・兵庫県篠山市立丹南中学校 /平成28年度4-7月期 |
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研究課題と成果目標 |
研究課題 反転授業を通した予習の習慣化とICTを活用したアクティブ・ラーニング
成果目標 ○反転授業の予習動画を活用し,家庭学習で予習を習慣化することでアクティブに授業に取り組む態度を育成する。(予習することにやりがいを持たせ,習慣化させる。) ○反転授業で生徒が自己表現をする機会を増やすことによって,学習意欲を高め、言葉の力の育成や思考力・判断力・表現力の向上に繋げるとともに学習内容の定着率を高める。 ○生徒が活躍する授業デザイン(プレゼン・リレー※やディスカッション等の協働学習)を構築し,主体的・能動的かつ協働的な授業(アクティブ・ラーニング)を展開する。 ※(プレゼン・リレーは生徒の説明で生徒同士の集中力や理解力をお互いに高め合う) |
本期間の取り組み内容/アドバイザーの助言と助言への対応 |
本期間(4~7月)の取り組み内容 ○丹南中学校ICT部会を中心に市内5中学校のICT部会(数学、理科・情報担当)で反転授業について,次の3点について研究課題を設定。 ・予習習慣を身につけさせる授業デザインと家庭学習(予習)とのリンク方法研究。 ・反転授業を展開するための予習動画の効果的・効率的な作成方法について研究。 ・反転授業のICTコンテンツ(予習動画、画像、予習プリント)の作成方法やICT活用スキル及びタブレットを活用した授業デザインの研究。 ○本校ICT部会を中心にICTコンテンツ作成およびICT機器活用スキルについての研修。 ○本校ICT部会(数学科)を中心に,ビデオ撮影やExplain・everything,パワーポイント,タブレット,書画カメラ等で予習動画を中心にICTコンテンツの作成。 ○反転授業の予習動画作成作業,配信方法について篠山市ICT担当を講師として研修。 反転授業(3年数学) ○反転授業のICTコンテンツをHPで配信し,本校ICT部会(数学科)が授業実践。 ・授業デザイン(プレゼン・リレー)および家庭学習(予習)の習慣化についての成果と課題について検証し,より効果的なICTコンテンツの開発。 ・授業ではタブレット,書画カメラとプロジェクターを活用し予習動画・予習プリントを確認し,ICT機器を活用し,プレゼン・リレーを中心としたアクティブ(主体的・能動的かつ協働的)な学習活動を展開する。 タブレット活用授業(3年数学) ・個に応じた指導が必要な生徒には,授業でも個別にタブレットで予習動画をテキストとして学習。 ・不登校生徒に対しては,家庭学習の補助教材として予習動画を活用した学習支援。 ・校内研究授業及び公開研究授業(6月8日)を実施し,大阪教育大学寺嶋先生に指導助言をいただき,研究協議を行い,成果と課題について検証。 ※予習動画は篠山市ICTサポーターと連携し,市サーバーにアップし市内中学校で共有し各校のHPから配信する。インターネットが視聴できない生徒については,DVDで配布する。(DVDは篠山市視聴覚ライブラリーで作成する) 研究協議 ※オリジナルなICTコンテンツを作成する。予習動画作成にあたっては著作権が関係するコンテンツ使用は基本的には使用しない。著作権が関係する場合の使用許可は必ず申請する。 ※アドバイザーの助言と助言への対応 ○アドバイザー(寺嶋先生)の助言 ・ICT導入(反転授業導入)のプロセスを整理し,「導入マニュアル」のような形でまとめる。 寺嶋先生指導助言 ・「反転授業」のICTコンテンツを活用した授業デザインの目的を類別しパターン化するなど,整理して「授業フォーマット」の形でまとめる。 ○助言への対応 ・「導入マニュアル」は実践と理論に分けて整理した。「なぜ,反転授業をするのか?」から見直した結果,「予習してから授業にのぞむ学び方」を生徒が身に付けることが,自学自習し学び続ける人を育てる基礎になると結論した。「予習すること」を中心に置いた学び方と教授法の考え方を整理した。 ICT活用(保健体育) 丹南中学校では,ICTを活用した授業や反転授業を日常的に行うことで,「反転授業は珍しくない」状況を作りだし,誰でもいつでも反転授業を実践できそうな雰囲気を作り出した。 ・反転授業の型を3パターンに類別した。類別したことによって,反転授業を取り入れるタイミングや教科の特性や学習分野との相性などを見抜く手助けとなった。反転授業の実践を勧めるときに説得力が増した。 |
裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など) |
本期間の裏話 ・「予習」して,あらかじめ知っていることがあると,「言いたい」「教えたい」気持ちが高まった状態で授業にのぞむ生徒が増えてきた。授業の途中で「疑問点」,「分からない点」が出てくると,すぐに近くの生徒に聞く,聞かれた生徒は授業そっちのけで一生懸命教える。そういう場面が,授業中にしばしばあり,最近では普通の光景になってきた。 ・「予習」というよりも,「事前に学習する」「先行して学習する」ことが当たり前になってきた生徒が増えてきた。問題集の取り組みでは,今学習しているところよりもかなり先を解答している生徒が増えてきた。「どこまで進んでいる?」などと,競争しながら先に進む生徒もいる。 ・授業が終わっても,まだ問題(課題)に取り組む生徒,まだ教え合っている生徒が増えてきた。もちろん,授業後,すぐに先生に質問に来る生徒がいることは,当たり前になった。(授業後に機材を片付けるので,先生はすぐに教室から出て行かない。したがって,生徒も質問できるタイミングがある。) ・授業中に,動画を使ってまとめると,生徒全員の目がこちらを向くので気持ちが良い。うなずく生徒も多く,解説しがいがある。 ・教材づくりは,とても楽しいが,時間と労力がかかる。正直しんどいが,やりがいも大きい。生徒は,先生の自作教材であることを知っているので,授業の食いつきが大きい。とてつもない労力をかけるだけの価値を感じてしまうので,時間をかけて教材づくりをしてしまう仕事の仕方からどうしても抜け出せない。 |
成果 |
本期間の成果 ○生徒の変容について ・反転授業を日常的に実践したので,生徒にとっては当たり前になった。その結果,適度な手抜きができる生徒が増えた。学習内容の難しさに応じて,あるいは自身の理解度に応じて,軽く流したり,しっかり学習したり・・・。こういう状態になった方が,教室全体の学び方が深まったように感じる。 ・生徒の「あらかじめ知ってしまったことは『言いたい』,『教えたい』」気持ちが高まってきた。授業中に発表できる生徒の数は限られるが,生徒同士の教え合いはいつでもできる。ちょっと疑問に感じたことは,近くの生徒にすぐ聞く,聞かれた生徒は一生懸命教える。そういう場面は,ごく当たり前に,そこかしこで見られる。 ・数学の問題の解き方よりも,考え方を質問する生徒が多くなってきた。 ・まだ授業で教えていないことを質問する生徒が増えてきた。(予習しているから?) ・プレゼン・リレーで筋道が通って,なめらかに話す見事な生徒の発表は,聞いている生徒の反応が悪くなってきた。むしろ,途中で行き詰まったり,うまく説明できない生徒の発表の方が,聞いている生徒の反応が良い。発表が行き詰まったり,うまく説明できない場面があれば,そのときに聞き手の生徒達は,お互いに教え合い・確認し合いをする。だから,たどたどしい発表の方が,聞き手の生徒達は理解が深まるようである。 ○授業デザイン(反転授業の構築)について ・授業で反転授業やICTを活用し,プレゼン・リレーや協働学習等のアクティブ・ラーニングを推進する取組を3つのプロジェクトチーム(「ICT活用授業研究部」、「アクティブ・ラーニング授業研究部」,「予習教材作成研究部」)を組織して取り組みが進んでいる。 ・丹南中学校の数学科(3年)については,日常的に反転授業を実施しているが,その成果として,以下の3点があがっている。
①授業目的が予習動画に集約されているので,予習のポイントが明確で学習しやすい。 ・ 「予習習慣を身につけさせる授業デザインづくり」については,教師の意識も高まりつつあり,今後ICTコンテンツを作成し,反転授業を実施する方向で進んでいる。 |
今後の課題 |
・丹南中学校ICT部会を中心に,市内5中学校のICT部会で「予習習慣を身につけさせる授業デザインづくり」の研究を推進していきたい。 ・「予習習慣を身につけさせる授業デザインづくり」を実現するための有効な手段の1つに反転授業がある。反転授業そのものを研究するだけではなく,「予習習慣を身につけさせる授業デザインづくり」の研究であるという方向性で進めていく。 ・予習習慣を身につけさせることは、将来、自学自習し学び続ける人を育てることである。予習の意義を生徒ならびに教職員に充分認識させていくことが大切である。 |
今後の計画 |
・各教科の特性や分野について,3類型に分けた反転授業の型をさらに整理する。そして,効果的・効率的な反転授業の「授業フォーマットづくり」をする。 ・反転授業をはじめとする「予習習慣を身につけさせる授業デザインづくり」を概念図の形に練り上げる。そして「導入マニュアル」としてまとめる。 |
気づき・学び |
・自作教材を作る過程で,教師自身の学びがとても深まる。労力がかかるが,データを共有することを前提としたICTコンテンツを作ることで,教員の資質向上に大いに役立ちそうである。なぜ,データを共有することを前提とするのか?それがないと緊張感に欠けるからである。やはり,ある程度の緊張感の下で作ったICTコンテンツは,それなりの質がある。 ・自作教材を使った授業をすることによって,生徒にはその授業に対する教師の思いが伝わり,それに応えようとして生徒が頑張っていることに気づかされる。授業デザインは工夫の仕方で,生徒の授業に対するモチベーションに大きく影響することをあらためて感じた。 |
アドバイザーコメント |
大阪教育大学 大学院連合教職実践研究科 准教授 寺嶋 浩介 先生 |
篠山市立丹南中学校では,反転授業の普及や体系化をテーマとしている。ここ数年で,反転授業への取り組みについてはいくつか報告されている。しかし,まだ実施したことがない学校や教師からすれば,「本当に生徒は事前に動画を見てくるか」などというような素朴な疑問がまだ多いかと思う。公立の中学校においてどのような可能性を持ちうるものなのかについて,同校には研究を進めていただきたいと思う。 先日私が参観をした数学科の授業においては,習熟度別のクラスで同じ動画を活用して授業が進められていた。上位のクラスにおいては,動画を視聴してきていることを前提として,テンポがとても早い授業が展開されていた。その分,何度も繰り返し,手を変え品を変えながら,定着が図られていた。もう一方のクラスは,どちらかと言うと数学を苦手としているので,事前に動画を見てくるというよりは,その場で一緒に見ること,そこから疑問を解決していくことにより授業が進められていた。こちらは反転授業とはいえないかもしれないが,学校ぐるみで取り組んでいくと,動画の視聴に加え,授業内活動もどのように進めていくかについて,いくつか典型的な型が整理されていくのではないかと思った。今は一部の教科にとどまっているが,この取組を他教科に広げ,その可能性を探っていただきたい。 また,同校には大きな課題として,「反転授業導入マニュアル」のようなものの作成をお願いした。どのように教材を作成するか,事前視聴と授業内活動の組み合わせの工夫,教科による使い方の違いなどがあれば良いと思うが,このような形で他校に還元をしてもらいたい。 なお,本研究の計画として,同校内の取り組みだけではなく,これを篠山市内にも広げていきたいということであった。実は昨年度から本研究の土台となることは進められてきた。市の部会として,本財団の一般助成を受け,その成果は優秀校として表彰されている(http://www.pef.or.jp/01_jissen/06_seika/h28_seika_report_02_sub.html )。このようにステップを踏んで,特別研究指定校になっている同校の取り組みは実に着実かつしたたかな点も注目すべきところである。関心のある読者は昨年度の報告についてもご覧頂きたい。 |
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