実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)
行事:成果報告会
全体会 /第34回(平成20年度)
テーマI 「確かな学力の育成に向けたICTの活用」
日野市立平山小学校(東京) 折茂慎一郎 研究主任

研究課題:
診断・補充教材による完全習得と発表・討議で高める数学的な思考力

研究目的:
ICTの効果的な活用により算数の学力を向上させる

「算数科における学力向上」を目的に、1年目は「教師の学びは必ず子どもの学びにつながる」と、教師が学びながら子どもの実態を分析して学力向上プランを作成した。また、新たなICT活用に挑み、そこで学んだ新たな視点を日々の算数の授業で生かすように努めてきた。同時に、家庭や日野市初のコミュニティ・スクールとして地域と連携して取り組みを行った。具体的には、以下の5点を行っている。


1.インタラクティブスタディ(個別学習)大作戦
PCの端末を使って学ぶ学習法で、解答できないと補充問題が出て、正解すると発展問題が出る。教師用のモニターでは、子どもたちの正誤や解答率、解答に要した時間などが一目で見ることができる。
2.データ分析大作戦
毎回の校内研究で、データ分析と考察の時間を設けている。教員がデータに基づいて、学力を振り返り子どもへの具体的な手立てをとるようになった。
3.親子花まる大作戦
早寝早起きや翌日の授業の準備など、基本的な生活習慣を確立するため、 各家庭で確認を行う「親子花まる週間」を年4回実施。子どもの基本的な生活習慣が学力に影響を及ぼすことが保護者に理解されるようになった。
4.若手育成大作戦
OJTを年に12回実施するなどして、研究協議会で若手教師が自信を持って発言し、学び合える雰囲気を作っている。
5.研究組織改革大作戦
管理職・主幹教諭・学年主任から研究推進組織を構成。検討事項が各学年に浸透し、研究に関する全教員の共通理解が図られている。

新地先生(宮崎大学大学院)から「リアルタイムで子どもの学力を把握した結果を指導にどう生かすかを検討してほしい」、赤堀先生(白鴎大学)から「データの分析よりも先生方が実際にどんな指導を行うかが大切」といった助言が得られた。


岐阜市立本荘小学校(岐阜) 加藤峰子 教諭  

研究課題:
心機融合と学びの連続で、児童の確かな学力の育成
〜人とICTのよさを生かし、学校と家庭の学習を連携させて〜

研究目的:
人とICTのよさを生かし、学校と家庭教育の学習を連携させて、児童の確かな 学力の育成を図る
1.学校が変わるために
職員を学校全体にかかわる企画部(校長、教頭、養護教諭、生徒指導、教務、事務など)と児童にかかわる運営部(クラス担任)に分けたことで、担任には精神的・時間的なゆとりが生まれ、児童と直接かかわる時間が増えた。また、ペーパーレス化を図り、無駄な経費を削減した
2. 教師が変わるために
教材作成にICTを活用し、短縮した時間を教材研究に充てることができた。また、教科書の活用方法に対しての共通理解を持ち、連続性の強い学習が形成された。
3. 児童が変わるために
児童が自分で学習計画表を作り、個人の学習時間を確保した。また、自主学習によって児童の自己評価が高まった。さらに、パソコン室を開放するなど、児童が機器を自由に使えるようにした。

浅井先生(京都教育大学大学院)から「子どもたちが実際にどのような問題を抱えているかを根本に考えていくべき」、新地先生(宮崎大学大学院)から「さまざまな工夫、取り組みによって浮いた時間で、ゆとりの時間を持つことが大切」といったアドバイスが得られた。


テーマII 「人間力の育成のための単元・カリキュラム開発」

横浜市立立野小学校(神奈川) 右橋康彦 教諭

研究課題:
ともにかかわり合いながら「自分づくり」を進めていく子の育成 
〜ICT活用による人間力の育成〜

研究目的:
ともにかかわり合う学習の中で、効果的かつ自然な形でのICT活用が図れるよ うにするための、教科研究および機器活用

テーマIIの「人間力」とは「子ども自らが自分の生き方をみつめ、人の生き方に学び、よりよく生きていこうとする営み」だと考え、その実現のために以下のような活動を行ってきた。

1. 電子黒板や実物投影機を各フロアに設置して、授業の中で積極的に活用。スマートインフィル(プロジェクタ+電子黒板+実物投影機のシステム)を利用した授業研究も行っている。

2. 研究組織に「自分づくりを進める効果的なICT活用」を研究テーマとするICT部会を立ち上げ、教師の共通理解を図りながら研究を推進。教師や子どもが目標の達成や問題解決のために、効果的にICTを活用することで、質の高い関わり合いが生まれている。
3. 21年度、全国小学校社会科研究協議会での授業提案を行い、県内外から600名以上が参加した。

木原先生(大阪教育大学)から「ICT普及のためにどういうアクションを起こしていくかといったことが課題」、野中先生(横浜国立大学)から「ICTを活用してどのような指導を行うことが子どもたちの『人間力育成』につながるのかを見ていきたい」といったコメントが得られた。



講評

横浜国立大学准教授 野中陽一
「2年間の研究を継続するためには、つまずきを乗り越えるための工夫が必要。ぜひ、そういう工夫についても経過報告を聞かせてほしい」




宮崎大学大学院教授 新地辰朗
「ICTに興味がある一部の先生ではなく、学校全体のチームワーク・連携を見せて欲しい。そのためには、地域や保護者の支持や協力が必要であり、魅力的な学校作りをアピールする発表を望む」


大阪教育大学教授 木原俊行
「成果の証明(エビデンス)の難しさ、組織マネージメントやパートナーシップ(協力)の重要性を感じた。こういった発表会で、中身が濃い交流を継続して、外部や他校とつながっていくことが大切だと思う」



京都教育大学大学院教授 浅井和行
「子どもたちのしんどいところ、抱えている問題を基本に、子どもたちをどう支援していくかが大切。2年間の研究期間が終わった後でも、どう継続していけるのかを考えてほしい」




白鴎大学教授 赤堀侃司
「ひとつの学校の知見は、他校ではなかなか生かしきれないもの。だから、英知を出し合って、プロセスの中で知り得ることこそが知見である」

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