この時間では科学技術の発達によって生まれた生命倫理に関する問題を挙げ、そのうちの「臓器移植」についてさまざまな立場の資料を活用して、多面的・多角的に考察し、自分の考えへとつなげていく学習活動が組まれた。指導者によるさまざまな立場の資料を拡大提示することにより、資料からうかがえる課題の共有が一斉になされた。その結果、その後の多面的・多角的な考察につなげる話し合い活動が深まりのあるものとなった。
提示した資料の中には1年時の既習事項を想起させるものや、臓器の形について説明をする場面では生徒自身が2年生の理科における既習の表出も見られ、教科横断がなされていることが実感できる授業であった。
川崎市立川崎高等学校附属中学校
第43回特別研究指定校研究課題
川崎市立川崎高等学校附属中学校の研究課題に関する内容
都道府県 学校 | 神奈川県 川崎市立川崎高等学校附属中学校 |
---|---|
アドバイザー | 木原 俊行 大阪教育大学教授 |
研究テーマ | 未来をLEADする人材育成のためのカリキュラムマネジメント |
目的 | 未来をLEADする人材である生徒たちに必要な能力を育成するため、教科横断的な視点をもってカリキュラム・マネジメントを行う |
現状と課題 |
|
学校情報化の現状 | ICT環境が整っており、活用もある程度できているが、系統だった指導に課題がある。 |
取り組み内容 |
「未来をLEADする人」に必要な三つの能力を「問題解決能力」「ICT活用能力」「ダイバーシティ・コミュニケーション能力」とし、これら三つの能力の育成に関わる研究チームをつくり、組織的に研究を進める。 「問題解決能力研究部」(問題解決能力、探究する力を育成)
「ICT活用能力研究部」(情報活用能力育成)
ダイバーシティ・コミュニケーション能力研究部」(多様性を認め、人と関わる力を育成)
|
成果目標 |
「未来をLEADする人」の具体を「主体的に思考し、情報および情報手段を自ら選択・活用し、人との関わりを大切にしながら他者の思いや考えを受けとめて行動できる人」とし、そのために必要となる三つの能力の各学年の到達目標に迫っているという自覚をもつことができ、また行動につなげることができる。(能力が高まったという自覚がある)
|
助成金の使途 | 研究紀要印刷、電源保管庫、デジタル教材 |
研究代表者 | 和泉田 政德 |
研究指定期間 | 平成29年度~30年度 |
学校HP | http://www.kaw-s.ed.jp/jh-school/ |
校内研究会と公開研究会の予定 |
校内研究会の予定
公開研究会、学会発表等の予定
|
研究課題と成果目標
研究課題 | 未来をLEADする人材育成のためのカリキュラム・マネジメント |
---|---|
成果目標 |
|
本期間(4月~7月)の取り組み内容
- ・5月よりICT活用能力研究部および技術科の取り組みとして、1年生を対象とし、生徒のICTスキルの向上をねらいとしたタイピング練習を朝のe-ラーニングと技術科の帯の時間を使って実施した(現在も継続中)。
- ・6月5日(月)に「未来をLEADする人」に必要な三つの能力の育成に向けて、各学年における到達目標を研究部ごとに検討した。
6月5日の各研究部における研究会議の検討内容 |
問題解決能力研究部総合的な学習の時間を軸として考えた問題解決能力に関する各学年の到達目標(案)
(「総合的な学習の時間」の各学年のテーマは1年「農業」「2年職業・商店街」3年「国際都市川崎」)
ICT活用能力研究部
キーワードとして「打つ・つくる・発表する」(ステージごとの重点目標)
この中に情報モラル教育が入っていないので、ステージ1(中1,2)で指導する。 「情報活用能力の課題」でいうと
ダイバーシティ・コミュニケーション能力研究部
|
---|
- 6月に全校生徒を対象としたタイピング技術調査を実施した。また、オンラインによる「コンピューターやタブレットに関する調査」を実施した。
「コンピューターやタブレットに関する調査」設問の一部
オンラインによる「コンピューターやタブレットに関する調査」の様子
- 6月19日(月)にパナソニック教育財団・川崎市総合教育センター情報視聴覚センターよりアドバイザーを招き、午前中通常授業を参観していただき、午後から校内授業研究会および研究協議を行った。その後パナソニック教育財団の本校アドバイザーである木原先生に「カリキュラム・マネジメントの基本的な考え方」をテーマにご講演いただき、カリキュラム・マネジメントの進め方について研修した。
2年国語「附属中の魅力を6年生に
伝えよう」(ICTを活用したプレゼン
テーション)
授業研究会(問題解決能力・ダイバー
シティ・コミュニケーション能力)3年社会「私
たちがつくるこれからの社会」(対
立から合意へ)
本校アドバイザー木原先生による講
演会演題「カリキュラム・マネジメ
ントの基本的な考え方」
- 7月20日(木)の研究会議で6月の校内研修会で学んだ「カリキュラム・マネジメントの基本的な考え」に基づき、各教科等におけるカリキュラムの見直しの図り方について再度共通理解を図った。そして各教科等や学年間、総合的な学習の時間との関連を確認したうえで、自分が担当する教科等のカリキュラムの見直しを8月に行う校内研修会までに行うこととした。また、今後の授業研究会の予定を確認した。
校内研修会で提示した「総合的な学習の時間」を軸とした、三つの能力育成に関わる2年国語のカリキュラム・ マネジメントの例 (黄=問題解決能力、青=ICT活用能力、緑=ダイバーシティ・コミュニケーション能力)
アドバイザーの助言と助言への対応
授業研究会後の研究協議における助言指導
- 今回の研究に即した統一指導案の形式を確立する方向で。
- 単元名のネーミング等は、生徒が共感しやすいかたちにするとよい。
- あれこれと考えを巡らせる主体的な学びができていたが授業時間が45分と短く、合っていない感じがした。重点単元の共通理解を図り、カリキュラム・マネジメントするとよい。
助言への対応
- 新しい指導案では教科として身につけさせたい力だけでなく、三つの力(「問題解決能力」、「ICT活用能力」、「ダイバーシティ・コミュニケーション能力」)に関わる目標と、その評価を入れるとともに、指導観も入れた形式とする。
- 単元名のネーミングをはじめ、内容についても生徒の実態把握をもとに行っていく。そのためにも生徒との日頃の交流を大切にし、生徒の実態把握に努める。また、指導案検討も含め、第三者の目を取り入れて授業つくりを行っていく。
- 学校事情により、45分時程を変えることはできないため、「知識・技能」に関する内容は反転授業で行うなどの方法も視野に入れて授業を構想する。または2時間続きの授業にするなどのカリキュラム・マネジメントを行って対応する。
講演会におけるアドバイザーの助言
- カリキュラム・マネジメントを行う上で「教科横断的」という視点とともに、新学習指導要領の流れに沿って「主体的・対話的で深い学び」と「三つの資質・能力の育成」を外してはいけない。それプラス本校が育成すべきと考える三つの能力(「問題解決能力」「ICT活用能力」「ダイバーシティ・コミュニケーション能力」)の育成をいかに各教科等で行っていくかを具体的に考える必要がある。そのためにやるべきことは四つある
- ①各教科等における三つの能力育成に関わる重点単元の設定(そのための他の単元との時間調整も含む)
- ②教科や学年等をまたいだ授業の構想
- ③三つの能力の現状と課題を明らかにするためにデータを取って分析
- ④カリキュラムを発展させるためのサポーターや資料の発掘・検討
助言への対応
- 重点単元の設定については教科ごとに学年の行事や総合的な学習の時間とのつながりを見出しながら検討する(①②④)
- 三つの能力の現状と課題を明らかにしていくために、生徒へのアンケートを実施、分析する。(③)
本期間の裏話(うれしかったこと、苦心談など)
うれしかったこと
- アドバイザーの木原先生にカリキュラム・マネジメントの基本的な考え方について非常にわかりやすいご指導をいただき、今後の研究への見通しを具体的にもつことができたこと。
苦心談・反省点
- 研究を推進していくための研究会議の設定が難しく、検討すべきことを検討しきれずに本期間が終わってしまったこと。また、生徒のICT活用能力の調査は行ったが、分析が完全には終わらなかった。
本期間の成果
- 校内授業研究会(社会科)と校内研修会を通して、カリキュラム・マネジメントを行う上で必要となる視点のもち方や含むべき要素について職員全体で共通理解を図ることができた。また、各教科等におけるカリキュラム・マネジメントをいかに行っていくか各自見通しをもつことができた。
- タイピング能力調査の結果、ICT活用能力研究部としての取り組みが既に表れつつある。 (キーボード入力文字数/1分間 1年30.45字、2年43.99字、3年53.16字)
今後の課題
- 育成すべき三つの能力の到達目標について検討が足りず、目標設定に至ったとは言えない状態であるため、今後さらに研究部ごとに検討を重ね、設定につなげていく。また、その目標に対する評価方法(ルーブリック)とその内容についても検討する。
- 生徒に行ったICT活用能力調査結果および職員アンケート結果の分析を完了させ、分析結果を今後のカリキュラム・マネジメントに生かす。
- 一人ひとりの教員が、三つの能力育成を意識した授業を展開していく。そのためにも、自分と同じ教科の教員、および関連する他教科の教員とカリキュラム・マネジメントに向けてさらに話し合いを重ね、授業つくりに生かす
今後の計画
- 8月24日の夏季研修会で、各教科等で行った総合的な学習の時間を軸としたカリキュラム・マネジメントをもとに、教科間、学年間とのつながりについて考えを共有する。
- 新しい共通指導案を用いた授業研究会の指導案検討を行う。
- 9月27日の第2回訪問指導のときにはアドバイザーの木原先生に授業を参観していただいた後、カリキュラム・マネジメントの視点でご指導いただく。
公開授業研究会等の予定
11月25日(土) |
|
---|---|
12月11日(月) |
|
- 大阪教育大学 大学院連合教職実践研究科 教授 木原 俊行 先生
平成29,30年度と,川崎市立高等学校附属中学校(以下,附属中学校)は,パナソニック教育財団の特別研究指定校として,実践研究を推進することとなった。同校は,その名のとおり,中高一貫教育を標榜する学校である。明るくて,素敵な校舎で,子どもたちがのびのびと学んでいる。附属中学校の子どもたちはそれぞれ,入学時に,タブレット端末を手にする。すなわち,いわゆるOne to one computingのICT環境が実現している。子どもたちは,指導者の指示がなくても,テキストとして,あるいはノートとして,さらには資料集として,タブレット端末を自主的に,主体的に活用している。
中高一貫教育という新しい制度,モダンで機能的なデザインの建物や教室,そしてよく整備されたICT環境という好条件の下,附属中学校の教師たちは,カリキュラム・マネジメントの実践研究に着手した。そのステップは,他の学校におけるカリキュラム開発の営みの参考になる。まず,重点的に育成を図る資質・能力(問題解決能力,ICT活用能力,ダイバーシティ・コミュニケーション能力)を学校として定めている点に注目したい。それらが教科横断的な視点に基づく教育課程の編成の礎となるからだ。続いて,そうした資質・能力に即して,カリキュラム開発のためのPDCAサイクルを推進する組織(3つの研究部)を構成していることも望ましい。それは,各研究部の検討内容の明確化やその実践化をもたらしている。さらに,PDCAサイクルの取り組みに資するデータ(タイピング技術,コンピュータやタブレットの利用に関する調査)を確保している点も,すぐれている。
なにより,附属中学校の教師たちは,カリキュラム・マネジメントに関する取り組みをフットワーク軽く進めている。例えば,筆者が6月下旬に助言した内容に,すでに1学期中に応じて,各教科等の年間指導計画の見直しを始めている。指導案の様式の改編にも着手しているし,反転授業の実施も視野に入れている。
附属中学校におけるカリキュラム・マネジメントに関する実践研究は,緒についたばかりである。しかし,2年後の実りの豊かさを予想できる,よきスタートが切れた1学期であった。
本期間(8月~12月)の取り組み内容
- ・7月末~8月に職員アンケートの実施および各教科等における単元計画案の作成を行った。そこでは育成を目指す三つの能力に関わる単元および、軸となる総合的な学習の時間との関連について各自考え、計画表に図示した。
- ・8月1日(火)にパナソニック成果報告会に本校職員5名で参加し、各校の研究報告とパネルディスカッションから今後の研究の進め方やまとめ方、発表のしかたについて学んだ。
- ・8月24日(木)に川崎市総合教育センター情報・視聴覚センター指導主事の和田俊雄先生と草柳譲治先生を講師に迎えて校内夏季研修会を実施した。そこでは新学習指導要領の総則をもとに、カリキュラム・マネジメントの必要性と、カリキュラム・マネジメントを行う上で留意すべき点等について確認をした。それを踏まえて学年ごとに軸となるLEAD(総合的な学習の時間)で行う学びと、研究主題にある「未来をLEADする人材」について共通理解を深めるとともに、各自作成してきた単元計画表をLEAD(総合的な学習の時間)と関連させ、共有化を図った。
- ・9月27日(水)にパナソニック教育財団本校アドバイザーである木原俊行先生と川崎市総合教育センター情報・視聴覚センター指導主事の先生方を招き、公開研究授業および研究協議を行った。
[公開研究授業]
「1年美術 ポスター制作 ~伝えたい内容を効果的に伝えよう~」 田村真弓教諭
「2年英語 Chapter Project 3 将来の夢 ‐My future career to dream of‐」外山瑞穂教諭
「2年LEAD 生き生き商店街プロジェクト~自分の生き方、在り方を考える~」
外山瑞穂教諭 後藤将彦教諭 遠藤まなみ教諭坂牧秀則教諭 對馬公絵教諭 久保田聡子教諭 - ・10月8日(日)に日本教育工学協会の「『教育の情報化』実践セミナー2017 in 川崎」の分科会2「公立学校のBYOD導入によるICT活用の実践報告」の中で、今年度から始まった本研究の概要について発表した。
- ・11月25日(土)に和歌山県和歌山市で行われた第43回 全日本教育工学研究協議会全国大会において、本校から2名、授業研究実践を発表した。
発表者1 藤澤泰行教諭「あいまいな文章を読み解く」(情報モラル,情報セキュリティ)
発表者2 久保田聡子教諭「ICTを活用した主体的・対話的で深い学びを促す国語科
授業『本の魅力をわかりやすく伝えよう~ビブリオバトルに挑戦!~』」
(教科指導におけるICT活用) - ・12月11日(月)に、中間報告会を行った。これまでの研究経過と今後の予定について報告をした後、公開研究授業、研究協議、講師対談を行った。公開授業の際には事前に、「研究協議ワークシート」を配付し、項目ごとに気づきや疑問を記入しながら参観してもらい、グループによる研究協議では、ワークシートを活用しながら協議を進めた。各グループには本校職員が司会、記録として付き、記録担当がデジタルワークシートに協議の内容を入力した。そして講師の方々は提出フォルダに提出されたデジタルワークシートを拡大提示し、「カリキュラム・マネジメントを支えるICT活用」について、対談形式でご指導してくださった。
[公開研究授業]
「1年技術 プログラミングでロボットを動かしてみよう」 藤澤泰行教諭
「2年理科 化学変化と原子・分子」 遠藤まなみ教諭
「2年道徳 国際理解・国際貢献 『海と空~樫野の人々~』」 後藤将彦教諭
「3年LEAD Eじゃん川崎・かわさき・カワサキ・Kawasakiプロジェクト」
源吉加代教諭 大野由希子教諭 杉本昌崇教諭
首藤隆志教諭 堀江賢司教諭
LEADを軸とした、三つの能力育成に関わる2年のカリキュラム・マネジメント試案 (黄=問題解決能力、青=ICT活用能力、緑=ダイバーシティ・コミュニケーション能力)
1 年美術(問題解決・ICT活用・ダイバーシティ・コミュニケーション能力)
2年英語(ダイバーシティ・コミュニケーション能力)将来の夢について英語でスピーチする
2年LEAD(ICT活用・ダイバーシティ・コミュニケーション能力)職場体験での学びを生かしてなりたい自分についてプレゼンする
セミナー時における発表の様子
1年技術(ICT活用・問題解決・ダイバーシティ・コミュニケーション能力)ロボットにプログラムを転送し、プログラミングを検証する。
コラボノートの付箋機能を活用して発信し、情報を共有する。
2年理科(ICT活用・問題解決能力)実験の様子をPCの録画機能を活用して録画する
結果や考察をホワイトボードに記録する。このホワイトボードをPCのカメラ機能を活用して撮影し、写真をコラボノートに貼り付け、全体で共有する。
2年道徳(ダイバーシティ・コミュニケーション・ICT活用能力)話し合いの記録をPC のメモ機能を活用して自主的に記録する。
配信された読み物資料に自分の考えの根拠となるところに自主的にペンを入れる。
3年LEAD(ICT活用・問題解決能力)事前に作成したデジタルガイドブックも見ながら発表を聞く
講師対談の中で、グループでまとめたデジタルワークシートを使って話をされる野中陽一先生
アドバイザーの助言と助言への対応
第2回訪問指導の授業研究会後の研究協議における助言指導
- 1年美術では深い学びのための比較思考を促すうえで、コラボノートを活用した対話的な学びが貢献していた。また学びを深めるために必要に応じて生徒が主体的にICTを活用する場面が見られたが、一部の生徒においては指導者の意図(答えを隠している間に考えさせ、後から見せる)とは異なる活用のしかたをするものもいた。今回でいえば先に進みたくて別のものを見ているという高次の問題が生じており、これは一人一台という環境だからこそ生まれた問題かもしれない。よって、今までにないスタイルの授業を考えていくとともに、指導を今後どうしていくかを検討していく必要がある。
- 2年生の英語では、LEADの職場体験学習との関連を意識して、事前に行っていた職場体験日記を英語で書くという学習活動をもとにして、「職業」という大きな括りで将来の夢を英語でスピーチするという厳しい課題に取り組んでいたが、少人数学習というスタイルが功を奏していた。スピーチの内容を聞いてみると、職場体験を生かしたものより他の体験を用いてスピーチしているものが多かったように思う。今回は総合との緩やかなつながりにとどまっていたが、カリキュラム・マネジメントとして考えるともっと内容を噛み合わせることを意図して行うとともに、つながりのバリエーションを増やしていくといい。
- 2年LEADでは、ICT活用能力の面でいえば情報の取捨選択がよくできたスタイリッシュなスライド作成ができる生徒が非常に多く見られた。また、発表時の傾聴の姿勢ができていることと、グループにおける司会も巧みで調整能力に長けていると感じた。これらがダイバーシティ・コミュニケーション能力の育成にも一役買っていると思われる。
ただ、本時のねらいを「自分の考えを深める」を第一とするのであれば、今日のプレゼンテーションという方法がベストであったかどうかを考える必要がある。考えを明確にさせていくということであれば、レポートを作成し、他者のものを読む中で自分の考えと違うところに線を引いたり書き込んだりするという方法もある。
助言への対応
- 指導者の想定しないようなICTの利活用を行うことはこれからも十分にあるうることが予想される。よって、授業の中におけるICT活用場面の設定については、その活用のしかたが最適であるのかどうか、またその活用が本当に必要であるかも含めて授業づくりをしていく。そのためにも教科をこえた指導案検討を今以上に積極的に行っていく。
- 教科横断の視点をもった授業づくりをしていくうえで、どのように関連しているか、学習成果物がどのようなものとなるか、またその学習を通してどのような姿になるかを具体的に想像しながら授業づくりをする。
- 教科等で身に付けさせたい力と、本校で育成を目指す三つの力(「問題解決能力」、「ICT活用能力」、「ダイバーシティ・コミュニケーション能力」)との関連を明確にしてねらいを設定する。
夏季職員研修会で学年ごとに作成したカリキュラム・マネジメント試案に対するアドバイザーの助言
- カリキュラム試案を見るとLEADとの関連を示す矢印が各教科等で集中しているところがいくつかあるので、主導を取る教科を定めたり、自身が担当する教科等とLEADとの関連性をもう一度見直しをしたりしていく必要がある。
助言への対応
- 自身が担当する教科の単元計画案の内容を見直し、三つの力との関連を精選するとともに、他の教科と比較し重要度がいちばん高い教科がどれかをまずは個人で検討する。その検討結果をもとに、最終的には職員全体で検討する。
本期間の裏話
うれしかったこと
- 中間報告会の研究協議では、アドバイザーの木原先生およびもうひと方の講師であった野中先生のほかにも、たくさんの参観者の方々から本校におけるICT活用方法やカリキュラム・マネジメントについてご助言をいただくことができたこと。
苦心談・反省点
- 様々な調査の分析に時間がかかっており、まだ完全には終わっていないこと。
- 今期も会議の時間の生み出しが難しく、思うように研究を推進できなかったこと。
本期間の成果
- 前回の訪問指導時にアドバイザーの木原先生にご指導いただいたカリキュラム・マネジメントの基本的な考え方に基づいて、まずは職員全員でカリキュラム・マネジメントの試案を作って共有するとともに、課題についても考えることができた。
- カリキュラム・マネジメントの三つの側面のうち、教科横断的な視点を意識して行う授業が増えてきた(国語、社会、英語等)。また、「教育内容と教育活動に必要な人的・物的資源等の活用」についても、各学年のLEADや道徳においては取り入れることができた。
- 「附属中情報活用調査」の分析を進めた結果、「コンピュータを使うこと 項目5『コンピュータのキーボードで文字を入力することは得意である』」に関して学年間の比較してみると、「あてはまる」「どちらかといえば当てはまる」の割合は1年生が一番高いことが分かった。これは今年度から始まった継続的なタイピング指導が大きく影響していると思われる。また、国の調査と比較するといずれの学年も本校が高く、日常的にPCを使う一人一台環境が影響しているのではないかということがわかってきた。
附属中情報活用調査
コンピュータを使うこと
項目5「コンピュータのキーボードで文字を入力することは得意である」
- ※「あてはまる」「どちらかと言えばあてはまる」の割合(合計)
附属中1年 61%,附属中2年 48%,附属中3年 59%,国の調査 46% - ※国の調査
「国の情報活用能力調査」の結果より中学校第2学年生徒(104校 3338人)
平成25年10月~平成26年1月
今後の課題
- 情報モラル教育、生徒の主体的なICT活用に関する共通認識をもつとともに、理解を図る。
- これまで行ってきた調査の分析を完了させるとともに、生徒の情報活用能力調査の二回目と保護者アンケートを実施し、活用能力の変化とともに、保護者と生徒の意識の相関関係も含めて分析をしていく。それをカリキュラム・マネジメントに生かす。
- 一人ひとりの教員が、三つの能力育成を意識した授業を展開していく。そのためにも、自分と同じ教科の教員、および関連する他教科の教員とカリキュラム・マネジメントに向けてさらに話し合いを重ね、授業づくりに生かす(継続)。
今後の計画
- 個人による単元計画案の見直ししたものと、冬季休業中の職員課題として出した「ミニカリキュラム・マネジメント案」を持ち寄り、会議の場で共有し、本校のカリキュラム・マネジメント案に生かす。
- 中間報告会のデジタルワークシートへの記載内容および、当日アンケートの分析をし、その結果を共有する、そしてカリキュラム・マネジメント修正に生かす。
- 3月の授業研究会の指導案検討を行う。
- 第3回の訪問指導のときにはアドバイザーの木原先生に授業を参観していただいた後、カリキュラム・マネジメントの視点でご指導いただく。
(公開授業研究会等の予定)
3月9日(金) |
|
---|
成果目標
- 「主体的・対話的で深い学び」を成立・充実させ、三つの能力(「問題解決能力」「ICT活用能力」「ダイバーシティ・コミュニケーション能力」)の育成を目指した授業実践を行う。
- 各教科等で作成した単元計画案をもとに、LEADを軸として「未来をLEADする人」に必要な三つの能力育成を図る上でのカリキュラム・マネジメントの試案を学年ごとに立てる。
- 生徒のICT活用能力の調査結果の分析を進める。
本期間(1月~3月)の取り組み内容
- ・昨年12月に行った中間報告会のデジタルワークシートへの記載内容および、当日アンケートの整理をした。
【研究協議で用いたデジタルワークシートのあるグループでの記載内容】
観点①「ICT環境の整備」については、「どの教室にもプロジェクターとスクリーンが設置されているので便利」「PCが一人一台だからこそ、できることが多い」「環境が整うことにより、情報の共有化が図りやすくなる」といったように、環境整備が整うことよるメリットに関するものが多かった。疑問点・質問等としては、教室の構造や、情報モラルの指導やルールについて挙げられていた。指導法、ルールについては分掌から出されたものがあるが大まかであるため、学年によって捉え方に差がある。学校としてのルール作り、そしてさらなる情報モラル指導の計画的指導が今後必要である。
観点②「授業におけるICT活用」については、コラボノートやスカイメニューなど、情報共有に関するアプリを活用する場面が多いことに着目するものが多く、そこから「主体的・対話的で深い学びへとつなぐ糸口となっているのではないか」という意見が出されていた。疑問点・質問等としては、トラブルへの対処やアプリの使い方指導について挙げられていた。授業者による対応というのが現状であるが、今後の職員の入れ替わりもあるため、今以上の研修等が必要となってくる。
観点③「カリキュラム・マネジメント」については、育成を目指す三つの力のうち「問題解決能力」「ICT利活用能力」については1年次からの積み重ねによって、身に付いているように見えるという意見が見られた。しかし、「プロジェクトの評価や学習内容のマネジメントが見えづらい」といった意見から、その部分を整えていく必要がある。 - ・3月9日にパナソニック教育財団、JAET、川崎市総合教育センター情報・視聴覚センターよりアドバイザーを招き、午前中は1,2年生のLEAD(「総合的な学習の時間」)学習発表会を、午後は5、6時間目の授業を参観していただき、その後研究会議では前回の訪問から行ってきたことと、授業についてご指導をいただいた。
1年LEAD「農業体験プロジェクト」個人による探究学習の成果を拡大提示しながら発表。
2年LEAD「生き生き商店街プロジェクト~今の自分たちにできること~」このグループは英語で探究学習の成果を発表した。
1年国語「学校案内リーフレットを作ろう」リーフレットはWordで作成。
2年数学「相似な図形」 Excelの機能を用いて図を作成。
2年国語「話し合って考え方を広げる~パネルディスカッション~」 記録係が記録した討論の記録がリアルタイムでスクリーンに拡大提示されている。
ディスカッションの最中、タブレットPCを活用して関連する情報を集める生徒の姿も。
- ・LEAD学習発表会①で優れた発表をしたグループを選出し、パネリスト同士によるパネルディスカッションを3月16日に行った(LEAD学習発表会②)。ここではこれまでの学習を振り返るとともに、自分たちの見方考え方を広げる機会とした。その時には以前講演会でお世話になった講師の方たちも招いてまとめを行った。
なお、カリキュラム・マネジメントの視点としては、国語で学んだパネルディスカッションの手法を用いていること、また効果的なICT活用としては記録係がPowerPointのスライドに記録した討論の内容をスクリーンに拡大提示することにより、フロア側に討論の内容の理解を促しているところである。 - ・「未来をLEADする人」に必要な三つの能力育成を図る上でのカリキュラム・マネジメントの試案の見直しを一部図った。
LEADを軸とした、三つの能力育成に関わる2年のカリキュラム・マネジメントの試案を一部見直したもの。重点とする教科を決めることで、線の集中が減少した。またLEADで学んだことが各教科に生かされる(赤線部)、教科と教科を横断する(青線部)等についても見直してみた。
- ・3月に第2回タイピング技術調査と、Word文書作成能力調査を実施した。
生徒が作成した文書例
- ・2月12日に行われた「eスクールステップアップキャンプ2017東日本大会」に一名参加した。
- ・2月16日に行われた荒川区立第三中学校のアクティブラーニングに関する研究発表に3名参加した。
- ・2月23、24日に行われた横浜国立大学教育学部付属横浜中学校の研究発表会に4名参加した。
パネリストによる発表の概要を記録する記録係
パネリストによる討論の記録も拡大提示される
フロアも交えた意見交流の様子
講師の一人であるモトスミ・オズ通り商店街副理事長新村慶太さんによる意見感想発表の様子
アドバイザーの助言と助言への対応
第3回訪問指導時における助言指導
- 1年と2年のLEAD学習発表会を見ると、学年に応じた発表となっており、問題解決の方法や、提示のしかたに特徴が見られた。2年生では複数箇所における実地調査や配信システムを活用したアンケートの実施、Excelの表計算機能を活用して集計しているグループもあった。また、多くのグループにおいてクロス集計やグラフの複合など、根拠となるデータの示し方も工夫しており、より説得力のある発表となっていた。新学習指導要領の総則に示されている情報活用能力の中に今回初めて出てきた「統計」も含め、これらの資質・能力の育成を今まで以上に計画的に行うことによって、適切な場面でその能力を発揮できるようになることが期待される。カリキュラム・マネジメントの視点で見ると、発表する生徒から「他の教科で学んだことを生かして発表している」という言葉が出ているところから、教科横断がなされていることがうかがえる。
- 1年国語の授業(Wordを使っての学校案内リーフレットづくり)では日常的な取り組みによって昨年度よりICT活用のスキルアップをしていることがうかがえる。画像の挿入や体裁を整える等のスキルが身に付いていることが作品から見て取れた。
- 2年数学では「相似な図形」をExcelで作成するためのスキル指導を授業内で行っており、生徒たちは興味関心をもって、活動に取り組んでいた。しかし、スキル指導に時間がかかりすぎており、教科の時間の使い方としてもったいないという感じもした。
- 3年国語では、話合いの手法の一つであるパネルディスカッションの学習であったが、「第2外国語として学ぶ言語は?」のテーマをはじめ、学ぶ言語の候補を三つに絞る段階で「言語グループの違うものにしたらどうか」という発案の中、決めていく過程においても、社会科における既習事項が生かされており、教科横断的な視点に立った授業であった。パネリストと記録、進行係は特にアクティブラーニングになっていた。フロア側については、討論を聞く中、自分の考えの変容を表現する機会を与える等の工夫があってもよかったのではないか。
- ICTスキルをみると、Microsoft OfficeでいえばExcelのスキルが低いのが気になる。これらアプリケーションスキルアップをするミニカリキュラムを作り、1年次に指導をするとよい。行う時間としては前期総合か。
- カリキュラム・マネジメントの視点で本時の授業をみると、各教科とも教科横断を意識した授業となっている。PDCAサイクルについては、取り組みの実際、生徒における力が高まったことがわかるような記録を取る。そのためにも生徒のポートフォリオを作る。評価方法としてはLEADのプレゼンテーションであれば、スライドの内容に関わるルーブリックを作って評価するなど。資源の活用については各学年外部人材を使っているが、学習内容に合わせ、さらに増やす方向で考えていくとよい。中高一貫校でもあるため、高校に協力を求めるのも手である。
助言への対応
- 教科の中でのICTスキル指導に時間をかけすぎてしまうのを避けるために、総合的な学習の時間等である程度まとめて指導する方向で検討したい。
- PDCAサイクルに必要となる生徒の記録については、生徒における力の高まりを見取るための資料を現在も集めつつあるが、その変化を何で見るか(記載量、内容、キーワードの出現率等)基準を明確にしていく。
- 学習内容に合った外部人材を増やす方法として人材バンクの設立なども視野に入れて考えていく。
本期間の裏話
- 年明けは適性検査や高校入試などの業務により授業日数が少なく、今まで以上に研究の推進が滞ってしまった。話し合う時間の確保も難しかった。
- カリキュラム・マネジメントを支える側面の一つである「教科横断的な視点」に立って、授業を行っているが、アドバイザーの先生もお気づきのように生徒たちにもそのことが伝わりつつある。そしてその気づきによって学習することの意義や必要性を実感しているということを生徒たちから聞くことができたのが嬉しかった。
- 第3回訪問指導にて、現在本校の研究でできていること、足りないところをアドバイザーの木原先生をはじめ、諸先生方からはっきり指摘していただけたのはよかった。一つ一つ取り組んでいきたいが、アプリケーションスキルアップのミニカリキュラム作りは早急に具体化していきたい。
本期間の成果
- 中間報告会のデジタルワークシートへの記載内容および、当日アンケートの整理分析することによって、本校の環境や授業におけるICT活用、そしてカリキュラム・マネジメントに対してどのように評価されているのかを知り、参考になった。
- 研究発表会に複数名参加し、各校の実践から多くのことを学ぶことができた。またそれをもとに、これまでの自分の授業や研究を見直すことにつなげられた。
- 「未来をLEADする人」に必要な三つの能力育成を図る上でのカリキュラム・マネジメントの試案の見直しを一部図ることにより、自分の教科ではない教科が総合的な学習の時間のどこと関連をもっているのかを再確認するとともに、教科と教科における関連についても考えを深めることができた。
今後の課題
- 今年度の取り組みと来年度の研究推進の方針をまとめる。
- カリキュラム・マネジメント表の完成とその内容を文章化する。
- 教科横断的な視点を意識した授業実践をさらに積み重ねる(継続)。
- 評価の基準をどこにおくか、何を見るかを検討し、決定する。
今後の計画
3月 | 平成30年度に向けた計画の立案。 |
---|---|
4月 | 着任者向けICT研修(コラボノート、スカイメニュー等について)今年度の研究計画について(研究の方針とその内容、年間の見通し)授業研究① |
5月 | 第1回訪問指導に向けた指導案検討 職員研修 授業研究② |
6月 | 第1回訪問指導(授業研究③および研究協議) |
7月 | 授業公開に向けた指導案と紀要原稿について 授業研究④ |
8月 | 第2回訪問指導(本発表指導案検討・紀要原稿点検) |
9月 | 授業研究⑤ 紀要原稿しめきり |
10月 | 授業研究⑥ |
11月 | 授業公開と成果報告会 |
12月 | 指導案検討 来年度に向けてカリキュラム・マネジメント表の見直し・修正 |
1月 | 授業研究⑦ |
2月 | 指導案検討 |
3月 | 第3回訪問指導(授業研究⑧および来年度に向けてカリキュラム・マネジメントの研修) |
1年間を振り返って、成果・感想・次年度への思い
- 今年度は昨年度までの研究を整理するようなかたちで終わってしまった感がある。
- 研究テーマであるカリキュラム・マネジメントを支える側面のうち、教科横断的な視点に立って授業を行うことに関してはできるようになってきている。
- 質的・量的なデータをそろえようと生徒の記録を取り続けているが、分析がなかなか進まない。協力を得ながら進めていきたい。
- 今回の研究を通して生徒の力を育成するだけでなく、我々教師にとっても授業力がついたという実感がもてる、つまり「やってよかった」と思えるような研究にしていきたい。
成果目標
- 「主体的・対話的で深い学び」を成立・充実させ、三つの能力(「問題解決能力」「ICT活用能力」「ダイバーシティ・コミュニケーション能力」)の育成を目指した授業実践を行う。また、第3回訪問指導の際は、「カリキュラム・マネジメント」の視点でアドバイザーの先生に参観していただき、ご指導を受ける。
- 各教科等で作成した単元計画案をもとに、LEADを軸として「未来をLEADする人」に必要な三つの能力育成を図る上でのカリキュラム・マネジメントの試案の見直しをする。
- 生徒のICT活用能力の調査として、第2回タイピング技術調査と、Wordの文書作成能力調査を実施する。
- 大阪教育大学 大学院連合教職実践研究科 教授 木原 俊行 先生
ICT活用がカリキュラム・マネジメントを促す
平成29年度,川崎市立高等学校附属中学校(以下,附属中学校)は,パナソニック教育財団の特別研究指定校として,実践研究を重ねている。同校はいわゆるOne to one computingのICT環境を整えており,生徒は,タブレット端末を自主的に,主体的に活用している。それを追い風にして,附属中学校の教師たちは,カリキュラム・マネジメントの取り組みに着手している。その様子を解説してみよう。
写真:パネルディスカッションの様子(第2学年国語)
2018年3月9日,附属中学校を訪問し,そこでいくつかの授業を見学させていただいた。第2学年の国語科の授業では,「日本語・英語の次に学習するとしたら,何語?」というテーマを設定して,生徒たちがパネルディスカッションを繰り広げていた。もちろん,パネラーとなった生徒たちは,自身が推奨する言語に関して,タブレット端末を利用して見事なプレゼンテーションを繰り広げていた。加えて,記録役の生徒は,パネラーのプレゼンテーション及び議論の要点をタブレット端末で整理して提示し,論点の整理に努めていた。さらに,パネラー以外の生徒は,パネリストのプレゼンテーションの内容を確認したり掘り下げたりするために,自主的にタブレット端末を用いて情報の検索を試みていた。つまり,いずれの役割を果たしている生徒も,タブレット端末をパネルディスカッションへの参画のよき舞台や道具として用いていた。さらに注目すべきは,生徒たちのプレゼンテーションや討論の内容である。ドイツ語,スペイン語,中国語を第二外国語として学習する価値等に関して,生徒たちは,社会科の内容を参照したり,数学的(統計的)な手法を駆使したりして,〕コミュニケーションを展開していた。
第1学年の国語科においても,同様の取り組みを目にした。生徒たちは,あと一月ほどで入学してくる新1年生に,附属中学校の生活,その特徴について情報を提供するリーフレットの作成にいそしんでいた。それは,特徴を数学的に表現する,文字と写真のレイアウト(美術)を考えるといった思考を伴うものであった。
附属中学校の生徒たちのICT活用を1年間追跡してみると,彼らのICT活用能力が高まっていることが分かる。それゆえに,彼らは,量的・質的に豊かな情報にふれ,それを巧みに処理したり表現したりできる。それが,前述したような教科横断的な視点に基づく授業の展開,すなわち,カリキュラム・マネジメントを促している。附属中学校の教師たちは,両者のよき関係の発見,その追究の道を着実に歩んでいると言えよう。
本期間(4月~7月)の取り組み内容
- ・LEAD(総合的な学習の時間)を軸としたカリキュラム・マネジメントの試案を再度見直し、5月に実施した教育課程説明会において研究内容について本校保護者に説明をした。その後6月に実施した本校の懇談会で、現段階におけるカリキュラム・マネジメント表を「学びの地図」として配付し、本校のカリキュラム・マネジメントの具体のイメージを伝え、理解を図った。
- ・今年度は、パナソニック教育財団の研究最終年度であり、研究のまとめに向かってどのように研究を推進していくかということと、JAET全国大会の会場校としての準備を進めていくための情報交換および研修の場として毎月研究会議を設け、実施した。
- ・本校が考える三つの能力育成を目指した授業を毎月提案し、協議を行った。6月の研究授業時に合わせて今年度1回目の訪問指導をしていただいた。
- ・生徒たちの情報活用能力および意識を見取る調査として昨年度は「コンピューターやタブレットに関する調査」「キーボード入力調査(2回)」「Word文書作成能力調査」を実施した。今年度はさらに幅広い情報活用能力を見取るためにキーボード入力のほか、「インターネットを使った情報検索」「Excelを使ったグラフ作成」「フローチャート作成」「「プログラミング」と調査項目を増やし、5月から7月上旬にかけて実施した(本校1~3年)。また、生徒自身の情報活用能力への意識と各パフォーマンス課題との関連を見ることにより、情報活用能力の特徴(傾向)が見えるのではないかという仮定のもと、川崎市総合教育センターで開発した「川崎市版情報活用能力チェックリスト」を用いた意識調査を実施した。現在、各調査の結果を集計・分析中である。
4月から7月までに行った校内研究授業
(4月) | |
3年国語 | 単元名「自分の意見をもつ」 授業者 久保田聡子教諭 |
学習材名 『高瀬舟』森鷗外/「ふたりの黒い医者」(『ブラックジャック』 手塚治虫) | |
参考図書 「たった一つを変えるだけクラスも教師も自立する『質問づくり』」 新評論 ダン・ロスタイン ルース・サンタナ 吉田新一郎訳 |
|
(「問題解決能力」「ダイバーシティ・コミュニケーション能力」) |
この時間ではメインテキストの『高瀬舟』の読みを深めることをねらい、主となる登場人物二人に対する質問づくりをした。人物のどのようなものの見方、考え方に着目して質問を作ったのかをグループで共有するときと質問の整理・分析の場面でコラボノートの付箋機能を活用した。
【コラボノート上における生徒が作った登場人物への「開いた質問」と「閉じた質問」の例】
(5月) | |
1年数学 | 第1章 正負の数 加法 授業者 堀江 賢司教諭 |
(問題解決能力、ダイバーシティ・コミュニケーション能力) |
この授業では正負の数の加法について学び合い、そこでは「説明する」という言語活動を取り入れていた。説明のしかたは人それぞれのため、多面的・多角的な見方につながると考えられる。授業では説明を具体化する手段としてアプリ「PenPlusforEPSON電子黒板」を活用した。このアプリを活用した理由は記録機能があるため、式や計算の意味を考えるときに少し前に考えたことを振り返ったり、それと比較して考えたりしていく上で有効だからである。授業ではそれらの機能を使い、生徒の思考の深まりを促すことができていた。
(6月) | |
3年音楽 | 題材名「曲想を感じ取って音楽表現を工夫しよう」 授業者 金子真奈美教諭 |
教 材 混声3部合唱「春に」 谷川俊太郎作詞 木下 牧子作曲 | |
(問題解決能力) |
【着目させたい音楽記号にデジタルペンで印をつけて拡大提示をする】
【国語の授業で学んだ詩の解釈を、旋律や曲想との関わりの中でどのように合唱表現するとよいか話し合う】
【各グループで話し合いを通して決めた工夫点を発表し、その工夫点を生かして全体の前で合唱をする】
【コラボノートのコメント機能を使って、意見・感想を送り合い、共有する】
(7月) | |
3年社会〔公民的分野〕 | 単元名「現代につながる伝統と文化」 授業者 坂牧 秀則教諭 |
題材名 豊かな生活を実現するために ~科学と宗教~ | |
(ダイバーシティ・コミュニケーション能力) |
【多面的・多角的な考察を促す多様な資料を拡大提示する】
アドバイザーの助言と助言への対応
〔第1回訪問指導時における助言指導 兼6月校内授業研究会〕
-
・(授業者が自評の中でコラボノートのコメントを送る機能を活用して、意見感想を送るという活動を取り入れたことに対して)指導者が求めるもの(今回でいえばコメント)だが、その中身が問題。指導者が求めるものと、子供ができることにはギャップがある。
今回の授業におけるICT活用は相互評価の場面においてであったが、構想力を練り上げるところでICTを活用するのもいいかもしれない。(たとえばテクスチャーで構想を可視化する) - ・カリキュラム・マネジメントについては、今回国語との教科横断的な取り組みがなされたとのことだが、音楽の授業をメインとするならば、国語での扱いについては読解のみに専念させるなどした方がよかったかもしれない(今回国語では群読を行ったようだが、表現は音楽科に任せる)。また、効果的なICT活用という点でいうならば、国語の授業の記録(群読譜)をディジタル化しておき、それを音楽の学習において拡大提示するなどすれば、国語における学びを想起させ、それを音楽における表現に生かしやすかったのではないか(カリキュラム・マネジメントの効果)。そのためにもディジタル化した学習履歴の蓄積を心がけるとよい。
〔現段階における本校のカリキュラム・マネジメント表「学びの地図」に対する指導助言〕
-
・三つの力(問題解決能力・ICT活用能力・ダイバーシティ・コミュニケーション能力)の色付けがされているところを本校の「資質・能力」とみなすことができる。それを新学習指導要領で示されている資質・能力の三本柱にどのように落とし込むかが問題。
現段階では
思考力・判断力・表現力等 → 問題解決能力
知識・技能 → ICT活用能力
学びに向かう力・人間性 → ダイバーシティ・コミュニケーション能力
となるが、ICT活用能力で見てみると「どのような場面でどのように使うのかを考える」ところなどは思考力・判断力・表現力等に関わる。このような点をどうしていくか。 - ・総合とのつながり、教科と教科とのつながりを見ると、まだ曖昧な感じがするので矢印を引くかどうか検討の余地がある。(つながりについて説明ができるか。教科間の話がきちんとできているか。片思いになっていないか。)
- ・カリキュラム・マネジメント表の矢印は、資質・能力の育成を加速させるための矢印であるため、情報でつながる(国語のディジタル学習履歴を活用して音楽の授業を行うなど)、教科をこえた意図的なTTを行うなどを矢印として残すとよいのでは。そのためにももう一度教科同士で話し合って確認してほしい。
助言への対応
- ・他教科との連携を図るときにはディジタル化した学習履歴があるものを優先的に残す(資質・能力の育成を加速する矢印として)。それに当てはまる単元はどの単元か、さらに見直しをし、修正をする。
- ・教科横断をなす教科担任同士でつながりの強弱について確認し合い、矢印として残すべきか否かを検討する。
-
・本校が育成すべきと考える三つの能力と、新学習指導要領における資質・能力の三本柱に
どのように落とし込むのが最善であるのかを検討する。
本期間の裏話
- ・昨年できなかった定例の研究会議の時間を設定することができ、昨年度より職員間における情報共有がしやすくなった。
- ・カリキュラム・マネジメント表「学びの地図」の改善の視点を指摘していただいたことにより、どこをどのように改善していくとよいかがさらに明確になった。
- ・学校行事、テスト等が続き多忙を極めたが、その中でも毎月研究授業を行うことができた。
本期間の成果
- ・現段階のものではあるが本校のカリキュラム・マネジメント表「学びの地図」の形ができ、生徒および保護者にも本研究の意義等について伝えることができたこと。
- ・毎月研究授業を行い、授業改善につなげることができたこと。さらに本校で育成を目指す三つの能力のうち、これまで実践例が少なかった「ダイバーシティ・コミュニケーション能力」の実践が増えたこと。
- ・学校行事等の関係で時期がかなりずれこんでしまったが、情報活用能力を図る調査項目の検討をし、新たな項目も含めて実施することができたこと。
今後の課題
- ・今期の助言等を生かしてカリキュラム・マネジメント表「学びの地図」をさらに改善を図る。
- ・教科横断的な視点を意識した授業実践をさらに積み重ねる(継続)。
- ・評価の規準をどこにおくか、何を見るかを検討し、決定していく。
今後の計画
- ・JAET全国大会川崎大会での公開授業および特別研究指定校としての研究報告を行うための準備を進める(指導案作成、研究冊子作成)。
- ・8月21日に行われる第2回訪問指導において、アドバイザーの木原先生をはじめとした諸先生方とともに、JAET全国大会川崎大会の指導案検討を行う。
- ・9月に校内授業研究を実施する(保健体育)。
- ・10月に川崎市総合教育センターカリキュラムセンター指導主事を招請して、JAET全国大会川崎大会のプレ授業を行い、指導・助言を受ける(教科によって実施日は異なる)。
-
・11月9日(金)、10日(土)第44回 全日本教育工学研究協議会全国大会川崎大会
大会テーマ「夢!希望!かわさき!未来社会を切り拓く資質・能力の育成」
上記大会の公開授業校として、1日目に「国語」「社会」「数学」「理科」「英語」「美術」「技術家庭(技術分野)」「道徳」「特活」「総合」の授業を公開(1,2時間目 全18授業 ※一部の教科学年で同じ授業を実施するものあり)。
その後本校講堂にてパナソニック教育財団特別研究指定校として11月までの研究の成果報告を行う。
また、大会2日目に、本校生徒の情報活用能力に関する研究発表を行う予定。
(A.情報教育「中学生の情報活用能力を評価する試み」発表者 久保田聡子 他7名)
成果目標
- 「主体的・対話的で深い学び」を成立・充実させ、三つの能力(「問題解決能力」「ICT活用能力」「ダイバーシティ・コミュニケーション能力」)の育成を目指した授業実践を行う。また、今年度第1回訪問指導の際は、「カリキュラム・マネジメント」の視点でアドバイザーの先生に参観していただき、ご指導を受け、授業改善に生かす。
- 各教科等で作成した単元計画案をもとに、LEADを軸として「未来をLEADする人」に必要な三つの能力育成を図る上でのカリキュラム・マネジメントの試案の見直しをし、改善を図る。
- 生徒の情報活用能力を幅広く測るためにはどのような調査を行うとよいかを検討し、その後実施する。
- 大阪教育大学 大学院連合教職実践研究科 教授 木原 俊行 先生
川崎市立高等学校附属中学校(以下,附属中学校)は,いわゆるOne to one computingのICT環境を有しており,生徒は,タブレット端末を自主的に,主体的に活用している。附属中学校は,平成30年度,パナソニック教育財団の特別研究指定校として,ICT活用とカリキュラム・マネジメントに関わる実践研究を持続的に発展させている。平成30年度前半の取り組みの特徴は次のような点に代表されよう。
まずは,研究授業(提案授業)の量的充実である。附属中学校のレポートに確認されるが,そのスタートが4月とすこぶる早い。研究推進リーダーたる教師が自ら,国語科の読みを深めるためのICT活用の授業を公開している。そして,それに続いて,毎月,異なる教科の教師が,附属中学校が定める資質・能力(「問題解決能力」「ICT活用能力」「ダイバーシティ・コミュニケーション能力」)の育成を目指したICT活用の授業を公開している。加えて,他教科の学習内容を意識した単元構成を構想し,授業化している。筆者も,6月の音楽科の授業を見学したが,生徒は,国語科の鑑賞経験に基づき,曲想をていねいに検討して,歌唱表現に努めていた。
続いて,カリキュラム・マネジメントの取り組みの中間的な成果物が登場した。それは,附属中学校が「学びの地図」と読んでいる,カリキュラムマップである。これは,3つの資質・能力を育むための重点単元が抽出された,そして各教科の学習内容の関連が整理された表である。まだ完成されたものではないが,これを作成する過程で教師たちは,附属中学校が生徒に培う資質・能力についての認識を深め,それを教科横断的さらには合科的に展開する可能性について意思疎通したであろう。なお,後者のためには,附属中学校のレポートに記されているように,生徒の学びの履歴がディジタル化され,再利用可能な形で蓄積されることが,今後強く望まれよう。
最後に,実践研究の成果と課題を確認するためのデータ収集の努力が増したことに言及しておきたい。附属中学校は,昨年度から,横浜国立大学の野中陽一教授のアドバイスやサポートの下,情報活用能力に関する調査を実施している。今年度は,そのレパートリーが増え,「インターネットを使った情報検索」「Excelを使ったグラフ作成」「フローチャート作成」「「プログラミング」に関する内容に及んでいる。それらの結果は,附属中学校の生徒たちのICT活用能力を高めるためのカリキュラムの再構築に寄与するに違いない。
11月9日,附属中学校は,パナソニック教育財団の特別研究指定校として,また第44回全日本教育工学研究協議会全国大会(川崎大会)の会場校として,数多くの授業を公開する。また,前述したような実践研究の過程や成果・課題を報告する。ぜひ,この日,川崎市立高等学校附属中学校に足を運び,同校のICT活用の実践やカリキュラム・マネジメントの取り組みにふれていただきたい。
本期間(8月~12月)の取り組み内容
-
8月2日(木)にインテックス大阪にて行われたパナソニック教育財団主催の平成30年度成果報告会に本校より校長と研究主任が参加した。第3部の中間アドバイスの中で,本校の研究の内容および成果,課題について報告をし、本校アドバイザーの木原俊行先生に代わり,横浜国立大学大学院教授の野中陽一先生より指導講評をいただいた。
また,第4部では2年間の研究を終えた特別研究指定校の成果報告を聞き,研究のまとめかたを学んだ。
【野中先生による指導講評より】
- ①附属中らしさを出している。授業では生徒の主体性に基づいたICT機器の活用が見られる。
- ②実践研究の成果と課題を確認するためのデータ収集の努力が増している。今年度はそのレパートリーが増え、「インターネットを使った情報検索」「Excelを使ったグラフ作成」「フローチャート作成」「プログラミング」等に関する内容に及んでいるが、本発表に向けて数値的な分析がさらに必要だ。
- ③学習者のレポート等に記されている生徒の学びの履歴がデジタル化され,再利用可能な形で蓄積されることがカリキュラム・マネジメントを進める上で重要だ。
- 8月上旬から中旬にかけて,夏休み前に行った生徒の情報活用能力調査(情報活用能力チェックリスト,キーボード入力問題,情報検索問題,フローチャート問題,グラフ作成問歳,プログラミング問題)の結果を国の情報活用能力調査の結果と比較して分析した。「情報活用能力チェックリスト」については、市内3校で実施した結果と比較して分析した。分析結果は論文「中学生の情報活用能力を評価する試み ―BYODによる一人一台情報端末の活用を行う中学校の調査―」(久保田聡子 他2018)に詳しいが,情報活用能力チェックリストでいえば1年生は調査時期が入学間もないこともあり他の学校との差異はさほどなかった。しかし2,3年生においては情報活用ができるという意識はもちろんのこと,パフォーマンス評価についても高い数値を示した。
<実施問題>
問題① 川崎市版情報活用能力チェックリスト
川崎市版情報活用能力チェックリスト項目(中学生用) | |
---|---|
1 | コンピュータで作った画像や動画などのファイルは,データの大きさにちがいがあることを知っている。 |
2 | コンピュータによって自動化されて,生活が便利になったものを知っている。 |
3 | ローマ字入力で日本語とアルファベットが混ざった文章を打つことができる。 |
4 | デジタルカメラやタブレット等で撮影した画像や動画を必要に応じて編集することができる。 |
5 | 知りたいことをキーワードを組み合わせたり,検索サービスを選んだりして調べることができる。 |
6 | プレゼンテーションソフトを使って,見やすさを考えたスライドを作ることができる。 |
7 | 表計算ソフトを使って,適切な表やグラフ(目盛りやグラフの種類など)を作ることができる。 |
8 | 新聞やテレビなどのメディアからの情報には,発信者の意図が含まれていることを分かった上で利用している。 |
9 | SNS 等に人の写真や文章等をあげる(アップロードする)時には,肖像権・著作権に気をつけることができる。 |
10 | 悪意がある情報や,不適切・不正なサイトを見つけたときは,自分から見ないようにし,人に相談できる。 |
11 | 自分の文章の中で,引用する本や文,語句などを「」でくくってそのまま抜き出して書いている。 |
12 | 必要に応じて,記録したり質問したりしながら話す人の言いたいことをとらえることができる。 |
13 | 複数の情報(ホームページも含め)を比較し,必要なものを選んでまとめることができる。 |
14 | 実験結果や資料から読み取った数値をもとに,表やグラフに表すことができる。 |
15 | 目的や意図に応じて,調べたことの中から必要なものを選び,新聞やレポート等にまとめることができる。 |
16 | 表やグラフから変化や傾向を読み取り,分かりやすく説明することができる。 |
17 | 知りたいことを図書資料や見学や実験,観察などを通して調べることができる。 |
18 | 複数のホームページから情報源の信頼性を判断し,活用することができる。 |
19 | グループで話し合うときに,周りの意見も聞きながら質問をし,自分の意見を述べることができる。 |
20 | 実物投影機等で,注目してほしいところを指で確認したり,マーキングしたりするなどの工夫をして発表をすることができる。 |
21 | 複数の情報を比較して,根拠をあげて自分なりの考えを提案するようにしている。 |
22 | 伝えたいことが,受け手の状況に応じてきちんと伝わっているか,自分の発表の仕方をふり返るようにしている。 |
23 | SNS などでメッセージや画像・動画を送るときには,誰が見るか,その内容が適切かどうかなど考えるようにしている。 |
24 | 個人情報をネットワーク上に書き込まないようにしたり,パスワードを他の人にわからないようなものにしたりしている。 |
25 | 情報を調べて分析し,まとめたり発表したりする学習では,必要に応じて自分からコンピュータやタブレットなども活用するようにしている。 |
「川崎市版情報活用能力チェックリスト」とは、川崎市総合教育センターが作成したものである。各教科の基盤となる資質・能力としての情報活用能力の育成を図るために「何ができるようになるのか」という観点に立ち,新学習指導要領で育成すべき資質・能力の三つの柱(知識・技能,思考力・判断力・表現力等,学びに向かう力・人間性等)で再整理したものである。小学生版と中学生版があるが,中学生版は25項目からなっている。各項目4件法で自己評価する形式になっており、今回はオンラインにて調査実施した。
川崎市総合教育センター(2018)
川崎市情報活用能力チェックリスト
問題② キーボード入力問題
「P検×Benesseマナビジョンタイピング練習(日本語編)」のスタート画面
「P検×Benesseマナビジョンタイピング練習(日本語編)」のスタート画面「P検×Benesseマナビジョンタイピング練習(日本語編)」にてローマ字入力を5分間で一斉に行い,1分間あたりの日本語の文字入力数を算出した。
問題③-1 フローチャート問題
国の情報活用能力調査のうち,D7S3「自動制御」に類似した問題で,自動制御されている掃除機がどのようなアルゴリズムで動作しているのかを,カードのドラッグ&ドロップでフローチャートを作成させた。10分間で一斉に行った。
問題③-2 グラフ作成問題
グラフ作成問題の入力シート
国の情報活用能力調査のうち,D3S3「携帯電話の使用時間」に類似した問題で,表計算ソフト(Excel)上で必要なデータの範囲を選択し,適切な種類のグラフを作成させた。10分間で一斉に行った。
問題③-3 情報検索問題
2020年に東京で開催されるオリンピックでは、33の競技が行われる予定です。オリンピック初採用となる競技は、空手,スケートボード,スポーツクライミング,サーフィンの4つです。
このうち,ボルダリングが含まれるスポーツクライミングの競技について,どのように行われるのかを簡潔に説明しなさい。
(なお、主に参照したWebサイトのURLを最後に記載すること。)
上記問題文を読み,2020東京オリンピックの正式種目となった「スポーツクライミング」のルールを実際にインターネットで検索し,その説明を簡潔に入力させた。オンラインにて実施し,10分間で一斉に行った。
問題③-4 プログラミング問題
新学習指導要領では,小学校でプログラミング的思考の育成を行うこととされている。そこで,現段階でプログラミングの課題がどの程度できるかを見取るため,プログラミング教材(教育出版2018)を使い,できるだけ大きな8角形を描かせた。
プログラミング教材(教育出版2018)のスタート画面
プログラミング教材を使って作成した八角形(完答)の例
- 8月21日(火)に第2回訪問指導を行い,午前中は職員研修として本校アドバイザーである木原俊行先生に事前に送付した全日本教育工学研究協議会全国大会川崎大会(以下JAET全国大会川崎大会)時の公開授業指導案に関するご指導をいただいた。午後からは横浜国立大学大学院教授である野中陽一先生,川崎市総合教育センター情報・視聴覚センター指導主事の椎名美由紀先生と和田俊雄先生も迎え,3グループに分かれて授業者一人につき約30分時間をかけて指導案検討を行った。
- 8月27日(木)校内の研究会議の中で,11月の報告会に向けて,学年ごとに単元計画表の最終見直し,修正をする作業を行った。
見直しの視点① 自分の教科で色付けをしている単元。→むやみやたらに色を付けていないか。
見直しの視点② 自分の教科と総合,または他の教科等との関連性とその強度。※教科と教科のつながりが自分の思い込みではなく双方向であるか。(教科担当同士の間で、関連させる必要性があるかどうかの話合いができているか)。→できていないものは確認の上、修正する。
※つながりの強さによって太さを変えているか。
3学年の単元計画表検討の様子
2学年の単元計画表検討の様子
- 9月19日(水)の研究会議の中で、職員アンケートを実施。
- 9月20日(木)校内授業研究(兼 保健体育科川崎区研究会)を実施。
「1年 体育理論 運動やスポーツへの多様な関わり方」吉本 健二教諭
「2年 陸上競技 ハードル走」鈴木 大 教諭
1年保健体育(問題解決・ダイバーシティ・コミュニケーション能力)
デジタル画像と教科書を併用しながら、運動やスポーツにはどのようなかかわり方があるかを考え、整理、分類したことをグループで共有する。
2年保健体育(問題解決・ダイバーシティ・コミュニケーション能力)
ペアで踏切の位置を確認し合う。
- 10月上旬 1,2,3年対象に第1回「三つの資質・能力に関する生徒アンケート」を実施。
- 10月23日(火)JAET全国大会川崎大会の公開授業に向けて,川崎市総合教育センターカリキュラムセンターより各教科等の指導主事を招聘してプレ授業を実施し,指導助言を受けた(国語科,社会科,数学科,理科,美術科,技術科,英語科)。
- 11月9日(金)JAET全国大会川崎大会の公開授業校として国語,社会,数学,理科,美術,技術,英語,特別の教科道徳,特別活動,総合的な学習の時間の授業を公開した。
また,パナソニック教育財団特別研究指定校としての研究内容および11月までの成果報告会を行った。
〔公開授業一覧〕
「1年国語 いにしえの心に触れる 蓬莱の玉の枝―「竹取物語」」 大野由希子教諭
「3年国語 論理的説得力を育む―政策論題でディベートをしよう」 久保田聡子教諭
「1年社会 地理的分野 世界の諸地域 アフリカ」對馬 公絵教諭
「3年社会 公民的分野 私たちの暮らしと経済」坂牧 秀則教諭
「2年数学 平方根 ~いろいろな問題~」 村上 典宏教諭
「1年理科 第1分野 身のまわりの物質」 杉本 崇昌教諭
「3年理科 第1分野 化学変化とイオン」 遠藤まなみ教諭
「2年美術 鑑賞 ~木をみて,森をみて,視点をみつけて」田村 真弓教諭
「1,3年技術 プログラミングでロボットを動かしてみよう」藤澤 泰行教諭
「1年英語 写真の説明をしよう」源吉 加代教諭
「2年英語 The CD That was on my desk was yours」佐藤美菜子教諭
「3年英語 自分の意見を言おう」外山 瑞穂教諭
「2年特別の教科道徳 奉仕の精神について考える『ボランティア』」丸山真一郎教諭
「1年特別活動 10月までの生活を振り返り、今後の生活について考えよう」吉本 健二教諭
「3年LEAD(総合的な学習の時間)いいじゃん川崎プロジェクト」後藤 将彦教諭
1年国語(問題解決能力)
生徒作品を全体で共有するため,SKYメニューを用いて順次拡大提示する。
学習者用デジタル教科書(光村図書出版)の資料を活用して人物相関図を作成した。登場人物に送る手紙の内容を考えるときや、書いた内容を確認するときに活用した。
3年国語(問題解決能力)
立論原稿をタブレット端末に入れて発表に臨むグループ。
自分たちの意見の根拠となるデータを拡大提示しながら立論を行うことで,ジャッジと聴衆をひきつける。
1年社会(ダイバーシティ・コミュニケーション能力)帯
単元で行っているニュース発表時にプレゼンテーショ ンソフトを活用する生徒。
コラボノートで意見を集約し,それらをもとにグループで話し合いを行う。
3年社会(問題解決能力)
各グループのプレゼンテーションを聞く前に,評価の視点を確認する。
自分たちの企画を効果的に伝えるため,配色や文字の大きさにもこだわって作ったスライドを用いてプレゼンテーションソフトをグループごとに行う。
2年数学(問題解決能力)
グループで,類題の解き方説明の方法を考える。
1年理科(ダイバーシティ・コミュニケーション能力)
実験の様子を拡大投影し,わかりやすく伝える。
3年理科(ICT活用能力)
指導者が制作した実験の手順動画を見て作業する。再生できるため簡単に何度でも手順の確認ができる。
タブレット端末を使用して実験結果を撮影し,コラボノートで共有する。
2年美術(ダイバーシティ・コミュニケーション能力)
作品を鑑賞する視点を拡大提示する。
タブレット端末を使い、手元で拡大したり、部分を追ってみたり、縮小して全体を見たりして鑑賞する。そこでの気づきを対話的鑑賞へと生かす。
1年技術(問題解決能力,ICT活用能力,ダイバーシティ・コミュニケーション能力)
プログラムエディタの使い方について確認をする。
計測したデータを表計算ソフトに入力する。
3年技術(問題解決能力,ICT活用能力,ダイバーシティ・コミュニケーション能力)
プログラムエディタでプログラムを書く。
ロボットにプログラムを転送し,プログラムを検証する。
1年英語(ダイバーシティ・コミュニケーション能力)
写真の説明文をデジタルワークシートにまとめる。
生徒が選んだ画像を拡大提示し,表現を全体で確認する。
2年英語(問題解決能力,ダイバーシティ・コミュニケーション能力)
導入のWarm-up(マジカルクイズ)の様子。
日本土産について関係代名詞を含む文を加え,プレゼンテーションソフトを活用して説明する。
3年英語(ダイバーシティ・コミュニケーション能力)
ペアで英語ディベートに取り組む。
2年道徳(問題解決能力)
SKYアンケート機能を使って行った生徒意見調査と全国で行った調査結果との比較を拡大提示する。
1年特活(問題解決能力)
本時のゴールを拡大提示することにより見通しをもたせる。
3年LEAD(問題解決能力)
友達からのアドバイスを受け,発表内容における課題を確認し,スライドの修正や内容の再検討をする。
〔研究報告会〕
学校長挨拶の中で,本校の教育の特色をはじめとした学校の概要を紹介した。
研究主任からは11月までの研究成果についてエビデンスをもとに報告を行った。
本校アドバイザーである木原先生によるワークショップ形式の「学び合い」は。本校の研究と参加者の環境やカリキュラムの実情などと比較しながら対話的に進められた。
参加者による質疑では,カリキュラム・マネジメントを効果的に進める上での質問が出された。
- 11月10日(土)のJAET全国大会川崎大会2日目の研究発表2の中で,本研究のICT活用能力に関わる調査とその分析結果について研究主任が発表を行った。
発表者 久保田聡子教諭 他「中学生の情報活用能力を評価する試み ―BYODによる一人一台情報端末の活用を行う中学校の調査―」(A.情報教育(情報活用能力の育成等)
- 11月12日(月)に研究会議を行い,研究報告会の様子を授業で参加できなかった職員も含め全体で共有し,3月の研究の最終まとめに向けて今後のスケジュールについて確認した。
- 12月8日(金)に公開授業として3年LEAD学習発表会を行った。「いいじゃん川崎プロジェクト」をテーマに,川崎の魅力や強みとは何かを考え,実地調査の内容も生かしてまとめたことを発表した。今回は保護者のほか行政,かわさきタウンマネージメント機関,光村図書出版,総合教育センター指導主事などさまざまな分野の方を招いて参観していただくとともに,発表の最後には生徒たちへの指導講評をいただいた。
川崎の魅力についてプレゼンソフトを使って発表する。
指導講評を行う光村図書出版ICT事業開発部の半沢賢治氏。
発表方法をゆだねたところ,敢えてアナログ方式で発表する生徒もいた。
さまざま場所に分かれて発表が行われた。(メディアセンターでの発表の様子)。
- 12月17日(月)に東京学芸大学国語科教育学分野准教授の中村純子先生,同大学アジア言語・文化研究分野講師の范文玲先生,川崎市総合教育センター情報・視聴覚センター指導主事和田俊雄先生および光村図書出版ICT事業本部デジタル開発部の中山愛課長他三名を招いて3年国語の研究授業を行った。
自分たちの読みと比較しながら他のグループの作品を視聴する。
授業の最後には中村純子先生をはじめとした先生方より指導講評が行われた。
この単元では映画の予告編制作を通して小説「故郷」(国語3 光村図書出版)の読みの学習を行った。予告編制作では,生徒が所有するタブレットPCを使い動画撮影および編集を行った。また場面にふさわしい効果音やBGMをインターネット活用して探し,使用していた。
予告編制作は個人ではなく6人から7人のグル―プで行った。そのため作品の読みの共有とともに,どのような予告編を制作すると作品の魅力が伝わるかを徹底して話し合う活動を通して一つの作品を仕上げていった。このような活動を通して本単元では自校化した三つの資質・能力のうち「問題解決能力」および「ダイバーシティ・コミュニケーション能力」の育成を目指した。
アドバイザーの助言と助言への対応
(第2回訪問指導における指導案検討前の助言指導)
- 「主体的な学び」といった視点で指導案を見てみると,附属中学校の生徒を見ると能動的に取り組めている。ICTを生かして主体的に取り組めている。さらに主体的に取り組むためのしかけとして複線型で行うというのも一つの手である。
- 「対話的な学び」がなされている指導案もあった。1年英語の協働によるシナリオ作り等,ものとして共同作品をつくる活動を組み込むと対話的な学習となる。つくるだけでなく,一斉に俯瞰する活動を取り入れる。活動内容を一覧化しみんなの考えがどのようなものかをみんなでみるとよい。その際の手段として拡大提示が一番いいか。
- 「深い学び」とするには複雑な事象(「解が一つに限られない学習内容」)を多面的に検討し、その結果を工夫して表現する場面が必要。教材の魅力、比較分析等がないと成り立たない。その際の視点として「学び直し」も挙げられる。デジタル環境であると学び直しをしやすい。
- 指導案を見ていて,まだ三つの資質・能力が混乱しているものがいくつかあるので,そこを整理する必要がある。特にダイバーシティ・コミュニケーション能力については,もう一度この指導案でどのような力をつけようとしているのかを見直す必要がある。ただのコミュニケーションぐらいであれば、ダイバーの一部にすぎない。このままだと定義が甘い。
(助言への対応)
指導案における三つの資質・能力の混乱をなくすため,以下の通り整理した。
- 問題解決能力は主に総合の学習活動を通して育成していくものとするが,各教科等の時間の中で育成する際でも「課題発見・情報収集・整理分析・まとめ表現」といった流れ を意識した学習を組み込んだものとする。
- ICT活用能力は,スキル指導をどこに入れるかを決め,身に付けたスキルを主体的に活用する場面を想定したものとする。
- ダイバーシティ・コミュニケーション能力は,性別、人種、国籍、宗教、年齢、学歴など多様さを活かせる学習形態(ペア・グループ)を多く取り入れ、どの教科でも発表活動を取り入れた単元を構想する。また,そこでは「だれとでも」がキーワードになる。
- 「主体的・対話的で深い学び」に関しては,指導案における学習活動を見直し,再検討する。
(報告会およびJAET全国大会川崎大会における助言指導)
- 育成すべき資質・能力の自校化を行っているのはよいが,やはり三つは多いようにも感じる。力強さもあるが,ゆくゆくは学校を象徴する資質・能力に焦点化していく方がカリキュラム・マネジメントも進めやすくなるのではないか。
(助言への対応)
- 今後,管理職も含め全職員で十分話し合っていきたい。
本期間の裏話
(うれしかったこと)
- 本期間もアドバイザーの木原先生や横浜国立大学大学院教授の野中先生からのアドバイスをいただき,それを指導案作成やカリキュラム・マネジメント表作成に生かしていくことができたこと。また,これまで以上に本校の教育活動に関心を持たれた外部機関の方々とのつながりが増え,授業を参観していただくとともに生徒への指導講評にもご協力いただくことができたこと。
- 第1回生徒の情報活用能力調査の結果・分析ができたこと。
- JAET全国大会川崎大会の二日目には同じパナソニック教育財団の特別研究指定校の研究主任の先生方と交流をもつことができたこと。また、昨年度研究を終えた学校の先生からは記録の撮り方等,具体的に話を伺うことができ大変勉強になった。また,本校の研究に興味関心をもってくださった方々より,ご意見ご感想を直接伺うことができたこと。
(苦心談・反省点)
- 研究会議が短いため情報伝達で終わってしまうことも多かったこと。相変わらず深い議論をなすための時間の捻出が難しかった。
本期間の成果
- 重点化が進み,カリキュラム・マネジメント表がさらにわかりやすいものへと改善された。
- カリキュラム・マネジメントの三つの側面のうち、教科横断的な視点を意識して行う授業がさらに増え,その授業をJAET全国大会川崎大会の公開授業で披露し,多くの参観者に見ていただくことができた。
- 今年度第1回情報活用能力調査の結果分析を終えることができた。分析結果より,1年時よりタイピング練習を帯単元で行ってきた学年の情報活用能力が,そうでない学年の結果と同等,もしくは上回っていたことからキーボード入力操作技能と情報活用能力の相関があるということが見えてきた。
- 自校化した三つの資質・能力の育成状況を測るためのルーブリック評価表の試案を出すことができた。
今後の課題
- カリキュラム・マネジメント表がだいぶ整理されたといってもまだ絞り切れていない線があるため,さらに重点化を図る。
- 一人ひとりの教員が,引き続き三つの資質・能力育成を意識した授業を展開していく。そのためにも、自分と同じ教科の教員、および関連する他教科の教員とカリキュラム・マネジメントに向けてさらに話し合いを重ね,授業づくりに生かす。今期は他教科との連携が進んだため,次期は同じ教科内で学年を超えた連携について検討し,強化していきたい。
- 自校化した三つの資質・能力の育成状況を年度末に評価することを目指し,ルーブリック評価表の試案を部会ごとに再検討する。
今後の計画
- 11月の報告会でいただいたご意見ご感想等も生かしながらカリキュラム・マネジメント表の修正を行う。
- 第2回情報活用能力調査を実施し,第1回調査結果と比較分析する(調査内容は第1回調査と同じく「情報活用能力チェックリスト」,「キーボード入力問題」「グラフ作成問題」「フローチャート問題」「情報検索問題」「プログラミング問題」の5種)。第2回「三つの資質・能力に関する生徒アンケート」も同時期に実施し,第1回調査結果と比較分析する。
- 三つの資質・能力の育成状況を測るルーブリック評価表を完成させ,それを用いて年度末に評価する。
- 平成31年2月26日(火)に行われる第3回訪問指導に向けて,今年度までの研究内容と次年度に向けての課題を整理しておく。
- 次期で2年間に渡る研究が終わるため,その研究の成果をまとめる。
(公開授業研究会等の予定)
平成31年3月12日(火)午前1年、午後2年 LEAD学習発表会(「総合的な学習の時間」)
成果目標
- 自校化した三つの資質・能力(「問題解決能力」「ICT活用能力」「ダイバーシティ・コミュニケーション能力」)の育成を目指し,教科横断的な視点をもった授業実践をさらに積み重ねる。その中でもデジタル化した学習履歴を活用して,資質・能力の育成の促進をめざす単元を構想し,実践する。
- 今年度第1回目の本校生徒のICT活用能力調査結果を分析し,その分析結果をまとめる。
- 2回目のICT活用能力調査および、生徒意識調査の内容を検討する。
- 自校化した資質・能力を測るルーブリック評価項目の試案を作成し,各部会で検討する。
- 大阪教育大学 大学院連合教職実践研究科 教授 木原 俊行 先生
-実践研究のPDCAサイクル-
川崎市立高等学校附属中学校(以下,附属中学校)は,いわゆるOne to one computingのICT環境を有しており,生徒は,タブレット端末を自主的に,主体的に活用している。附属中学校は,平成29年度及び30年度,パナソニック教育財団の特別研究指定校として,ICT活用とカリキュラム・マネジメントに関わる実践研究に関わる活動を重ねた。そのPDCAサイクルは確かである。2年間の研究も終盤を向かえ,今年度後半,同校の教師たちは,実践研究を継続・発展させるために,次のように,その点検作業を多面的に展開した。
まずは,生徒の資質・能力の向上に関するデータの確保と分析である。活動報告書にも記されているように,この時期,同校の教師たちは,川崎市版情報活用能力チェックリストを用いて,生徒の状況を把握している。また,キーボード入力問題,情報検索問題等のテストを実施し,情報活用能力の測定も行っている。
続いて,授業を他の学校の教師たちに公開し,それに対して批評を得ることについて,附属中学校の教師たちは努力を傾注している。その一環として,2018年11月9日に,同校は,15もの授業を公開し,それらを見学した他校の教師たち等から,その可能性と課題に関する評価コメントを得ている。それは,いわゆるアンケート用紙を配布して感想等を記入してもらうだけでなく,参加との直接的なコミュニケーションを通じても,集められた。こうした第三者評価は,パナソニック教育財団の成果報告会における野中教授(横浜国立大学大学院)からの批評,JAET全国大会における研究主任と聴衆との質疑応答,12月の授業研究会における外部参加者の指導講評などによって,その厚み,その確かさを増している。
以上のような様々な評価データを確保し,附属中学校の教師たちは,実践研究を平成31年度以降もそれを発展させる材料を得ている。同校の教師たちには,それを礎にして,次なる実践研究の計画策定をぜひスピーディーに行ってもらいたい。
平成31年度の実践研究は,附属中学校においては,もう始まっている。そう考えて,次なるICT活用,さらに充実したカリキュラムを創造的に構想していただくことを筆者は願っている。
本期間(1月~3月)の取り組み内容
- 12月末から1月にかけて各部会でルーブリック評価表の内容の見直しをし,附属中としての評価表を完成させた。
<ルーブリック評価表例>
- 1月末から2月末にかけて第2回情報活用能力調査を実施した。調査項目は1回目と同じ①情報活用能力チェックリスト,②キーボード入力問題,③情報検索問題,④フローチャート問題,⑤グラフ作成問題,⑥プログラミング問題のほか,PowerPointを使用した年賀状作成問題も実施した。
<実施問題例>
プログラミング問題
1回目と同じ「小学算数プログラミング教材」(教育出版2018)を使い,「1から30の数のうち、3と5の公倍数の時にはあなたの名前を言わせてみよう。そうじゃない時は数を言わせてみよう!」という課題に取り組ませた。この調査では下記の一連のプログラミング的思考を測った。20分間で一斉に実施した。
①問題文を読んで課題を理解し, (数学的理解,課題の把握)
②ブロックを見てそれぞれの役割を判断し,(数学的理解をプログラム用の命令に変換)
③目的にあったブロックを組み合わせ, (命令の順序を試行錯誤)
④最適な変数を考えて, (命令内の変数を試行錯誤)
プログラムを完成させる。 (課題の達成)
グラフ作成問題
1回目と同じ国の情報活用能力調査のうち,D3S3「携帯電話の使用時間」に類似した問題で表計算ソフト(Excel)上で必要なデータ範囲を選択し,適切な種類のグラフを作成させた。10分間で一斉に実施した。
- 2月26日,第3回訪問指導に合わせて校内研究会を実施した。その内容は⑴本年度までの実践研究の成果の確,、⑵教科横断的なカリキュラムの見直し,⑶次年度への研究計画の三つの柱で進められ,各パート40分ずつ行った。途中,本校アドバイザーである大阪教育大学大学院教授である木原俊行先生の助言指導が入った。また、同研究会には川崎市総合教育センター情報・視聴覚センター指導主事の和田俊雄先生にもご出席いただいた。
- 3月2日に東京都にある林野会館にて,日本社会科教育学会の日本教育大学協会社会科部門関東地区部会で本校のカリキュラム・マネジメント研究の内容について発表した。(学会主題「主権者教育とカリキュラム・マネジメント」 発表者 久保田聡子)
- 3月12日に1,2年生のLEAD学習発表会(総合的な学習の時間)を実施した。その際、3年生は発表会を見学し,これまでの学習経験を生かしてさまざまなアドバイスを行った。
- 3月13日には高校1,2年生の総合的な学習の時間の学習発表会を中学校3年生が見学した。
1年総合 農業体験プロジェクト
ICT機器を活用して一人5分でプレゼンをする。
1年生の発表を聞き、3年生はこれまでの学習経験を生かしてよかった点と改善点を整理して伝える。
2年総合 Career Planning
ICT機器を活用して一人4分でプレゼンをする。
高校1,2年生の総合的な学習の時間の発表会を聞く中学3年生。高校生もICT機器を活用して発表した。
アドバイザーの助言と助言への対応
<アドバイザーの助言>
- (カリキュラム・マネジメント表の色付けの際に)ICT活用能力については,やはりICTスキル習得というよりは,アナログも含めた情報活用能力の育成で色をつけていくことが望ましい。ただスキル育成も必要ではあるので,活用の前提となるスキル習得については別途記載など表記に工夫が求められる。また、自校化した資質・能力でいうと今のままのICT活用能力であれば,1年生の入り口では際立つが,その後は少なくなる。その性質上他の二つの資質・能力と同等にはできないのではないか。そういった点からも自校化した資質・能力の見直しが今後必要になってくるのではないか。
- ダイバーシティ・コミュニケーション能力への捉えをどうするか。多文化共生の視点に立ったコミュニケーション能力ということであれば,すべての教科で育成を図るということではなく、重点的に図る教科があってよいし,現在のカリキュラム・マネジメント表を見る限りでは学年が上がるごとに比重が上がっているので,学年によって多い少ないがあってもよいのではないか。
- 中高一貫校としての交流が少ないように見受けられるので,今後さらに交流を増やしていくのが望ましい。そうすることで6年間でどのような生徒を育成するのかということにもつなげられる。まずは中高で行っている総合的な学習の時間で「学びの地図」を作るのも一つの手ではないか。来年度は中高でユネスコスクールに参加する予定とのことだが,中高連携を図る上でもよいきっかけとなるであろう。
<助言への対応>
- ICT活用能力については,助言にもあった通り性質として二つに分けられるので,比重の高い情報活用能力で色をつけていく。また、ICTスキル習得および,単元で必要となるICTスキルの表記については,別葉のようなものを作成する方向で考えていきたい。
- ダイバーシティ・コミュニケーション能力もやはりすべての教科で育成をという考えがあったが,重点的に育成を図る教科(英語や道徳、総合)や学年を全体で検討していきたい。
- 中高一貫校ではあるが、なかなか交流をする場面が持てていなかったが,2年生の総合的な学習の時間に福祉科や生活科学科の生徒を講師に招いて座談会を行うなど,学びの場面を通して交流を増やしてきている。最近では今年度の1,2年のLEAD学習発表会と高校の総合的な学習の時間の発表会(MES)に、3年生が参加している。そこでは中学校1,2年生に対してはこれまでの学習経験をいかしてアドバイスを,高校生には自分たちが知らないことに対して質問を行うことで,学びを広げている。中高一貫校として6年間を見越した「学びの地図」を作ることができるよう,高校側の職員にその旨働きかけていきたい。
本期間の裏話
(うれしかったこと)
- 前期間と本期間に本校での研究や授業実践が新聞社に取り上げられ(日本教育新聞平成30年12月10日号,教育家庭新聞社平成30年12月3日号・平成31年3月1日号),その記事を見た東京学芸大学准教授の渡部竜也先生(社会科教育学)から研究発表の機会を与えていただき,本校の研究を学会で発表することができた。そして参会された方々より本校の研究に対してさまざまなご意見ご感想ご質問を賜ることができたことが何よりもうれしかった。
本期間の成果
- 第2回情報活用能力調査を実施し,その結果を第1回目の調査結果と比較分析することができた。いずれの学年、調査項目とも伸びており,ICTスキルおよび,情報活用能力が各教科等の授業を通して着実に育成されていることがわかった。
- 教科横断的なカリキュラムの見直しとして,計画カリキュラムの実施状況を共有することで,単元で育成される資質・能力が異なっていた等の気づきがあり,次年度への具体的な改善申し送りにつながった。
<計画カリキュラムの見直しからわかったこと(1学年)>
- ①国語「1年間の学びを振り返る」「学習発表会に向けて発表の注意点を確認しよう」の単元はICT活用能力の育成というよりは,多様な人々への伝え方であるためダイバーシティ・コミュニケーション能力の育成になるのではないか。
- ②総合「農業体験Ⅰ 君津での播種」は問題解決能力の育成にはあたらないのではないか。
今後の課題
- ①本校の生徒育成目標に即した資質・能力を自校化することができた。
- ②自校化した資質・能力をいつ、どの単元で、どの教科と連携して行うかを見て取ることができる「学びの地図」(カリキュラム・マネジメント表)が完成した。
- ③他教科と連携して自校化した資質・能力の育成を図ろうとする視点が教員に養われつつある。また,その視点に基づいて単元を構想し実施することができつつある。
- ④自校化した資質・能力を測るルーブリック評価表が完成した。
- ⑤ICTスキル、情報活用能力が飛躍的に向上した(特に1,2年生)。
- ⑥総合的な学習の時間を中心に、問題解決能力の育成を図ってきたが,学年が上がるにつれてその能力が身に付いてきたという実感がもてる生徒が増加している。
今後の課題(計画)
- ダイバーシティ・コミュニケーション能力への定義を示したが,微妙なずれが生じていることが研究会議で見えてきた。よってダイバーシティ・コミュニケーション能力をはじめ,自校化した資質・能力の再定義および共通理解を図る必要がある。
- 新学習指導要領に基づく教育課程になることを見越してカリキュラム・マネジメント表の改善を図る。また,そこでは今年度までの実施カリキュラムの引継ぎを新学年に行うことでこれまでの研究の成果を生かす。
- 来年度は中高一貫校として,ユネスコスクールへの参加を予定している。これを機に教育課程上において高校との交流をさらに増やしていく。
- 本研究にあたり、自校化した資質・能力のうち,どの育成をねらったものであるかを取り入れた独自の指導案を開発したが、その様式をさらに進化させる(教材観・指導観のなかに他教科を意識した文言を入れる欄をつくり、全員で挑戦する)。
- 研究期間中は毎月のように研究会議を設定していたが,そこではJAETにおける公開授業に向けての話合いが多かった。これからの研究会議について要望を聞いたところ「もっと視察に行って,他校の実践から学びたい」,「全員で授業を見て協議をする機会をもちたい」という希望が多く出たため,授業研究の実施時期,形式も含め,来年度の職員研修の持ち方の全体設計をする。
- この2年間は報告会等もあり,本校の授業実践を川崎市のみならず全国の方々に参観していただく機会があった。新年度以降も本校の研究の点検も兼ねて,校内授業研究会に際しては市内配信メールやHP等を活用して他校職員にも周知し、参観を促していきたい。
- 職員におけるICTスキルを向上させるためのICT研修を実施する。
2年間を振り返って、自己評価・感想(気付き・学び)など
はじめに,本校の教育目標および生徒育成目標を達成させることにつながる本研究を行う機会を与えてくださったパナソニック教育財団様,また粘り強く本校の研究を支えてくださった本校アドバイザーである大阪教育大学の木原俊行先生はじめ諸先生方に深く感謝申し上げます。
「未来をLEADする人」に求められる資質・能力の自校化からはじまった本研究ですが,その資質・能力の具体化に時間がかかり,またそれを各教科のどの単元で育成を図ることができるかに落とし込む作業にとても時間がかかりました。教科横断的な単元については双方向の話合いが必要であったため,なおさら時間がかかりました。はじめの1年間はそのような作業で終わってしまい,他の研究指定校と比べてスロースタートになってしまった感は否めませんが,本研究を行う上で必要な過程であったと今,改めて思います。ルーブリック評価表の作成についても当初の予定よりだいぶ遅れましたが,各研究部で2年目に入ってからようやくかたちになりました。生徒への調査項目の決定や分析作業には膨大な時間がかかり,外部機関の協力も得ながらの作業となりました。ほぼ毎日7時間授業が実施され,通常の業務をこなしながら研究を行うことがいかに難しいかを痛感した2年間でもありました。しかし生徒育成目標を単なる目標に終わらせず,それを実現していくために生徒の実態を調査をもとに把握をする,それに基づいて改善を図るというサイクルを意識して教育活動に取り組むための下地をこの2年間でつくることができたことが本校にとって何よりの成果だったといえるかもしれません。
また、かたちあるものとして2年間の研究で,本校ならではのカリキュラム・マネジメント表のスタイルがひとまず完成しました。こちらについても,実施カリキュラムや生徒の実態と合わせながらよりよいかたちに改善し,このカリキュラム・マネジメント表をもとにして引き続き生徒の資質・能力の育成に努めてまいります。
成果目標
- 第2回情報活用能力調査の実施・分析
- 計画カリキュラムを職員の目で見直し,来年度への申し送りができるよう実施カリキュラムを作成する。
- 自校化した三つの資質・能力を評価するためのルーブリック評価表試案を各部会で再検討し,実際の評価に活用する。
- 大阪教育大学 大学院連合教職実践研究科 教授 木原 俊行 先生
-実践研究の継続・発展に向けて-
川崎市立高等学校附属中学校(以下,附属中学校)は,2019年3月で,パナソニック教育財団の実践研究助成の特別研究指定校としての活動を終えた。それは,ICT活用とカリキュラム・マネジメントに関するものであった。同校の前回の活動報告書とそれに対する筆者のコメントにも明らかであるが,そのPDCAサイクルは確かである。それは,以下の3点に代表されよう。
まず,各種の調査・データの収集・分析である。活動報告書にも記されているように,この時期,同校の教師たちは,ルーブリック評価表を作成して,生徒のICT活用スキルを点検している。また,プログラミング問題,グラフ作成問題等のテストを実施し,情報活用能力の測定も行っている。そして,それらを2018年5月の結果と比較し,生徒の成長を確認している。
続いて,校内でのカリキュラムに関する総括的な協議の実施である。同校の研究課題は,カリキュラム・マネジメントに関するものであるから,授業研究会以上に,教育課程に関する教師たちの意見交換の機会は重要である。2019年2月に開催されたそれを通じて,附属中学校の教師たちは,これも活動報告書に例示されているように,単元・題材と資質・能力の関係についての再考,すなわち教育課程の再構築が進めている。
最後に,カリキュラムやそれに基づく実践の発信活動である。附属中学校の研究主任は,3月に,ある学会での発表活動を試みている。発表内容をまとめる過程で自校のカリキュラムに関する省察が促されたであろう。また,発表時には第三者からコメントをもらえるであろうから,それはカリキュラム・マネジメントのためのアイデアを増やすことにつながったであろう。パナソニック教育財団の実践研究助成(特別研究指定校)のシステムには,もともと,筆者のようなアドバイザーが位置づけられている。そして,そうした人材は,各特別研究指定校の実践に関する第三者評価の役割を果たす。附属中学校では,そのルートを自主的に増やし,その質を高めているわけだ。
カリキュラム・マネジメントの営みは終わりなき旅路である。附属中学校も,例えば附属高等学校との連携を強めようとすれば,教育課程の修正を余儀なくされよう。川崎市立の小学校の情報教育のカリキュラムが充実すれば,中学校におけるそれは,そのスタートラインが変わるのであるから,やはり改変が必要だ。それは簡単なことではないが,カリキュラム・マネジメントに果敢にチャレンジした附属中学校の教師たちは,その意義,なによりそれを通じた生徒の成長を実感しているに違いない。特別研究指定校としての助成期間は終わるが,附属中学校の教師たちには,当該期間に体感した,カリキュラム・マネジメント的感覚を維持して,実践研究を発展させてもらいたい。