしまうと悔しがり、次への意欲とへと繋げる児童が増えた。
- ・「聞き手」が良い発表のポイント(目線が、声の大きさなど)を指摘することができるようになった。
- ・スライドに発表内容の大半が書かれている。
- ・手元のタブレットばかりを見て、聞いている人を見ていない。
- ・設定している時間も(3 分)よりも極端に発表時間が短くなってしまう子もいる。(30 秒程度)
- ・スライドに写真を使う場合、その枚数が不必要に多い。(必要なものを厳選できていない)
- ・空き時間などに熱心にスライドを作成するようになった。
- ・多くの自動が人前で話すことを楽しむようになってきた。
- ・良い聞き方の態度を考えるようになってきている。
- ・遠足の思い出
- ・冬休みに楽しみなこと
- ・話をする際にタブレット端末を注視してしまい、聞き手に目線を向けることができない児童が多い。
- ・ジェスチャーを交えてスムーズに話をする児童が増えてきている。
- ・聞き手の児童が、発表者の目線やジェスチャーについて指摘し、アドバイスをする場面が見られるようになった。
- ・児童間のアドバイスが増えた結果、スピーチ全体の質が向上している。
- ・最近の出来事
- ・今、頑張っていること
- ・今、夢中なこと
- ・スライド内の文字数が多く、文章を読んでいるだけの発表が多かった。
- ・発表に自信の無い児童は声が小さくなってしまった。
- ・話すスピードが速くなってしまったり、こもった声になってしまったりして、聞き手にとっては話している内容が理解できていない場面が多かった。
- ・タブレット端末を注視してしまい、聞き手を見ずに話してしまう。
- ・スライドに書いた文章だけでなく、その場で考えながら話す児童が増えてきている。
- ・テーマに沿って話題を広げて話すことができるようになった。
- ・発表に対して自信をもつ児童が増えてきている。
- ・話の構成を考えることができるようになった。
- ・夏休みの思い出
- ・修学旅行の思い出
- ・ニュースについて(地震、アメリカ大統領選挙など)
- ・テキストや写真などのスライドを用意することに時間を割いてしまい、1 分程度のスピーチに対して10 枚以上のスライドを用意する児童もいた。
- ・画像だけでなく、グラフや表などの数値的な根拠を示そうとする児童が増えてきている。しかし、グラフや表を提示すれば良いと考えてしまう傾向が強くなった。話の展開には不必要な図表の挿入が増えている。
- ・聞き手として、質問をする際に質問を考えることができる児童に偏りが見られた。
- ・自然に無理なくジェスチャーを交えて、表情豊かに話すことができるようになった児童が増えた。
- ・発表の内容を踏まえ、話を広げるような質問ができるようになった。
- ・「声の大きさ」や「姿勢」、「ジェスチャー」、「資料の作り込み」の視点で、発表者に対してアドバイスをする児童が増えてきている。
- 「伝える・伝わるアンケート」の結果の分析から
《1 年生》
全体的によくできるが多くなり、特に発表する力⑥について自信を持っている。指さし棒を使うなど、具体的な発表の工夫が意識されている。1年生にとって自分がやったこと、やれたとが「よくできる」につながっていると考えられる。「聞き取る力」④⑤⑥で「できない」が多くなっているのは、できていないことに気付いた表れであると考えられる。 《2 年生》
資料を作る力の各項目が伸びている。特に②の資料を選ぶことについて自信をもってきた。資料を作る力については全体的に「よくできる」「すこしできる」の数が多くなった。発表の資料づくりに力を入れてきたことの表れであろう。
アンケートの内容において低学年では難しい項目も含まれており、「発表をする力」
⑤や「聞き取る力」④、⑤などでは、できないことが意識されつつある。 《3 年生》
全体的に「できる」「すこしできる」が少なくなって、「できない」が増えている。発表についての内容が解るようになり、自分がうまくできないことに気が付いてきたのではないか。資料を作る力③、④などは伸びてきており、発表に写真やイラストを使うことや資料の並べ替えについては力を入れてきたことが自信につながってきいると思われる。 《4 年生》
全体的に「よくできる」が多くなり、「できない」が発表する力⑥以外は見られなくなった。「資料を作る力」②、③が特に伸びており、発表の資料を作ることに力を入れてきたことが伺える。反面、「発表する力」⑥に変化は見られず、顔の表情やジェスチャーにはまだ自信が持てていないようである。 《5 年生》
全体的に「よくできる」「すこしできる」が多くなり、自分の発表に自信を持ってきていることが伺える。 《6 年生》
全体的に良くなっている。特に発表する力①、資料を作る力の③・④、聞き取る力③で顕著である。また、「あまりできない」から「すこしできる」への変容が全体的に見受けられる。
1年
スピーチのテーマ |
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児童のスピーチの傾向 |
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児童の変容 |
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2 年生
スピーチのテーマ |
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スピーチの傾向 |
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児童の変容 |
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3 年生
スピーチのテーマ | 好きな○○(動物、食べ物、スポーツ) |
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スピーチの傾向 |
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児童の変容 |
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4 年生
スピーチのテーマ |
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スピーチの傾向 |
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児童の変容 |
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5 年生
スピーチのテーマ |
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児童のスピーチの傾向 |
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児童の変容 |
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6 年生
スピーチのテーマ |
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スピーチの傾向 |
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児童の変容 |
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学校全体の傾向として、人前で話すことや友達の発表を聞く事に対して意欲的になってきている。朝の会のスピーチで積み重ねた経験が授業中の発表にも生かされてきており、授業中も積極的に発表をする児童が増えてきている。
今後の課題
- 「プレゼンテーション型授業」の効果的な教科、単元の精選のために授業実践を積み重ねる。
- 授業実践も積み重ねを通して、「プレゼンテーション型授業」の評価方法の構築をする。
- 「教科の目的」と「伝える能力」の評価についての検討を行う。
今後の計画
- 「マスター・オブ・プレゼンテーション」の評価項目、視点を構築する。
- 学年、教科・領域の視点から「プレゼンテーション型授業」の分類を行う。
- 外部講師を招聘してのプレゼンテーションについての職員研修を行う。
- 現在製作中のプレゼンテーションの「グッドモデル」と「バッドモデル」のビデオを取りまとめて、iBooks Author で教材化する。全校児童、職員が閲覧と利用ができるようにする。
気づき・学び
《職員研修の在り方》
- 研修の雰囲気の変化、職員の意欲の向上
平成27年度9月から整備されたタブレット端末について、機器の使用方法や授業への活用方法など、これまでの研修は、担当者による全職員への一斉教授型の講義方式になりがちであったこともあり、消極的であった。 今回の研修では、「夏休みの思い出」という身近な話題に思い入れの強い職員が多かったため、意欲的に参加する姿が見られた。「自分が撮影してきた写真をタブレット端末で使用したい」、「写真の一部分のみを提示したい」など、より効果的に自分の思い出を紹介したいという強い意欲が、タブレット端末への苦手意識を上回っていた。自然と職員間でタブレット端末の操作方法やアプリケーションの設定方法などを相談する様子も見られ、楽しく課題に取り組む姿が見られた。スピーチの「ネタ」を作るために夏休みに外出したという職員もいた。 - 目的意識と相手意識の重要性の再認識
今回は「夏休みの思い出スピーチをしよう」という課題で取り組んだが、そのためには、単にスピーチを行うだけことが目的ではなく、タブレット端末を操作することが必要となる。今回の研修では、スピーチづくりに夢中になっている間にタブレットの操作を習得している職員がいた。今回の課題の提示方法や課題の難易度の設定は、授業へと生かすことができるものであった。また、職員間でスピーチを行うという「相手意識」によって、発表者は、他の職員に上手にスピーチをしたいという熱意が生まれ、意欲へとつながっていた。職員研修にも「アクティブ・ラーニング」の要素を取り入れて、教員がアクティブ・ラーニングを体感することで、授業づくりのヒントとなると感じた。
職員研修「夏休みの思い出スピーチ」を経て
- 武蔵大学 社会学部メディア社会学科 教授 中橋 雄 先生
まず、本校の研究テーマと特色を再確認しておきたい。研究テーマは「ICTを活用したプレゼンテーション能力の育成」であり、その教育方法を検討することであった。特にLTEでインターネット接続できるタブレットを学習者が1人1台もつ環境、そして、タブレットの画面を無線で大型提示装置に転送提示できる環境にあることは特色のひとつである。ここで得られた学習環境、教育内容、教育方法に関する知見は、多くの学校で参考にすることができると期待される。
研究に取り組み始めた1学期間には、そもそも「目指すプレゼンテーション能力とは何か」ということを検討しながら、複数の実践研究が行われてきた。それを踏まえて本期間(8月〜12月)の活動を積み重ね、具体的な成果が得られたことがわかる。例えば、学習者へのアンケートによる意識調査では、様々な項目で自己評価の値が向上していることを確認することができた。また、「第3回古河市教育ICTフォーラム」「全国の小中高校生によるICT活用プレゼンテーション」など、知らない人たちの前で行われたプレゼンテーションは堂々としたものであり、学習者の成長を実感できるものであった。
このように、成果を確認することができたが、研究を進めたおかげで新たな課題も明確になってきたように思う。プレゼンテーションの能力を高めるということは、「うまく見せる・はなす」「わかりやすく見せる・はなす」そうした技術を高めるだけでは十分ではない。伝える目的を達成できたかどうかということがより重要であると考えられるが、学習者がそうした意識をもつまでには至っていない。目的を達成するために効果的な工夫をすることやそれを評価する力を育むことで、さらなる成長を遂げることができると考えられる。そのための学習内容・指導・評価の工夫について、今後も研究を深めていくことができればと考える。
最後に、他校で参考にしてもらいたいことについて強調しておきたい。それは、「研究組織」のあり方についてである。「スピーチタイムの企画」「エビデンスの検討」「児童へのアンケート」「授業研究」「学習環境」などの取り組みは個々にプレゼンテーション能力の向上に寄与するとともに相乗効果があったと考えられる。これらの取り組みは、到底教員1人で実現できることではない。本校でこの期間大きな成果を得ることができたのは、研究組織を再編してタスクを明確にした上で、教職員が協力して取り組んできたからだと考えられる。
研究課題と成果目標
研究課題 | プレゼンテーション力の向上で21世紀型学力を身に付ける学習活動に関する研究 ~ICT活用で伝える力、思考力・判断力・表現力を育む教育活動~ |
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成果目標 |
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本期間の取り組み内容/アドバイザーの助言と助言への対応
取り組み内容 |
日 時:平成29年2月20日(月)12:30~16:40 (講師・財団事務局・校長・教頭・研究主任) 研究概要の説明 メディア・ラボでの6年生の授業 同じテーマを選択した児童の話し合い 自分の考えに対し友達からアドバイスをもらう 参加者から寄せられた感想や意見、授業へのコメントなどを整理・分析し、情報を共有した。こうした情報は、これまでの研究の検証と今後の研究のための重要な資料となる。 1月に今年度3回目となるプレゼンテーション力に関するアンケート調査を行った。全児童を対象に「発表する力」「資料を作る力」「発表を聞き取る力」の3項目について、それぞれ6問ずつの質問に答えさせた。ここではスペースの関係もあるので6年生の2項目のみに限り紹介することとする。 |
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アドバイザーの助言と助言への対応 |
公開授業研究会・全体会での助言
<助言への対応> 公開授業研究会終了後の助言
<助言への対応> |
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裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)
- 第2回公開授業の開会行事前の6年生の働き
開会行事前に、6年生が普段使っているiPadの使い方を来場者に説明した。説明した主な内容は、「ロイロノートの使い方」、「朝のスピーチタイムについて」である。来場者からの質問に対しても笑顔で答えることができた。日常的にプレゼンテーションの経験を重ねてきたことで、臨機応変に対応ができるようになったのだと思う。 - メディア・ラボの使用の増加
メディア・ラボを利用する学年が増えてきている。特に2年生が利用している姿が微笑ましい。自分の体よりも大きなLearn-Fit(エルゴトロン社の可動式テーブル)を利用して意見を交流したり、プレゼンテーションをしている。
教室よりも広く、自由に場の構成を変えられることができることがメディア・ラボの最大の特徴であり、児童たちの主体的・対話的で深い学びを支える環境である。また、メディア・ラボで2年生が生活科の時間にセサミワークショップを行い、「夢をえがき、計画をたて、行動する:みんなで考えるファイナンシャル・エンパワーメント」の教材を使って授業している様子がYouTubeで公開されている。学習している子どもたちの笑顔が輝いている様子を見て欲しい。 - 第4回古河市教育ICTフォーラム児童発表への参加者が古河市内最大数!
平成29年2月26日に行われた第4回古河市教育ICTフォーラムの児童発表コーナーに本校児童16名が参加した。児童発表の時間になる前から、来場者から「上大野小学校の発表は何時からですか?」という質問が相次いだ。児童発表が始まると、司会の「次は上大野小学校…」というアナウンスのたびに来場者がカメラを構える様子が伺えた。
6年生は参加者以外にも応援で来場しており、待ち時間の中で下級生の参加者の発表練習に付き添っていた。6年生同士でも互いにアドバイスをして、自信をつけた状態で発表に臨もうとしていた。
そんな中、児童の発表直前に6年生担任が、「他の学校と同じような自己紹介はしないように。」という指示を出した。それでも児童は、自ら考え、工夫を凝らした自己紹介を行い、のびのびと発表することができた。 - 奈良女子大学附属中等教育学校の高校生と6年生のテレビ中継
第4回ICTフォーラムのイベントとして、古河市と奈良女子大学附属中等教育学校を繋いだテレビ電話中継を行った。中継の中で上大野小学校児童が「古河市のPR方法の提案」と「自分の将来の夢」についてプレゼンテーションを行った。プレゼンテーションを受けた奈良女子大学附属中等教育学校の高校生が、発表内容とプレゼンテーションの技法についてレビューをするという企画である。高校生がレビューをまとめている様子も中継され、児童はその様子を正座して見守るという微笑ましい光景が見られた。高校生からのレビューの中で、「古河市の特産品の収穫時期をふまえたイベントを考えると集客が見込める。」や「古河市をPRして、イベントの参加者を増やしたいのか。古河市に定住する人を増やしたいのかで提案内容が変わるはず。」という助言を受けた。
6年生にとっては、これまでは自分の発表に対する助言や相互評価を行う相手は、主に同級生か担任しかいなかったが、今回の交流で「年上の高校生」、「遠隔地の人」という相手意識をもったプレゼンテーションを行うことができた。また、担任以外からの助言を受けたことがとても良い刺激になったようである。高校生からのレビューを聞いている間も正座していたが、目は輝いていた。
sesame@古河市立上大野小学校「バナナ」編
https://www.youtube.com/watch?v=gqk-DqT4Lsk
2年生児童の発表
6年生児童の発表
中継中の6年生児童と担任
相手先の助言を正座して聞く児童
成果
第2回公開授業研究会の実施を通して以下のような成果を得ることができた。
- 研究の方向性の確認
本研究のアドバイザーである中橋先生からは、本研究の意義や価値についてのコメントから始まり、目指すべき方向性について項目を立ててお話しいただき、今後の研究活動の方向性を確認することができた。
また、研究会に参加した方々から多くの感想や意見をいただき、これまでの研究の検証と今後の課題の把握に多くの示唆を与えてもらえた。特にこの研究が現在の教育界に必要なものであることが確認できたことは、大きな成果と言える。 - 課題の把握
2年目の研究に向けて、どのような課題があり、どのようなことに取り組んでいくべきかが明確になった。特に、教科としての評価と本研究のテーマであるプレゼンテーションに関する評価をはっきりさせて授業を組み立てること、プレゼンテーションには総括的な評価も必要であることなどが課題として把握できたことは大きい。 - 本校の研究内容の周知・普及
山形県・栃木県・群馬県・静岡県・長野県などの遠方からも含め100名を超える参加者を迎えて公開研究会を実施することができた。参加者の内訳も学校の先生方をはじめ、教育委員会職員、自治体の議会関係者、IT企業社員など多岐にわたっている。参加者の周辺も含めると本校の研究内容を幅広く普及することができたと考えられる。 - 特別支援教育における有効性の再確認
特別支援学級に在籍する児童にとってタブレット端末が勇気や自信を持って自分を表現するツールになり得ることを再確認することができた。このことは特別支援学級の授業を参観した多くの参加者から得られた感想でもある。
今後の課題
- プレゼンテーションの評価方法を確立しなければならない。このことはマスター・オブ・プレゼンテーション制度の確立にもつながる。
- 児童のプレゼン能力を系統化し共有しなければならない。
- 効果的な公開研究会の持ち方について協議し計画を立てなければならない。
今後の計画
- 年目の研究を総括し、成果と課題を整理するとともに、実践記録等のデータを整理・保管する。
- 年目に行うべき項目を設定し、それに合わせてスケジュールを組み立てる。
1年間を振り返って、成果・感想・次年度への思い
学校現場は忙しく、研究活動に従事する時間を確保することは難しいが、子どもたちが人前で堂々と発表する姿が多くの場面で見られたことや、公開研究会や視察に訪れた人々から好評を得られたことなどは、研究を進めてきた何よりの成果であると考えている。
また、本校で行っている研究が、時代背景と本校の人的・物的環境に合致したものであると確認することができたことに安堵している。このことは多くの教育関係者にモデル事業として貢献できるという可能性を示しているからである。
次年度は研究体制をさらに整え、しっかりしたスケジュール管理の基、目標とする成果の達成に向けて努力していきたい。
- 武蔵大学 社会学部メディア社会学科 教授 中橋 雄 先生
特別研究指定2年間のうち1年目の成果報告として、第2回公開授業研究会(平成29年2月20日)が開催された。2年(国語)・4年(図工)・6年(国語)・特別支援学級(自立活動)が授業を公開し、分科会で授業を振り返った後、全体会で私からも助言を行った。いずれも「ICTを活用したプレゼンテーション能力の育成」を追究した授業実践であり、LTEでインターネット接続できるタブレットを学習者が1人1台もつ環境が整えられている本校の特色を活かした授業提案であった。
助言の中では、平成29年2月14日に公開された新しい「学習指導要領案」を参照しながら、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を行う重要性について説明した。そして、そうした学びの実現には、学習者同士が伝え合い学び合うことができるだけの学習基盤を確立させる必要があるため、本校が行っている研究成果は、それに寄与するものであることを説明した。とりわけ、学習者にとっての伝える力は、「社会生活に必要な力」であるとともに「教科の学びを豊かなものにする力」となることを確認した。
今回の公開授業では、各実践者が、学習者の「伝える能力」をどのように高め、評価するか試行錯誤している様子を確認することができた。個別の状況を踏まえた上で目標を設定し、その目標が達成されたかどうかを聴衆となる学習者が評価シートに書き込む工夫がなされていた。例えば、「立ち位置」「声の大きさ」「視線」「論理展開」のような観点は目に見えるものであり、教師からも評価することが可能である。しかし、聴衆に伝わったかどうかを確認させるためには、聴衆に評価してもらうことが必要になる。その際、形式的なことだけでなく、目的が達成できたかどうかで評価することが重要である。
これに関して、特別支援学級では、発表者が「聞いてもらいたいポイント」を記述したシートを聴衆に提示し、それについての的確なコメントがなされるように教師が指示していた。低学年では、プレゼンスライドの改善点が話し合えるように見るべきポイントを明確にしていた。中学年では、特に伝えたいポイントに焦点化するために、マークをつけたり、拡大したりすることを共通の課題としていた。高学年では、プレゼンテーションの改善点をグループで話し合う活動によって主体的・対話的に学ぶ学習環境を整えていた。2年目は、こうした教師の意図や工夫を他の実践者が参考にできるように報告書としてまとめられることを期待している。
研究課題と成果目標
研究課題 | プレゼンテーション力の向上で21世紀型学力を身に付ける学習活動に関する研究 ~ICT活用で伝える力、思考力・判断力・表現力を育む教育活動~ |
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成果目標 |
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本期間の取り組み内容/アドバイザーの助言と助言への対応
[本期間の取り組み内容] |
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アドバイザーの助言と助言への対応 |
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裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)
- 年度が切り替わり、校内の職員構成の変更があった。研究目的やICT機器の活用について職員で再度確認と研修を行った。そのための時間の設定と研修内容の検討が難しい面もあったが、研究目的を再確認する上で有意義な時間となった。
- 児童が「プレゼンテーション」を理解しており、児童間で相互助言を行う姿が見られるようになった。助言の内容も発表スライドの見栄えについてや話の展開の仕方、さらには間の取り方の工夫について述べる児童もおり、発表を受ける側の成長を感じた。
成果
- 新年度になり教員も数名入れ替わり、ICT機器やソフトの使い方等の職員研修を計画的に実施したり、日常的にICTを活用したりしたことで、各教員の技能が向上し、意識の向上が見られた。
- MP制度の確立のために、プレゼンテーションの評価項目・方法について職員研修を進め、作成を行った。現在、これらのプレゼンテーションの評価方法を試行的に実施している。
- アドバイザー訪問に合わせて全学級の授業を公開し、現状の把握とアドバイスに役立ててもらった。また、今年度の活動について課題を提案して、それに対する助言を得ることができた。
今後の課題
- プレゼンテーションの評価項目・方法を明確にし、教員がプレゼンテーションの評価方法を確立するとともに、児童が目指す姿のイメージをもってプレゼンテーションに取り組むことができるようにする。
今後の計画
- プレゼンテーションの評価項目・方法を試行しながらよりよいものに改善していく。
- 第1回公開研究会を8月23日に実施し、本校の取組を発表する。
気付き・学び
- ICT機器の積極的な利用を進めてきて3年目になり、児童がICT機器を自信をもって使いこなす姿が毎日の学習の中で見られている。また、教師も授業の中で、ICT機器を有効なツールとして適切な場面で利用するよう努めている。
- 武蔵大学 社会学部メディア社会学科 教授 中橋 雄 先生
本校の研究テーマは「ICTを活用したプレゼンテーション能力の育成」であり、その教育方法を検討することであった。LTEでインターネット接続できるタブレットを学習者が1人1台もつ環境、そして、タブレットの画面を無線で大型提示装置に転送提示できる環境にあることが、本校の特色のひとつであった。6月に学校訪問した際には、特別研究指定も2年目に入り、1年目の指導の蓄積が活かされている事象を多数確認することができた。
実践においては、学習者が自分の考えや伝えたいことをタブレットで表現するために様々な工夫をするようになった。例えば、注目してもらいたい場所にペンでマークをしたり、拡大して見せたり、画面を指差したりする工夫などが行われるようになった。また、学習者がペアやグループになってタブレット見せながら伝え合うことや、大画面に提示して学級全体に説明することは、どの学級でも自然な風景となった。さらに、伝える相手や目的に応じて提示するものの表現や話し方を変えるなど、伝え合うための方法が定着しつつあることを確認できた。
研究においては、単に実践を積み重ねるだけではなく、すべての教員が参加して、発達段階に応じた学習到達目標の整理を行う時間を設けていた。自分の実践や他学年の実践を参観した経験に基づき、評価の観点について話し合われた。学習者の実態に応じた系統的なプレゼンテーション指導のカリキュラム・マネジメントが行われているといえる。低・中・高学年部会に分かれて「わかりやすく伝えるための組立」「伝えるために必要な資料」「相手に伝わる話し方」などを観点として、具体的な評価方法が整理されていった。学習到達目標の整理を通じて、教員同士が学び合う共同体として指導力を高めあっていることを確認できた。
研究をまとめていくにあたり、さらなる高みを目指して要望したい点がある。それは、伝える相手に伝わったか・魅力的であったかということに対して、「学習者同士が相互評価を行う方法」および「教師が評価を行う方法」を検討することである。「声を大きく」「文字を見やすく」といった評価も重要ではあるが、それだけができても目的が達成されるプレゼンテーションになるとは限らない。伝える目的を達成できたかどうかについて確認させることが重要である。伝えることの目的は何なのか、それに向けて表現に磨きをかける指導と評価のあり方が確立されることを期待している。
本期間(8月~12月)の取り組み内容
- 8月1日(火)パナソニック成果報告会(パナソニックセンター東京)で中間報告
- 8月23日(水)パナソニック教育財団特別指定研究校平成29年度第1回公開研究会はなももプラザにおいて、4つのテーマ別セッションと本校の取組についてのパネルディスカッションを行った。参加者は、県内外及び本校職員等91名。研究アドバイザー兼講師として武蔵大学社会学部メディア社会学科 中橋雄教授、パナソニック教育財団事業推進課長 金村俊治氏が参加した。
研究会テーマ「タブレットは子どもたちを変える!? ~教育の中でのプレゼンテーション~」テーマ別セッション
1 模擬授業・理科「植物の実や種子のでき方」(5年生の内容)
2 模擬授業・社会「いろいろな地図記号」(3年生の内容)
3 模擬授業・外国語「Let’s go to Italy」(6年生の内容)
4 模擬授業・特活「朝のスピーチタイム」(主に高学年対象) - 10月14日(土)
日本教育メディア学会に参加し、一般研究の部において本校の取組について発表テーマ「小学校におけるプレゼンテーション指導の教育的効果(予報)」 - 10月15日(日)
日本教育メディア学会シンポジウムに本校職員がパネリストとして参加。NHK for school「昔話法廷」を活用した授業について発表した。 - 10月28日(土)
上小まつりでプレゼン大会実施。あわせて第1回のMP認定を行った - 11月20日(月)パナソニック特別研究指定校平成29年度第2回公開授業研究会
4つの公開授業と分科会を行い、参加者は、県内外及び本校職員等84名。研究アドバイザー中橋 雄先生による講演「主体的・対話的で深い学びを実現させる学習基盤を育む指導方法」を行った。 - 12月6日(水)・第2回プレゼン大会を実施。あわせて第2回のMP認定を行った。
パナソニックセンターでの中間発表
第1回公開研究会での模擬授業の様子
第1回公開研究会でのパネルディスカッション
第1回プレゼンテーション大会で発表する4年生
第2回公開研究会での授業の様子
第2回公開研究会での授業の様子
アドバイザーの助言と助言への対応
- 1 講演から
学習基盤として、「もっと学びたい」と思ったときに必要なものは「調べて・まとめて・伝える能力」である。本校の研究は、この点を追求したものであり、このことにより、子どもたちが身に付ける能力は以下の2つの意味がある。
・現代社会を生きるために必要とされる能力として
・主体的・対話的で深い学びを実現させる学習の基盤となる能力として
またこの研究に推進にあたっては、「相手・目的意識をもつこと」「深い学びへの到達を確認する評価」が必要である。 - 2 研究に関する打ち合わせから
- ・プレゼンの評価のフィードバックが必要である。
- ・指導に生かすICTの使い方も考えるべきで、その点では今日の5年生の授業で行った相互評価などは効果的なものになるのではないか。
- ・授業中のエピソードや声かけなども「明文化」しておきたい部分である。
- ・プレゼン後の声かけが重要で、そのことによってスキルアップが図れる。
- ・MP評価基準をプレゼンテーション製作段階でのチェックシート等に利用して、さらに活用を進めてほしい。
- <助言への対応>
- ・プレゼンの後にどのような声をかけ、はたらきかけをしてフィードバックを図るかを今後の課題として取り上げる。
- ・ベテラン教師が授業の中で発した「声かけ」をできるかぎり拾い、テキスト化しておく。
- ・MP評価基準について、児童がプレゼンテーションの製作途中段階で自らチェックできるようにチェックシートを作成し、その活用を進める。
本期間の裏話
- 1 「マスター・オブ・プレゼンテーション」認定
2学期は、校内でプレゼンテーション大会を2度開催した。その際、出場した児童を複数の教員が「マスター・オブ・プレゼンテーション」の評価シートを活用し、プレゼンテーションの評価を行った。
第1回目のプレゼンテーション大会では、審査を行う教員側で評価シートの使い方の共通認識が難しく、児童のプレゼンテーションが開始される直前まで評価方法と採点の方法の確認を行った。慌ただしく行った直前の審査員の打合せであったが、この話合いが功を奏し、児童のプレゼンテーションを細かい視点で評価を行うことができた。
第1回目のプレゼンテーション大会では、「夢」というテーマで参加者を募集したが、すべての学年からの参加は実現できなかった。全学年の児童が参加できるようにするためには、プレゼンテーションを構成しやすいテーマを設定する必要があると考え、2回目のプレゼンテーション大会では「遠足の思い出」というテーマにした。
その結果、すべての学年から参加を得た。
校内プレゼンテーション大会では、保護者にも参観を呼びかけている。保護者の参観は、時に発表者に勇気を与えている。しかし、プレッシャーに感じ、発表直前に硬直してしまう児童もいた。その際に、保護者から児童へ励ましの声かけがあり、児童も発表することができた。 - 2 プレゼンテーションの撮影と機材の使用のアシスタントに活躍する児童たち
第4学年では、毎朝のスピーチタイムを動画で記録している。その際の撮影は“iPad管理係”の児童が主体となって行っている。スピーチを撮影する目的は、後日、動画を視聴しながら自分の発表の振り返りをして、発表の良いところや改善点を指摘して、スピーチの能力の向上を行うことにある。児童たちも自分たちのスキルの向上のために撮影していることを認知しているため、撮影の映り具合や音声をより良く撮影することを心がけている。そのため、撮影を行う際には、係の児童が、教室の照明を調整したり、窓からの日光がTVモニターに反射しないように画面の角度とカメラの位置を確認したり、さらにはチャイムの音声が入らないようにスピーチの発表時間と現在の時刻を確認して発表のタイミングを計ったりするなど、強いこだわりと細かい配慮をもって活動している。
そんな4年生たちは、校内プレゼンテーション大会において、撮影と機材の調整という重要な役割を担うことになった。実際、撮影の際もスライドが表示されるスクリーンと発表者の表情のどちらも記録できるようにカメラの設置位置を入念に確認する4年生の姿が見られた。機材の調整を行う児童たちは、発表者のiPadをHDMIケーブルの切替器につなぎ、発表者ごとにプロジェクターに映すiPadを切り替えていた。ICTが「いつもちょっとトラブル」と言われることもあるが、プレゼンテーション大会中も、接続したiPadの映像が表示されないことがあった。このようなトラブルが発生すると焦りを感じる教員が多いかもしれない。しかし、4年生の児童たちは、HDMIケーブルを切り替えたり、予備のiPadを用意したりするなどして、周囲にトラブルの発生を感じさせずに対処することができた。
普段からICT機器を活用していることで、児童たちはそれぞれの機材の特性が「なんとなく分かる」という自信をもっているようであった。今後も児童たちに機器活用等に対する自信をもたせ、児童が主体となってプレゼンテーション大会を運営できるようにしたい。また、現在は4年生が主体となっているため、他の学年の児童も機器の特性を理解できるように、ICT機器の利用を推進していきたい。その推進方法の検討・実現が急務である。 - 3 疲れが見えたiPad達・・・
本校は古河市教育ICTモデル校として、児童が1人1台のiPadを活用している。しかし、導入から約2年が経過し、iPadにも不具合が見られるようになった。使用が困難となった児童用iPadが複数台あり、その補填として教員用iPadを児童用として使用することになった。
教員用のiPadを児童用として使用することで、iPadの使用する機会が少なくなってしまった教員もいる。そのため、教材研究を行ったり、操作を身に付けるために使用したりすることができなくなり、iPadやICT機器の利活用が十分に行えなくなっている状況も見られる。また、教員用から児童用に設定をし、使用するアプリケーションをインストールする必要もあり、管理者としては非常に手間のかかる作業が増えているのが現状である。
本期間の成果
- 1 参加体験型公開研究会の実施
概要説明・授業参観・分科会等での協議・まとめ、というこれまでの一般的な授業研究会の枠から飛び出して、学校以外の施設を使って参加者に体験してもらう形での公開研究会に挑戦した。参加者の感想の中には、「児童役として模擬授業に参加したことで、身をもって本校の取組を体験することができた」という意見が多く寄せられた。これまでとは違った形と内容で本校の研究への取組を普及することができたと考えられる。
本校の職員にとっては、新しい形での研究会を企画・運営する中で、発想力・企画力を磨く機会となり、全職員で取り組む一体感を感じることができたように思う。 - 2 マスター・オブ・プレゼンテーション制度の施行・認定・応用
プレゼンテーション大会を2回実施し、マスターの認定を行った。プレゼンの評価には児童の意見も取り入れて作成した評価シートを使用したが、1回目の大会で使用した際に不都合な点があったので、2回目の前に少し修正を加えた。実際に使用してみると、審査員の主観により左右される部分も多いということが実感できた。それでも、認識が近い職員の間では大きく評価が分かれることは少ないが、今後児童たちも審査員に加えていくことを考えると、さらに客観的に基準を設ける必要があることを感じた。
評価シートを加工して授業の中でお互いのプレゼンを評価する試みを行った。授業の中で相互評価についてふれる十分な時間はなかったが、評価項目を意識して自分の班の発表に臨んでいたようである。Googleフォームを利用したことで瞬時にして集計できることから、一人1台のiPadを持つ本校としては、今後活用していきたい機能のひとつである。 - 3 公開授業研究会の実施
プレゼンテーションを取り入れた授業を公開して参加者に見てもらい、テーマに沿った分科会で参加者から意見をもらうことができた。参加者アンケートで参観した授業について設けた4つの質問はいずれも好評価であったが、中でも最も評価が高かったのは「児童の授業への取組の様子」であった。回答者の76%が「よかった」、18%が「まあまあよかった」、6%が「ふつう」と回答している。このことはたいへんうれしい結果であり、これまでの研究および実践が評価してもらえたと受けとめている。なぜならば、本校の研究の最終的な目標は、児童が授業に積極的に取り組む姿であり、そのことは一朝一夕にはできないことだからである。
第2回公開授業研究会参加者へのアンケート結果(回答者33人)
今後の課題
- プレゼンテーションの評価シートはまだ完成とはいえない。より使いやすく客観的な評価ができるものにしなければならないし、授業の中で児童も使えるようなバリエーションも増やしていかなければならないと感じている。
- 研究をどのような形でまとめ発信していくかを考え、アドバイザーの中橋先生にアドバイスをいただきながら、それを進めていかなければならない。
今後の計画
- 2学期終了までにこれまでのデータの把握とそのまとめかたの原案を作成する。
- 原案をもとに冬休み中に中橋先生のアドバイスを受け、今後のまとめの方針を固める。
- 全職員が分担してまとめを作成する。
成果目標
- 児童がICTを活用し、自分の考えを分かりやすく人に伝えることができるようになる。
- 学習の過程において思考力・判断力・表現力が身に付くように課題や学習形態を設定した学習活動が構築できるようにする。
- プレゼンテーション力の向上を取り入れた単元・授業のモデルとして幅広く利用できるよう指導計画や授業記録を明文化し蓄積する。
- 指導者(教員)が良いプレゼンテーションとはどのようなものか評価できる力を身に付ける。
- 武蔵大学 社会学部メディア社会学科 教授 中橋 雄 先生
本校の研究テーマは「ICTを活用したプレゼンテーション能力の育成」であり、その教育方法を検討することであった。LTEでインターネット接続できるタブレットを学習者が1人1台もつ環境、そして、タブレットの画面を無線で大型提示装置に転送提示できる環境にあることが、本校の特色のひとつであった。11月には、特別研究指定2年間の集大成である授業公開を伴う公開研究会が開催された。
前回訪問した際、研究をまとめるにあたりアドバイザーとして要望したことがあった。それは、伝える相手に伝わったか、「学習者同士が相互評価を行う方法」および「教師が評価を行う方法」を検討することである。プレゼンテーション指導でよく見受けられる「声を大きく」「文字を見やすく」といった観点の評価も重要ではあるが、それだけができても目的が達成されるプレゼンテーションになるとは限らない。伝える目的を達成できたか確認させる指導と評価が重要だと考えたのである。
今回公開された実践では、学習到達目標として本校が開発した「マスター・オブ・プレゼンテーション」の評価項目で相互評価が行われており、先の要望に応えてくれるものであった。この学習到達目標は、「わかりやすく伝えるための組立」「伝えるために必要な資料」「相手に伝わる話し方」「伝えたいことが伝わったか」という4カテゴリー9項目の観点から構成されている。これらの観点が、低学年・中学年・高学年ごとに整理されており、それを意識することでプレゼンテーションの質を高めていこうとするものである。
さらに、この相互評価活動については、タブレット1人1台環境を活かした特徴的な取り組みを確認することができた。それは、それぞれの観点が達成されているか聴き手に回答させる「グーグルフォーム」のアンケート機能活用である。タブレットを通じて入力された1人1人の回答は瞬時に集計され、大型ディスプレイに提示される。教室内で共有された評価の結果は、自分たちのプレゼンテーションがどのように評価されたかを客観的に捉えるためだけでなく、どのように改善していくべきか内省するための材料となる。
以上のように今回の公開研究会では、その指導と評価のあり方が確立されつつある授業場面を確認することができた。また、こうした相互評価の取り組みには、さらなる発展可能性があると感じられた。例えば、自分たちの評価と他のグループの評価がどのように異なっていたか確認させることで、自分たちの入力した評価が妥当なものだったのか考える機会を与えることができるだろう。そのことによって、「聞くこと」「読むこと」「見ること」など、プレゼンテーションを受ける聴衆としての能力を高めることができると考えられる。これからの発展的な取り組みにも期待したい。
本期間(1月~3月)の取り組み内容
- 1月9日(火)3学期始業式において、今年の抱負を各学年代表児童がプレゼンテーションで発表した。
- 1月21日(日)に埼玉県羽生市で行われた「全国プレゼンテーションコンクールin羽生」に本校を代表して4年生児童が出場し、犬猫の殺処分の現状を取り上げて命の大切さを訴えた。
- 上三川町(栃木県)小学校長会の依頼により1月23日(火)に視察を受け入れた。来校者は、上三川町内の小学校長7名と同町教育委員会職員3名の合計10名。3~6年のタブレット端末を利用した授業の公開、本校の取組説明、質疑応答等を行った。
- 1月29日(月)第3回プレゼンテーション大会において、2020東京オリンピック・パラリンピックのマスコットキャラクター3つについて、それぞれのキャラクターを推薦するチームがプレゼンテーションを行い、その後、iPadを使用して全校児童による投票を行った。投票結果については、その場ですぐに示し、結果を共有した。1年生から6年生まで、計6名が発表した。
- 3月13日(火)「私が学んだこと」をテーマにして、第4回プレゼンテーション大会を行った。1年生から6年生まで、計11名が発表した。
- 3月20日(火)卒業証書授与式終了後の会場にて、卒業生が将来の夢について全員がプレゼンテーションを使って発表する(予定)。
- 3月23日(金)修了式において、今年度を振り返って、各学年代表児童がプレゼンテーションで発表する。
写真 第4回プレゼンテーション大会の様子
アドバイザーの助言と助言への対応
- <12月の指導から>
- ・プレゼンテーションの評価のフィードバックが必要である。
- ・授業中のエピソードや声かけなども「明文化」しておきたい部分である。
- ・プレゼン後の声かけが重要で、そのことによってスキルアップが図れる。
- ・マスター・オブ・プレゼンテーション(MP)の評価基準をプレゼンテーション製作段階でのチェックシート等に利用して、さらに活用を進めてほしい。
- <助言への対応>
- ・プレゼンの後には、それぞれの児童に合わせて意図的に声かけをすることができるように努めた。
- ・MP評価基準について、児童がプレゼンテーションの製作途中段階で自らチェックできるようなチェックシートを作成し、その活用を進めた。また、プレゼンテーション大会に向けて、MP評価基準を意識して製作を進めるよう指導した。大会後には、自分への評価をフィードバックさせ、次に生かせるようにアドバイスを行った。
本期間の裏話
- ◯ 本校児童が「第1回全国プレゼンテーションコンクールin羽生」に参加し優良賞を受賞
本校で10月に実施した第1回プレゼンテーション大会で、最優秀賞を受賞した4年生児童が、学校を代表して、「第1回全国プレゼンテーションコンクールin羽生」に出場した。
コンクールでは、参加校のほぼ全てが、グループで発表していたが、本校児童のみが1人で発表を行った。他地域でのアウェイな空気感の中でのプレゼンテーション発表、さらには他校全てがグループ発表という重圧の中、堂々と発表を行うことができた。発表する児童に対して、クラスメイトの児童が密かに応援メッセージのビデオを作成しており、待機中に視聴した発表児童を勇気付けることができた。 -
資料1 プレゼンテーション実施前の事前投票の結果
第3回校内プレゼンテーション大会は、2020東京大会のマスコットデザインについて全校で投票することを目的として実施した。
4年、5年、6年から2名ずつ選抜された発表者が、くじ引きによって自身がプレゼンテーションして魅力を伝えるデザインを決定した。今回のプレゼンテーションでは、発表者の児童が担当しているデザインの魅力を聴衆に伝え、いかに投票数を増やすかということが課題となった。
プレゼンテーション大会の前に事前調査を行うと、「ウ」のデザインが圧倒的に人気があった。「ウ」を担当したのは6年生児童であり、一見すると有利に思えるが、「イ」と「ウ」のプレゼンテーション次第では、投票数が減ってしまうという重圧の中でプレゼンテーションを作成した。
また、事前投票の際に、キャラクラーを選んだ理由を調査した。その内容を参考にして発表者は、「日本らしさ」や「力強さ」など自分たちの担当するキャラクターデザインの良さを分析することができた。また、他のデザインを選んだ理由を参考にして、「かわいい」や「かっこいい」などの理由が多い学年に対して、自分の担当するキャラクターの「かわいさ」や「かっこよさ」を伝えようとする姿も見られた。
今回のプレゼンテーション大会では、聴衆を引きつけたり、楽しませたりするパフォーマンスの要素が強く要求される部分があり、各発表者は、話の構成やスライド、ジェスチャーを考え、テンションを高めて発表する姿が見られた。また、他のデザインについて「某国民的キャラクターに似ているのではないか?」と指摘する発表もあった。それに対して、その指摘を予想して、「似ていない」と主張するスライドを用意して応じる発表もあり、プレゼンテーションは白熱した。発表者も聴衆の児童も双方ともに楽しむことができた点がこれまでのプレゼンテーション大会との違いである。
写真 キャラクターデザインの魅力をプレゼンテーションする児童
資料2 プレゼンテーション実施前の事前投票の結果
今回のプレゼンテーション大会は、準備期間が不十分ではあったが、これまで学習してきたプレゼンテーションのスキルを生かして、児童たちが主体となってプレゼンテーションを構成する姿が見られた。他のプレゼンテーション大会では、発表者の緊張感がとても強い状況も多く見られるが、今回のプレゼンテーション大会は終始和やかな雰囲気で進行することができた。聴衆を楽しませることを考慮したプレゼンテーションを定期的に実施していきたい。 - ◯ ICT機器を使いこなす児童たち
本校では、校内プレゼンテーション大会だけではなく、始業式や終業式、児童集会の際にもタブレット端末を用いた児童発表の場が設けられている。その際には、タブレット端末だけでなくプロジェクターやマイク、各種ケーブルも使用されている。児童たちは、集会等でICT機器を使用することが当然という意識も芽生えており、機材の準備を進んで行う事ができている。
また、ICT機器を使用すると、プロジェクターから映像が投影されない、マイクの音声が出力されないという機材のトラブルに見舞われることがある。そんな状況が発生した場合、児童が自分たちでトラブルの対処を行えるようになってきた。プロジェクターに映像が投影されていないときは、タブレット端末本体やプロジェクター本体、さらにはケーブルの接続のチェックをしたり、入力の切り替えを確認したりと、多様な方法を行っている。また、マイクトラブルが発生した場合には、代替用のマイクを用意して、発表者にすぐに差し出す姿も見られた。
2月中旬頃、超短焦点型プロジェクターをレンタルすることができた。そのプロジェクターを使用する際に、画面の点灯の速度やスクリーンとの距離を見た児童が、「このプロジェクターはすごいですね。」と感動し、他の児童にその良さを伝えるということもあった。
このように、ICT機器に囲まれた環境の中で機器を使いこなそうとする意欲が高まり、また実際に活用する力が育成されている様子が見られた。ICT機器の活用を苦手とする教員に対しても、児童が使用方法を伝授する姿も見られるようになった。
本期間の成果
- 1 マスター・オブ・プレゼンテーション(MP)の活用
マスター・オブ・プレゼンテーション(MP)評価基準を、各学級で活用を進め、児童にもかなり浸透してきた。児童がプレゼンテーションを製作するとき、この評価基準を常に意識する児童の姿がよく見られるようになった。 - 2 プレゼンテーション大会の活発化
この期間に、プレゼンテーション大会を2回実施し、計22名のマスターを認定することができた。また、審査員には、教師だけでなく、過去のプレゼンテーション優秀者を登用することも行い、児童同士が評価し合うことで、プレゼンテーションを子どもの目線で見つめ直すいい機会となった。
特に、東京オリンピックマスコットキャラクター選出プレゼンテーション大会においては、ア、イ、ウのそれぞれの担当者が、じぶんが担当したキャラクターのアピールを工夫を凝らして行うことにより、とても盛り上がるイベントとなった。 - 3 研究成果の普及・啓蒙
本校児童が出場した「全国プレゼンテーションコンクールin羽生」(1月23日)の様子が1月26日の東京新聞Webで、東京オリンピックのキャラクターについてのプレゼンテーション大会(1月29日)の様子が2月7日の茨城新聞で、それぞれ写真も併せて詳しく掲載され、本校の取組を広く知ってもらうことができた。
また、これからタブレットを活用した教育活動に取り組もうとしている市町村の関係者への本校研究内容の紹介は、モデル事業としての成果の一端として重要なことである。
2年間の成果
- 1 児童の変容
この2年間、定期的に行ってきた「伝える・伝わるアンケート」において、「発表について」、「資料作成について」、「聞くことについて」の3つの項目で、研究を始めた昨年度9月の結果と比べて、向上した項目が多く見られた。その一例として、「自分の意見や考えを発表するときに、伝える相手をきちんと見て言えますか。」の結果が、3.1から3.3(4点満点)、「発表するときに、伝える相手を考えて内容を考えますか。」の結果が2.9から3.4に、「友達の発表の仕方や内容について、自分なりの意見や感想をもてますか。」の結果が3.1から3.4に向上した。児童が、自信をもって発表できるようになったこと、相手意識をもって発表するようになったこと、自分なりの意見をもって発表を聞くようになったことが示された。(詳細は別途公表)
以下はこの研究の目標に関連した児童の変容である。- (1) 児童の「伝える力」が身に付いた
まず、人前で話すことが苦手だった本校の児童は、大勢の前でも、知らない人の前でも話すことが苦にならなくなった。このことは全校児童を前にしたプレゼンテーションや、教室に入りきれないほどの参観者のいる研究授業での発表、数百人が集まるフォーラムでのプレゼンテーションなどでの本校児童の堂々とした姿から明らかである。このことは、自分の考えを発信する楽しさを感じていることとプレゼンテーションに関する自信の表れであると理解している。
プレゼンテーショーンの内容も明らかに進化し聞く側にとってわかりやすくなっている。使用する資料はどれをどういう順番で使ったらいいかという判断力も備わってきた。また、相手意識も身に付いてきており、高学年の児童が全校児童の前で話す際には、低学年の児童でも理解できるようなイラストなどを工夫して使っている様子も日常的に見られるようになってきた。
また、実際のプレゼンテーションの場面では、話し方、目線、態度などで上達が見られた。上級者になるとジェスチャーを交えて話したり、聞く側の様子や反応を確認しながら話したりしているところも見られた。 - (2) 思考力が身に付いた
プレゼンテーションを準備する段階で、いかにわかりやすい資料を作るかという点において児童は思考力を身に付けてきた。このことについては、シンキングツールを活用したことで、自分の考えを視覚化することができ、考えを整理することができた。そして、児童は話をどのように組み立てていくかが次第に見えるようになり、プレゼンテーションの組立がスムーズにできるようになった。このことは、プレゼンテーションの論旨がはっきりしてきたことから見取ることができる。
本校が活用した中で、プレゼンテーションのために有効だった一例は、始めに「コンセプトマップ」で自分の考えを引き出し、次に「フィッシュボーン」で具体的にどんなことを話すかを整理し、最終的に「ステップチャート」で話しの流れを考えるという流れである。また、低学年の児童には、好きなことを数個紹介する内容が多いこともあり、「クラゲチャート」が有効だった。
- (1) 児童の「伝える力」が身に付いた
- 2 プレゼンテーションの評価基準の作成
良いプレゼンテーションとはどのようなものか、それを評価するための観点を低・中・高学年に分けて整理した表を作成した。作成に当たっては、教師だけではなく児童の意見を取り入れることで、児童の相互評価にも使用できるものとなった。この表は、教師にとっては指導の際のポイントとして利用でき、児童にとって自分のプレゼンを考える際の資料となった。また、それらはマスター・オブ・プレゼンテーションを認定する基準ともなった。マスター・オブ・プレゼンテーションとは、前述の評価表の観点を一定基準以上クリアした児童に対する称号で、これまでに全校児童98名のうち42名(43%)が認定されている。 - 3 プレゼンテーション型授業のモデルとして
本研究では、プレゼンテーション力を「自分の考えをわかりやすく聞き手に伝える力」として位置付けているため、授業中の単なる発表もプレゼンテーションとして扱ってきた。このため、本校の取組はプレゼン型授業を構想する際に幅広く参考になるものと思う。
2年間の研究期間の中で4回の公開研究会を行い、321名の参加者に研究内容を周知することができた。また、視察の受け入れ等で14団体(105名)に対して本校の取組を広めることができた。
さらに、メディア教育学会での研究主任の発表や、プレゼンテーションの全国大会への児童の参加、各種メディアへの掲載などにより、本校の取組が多くの教育関係者に知られることとなった。 - 4 職員のスキルアップ
今回の研究を通して、本校の職員はICTのスキルが格段にアップし、自分自身の教育用のツールとしてはもちろん、授業の必需品といえるまで子どもたちの学習用具として使用することに抵抗がなくなった。またその過程において、研修などを通して若手の職員とベテラン職員が交流して得られたものも多い。
さらに、研究会の企画・運営という通常の業務にはない仕事を行う中で、普段使われていない才能を見せたり、能力を向上させたりする様子が見られ、それぞれが一回り成長したと感じられた。
今後の課題
- プレゼンテーションの指導は引き続き続けていくが、次年度からはその一歩先として、聞く側の聞く力、応答する力を高める取組をしていきたい。また、プレゼンを受けて話し合う協同的な学習にも力をいれていきたい。
- プレゼンテーションのスキルを高めた職員・児童は毎年異動や進学で本校を去ってしまう。それぞれの行き先で活躍してくれることはモデル事業の拡散という意味で重要である。また、本校としては、2年間の研究内容を利用できるアーカイブとして保存することが重要であり、その活用が望まれる。
2年間を振り返って
- 「上大野小学校?ああICTやってるとこね」や「上大野小学校?プレゼンがうまい子たちがいる学校だよね」ということを何度か耳にしたことがある。わずか2年間の研究であるが、「プレゼンテーション」が本校の代名詞であったり、特色であったりすることが、定着しつつある。取り立てて特徴のなかった本校にとって、何かで知ってもらえるのは、実利は無くとも良いことではないかと思う。それだけ本校の研究が拡散したという証でもある。しかし何よりも良かったのは、引っ込み思案で答えがわかっていながら発表できないような子どもたちが、自分に自信を持って発表ができるようになってきたことである。子どもたちの間に「プレゼンだったら、ちょっと他の学校の子たちには負けないよ」という意識が芽生えているのなら、それはうれしいことである。また、研究を通して職員間の結束や連帯感が高まり、それぞれがICTを活用した教育の担い手として成長してくれたことは、うれしい副産物である。
- 武蔵大学 社会学部メディア社会学科 教授 中橋 雄 先生
本校の研究テーマは「ICTを活用したプレゼンテーション能力の育成」であり、その教育方法を検討することであった。LTEでインターネット接続できるタブレットを学習者が1人1台もつ環境、そして、タブレットの画面を無線で大型提示装置に転送提示できる環境にあることが、本校の特色のひとつであった。
2017年度現在、このような学習環境が整っている学校は少ないが、今後もICT環境の整備が進められることを考えるならば、本校の取り組みは、そのモデルケースとなりうるものだといえる。また、次期学習指導要領では、教師に「主体的・対話的で深い学びを実現させる授業改善」が求められている。相手に考えを伝える能力を育むことは、対話的に学びを成立させるために不可欠であるといえる。そのための教育のあり方を考えるために必要な知見を得ようとする点において、本校の研究には意義があると考えられる。
研究が始められた当初、アドバイザーとして実践者に問いかけたことは、「プレゼンテーションとは何か?」ということであった。見栄えのよい資料を提示し、よどみなく話せることが、プレゼンテーション能力が高いということにはならない。プレゼンテーションは何らかの目的を達成するために行うものであり、その目的を達成するために効果的な内容や表現方法を考える必要がある。そこで、プレゼンテーション指導で達成する学習目標には、「目的を達成できたか」という評価項目を組み込むよう、アドバイザーとして要望した。
一般にプレゼンテーションで大切なのは、「わかりやすく説明すること」、そのために、「大きな声で話すこと」「身振り手振りを交えて訴えること」「アイコンタクトをとること」「視認性の高い資料づくりをすること」などが挙げられるが、目的のないところでスキルだけ身につけても、実際の課題解決場面で活かされる力にならないのではないだろうか。プレゼンテーションの学習評価は、目的が達成できたか、目的を達成させるための工夫ができたかを確認することが重要だと考える。
プレゼンテーションを評価するために、学習到達目標として本校が開発した「マスター・オブ・プレゼンテーション」の項目は、こうした要望に応えてくれるものであった。この学習到達目標は、「わかりやすく伝えるための組立」「伝えるために必要な資料」「相手に伝わる話し方」「伝えたいことが伝わったか」という4カテゴリー9項目の観点から構成されている。これらの観点が、低学年・中学年・高学年ごとに整理されている。こうした観点を明確にしたことで、本稿では、実践的なプレゼンテーション能力を身につける授業実践を実現できたと考えられる。
2年間の特別研究指定を通じて、今後、発展的に取り組むべき課題も明らかとなった。それは、聴衆として傾聴し、プレゼンテーションの主張を踏まえたコメントができる能力を育むことである。「傾聴して解釈し、自分なりの考えを生み出すこと」「文章、グラフや表、映像などを見て解釈すること」「送り手の立場や意図を理解して判断すること」など、プレゼンテーションを受ける聴衆としての能力を高めるために、どのような指導が求められるのか。今後、プレゼンテーション指導と対になるものとして、本校で研究が進められることを期待している。