大阪教育大学附属平野小学校
第42回特別研究指定校研究課題
~BYOD社会に対応するスマートディバイスの効果的な教育的利用~
2017年度1-3月期(最新活動報告)
- プログラミングや反転的な学習、研究会の参会者のBYOD利用など、多様なICT機器の活用を提案することができた。
大阪教育大学附属平野小学校の研究課題に関する内容
都道府県 学校名 | 大阪府 大阪教育大学附属平野小学校 |
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アドバイザー | 豊田充崇 和歌山大学教授 |
研究テーマ | 子どもが主役になる次世代の学び ~BYOD(Bring Your Own Device)社会に対応するスマートディバイスの効果的な教育的利用~ |
目的 |
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現状と課題 |
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学校情報化の現状 | iPadが140台ほど導入され3年生以上の各クラスにiPadが10台ある。教員は,iPad-miniを持ち,メッセージ機能で情報共有している。 |
取り組み内容 |
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成果目標 |
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助成金の使途 |
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研究代表者 | 松浦 智史 |
研究指定期間 | 平成28年度~29年度 |
学校HP | http://www.hirano-e.oku.ed.jp/ |
公開研究会の予定 |
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研究課題と成果目標
研究課題 | 子どもが主役になる次世代の学び ~BYOD(Bring Your Own Device)社会に対応するスマートディバイスの効果的な教育的利用~ |
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成果目標 |
1.校内研修・研究発表・先行研究
2.主体性・協働性・創造性を育む場面を示した実践事例集の作成
3.研究実践の共有化と活性化を図るために、学期に1回実践例報告会の開催
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本期間の取り組み内容/アドバイザーの助言と助言への対応
[本期間(4~7月)の取り組み内容] |
【4月】
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アドバイザーの助言と助言への対応 |
4月の事前訪問指導の際にご指導いただいたこと。 |
裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)
個人ディバイスを使った実践を行うにあたって、ある保護者にご協力いただき、家庭でも使えるかどうか試してもらった。本校では、基本ディバイスがiOSであるが、あえてAndroid端末を使って実験を行った。子どもに今日の授業や明日の予定を、アプリを使って転送した。しばらくしてから、子どもから「無事見れたよ。」ということを同じアプリを使って転送されてきた。
この実験をもとにすれば、家庭に子どもの学習の様子を手に取るように伝えることができる。また反転学習で学校の端末を持って帰るというような場面もあったが、それも不必要になり、家庭のスマートフォンなどで手軽にできるようになることが分かってきた。
児童にとって、iPod Touchは、iPhoneに見えるようで、iPadよりも人気がある。手軽感と軽さが好評のようである。文字をタイピングする場合は、iPod TouchもiPad大きな差は無いようである。しかし手書きになるとiPod Touchは小さくて書きにくいようで、「iPadの方が書きやすいかなぁ。」と感想を漏らしていた。
子どもは、iPadなどの機器操作にすぐに慣れてくる。その良い一例を紹介する。ある授業で、教員のiPad画面をApple TVを経てプロジェクターに映すと、(下左図1)のような画面になった。教員がキーボードを打とうとすると、「あ~、キーボードの位置が重なって文字が見えないから、打ちにくいなぁ。」と言うと、ある子が「先生、それ直せるで! 私も困ってんけど、直したで!」と得意気に話をしてきた。その後、プロジェクターに映っている状況下で、見事教員のキーボードの位置を変えたのである。(下右図2)クラスの子どもたちから、「お~、すご~い。」と大絶賛と拍手喝采。子どものたちのICT機器への対応能力の高さに驚いた。
(図1)
(図2)
成果
比較的早い時期にiPod Touch6を50台導入することができたため、1学期の中頃から授業の実践を行うことができた。iPod Touchの貸出用スケジュール表を掲示することで、他学年や専科の授業で積極的に活用できるようになった。
今後の課題
BYODとして実践を行う上で、まだまだ解決していかなければならない課題が山積している。
- ①校内のWi-Fi環境の整備および増設
各普通教室および特別教室にWi-Fi環境とAPが設置されているが、1人1台を想定されたものでないため、クラス全員が端末を利用してAPにアクセスすると、動作性が落ちてしまったり、停止してしまったりする。
⇒ポータブルAPを増設して対応したい。
- ②BYODを見越して、フリーWi-Fi環境にしたい。
様々な私的ディバイスが持ち込まれた場合、フリーWi-Fiで対応したいと考える。校内Wi-Fiと切り離すことで、校内セキュリティを考慮していきたいと考えている。
⇒大学との関係があるため、難しい。
- ③各学年の情報モラルやスキルのカリキュラムの改定
本校にある情報モラルやスキルのカリキュラムを修正していきたい。1人1台のディバイスを使うようになった場合のスキルやモラルは、大幅に変わってくるだろうと考えている。
⇒情報推進委員会で検討していきたい。
- ④私的ディバイスを持ち込むことによるガイドラインの作成
様々なディバイスを持ち込むことによる、校内利用のガイドライン設定と保護者への周知が必要になってくる。
⇒Wi-Fi環境下でないと繋がらないディバイス、どこでも繋がるディバイスなど、場合分けをしながら設定していきたい。
- ⑤アプリと個人IDの取得、その費用
アプリの中には、個人IDを購入して利用できるものがある。その費用をどのようにするか検討する必要がある。児童全員に必要なのか、ある学年以上すべてにするのか、など検討が必要。
⇒学校費用とするか、個人費用とするか。
今後の計画
- ①今後は、上記の課題をできるだけ解決できるように進めていきたい。インフラ環境においては、小学校だけでできるものではないため、大学の情報処理センターとの話し合いを行い、解決していきたい。
- ②1学期は、iPod Touchの貸出用スケジュール表を掲示して対応してきた。しかし、この方法では、「早い者勝ち」「記入したクラスだけが使える」ことになってしまう。そこで、2学期以降は、時間割を作成して、優先的に使える時間を設定して授業実践に取り組める環境を整える。1to1導入のステップをドキュメントにまとめる
- ③11月30日(水)、一般に広く公開授業を行う。そのための案内や準備を進めて行く。授業を行う教科の指導助言の先生方や研究協力員の先生方に協力を仰ぐ。
公開授業等の予定
(7月29日(金)1学期の実践報告会14:00~)
1学期に実践したものを報告する。どのように活用したのかを意見交流したいと考えている。
(8月30日(火)Open Cafe 14:00~)
若手教員(概ね新任3年目以内、大学生)向けの授業講習会を行う。ICT活用の授業が3本予定されている。
(11月30日(水)子どもが主役になる次世代の学び14:00~)
国語・社会・理科・体育・未来(新教科)での授業を行う。一般に公開を行い、各授業で討議会を行う。最後に豊田先生の講演会を予定している。
(2月10日(金)・11日(土)授業研究発表会)
全教科で公開授業を行う。
- 和歌山大学 教職大学院 教授 豊田 充崇 先生
文部科学省によって「ICT活用教育アドバイザリーボード」が昨年度に設置され、既にその報告書が公開されていることは記憶に新しいと思います。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/1370125.htm
この報告書内では、地方自治体が抱える教育の情報化に関する7つの課題が示されていますが、その中でも「ビジョンや目的が明確でない」「活用推進の仕組みができていない」などの項目が気がかりです。つまり、「タブレット端末」という流行を追うことが中心で、何のためにそれが必要で、それをどのように広めていくのか、そもそも教育現場からの要請やニーズはどうなのかといったことが不明確のまま導入に踏み切るというケースが多いということなのだと思います。
そんな中、大教大附属平野小学校への訪問となりました。まず、結論的にいうと、タブレット端末活用の素地は既にできており、学習効果の向上に寄与した事例の蓄積を捉えることができました。各教室に大型提示装置(+電子黒板機能、+実物投影機)、無線LAN等の設備は整っており、それに加えて40台を超えるタブレット端末の導入もなされているため、「授業中での1人1台体制」は可能です。また、教師による教材提示場面であっても、児童が学習アプリを活用する場面や児童が情報を集め・まとめ・発信する場面においても、ソツのない実践場面が繰り広げられていました。
よって、単なるタブレット端末活用研究ではなくて、今回の特別研究指定では、既存のICT環境に加えて、スマホサイズのモバイル端末(iPodTouch)を追加導入するといった点が注目される点で、これによって「仮想的なBYODにおける授業研究」を目指すところに新規性があるといえます。仮想的なBYODというのは、自宅に持ち帰る端末やフィールドワークに持ち出す端末も含めて学校が準備して貸し出すという形態です。
ある情報化先進地域のタブレット利用統計を見てみると、「情報検索」(とその結果の印刷やまとめ)、「カメラ機能の活用」「映像の視聴」「学習アプリの活用」といった使い方が上位を占めます。さすがにスマホサイズのモバイル端末(iPodTouch)で文章作成やプレゼンをというのは酷ですが、現状のタブレット利用統計の大部分の使い方にはスマホサイズのモバイル端末でも対応可能なのです(フリック入力のほうがキーボードよりも速いという児童も多数いることは確かです)。むしろ、写真・映像の記録、自宅での映像コンテンツの視聴、学習アプリの活用などは、モバイル性の高さから、このスマホサイズの端末のほうが利便性が高いともいえます。教室机上でのノートや教科書との併用もスペース的に容易で、フィールドワークに持ち出す場合も、首からぶら下げるなど落下破損の心配なども軽減され、むしろ活用の効果が高まる事も考えられます。新たに、「コンパクさ」を生かした使い方の提案が可能になり、これが浸透してくると、「自宅にある契約切れのスマートフォン」を無線LANに接続して再利用するということにもつながる可能性もあり得ます。
そのような話をしつつ、2回目の訪問の際に参観した授業では、早くもモバイル端末のニーズが明確になってきました。この授業は、事前に撮影しておいた何種類かのインタビュービデオを各グループでそれぞれ視聴して考えをまとめるというもので、先生方の授業設計や妥協のない教材開発、学習環境の整備などの意気込みが感じられる授業でした。しかしながら、やはり話し合いや全体共有での時間不足が明らかで、だからこそ、スマホサイズのモバイル端末への期待がかかっていることが証明できた事例であったといえます。自宅にモバイル端末を持ち帰って事前視聴(もしくは学級内で個人の意志の選択による個別視聴)へ移行すれば、そういった課題も解消できることは確かです。
2回の訪問によって、「仮想的なBYODで実現可能な反転授業の研究」は、単に流行を追う研究ではなくて、これまでの取り組みの上で、より高いニーズとして生まれてきた研究課題であることを実感した次第です。新しい形態のBYODとしてオンリーワン的な研究が進捗するのではないかとの期待がかかります。
今後の大教大附属平野小学校の展開の中では、モバイル性の高さを発揮したフィールドワーク型の授業実践をはじめ、「図書室の本を借りて持って帰る」のと同様にライトな感覚を持った「自宅持ち帰り型」の授業実践なども考えられるかと思います。また、タブレット端末とスマホサイズのモバイル端末との用途の使い分け、安価・軽量さゆえの小回りの効く運用方法、自宅で眠る契約切れスマホの再利用の可能性など、研究の副産物も生まれてくることでしょう。 2学期以降の本格実施に向けての期待がかかります。
研究課題と成果目標
研究課題 | 子どもが主役になる次世代の学び -BYOD社会に対応するスマートディバイスの効果的な教育的利用- |
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成果目標 |
①スマートディバイスを活用した教材開発と実践事例の創造
②主体性・協働性・創造性を育む場面を示した実践事例集の作成
③研究実践の共有化と活性化を図るために,学期に1回実践例報告会の開催
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本期間の取り組み内容/アドバイザーの助言と助言への対応
[本期間(8月~12月)の取り組み内容] |
【7月】
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アドバイザーの助言と助言への対応 |
教師がiPod touchに動画を入れて置き,それを子どもが持ち帰ってその動画を見る。見た後,その動画をどう感じたのかをワークシートに記入させて学校に持ってくる。いわゆる反転学習的な活用も進めて良いのではないかというアドバイスをいただいた。iPod touchの手軽さであれば,iPadよりも持ち帰りやすいのではないか。 |
裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)
本校では,毎年,教育実習がある。その際,教育実習生が積極的にICT機器を使う姿がたくさん見受けられた。これは,『2020 年代に向けた教育の情報化に関する懇談会』における「教育の情報化が進んでいる中で,これから教員を目指す学生が,養成段階において, ICTを活用した指導法を実践的に学ぶことは,「教員となる際に必要な最低限の基礎的・基盤的な学修」として不可欠である。
このため,教職課程を置く大学においては,例えば,「各教科の指導法」の学修や教育実習の準備等の際に,ICTを活用した模擬授業等を実施・体験することができる教室を整備する。」ということに対して,大いに貢献していると考えている。実習の先生がiPadを片手にクラス全体の子どもたちの学習状況を確認しながら,机間指導を行っている。
今年度、50台購入したiPod touchの利用状況を10月、11月でチェックした。ほぼ毎日のように貸出が続いて、多くの学級で活用してもらっていたことがわかる。これは嬉しい限りである。(写真は11月)
成果
- ①校内のWi-Fi環境の整備および増設⇒OK
当初 ⇒ ポータブルAPを増設して対応したい。
本学,情報処理センターの佐藤隆士先生・尾崎拓郎先生のご尽力とBUFFALOさんのご協力を得て,同時100台接続が可能なAPを設置できることになった。
- ②BYODを見越して,フリーWi-Fi環境にしたい。⇒OK
同時100台接続が可能なAPを設置することにより,フリーWi-Fiを取りやめた。加えて,校内のセキュリティーも考慮した設定に切り替えた。しかし,様々な私的ディバイスが持ち込まれた場合に関しては,1台1台設定するしか方法がないと思われる。
- ③各学年の情報モラルやスキルのカリキュラムの改定⇒△
当初 ⇒ 情報推進委員会で検討していきたい。
2学期のスタートに時に,情報モラルやスキルのカリキュラムを提示し,各学年・クラスで実施してもらうことになった。年度末にクラスごとに実施した項目にチェックをしてもらい,次年度に申し送り事項として伝えることになった。
- ④私的ディバイスを持ち込むことによるガイドラインの作成⇒△
当初⇒Wi-Fi環境下でないと繋がらないディバイス,どこでも繋がるディバイスなど,場合分けをしながら設定していきたい。
概ねのガイドラインは作成した。しかし,私的ディバイスの持ち込みに関しては,Wi-Fi環境下で使えるディバイスを中心に校内で進めて行こうと考えている。そのための最終調整をしていきたい。
- ⑤アプリと個人IDの取得,その費用⇒OK
当初 ⇒ 学校費用とするか,個人費用とするか,
今年は,年間の支払いではなく,月ごとの支払いにして費用を抑え,学校費用として個人IDを購入した。次年度は,今後の活用状況を踏まえて,個人費用とするか,学校費用とするか再検討する。
今後の課題
- ①情報機器端末利用のガイドラインが概ねできているが,まだ修正を加えなければならない。その修正を加えつつ,今年度末までに完成させてたい。
- ②iPod touchなどの機器を持ち帰っての学習の実践を計画したい。
今後の計画
- 2月10日,11日に授業研究発表会を実施する。
- http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~hirasho/H28annnai.pdf
- 和歌山大学 教職大学院 教授 豊田 充崇 先生
教員向けの夏期講習会に参加させていただきましたが、ここでは実践発表という時間を設定して、教員の皆様が1学期に取り組んだ授業を自主的に発表しました。自分の実践を知って欲しい、そしてそれを評価してもらうことで、今後の方向性を定めていきたいといった思いが感じられました。また、自信を持って、こういう使い方が効果的だったから、ぜひ取り組んで欲しいという「成果の共有」という意図もあったといえます。
さて、今回の研究課題には「子どもが主役になる次世代の学び」であり、「BYOD社会に対応するスマートディバイスの効果的な教育利用」というサブタイトルがついています。当分野ではBYODという言葉がささやかれて久しいのですが、実はこれまでのパナソニック教育財団の研究助成関係でこのキーワードを用いたのははじめてのことです。その分、期待がかかるとともに、フロンティアであることの困難さも予想されます。
こういった状況の元、11月30日開催された「ICT教育研究発表会」では、3年の社会科・国語科,4年の「未来そうぞう科」と体育,5年生の理科の5つの授業が公開されました。ざっと、ICT活用場面を取り上げると、「①投影機器としてのICT活用」「②オンデマンドでの動画閲覧のため」「③情報のまとめ(デジタルノート)」「④映像確認・記録ツールとして」「⑤観察記録の手段として」など、様々なバリエーションがありました。いずれもICTを各教科の目標達成のための効果的なツールとして活用しており、児童らが主体的にICTを使いこなし、児童らの調べる・まとめるツール、個別の確認・記録ツールとしても定着していたといえます。これは、研究タイトルにもあった「子どもが主役」という視点が意識されていたと思います。
しかしながら、当研究はそこから先を行くBYOD体制での成果が見込まれています。今回の研究会における公開授業では、②の動画閲覧、⑤映像の記録・観察ツールについては、スマホサイズのタブレットで対応可能な場面であったといえます。通常の授業でもスマホサイズのモバイル端末の利便性は教員に認識されはじめているとお聞きしましたので、モバイル性を発揮して、自宅学習において児童ひとりで学習可能な場面をどこに設定するかなどの検討が今後本格的に必要になってくるかとおもいます。
本件の研究的な要素として「ツールの使い分けによる有効活用場面の見極め」というポイントが非常に重要な点であることに改めて気付かされました。デジタルノート系はやはり実際のノートサイズよりも大きなタブレット(つまり10インチ以上のサイズ)でなければ、視認性や操作性が悪く、学習ツールとしての利便性が損なわれるため、スマホサイズのタブレットでのノート的な活用は向いていないのは当然です。また、今回の研究会でも、児童らがiPadの画面を3〜4人で見つめながら学習している場面が多々ありましたが、スマホサイズの画面を複数人が囲んで見つめるということは現実的ではありません。ですが、一方では、小型軽量であるからこそ有効的な場面も多数存在することは確かです。その点でも、通常のタブレットとの組み合わせやデータ共有がスムーズにおこなわれる場面の検証にも期待がかかります。
最後に、児童らのタブレットの手慣れた操作を見ていると、驚愕することが多々あります。ツールの使い方は最初にきっかけさえ与えれば自然に学び、教え合うということ確かでしょう。しかしながら、そこでの情報モラルや発展的可能性(創造性、思考の深化等)はやはり指導者側のストラテジーが必要になるかと思いますし、個人でスマートフォンを所有しはじめる中・高校以前に、ネットワークコミュニケーション上での情報モラルの必要性やモバイル端末での学び方を学ぶという点は、次世代の子供たちにとっては必須事項ともいえます。
大教大附属平野小学校は、「未来そうぞう科」という新しい科目の研究開発をおこなっている学校です。まだ研究開始から半年足らずですが、未来をそうぞう(想像・創造)するためにも、従来の枠にとらわれず、新しいツールと新しい授業体制(反転授業、モバイル端末持ち帰り型学習等)とのマッチングを目指しての研究に期待が持てるかとおもいます。
研究課題と成果目標
研究課題 | 子どもが主役になる次世代の学び -BYOD社会に対応するスマートディバイスの効果的な教育的利用- |
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成果目標 |
①スマートディバイスを活用した教材開発と実践事例の創造
②主体性・協働性・創造性を育む場面を示した実践事例集の作成
③研究実践の共有化と活性化を図るために,学期に1回実践例報告会の開催
|
本期間の取り組み内容/アドバイザーの助言と助言への対応
[本期間(1月~3月)の取り組み内容] |
【2月】
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アドバイザーの助言と助言への対応 |
アラン・ケイ氏(カリフォルニア大学ロサンゼルス校准教授)の話を頂いた。45年近く前に未来の子どもたちが使うだろうと予測したものだそうである。 |
裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)
学期末、クラスの子どもたちが、自分たちの力だけで短い動画やフォトムービー、Keynoteを作って教師に感謝の気持ちを伝えてくれるプレゼントをしてくれた。この1年間で、活用したソフトを使って、子どもたち自身が自由自在にディバイスを使えるようになったことは、とてもうれしいことである。
また、今までに子どもたちが作った動画やフォトムービー、Keynoteなどのデジタルデータを、ロイロノートを使って保護者にダウンロードしてもらうことで、子どもの学びを見てもらえてよかったと思っている。
成果
-
①BYODを見越して,Wi-Fi環境の整備⇒OK
校内にあるiPadやiPod touchのWi-Fiアクセスはストレスなく接続できるようになった。また、研究発表会でのゲスト用Wi-Fiを整備することができた。
- ②未来そうぞう科とICT活用
本年度は、未来そうぞう科とICT活用の両輪で研究を進めてきた。2月の研究発表会でその成果を公開することができた。未来そうぞう科における主体的実践力・協働的実践力・創造的実践力の育成にICT活用も大いに寄与することが共有できた。
- ③実践事例の編集
1・2学期と同様に、3学期も各学年・教科・領域で実践事例を集めた。
今後の課題
- ●私的ディバイスを持ち込んだ場合のWi-Fiアクセスに関して
児童用と教員用のユーザーの割り振りが必要である。現在は、同じWi-Fiを利用しているため、セキュリティー面に不安がある。これを改善しておきたい。
- ●実践事例の編集を行い、1学期から3学期をまとめて一冊の本にまとめていきたい。
今後の計画
- ●子どもの私的ディバイスを持ち込むとき課題を再度整理して、実施可能な形にしていきたい。
- ●1年間の成果を、次年度の第43回全日本教育工学研究協議会全国大会(和歌山大会)で発表していきたいと考えている。
1年間を振り返って、成果・感想・次年度への思い
年度当初は、3年生以上の各クラスに10台ほどのiPadしかなかった。しかもiPadの第2世代からAirまで混在している中、どのようにしたらICT活用が進むのか。またWi-Fiの環境の面でもアクセスポントが20台までしか接続できず、1人1台の環境にほど遠く、難しい課題がいくつかあった。
しかし、このような中でも比較的安価なiPod touchを50台導入して、仮想1人1台の環境にして実践を行ってきた。初めは、Wi-Fi環境が整っていなかったが、そのiPod touchに備わっている音声や映像などを使った実践を行い、しだいにアプリを使った実践に繋がっていった。共通するアプリを使うことで、iPadやiPod touchが混在した中でも実践することができるようになった。そして2学期になり情報処理センターの佐藤先生・尾崎先生のご協力とBUFFALOさんのご協力を得て、各クラスのアクセスポイントを交換して100台接続が可能になった。以下に本校のICT環境のイメージ図を掲載しておく。
また、クラウド対応のアプリを使うことで、各家庭にあるスマートディバイス(スマートフォン・タブレット端末)を利用することが可能になった。2月の授業研究発表会では、一部のクラスで家庭にあるスマートディバイスを使って書き込みを行ったり、学校で書き込んだものを家庭で利用したりするような使い方がなされていた。
これらのことは、1年前には考えられなかったことであり、想定すらできなかったことである。この1年間の大きな成果であると言ってよいと考える。本校の教員の様々な実践と各方面の先生方、企業の方のご協力を得て、この1年を進めることができた。この1年に大きくICT化が進み、未来そうぞう科の研究にも大いに貢献できた。
- 和歌山大学 教職大学院 教授 豊田 充崇 先生
改めて研究テーマを再考
本年度最後の報告となりますので、改めて大教大附属平野小学校の研究の特色を振り返ります。まず、1つ目はiPod touchつまりスマホタイプのモバイル端末を導入し、自宅への持ち帰りや取材ツールとしての校舎外への持ち出しを想定しているところにあります。一見特殊なアプローチだと捉えがちですが、この研究成果や活用事例は、家庭内で眠っている可能性の高い契約の切れた旧タイプのスマートフォンの再利用や数千円で購入できるような安価なミニタブレットの有効性が立証されることにもつながるため、むしろ汎用性のある取り組みとも考えられます。
スマホタイプのモバイル端末は、首から掛けて使える・ポケットへ入れて持ち運べるという利便性が非常に高く、簡単なスマホ用の三脚や固定具も多く発売されているため、実験や観察での記録用途にも向いています。また、「音声を聞く」という場合は、デバイスは小さいほうが使い勝手がいいし、詩の朗読や英文スピーチを録音してくる、英語のネイティブボイスを再生して練習してくるといった場面でも有効です。「デバイスの使い分け」を検証できるという点でも特色があるといえますが、もちろん最も理想的な状況は、『児童自身が目的に応じてデバイスの選定を判断できるようになり、データの蓄積・共有を自らおこなえるようになる』ことです。身近に溢れるデバイスを学習の目的に応じて主体的に活用できるようになるのが最終的なアプローチなるかとおもいます。
BYOD(Bring your own device)体制というと、やはり「反転授業の実施」というイメージが強く、説明の映像を事前に自宅で視聴してきて、授業中は議論したり、応用問題にチャレンジするといったタイプがスタンダードだと思われますが、もっと多様なパターンを見出したいと思います。例えば、“時間のかかる作業”を「宿題(自宅学習)」として、ひとりで集中して取り組むという場面設定も現実味を帯びてきました。フリックや音声認識による文字入力によって基本的な文章を各自自宅で入力しておいて、学校のタブレットやパソコンで集約して、文書レイアウトしたりプレゼンテーションスライドにグループで検討しながら作り上げていくということも考えられます。時間のかかる、いわゆる「調べ活動」の部分を自宅でおこない、その検索結果のデータを校内に持ち寄って、情報の再編集・構成等をおこなうということも考えられますが、大教大附属平野小学校では、そのようなタイプの授業を既に試行しつつあります。
「宿題」の概念を変える
モバイル端末とクラウドサービスの活用を考える授業を考える際には、やはり、自宅学習と学級での活動を切り分けて、相互に補完し合うような授業設計が理想といえます。「個人思考」は自宅でもできますし、ひとりでの調べもの、文章入力等時間のかかる作業を自宅学習へシフトし、授業中は協働的な場面を多く設定するといった、自宅へ持ち帰れるモバイル端末があるからこそ可能になる新たな授業の立案が、課せられた課題の1つであるといえます。
例えば、プログラミングのような、操作時間を要するものを家庭学習との連携でどのように充実させるかなどは大きなポイントとなってくるはずです。Scratchなどは自宅にあるPCでもブラウザからアクセスできます。スマホサイズの画面でも、短いプログラミングなら充分可能であり、その画面サイズに適用して開発されたアプリも多数存在しています。
さて、期待される大教大附属平野小学校のオリジナリティある研究が現実のものとして、更にこの3学期から動き出すことになりました。クラウドタイプの共有ノートアプリのアカウントを、全校児童が契約することとなったのです。現に、参観日では保護者のスマートフォンから児童の作品にアクセスするといった取り組みが実現しています。
例えば、子どもらが授業中に映像コンテンツをつくるとします。これは、それほど複雑なものではなくて、算数の問題の解き方、理科の実験のまとめ、社会科での調べ学習の成果等々決められた時間で収まるような映像クリップに近いものといえます。これを共有ノート化しておくことで、自宅のPCやスマホなどでも視聴可能になります。そして、保護者からコメントを貰うといった取り組みです。
つまり、“オンライン参観日”の実現に近いと思います。クラウドに保存したコンテンツを自宅からアクセスすることで、このような状況を作り出すことが可能になり、既に実用段階にあります。これまで「ドリル学習(既存問題の解答)・本読み・書写」が中心であった「宿題」を高度に展開できる可能性が浮上してきたといえます。つまり、「宿題」という言葉から、「自宅“学修”」という用語に置き換え、一人でじっくりと取り組める「想像や創造の時間」という意味合いに変えていける可能性を見出せることとなりました。
最後に
「次世代」の授業は、モバイル端末とクラウドサービスによって、家庭学習の高度化を念頭に置くという点に期待が持てました。家庭学習を、「一人で問題を解く時間」と捉えず、授業で学んだ技能を発揮する場、対面授業充実への準備時間、保護者や地域との連携を図る機会、多様な外部評価を得る場など、「授業を補完する機会」と捉え直さなければなりません。従来の「反転授業」という言葉からは、「講義・説明時間を短縮するための、事前に映像視聴をしてくる」という趣旨が語られ、どちらかというと効率性が問われた印象を受けましたが、その定義を発展的に捉え、じっくりと自宅で落ち着いて想像力を働かせて、創造性を発揮する機会を保証すると捉え直すことで、次世代の授業として大きな変革の一歩を踏み出したといえます。
研究課題と成果目標
研究課題 | 子どもが主役になる次世代の学び -BYOD社会に対応するスマートディバイスの効果的な教育的利用- |
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成果目標 |
①スマートディバイスを活用した教材開発と実践事例の創造学校にある端末を持って帰るだけでなく、私的なディバイスを活用した反転学習を実施し、その成果を実践報告する。クラウド対応のソフトを利用することで、学校の端末を持ち帰らなくても、家庭で使っている私的端末(学校には持ってこれない端末も含めて)を使って、実践が可能になる。 ②ガイドラインの作成校内のディバイスや私的なディバイスを使うためのガイドラインを作成する。職員やPTAの方とも連携を図りながら共通理解する。→情報モラルの育成につながる ③実践事例集と報告会それぞれの教科・領域で実践をしてきた授業に関して、報告会を行い、実践事例集を作成する。本年度は製本にしていきたい。 |
本期間の取り組み内容/アドバイザーの助言と助言への対応
[本期間(4月~7月)の取り組み内容] |
(3年生 国語科)「俳句をつくろう」国語で俳句をつくる学習をしました。一人1台のiPadを持ち、俳句の内容と合うような写真を探して撮影してきます。最後に、撮影した写真と俳句の文字を重ねて、全員の前で発表しました。 (6年生 外国語活動)「世界のPR動画を作ろう」6年生では、Green Screenを使って、世界のPR動画を作りました。ただ行ってみたい国をみんなの前で紹介するだけではなく、実際にその国にいるような合成映像をBIG PADに映しながら作ることで、そのリアルな体験から、子ども達の英語の表現の幅が大きく広がりました。 (4年生算数科)「身の回りの垂直・平行をさがそう」算数で身の回りの垂直・平行をさがす学習をしました。4人グループで1台のiPadを持ち、学校中をさがしまわります。「これは垂直だね。」「こう見たら、平行だといえるよ。」など、4人で相談しながら写真におさめ、その画像に直線をかき加えていきます。さらに、それぞれのグループがロイロノートで提出し、みんなで共有し、垂直・平行の見方・考え方を育みます。 (6年生書写) 書写の授業で「筆順」をテーマに、導入時に活用しました。 (5年生社会科)「沖縄ってどんなところ」現地(沖縄)の人たちとの対話を通して、沖縄の気候・くらし・農業(食べ物)・観光業・歴史・文化について理解を深めるために行いました。対話を通して、過去・現在の諸地域の様子について考える力を付けさせたいと考えました。Wi-Fi環境が充実しているならば、FaceTimeなどのTV電話の機能を使って、離れた地域にいる人たちとリアルタイムに「対話」をすることができます。これにより、子どもたち自身と離れた地域の社会的事象について、より深く理解することが可能となります。また、「その土地に行ってみたい」といったように、興味関心が高められる子どもが多く見られました。 (4年生道徳)「声なきメッセージ(NHK 時々迷々)」番組を視聴した後、登場人物のだれが一番気になるのかを投票してもらいます。投票の際には、ロイロノートで送り全体で共有します。その理由をみんなで考えました。その後、考えたことを再びロイロノートに書いて全体共有します。今回は、参観日だったので、保護者のディバイス(スマートフォン)も一部利用させてもらって行いました。 |
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アドバイザーの助言と助言への対応 |
夏季研修として、ICT活用の実践事例集を基にした発表会を行った。その後、豊田先生から他校のICT活用の実践事例や本校のBYODに近い反転学習とその展望に関してご講演いただいた。反転学習としての問題点から、今後の方向性として先進的な松坂市の取り組みを教えていただいた。しかしながら、まだまだ決定的な反転学習やBYODになっていないということだった。 |
裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)
昨年度に購入したiPod touchが職員室からひっきりなしに貸出されていた。クラスにiPadが10台あるが、その数では足らないので、iPod touchを使ったり、隣のクラスからiPadの貸し借りをしていたりした。ICT活用の広がりを感じる一方で、それぞれのクラスで苦労されていることが良く解った。4年前に購入したiPadが古く、なかなか使い勝手が悪くなってきた。動きが悪かったり、アップデートに時間がかかったりして、苦労するようになってきた。
成果
ロイロノートを使うにあたり、3年生以上に1人1アカウントずつ割り振りし、IDとパスワードを個々に配付した。忘れてしまう子どもがいるため、IDとパスワードを検索できるシステムをエクセルで作成して、それぞれの先生に利用してもらえるようにした。「年・組・出席番号」を入力するだけで、「名前・ID・パスワード」が検索できる。
今後の課題
ロイロノートは、クラウド対応なので、個人のIDやパスワードを入力することで、家庭でのディバイスで利用することができる。これは、学校の端末を持って帰らなくても、学校と同じ状況を作り出すことが可能である。この利点を活用して、反転学習てきな利用方法を考えてきたい。また、使われなくなったディバイスの学校利用も考えてきたい。Wi-Fi環境の整備も引き続き行っていきたいと考える。
今後の計画
- 7月21日(金)14:00~ Open Cafe(若手教員のための公開授業・講習会)
- 11月29日(水)14:00~ ICT教育研究発表会
- 2月9日(金)・10日(土) 授業研究発表会
- 和歌山大学 教職大学院 教授 豊田 充崇 先生
本期間(8月~12月)の取り組み内容
【9月】教育実習期間
教育実習期間では,教育実習の学生にICTを活用した授業にも取り組んでもらった。これは,教育実習生が教員になったとき,自らICTを活用した授業に取り組めるように実施しているものである。タブレット端末から黒板に大きく映すことを基本に行っている。しかし中には,様々なソフトを活用した授業に取り組む実習生もいた。
【10月】
10月30日(月)
(4年生外国語活動) 「台湾の小学校との交流準備・練習」
11月2日に台湾の小学校と交流学習を行った。そのための準備を行う。第一多目的室と第二多目的室にiPadを用意し,2台をfacetimeでつないで交流の準備を行った。
【11月】
11月2日(木)
(4年生外国語活動)
本校の東口貴彰教諭の台湾出張に伴い,現地の小学校との交流授業を行う。英語を通して,それぞれの国の文化を伝え合う学習を行った。本校の子どもたちは,日本で伝統的な遊びや祭りについて伝えた。FacetimeをWi-Fiでつなぐことで,かなり手軽に外国との交流を行うことができた。また時差も1時間なので,問題なく実施することができた。
11月11日(土) 「近畿ICT教育研究会」
園田女子大学の堀田博史先生を中心にした第4回近畿ICT教育研究会を本校で開催した。50人ほどの参加者があり,ICT機器を使った模擬授業を行った。
算数の授業で,ロイロノートを使って,共有する場面を参加者で模擬体験をしてもらった。
11月29日「ICT教育研究発表会」
(1年生国語科) 「おとうとうねずみ チロ」 (東京書籍1年下)
本教材は,主人公チロが,遠いおばあちゃんに想いを伝えようと,チロなりの方法で一生懸命行動する姿が描かれている。このチロの行動から想像を広げ,同化する児童も多い。また,本教材には文章を読むだけでは捉えにくい,登場人物同士の距離が表れている。この距離を想像できるかどうかが,物語の世界を広げて同化する上で重要となる。場面の様子に着目することによって,より一層チロの必死な想いにせまることができるように,本教材は描かれている。そこで,児童が想像を広げやすいように,効果的にICTを活用して,想像力の支えとした。
(1年生算数科) 「たし算,ひき算のお話作り」
教室から外へ出て,校舎外で算数のお話になりそうな場面を探す活動を行ってきた。見つけた場所をiPod touchで写真を撮り,撮った写真を見せながらお話と式を紹介してきた。本時では,友だちの撮った写真をもとに,お話と式を考える活動に取り組む。
1年生の発達段階を考えると,具体物をもとにしながら思考を進めるのが適切であると考える。ICTの活用は,教室の外にある日常の場面を切り取って,時間・空間にとらわれずに事象を持ち歩くことができる良さがある。そのため,生活と式を結びつける活動を低学年から素地づけるためにとても有効である。
(3年生社会科) 「市の人びとの仕事とわたしたちのくらし」
子どもたちは,お店ではたらく人の努力や工夫を学んできた。この単元の後半では,地域のパン屋をとりあげ,店主の協力を仰ぎながら,パン屋の新商品を開発する時間を設ける。これは,新商品を考えることの工夫や努力を知識だけで得るのではなく,実際に体験をすることで,より店で働く人の思いに迫れると考えた。また商品を考える上で店側と客側の思いを取り入れることで,より商品を考える活動に深みを増すことができる。そこで,店長の助言を動画撮影していつでも繰り返し視聴できるようにしたり,SNSを活用して,さまざまな立場の人の考えを集約したりすることで,商品開発についてより深く学ぶことができると考えた。
(4年生体育科) 「美しい側方倒立回転をしよう」
側方倒立回転の技能を身につけていく過程で,ICT機器を活用しグループで側方倒立回転の技能ポイントを見つける。また,撮影した自分や友だちの動きを見合うことで教え合いが活性化し高め合い,できた瞬間の喜びをグループで共有させていきたいと考える。各グループにiPadやiPod touchなどを配り,友だちの試技を撮って,動きを巻き戻しやスローモーションで再生し,じっくり見る機会をつくる。側方倒立回転の見本となる動画をクラウド対応したロイロノートに入れて,家庭でもクラウドにアクセスすることで見本となる動きを見られる環境を整えた。
(4年生外国語活動) 「This is my HERO!」
6年生で行う”What do you want to be?”の単元につながるように,”Key Word”にスポーツ選手や職業名に関連する語彙を扱う。しかし,4年生の今までの語彙や表現力から,”I want to be a〜.”や3人称を使うのではなく,ICTを活用して自分にとっての憧れの人(以下『Hero/Heroine』)になりきり, アプリケーション”Photo Speak”に読み込んで,自己紹介動画を作成する。そして今までに学習した表現を活用しながら自分ごととして紹介する活動にした。また,BYODの実践として,調べ学習は家庭学習として行うので,外国語活動の時間には言語活動を中心として行う。
(4年生未来そうぞう科) 「ヒアリ問題を考えよう~ヒアリミニフォーラム~」
近年,ヒアリなどの特定外来生物の発見により,各地で人々の生活が脅かされつつある。そこで,この特定外来生物から未来の環境を考える子どもたちを育てたいと考え,新しいカリキュラムを開発してきた。BYODの視点からロイロノートを活用していく。ロイロノートでは,クラウド対応しているため,個人のIDでログインすれば学校で編集した内容を家庭でも再編集することが可能である。そこで,グループで共有しながら,グループプレゼンを作成して発表した。
【その他】
11月14日(火)大阪府立高校校長会 ICT教育の視察
11月24日(金)高石市教育委員会 ICT教育の視察
11月25日(土)全日本教育工学研究協議会 和歌山大会で発表
本期間の成果
11月29日のICT教育研究発表会では、一人1台の環境ではないため、公開される授業が限られたものの、多くの先生方にお越しいただき、授業について議論していただいた。また、職員室に予備として保管しているiPadやiPod Touchの利用頻度がかなり高くなってきている。毎月の貸出表には、ほぼ毎日、どこかのクラスに貸出されている状況になってきた。急に端末を使いたいという場合もなかなか使えないような状況である。それだけ、端末利用が日常化されてきたと言える。一方で、充電に関する故障が多く、修理の台数も増えてきている。(落下による故障・修理は、数台である。)
また、これらの成果は、日本教育新聞(2017.11.18)の記事に掲載された。
今後の課題
BYOD的な利用を進めていきたい。持ち帰りなども含めて、クラウド対応による家庭での利用を進めていきたい。低学年では、iPod Touchなどの持ち帰りを、中高学年では、クラウド対応の家庭利用を進めたい。
今後の計画
2月9日(金)・10日(土) 授業研究発表会
成果目標
①スマートディバイスを活用した教材開発と実践事例の創造
学校にある端末を持って帰るだけでなく,私的なディバイスを活用した反転学習を実施し,その成果を実践報告する。クラウド対応のソフトを利用することで,学校の端末を持ち帰らなくても,家庭で使っている私的端末(学校には持ってこれない端末も含めて)を使って,実践が可能になる。
②ガイドラインの作成
校内のディバイスや私的なディバイスを使うためのガイドラインを作成する。職員やPTAの方とも連携を図りながら共通理解する。→情報モラルの育成につながる
③実践事例集と報告会
それぞれの教科・領域で実践をしてきた授業に関して,報告会を行い,実践事例集を作成する。本年度は製本にしていきたい。
- 和歌山大学 教職大学院 教授 豊田 充崇 先生
本期間(1月~3月)の取り組み内容
【2月】 教育研究発表会
2月9日(金)
(6年生 新教科「未来そうぞう科」)「宇宙船 未来号 118」
6年生では、宇宙をテーマに学習を進めた。活動は子どもたちから出てきた意見や考えをもとに、「宇宙×ロケット」、「宇宙×ロボット」、「宇宙×表現」の3つのグループに分かれて授業を進めた。その中で「宇宙×ロボット」では、昨年から取り組んでいるプログラミングの発展としてMbotを活用した授業を行った。
(4年生 新教科「未来そうぞう科」)「平野環境フォーラム」
ヒアリの問題を探究しながら、グループで考えたことをプレゼンで発表する活動を行った。プレゼンでは、ロイロノートを利用してグループ共有しながら進めた。グループによっては、家庭に帰ってからグループ共有して編集作業をしているグループもあった。ふりかえりでは、家庭に帰ってからワークシートに記入したものを写真にして送る活動を取り入れ、反転学習的な取り組みも行った。
(3年生 新教科「未来そうぞう科」)「平野EXPO」
「平野について昔・今・未来を楽しく学ぼう!」というテーマで大きく2つの準備を行ってきた。1つは「展示物の作成」、2つ目は「プレゼンの作成」である。プレゼンの作成にあたっては、地域の方やApple Storeの方からの外部評価をいただき、プレゼンの作り方を学んできた。また、社会科との連携をしながら地域のパン屋さんとコラボして新しいパン作りを行った。作ったパンの反応を購入した方からSNSに投稿してもらいパン作りに活かしてきた。
(図画工作科 討議会)
研究授業の後の討議会で、参会者の方から様々な意見をもらうために、参会者自身のスマートフォンを利用して、Googleフォームに記入してもらう取り組みを行った。Googleフォームを登録した画面を全面に映し出すことで、参会者全員で共有することができ、様々なご意見から授業の検討を行うことができた。
子どもたちでのBYODではないが、教師のBYODとして先進的な取り組みになったものと考えている。
アドバイザーの助言と助言への対応
パナソニック教育財団の研究指定が終わるが、今後もICT活用を進めていただきたいとのお話がありました。ICTを【使用】→【利用】→【活用】として取り組めている。今後も活用としての実践事例を多く生み出し、今後に活かしてほしい。
本期間の裏話
4年生では、ロイロノートを使ってプレゼン発表を行ってきている。ロイロノートでは、クラウド対応しているため、家庭での利用も可能である。グループで共有しておくだけで、それぞれが編集を加えて、次の授業に活かすことができた。また、ロイロノートでのスライド編集は、keynoteのようなレイアウト編集ができない。そこで、子どもたちは一度keynoteでレイアウト編集をした後、スクリーンショットを行い、それをロイロノートのスライドに張り付けるという合わせ技を生み出してきた。
Keynoteとロイロノートの良さを上手く取り入れた活用に驚きだった。
本期間の成果
プログラミングや反転的な学習、研究会の参会者のBYOD利用など、多様なICT機器の活用を提案することができた。一つの活用だけに留まらず、子どもの学びに応じて機器の活用を変えることができたことも大きな成果と考える。本校においてICT機器活用がもはやツールになっていることは間違いないと考える。これは2年間の研究の成果であると考えられる。
2年間の成果
昨年度の1年間と,本年度の3学期途中までに,75実践事例を集めることができた。これは本校の全教員が,児童1人に1台のディバイスを持たすことを意識して授業実践に取り組んだ結果である。しかし様々な環境下に置いて1人1台が難しい場面や目的やねらいに応じてグループで使う場面もあった。以下,75実践を「活用のディバイス」,「ディバイスの活用の仕方」,「共有の仕方」,「活用した機能」を低学年・中学年・高学年で分析してみると以下のような結果になった。
➀活用ディバイス
活用ディバイスでは,低学年では手軽に使えるiPod touchの活用が多いが,中高学年になると,ディバイスからの書き込みや編集などの活用が増えるため,画面が大きなiPadの利用が多くなっている。また,ディバイスが混在していても授業内で活用することが可能である。
➁活用の仕方
活用の仕方では,低学年では,初めて使うディバイスのため児童自身が「使ってみたい。」という思いがあり個人の利用が多く,中学年では個人でのディバイス利用に慣れ,様々な活動で自由に使えるようになってきたと考える。一方で,高学年では個人での活用から協働的な活用にシフトチェンジしてきたものと考える。また全体での活用としては,Face timeを活用した沖縄との交流・台湾の小学校との交流授業などダイナミックな広がりがあった。
台湾とFaceTimeを使っての交流
➂共有の仕方
共有の仕方では,ロイロノートがない低学年では,クラスでの全体共有が多いが,中学年になると個人のIDを持つロイロノートの利用が多くなってきている。しかし,高学年になると,協働的な活用からグループ共有も多くなってきている。
➃活用した機能
児童が利用した機能で最も多かったのが,写真機能である。持ち運んで手軽に撮影できる機能は,低学年からも利用が可能である。また,動画を利用した授業も多くみられた。
➄BYOD的な実践
BYOD的な実践事例の数は少ないが,実践に載らない活用は,いくつか見受けられる。それぞれの授業の後のふりかえりを家庭で記録しておくことや,植物の成長していく様子を家庭で記録していたり,1分間スピーチのネタを家庭のディバイスで写真に撮っていたりして,徐々にその活用の裾野は広がりつつある。
今後の課題(計画)
①BYOD的な実践事例の開発
考察で述べたように,少しずつBYOD的な活用が進みつつある。しかし,授業実践としては,まだまだである。今後は,実践事例としてまとめられるように取り組んでいきたいと考える。
②家庭と連携したディバイス利用のガイドライン作成
BYODとしての取り組みは,まだ試行的な段階であり,家庭のディバイスを持ち込んだり,家庭学習で利用したりするために教員全員で共通理解をしていく必要がある。また,学校だけでなく,PTAとの連携も必要であると考える。そこで,本校としての情報機器端末の利用ガイドをまとめていきたいと考える。
③家庭のディバイスを持ち込んだときの校内におけるWi-Fi利用
校内のWi-Fiに接続するためには,その登録や認証が必要になる。各端末で教員がその作業をすることは難しい。簡単さと安全さをどのように両立するのか,今後の検討課題である。
2年間を振り返って
小学校においては、BYODのハードルがあるが、今後はこのハードルが低くなっていくものと考えている。中学校や高校では、もはや可能な状況にもなってきていると考える。また、クラウドを利用し、家庭のディバイスを活用することで、そのハードルも格段に下がると考える。一方で、クラウドの安全性、子どもたちの情報モラルの指導を両輪で進めていく必要があると考える。
- 和歌山大学 教職大学院 教授 豊田 充崇 先生