助成校が全国から集まり、実施される「グループディスカッション」や意見交換会は、自校研究を深められる良い機会です。 助成校は地域別に19のグループに分かれ、実践研究の概要を互いに発表しグループディスカッションを行いました。 今回は、東京・新潟・富山・静岡の小学校4校が集うDグループのディスカッションに密着。どのような意見交換が行われていたか、レポートします。
世田谷区立九品仏小学校 東先生
小千谷市立東山小学校 鈴木先生
氷見市立宮田小学校 表先生
伊東市立東小学校 丸井先生
後藤 康志先生
新潟大学 准教授
Scene 1 各校が実践概要発表
大田区で副校長をしていた時に、一般助成に応募して採択されたにも関わらず、私自身が異動となり、チャレンジできなかったので、新たに応募しました。
今回の研究目的は、タブレットの持つ即時性、簡便性、保存性を生かして、難聴言語の特別支援学級の教材開発・指導方法を開発することです。通級指導の中に、「ことばの教室」を設けていますが、1対1の個人指導が主であり、感覚的で専門用語を多用するため、その指導内容を保護者や通級児童の在籍する学級担任には、伝わりにくいという課題がありました。
そこで、本校ではタブレットを使って、子どもの口の様子を撮影したり、発音時を記録することにより、子もたちも学級担任もその改善部分を客観的に把握できるようにしたいと考えています。
具体的な取り組みとしては、撮影した映像を見て、自分の舌の可動域がどこまであるのかを把握したり、きちんと記録する中で言語発達の改善を図るなど、タブレットの特性を生かしながら視覚・聴覚に訴えたわかりやすい授業をめざしていく予定です。
小千谷は、自然豊かで伝統もある地域です。ただ、昨年は全校生徒が15人という完全複式学級となりました。そういう学校だからこそ、将来の子どもたちへの継承につなげるために、闘牛や鯉など小千谷の伝統文化と、ICTという先端的な分野で特色のある学校づくりをめざしています。これまでにも小規模校である本校の活性化を図るために、Web会議システムを構築して、隣町など他校との交流を行える取り組みをしてきました。今度は、さらに、子どもたちが多様な考えに触れ、思考力、表現力を身に付けられるように、遠隔授業など、他校との共同的な学習システムを構築していく予定です。
地元の長岡技術科学大学からサポートをしていただきながら、アプリやデジタル教材、デジタル教科書の整備を始めています。
一方で、小規模校なだけに、先生方の異動によって、研究体制が大きく変わってしまうという危機感もあります。さまざまな課題を踏まえて、前向きに取り組んでいくつもりです。
本校では、学校教育の目標を「心豊かで、自主的に行動する子供の育成」として、子供たち一人ひとりに「生きる力」を育む教育活動を推進しています。そして、この目標に対し、音楽科に重点を置きました。子どもたちが音楽の良さやおもしろさ、美しさを感じて豊かな表現力を養えるようにするためにも、音楽活動の基礎的な能力を培っていく必要があります。ただ、小学校で音楽専科の先生を採用している自治体は少なく、またICTを活用した授業例もあまりなかったので、音楽でのICTの活用に取り組むことにしました。
一方、昨年1年間研究授業をするなかで、煩雑さなど課題と感じることがありました。今年度は採用している音楽科の教科書に、はじめてデジタル教科書が登場しているので、このデジタル教科書を使ったはじめての授業実践になりますし、よりスムーズに授業展開ができるはずです。さらに、タブレットPCを導入し、音楽づくりの場面で子どもたちを録画しようと考えています。そして、「授業事例集」としてどのように成果を残すかについては、熟考していきたいです。
ジグソー学習法は、協調学習により、学習者が自発的に課題に取り組みながら、さまざまな視点から答えを導き出す学習方法です。具体的な流れとしては、第1段階として、グループで話し合い、課題をまとめ、別のグループの人に説明する準備をします。第2段階は、グループを分散し、1段階のグループから持ち寄られた資料を基に、今度はホワイトボードを使って対話をします。
しかし、その活動を見ていると、子どもたちは紙やホワイトボードに書くことに集中してしまい、対話が進まない様子が見て取れたため、その課題を解決すべくタブレットとアプリの充実を考えました。タブレットを使用することによって、個々に振り返りができますし、書き写しの時間を短縮でき、対話に時間をとることができます。ジグソー学習の対話を充実させることで、学習内容の定着につながっているという効果も明らかになりつつあるので、さらに改善を図りたいと考えています。
Scene 2 意見交換
このグループには、東京・新潟・富山・静岡と異なる自治体の小学校が集まりました。実は、このように違う自治体の先生方の話を聞ける機会は少ないものです。今回のグループディスカッションでも、地元の大学との連携の状況や、無線LAN整備の難しさ、専科教員配置の有無など、それぞれ自治体による違いが浮き彫りになりました。また、グループの中には、すでに実践研究が進んでいる学校もあれば、まだこれから本格的に取り組むので、どこから成果が生まれるか手探りという状態の学校も。 先生方は、それぞれの学校の課題や実態を聞きながら、校内研究への新しい視点に気づいていらっしゃるようでした。
タブレットの記録性を特別支援で活用 タブレットで撮影したものを確認することで、現状を視覚的にきちんと把握できます。この記録性が特別支援でICTを活用する良さですね。 |
思考力、表現力の向上をどう図るか タブレットPCを中核にしながら、多様な考えに触れられるようにし、思考力、表現力の向上をめざします。子どもたちの力をどう計測するかも課題です。 |
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音楽科でのICT活用の先行事例に
音楽科でのICT活用は、まだまだ少ないという認識です。成功もあれば、失敗となる事例もあると思いますが、広く役立つ事例開発をめざしたいです。 |
実践の質も分析の内容も高めていきたい 本校は昨年度に引き続き、2年目のチャレンジです。これまで、静岡大学と連携して実践研究を進めてきました。実践の質も分析の内容も高めていきたいと思っています。 |
Scene 3 ディスカッションを終えて
このグループディスカッションでは、類似の課題を持つ学校が議論するのではなく、それぞれ異なる課題を持った学校が議論しました。そのため、自校の課題をわかりやすく説明するプレゼンテーション力が必要になりますし、それぞれの考えや思いをうまく伝えなくては、より良い議論ができません。 最初は初対面で緊張した雰囲気の先生方でしたが、ICTの研究に取り組もうとする現場の熱気に溢れた議論を交わす中で、だんだん打ち解けられたようです。質疑応答では、自校の実態に照らし合わせた上での質問が印象的でした。 そして、ディスカッションを終えた先生方に感想をお伺いすると、共通していたのが、各校の積極的な意欲を感じて刺激になったということと、アドバイザーの後藤先生からの助言により研究の見通しが見えてきたということです。 ディカッションを終えた各校の研究の深まりに期待しています。
専門委員からメッセージ
後藤 康志先生(新潟大学 教育・学生支援機構教育支援センター 准教授)
選考倍率約5.5倍を突破して、助成校に採択されたみなさんに、まず認識しておいてもらいたいのが、自校研究に取り組む上で、自信を持ってほしいということです。
そもそも、選考に残ったということは、研究者から見て、重要な課題に取り組んでいると評価をされているということですし、その実践から学ばせてもらいたいと思われていると解釈してください。
一方で、選考を突破したものの、ゴールがあやふやでは、せっかくの実践研究が無駄になってしまいがちです。
ですから、助成校のみなさんには、申請が通った後に、最終ゴールがぶれないことを意識してもらいたい。
正直、ゴールまでのルートはどんな道のりを選んでも良いと考えています。ゴールに届かなければ、それがその時の学校の実態ですけれど、ゴールしたかどうかがわからないというのは大問題。自分たちの考えるゴールを認識することが大切ですし、さらにそれを評価、見直しをして、次の課題を見つけてほしいと思います。そして、次の課題を解決するために、次の助成へとつなげ、研究内容を磨き、進歩させることを期待しています。
さらに、学校現場の先生方にとっては、異動などの問題もあり、複数年継続して実践研究を行うことが困難な場合もあると思います。それでも、実践研究に取り組めば、取り組むだけ、子どもたちはもちろんのこと、教員も変わっていくはずです。その中で新しい課題が見つかること自体が楽しいですし、先生方の生きがいにもつながります。そのため、すでに助成校となっている先生も、これから助成の申請を検討したいという先生も、自分だけで取り組むのではなく、実践研究をバトンタッチして次につなげることを念頭に入れておいてほしいです。そうすることで、地域、さらに日本のモデルができあがっていくと考えています。