岡崎市立羽根小学校

第46回特別研究指定校

研究課題

プログラミング的思考育成からはじめる創造的な学び
~プログラミング的思考育成を主体的・対話的な学びとして実践することで創造的な学びを実現する~

2021年度01-03月期(最新活動報告)

最新活動報告
1月20日に算数科、2月3日に家庭科の岡崎市教科・領域指導員に指導をいただく......

アドバイザーコメント

長谷川 元洋 先生
岡崎市立羽根小学校は令和4(2022)年2月4日(金)午後にパナソニック教育財団......

岡崎市立羽根小学校の研究課題に関する内容

都道府県 学校 愛知県 岡崎市立羽根小学校
アドバイザー 長谷川 元洋 金城学院大学 教授
研究テーマ プログラミング的思考育成からはじめる創造的な学び
~プログラミング的思考育成を主体的・対話的な学びとして実践することで創造的な学びを実現する~
目的 プログラミング的思考育成の学びを主体的・対話的に取り組み、創造的な学びにすることで、新しい価値を作り出そうとする資質を伸ばす
現状と課題 現状:4月から小学校学習指導要領が完全実施されたが、一般公立学校で、プログラミング学習を含め、主体的で対話的な学びが進められている現場は少ない(報道による)。本校においても、学習指導要領の移行期間であっも進められていなかった。しかし、この5年間での教育の情報化懇談会等から答申されている「新しい価値の創造」のできる人材育成や教育環境整備は、急務である。
課題:いくつかの学校現場では、プログラミング学習や主体的で対話的な学びのための、研究を進めているが、いじめや不登校や外国籍の児童対応、予算不足等から進んでいない。本校も一般公立学校としてそういった問題や50代教員が多いことによる新しい事への対応難の状況がある。この状況で、無理なく学習指導要領の求める学びを進めたい。
学校情報化の現状 本校は校舎・体育館それに伴う施設・設備が古い。その中でネットワーク環境は、市教委整備に加え自前の整備が必要。
取り組み内容 創造的な学びのためには、プログラミング的思考育成を目的としたプログラミング学習を基盤とする。これはプログラミング的思考が、全教育や生活で生きる思考であるからである。このプログラミング学習を主体的で対話的な学びにするため、
  • 自由度確保・専門家の指導・話し合い/協働作業などの要件を取り入れる。
  • 全学年全教科のプログラミング学習のモデル学習指導案を作成・編集する。
  • 教科と総合的な学習の時間を関連づけたPBL(プロジェクトベースドラーニング)を行う。専門家などの本物志向のひと・もの・ことを利用したカリキュラムマネジメントで対応する。
  • プログラミング教育の分類A~Eまでを行う。休日を利用したプログラミングクラブ、保護者を指導者に要請するアカデミー等を開催する。
成果目標 目指す成果:プログラミング学習などを通したプログラミング的思考育成により、創造的な学びができるようになったことは、授業を見てもらうことが一番であると考えている。児童のパフォーマンス度を測るテストなどでもよいが、単にアンケート回答型の評価が有効かどうかは指導をいただきたい。
  • 座席に座ったままの授業ではなく、自由度のある学びから創造性を伸ばす授業の提案
  • 主体的で対話的な活動を通して、新しいものを作り出す生産的な授業を提案
  • 子供の変容と教師の変容の姿の比較。プログラミング的思考育成により、どれだけ資質が伸びたのかを示したい。
今後の取り組み:各学年の教科等でどういったプログラミング的思考育成の創造的な授業ができるかバリエーションを増やす。
助成金の使途 iPadAir、micro:bitスターターキット、腕時計型活動量計、講師交通費・謝金他
研究代表者 岡 秀之
研究指定期間 2020年度~2021年度
学校HP http://cms.oklab.ed.jp/el/hane/
公開研究会の予定
  • 中間発表:2月予定

本期間(4月~7月)の取り組み内容

1 本校教職員対象の研修

 新型コロナウイルス感染症拡大予防の臨時休校のため、授業が再開できたのは、6月であった。それまでの間に、教職員対象に、本研究の概要やプログラミング的思考育成、主体的・対話的な学び、創造的な学びなどの研究骨子に関わる研修やPCやタブレット端末でのScratchやmicrobit makecodeの利用研修などを行ってきた。また授業再開後にICT利用をはじめとした教科の目標を達成する授業、教科と総合的な学習の時間を関連付けたPBL(プロジェクトベースドラーニング)の実践をスタートできるよう準備した。

研究骨子に関わる研修

ドローンの利用研修

職員が講師となったOllie研修

 しかし長期の休校により、児童の生活リズムが崩れ、学習に集中できない状況が続いたことから、まずは学級経営や生活指導、学習習慣の基本的な事項の定着などについて、時間を割くこととなった。実際に研究に関わる学習活動を行い始めたのは、7月になってからである。

 プログラミング学習だけでなく、普段の授業から、研究のキーワードに関わる学習活動を進めながら、低学年では、生活科の学校探検や国語科、算数科で、中学年・高学年では、国語科や算数科、社会科、音楽科、図画工作科、総合的な学習の時間等、多くの教科でプログラミング学習を始めた。特に初等教育を始めたばかりの1年生は、Osmo社のOsmo Codingを使って、ブロックによる逐次処理を基本にした学習により、プログラミング学習の基本を学んだ。2年生以上の学年では、Scratch3.0やScratchJr.やプレゼンテーションソフトなどを使って、国語科で読み取ったことをクイズにして出題したり、算数科で「折れ線グラフ」をかいたりした。高学年では、JR四国のコラボノートを使った総合的な学習の時間のまとめなど、PCやタブレット端末を使った実践を各学級で進めてきた。

iPadを使た生活科 学校探検

1年算数osmocodingを使った逐次処理の学習

2 アドバイザー訪問授業(7月17日)

(1)第4学年 音楽科「いろいろな音のひびきを感じとろう」(5時間完了)

 4年生の音楽科「いろいろな音のひびきを感じ取ろう」の学習では、曲「茶色の小びん」を、タブレット端末のアプリ、GarageBandを利用して、児童がテーマに合わせてアレンジを行った。音楽を形づくる要素である「音色」「旋律」「強弱」「音の重なり」「縦と横との関係」などを感じ取りながら、音楽を鑑賞した後、音楽を形づくる要素とそれが曲にもたらす効果とを結び付け、意図的に音楽づくりができるようになることをねらった。思いや意図を実現する手立てとして、GarageBandを使い、音色の特徴を自分の言葉で表すワークシート、図形カード、自分のつくりたい音楽の設計図を書くワークシートを利用し、協働的な学びとなるように2人1組のペア学習を行った。

授業の導入段階

テーマに合うように試行錯誤

他のグループとの聴き合い

 2人1組で音楽づくりをする中で、順次処理、ループで広げる繰り返し処理、音を入れるタイミングによる分岐処理を行っていた。「お祭り」がテーマのグループは、にぎやかさを出すために音の重なりを意識して、音楽の縦と横の関係を確かめて音を足したり、日本の音階に着目して旋律の音程を変えたりして、創造的な音楽作りを行った。

 どのグループも音楽的に質の高い作品作りを追究するためには、相互評価をもっと早い段階に行い、何がよいのか、どうすればよくなるかに気付かせたうえで、さらにテーマに合うように再修正できる時間を確保することが必要であると、協議の場で確認された。

(2)第6学年 理科・社会科・総合的な学習の時間「未来の交通システム」
  (17時間完了 総合9時間、社会4時間、理科4時間)

 6年生社会「グローバル化する世界と日本の役割」「平和への協力」から安心安全な交通システムの学習要素を抽出し、6年の理科「身の回りには、電気の性質や働きを利用した道具があること」の教科の学びを関連付けて、総合的な学習の時間の単元を組んだ。総合的な学習の時間では、「実社会や実生活の中から問題を見出し、積極的に社会参画しようとする態度を養うこと」を育てたい資質能力とした。micro:Maqueen Ver3.0 、タブレット端末、Makecode、AppleTV、信号機を利用した。交通事故の多さという自分達にとって身近な問題と、情報技術の発展との関連について考えることで、未来の社会を作っていける子供たちに育ってほしいという願いをもち、授業を計画した。

プログラムの構想

ペアでプログラムを組む

工夫点の発表

 児童は、前時までの学習をよく理解しており、プログラミング学習に意欲的に取り組む姿勢が見られた。本時の授業では、導入で考えるためのヒントを黒板に掲示し、組みたいプログラムを言葉でワークシートに記入し、計画を立ててから活動に入った。児童には、プログラミング操作の技能が身に付いており、手が止まってしまうペアはいなかった。

 究明段階では、席を離れての教え合いをしたが、「プログラムの内容に困っているのか」「プログラムの転送に困っているのか」を教師が見取って支援することが必要であった。どのブロックを使うかについての理解度に差があることから、活動の途中でうまくプログラムが作動しているグループの動きを全員で見て、工夫した内容を全体に広げたり、皆で解決したりする機会を設けることで、活動の質を高めていくことができたと、授業後の協議会で確認した。

 また、課題は教師から与えられるものでなく、児童にとっての学習の価値付け、意欲付けができるよう進めていくことが望ましい。Microbit、micro:Maqueen Ver3.0には、センサーが豊富にあるので、距離センサーを使った衝突回避や、トンネルに入ったら速度が落ちる、街路灯とも連動するなど、システム同士の連携への理解を深めることができる。児童の願いを実現するわくわくした創造的な学びにつながることが可能である。

研究協議会の様子

アドバイザー長谷川先生の助言

3 パフォーマンス検査の活用

 研究のはじめとなる7月に、個人と学級の傾向を、自己と集団に分けて評価するパフォーマンス検査を全児童対象に行った。これにより、個人と学級の傾向をとらえることができた。QUテストのように、集団パフォーマンスを縦軸、個別パフォーマンスを横軸に取り、児童個々の状態を学級集団の座標軸上に表すことができた。これを生かし、不満足に位置する児童を支援すると同時に、学級集団を育てていく。研究を進める過程で評価の変化が見られれば、研究の成果の指針ととらえることができると考えている。次は検査項目の一部である。

羽根小学校研究パフォーマンス検査項目(一部抜粋)
A自己肯定感 あなたは、じぶんのことがすきですか
A自己肯定感 あなたは、ともだちにじまんできるような特技やしゅみがありますか
A自己肯定感 あなたは、しょうらい、やりたいとかなりたいなどの、ゆめがありますか
B自己向上心 学校の学習で、できなかったことができるようになると、うれしいとおもいますか
B自己向上心 じゅぎょう中に、自分のかんがえやいけんをいうのは好きですか
B自己向上心 いい成績をとったり、学習が分かるようになったりするために、努力をしていますか
C研究推進 あなたは、計画を立てて、予想をしながら学習することは好きですか
C研究推進 あなたは、新しいものや新しいことなど、つくりだしていくことが好きですか

アドバイザーの助言と助言への対応

  • 1 深い学びの要素が入った授業の条件の一つは、授業場面に「習得・活用・探究」という学びの過程が設定されていることである。授業デザインでいうと、基礎基本の確認(習得)、協働学習(活用・探究→個の成長)、全体共有(相互に学び合う→学級集団の成長)となる。基礎基本の確認では、足場がけを重視する。これは、協働学習の場面で児童が自分たちの力で発見するために必要な基礎基本の修得である。
    →本校の標準授業展開例に則った授業を、プログラミング学習に限らずどの授業でも行っていく。そして、本時の学びの習得、活用、探究という学びのそれぞれの過程での具体的な児童の姿(目標)と支援を明らかにして、授業づくりを進める。この授業が何を目指す授業か、理解を深化させるのか、考えを形成させるのか、問題発見・問題解決を目指すのか、創造するのかを、教師自身が抑えて深い学びとできるようにしたい。
     今回助言をいただいた足場がけについては、昨年度本校で、授業の導入の10分は、「児童が自ら学び出す仕掛けをする」として、大切にしてきたことと重なる。児童の意見を取り上げる、既習学習の活用、「モデリング」による学びの質の底上げ、児童の思考を助ける板書やホワイトボードの利用、グループでの活動など、昨年度までの研究に、アドバイザーから助言をいただいたことを加え、授業実践に取り組んでいく。
  • 2 各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を働かせるという視点を盛り込んでいくことが大切である。
    →教科の学習では、教科の見方・考え方を働かせた学びを、総合的な学習の時間では、探究的な見方・考え方を働かせた学びになるようにする。合科の単元づくりでは、単元計画の中に教科の学習の位置付けと、習得内容を分かるように示して作成し、各教科のねらいをおさえた単元目標を設定する。
  • 3 学びのルーブリックによる評価について
    →評価観点と学習者の到達度による評価は、授業と児童の姿をわかりやすくとらえることができる。「知識理解」、「応用・論理的思考」、「創造」といった3つの観点での評価は、思考力・判断力、創造力を重視した授業を行っていく際の評価に活用していきたい。
     また、評価については、1時間で何ができるようになったか、この学びを通してどんな力が身に付いているのか、どんなよいことがあるのかを児童が理解できるようにしていく。

本期間の裏話

 パナソニック教育財団特研校の指定を受け、本年度スタートから授業実践を積み重ねていく予定であった。しかし、1カ月半に及ぶ休校となり、大変もどかしい気持ちであった。その間、教員は、学校再開に向けて研修を進めたり、家庭で過ごす児童に向けて、学習プリントや家庭で、自分でできる学習のヒントを作成したり、縄跳びなどの運動を促す動画、児童へのメッセージ、クイズを作成したりして、学校ホームページに載せてきた。このように主体的にアイディアを出し、各個人が、または、学年間でICTの活用方法について教え合う教師の姿が見られた。ホームページへのアクセス数が日々増え、保護者・児童の学校に対する関心の高さが感じられたことも嬉しかった。また、この様子は、NHKのニュースにも取り上げられた。

本期間の成果

 本校の初任・転任教師は、プログラミングを教えた経験に乏しかったが、全ての担任が、7月までにプログラミング学習に取り組んできた。実際に授業を行うことで教師と児童の技能が少しずつ高まってきている。どの学年の児童も、PCやタブレット端末を利用したプログラミング的思考育成の学習に意欲をもっている。プログラミング学習として、意図したことを表現したり、思考したことを書き込めるワークシートの作成をしたりするなど、教師は工夫して実践している。

 7月17日のアドバイザー訪問授業に向けて、6年生では「未来の交通システム」をテーマにし、愛知県の交通事故の多さから、自動車にどんな機能があればよいか考えることができた。20組程度用意したmicro:bit Maqueenや信号機を、make codeを使ってプログラミングを組み、動かしてきた。4年生の音楽科では、GrageBandを使い、音楽の創造性を生かし、児童が原曲をテーマに合わせてアレンジし、聴き合って音楽作りを繰り返してきた。2つの実践共に、意欲的な取り組みとプログラミングの技能的向上が見られた。プログラミングは、「試行錯誤しながら、よりよいものを導き出すことが容易にできる」というよさがある。そのよさを児童も感じることができた。

今後の課題

1 授業スタイルの確立

 教科のねらいにあわせて創造的な学びにするプログラミング学習のアイディアは、教師が出していくことになる。つまり教師が創造的でなくては、この研究は進まない。知識・理解を深めることに重点を置く一斉授業から脱却する必要がある。今後は、教科のねらいを達成するための授業において、自由度を確保しながら、主体的で対話的な学びとするための授業のスタイルについて、検討していく。

2 思考の可視化

 プログラミングの学習では、PCやタブレット端末を利用して授業を進めるが、児童の思考や協働作業での話し合いの内容の掌握が難しく、参観する教師は、児童が何をしているのかを把握しづらい。ワークシートやホワイトボードなどを利用して、思考の可視化を行ってきたが、まだ不十分であると考えている。児童の思考を黒板に整理したり、机間指導の際に、教師はデジタルカメラで記録したり、メモを取ったりする。グループの思考は、ホワイトボードにまとめることで、参観者だけでなく、児童にとっても自分たちの考えとその変化をわかりやすいものにしていく必要がある。グループの思考のまとめ方については、児童が自然に行えるような教師支援の方法を考案したい。

3 デバイス自体の故障や不具合への対応

 アプリの動作は順調であったが、micro:bit Maqueenなどのデバイスを利用する場合は、これらのデバイス自体の故障・不具合を考慮する必要があった。経験を重ねれば、児童自身で対応できるようになるので、繰り返して実践することが大切であると考えている。それとあせて、予備機を複数用意し、整備をしていくことも必要である。児童の学びとして、コンピュータはきちんと動いてくれないことがあることを理解する機会ともなるので、低学年から外部デバイスの利用を進めていく。

今後の計画

次回訪問日 11月6日(金)

スケジュール 低学年・高学年の2つの授業を公開し、授業研究協議会を行う。

       研究協議会では、長谷川元洋先生のご指導をいただく。

 内容は、第1回と同様にアプリや外部デバイスを利用し、教科指導と合科授業を公開する。授業では、本時での思考の変化や活動の様子を見取るための手だてを講じ、有効であったかを検証する。深い学びとなるように、本校の授業展開例に則った授業を行い、習得、活用、探究という学びの過程を教師が意識して、授業構成をする。

 環境整備として、パソコン室や理科室の背面にホワイトボードシートをはったり、移動式のホワイトボードを用意したりして、児童が授業中に、思考を書いたり、話し合いの素材を書いたりできるようにすることを考えている。

気付き・学び

 児童は、実践をするたびに、プログラミングに関する技能を身に付け、教師に言われなくても、使える機能を見つけ出して利用したり、応用したりする場面が授業の各所で見られた。

 意図的教育が行われる中に、無意図的教育も行われている。教師は、この無意図的な教育作業についても、意図的に行っていかなければならない。

成果目標

  1. ・プログラミング学習が、主体的・対話的に行われ、創造的な学びとなっているか。
  2. ・意図したこと(計画や設計図等)を実現させるために、試行錯誤していく児童の姿が見られたか。

これら2つの点について、ルーブリック評価、思考の可視化を行っていく。

 また、本校は3学期制である。1学期のうちに全学級で1種以上のプログラミング学習のモデル学習指導案を作成・編集する。

アドバイザーコメント
長谷川 元洋 先生
金城学院大学
教授 長谷川 元洋 先生

 岡崎市立羽根小学校は7月17日(金)午後に「音楽」(4年生)と「理科・社会・総合的な学習の時間合科」の2つの研究授業を実施しました。 コロナウイルスの感染拡大の影響が収まらない中ではありますが、私の勤務大学は羽根小学校と同一県内であることから、研究授業の参観と全体協議会の両方に参加できました。パナソニック教育財団の方は全体協議会にオンライン参加されました。

 音楽の授業は「いろいろな音のひびきを感じ取ろう(5時間完了)」の単元で、「Grage Bandで音楽づくり」が行われました。教師が用意した「茶色の小びん」(芙龍明子 日本語詞 ジョセフ ウィナー/浦田健次郎)の音楽に様々な学期の伴奏を付けることで、「お祭り」「サンバ」「クリスマス」など自分が設定したテーマのにあったイメージに創り上げていく授業が行われました。「音色」「強弱」「たてと横との関係」などを考えながら、ガレージバンドを使って伴奏を付けていました。「プログラミング的思考」(自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力)の育成の観点からは、様々な楽器の伴奏を付けていく過程で、自然に、「順次処理」「繰り返し処理」「条件分岐処理」のいずれかを選択したり、組み合わせたりしながら、曲作りを行っていました。PCは使用するが、プログラミング言語は用いない「プログラミング的思考」を育成する授業で、かつ、「③各教科等の内容を指導する中で実施する場合には、各教科等での学びをより確実なものとすること」(小学校プログラミング教育の手引き 第三版,P11)を実現する授業でした。

 理科・社会・総合的な学習の時間合科の授業は「未来の交通システム(15時間完了)」の単元で、ロボット制御をする授業が行われました。理科で電気回路を学習し、社会科で交通事故の問題について学習したことを踏まえ、情報システムによって安心、安全な交通システムを考えることを目指す授業でした。児童は、ロボットが自動的に、信号が青色の時は直進、黄色の時は減速、赤色の時は停止するプログラムを、ロボットを動かしながら考えていました。この授業は「①『プログラミング的思考』を育むこと、②プログラムの働きやよさ、情報社会がコンピュータ等の情報技術によって支えられていることなどに気付くことができるようにするとともに、コンピュータ等を上手に活用して身近な問題を解決したり、よりよい社会を築いたりしようとする態度を育むこと、③各教科等の内容を指導する中で実施する場合には、各教科等での学びをより確実なものとすること」(小学校プログラミング教育の手引き 第三版,P11)の3つを実現するものとなっていました。

 また、パフォーマンステストにより児童に自分の学び方を振りかえらせる機会を作り、主体的・対話的で深い学びを促す工夫もされていました

 今年度は大きな予定変更があり、例年以上に大変な状況でありますが、しっかりと研究を進められている羽根小学校の先生の取り組みは大変、素晴らしいものです。秋に予定されている次回の研究授業ではさらなる発展を期待いたします。

本期間(8月~12月)の取り組み内容

1 児童1人に1台のタブレット端末配付と環境整備

 岡崎市の進める児童1人に1台のタブレット端末(iPad利用)が、9月から6年生に、10月から4、5年生に配付された。このタブレット端末を、岡崎市では「マイタブレット」と称する。教職員にも1人1台のタブレット端末が市から配付された。

 校内環境整備としては、8月に、校内無線LANやアクセスポイントの整備を行い、Bluetooth用のワイヤレススピーカーを設置した。また、廊下の壁を改修し、映像作りで利用できるクロマキー合成用の壁を作った。さらには、特別教室のホワイトボードシートや普通教室で利用するキャスター付き縦型ホワイトボードを設置し、授業で活用することで、児童の思考の可視化ができるようにした。

教職員のマイタブレット利用研修

 教職員研修としては、児童がマイタブレットを持つに当たり、マイタブレット利用のスタートアッププログラム実習やグッドノートやミラーリング等の授業で利用できる技能実習を行った。教職員も、1人1台のタブレット端末を、毎日の職員連絡等の情報共有のために利用するようにして、タブレット端末の利用を生活や業務の一部に取り入れていった。これらのことにより、1学期以上に、授業等でのICT利用が頻繁に行われるようになった。

2 2学期の研究を進めるにあたって

 7月の第1回アドバイザー訪問研究授業での長谷川教授の助言を受け、2学期初日の8月26日に全教職員で行った研究推進会議では、創造的な学びの実現のために研究の骨子を再確認し、2学期の研究実践での課題を挙げた。児童の思考の質を上げるためのモデリングの提示、よりよい成果物にするための観点や修正の観点の情報共有、学びのフィードバックができる板書やワークシートについての工夫をし、教科の見方・考え方を働かせた学習活動を児童の発言で進めていくことに努め、長谷川教授から助言のあった学びのルーブリックを参考に児童の能力育成を目指している。

児童がまとめに多く使った言葉が大きく表示される。(社会科・スクールタクト)

 2学期の実践では、日常の授業においてタブレット端末を活用し、様々なアプリや外部デバイスの利用を進めてきた。例えば、コードタクト社の「スクールタクト」を使って調べたことを書きまとめ、共同閲覧モードにすることでお互いの設計図やまとめを見合い、コメントを送るなどして主体的・対話的な学びとなるように仕組んだ。思考の過程が記録できることや教師が学級全体の傾向をつかんだり、児童が誰と関わり合いをもったのかを確認したりすることに利用している。

 また、普通教室でホワイトボードやワークシート等を活用して、目標や手順などの思考や児童の活動意図を可視化し、それを互いに見合うことで協働的な学びの場としている。このように、プログラミング的思考を高めることをねらった授業を、各教科、総合的な学習の時間において展開し、学びのあり方を追求した。

3 2学期の授業実践

 タブレット端末を活用した授業実践の中から、いくつかを次に紹介する。

1年生 まねっこあそび

 1年生では、体育科「まねっこあそび」で、Ollieに自分が選んだ動物の動きをプログラムし、Ollieといっしょに表現遊びをした。

 2年生では、生活科の単元「ユーチューバーになろう」を構想し、おもちゃの作り方と遊び方の説明の動画をiPadの標準アプリであるiMovieを使って作成した。

4年生 月や星の動き

 3年生では、社会科でコラボノートを使って、スーパーマーケットのひみつを新聞形式でまとめた。

 4年生では、保健体育科の授業で、毎年の自分の身長をScratchでグラフにし、画面上で友達のグラフと重ねることで、成長には個人差があることに気付かせた。また、理科で、満月の位置を予想した後、アプリを使って調べ、自分の手を月や太陽に見立てて確認しながら理解を深めた。

5年生 届けられるか!?
配送センターからコンビニへ

 5年生では、総合的な学習の時間と社会科の合科で、Micro:bit maqueenを使い、コンビニの品物がなくなったら、トラックで荷物を配送するプログラムを工夫して作ったり、クロマキーの合成をして英語の自己紹介ムービーを作ったりした。

6年生 トンネルに入り、暗くなるのを検知してライトをつけるプログラム

 6年生では、総合的な学習の時間と理科、社会科の合科「未来の交通システム」の大単元を構想し、環境とエネルギーの視点から、Micro:bit maqueenのライトをつけたまま走らせるのでなく、トンネルに入ったら明るさセンサーでライトをつけ、トンネルを出たら消すというプログラムを作った。思い通りのプログラムを作成するために試行錯誤している間にも車が動き続けることから、「Aボタンが押された時に、車が動く」というブロックを入れて、電池の無駄な消費をなくそうと児童が自らプログラムに組み込む姿も見られた。

 特別支援学級では、音楽科と生活単元の合科で、曲に合わせたオリーの動きを考え、ロール、モール、スピンなどの動きを組み合せてプログラムを作り、思い通りに動くように修正を重ねて鑑賞し合った。

5・6年生 JALとZoomを利用した本物指向の授業

 また、5・6年生の社会科と総合的な学習の時間の学びとして、155°広角webカメラとTV会議用ノイズキャンセリングマイクスピーカーを設置し、各学級の教室とアメリカアリゾナ州、羽田空港事務所とZoomでつなぎ、JALの機長や客室乗務員との交流授業を行った。加えて6年生では、総合的な学習の時間で学んでいる防災に関して、岡崎市消防本部共同通信課と市役所防災課の方とZoomを利用したテレビ会議を行い、質疑応答するなどの学習活動をした。このようなJALや消防本部の方との話から、飛行機が飛ぶことや消防活動などは、様々な部所が組織的に存在し、それらがシステムで管理されて、大きな動きになっていること、また、私たちが普段見えていない部分に様々な対応マニュアルがあったり、チェック機能があったりすることが分かった。これらは、社会の中でシステムが複雑に関係していることを理解するよい機会となった。

4 アドバイザー訪問授業(11月6日)

 アドバイザー訪問授業では、1年生と6年生の2つの学級で授業研究を行った。本校のプログラミング学習モデル指導案展開例にある通り、授業開始から児童の発言があること、モデリングや情報共有の機会を確保することなど、これまでの課題に対応した授業を展開した。

(1)第1学年 生活科「ようこそあたらしい1ねんせい その1」(9時間完了)

 児童は、園児に羽根小学校の楽しいところを教えたいと意欲をもっている。園児の気持ちを想像し、園児に伝えたい事柄や伝え方を選んで工夫して伝えることを目標に本時の授業に臨んだ。

一斉視点・課題を共有する

班で話し合った工夫を書く

操作の手順を見て編集をするれた黒板

 本時は、園児に伝えたい学校のよさの2つ目の事柄についてのムービーを作る。前時までに「教えること」「せりふ(文字)」を設計図に書いておいた。導入では、児童が見たい班のムービーを視聴し、気付いたことを述べ、「もっと園児に分かりやすくするためにどんな工夫ができるか」と考え、自分たちが班で工夫することを、衝立型ホワイトボードに書き込んだ。これにより、児童が何を意図して活動をしていくのか参観者にもよく分かった。

 ムービーの編集は、児童は黒板に貼付された操作手順を見て活動し、教師に教えてもらおうとすることはなかった。また、他の班とアドバイスをする場面では、「もう一つ動画を撮って入れたらいいよ」というアドバイスを取り入れたり、「これなあに」と尋ねられて、キャプションをつけたりする姿が見られた。

 長谷川教授からは、ティンカリング的要素のある活動で、教科のねらいを実現する深い学びになっていたと評価をいただいた。

(2)第6学年 図画工作科「 形と色が動き出す!」(7時間完了)

 6年生の授業では、画面が動いているかのような滑らかな動きやグラデーションを表現するために、「中割り」の仕方を工夫してアニメーションを描くことを目標に設定した。Pyonkeeを使って、「不思議な宇宙物語」をグループ4人で分担して作り、つないで完成させる活動である。1人5秒の時間の中で、数十枚の中割りを考え、制作する。絵を描くことがあまり好きではないという児童が学級に半数以上いたが、全員が黙々と取り組んでいた。1人約50枚の中割りを制作し、滑らかな動きと、物語の展開のおもしろさ、画面の使い方の工夫等、教師が想定していた以上の作品に仕上がった。

個々の作品を作制

付箋のアドバイスによる作品の修正

完成したアニメーションの発表

 授業の導入に意図的に選んだ作品を鑑賞させ、各グループの課題をつかむ際の参考となるよう工夫点や改善点を考える活動を行った。授業後の協議会では、発表した作品の意図を語らずに、他のグループの児童に意見を求めたために、十分なモデリングとはならなかったことが反省点として挙げられた。また、友達へのアドバイスを付箋に書いてから話し合っていたことについて、児童はすぐに話し合いができていたことから付箋は必要なかったのではないか、話し合い後の修正の時間が十分に確保されなかったと意見が出された。また、一方で付箋に書かせることで後で見直すこともできるというメリットがあることから、話し合って修正することにしてはどうかという意見も出た。長谷川教授からは、児童は活発に自分たちの思いを言葉で表出できていたことや、研究協議会の中で、付箋に考えを書くことには後から見直すことができるメリットと修正のための時間確保の問題を両立させるためのアイデアを教員どうしが工夫し合っていること等を評価いただいた。また、教科のねらいを実現したプログラミング学習であったと、評価をいただいた。

5 プログラミング学習モデル指導案の収集

 プログラミング学習の構想は教師が各々で考え、それを学年部会で検討し、指導案を立てて日々の授業で実践した。全学級で実践したプログラミング学習の授業から、モデル指導案とモデルワークシートを20種程度取り上げ、指導案集としてまとめることができた。

 2学期、3学期も同様にまとめていく。

プログラミング学習モデル指導案

アドバイザーの助言と助言への対応

  • ・パターン化した主体的な授業ができており、児童が時間配分を理解して活動できていた。児童は、教師に質問するのではなく、教師の評価を得たくて声をかけていた。
    →プログラミング学習に限らず、日頃のどの授業においても、①前時の学びの想起、②本時の学習課題の理解、③学習課題の解決方法や手立てをモデリングにより具体化するといったパターンで授業を行っていく。そうすることで、児童が見通しをもって学習を進めていけるようになる。また、主体的な授業にするための課題の設定やモデリングの方法についても検討していく。
  • ・主体性や自由度を確保するための「足場」として、黒板に操作方法を明記していて効果があった。また、自由度があることから、ティンカリング的要素がある活動ができた。
    →やってみたい、楽しい、わくわくすると児童が感じたとき、児童は自ら動き出す。授業の価値や意義、必要性を児童が理解していること、設計図などにより、見通しや計画をもって学習できること、手立てが明らかになっていることを重視し、創造的要素のある学習を今後も計画していく。
  • ・協議会では、付箋にコメントを書かせることは、後で見返すことができるというメリットがある一方で、十分な活動時間が取れなくなるというデメリットがあることについて話し合われた。話し合い、修正することにした点を付箋に書かせることで、記録を残し、かつ活動時間を確保できるとするアイデアが提案された。
    →活動時間を確保することと、協働的な学びのための手立てとを考え、その授業ごとに最適な手段と方法を検討し授業を構成していく。

本期間の裏話

 6年生の図画工作科「形と色が動き出す!」では、1秒間に5つの中割で、1人5秒を持ち時間とした。よって、1人25枚の中割を制作する予定であった。ところが、1秒間に10枚が滑らかさを出すのによい枚数であることに気付き、児童は、マイタブレットを使い、休み時間にもどんどん制作を進めていった。いざ、4人の作品をつなげて1つにしようとしたとき、データ量が大きすぎて保存できないということが起きた。

 この学習に取り組む前には、絵を描くことが好きではないという児童が多かったが、どの子も楽しそうに絵を描き、教師の想定を超える作品が出来上がったことは、大変嬉しいことであった。

本期間の成果

  • 1 教師は、児童が目標や目的に迫るために設計図や計画を立て、改善を加えていく展開を重視している。児童同士で協働的に学び、試行錯誤し、論理的に考える経験を積み重ねる授業展開ができる教師が増えた。
  • 2 児童は、授業の中で育んできたプログラミング的思考力を生かし、新しい方法に挑戦したり、よりよいアイディアを発想する姿を見せたりするようになった。
     例えば、1年生生活科では、園児に、小学校生活では朝登校したら自分で名札をつけることを教えたいという思いから、名札をつける様子を動画で撮影した。動画の編集では、園児に名札がよく見えた方が伝わると考え、iMovieで画面の2分割の機能を使い、片方にズームした名札の映像を加えていた。キャプションをつける、音声を入れる、新しい映像を撮影して追加するというこれまでに学んだ活動に、2分割して2つの映像を流すという新しい方法を取り入れることができた。
     保健委員会の児童は、正しい手洗いを全校に呼びかけたいと考え、休み時間を利用して手洗い動画を作成しテレビ放送で流した。このように委員会等の特別活動をはじめ、生活の中で、授業の学びや授業で身につけた技能を自分のしたいことに活かし、さらに、新しい解決方法を見つけ出し、困ったときは友達同士で教え合い、自分たちで活動を進める力がついてきている。
  • 3 児童の思考の可視化が図られるようになった。
     設計図やホワイトボード、付箋等を教師が意図的に利用し、児童の思考を児童同士、教師、参観者などに分かるようにした。児童がどのように考えているか、また、どのように考えを変えたかが分かるようになり、授業分析をするのに役立てることができた。

今後の課題

  • 1 学習課題を解決するためのモデリングをすることを、児童の学びの質を高める手立てとしている。今後は、モデリングのタイミングや目的に応じたモデリングの方法、それに結び付ける教師のナビゲートの仕方について検討を要する。
  • 2 ホワイトボードや付箋等を使って児童の思考を可視化すると同時に、活動時間を確保し、思考を深める効果的な方法を検討していく必要がある。
  • 3 教科の目標を達成する授業展開を目指しているが、教師も児童もICTの操作にとらわれて、本来の教科のねらいからやや逸れてしまうことがある。教科の見方・考え方を教師が十分に把握し、どこを児童に試行錯誤させるのかを吟味し、授業を組み立てたい。
  • 4 児童が主体となった自由度のある授業では、児童各個人の活動内容の把握が難しい。授業後に成果物やワークシートを確認したり、聞き取りを行ったりしているが、授業の中でいかに児童の変容をとらえていくかについて工夫していく必要がある。

今後の計画

  • 1 学びに対して、児童自身、または児童同士で学習課題に迫っていく時間を確保し、主体的で対話的な学びとなるための授業スタイルの確立を引き続き目指す。
  • 2 2学期、3学期の授業実践をプログラミング学習モデル指導案として作成・編集する。
  • 3 本校で作成したパフォーマンス検査を7月に行い、集計結果を出したので、年度末に再度パフォーマンス検査を行い、これまでの研究についての評価をしていく。
  • 4 令和3年2月12日(金)に参加者を制限した中間発表・授業公開をする予定である。

気付き・学び

「1年生の児童がiMovieを使って制作ができるのであろうか。どんな作品になるのだろう。何を試行錯誤することができるのだろうか。」1年生生活科「ようこそあたらしい1ねんせい その1」の授業の指導案作成中に、児童の発達段階と照らして疑問に感じたことである。しかし、実践してみると、児童にとって活動の目的がはっきりとしていて、相手意識があったことにより、スムーズに活動が進んでいった。この活動の価値や意義、必要性を児童はしっかりととらえていた。今後の授業実践でも、児童が見通しをもって活動できるようにしていきたい。

成果目標

  1. 1 プログラミング学習が、主体的・対話的に行われ、創造的な学びとなっていくこと。
  2. 2 意図した計画や設計図等に基づいて成果物を完成させるために、試行錯誤して目標に迫る児童の姿が、授業での発言、友達との話し合い、ワークシート、作品作りの中で見られること。
  3. 3 プログラミング学習を行うことにより、児童の学びに向かう姿勢が主体的なものとなり、日常的な学びにおいても協働性が見られるようになること。
  4. 4 1年間の実践をプログラミング学習モデル指導案集にし、だれでも活用できるようにすること。
アドバイザーコメント
長谷川 元洋 先生
金城学院大学
教授 長谷川 元洋 先生

 岡崎市立羽根小学校は11月6日(金)午後に「生活科」(1年生)と「図画工作科」(6年生)の2つの研究授業を実施しました。また、研究授業の後、全体協議会が行われました。パナソニック教育財団の方は研究授業、全体協議会ともにオンラインで参加されました。

 今回の2つの授業はともに自分達で表現する授業であり、複雑な学習活動が行われたことから、「プログラミング的思考」を育成できているかどうかという視点に加え、創造性を伸ばす実践になっているか、さらに、コンピュテーショナルシンキングの視点でも授業を分析しました。なお、「プログラミング的思考」(自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力)について、「いわゆる『 Computational Thinking(コンピュテーショナル・シンキング)』の考え方を踏まえつつ、プログラミングと論理的思考との関係を整理しながら提言された定義である。」と「小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ) 文部科学省」で述べられています。

 生活科の授業は「ようこそあたらしい1年生(9時間完了)」の単元で、iMovieを使ったビデオ作成を行わせる活動の中で「プログラミン的思考」を育成しようとする実践でした。教室にはグループ数分のパーティション型のホワイトボードが設置されており、児童同士がアドバイスをしあえるような手立てが取られていたり、グループで協働して改善していく活動場面が設定されていたりしました。コンピュテーショナルシンキングの視点からは、「Logic」(論理的推論・分析)、「Evaluation」(評価)、「Patterns」(パターン化)、「Decomposition」(分解・脱文脈化)、「Abstraction」(抽象化),「 Persevering 」(辛抱強さ),「Collaborating」(協働)等の概念を学ぶ授業になっていました。

「図画工作科」の「形と絵が動き出す!(7時間完了)」は、PYONKEEを用いて、アニメーション作品をプログラミングによって作成する実践でした。教科の内容として、連続する色の変化であるグラデーションを生かした表現に加え、時間的な形の変化も加えたアニメーションによる表現も行う授業でした。コンピュテーショナルシンキングの視点からは、「Logic」(論理的推論・分析)、「Evaluation」(評価)、「Algorithms」(アルゴリズム)、「Patterns」(パターン化)、「Decomposition」(分解・脱文脈化)、「Abstraction」(抽象化),「Collaborating」(協働)の概念を学ぶ授業となっていました。

 協働的に学ばせるために付箋を活用した意見交流をするなど工夫が見られました。授業後の研究協議では参観された先生方が活発に意見を述べられ,後で見返すことができるメリットと時間がかかるというデメリットの相反する点を両立するために「話し合いの結果,修正した点を付箋に書かせる」というアイデアがだされ,教師自身が問題解決能力を発揮する場面が見られました。

 コロナ禍の影響で1学期の行事が2学期に行われるなどして、例年以上に多忙な中、しっかりと研究を進められている羽根小学校の先生方の取り組みは大変、素晴らしいものです。冬に予定されている次回の研究授業でも、さらなる発展があるものと期待しております。

以 上

本期間(1月~3月)の取り組み内容

1 本校研究2年次のまとめに向けた研究推進

 令和3年10月の岡崎市委嘱研究発表会本発表に向けて、令和3年2月12日には、中間発表授業を行った。中間発表では、本校研究の手立てが有効に働くよう授業に取り入れ、各教師が思い切った授業実践を行うこととした。主体的・対話的な学びから創造的な学びへと向かう授業の実現について、共通理解を図るための研究推進会議を全職員で行った。

 以下が、授業展開において重視した点である。

  • ①導入段階での児童の思考の活性化と児童の思いや問題意識による学習課題設定
  • ②学習課題の理解と解決方法の情報共有
  • ③究明段階での児童の思考段階に合わせた個別の支援
  • ④整理段階での児童による協働的な成果の評価

 また、Bluetoothやmicro:bitなどの利用研修を行った。

2 プログラミング学習モデル指導案の作成と中間発表授業

 教師が複数のアイディアを実際に試し、教科のねらいに合っているか、プログラミング的思考育成のために児童が自力で試行錯誤する活動があるか、児童が主体的に取り組める学習内容であるか等を考え、使用アプリ・機器等の教材研究をした。本校研究の手立てを授業展開に取り入れ、岡崎市の教員が利用するプログラミング学習モデル指導案の形式に合わせて指導案を作成した。中間発表の授業一覧は、次の通りである。

 中間発表の授業を一部紹介する。

①図画工作科「ピコリン星 ゆめのステージ」(2年生)

 夢や願いをかなえる自分の分身であるピコリン星人を制作し、それを自分の作った物語に沿って、タブレット端末でコマ撮りし、動いているような作品をつくる授業を計画した。

 授業の初めに、忘れ物を取りに行くところがうまく表せない児童の作品を取り上げた。児童たちは、「前を向いたり横を向いたりするだけだと伝わらないから、一歩ずつ前に歩いて行って、一度画面からいなくなるといいんじゃないかな」「忘れ物が鉛筆だって分かりにくいから、鉛筆を大きく映したらいい」とアドバイスを伝え始めた。また、「地球を一周回っているように見せたい」という児童には、教師から正面からだけでなく上からや後ろからなど、撮影する方向を変えることをアドバイスした。児童は、とぶ車を逆さまにしたり、置く場所を少しずつずらしたりしながら、友達に協力してもらって撮影し、自分の作った物語を、思い通りに表現することができた。

「上から撮影したら、ゆでているラーメンが見えるよ」

「龍のしっぽをふんだところ。この後、龍の顔を大きく撮ろう」

板書の一部

②理科「すがたを変える水」(4年生)

 micro:bitを各自でプログラミングし、水を熱し続けて温度を計測した。ストップウオッチで時間の計測をし、1分ごとにmicro:bitに表示される温度を理科ノートに記録した。また、タブレット端末で熱せられた水の様子を録画すると同時に、自分の目で水の様子の変化を観察した。気付いたことは、理科ノートに書き込んでいった。

 micro:bitとPCを連動させておくことで、計測された温度はグラフ化される。プリントアウトしたグラフから、既習事項と生活経験を基に、水の粒の模型を使ってなぜ水の温度は100℃になると変わらないのかについてそれぞれに考えた。集中して実験、思考することができた。

役割を分担し、水の様子の変化を真剣に観察する児童たち

micro:bitで計測された温度は、同時にグラフ化される

「なぜ、水の温度は、100℃になると変わらないのか」

③総合・社会科「われら お困りお助け隊」(5年生)

 介護ロボットの制作に取り組む企業や岡崎市社会福祉協議会と連携し、介護ロボットに触れた後、Micro:bit Maqueenで介護ロボットを作る授業を行った。児童は、お年寄りの困りごとを設定し、それに対応する動きをMaqueenを動かし、試行錯誤した。

 あるグループは、介護施設において、お年寄りが倒れてしまったら、Maqueenがお年寄りの部屋まで駆けつけるプログラムを組んだ。「夜中だったら、音を鳴らしながら走れば、職員さんに気付いてもらえるよ」と出来上がったプログラムに音を鳴らすことを加えた。

計画を書く児童

グループに分かれて活動する様子

施設を想定して

 この授業は、コロナ禍で外出できない地域の高齢者からいただいた、敬老会のお礼の手紙に心が動かされて始まった。介護ロボットの現状、認知症サポーターのお話を聞き、花育推進プロジェクトを活用したHANAプロジェクトに参加した。このHANAプロジェクトでつながった老人ホーム「暮らしの杜ふくろうの家」の方と、Zoomを使って話をし、手元に持ったタブレット端末のコラボノートEXを使い、お絵かきリレーやクイズなどの遊びをして小グループで交流を深めた。6年生へ進級しても、児童が満足するまで交流活動を続け、この学習で身に付いたことを下学年へと発信し、持続可能な交流が行えるようにしていこうと考えている。

口腔機能訓練支援ロボット
パペロを体験

羽根小学校パソコン室と施設をZoomでつないで交流

施設での様子 画面を共有しているので、お絵かきリレーができる

④総合・理科・社会科「未来の交通システム」(6年生)

 理科室の机の上に街を作り、災害が起きた想定で、信号機を全て赤にしたり、Maqueenが自動停車して道を譲ったり、ドローンが現場に駆けつけたりするプログラムを作った。1学期から実践を続けてきた合科授業の第17時間目である。

 理科室背面のホワイトボードシートには、各班の計画を活動前に書き込んだ。これにより、グループ内の友達と考えを共有できると同時に、他の班の考えを知り、児童同士がかかわりをもつことができる。また、教師がそれぞれの児童の意図や思いを知ることができ、支援しやすくなる。これは、これまでの実践で、児童の思考が把握しにくかったことから、何を意図して活動しているのか分かるようにと改善した点である。

 緊急車両が通れるように、普通車は自動停車して道をあけるようにプログラムを作ってみると、そこには、ビルがあり、道を開けることができず、どうしたらよいのか試行錯誤するグループがあった。プログラムを組み直し、道の端に普通車を寄せたり、交差点で左折して道をあけることで解決し、ドローンを目的地まで飛ばすことができたグループもあった。このような経験を繰り返していくことで、意図した処理を行わせるために必要なプログラミング的思考力を身に付け、未来の社会を予想し、主体的・協働的に取り組む態度を備えた児童を育てていきたいと考えている。

信号機の光を確認する児童

理科室背面のホワイトボードに書かれた班ごとの計画

3 環境整備

 令和3年1月までに、岡崎市GIGAスクールの整備として、1年生から3年生の1人1台のタブレット端末が配付され、各担任は、3学期が始まってすぐに使用できるようにアカウント入力等の整備を進めた。これにより、3学期は、1人1台のタブレット端末を全校児童が持つこととなった。また、体育館には、常設のカメラを設置した。コロナ禍において、全校児童が体育館に集まることができなくなっていたが、このカメラにより、体育館での外部講師の話や行事を、全校児童が各教室からモニターを見て参加することができるようになった。

4 クラブ活動等

 12月末には、岡崎市教育委員会と連携し、おかざきッズプログラミング・フェスタ2020を本校を会場として行った。本校職員や関係職員が講師となり、本校児童も多数参加した。

 その一方、1月以降の土曜日ごとに開催を計画し、準備を進めていた「羽根小プログラミング教室」は、愛知県に緊急事態宣言が発出されたため、中止とした。また、1月に筑波大学附属小学校の鷲見辰美先生を講師に迎え、鷲見先生による5年生理科の授業を職員が参観し、研修会の開催を予定していたが、同理由で中止となった。

アドバイザーの助言と助言への対応

 本校のプログラミング学習モデル指導案については、意図する動きを実現するプログラムを論理的に考えさせるための授業デザインがされている。誰でも分かるように、指導案の中に、「順次処理」「条件分岐処理」「反復処理」「パターン化」「抽象化」などのプログラミング教育としての要素を明記するとよいのではないかとご指導いただいた。来年度は、指導案にこれらを入れ、新しい形式を検討中である。

 また、本校の研究の手立てや目指すものへの方向性を考えていく上で、次のことを考えていくことが必要であるとご指導いただいた。

  • ・「プログラミング的思考」の育成で目指す具体的な力を明確にする。
  • ・プログラミング教育の視点から授業を見るにはどうしたらよいのか。
  • ・プログラミング的思考育成のための達成目安を本年度の研究のまとめとして検討していく。また、本日の授業と照らして考えていくとよい。

 プログラミング的思考、コンピュテーショナルシンキングの概念から見た思考活動をもとに、プログラミング的思考育成のための学年段階の目標の見直しをし、来年度の研究について、方向を定めていく

本期間の裏話

 中間発表に向けて、本校教師はそれぞれのアイディアから授業を構想した。実際に試し、うまくいかなければ次にできるものを見つけて、教師が粘り強く授業準備を進めることができた。その中で、教師の目の付けどころのよさに関心させられることも多くあった。

 大変苦労したことは、プログラミング的思考を働かせる場面で、児童が行う試行錯誤をうまく想定できなかったことである。例えば、5年生の「お年寄りの困りごとを助けるロボットをつくろう」という実践で、学習指導案作成段階では、教師が児童の発想を予想することが難しかった。児童の発想に、教師が追いつかない状態が多くなっていることが分かる。

 一人暮らしのお年寄りが倒れたことを知らせるロボットで、手に付けたmicro:bitが「右に傾く→Maqueenが動く」のフローチャートを実際に児童に見せると、児童は、「右に傾く」を「5Gの衝撃を受ける」のコマンドブロックに変えて、「家の電話番号を表示する」とフローチャートを書いた。「倒れたら、きっと慌ててしまうから、電話番号が表示されたらいいと思う。救急車の電話番号でもいいかな。モニターがあって家族が見られたらいいな。」と次々と語っていく。児童の柔軟な発想に驚かされると同時に、教師の柔軟な発想で、児童がいきいきと思考を働かせる授業づくりを目指していきたいと感じた。

本期間の成果

 ワークシートやホワイトボード、付箋等を使って児童の思考を可視化することや、協働的な学びの場を教師が意図的に設定できた。

 主体的・協働的な学習とするための授業構想について検討し、新しい実践を増やすことができた。

今後の課題

  • 児童による相互評価
  • プログラミング学習の目標設定と評価の方法

今後の計画

  • 1 本年度の研究のまとめとして成果と課題を洗い出し、来年度の研究の目標を設定する。
  • 2 プログラミング学習モデル指導案の形式を新規にし、次年度の実践を積み重ねる。
  • 3 2年次第1回パナソニック授業研究会 令和3年6月18日
  • 4 岡崎市委嘱研究発表校本発表 令和3年10月13日

1年間を振り返って

 初めてプログラミング学習に取り組む教師もいる中、これまで本校では実践のなかった新しいアプリや外部デバイスなどの使用にも挑戦し、よりよい授業実践を行おうと前向きに研究を進めることができた。そして、本校の実践をまとめたモデル指導案を、各学期ごとに作成し、プログラミング学習モデル指導案集を作ることができた。岡崎市のGIGAスクール構想による環境整備の時期が重なり、1人1台のタブレット端末が整備され、本校独自で思考の可視化のための理科室等のホワイトボードシートの設置、児童の成果物を映すモニター等、環境を整備した。

 年度当初、授業研究の協議会で、参観した授業について、教科の学びを十分に達成しているのかといった意見があった。しかし、伝えたいことの中心や児童の意図を明確にした授業を行い、児童のICT技能が高まり、操作に一層慣れたことで、機器を教科の目標達成の手段として使いこなすことができるように習熟するようになった。これにより教科の学びとなる活動が充実し、問題は解消できそうであると感じた。

 今後は、プログラミング的思考、コンピュテーショナルシンキングの概念から見た思考活動といった視点を加え、プログラミング学習において教科のねらいに迫る児童の姿を教師が明確にもつこと、児童自身が学びを提案して進めていける方向へと実践を進めていく。

成果目標

  1. ・プログラミング学習を主体的・対話的に行い、創造的な学びにする。
  2. ・意図した計画や設計図等に基づいて児童が成果物を完成させるために、授業の中での発言や友達との話し合い、ワークシートの修正、試行錯誤する姿に、本時の目標に迫る児童の姿が見て取れる。
  3. ・プログラミング学習を行うことにより、児童の学びに向かう姿勢が主体的なものとなり、日常的な学びにおいても協働性が見られるようになる。
アドバイザーコメント
長谷川 元洋 先生
金城学院大学
教授 長谷川 元洋 先生

 岡崎市立羽根小学校は令和3(2021)年2月12日(金)午後に中間発表授業として、5限目(13時45分〜14時30分)に12学級、6限目(14時40分〜15時25分)に9学級の合計21学級でプログラミング的思考を育成することを目指す授業が行われました。令和2年度中に若手からベテランの先生まで,全ての先生がプログラミング的思考の研究授業を実施され,正に学校全体で取り組む研究となっています。これは教師自身が,協働性,チャレンジ精神,向上心等を発揮している証でもあると思います。

 羽根小学校は、岡崎市のプログラミング教育のモデル指導案の開発も目指しており,単にプログラミング教育の事例としてだけでなく、他校が参考にできることも考慮した指導案作成が行われていました。

 例えば,4年生の図工の授業では,設計図に基づいてプログラムを組ませた後,「なぜこのようなプログラムを組んだのか」を説明させ,それを板書して情報共有し,他の児童が質問する場面を設定しています.これによって,「プログラミングの意図を説明させる活動+改善する活動」を実現する授業の流れとなっています.正に,「『プログラミング的思考』(自分が意図する一連の活動を実現するために,どのような動きの組合せが必要であり,一つ一つの動きに対応した記号を,どのように組み合わせたらいいのか,記号の組合せをどのように改善していけば,より意図した活動に近づくのか,といったことを論理的に考えていく力)を育む」を実現する授業の流れのモデルといえます。

 次に,教科の目標を達成するためのプログラミング教育を取り入れた授業として4年生の社会科「ぼくわたしの節水アクション!」を取り上げます.岡崎平野を潤す河川や用水等の学習の後,節水のための工夫の一つとして自動水栓のプログラムを考えさせる取り組みが行われていました.この学習をした児童は,日常生活の中で自動水栓を見た時に、センサーが手の位置を感知し、スイッチで弁を制御していることをイメージしたり、水量をチューニングしてあることも理解できたりすることと思います。教科書に書かれている内容や社会的問題を自分事として捉え,日常生活の中でも意識して考えるようになることを目指す授業であるといえます.

 総合的な学習の時間の授業でも,介護や救助活動等の社会問題を取り上げた授業が行われていました.情報が日常生活や社会に与える影響を考え,探究的な学習の過程の中にプログラミング教育が位置付けられていました.

 児童達が自ら考え,創造性を発揮して,プログラミング的思考を働かせたプログラムやコンテンツを作成するためには,それを実現するためのスキルが必要となります.すべての児童がスムーズに学習活動を行えるよう,教師がきめ細やかな手立てをしていることが羽根小学校の実践を支えている大きな要素であるといえます.また,児童たちが考えるためのツールが学習環境として用意され,対話しながら考えたことが記録され,共有されるよう配慮されていました.羽根小学校が児童の創造性を伸ばすという目的のために,自律的に学習できる環境を整備している点も他校の参考になります.

 コロナ禍の影響で様々な苦労がある中で,直実に研究を進められている羽根小学校の先生方の取り組みには感服いたします。次年度の研究がさらに充実したものになると期待しております。

本期間(4月~7月)の取り組み内容

 新しく転入した職員も含めた全職員で、昨年度までの実践を振り返り、研究内容の周知を図り、新たな授業実践とその評価を進めてきた。この期間には、以下のことを行った。

1 プログラミング学習モデル指導案の形式の修正

 岡崎市プログラミング学習モデル指導案をもとにした本校の学習指導案の形式について、長谷川教授にいただいたご助言を取り入れ、形式を修正した。1点目として、「教科・領域の目標達成に関すること」と「プログラミング的思考育成に関すること」を分けて記すこととした。2点目として、プログラミング活動指導内容の中に、「プログラミング的思考要素」の欄を設け、プログラミング教育の手引き等で示されている要素「順次・反復・分岐」の中から1つ以上、コンピューテーショナルシンキングに関わる要素「logic(論理的推論・分析)、evaluation(評価)、algorithms(アルゴリズム)、patterns(パターン化)、decomposition(分解・脱文脈化)、abstraction(抽象化)」の中から1つ以上、本時の授業で使われる要素を記入することとした。これにより、教科・領域で目指す力と、プログラミング的思考育成のそれぞれについて考え、授業案を構想するようになった。

2 1年間の授業計画とアプリ・外部デバイスの利用研修

 昨年度までの実践を生かした1年間のプログラミング学習の授業計画を立てた。教科学習での活用や、総合的な学習の時間のテーマとプログラミング学習の生かし方を、各学年部会で検討した。

 また、4月から5月にかけて、micro:bit、Ollie、ドローンTello、Pyonkee、Scratch、GarageBand等の利用研修を行った。それぞれのアプリでできることとできないことを知り、アプリの特徴をふまえた新たな単元での活用を考えるきっかけとなった。

3 授業研究

 岡崎市教科・領域指導員に指導をいただき、授業研究を進めた。

①学習情報指導員訪問 5月13日

・2年生 音楽科「くり返しをつかっておまつりの音楽をつくろう」Garage Band使用

 本時の授業では、2拍に限定されたリズムカードを、反復を用いながら組み合わせ、各自のテーマに合うように音楽を楽しんでつくることができた。グループ活動では、児童は縦型ホワイトボードに、自分のリズムカードを貼って見せ、どのようにリズムの反復を生かして工夫したかを進んで伝えた。友達に伝えたくて仕方ないといった様子が見られた。協議会では、以下の4点が確認された。①リズムカードとGarage Bandを使用したことは、視覚的にとらえやすく、音楽の苦手な児童も楽しく取り組めた。②Garage Bandは、できることが多いために、楽器を増やしたり、テンポを速くしたりしたことが、聴き比べることを難しくしていたので、リズムに限定した方がよかったのではないか。③アプリの選択を考えていくとよい。④児童は、音楽をつくることを楽しんでいた。しかし、友達からもらった付箋(アドバイス)をもとに、音楽を変えていく姿よりも、自分なりの思いで、試行錯誤する姿が見受けられた。このように、相互評価の受け止め方による学びの深まりが課題として浮き彫りになった。

・3年生 図画工作科「絵具と水のハーモニー」Scratch2.0使用

 前時までに、絵筆を使い、様々な模様を絵の具で自由自在に表現する楽しさを味わった。その後、描いた作品から想像を膨らませ、お気に入りの模様に合うキャラクターやその動き、音、吹き出しなどを考案し、ワークシートに計画を書いた。本時では、「虹のところに行ったら、ドレミファソって音を鳴らしたいな」と発言した児童は、「1回だけ鳴らしたいのに、どこが違うのかな」と、繰り返し流れる音のプログラムの修正に、試行錯誤していた。アニメーションをつけることで、児童の描いた作品は物語になり、豊かな表現力を育む活動となった。

・5年生 理科「天気の変化」Scratch3.0使用

 雲画像や雨量データなどをもとに、天気の変化を予想する授業である。自分の天気予報を、プログラムを組み、予想した雨の量を画面上に降らせたり、雷を発現させたりするなどして、ペアの友達にプログラムした画像を見せると共に、そのプログラムを組んだ理由を伝えた。ペアの友達の予報の根拠を知り、「天気は雨なのは同じだけれど、○○さんは、15日にある大きな雲がまだあると考えたんだ。でも私は、15日に中国にある雲が日本に来ると思ったよ。」と付箋に書いた。

 この授業では、天気を下(自分・地上)から上(上空)に見上げる主観的な視点と、気象図を用いての上から下に見る俯瞰的な視点があることを知り、違った視点からとらえる経験をすることができた。

②音楽科指導員訪問 6月3日

・3年生 音楽科「歌詞に合うリズムと音色でゆかいな木きんをえんそうしよう」

ボカロ教育版Ⅱスクール版使用

 自分の選んだ動物をテーマに、ゆかいな木琴の3番の歌詞を考えた。本時は、その動物のイメージに合う楽器を選び、リズムに変化をつけた。ゾウのように体の大きな動物が登場する歌詞には、重い感じがする大太鼓を選んだり、小さな動物の歌詞には、細かくリズムを刻んで入れたりした。テーマに沿って、またリズムの変化を入れて、意欲的に楽器とリズムを考えることができた。

・5年生 音楽科「学級のテーマ曲をとどけよう」ボカロ教育版Ⅱスクール版使用

 本学級では、コロナに負けずにがんばる応援歌をつくることを児童が決めた。歌詞は、それぞれのペアで作った。本時は、音楽の山場となる3フレーズ目をつくる授業である。教師のつくったボーカロイドの音源を聴かせ、伝えたい言葉には高い音を使ったり、音の長さを長くしたり、反復を使ったりすることで、より印象的な山場がつくれることを児童に気付かせた。児童は、歌詞をもとに旋律をつくり、設計図に書いてからプログラムを組んでいった。授業の整理段階では、友達のつくった音楽を一緒に口ずさむ場面もあり、機械の音声だけで学習が進むのではなく、実際に歌い、そのよさを確かめる様子が見られた。授業後の協議会では、曲のクオリティと付箋のアドバイスとの間に差があることから、作曲した相手の思いに寄り添って助言することは、子供達同士では難しいのではないかと課題が提示された。この課題を解決するには、歌詞を見ながら何度も聴くこと、教科書にある身近な曲の構成を見て、歌詞を精選し、メロディラインを決めていくことが必要であると確認された。また、このような授業では、曲をつくる過程で試行錯誤し、よいものをつくろうとすることに価値があり、そこを評価対象とするとよいと助言をいただいた。

③図画工作科指導員訪問 6月10日

・1年生 図画工作科「はって かさねて・・・」Picture Kids使用

 使うスタンプを丸い形に限定して用い、絵を描く。本時では、児童の描いた絵から、色の組み合わせ方やスタンプの重ね方を工夫することで、色がきれいに見えたり濃く見えたりすることや、違う大きさの丸を重ねることで表現が広がることに気付かせた。また、教師が単色の青と複数の色を重ねて作った青を見せ、立体感を感じ取らせた。ある児童は、色に着目することで、水色一色だったネコの体に、青色の足を描き、肉球、目玉、鼻の頭の光などに違った色を加えていった。また、既成概念にとらわれず、カラフルに色をとりどりに並べて、動物を表現する児童もいた。造形要素としての色に着目して作品作りをすることができた。

・2年生 図画工作科「あなのむこうはふしぎなせいかい」Scratch Jr使用

 穴でつながる2つの世界を絵に描き、小さな自分が、その2つの世界を旅するアニメーションを作成する。モデリングでは、宇宙を描いた児童のアニメーションを見せた。「どうしてそうしたの」と友達が尋ねると、「太陽に当たったから下へ行くようにしたら、面白いかなと思って」と児童が答えた。「太陽に当たったら、あちっ(両手を上にあげる動作をして)だよね。びっくりしちゃうんじゃないかな」と友達の世界に入り込んだように話し始める児童が何人もいた。

 教師は、改善の方法として、キャラクター(小さな自分)の動作や服装を変えることなどを事前に想定していたが、それを児童から引き出してモデリングとして例示することは難しかった。海の中を描いた児童は、絵の中にあるカメを新たなキャラクターとして描いて取り込み、タイミングを図って画面に出し、自分が乗ってどうするかなどとプログラムを組んでいた。「作品を見合う→アドバイスする→めあてを決める→小さな自分を動かすプログラムを組む」といった学習の流れを、児童は自力で進めていた。この姿は、1年間の学習の成果の表れである。画用紙に描くだけでは表現できない世界を、動きをつけたことで創造できた授業である。小さな自分が動くことで新たな視点が加わり、造形的要素に対する気付きをもつことができた。

・特別支援学級 図画工作科・生活単元「ゆめのすいぞくかんをつくろう」Viscuit使用

 児童を6つのグループに分け、6つの水槽に、各グループの児童が描いた海の生き物を泳がせる。グループごとにテーマを作り、さらに、個人で色や動き、大きさ、形、向き、模様などから、友達が見て楽しい水族館にするためにどうすればよいか考え、計画を立ててから活動に取り組んだ。縦型ホワイトボードを利用し、教師が児童の願いを聞き、個別のめあてを書いて示した。このボードには、本時の目標だけでなく、これまでの学びの足跡が表れていた。学びを積み上げ、技能を高めることができていた。

4 パナソニック教育財団特別研究指定校アドバイザー訪問授業研究

①1年生 図画工作科「1の1 おひさまらんどをつくろう」Viscuit使用

 「おひさま」からイメージされる温かな優しい感じ等、自分なりの思いや願いが表れた「おひさま」を、形や色、動きを工夫して描くことを目標にし、授業に取り組んだ。

②6年生 総合・道徳・社会「われら、人権まもり隊」

Maqueen,ollie,iMovie,keynote使用

 高齢者や外国人、体が不自由な人など様々な人の困りごとに合わせて、児童が必要なデバイスやアプリを自ら選択し、すべての人が安心して駅から羽根小まで行くことができる案内システムを、チームで創作する授業に取り組んだ。

アドバイザーの助言と助言への対応

  1. ①アプリを利用することで、学習指導要領で示された内容の2学年程度上の学習内容が簡単にできるようになる良さがある反面、本時でおさえるべき内容がおろそかになってしまわないかという課題に対しては、目標を2段階で設定するとよいのではないかと御指導をいただいた。「すべての児童に達してほしいレベル」と「発展的な学習のレベル」の2段階で設定した評価基準の表を紹介していただいた。すべての児童に達してほしいレベルを明確にし、能力差に応じた指導をしながら、授業実践に取り組みたい。
  2. ②児童同士のアドバイスの仕方、内容、深め方などに検討の必要があることについては、他校での実践紹介や、多角的な視点で考えるためのツールなどを紹介していただいた。また、本日の1年生の授業で行った「どうして」「だから」という質問を通して関わる方法は、論理的思考力を育てる手だてとなることを教えていただいた。自分の意図を相手に伝えることができるように、また、相手の意図や思いを感じ取り、関わることができるように、教師が意図的に関わり合う場を設定する。今後、児童同士で学び合うことが、より学びの深まりを実現できるよう研究を進めていく。
  3. ③プログラミング的思考の深まりや学年相当のプログラミング学習となっているかという相談に対して、留意すべきこととして、プログラミング学習について、「教えすぎない」、「学び取らせる」、「考え試行錯誤させる」ことが大切であること、そして、本日の6年生の授業から、「有意味受容学習」や「先行オーガナイザー」についても御指導をいただいた。本校のプログラミング的思考育成のための学年目標については、「基準」とし、上位目標を設定してよいこと、本時の学習の目的は何か、児童にどんな力をつけたいのかを明らかにし、研究を進めていきたい。

本期間の裏話

 本年度は、昨年度の実践を改善しながら行っていくことにした。それと同時に、新しい教科、単元で、新たな取り組みはできないかと、教師は教材研究を進めてきた。教科学習における新しい実践は、何をどのようにプログラムしていくのか、教科の学びが達成できるか、プログラミング学習を取り入れることで児童を生き生きと活動させることができ、創造的な学びとなるか、どのような発展的思考が考えられるのか等、悩み迷うことが多い。

 しかし、実際に授業を行うと、児童は、学習課題を理解し、新しいICT操作技能を身に付け、児童たちで学習を進めていくことができた。昨年度1年間の研究の成果を、児童の姿や教師の姿から実感することができ、とても嬉しかった。

本期間の成果

  1. 1 音楽科・図画工作科・理科・総合的な学習の時間、それぞれの教科・領域におけるプログラミング学習、教科の見方・考え方を働かせる授業展開について、授業研究を行い、理解を深めることができた。
  2. 2 児童が主体となった自由度のある授業では、児童各個人の活動内容の把握が難しいという課題があった。そのため、本年度はチーム学習を取り入れることとした。4人以下のグループで学ぶことで、児童の活動・発話が活発になり、友達の工夫やよさを知ることができた。また、教師は児童の変容を以前よりとらえやすくなった。

今後の課題

  1. 1 音楽科・図画工作科・理科・総合的な学習の時間、それぞれの教科・領域におけるプログラミング学習、教科の見方・考え方を働かせる授業展開について、授業研究を行い、理解を深めることができた。
  2. 2 児童が主体となった自由度のある授業では、児童各個人の活動内容の把握が難しいという課題があった。そのため、本年度はチーム学習を取り入れることとした。4人以下のグループで学ぶことで、児童の活動・発話が活発になり、友達の工夫やよさを知ることができた。また、教師は児童の変容を以前よりとらえやすくなった。

今後の計画

    1 自由度のある授業を今後も目指していく。教科の見方・考え方を働かせ、本時で達成すべき目標をおさえた授業作りをさらに進める。

    2 チーム学習を進め、自分の意図を相手に伝える力や相手の意図や考えを傾聴する態度を高め、児童同士のアドバイスや相互評価について検討し、協働的な学びを進める。

今後の計画

 7月27日 おかざキッズ プログラミングフェスタ

 9月 9日 岡崎市教科・領域指導員訪問(生活科・総合的な学習の時間)

10月13日 岡崎市委嘱研究発表会・パナソニックアドバイザー訪問授業

       全学級の授業を公開

気付き・学び

 昨年度5年生は、老人介護施設との交流を通して、Makecode、Micro:bit Maqueenを利用した施設で活躍するロボット作り、Sphero Edu、Ollieを利用した算数科「速さ」の学習、Clips、iMovie、KeyNoteを活用した外国語科「Be a You Tuber!COOL JAPAN」の動画作りなどを経験してきた。この児童たちが6年生になり、教師は、児童自身にアプリや機器を選択して活用させたいと考えた。

 単元のスタートで、「アプリや機器を使うとできること」を整理し、自分のしたいことに合うアプリや機器を選ばせた。困っている人のために、地図上を道案内する機器を走らせるプログラムを組むグループがあった。長谷川教授から、今回の授業内容では、機器により、条件によって分岐したプログラムになっているものと順次のみのプログラムになっているものとがあることを指摘していただいた。目指す事柄によって、機器やアプリの使えることと使えないことがある。機器等を選択して活動していく際には、個々の児童が作成したプログラムを、プログラミング的思考育成のための学年目標とも照らし合わせていくことが大切である。また、教え合いにより初めてその機器を操作する児童の技能を高めることができる良さがあるが、その一方で何を学んできたのか、どこを学んでいないのかの記録も必要である。

成果目標

  1. 1 プログラミング学習が、主体的・対話的に行われ、創造的な学びとなっていくこと。
  2. 2 意図した計画や設計図等に基づいて成果物を完成させるために、試行錯誤して目標に迫る児童の姿が、授業での発言、友達との話し合い、ワークシート、作品作りの中で見られること。
  3. 3 プログラミング学習を行うことにより、児童の学びに向かう姿勢が主体的なものとなり、日常的な学びにおいても協働性が見られるようになること。
  4. 4 実践をプログラミング学習モデル指導案集にし、だれでも活用できるようにすること。
アドバイザーコメント
長谷川 元洋 先生
金城学院大学
教授 長谷川 元洋 先生

 岡崎市立羽根小学校は令和3(2021)年6月18日(金)午後に中間発表授業として、5限目(13時45分〜14時30分)に1年生の図工で1学級、6限目(14時40分〜15時25分)に6年生の総合・道徳・社会の合科授業で1学級の合計2学級でプログラミング的思考を育成することを目指す授業が行われました。令和2年度の研究の成果をベースにして学校全体で取り組む研究となっています。公立学校であることから、人事異動がありますが、今年度から赴任した先生もスムーズに研究に取り組めるような体制が取られていることは、実践の継続性、発展性の視点から大変、重要なポイントであるといえます。

 また、羽根小学校は、岡崎市のプログラミング的思考育成のための学年段階の目標と、プログラミング教育のモデル指導案の開発も目指しています。学年段階の目標は、それが到達目標となってしまうと、プログラミングの課題によっては学年とは関係なく、高度な内容を扱う必要が出てくるため、その点については今後の検討課題となりました。また、指導案については、教科の授業としての「単元指導」と、「本時のプログラミング活動指導内容」を分けて、記述する形に改良されました。これは、教科の狙いを達成するために、プログラミングを行わせるというあるべき形を外さない授業を行うために、大変、重要な点であると思います。

 1年生の図工の授業では,単元・題材の目標として、「こんな『おひさま』あったらいいなと想像したことをもとに形や色、動きを工夫して、自分の『おひさま』を表現できる」を設定して、行われました。プログラミングは、ビスケットを利用し、色や動きの変化によって、「楽しさ」、「あたたかさ」などの自分のイメージを表現させていました。授業の冒頭で、一人の作品を教師から提示された視点から鑑賞し、その感想を交流しました。その後、個人で自分のめあてにそって、作品作りを行いました。その後、グループで、それぞれの工夫の発表とそれへのアドバイスを相互に行わせ、それをもとに作品をよりよくしていくように、授業をデザインされていました。これによって、自分の意図した動きになるように、他者からのアドバスも取り入れながら作品作りを行うことができる状況を実現していました。グループでの発表の場面では、「○○○のおひさまを書きましした。○○○だから○○○しました。」と自分の思いや工夫が他者に伝わるように文章で表現することも行わせたり、他の人の作品の良い点を評価する表現や、工夫を聞き出す表現、具体的にアドバイスする表現も示したりして、グループ活動が有益なものとなるための手立ても準備されていました。さらに、学習活動を、全体、個人、グループ、個人、全体と、細かく設定し、机間巡視をして対面で指導行いながら、タブレットで他のグループの状況を把握し、さらに細かく時間管理も行っており、複雑な設計の授業をみごとに進めていらっしゃいました。個々の児童がそれぞれの思いをプログラミング作品にするために、必要な授業デザインとそれを実践するための授業スキルという点からも大変参考になる授業でした。前時までに、Maqueen、micro:bit、Tello、ollie、iMovie、keynote などのツールの特徴を分析し、それぞれが取り上げる問題の解決に適切なツールを選択して、考える活動を行っていました。児童は、ペアになって、人の視点と鳥の視点の両方から考えて、プログラミングをする姿が見られました。昨年度までに身に付けたプログラミング的思考とプログラミングのスキルを活用して、学習を進めていました。地域の課題を情報技術で解決する方法を考える取り組みを行うために、様々な手立てや考察の場面の設定が単元を通じて行われており、高度な学習活動を実現するための工夫がされていました。

 昨年度の研究成果を踏まえ、着実に研究を進めていらっしゃる羽根小学校の先生に感服いたします。秋の公開授業に向けて、さらに研究が発展することが期待できます。

本期間(8月~12月)の取り組み内容

1 研究の構想・手立ての確認

 10月13日に本校の研究発表会を控え、研究の手立てであるモデリング、思考の可視化等が有効に働く授業構想、総合的な学習の時間の単元作りについて、授業研究と研究推進を行った。

 授業研究は、1学期に引き続き、岡崎市教科・領域指導員に指導をいただく機会をもち、9月9日に生活・総合的な学習の時間の指導員訪問授業を行った。

・1年生 生活科「ようこそ あたらしい1年生~ようちえん ほいくえんのこたちに みせたい おきにいりのコースをつくろう~」BOLT・Sphero Edu使用

 1年生の児童は、園の先生からのビデオメッセージをもらったことで、昨年、自分たちが交流会を開いてもらったことを思い出し、幼稚園、保育園の子たちをBOLTでもてなそうと意欲を高めていた。学習課題が提示された後、園児が喜ぶようなコースをつくろうとペアで計画を立てた。BOLTを動かすプログラムを組み、計画した通りに動くか、動く道筋を指さしたり、一緒にBOLTの後をついて歩いたりして確認していた。

 自分たちが作ったコースを歩いて確認していたペアが、活動の途中で走り出した。その姿を見つけた教師が意図を尋ねると、「園の子は、かけっこが好きな子がいると思うから」と答え、BOLTの動きを速くする工夫をし、園児が一緒に走れるようにしていた。授業の整理段階でこのペアを指名し、BOLTを操作させ、プログラムの意図を学級全体の場で語らせた。それを聞いた他児童から「園の子が喜ぶように考えているところがいいと思いました」と、本時の振り返りの段階で、生活科としての目標に迫れている友達の工夫のよさに気付かせることができた。走る、止まる、スピンするのブロックの使用をモデルとして示していたが、そこで、より学習目標に迫るために、速さを変えるプログラムを工夫する視点として加えることができた。このように、教科の目標に照らして活動する姿が、実践の中で見られた。

・6年生 総合的な学習の時間「私たちのSDGsスマートシティ HANE~何歳になっても住み続けられる街づくりを目指して~」Teams スクールタクト利用

 2学期の始まりは、分散登校であった。2分の1登校では、自分のタブレット端末を家庭に持ち帰り、初めてのオンライン授業に取り組むこととなった。この授業研究は、学級の半分の18名が教室で、残り半分の19名がオンラインで参加して行われた。

 前時までに、岡崎市内のSDGsに取り組んでいる高校生がどのように実際の活動をしているのかについて紹介してもらったり、老人福祉施設の方の取組から学んだりしてきた。本時の授業が課題設定の時間であり、今後高齢者も安心して暮らせるために、どのような仕組みや工夫が必要か考え実行していく。オンラインの児童たちも、グループ討議をして全員が授業に参加した。

 「誰もが安心できるまちづくり」を目指すため、さらに、ゲストティーチャーを招いた。春日井市都市政策課の方や名古屋大学教授と、Zoomで高蔵寺スマートシティプロジェクトについて学んだり、ドローンスクールの方からドローンの実際の活用場面を教えてもらい、実際に大型ドローンが校庭3階の6年生教室横まで飛ぶ様子を見たりして、自分たちができることについて考えを膨らませた。今後は、ドローンや自動運転の技術を生かして、仮想のまちを作って高齢者も安心して生活できる便利なシステムを作る。

2 研究会当日指導案・ワークシート・サンプルプログラムの作成とプログラミング学習モデル指導案集の作成

 令和元年度から行ってきたいくつかの授業を再度実践し、校内研修や学年部で協議をして改善した。また、新しいアプリケーションや機器等を積極的に取り入れ、学習に生かせるものを校内で紹介し、教材研究を行い、新たな実践を開発することにも挑戦した。このようにして、研究会当日の指導案を完成させ、指導案集としてまとめることができた。

 また、誰でも実践ができるプログラミング学習モデル指導案集として、これまで3年間の実践から数点を選び、冊子にした。この冊子と研究会指導案集とリーフレットを岡崎市内の小中学校に送り、日頃の授業に活かしてもらえるようにした。研究会で授業を参観した先生方が、自分の学校に戻ってさっそく実践してもらえるとよいと考える。

3 羽根小学校研究発表会(10月13日)

 午後から2時間の授業公開と、各授業の協議会を行った。今回は、感染症の対応として、市外からの参観をご遠慮いただき、市内の希望者についても人数制限を設けて参観いただいた。来校者は、約200名であった。公開授業の内容は、次の通りである。

<公開授業Ⅰ> 13時20分~14時05分

<公開授業Ⅱ> 14時20分~15時05分

 研究会に関するアンケートでは、参観者の92%が、本校で行っているようなプログラミング学習を自校で実践してみたいと回答した。研究の内容については、「分かりやすかった、参考になった」「新しい学習指導要領の実現に向けた素晴らしい発表であった」「子供が生き生きと学んでいた」等、評価をいただいた。

 研究会の翌日に、さっそく実践する他校の教師がいたということも聞いている。

4 アドバイザー訪問授業(11月12日)

13:40~14:25 5限授業

5年2組「羽根っ子福祉みまもり隊」 授業者 石川教諭 (パソコン室)

14:40~  ミーティング

  1. ・実践研究の進捗確認と2月訪問時までの展望
  2. ・報告書のまとめ方の方向性の確認とアドバイス
  3. ・成果報告会に向けてのアドバイス

アドバイザーの助言と助言への対応

  1. ・報告書のまとめについて
    研究成果の量的データはパフォーマンス検査、質的データは児童や教師の感想を使ってまとめる。パフォーマンス検査の分析、3年間の研究のまとめを行っていく。波及効果を考える。
  2. ・報告会について
    成果物(指導案・ワークシート・リーフレット)などをまとめる。

本期間の裏話

 人数制限はあったものの、参観者を招き研究会を行うことができたのは、大変うれしいことであった。教師も児童も、自信をもって生き生きと授業を行っていることを直接見て評価していただけた。

 また、担任が司会者となり、各授業の協議会を行った。各担任の不安は大きかったが、終えてみると他校の先生方のご意見がいただけたこと、参加者が皆で授業について考え、成果を共有できたことから、やってよかったと、本校職員の笑顔がたくさん見られた。

本期間の成果

  1. 1 研究会を開催し、児童が夢中になって取り組む姿、楽しんで友達と学ぶ姿を見ていただくことで、児童が主体的にプログラミング学習に取り組む本校の研究価値を伝えることができた。公開授業の後に全教室で行った協議会では、目指す児童の姿が見られたところと改善点について参観者から気付いたことを付箋に書いてはってもらい、忌憚のない意見をいただいた。これにより、授業や研究のあり方について認識を深めることができた。
  2. 2 3年間の授業研究から、指導案を改善し、意図した一連の動きを実現するための対話を通した試行錯誤を大切にした授業を構想することができた。これを、「プログラミング学習モデル指導案集」「当日授業指導案集」としてまとめ、市内小中学校に配付することができた。

今後の課題

6年間の系統立てたプログラミング学習を計画し、研究会が終わった今後も、プログラミング学習を続けていくことが、これからの課題である。

今後の計画

  1. 1月25日 おかざキッズ サイエンスセミナー(オンライン)
  2. 1月20日 岡崎市教科・領域指導員訪問(算数)
  3. 2月 3日 岡崎市教科・領域指導員訪問(家庭科)
  4. 2月 4日 パナソニックアドバイザー訪問授業

※2月4日の日程(案)

  1. 13:20~13:35 打ち合わせ  校長室
  2. 13:40~14:25 5時間目 研究授業
               1年3組 栗田教諭
  3. 14:30~15:15 6時間目 研究授業
               6年1組 内田教諭
  4. 15:50~15:55 校長挨拶
  5. 15:55~16:00 パナソニック教育財団様ご挨拶
  6. 16:00~16:30 長谷川先生のご高評(全職員参加)
  7. 16:30~16:35 お礼のことば(教頭)

気付き・学び

 各教科ごとに、どのようにプログラミング学習を取り入れることができるのか、いくつかの実践を行う中で、本年度は手ごたえを感じることができた。また、総合的な学習の時間等と教科を関連付けた授業を各学年で工夫して実施できるようになった。教科のねらいを達成することを大切にしつつも、教科の枠を超えたわくわくする授業も行っていきたい。全校体制で取り組むことで、教員の入れ替わりがあっても、研究を継続し、深めることができる。

成果目標

  1. 1 プログラミング学習が、主体的・対話的に行われ、創造的な学びとなっていくこと。
  2. 2 意図した計画や設計図等に基づいて成果物を完成させるために、試行錯誤して目標に迫る児童の姿が、授業での発言、友達との話し合い、ワークシート、作品作りの中で見られること。
  3. 3 プログラミング学習を行うことにより、児童の学びに向かう姿勢が主体的なものとなり、日常的な学びにおいても協働性が見られるようになること。
  4. 4 実践をプログラミング学習モデル指導案集にし、だれでも活用できるようにすること。
アドバイザーコメント
長谷川 元洋 先生
金城学院大学
教授 長谷川 元洋 先生

 岡崎市立羽根小学校は令和3(2021)年10月13日(金)午後に研究発表会を開催し、5限目(13時20分〜14時05分)に5学年11学級、特別支援学級2学級の合計13学級で、6限目(14時20分〜15時05分)に4学年11学級でプログラミング的思考を育成することを目指す授業を行いました。新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、岡崎市内限定での公開となったため、状況が落ち着いてきた11月12日(金)に、5年生の総合的な学習の時間の授業を参観し、10月13日の研究発表会の様子についてうかがう形を取りました。

 研究発表会に参加された先生から、高い評価を得ただけでなく、羽根小学校の取り組みを参考に実践した他校の先生がいらっしゃったそうです。これは、羽根小学校の研究が、他校の先生に良い影響を与えて、地域のモデルになっていく状況ができつつあると言えます。

 さらに、2年間の実践研究で生み出された実践的知見を「プログラミング学習モデル指導案集」と「当日授業指導案集」の形でまとめ、配付することもされました。羽根小学校の指導案は、授業の目標を、「単元・題材の目標」と「プログラミング的思考要素」の2つを示し、さらに、「教科のねらいにつながるための指導のポイント・留意点」も示しています。これは、教科の学習内容とプログラミング教育としての内容の両方の達成を目指す、複雑な授業を構想する上でも、効果的な工夫です。さらに、教科の授業の目標を達成するためにプログラミング教育を行っていることを、授業を参観する方、指導案を読む方に、授業のねらいと工夫を明確に示し、羽根小学校の実践のポイントを理解しやすくする工夫であるとも言えます。特に、「教科のねらいにつながるための指導のポイント・留意点」は、公開授業を実践するために、それまでの単元の流れと手立てが簡潔にまとめられており、教室の掲示物等と合わせて見ることでより、単元構成に位置付けられた公開授業の1時間がどのように実現しているかを理解できるようになっており、研究指定校の研究成果を他校に波及させるための工夫にもなっていると思いました。

 本時の指導の欄には、スクリーンショットや写真も示されており、指導案から授業をイメージしやすくしてありました。さらに、「自分の意図を意識してプログラミンミングを行う活動」と「他者からのアドバイスを取り入れて,改善する活動(他者からもらった情報の活用)」を設定していることが示されており、「主体的・対話的で深い学び」を実現するための具体的な手立ても読み取れるように工夫されていました。

 今回、10月13日の公開研究授業を参観することはできませんでしたが、その代わりに、11月12日に、5年生の総合的な学習の時間の授業をじっくりと参観でき、授業者の工夫や手立てを理解することができました。数ヶ月に渡る授業の中で児童が接する情報が記録、整理され、児童の頭の中でつながるように掲示物が準備されていたことが印象的でした。プロジェクト的な学習において、各授業の学習活動がどのような意味があるのかを理解しながら、どのように学習を進めて行けば良いのかを考えることは、粘り強く学習に取り組む状況を作り出すだけでなく、自身の学習を調整する状況を作り出すためにも効果的な手立てであると思います。それは、つまり、主体的に学習に取り組む態度を引き出す手立てであります。これは、授業者自身が高い情報活用能力を有していることからこそできることであり、2年間の研究に取り組んだ教師自身の成果であるとも言えると思います。

 羽根小学校のプログラミング教育の研究は、より高度な授業を作り上げるための研究でもあると思います。2月の最終発表には、より完成度の高い報告がされるであろうと、楽しみにしております。

本期間(1月~3月)の取り組み内容

1 授業研究

 1月20日に算数科、2月3日に家庭科の岡崎市教科・領域指導員に指導をいただく指導員訪問授業を行った。

・2年生 算数科「三角形と四角形」 Viscuit使用

 正方形、長方形、直角三角形を敷き詰めるプログラムを、あらかじめ教師がViscuitで作成しておいた。前時までに、児童は、正方形、長方形、直角三角形を同じ形で2つ並べると、どんな形になるか図形カードを操作して調べ、模様の規則性や平面の広がりについて気付くことができた。

 本時では、児童が書いた同じ形を敷き詰める設計図に基づいて、Viscuit のめがねに直角三角形などのかたちを入れ、色を塗ってプログラムに入れていった。敷き詰めた模様から、大きさの違う長方形や直角三角形などを見つけたり、模様の美しさを感じたりすることができた。身の回りのいろいろなところで、この模様を見たことを思い起こし、生活に生かされていることを知ることができた。

・6年生 算数科・総合的な学習の時間「図形の拡大と縮小」 Studuino bit使用

 「拡大図や縮図を活かして、1年生が喜ぶイルミネーション風の作品をつくろう」を学習課題とした。授業では、始めに拡大、縮小についての既習事項を振り返り、算数的表現を使った対話活動ができるよう配慮した。児童は、画面上の様々な場所に正六角形の縮図、拡大図が順に表れるようにしたり、それぞれの頂点から少しずつ辺の長さを短くしていくような縮図を描いたりしていた。また、正三角形を30度ずつずらしながら描き、さらに、拡大した正三角形を同様にして加え、それを回転させることで、まるで、観覧車が動いているような作品を作る児童もいた。

 追究場面では、思い通りにいかず、粘り強く試行錯誤を続ける児童や、友達の工夫を知りたくて積極的に関わっていく児童がいた。全体での交流場面で、どのような意図で辺の比を考えプログラムを組んだのか発表させて児童同士が学び合うと、さらに学びが深まったこと、指導案に、本授業を経た算数科としての期待する児童の姿を明確にしておくとよいことを、助言者からアドバイスをされた。

・3年 図画工作科「線と線が集まって」 Scratch2.0使用

 1つ1つの線や図形をプログラムを組んで動かす。それぞれが、上や右などいろいろな方向に動いていく。複数の図形が重なり合いながら動いていく中で、偶然にできあがる様々な作品。画面を見つめ、お気に入りになった瞬間に、プログラムを停止し、自分の作品にする。

 同じ図形がたくさん使われている友達の作品を見て、やり方を聞いて取り入れる児童や、重なりの面白さを感じながら線や図形を増やしていく児童がいた。また、常に2つの図形が同じように動いていくことで、作品に変化が出ないことに困っていた児童は、友達からアドバイスをもらってプログラムを見直し、原因をつきとめて修正する場面もあった。「美しいね」「土星みたい」「こんな色で塗ったらいいな」と友達と評価し合い、着色への意欲を高めていた。

・5年 家庭科「生活を支えるお金と物」Scratch3.0使用 

 買い物フローチャートを利用して、よりよい買い物ができるプログラムを作る授業を行った。質問の仕方や分岐の仕方を考え、改善点を考えていく。導入では、環境に配慮するとよいという発言を取り上げた。

 助言者からは、「家庭科の見方・考え方としては、消費、環境、持続可能な社会の構築の視点でとらえ、よりよい生活を営むための工夫を考えるものであった。思考を可視化する、対話活動を取り入れるといった本校の研究の手だてが有効に働いていたが、質問の修正やゴールの追加など、児童が考える要素が多かったので、本時では、環境への視点に絞っていくとよかったのではないか」と助言をいただいた。

 話し合い、プログラムしていく児童の姿に、意欲と技能の高さが表れていた。

2 パナソニック教育財団特別研究指定校授業研究会

①日時 令和4年2月4日(金) 13:20~17:00

②講師 金城学院大学 国際情報学部国際情報学科  長谷川元洋先生
    Zoom参加  パナソニック教育財団事務局様

・1年 国語科・図画工作科「おはなしをつくろう」 Scratch Jr使用

 登場する人物について創造力・発想力を豊かに働かせ、その人物がどのようなことをするのか、伝えたいことを明確にして書き、物語を作り出す喜びを味わうことができる児童の姿を目指し、授業を計画した。

 本時のモデリングとして、代表児童の作品から、2人の姫が仲良くなった場面を取り上げた。「このときは、どんな気持ちですか」「どうしてジャンプさせたの」「友達と楽しくなるとどんなことをしたくなる」と投げかけ、生活体験と結びつけた。学級の児童たちは、この代表児童のお話の具体的なイメージを広げ、アドバイスを始めた。これにより、「2人の姫は、仲良くなり、鬼ごっこをしてあそんだ」というお話ができ、児童は満足そうであった。また、他の児童も、自分の作品で、中心人物だけでなく、複数のキャラクターを効果的に動かそうとプログラムを組む様子が見られた。友達の作品のよさを感じ取り、素直に表現する姿が育っていると感じた。

・6年 総合「私たちのSDGsスマートシティHANE~何歳になっても住み続けられるまちづくりを目指して~」 Studuino bit使用

 模擬的に町を作り、必要なシステムを考えてプログラムを組んできた。本時では、高齢者福祉施設の方々のアドバイスから、「より実社会で高齢者が安心して生活できるプログラムに近づけよう」を学習課題に、授業に取り組んだ。

 実際に、プログラムを組んだ後、「アームで野菜をとってかごに入れるとき、弱いとつかめない、強いとつぶれることが難しかった」「白い直線上を車いすが動くようにしたが、実社会ならば、細かい動きが必要になるのではないか」などの意見が出された。プログラミングにより、人間ができないことができるようになるが、実社会では本当に便利になるのかについて討論になった。これからの自分たちの町をどのように支えていくのかについて、深く考えていく機会となった。

アドバイザーの助言と助言への対応

  1. ①羽根小学校が目指している教育の実現
  2. ②主体的・対話的で深い学びの実現
  3. ③創造性を伸ばす教育
  4. ④他校へ研究を広げる方法について

 創造的に学ぶ状況を実現するための工夫として、単元構想を考えた授業デザインや教科の学習をベースにした「合科」や「総合的な学習の時間」の授業、掲示物・ワークシート等による手だてを取り入れていること、創作活動を行いやすくするための環境整備として、考えたことを映像で表現するためのツール、思考を可視化するためのツール、学び合うためのツールなどを取り入れていることなどがあると、本校の研究の価値づけをしていただいた。

 今後、2年間の研究をまとめ、他校へ研究を広げていくことができるように準備をしていきたい。

本期間の裏話

 国語科・図画工作科の「おはなしをつくろう」の単元は、この2年間で、様々な学級で取り組んできた。初めは、プログラムを組むこと自体が目的になりがちであったが、授業の後には、本時の目標が達成できているか、手だては有効に働いていたかを毎回検証し、他クラスが改善案で授業実践をすることで、授業がどんどんよくなっていくことが実感できた。このように、本校の教師は積極的に授業観察を行い、実践した教師から、実践の手応えや新たに加えた手だてを熱心に聞き、自分の授業改善に生かしてきた。教師同士でアドバイスできることは伝え合い、改善案を話し合うといった教師の学び合う姿が見られた。楽しんで学ぶ児童の姿と共に、自信をもってプログラミング学習に取り組む教師の姿を見ることができ、大変うれしく思った。

本期間の成果

  1. 1 プログラミング教育のねらいとして、「各教科等の内容を指導する中で実施する場合には、各教科等での学びをより確実なものとすること」とある。創造的に学ぶことと共に、教科の学びを確かにすることも目指してきた。この目標の達成を目指して、教材やアプリの選択、プログラミング学習の取り入れ方を教師が試行錯誤し、授業実践に取り組んできた。プログラムを組むことよりも本時の学びに教師の視点が向き、教科のねらいに近づく授業展開とすることができた。
  2. 2 児童や教師のICT利用の技能があがり、プログラムを組むことに対する困り感はなくなった。さらに、教師の柔軟な発想も加わり、総合的な学習の時間と各教科を関連付けた大単元が各学年で組まれ、プログラミングを取り入れた学びを広げることができた。

2年間の成果

  1. ・本校のプログラミング学習の標準的な授業展開にそって授業を立案することにより、プログラミング学習を主体的・対話的に行うことができた。また、児童の自由な発想を引き出すことで、創造的な学びにすることができた。
  2. ・羽根小学校研究パフォーマンステストによると、「自分の他者への影響」は、肯定的にとらえる児童が9%、「他者から自分への影響」を肯定的にとらえる児童が12%、研究初年度と比較して上回った。学級の状態を尋ねる「明るい雰囲気がある」「みんなで協力している」「まとまって取り組んでいる」についても、本年度2月には、92.7%の児童が、「あてはまる・できている」と受け止めていると結果が出た。このことから、プログラミング学習を行うことにより、児童の学びに向かう姿勢が主体的なものとなり、日常的な学びにおいても協働性が見られるようになっていると言える。

今後の課題(計画)

  1. ・2年間の実践の振り返りをし、研究を継続していくこと。
  2. ・研究の成果をまとめ、他校へと広げていくこと。

2年間を振り返って

 岡崎市のGIGAスクール構想による環境整備が始まり、1人1台のタブレット端末が整備されこと、「小学校におけるプログラミング学習の在り方」を内容として、岡崎市の研究委嘱を受け、岡崎市教育委員会から指導を受けることができたこと、同時に、パナソニック教育財団の助成を受け、思考の可視化のための理科室等のホワイトボードシートの設置、児童の成果物を映すモニター等の環境や外部デバイスの整備ができたこと、授業研究会を設けていただいたことは、研究を進めるうえで、大変ありがたいことであった。

 研究当初、協議会では、プログラミング学習は教科の学びになっているのか疑問であるといった意見が出ることもあった。しかし、教科の学びを広げていくことへと意識を転換することができた。児童も教師も夢中になって授業ができ、当初の目標が2年間をかけて達成できた。

成果目標

  1. ・プログラミング学習を主体的・対話的に行い、創造的な学びにする。
  2. ・意図した計画や設計図等に基づいて児童が成果物を完成させるために、授業の中での発言や友達との話し合い、ワークシートの修正、試行錯誤する姿に、本時の目標に迫る児童の姿が見て取れる。
  3. ・プログラミング学習を行うことにより、児童の学びに向かう姿勢が主体的なものとなり、日常的な学びにおいても協働性が見られるようになる。
アドバイザーコメント
長谷川 元洋 先生
金城学院大学
教授 長谷川 元洋 先生

 岡崎市立羽根小学校は令和4(2022)年2月4日(金)午後にパナソニック教育財団特別研究指定校授業研究会を開催し、5限目(13時40分〜14時25分)に1年生の国語・図画工作で1学級、6限目(14時30分〜15時15分)に6年生の総合の授業で1学級の合計2学級でプログラミング的思考を育成することを目指す授業が行われました。そして、16時から、研究会が持たれ、2年間の研究の総括を行いました。

 羽根小学校が掲げる研究テーマ「プログラミング的思考育成からはじめる創造的に学ぶ子の育成 ~主体的・対話的なプログラミング学習を通した新しい学びの実現~」が授業実践として実現され、大きな成果を上げられていました。以下に、研究会当日の研究授業と2年間の研究の成果について紹介します。

1.研究授業について

 実施された2つの研究授業について、「a:教科の学びが深まっていたか?」「b:『主体的・対話的で深い学び』を実現できていたか?」「c:創造性を伸ばす授業になっていたか?」の3つの視点をもとに以下に報告します。

(1)1年生 国語・図画工作「おはなしを作ろう」

 自分の思いを,プログラミングにより表現することに加え,相互にアドバイスをしあう活動を盛り込み、対話的に学ぶ授業にするとともに,相手に伝わる言葉で表現させることで、国語科と図画工作の両方の教科のねらいに迫る授業でした。同時に、プログラミング的思考も育成できる授業でもありました。

 指導案には、教科としてのねらいとプログラミング教育としてのねらいの両方が示されており、「プログラミング的思考」の指導の中に「教科のねらい」がしっかり、位置付けられていました。また、「国語科」「図画工作」の教科としての学習内容として、共に「創造的活動」が含まれている点も注目すべき点です。これは創造的に学ぶ子どもを育てるための授業デザインであるといえます。

 具体的には、お話を作る活動を通じて、「順序立てて考える力想像する力を養い、日常生活における人との関わりの中で伝え合う力を高め、自分の思いや考えをもつことができるようにする。」(小学校学習指導要領解説 国語科編 P14より)の達成を目指す授業となっていました。また、児童同士がアドバイスをしあったり、いっしょに考えたりする活動場面を設定し、教師はそれを支援するというスタンスで、児童が主体的に学習する状況を創り出されていました。そのために、授業の流れを「全体交流→グループ内交流→個人で作品を修正(デバッキング)→全体で改善された作品の紹介」として、学び合いながら作品を改善していけるようにすることに加え、その成果を実感させることで、自己効力感を高めたり、学び合うことの意義を理解させたりする工夫をされていました。

 さらに、発表する児童に、「たとえば?」とたずねて具体例をあげさせたり、「前に来て説明してください。」と声をかけ、自分が着目している点が他の児童にわかるように説明させるなど、さりげなく、相手に分かりやすく伝える表現力を伸ばす指導をされている姿を見た時に、それは教師が児童に身につけさせたい力を明確に意識しているからの指導だと思いました。

(2)6年生 総合的な学習の時間「私たちの SDGsスマートシティ HANE
~何歳になっても住み続けられるまちづくりを目指して~」

 地域の課題を取り上げ、すべての住民が何歳になっても住み続けられるまちづくりをテクノロジーの力で解決することをめざす授業が行われていました。研究授業で、熱心に取り組む児童の姿は、4月から約1年かけて育てられた姿でした。小学校学習指導要領解説 総合的な学習の時間編のP80に、「探究の過程における思考力、判断力、表現力の高まり(例)」が示されていますが、それを実現した授業であったとも言えます。そのために、年間計画が探究的な学習を促す単元のデザインとなっており、年間計画表にある「学びのサイクル」は探究的な学習をするためのサイクルになっていました。

 当日の研究授業では、社会との関連を考えながら学習する状況を設定し、課題を解決するためにプログラミングをさせる工夫、ジグソー法を用いて、児童が相互に学び合うようにする手立て、児童同士の議論を温かく見守る教師の姿勢等が印象に残りました。

 さらに、授業の振り返りの文章を、授業が終わった後も、席を立たずに、しっかり書いている姿から、児童が授業に熱中していたこともわかりました。

学びのサイクル

2.2年間の研究成果

(1)羽根小学校の研究の特徴

 プログラミング教育の実践研究を行うことを通じて、授業改革を行った点が羽根小学校の2年間の研究の特徴であったと思います。様々な問題を解決するために、プログラミングを行う活動を授業に取り入れるためには、児童が自ら考え、創り出す活動が出来るように育てる必要があります。そのためには、一斉指導型の授業に加え、児童たちが協働して学び合い、一人一人の力を伸ばしていけるような授業に作り変えていく状況が生まれ、授業改革を行うことになったと言えます。

(2)児童の活動を支える環境整備

 児童同士が学び合えるように、また、表現力、想像力を伸ばすための学習活動を行えるように、各班ごとに足つきの縦型ホワイトボードを割り当て、グループ間交流をやりやすくしたり、廊下の壁を緑色のペンキで塗り、動画作成時にグリーンバックとして使えるようにしたり、複数の種類のロボットを整備したりするなど、目的を達成するための環境整備をされていた点も他校の参考になる点であると思いました。プログラミング教育の実践であるため、ICT環境の充実は当然必要ですが、それを有効なものにするために、アナログの学習環境を整えることも重要であることを羽根小学校の実践研究は示しています。

グループ間の意見交流用のホワイトボード

グリーンバックとして使用できる廊下の壁

(3)教師も学び合いながら進める研究体制

 毎年、人事異動があることは公立学校の宿命です。年度をまたいだ継続的な研究を行う上で、年度が変わり、新しく赴任した教師もスムーズに研究に参加できるようにする必要があります。羽根小学校では、経験年数等に関係無く、全校体制で研究が進められていますが、それには、教師同士が学び合う体制があることがいえると思います。それは、教科や学年が異なっても、授業のデザインが似ているケースが見られることからわかります。実践の継続性、発展性の視点から、大変、重要なポイントであるといえます。

 羽根小学校の研究が継続され、より発展していくことを期待するとともに、ぜひ、成果を全国に広げていただきたいと思います。