榛東村立榛東中学校

第47回特別研究指定校

研究課題

子どもの学びに学ぶ授業研究の創造
~対話を通して多様で個性的な考えを見いだす生徒の育成を目指して~

2022年度01-03月期(最新活動報告)

最新活動報告
今学期は1月16日の校内授業研究会を軸にして、PDCAサイクルをまわした。......

アドバイザーコメント

木原 俊行 先生
榛東村立榛東中学校(以下,榛東中学校)がパナソニック教育財団の実践研究助成......

榛東村立榛東中学校の研究課題に関する内容

都道府県 学校 群馬県 榛東村立榛東中学校
アドバイザー 木原 俊行 大阪教育大学 教授
研究テーマ 子どもの学びに学ぶ授業研究の創造
~対話を通して多様で個性的な考えを見いだす生徒の育成を目指して~
目的
  • ○他者との関わりから、多様で個性的な考えを見いだす生徒の育成。
  • ○ICT技術を活用し、生徒の具体的な姿から生徒の学びを分析する授業研究への転換。
  • ○生徒の記録(発話・表情・記述等)を活用した授業研究から授業改善に繋げるサイクルの構築。
現状と課題
  • ○全教員が教科を超えて、代表授業者の授業作りから授業後の授業研究会に関わり、授業づくりについて学んでいる。しかし、その学びを違う教科・単元で生かし切れていない現状である。
  • ○昨年度は、1単位時間の生徒の発話記録・表情・記述などから生徒の学びの姿を捉えてきた。研究を進める上で、単元を通して身につけた資質・能力をどう活用しているのか検証していく必要性を感じている。
学校情報化の現状 生徒用タブレット全生徒分、各教室には65インチ大型モニターを配備。また、令和2年度には校内無線LAN環境を強化し、日常的に授業でタブレットを活用している。併せて、授業研究会を含む諸会議でタブレットを活用している。
取り組み内容
  • ○本校独自の学びのスタンダードを基に、一人1台タブレットを利活用した対話を位置づける。(単元構想)
  • ○ICT機器を活用して授業を検証し、授業改善の方向を見いだす。
  • ○発話記録と映像(表情)を繋げた資料を作成し、授業研究で活用する。
  • ○生徒の学びの事実を捉えたことから授業デザインのポイントを見いだす。
成果目標
  • ○全職員参加の代表授業と授業研究会を2年に5回行う。
  • ○教員がICT機器を活用して、生徒の学びの姿に基づく検証を行う授業研究会の方法を確立する。
  • ○全県に向け研究の内容を継続して公開し、一人1台タブレットを利活用した対話的な学びを授業実践するモデル校となる。
    →生徒の学びの姿から授業を検証し、改善する授業研究サイクルが構築される。
助成金の使途 webカメラ、カメラスイッチャー、HDビデオカメラ、AI話者認識webカメラ、ICT先進地区夏期研修費、講師謝金他
研究代表者 足達 哲也
研究指定期間 2021年度~2022年度
学校HP http://www.shinto.ed.jp/jh/
公開研究会の予定 10/27(水)・1/18(火) 県指定事業ICT活用促進プロジェクト公開授業

本期間(4月~7月)の取り組み内容

①榛東中学校スタンダード「5つの視点」に基づいた授業実践

  • ・一人1台タブレットを利活用した授業実践
  • ・対話的・協働的な学びを取り入れた授業実践
  • ・5月28日(金)代表授業、授業研究会
  • ・6月8日(火)公開授業、授業研究会

【タブレットと対話を取り入れた授業の様子】

②授業改革委員会(研修推進メンバー)にて、研究内容や授業の検討・分析等

  • ・発話記録や生徒の姿(表情やうなずき)を分析(昨年度の実践について)
  • ・指導案検討(5月28日、6月8日の実践に向けて)
  • ・授業研究会の在り方の検討
  • ・授業実践の振り返り(成果と課題)
  • ・榛東中スタンダード「5つの視点」振り返りシートの見直し、改善

【生徒の発話記録を分析する様子】

③生徒の姿から生徒の学びを分析する授業研究会(5月28日、6月8日)

  • ・360度webカメラによる生徒の表情・動作・つぶやき・発話の記録、AI音声認識スピーカーによる録音、4方向同時録画カメラによる授業の様子の記録、発話記録(教員が文字化したもの)、生徒の振り返りの内容、タブレットやワークシートへの記載内容の分析、検証

【発話記録をもとに話し合う様子】
見る生徒(グループ)の担当を決めておき、1単位時間、そのグループの生徒を見取る。

【発話記録から対話の流れを分析】

④授業研究会での学びを新たな授業研究サイクルへ

    • ・1回目の代表授業、授業研究会での成果と課題をもとに、2回目の公開授業、授業研究会に生かす
    • ・2回の授業、授業研究会での省察(全教員が各々書いたもの)をもとに話し合い、自分の授業に生かす

【本校の授業研究サイクルのイメージ】

アドバイザーの助言と助言への対応

①「5つの視点」振り返りシートについて

学校として共通のものがあってよいが、教科によって、内容によって幅をもたせた方がよい。また、単元レベルでも「5つの視点」を考えていく必要がある。

⇒現在、授業改革員会で検討中である。やはり単元構想の段階で、ICTや対話を有効に取り入れるためにはどうしたらよいのか、そのためには1単位時間の授業をどうデザインするのかが重要である。そして、なによりも生徒の思考が単元の中でも1単位時間の中でもつながっていなければならない。今後も、この榛東中スタンダードの「5つの視点」を見直し、改善し、教員一人一人の柱になるようなものにしていきたい。

②授業記録・対話の記録について

授業の記録、対話の記録に何が映っているかが重要である。生徒の発言や表情がはっきりと記録できていないところがあるため、機器の検討や録音・録画方法を検討する必要がある。

⇒話合い活動をする際には、感染対策のため「飛沫防止パネル」を使い、10分間という制約の中で行っている。このパネルがあると、どうしても音声を拾うことが難しい。そのため、今後は感染対策をしながら対話の様子がしっかりと記録できるように物品を検討したり、実際に授業の中で活用しながら360度webカメラ・AI音声認識スピーカーの使い方について改善を図ったりしていく。

③授業研究会の在り方について

授業研究会で学びを自分の授業に戻していく具体的な仕組みを作っていく必要がある。

⇒教員一人一人が授業や授業研究会で学んだことを振り返り(省察)、記録に残す。それをテキストマイニング等により、気づきとしてどんな言葉が増えてきたのか分析を行う。また、その情報を一般化するために授業改革委員会で話し合い、教科部会で自分たちの教科に落とし込めるようにしていく。

本期間の裏話

 昨年度もパナソニック教育財団の研究助成を受けながら研究をさせていただいたことで、多くの学びを得ることができた。さらに、今年度は特別研究指定校に選ばれたことで、また自分たちの授業研究をレベルアップすることができそうで大変ありがたく思っている。

 本校では「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けて、平成29年度から、授業研究に教科の枠を超えて全教員で取り組んでいる。昨年度も、ICT機器を用いテキスト化した生徒の発話を具体的に捉えて、生徒の学びの事実から分析する授業研究を行ってきたが、発話の分析が不十分であった。また、話合い活動後も授業は続いているのだが、生徒の学びの姿を捉える場面を対話部分に焦点化しすぎていたため、まとめの部分で生徒がどのように思考を巡らせて考えをもったのかまで見取ることができていなかった。その反省を生かし、今年度は「話の流れを捉えること」「生徒の表情やうなずきにも着目すること」「話合い活動からまとめへのつながりを見ること」に重点を置いた。すると、「AさんはBさんの、この発言から考えが変わった」「全員の考えはバラバラだったはずなのに、ここから考えがまとまってきた」などと授業を見ながら生徒の思考を分析できるようになってきた。また、授業研究会でもファシリテータを中心に議論の質に変容がみられている。その中でも印象的なのが、どの班でも「Cさんが〇〇と発言したら…」「Dさんはずっと黙っていたんですけど、振り返りには…」などと生徒の学びの事実をもとに、自分の意見を述べているところだ。経験則を語るのではなく、本校が目指している「子どもの学びに学ぶ授業研究」が少しずつではあるが実践できていると感じた。

本期間の成果

①榛東中学校スタンダード「5つの視点」に基づいた授業実践

 数年来この取り組みは行ってきており、今年度の課題として1単位時間の中でのICT活用や対話の位置づけを考えるのではなく、単元全体をより意識して位置づけを考える必要があることを共有し、1単位時間の授業づくりに臨むこととした。また、指導案の形式も以下のような「授業デザインシート」に変更し、生徒の意識を中心において、学習活動や発問、手立て・関わりを考えられるようにした。

【本校の授業研究サイクルのイメージ】

②話合い活動中の教員の関わり方

 話合い活動の様子を見ていると、どの班でも沈黙が起こることが多い。沈黙しているグループを見つけるとどうしても手を出したくなってしまうが、「じっくりと考えているので見守らなければならない」場合と「わからないので支援しなければならない」場合とがあることに気づいた。生徒の思考を促すか、止めてしまうかは教員の見取りが非常に大切であることがわかった。今回の授業研究会を通して、教員がグループの話合いにどう関わるべきなのかという視点をもつことができた。

③学び合い(話合い活動)からまとめへの生徒の思考の可視化

 今回の授業では、話合い活動を行ったあと何人かの生徒に自分の考えを発表させた。発表できたのは、数人であり発表しなかった生徒の考えは全体に共有されることはなかった。ICTを活用しているため他の生徒の考えは見られるが、それでは学び合いの内容や発言が生かされたまとめとは言い難い。ICTのメリット・デメリットを考え、まとめの場面では、めあてと対になるまとめを全体で共有すべきであることを再確認した。

【授業研究会での意見を参考に、自分の考えを付箋に書いて可視化し全員の考えを共有】

④授業研究会の内容

 今回は、全教員が1つの授業を参観して授業研究会を行った。そのため、全員が同じ問題意識をもって協議することができた。どの班も、生徒の具体的な学びの姿から担当したグループの対話の様子を分析し、生徒の学びがどうであったのかを検証することができた。

【生徒の姿を分析し、協議する様子】

【班での協議内容を全教員で共有する様子】

今後の課題

  1. ①榛東中スタンダード「5つの視点」の見直し、改善
  2. ②単元レベルでの「5つの視点」をもった授業デザイン
  3. ③授業記録・発話記録等の質のレベルアップ
  4. ④授業研究会の在り方(時間や内容など)

今後の計画

随時

  • ・授業改革委員会、教科部会(隔週)

10月

  • ・教育事務所要請訪問(13日)
  • ・県指定事業ICT活用促進プロジェクト公開授業(27日)

1月

  • ・県指定事業ICT活用促進プロジェクト公開授業(18日)

気付き・学び

 AI音声認識スピーカーや360度webカメラなどの活用により、生徒の学びが教科の資質・能力の獲得につながったかを捉えることができた。この授業研究により、教師の意図と生徒の学びは必ずしも一致しないこと、生徒の学びに授業デザインのヒントがあること、対話から学ぶ力は誰にでもあることがわかってきた。

成果目標

  • ・教科・単元に合った「5つの視点」に基づく授業デザインづくりを全教員ができるようになる。
  • ・発話記録だけでなく、生徒の微妙な表情の変化やつぶやき、うなずきなどを捉えながら授業を検証できるようになる。
  • ・授業研究会での学びを積み重ね、共有し、個々の授業改善に生かす仕組みを作り、全教員の授業力向上を図る。
  • ・研究の成果や課題を他校に紹介し、活用してもらえるようになる。
アドバイザーコメント
木原 俊行 先生
大阪教育大学
教授 木原 俊行 先生

 令和3,4年度,榛東村立榛東中学校(以下,榛東中学校)は,パナソニック教育財団の実践研究助成の特別研究指定校として,実践研究を推進することとなった。同校は,令和元年度には,群馬県で初めて日本教育工学協会から学校情報化優良校に認定されている。また,令和2年度は,パナソニック教育財団の実践研究助成の一般校として,「生徒同士の学び合いによる協働的な問題解決力の育成」という研究テーマの下,子どもたちの「学び合い」の質的向上を図った。同時に,群馬県教育委員会からICT 機器活用に関する共同研究校にも指定されている。こうした取り組みに基づく十分な準備の下,榛東中学校は,令和3年4月,特別研究指定校としての研究を開始した。それが順調なスタートであることを,以下の3点で確認できる。

 まず,教科担任制の指導体制を採る中学校において,授業づくりのスタンダード「5つの視点」を作成し,運用している点である。筆者は,4月と6月,榛東中学校の先生方とテレビ会議システムを通じてやりとりしたが,「5つの視点」が「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた,教員間の共通の羅針盤になっていることがよく分かった。もちろん,学校の活動報告に記されているように,このツールとその運用にも課題はある。それでもなお,その改善に向けた意識も含めて,「5つの視点」は,榛東中学校の実践研究の基盤となっている。

 多様な授業記録の作成と活用は,榛東中学校の特別研究指定校としての研究課題「子どもの学びに学ぶ授業研究の創造」の主柱を成す。360度カメラ,AI音声認識スピーカー等のテクノロジーによる記録,抽出グループ(生徒)に接近して教員が自らの手で残した記録等を複合的に活用して,榛東中学校の先生方は,「話し合い活動中の教員の関わり方」「学び合い(話合い活動)からまとめへの生徒の思考」などについて,ていねいに検討している。

 授業研究会のサイクルも,榛東中学校の先生方の実践研究推進上の工夫点として注目したいことである。授業研究会の内容や方法を改善することは,子どもたちの「学び合い」の充実を図る榛東中学校の先生方自身が「深い学び」を標榜し,実践していることを意味する。学校における授業研究は,一定の方式が絶対視され,形骸化しがちである。それを持続的に発展させようとする,榛東中学校の先生方の姿勢は尊い。アドバイザーとして筆者は,今後,そのいっそうの充実を支え促したいと考える。

本期間(8月~12月)の取り組み内容

9月6日実施 校内研修「実践に基づく知見の確認と公開授業プレゼンテーション」
(新たなPDCAサイクルのスタート)

1学期のまとめ(2学期に向けて)

 2学期の授業改善のサイクルを展開するに当たって、改めて1学期に得た知見を確認し、5つの視点を再定義した。

2学期の公開授業候補者による授業プレゼンテーション

 授業公開に向けて、6名の教員が授業構想についてプレゼンテーションを行い、他の教員が質疑を行った。授業者は、参加者からの質問を受け、応答を通して曖昧だった授業構想を具体化したり、課題を捉えたりすることにつながった。

10月4日実施 校内研修「授業デザインの検討」

 公開授業を4つに絞り、作成した授業デザインシートに基づいて授業デザインの検討を行った。2回の授業当日(10月13日、27日)に授業研究を行うグループに分かれ、参加者が協働し、共に授業をつくる意識で臨んだ。

10月13日実施 授業実践(教育事務所指導主事訪問)

 公開授業4授業のプレ授業を兼ね、授業を実践した。授業検討を行ったメンバーが参観し、授業研究会を行った。参観者は抽出生徒の発話記録を取ること、学ぶ様子を動画撮影することを分担し会に臨んだ。授業研究会では、想定する生徒の学び、授業者の指導や生徒同士の相互作用、教材教具の影響等について、解釈、検討し、次の授業実践への修正の手掛かりとした。

10月22日実施「授業研究会のファシリテーター打合せ」

 授業研究会で、議論を活性化させ、それらを束ね、方向付けながら、客観的で妥当性のある解釈に結び付けていくためには、ファシリテーターが授業者の意図を十分理解して会に臨む必要があることを実感してきている。そうした思いを共有した教員集団から自然発生的にファシリテーター打合せをしようという提案があった。それを受け、授業改革アドバイザー(本校教員。本年度から分掌として位置付け。)と研修主任が中心となり、ファシリテーターと授業者(4名)とが集まり、13日の授業研究会の際に用いた発話記録とホワイトボードを活用して、具体的に打合せを行った。会の中では特に、以下の点を確認した。

  • ○話題が手立ての善し悪しや授業の課題点等に早々に展開し、生徒の学びを十分に捉えきれないまま議論が進む様子が見られた。そこで、生徒の発話や学ぶ姿から学びを捉える時間を十分確保する。
  • ○手立てに話題が移って授業事実から離れた抽象的な議論に陥ることがあった。そこで、手立ての妥当性を確認するために、効果の裏付けが表れていないか生徒の発話記録等に戻って確認するよう方向付ける必要がある。

10月27日実施 ICT活用促進プロジェクト公開授業

 10月13日の教育事務所指導主事訪問での研究授業と授業研究会、指導主事による指導助言を受け、授業デザインを修正した上で4授業を公開し、外部からの参観者も交えて授業研究会を行った。

授業研究会(10月13日)からの変更点と公開授業の授業研究会の合意内容等

国語 10月13日の授業研究会の指摘 10月27日の授業研究会
本題材は、共通の教材文「故郷」が名作と言われる理由を見いだすことに向けて、各自が選んだ文章と比較しながら批判的に読み、文章に表れているものの見方や考え方について考えるものである。
○ めあてをつかむ活動(視点1)における発問を、「よさを見付ける」という読者視点のものから作者視点のものに変更するとよいという指摘を受けた。 → 「なぜ名作なのか」という発問に変更した。その結果、めあての理解のズレがなく、対話の中でも「でもさ」「なるほど」等、互いの意見を理解し合いながら活動できていた。
○ 見通しをもつ活動(視点2)で確認するものを、全員が共有でき学習の柱となるものにするとよいとの指摘を受けた。 → 個々が選んだ作品を分析したレーダーチャートから、共通の教材文である「故郷」のレーダーチャートの確認に変更した。このことにより、本文の叙述に戻って確かめる必要性が高まるとともに、国語で培う資質・能力を育む学びへと方向付いた。加えて、「故郷」から新たな気付きを得る姿も見られた。
○ 学習のまとめをする活動(視点4)において、生徒の主体性が発揮される学習形態に変更するとよいとの指摘を受けた。 → 学習形態を全員一斉から8人グループへと変更した。その結果、その直前の対話(視点3)の中の表現やコラボノートの表現を活用し、主体的にまとめる姿が見られた。
音楽 10月13日の授業研究会の指摘 10月27日の授業研究会
能の演目「東遊びの数々に」を聴き、音楽を形作っている要素の視点から批評し、よさや美しさを味わって聴くことができるようにするものである。
○ 「能のよさ」を見付けることから、「東遊びの数々に」の演目を聞いてよさを見付けることへ転換を図るとよいとの指摘を受けた。 → 「東遊びの数々に」の演目を聞いてよさを見付けることへと転換し、さらに、見通しをもつ活動(視点2)での「曲のよいところは」という問いに対する生徒の言葉を生かし、感受のポイントとして、「歌詞」「旋律」「速度」「音色」を確認でき、その後の活動に生かされた。
○ よさを捉えるためには聞き返しが重要との指摘を受けた。 → コラボノートにも曲のデータを貼り付けておいた。本時は、対話の中で自発的に曲を聞き返し、他の生徒に示して説明する姿が見られた。
○ 楽曲を聴く際に、個別に感じ取ったことをコラボノートに表す活動が長く、やり方を変える必要がある。見通しをもつ活動(視点2)が長く、対話及びまとめの活動(視点3、4)が取れないという指摘があった。 → 見通しをもつ活動(視点2)では、全員で一斉活動の中で、曲のよいところを発表させ、視点として確認したのちに、楽曲を全体で一回聞くことにとどめ、対話及びまとめの活動(視点3、4)に移行した。時間の効率化と活動の単純化が図られ、中核の活動に時間を掛けられた。
○ まとめの場面で、出された意見を、諸要素に分類してまとめるより、諸要素を総合して楽曲全体のよさを感じ取る意識だったのではないかという指摘があった。 → 課題が十分改善しきれていなかった。どのようにまとめるべきか検討が必要。
道徳 10月13日の授業研究会の指摘 10月27日の授業研究会
本主題は、自律の精神を重んじ、自主的に考え、判断し、誠実に実行してその結果に責任をもつことについて、資料「スイッチ」を読み、絵里の心情に自己を投影して考え、自己の生き方についての考えを深めるものである。
○ 全体に問い返して新たな気付きを得られるようにすれば、次の話合いの意見交流が活発化するのではないかという指摘を受けていた。また、主人公が気持ちを切り替えた後の気持ちを考えることが重要だったのではないかという指摘を受けていた。 → グループでの対話の際に、「絵里がノートに頼ってしまった理由は何か」「どうしてスイッチが切り替わったのか」という問いを投げ掛け、道徳的な価値が変容する前後の意識を具体的に考えられるようにした。その結果、主人公が気持ちを切り替えた後の道徳的心情が表出された。
○ 道徳的な価値を深めまとめる活動(視点4)における、主人公の道徳的心情を意識させる手立てが必要だったとの指摘を受けた。 → 授業全体を通して絵里の心情に焦点を当てて展開した。その結果、主人公の道徳的心情に着目した発言が見られるようになった。
○ 価値について話し合う活動では多面的・多角的な見方に気付ける別の視点を与え、全体に投げ掛けるのも一つの方法だった。特に絵里の人間的な弱さに着目させ、自分が絵里だったらと考えさせることで、生徒の人間的な弱さの部分が表出されるのではないかとの指摘を受けた。 → 自分ならスイッチを絵里の様に切り替えられるかと、自分事として考える発問を取り入れた。その結果、自己の内面と向き合い、人間的な弱さを吐露する発言が生まれた。
総合的な学習 10月27日の授業研究会

 総合的な学習を各学級独自のテーマ総合として行なっている関係上、前回の指摘を生かし同じ展開で授業を進めることができない。そこで、学びの丁寧な解釈を中心とした。
生徒の「大好きなこと」を生かし、何かのため・誰かのためにできることはないかを考え実践する、学級独自のテーマ総合の単元である。大好きなことに応じて編制したグループごとにできる取組を決め、話し合ったり調べたり試したりしながら取組を具体化していく。本時は、取組の具体化に向け、先行しているグループが取組を他の生徒に示し、他者視点で意見をもらう交流の時間である。そこで、自分達の成果物(昔話)を紹介して友達から評価を得た抽出グループの意識と、発表の様子を視聴して指摘する視聴側のグループの発話記録から、双方のグループの学びを捉えた。

○ 発表側のグループの生徒は、他のグループからの意見を見られない非表示モードの間、自分達のグループの発表に手応えを感じられず、悲観的な意見が多かった。しかし、他の生徒意見が見られる協働学習モードに変更すると、意識に変容が感じられた。改善に向けた具体的な意見が見られるようになり、前向きな発言に転換していった。振り返りの記述と合わせて捉えると、生徒が復元力や調整力を発揮していることを確認できた。
○ 視聴側のグループの生徒らは、発表側の生徒を応援しようとする意識に溢れ、率直でありながらも改善策を提案する記述が見られた。その後の話合いで自分たちの取組の改善点を話し合った際、発表側のグループの発表の様子から感じ取ったことを、自らの改善の視点として生かしている様子も見られた。振り返りの記述には、自分達のグループも見てもらいたい、どのグループも互いにアドバイスし合い、クラス全体として取組をよりよくしたいなどの記述が見られ、他のグループの発表を見て気付いたことを、自分たちの取組に反映させていた。

講評

  • ○授業改善は、「生活の基盤」の確立を一層目とし、「学習の基盤」の確立、「人間力の発揮」という三層によるピラミッドで捉えることができ、多くの場合は「生活の基盤」の確立、「学習の基盤」の確立を経て「人間力の発揮」を目指す。しかし、「人間力の発揮」から生活や学習の基盤の確立に降りていくこともある。授業改善はその柱となるものであり、本校の取組はそれを具体化している。
  • ○数年前から継続的に授業改善に取り組んできている本校は、「榛東中スタンダード」を基盤にしており、「榛東中スタンダード」の「理解」「定着」の段階を経て、「深化」の段階に差し掛かってきている。
  • ○意欲(エンゲージメント)に満ちあふれた授業では、肌で感じ取れる授業に流れる空気によって、その場にいる者を学びの世界に引き込む。その空気は子供や教師の表情、まなざし、身体の向き、しぐさ、音声、語調などによって生み出される。だからこそ、学習者の学ぶ姿に着目し、つぶさに授業事実を捉えることから授業改善は出発すべき。個々の参観者が捉えた学ぶ姿は多分に主観的であるが、授業研究会等で相対的に妥当な解釈を協働的に明らかにすることで客観性や信頼性が生まれる。さらに一人一人で異なる学びを捉えるには、振り返り(省察)の内容の分析が重要。振り返り(省察)には、学習者がどのように学びを自覚したのかが表れる。
  • ○PDCAのサイクルをより確実なものとするためには、確証した知見を文でまとめるなどして共有することが大切。

アドバイザーの助言と助言への対応

①ICT機器の授業への積極的活用

 アドバイザーより、ICT機器を授業研究会だけではなく、教育活動の中での積極的な活用について助言をいただいた。本校では、活用・探究型の授業場面で、主に「コラボノート」「xSync」「ロイロノート」「teams」等の授業支援ソフトを活用している。以下に、一例を示す。

 3年音楽で能の演目「東遊びの数々に」の一環として、「teams」を用いて東京の能楽師さんとリモートでつながり、能の歴史や楽しみ方についての講演を聞いた。質問をしたり「東遊びの数々に」を舞う様子を視聴したりした。
 2年数学の多角形の性質について学習する単元の、穴のあいた多角形の角の和の多様な求め方を見いだす学習場面。生徒一人一人が考えた解法を「ロイロノート」に表し、「xSync」で端末から親機に転送し、大型モニタで表示して解法を説明し共有した。
 1年保健体育のソフトテニスで、ボールを打ち返す様子を動画撮影し、ねらった場所に打つためのポイントをつかんで技能を高める学習。タブレットの録画機能を活用した。

 本期間の取り組み内容で示した通り、それぞれの教科でICT機器を効果的に活用することができ、生徒の学びを進めたり深めたりすることに繋がった。

②PDCAサイクルを意識した授業改善

 公開授業・授業研究会での気づきを授業改革委員会で一般化し、校内研修や教科部会で改めて考えることで、参観した授業から学んだことを自分の授業に生かすサイクルができている。詳細は「本期間の取り組み内容」を参照のこと。

本期間の裏話

「このとき、何て言ったのかな?授業動画を見てみよう。」

「すみません、撮れてません。スイッチ押し忘れました。」

 限られた授業研究会の時間の中で見たい場面を探し当て、授業動画を再生して生徒の姿を確認するのは難しい。操作で議論が中断されるのもいたい。そして、いざ確認しようとするとスイッチを押し忘れてたりする。授業の中の機器のトラブルはさらにいたい。研究授業なら尚更だ。

 あるとき、研究授業の中で機器のトラブルが起きた。授業者は困っているのに、同僚である参観者が不思議な空気に包まれたことがあった。参観者は何となくニュートラルな感じ。かといって白けている訳でもない。よく見ると生徒の姿を見ながら何やら待っている様子の参観者もいて、授業後に何を待っていたのか聞いてみると、

「何か面白いことが起きるかと思って・・・」とボソリ。

 ああ、そうか。生徒の中で何かが起きることへの期待だったのか。生徒の学ぶ姿に学ぶ構えがあれば、機器のトラブルも、意図とは外れる生徒の発言も、何かが生まれるきっかけとして受け止められるかもしれないな。

 研究授業の最中に、その余裕はなかなか生まれないが・・・。

本期間の成果

  • ○ICT機器の活用は、対話を可視化し、「共有」や「納得」を生むことにつながる。その充実のためには、5つの視点を踏まえること、実態を十分捉えておくこと、生徒の必要感を高めることが重要となる。
  • ○対話の場面での教師の介入は、対話の文脈を捉えた上で、介入の目的は何か、対話の文脈を切らさないよう、どのように介入するか(入り方)が重要となる。
  • ○単元全体では、思いや欲求を高めること、どの場面でどのような活動を設定するとよいかをよく考えること、活動をどの程度まで生徒に委ねるかを吟味すること、他者からの刺激を得られるように工夫することが大切で、特に、他者からの刺激が生徒自身の学びを調整する力(自己調整力)につながる。
  • ○1学期の代表授業で敢えて思考ツールを用いず、コラボノートの個人ページの作成にとどめたことで、学習した語の吟味と語と語の関係性に生徒の意識が集中し、且つ、枠組みによるバイアスを受けずにダイナミックな思考が働いた。実践の積み重ねから、思考ツール等に頼らずに自分の考えを表出できる生徒が育ってきている。
  • ○思考の道筋や対話の進め方を生徒に任せるようにしたことで、やらされる学習から脱却し、自ら調整しながら学びを進める主体性が育ってきたように感じる。
  • ○必ずしも思考の枠組みを設けず、自由にすることが適切で高度とは言い切れない。思考の末にある特定の解や合意を導き出すような収束的な学習では、枠組みを示して特定の思考プロセスを辿らせることが効果的な場合がある。一方で、思考の道筋が多様で、思考の道筋自体を意識化させたい授業では、枠組みを示さずに取り組ませることが考えられる。このように、単元の特徴や本時のねらいに応じて使い分けることが効果的である。

今後の課題

  1. ①単元レベルでの「5つの視点」をもった授業デザイン
  2. ②授業記録・発話記録・録画記録等の活用の仕方の研究
  3. ③授業研究会の在り方

今後の計画

随時

  • ・授業改革委員会(毎週)、教科部会(隔週)

1月

  • ・県指定事業ICT活用促進プロジェクト公開授業(18日)
  • ・県指定事業ICT活用促進プロジェクト校内授業(21日)

気付き・学び

(教師の省察より)時

  • ○「授業デザインシート」で生徒の思考を予想したり、「授業研究会」で生徒の対話の内容に迫ったりすること経験を積み重ねたことで、生徒の学びの姿から授業を考えられるようになってきた。
  • ○授業研究会でファシリテーターが何を話すかによって、研究会に深まりをもたせることができた。
  • ○生徒は、一単位時間の対話の中でも小さなサイクルを回していることがわかった。そして、生徒同士がお互いに影響を与え合っていることもわかった。対話や生徒の姿を見ることで、その時の学びはもちろんのこと、一人一人の生徒像も見えてくることを知った。
  • ○生徒の対話の様子と思考を可視化したもの、ふり返りなどを見ていく中で、「生徒の思考がここでつながったのか」ということや、「この発言がきっかけでこのまとめになったのか」ということがつながり合っていくのがわかった。特に、普段大人しく、一見対話に参加できていないように見える子も、考えを深めている様子が見られた。対話の中で、生徒同士・教師と生徒の間でいろいろなものが生まれていることが、今回のPDCAサイクルを通して見えてきた。

成果目標

  • ・教科・単元に合った「5つの視点」に基づく授業デザインづくりを全教員ができるようになる。
  • ・発話記録だけでなく、生徒の微妙な表情の変化やつぶやき、うなずきなどを捉えながら授業を検証できるようになる。
  • ・授業研究会での学びを積み重ね、共有し、個々の授業改善に生かす仕組みを作り、全教員の授業力向上を図る。
  • ・研究の成果や課題を他校に紹介し、活用してもらえるようになる。
アドバイザーコメント
木原 俊行 先生
大阪教育大学
教授 木原 俊行 先生

 令和3年度,榛東村立榛東中学校(以下,榛東中学校)は,パナソニック教育財団の実践研究助成の特別研究指定校として,実践研究を着実に進めている。

 それはまず,生徒の学びの充実に象徴されよう。筆者は,アドバイザーとして,12月20日に同校を訪問し,そこで,いくつかの教室の様子を拝見するとともに,理科の研究授業を見学した。そのねらいは,「地球の動きと星座の見え方の関係性を活用して,誕生日の星座の見え方について探究することができる」というものであった。これに迫るために,生徒は,以下の写真のように,地球のモデルを利用して星座の位置を確認し,その様子をタブレット端末に記録して,それを材料として,星座の見え方をていねいに考察していた。すなわち,生徒が,ICTを活かして主体的・対話的で深い学びに従事し,科学的な思考を繰り広げていた。

 この授業も,授業づくりのスタンダード「5つの視点」に基づいて構想され,実施されていた。前回の活動報告へのコメントにおいてもその可能性を指摘したが,今回,榛東中学校を訪問し,実際に授業を拝見して,筆者は,榛東中学校の教師たちがこの「5つの視点」を授業デザインに反映させることを通じて「主体的・対話的で深い学び」の充実に努めていることを,実感できた。

 一方で,大切な合い言葉である「5つの視点」であっても,1学期の実践に関する省察を踏まえて,令和3年度2学期に,榛東中学校の教師たちは,その再定義に着手している。また,10月13日に公開された授業を検討し,その反省に基づいて,2週間後にリデザインされた授業を公開している。そうした評価・改善を短い期間で展開できることも,榛東中学校の教師たちの授業改善への意欲とそれを実行する能力の高さを示している。

 ところで,この期間で特筆に値するのは,「授業研究会のファシリテーター打ち合わせ」であると,筆者は考える。この取り組みを,筆者は,授業研究のための「リーダーグループ」の編成であると解説したい。一般に,授業研究に参加する教師は,多様な経験を積んでおり,様々な思いを抱いている。それゆえ,授業研究会が教師間の学び合いの場として成立するためには,誰かがその議論をリードしなければならない。その実践的リーダーシップを発揮する教師が複数存在することで,授業研究会における教師間の学び合いは多面的・多元的なものになる。それを志向した「授業研究会のファシリテーター打ち合わせ」の実施は,榛東中学校の実践研究の進展を物語っていよう。

本期間(1月~3月)の取り組み内容

 3学期は、大きく2つの内容で校内研修を展開した。それは、コロナウイルス感染症のまん延によって、授業を外部に公開したり、40人を超える校内の教員が集まって授業を参観したり、授業研究会を行ったりすることが困難だったためである。具体的な取り組み内容は、以下に示す「授業実践を核としたPDCAサイクル」と、「3学期における個々の教員の実践テーマと知見の整理」の2つである。

1「授業実践を核としたPDCAサイクル」について

 1月中旬に予定していた授業公開は校内教員による自由参観により実施した。1年の数学・理科・総合的な学習の時間の3授業である。1年数学では、単元「平面の図形」の第17時を扱い、ねらいを「多様な見方を交流し合う活動を通して、基本的な作図を活用して75°の作図ができるようにする」として本時を設定し、PDCAサイクルを回して授業改善を進めた。今回は、特に教員を生徒役とした模擬授業を行い、授業デザインを練ることとした。

○12月22日(水) 授業改革委員会
  1. ・アドバイザー木原先生の助言を受けて、2学期の成果と課題を整理した。
  2. ・2学期に得られた知見と3学期の課題を確認した。
○1月5日(水) 校内公開授業に向けた模擬授業の実施(1年数学・1年理科)【P】
  1. ・1月に行われる校内公開授業に向けて、教師が生徒役になって授業デザインを検証した。
〇1月12日(水) 授業改革委員会【P】
  1. ・1月に行われる校内公開授業(1年総合)に向けて、授業デザインシートの検討を行った。
〇1月19日(水) 1年数学の校内公開授業の実施【D】
  1. ・既習事項を活用して、75°の作図をする授業。生徒一人一人が考えをもち、その考えをタブレットに書き出し、考えを広げるためにグループで話し合いを行った。多様な考えに気付かせるために、4人の生徒の考えを提示し、全体で「まず何をしたのか」「どんな手順でやったのか」など、教師が生徒に問いながら4つの作図の方法を確認した。

生徒の発話記録を基に行った授業研究会で確認した内容の一部を以下に示す。

○【1年数学】の発話記録とその様子からの知見
1 対話前のAくんの考え
2 対話の流れ(Aくん、Bくん、Cさん)
3 対話後のAくんの作図と説明
4 所感
  • 〇AとBは、簡便性の視点から考えを比較する中で初めの自分の考えから離れ、よりよい(と本人たちが捉える)考えを根拠をもって見出し、より簡便な方法がよりよい方法であるという暗黙の価値を見出している。
  • 〇初めに自分の考えのよさを主張していたAが、Bの新たな考えと選んだ理由に納得し、最後にはその考えのよさを主張する主体者へと変貌していることが興味深い。このことによってよりよい考えを見出したAは、作図の際に真っ先にこの方法を試している。対話が考えを進化させ、強化する好例である。
  • 〇彼らは自信の考えに固執せず、ダイナミックに思考を展開させつつ、合意形成に至った。「まずは何をするか」という視点の投入、視覚に訴えるタブレットの有効性、「どういうこと?」「~じゃないの」との問いが生徒の思考の精緻化に生きること等、様々な知見を与えてくれる。

以上のような生徒の学びの姿を「5つの視点」に基づいて授業研究会で話し合い、授業改善のサイクルを回すことができた。

○1月26日(水) 授業改革委員会【CA】
  • ・1年数学の校内公開授業の発話記録を基にした授業の分析を行った。発話だけでなく、対話の様子を撮影した映像も一緒に視聴し、表情やうなずきと共に確認した。

2「3学期における個々の教員の実践テーマと知見の整理」について

 1・2学期の公開授業や授業研究会を通して学んできたことを3学期、自分の実践にどう生かしていくか、どう日常化していくかということを目的に、教員一人一人が自分の授業に課題をもち、試行錯誤しながら授業改善に取り組んだ。そのテーマと知見を基に、今年度の成果と課題を整理した。

○1月17日(月) 校内研修
  • ・「榛東中スタンダード振り返りシート(5つの視点)」を用いて、2学期の授業の実践を振り返り、3学期重点的に取り組みたいこと(テーマ)と、それを取り組むことによってどんな良さがあるのかについて考えた。その後、一人一人テーマを表明し、全体で共有を行った。また、常に自分の重点ポイントを確認できるよう、職員室のホワイトボードに貼り出した。
○2月28日(月)、3月7日(月) 校内研修
  • ・1月17日(月)の校内研修で決めたテーマに取り組んでみて考えたことと、今後(次年度)につなげたいことを一人一人発表し、質疑応答を行った。意見を出し合いながらファシリテーターがホワイトボードに可視化し、その後全体で共有。全職員で、3学期の知見と今後の課題を押さえた。
○3月2日(水) 授業改革委員会
  • ・今年度の授業実践からの知見をまとめた。
    アドバイザーの木原先生にもオンラインで参加していただいた。

アドバイザーの助言と助言への対応

助言1

 12月に木原先生に来校していただき、本校が取り組んでいる「5つの視点」を網羅した授業(3年理科)を参観していただいた。3月にも本校が週1回行っている「授業改革委員会」にオンラインで参加していただき、これからの方向性について以下の助言をいただいた。

○授業改善サイクルのモデル化

  • →3学期は、サイクルを回すことや、サイクルの流れをより意識して授業改善を進めてきた。本レポートもそうであるが、本校の実践を参考にしてもらえるよう、今後まとめていく。

〇「視点1」から「視点5」を一単位時間だけでなく、単元にも広げていく

  • →今年度、「5つの視点」に基づいて授業研究を行ってきた結果、単元構想の重要性に気づいた。今後、単元デザインが一単位時間にどう影響したのか、単元デザインに戻って検証していけるようにする。

本期間の裏話

 今回、久しぶりに模擬授業に生徒役で参加した。教科書とノートで参加していた頃よりなぜかワクワクする。タブレットが手元にあるせいだろうか。周りの教員もなんだか楽しそうである。授業が始まった。めあての「75°を作図しよう」が示された。「75°・・・、どういう方法があるだろう?」自分は、正三角形を書いて、角の二等分線で30°を作り、残った150°をまた角の二等分線で75°を作れると考えた。いつもであればノート、シャーペンを使ってノートに書いてみるが、今回は初めてタブレットに書いてみる。これが意外と面白い。しかも、簡単に直線が引けたり、色をつけたり、手軽に消すこともできる。自分の頭の中で考えていることを、パッと短時間で表現するにはタブレットはとても有効であると模擬授業に参加しながら思った。タブレットの有効性は実感したものの、他の方法がなかなか思いつかない。他の先生は、どんな方法で75°を作っているのか知りたくなった。少し考えていると、教師から「では、近くの人とどのように考えたのか発表してみましょう」と声掛けがあった。その瞬間、「○○先生、どういうふうに考えた?」と聞いていた。「あっ、これが生徒の聞いてみたい、知りたい!」という思いなんだと実感。3人が各々違う考えをもっていて「なるほど!」と思った。タブレットの図を見せながらの説明は、とてもわかりやすい。生徒の思考を知ろうとするのであれば、想像や予想ではなく、実際に経験してもらうことで自分には思いつかないような新しい発見が生まれるのかもしれないと肌で感じることのできた久しぶりの模擬授業であった。

本期間の成果

模擬授業を取り入れたPDCAサイクルの充実

    • ○模擬授業を授業デザイン検討の過程【P】に取り入れ、教員を生徒役にして検討したことで、生徒の思考を意識した授業デザインを行うことができた。
    • ○参観する教員の授業デザインへの主体的な参画意識が高まった。その結果、教科の枠を越えた授業研究を行うことにつながった。そして、榛東中スタンダードに示す「5つの視点」が、教科の枠組みを越えた協議の拠り所として重要であるということを再確認することができた。

「5つの視点」を踏まえた実践の日常化

    • 〇経験や知識、考え方等によって、個々の教員の「5つの視点」の捉え方や理解の深さは異なる。また、具体的な授業実践に基づく授業研究を繰り返す中で、課題意識にも差が表れてきた。「5つの視点」のどこに重点を置き実践のテーマとするかを具体的に表明するとともに、実践を通して得られたことをふり返り共有する過程で、「5つの視点」を日常の実践の中で強く意識することにつながった。

今後の課題

  • ・3学期のPDCAサイクルを基に実践を繰り返し、より具体化していく。
  • ・発話記録や生徒の表情等から、全職員が生徒の学びを分析できるようにする。
  • ・「5つの視点」に基づく授業改善を全職員が行う。

今後の計画

  • 5月
    ・教育事務所要請訪問
  • 10月
    ・教育事務所要請訪問 ・県指定事業ICT活用促進プロジェクト公開授業
  • 1月
    ・県指定事業ICT活用促進プロジェクト公開授業

1年間を振り返って、成果・感想・次年度への思い

 この1年、「榛東中スタンダード(5つの視点)」を基盤として、全職員で授業改善を目指して取り組むことができたことが、まずは大きな成果である。

 1学期は、1つの代表授業を全員で参観し、本校が目指す授業を全員で模索し、確認を行った。そこでの気づきや課題を2学期の実践に生かし、4つの代表授業を行った。教科は違えども「5つの視点」があること、また生徒の学びに学ぶということが本校の強みである。授業後の研究会になると専門教科でなくても、参観した授業の内容や、対話している生徒の様子を語ることができる。また、どこで生徒に変容があったのか、どこに課題が残るのか検討することができる。3学期は、授業改善のPDCAサイクルをイメージし、模擬授業を取り入れるなど新しい実践を取り入れた。

 今年度は、研究授業を軸にした授業改善サイクルを事例として整理し、サイクルの流れを作った。来年度は、このサイクルを基に授業改善に取り組み、サイクルをより具体化していきたい。また、授業改革委員会での空気感をいかに全職員で共有するか、授業改革委員会での空気感や内容をどうやって全体の空気感へと広げていくのかも、来年度取り組みたい内容である。授業構想を大切にしつつ、5つの視点を教科の特性や授業意図を踏まえて柔軟に捉えながら授業デザインを充実させていきたい。

成果目標

  • ・新たなPDCAサイクルを回し、授業改善サイクルの流れを作る。
  • ・今年度の研究の成果や課題をまとめ、他校に紹介し、参考にしてもらえるようにする。
  • ・「5つの視点」を意識した授業づくりができるようになる。
  • ・発話記録や、生徒の表情・つぶやきなどから生徒の変容や学びを全教員が捉えられるようになる。
アドバイザーコメント
木原 俊行 先生
大阪教育大学
教授 木原 俊行 先生

-授業改善サイクルの徹底-

 榛東村立榛東中学校(以下,榛東中学校)がパナソニック教育財団の実践研究助成・特別研究指定校として活動を始めて,1年弱が過ぎた。この間,コロナ渦は厳しく,学校の教育活動は大きく制限された。その中にあって,榛東中学校の実践研究は,当初予定とは異なる取り組みにならざるをえなかったようだ。例えば,2022年1月に予定されていた「授業公開」は,学校内の教師による参観となり,公開の規模は縮小されたようである。それでもなお,榛東中学校の教師たちは,授業改善の取り組みを続けている。同校の教師たちの授業改善サイクルの徹底にかける熱意にまず敬意を表したい。

 その礎となっているのは,これまでの活動報告に対する解説でも確認したように,授業づくりのスタンダード「5つの視点」の設定,授業改革委員会の組織化といった,学校としての授業改善の体制づくりである。

 加えて,2022年1月から3月にかけて,新たな試みが生まれている。それは,PDCAサイクルのP段階における模擬授業の実施である。その効果は,学校による活動報告書の「本期間の裏話」や「本期間の成果」に記されているように,何重にも及んでいる。

 さらに筆者は,この期間の1月17日から,2月28日及び3月7日に至る授業改善の流れに注目したい。その過程で,「各」教師が,前者では授業づくりのスタンダード「5つの視点」に基づいて,2学期の授業実践を振り返り,3学期に重点的に取り組むことを記述している。そして後者では,3学期の実践に対する振り返りと次年度に向けた展望を発表している。それらの各教師の思いやプラン等はいずれも,活動報告書の写真が示すように,言語化され,可視化されている。

 榛東中学校の教師たちによる授業改善サイクルの徹底は,最初に述べたように,コロナ渦であっても,その量が確保されている。加えて,サイクルの折々において,教師一人ひとりの学びと学校としての学びが連続発展している,共鳴している,相互作用的であるという,質的充実を確認できる。そして,後者は,教師たちが子どもたちに実現してもらいたいと願っている学びのスタイルと同型であるという点からしても,妥当であり,秀逸である。

本期間(4月~7月)の取り組み内容

 今年度も昨年度同様、「授業実践を核としたPDCAサイクル」を中心に取組を進めていく。1学期の核となる授業実践は5月26日、6月6日の2度の授業公開である。

1「授業実践を核としたPDCAサイクル」の継続

 昨年度より積み上げてきた実践を、全職員で実施していくことを目指し、4月の研修が始まった。今年度も①授業の検討・分析【P】②公開授業・授業研究会【DCA】③授業改革委員会での練り直し【P】④公開授業・授業研究会【DCA】⑤日々の実践、という流れで実施していく。

①校内研修や授業改革委員会にて、公開授業の検討・分析を行う【P】

○4月11日(校内研修)

 新着任の職員を迎え、昨年度から積み上げてきたサイクルを継続するために、「5つの視点」に基づいた授業実践の共有を図った。また、①一人一台タブレット端末を利活用した授業、②対話を取り入れた授業、③単元構想から授業をデザインする、という方向性を確認した。

※榛東中スタンダード「5つの視点」チェックリストは次ページ

○5月11日(校内研修)

  • ・全職員が生徒の発話や表情を記録できるよう、AIスピーカー、360°カメラの使い方を実習を通して確認した。
  • ・各グループで授業デザインシートを基に協議を行い、全体で協議内容の共有を行った。昨年度の課題を引き継ぎ、特に視点2・4に重点を置いた。
    • 視点2…生徒が既習の知識を生かして見通しをもてるような手立てになっているか。
    • 視点4…視点3で出てきた多様な考えを、生徒の発言を生かしながらまとめられているか。生徒の学びは深まるのか。

【ICT機器の使用方法の共有】

全体会【授業デザインシートの協議を受けて】

②ICT活用推進プロジェクトの公開授業(5月26日)【DCA】

 5月26日はコロナウイルス感染症の警戒レベルが下がり、県内約100人の教員を招いて4つの授業を公開した。榛東中学校でのICT機器を利活用した授業実践と、生徒の学びの事実から学ぶ授業研究会のもち方を県内の教員に紹介することができた。

理科3年【滑車の演示実験】

【滑車を使用したときの仕事の大きさを比較して予想】

【ICT活用の紹介】

【生徒の発話記録や録画を基に事実から学びを見取る授業研究会の実施】

③授業改革委員会【P】
  • ・授業デザインの再検討を実施した。
④②の授業研究会での学びを生かした公開授業(6月6日)【DCA】

 1回目の代表授業、授業研究会で検討した内容をもとにした2回目の公開授業を実施し、PDCAの2サイクル目を回した。校内教員を中心に参観し、自校での授業研究会を行うことで、「5つの視点に基づいた授業」「子どもの学びに学ぶ授業研究」の形を全職員で再確認した。

【2年理科 授業の様子】

【授業研究会 発話記録や生徒の姿をもとに分析】

  • ・2年理科(酸化銅の還元)の発話記録とその様子からの知見
  • ・対話の流れ 抽出班(Aくん、Bくん)
⑤授業実践をうけて、授業改善【DCA】
  • ・2回の授業を受けて、授業改革委員会では2学期に向けての課題をコラボノート(写真)を用いて集約した。
  • ・授業研究会での省察(全教員が各々書いたもの)をもとに、各自が授業に生かすポイントを重点目標として挙げ、掲示している。

【2学期の課題(コラボノート)】

【個々の2学期の重点目標】

アドバイザーの助言と助言への対応

○ICT活用の有効性

  • →考える材料を豊かに残すことができる側面を活用し、データの蓄積を活用問題に生かす。有効な場面を捉えて授業改善に生かしていく。

○個別最適な学びを実現するためICT活用

  • →教科や単元によって思考ツールを使い分け、より適切なICTの活用を目指す。単元構想の中でICT活用の場面を組み込んでいく。

○文字入力速さ

  • →情報活用能力の向上を目指し、タイピング練習に取り組んでいく。

○教師間の学び合い

  • →今回の公開授業では、初めて参加する人が授業研究会に介入しづらい環境があった。授業研究会の中で話題にあがった子どもの学びの場面を瞬時に可視化し、全員が共有できる環境を整えたい。

本期間の裏話

 1学期の研究を終えて、昨年度との大きな違いを感じたのは、100人規模の公開授業を実施できたことだ。授業前の生徒の緊張した表情と授業でのコミュニケーション、参観者の期待感、良い意味でのプレッシャーを感じながら始まる瞬間が懐かしく感じられた。

 2年理科では、「酸化銅から銅を取り出す」という探究型の授業が展開された。生徒は既習の知識や技能をフル活用して試行錯誤を繰り返すが、炭素を用いた還元を知らない生徒たちは一向に銅を取り出せない。「これ、無理なんじゃない?」「もう他に方法は思いつかないよ・・・」授業を参観する教師たちは、ドキドキしながら授業者と生徒を見守った。時間ギリギリになって、ある一班が炭素を混ぜる方法を実践し、銅を取り出した。「そんな方法思いつかないよ」「もう時間ないし無理だ・・・」ほとんどの班はめあてを達成することはできず、悔しさを滲ませる。授業終わりの教室の雰囲気はどんよりとしていた。授業を参観した後には、どうにかして達成できる手立てを・・・という思いをもってしまう。しかし、生徒の振り返りには「○○くんの炭素を混ぜて銅を取り出すという発想はすごいと思った」「銅を取り出せなくて悔しい。次回こそ取り出したい!」と、前向きな言葉が並んでいた。教師の心配をよそに、子どもはすでに次回への思いを巡らせていた。またひとつ、子どもの姿から学びを得た瞬間だった。

本期間の成果

①榛東中学校スタンダード「5つの視点」に基づいた授業実践の継続

 数年来この取り組みは行ってきており、少しずつ手を加えながら榛東中共通の授業の基準を5つの視点として定義づけてきた。4月から新着任の教員も5つの視点を共有し、同じ視点をもって授業研究会に臨むことにより、昨年度同様、焦点を絞って授業研究会を行うことができた。

 今年度も①視点2から視点4への生徒の思考のつながりをより意識した授業デザインづくり、②視点3・4で生徒に変容が見られるようにするための教師の手立てや発問の工夫、③視点3で話し合われた考えを視点4でどのように考えを可視化し、まとめていくか、に重点を置いて実践を進めていく。それに加え、今年度は④視点5の振り返りを充実させるための手立てについて研究していきたいと考えている。

②「ちがい」をとらえることによる、めあてや見通しのつながり

数学の授業の導入では「前時との違い」をとらえることにより、単元のつながりの中で本時のめあてや見通しが明確になることが実感できた。「今までの学習とどこが違う?」という問いかけにより、生徒が既習事項と本時に習得する内容の線引きを行い、本時の活動の焦点化を行うことができた。

今後の課題

  1. ①単元構想
  2. ②より多くの授業で学びの記録を取り、分析する
  3. ③振り返りの充実

今後の計画

  •  ・授業改革委員会(毎週)
  • 10月24日
    ・教育事務所要請訪問
    ・県指定事業ICT活用促進プロジェクト公開授業
  • 12月5日
    ・総合的な学習の時間 公開授業
  • 1月
    ・県指定事業ICT活用促進プロジェクト公開授業

気付き・学び

 AI音声認識スピーカーや360度webカメラなどの活用により、発話だけでなく表情やうなずきを含む生徒の学びの事実をより明確に記録することが可能になっている。より多くの授業実践においてより正確な学びを見取るためには、より多くの機器が必要になる。

成果目標

  • ・PDCAサイクル(授業改善)を基に実践を繰り返し、日々の授業につなげていく。
  • ・生徒の発話や表情、うなずき等により一層着目し、生徒の姿を事実とし、教師のどんな手立てや発問が有効であったか明確にできるようになる。
  • ・授業改革委員会での、教員同士が分け隔てなく意見を言い合う雰囲気や内容を広げ、課題を共有する。
  • ・「5つの視点」を教科の特性や授業の意図を踏まえて柔軟にとらえ、授業デザインを充実させる。
アドバイザーコメント
木原 俊行 先生
大阪教育大学
教授 木原 俊行 先生

 榛東村立榛東中学校(以下,榛東中学校)は,パナソニック教育財団の実践研究助成・特別研究指定校2年目を迎えた。公立中学校であるから,年度が替われば,スタッフの顔ぶれも異なる。榛東中学校も,管理職を含めて,新たなメンバーで実践研究をリスタートすることとなった。

 そのため,榛東中学校の活動報告書に記されているように,実践研究の「継続」にまずは努力が傾注されている。例えば,4月11日に催されている校内研修会では,いくつかの方向性が確認されている。また,2度の授業研究会の機会を通じて,授業改善のサイクルが順調に実行されている。

 筆者は,榛東中学校における授業改善サイクルの遂行,年度をまたいだ展開を可能にしているのは,「榛東中スタンダード『5つの視点』」であると考える。どのような授業,子どもたちのいかなる学びを目指すべきかを教師たちが担当教科を越えて共通理解できる仕組みがあることのよさを,榛東中学校の実践研究発展のプロセスに確認できよう。

 さらに,本年度,その5つの視点に軽重がつけられている。それは,実践研究の継続上,巧みなアプローチである。榛東中学校の教師たちは,視点2と視点4を,昨年度までの取り組みを踏まえて,重点課題に設定している。そうした研究課題の焦点化は,実践研究のマンネリを回避できるし,その深まりを期待できる。新たに榛東中学校のメンバーになった教師にとっては,そうした焦点化によって,実践研究に着手しやすくなるに違いない。

 そして,榛東中学校の教師たちは,特別研究指定校ならではの課題にも順調に応じている。それは,他校の教師に対する実践の発信である。筆者も5月26日の授業公開に参加したが,公開のプログラムが工夫されていたこと,4つの授業が公開されたこと,なにより,榛東中学校がこれまでにそのスタイルを練り上げてきた事後協議会を参加者が実体験できたことなどが,この日の成果であると感じた。換言すれば,他校の教師たちにとって,この日は,主体的・対話的で深い学びとICT活用の接点に関して,またそれを追究するための校内研修のあり方について学ぶ,貴重な機会となった。そして,この日は,榛東中学校による活動報告書に「授業前の生徒の緊張した表情と授業でのコミュニケーション、参観者の期待感、良い意味でのプレッシャーを感じながら始まる瞬間が懐かしく感じられた」と記されているように,同校の生徒にとっても,また教師にとっても,よき集いとなったようである。特別研究指定校のミッションである,実践の発信はまだまだ続く。榛東中学校の教師たちには,他校の教師たちへの授業公開の企画・運営にも,改善サイクルを適用し,そのさらなる充実に努めていただきたい。

本期間(8月~12月)の取り組み内容

 2学期は10月24日、12月6日の2回の授業公開を軸にして、授業実践を核としたPDCAサイクルを行った。

1 10月24日の授業公開に関連して

(1)授業の検討・分析
  • ・8月 9日 校内研修・・・先進校の総合的な学習の時間の実践紹介
                指導案検討
  • ・8月22日 校内研修・・・指導主事を招いての指導案検討
  • ・8月31日 授業改革委員会

 公開授業の1時間だけでなく、本時のねらいに迫れるように単元を構想していった。対話に向かうための思考の整理や可視化のツールとしてICTを活用できるよう盛り込んだ。

【4授業のグループに分かれて指導案検討】

【指導主事を招いての校内研修】

(2)模擬授業・プレ授業・授業検討
  • ・ 9月 5日 校内研修   ・・・模擬授業(国語・社会・道徳)
  • ・ 9月14日 授業改革委員会・・・模擬授業(国語)
  • ・ 9月28日 授業改革委員会・・・模擬授業(社会)
  • ・10月12日 授業改革委員会・・・研修についての発表の検討
  • ・10月19日 授業改革委員会・・・指導案検討(総合)
    ※国語・社会・道徳については随時プレ授業を実施。

 4授業の公開に向けて、教師が生徒役となって実際にICT機器を活用したり、グループでの対話を行ったりしながら、授業を受ける形で模擬授業を実施した。模擬授業やプレ授業を録音・録画し、文字起こしの機能を用いて教師や生徒の発話を分析した。

 導入での教師の説明の多さや、本時のねらいに迫るための発問の精選など、録音・録画を行ったことにより客観的に授業を分析することができ、課題が明確になった。

【模擬授業 2年道徳】

【教師の発問を録画・文字起こし】

(3)公開授業  (1年国語、1年社会、2年総合、2年道徳)
・1年社会「社会の諸地域~アジア州~」

 1年社会では、単元を通して作成した生徒の成果物を活用し、対話を通して課題の答えに迫る姿が見られた。多様な情報の中から、自分の意見の根拠となる部分を選択して活用することで、より主体的に対話に臨むことができた。また、プレ授業の課題として挙がり、修正した導入の場面は、教師から多くの資料が提示されるのではなく、生徒が作成したシートを活用したことにより、短時間で生徒の問いを引き出すことにつながった。

 教師の介入によって、不安が解消されて具体的な記述が増えたり、自分の意見に自信をもつことができたりした一方で、前時までの生徒の学びの見取りをより丁寧に行うことで教師の介入がさらに効果的にはたらくことが課題として挙がった。

【1年社会 単元を通して積み上げてきたシートを活用して対話する様子】

【授業研究会 大型モニターで授業の録画や生徒の成果物を共有し、生徒の姿から分析している様子】

(4)授業改革委員会・校内研修
  • ・10月26日 授業改革委員会・・・公開授業のまとめ
  • ・10月31日 校内研修・・・公開授業の成果と課題

 公開授業を通して、生徒の対話記録を分析することにより、学びを深めるための対話に関する課題が新たに3つ見えてきた。

①前時までの生徒の見取りを生かした教師の介入

 教師の介入が適切でない場面があった。前時までの生徒の活動を見取り、教師が意図的な介入を行うことで対話の活性化が見込める。

②教師の手立て

 ねらいに迫るための対話を生み出すためには、生徒が必要感をもって対話に入るための教師の手立てが必要であり、現状の手立てでは不十分であった。

③まとめへのつながり

 対話で生み出された意見が表出せずに埋もれてしまったり、対話で生まれた意見を用いつつも、教師の思考に寄ったまとめになってしまったりする場合があった。教師がファシリテーターとなって生徒の対話から生み出された思考をICTの活用や板書を通して可視化し、比較しながらまとめていく必要がある。

【コラボノートを活用して、教師の意見を共有・グルーピング】

2 12月6日の総合的な学習の時間 授業公開に関連して

(1)授業の検討・分析
  • ・10月28日 先進校 視察
  • ・10月31日 校内研修・・・先進校視察の報告
  • ・11月16日 授業改革委員会・・・指導案検討(総合1授業)
  • ・11月30日 授業改革委員会・・・指導案検討(総合2授業)

 各クラスの単元構想から、本時の流れや本時につながる授業の検討を行った。本時の対話で生徒の意識がねらいに迫るよう、前時に根拠をもてるような活動を盛り込んだり、対話の焦点を絞るような導入や見通しの発問を検討したりした。

【指導案検討の内容を研修主任らがファシリテーターとなり板書した様子】

(2)公開授業 (1年総合)

 対話の場面だけでなく、授業全体を通した生徒の変容を見取り、いつ、誰の言葉で生徒の意識に変化が見られたのか、思考の深まりがあったのか検討することの必要性を感じた。また、クラス全体での意見の共有の場面で、教師が生徒の発言を聞き取り、黒板にまとめ、可視化していくことで生徒の思考が整理された。

【1年総合 教師がファシリテーターとなり生徒の言葉を可視化し整理した板書】

(3)授業改革委員会・校内研修
  • ・12月 7日 授業改革委員会・・・公開授業のまとめ 成果と課題

 対話を入れたグループ活動を行った後のクラス全体の共有の場面において、教師がファシリテーターとして生徒の言葉を紡いでいく経緯を板書に整理し、思考の流れを可視化した。その成果として、生徒の思考や思いを反映させたまとめあげにつながり、生徒が活動への探究心をより強くもち、学級の活動を自分事として捉えている様子が振り返りの記述から見られた。

 また、授業研究会において生徒の発話記録から学びの事実を確認する前に、抽出班の生徒の振り返りを読む活動を取り入れたことにより、生徒の意識の変容や授業を終えての思いを読み取ることができた。

アドバイザーの助言と助言への対応

○「生徒の意識」を中心にした授業デザインシート(指導案)

  • →生徒の反応予測を丁寧に扱った本時の展開を記述することにより、教師の意図と生徒の行動の整合性を見取ることができる。継続していく。

○榛東中スタンダード視点1(導入)~視点5(振り返り)までを完遂する難しさ

  • →授業の内容によっては前時に視点1・視点2を行ったうえで、本時を視点3から始める方法も検討。

○教科横断的な志向

  • →国語の授業に対して理科の授業で行っている考察場面での経験を生かしたり、総合の授業に対して社会で学んだ歴史の知識が生かせたり教科を超えて活用できる能力を教師が把握し、意図的に各教科で得た知識や表現を活用していく。

本期間の裏話

 今学期に本校が行った挑戦は、総合的な学習の時間の公開である。本校では2年前からクラス単位での内容に変わり、担任も手探りで生徒と一緒になって、試行錯誤しながら「学級総合」を研究してきた。

 1年総合では、「榛東村の魅力を調べて小学生に発信しよう」というクラステーマのもと、郷土カルタを作成して魅力を発信する活動を行っていた。本時で話題にのぼったのは、「ガラガラガラメキ ガラメキ温泉」という1枚だった。語呂が良い、小学生にも覚えやすい、という一方で、どんな温泉かわかりにくい、小学生に伝わらない、という真逆の意見のぶつかり合いで、生徒たちはたった1枚のカルタにも特別な思い入れをもり、白熱した意見交換となった。

 担任の心情としては、地域の歴史や文化、産業を取り入れて、郷土カルタとしてよりふさわしい形を求めて改良してほしいと思ってしまう。その一方で、相手意識をもってカルタづくりを行った場合、本当に小学生に喜んでもらえて、地域への関心を高めることができる札は、中学生ならではの多様で個性的な発想で作られたカルタなのかもしれない。またしても子どもの学びに学んだ瞬間だった。正解のない総合的な学習の時間の授業は、難しさと面白さを併せ持っており、担任もクラスの一員として試行錯誤していくことが醍醐味なのだと感じた。

本期間の成果

①教師の発問の精選

 PDCAサイクルの中で、模擬授業やプレ授業の録画や文字起こしをした資料の分析を行ったことは、教師の指示や説明の多さに気づき、発問を精選するきっかけになった。

②単元構想

 本時のねらいを達成するために単元全体の構想を練り直すことにより、対話に入る前の活動に工夫を加え、より必要感をもって活動に取り組むことができた。また、自分の意見に根拠をもって「自分はこう思っているけれど、友達の考えも聞いてみたいな」「自分1人の考えでは解決できないから、友達の考えも聞いてみたいな」などの対話に向かう意識をもつことができた。

③主体的に学ぶ生徒の姿

 授業に向かう生徒の表情や発言から、「この活動をやりたい」「自分たちで解決したい」と探究心をもって主体的に取り組む姿が見られた。総合的な学習の時間でも、クラスのテーマに沿って活動をより良くする方法を考える中で意見を共有し、検討を重ねたことが振り返りの中に自分の言葉で表現され、自分事として捉えられていた。

④他校の先生方を交えた授業研究会の持ち方

 大型モニターを用いて、録画した授業の中から変容の見られた部分を再確認したり、生徒の成果物を見たりすることは、他校の先生方を巻き込んで共通の場面を検討する手段として有効であった。

今後の課題

  1. ①対話(教師の手立て、教師の介入、まとめへのつながり)
  2. ②授業全体を通しての見取りや分析

今後の計画

  • ・授業改革委員会(毎週)
  • ・校内研修
  • ・「総合的な学習の時間」校内授業研究会(1月16日)
  • ・校内授業研究会(2月)

気付き・学び

 ICTや板書の活用により生徒の思考を可視化し整理することの有効性に気づいた。

成果目標

  • ・単元構想の中にICTの効果的な活用場面を組み込み、より有効に活用する。
  • ・模擬授業やプレ授業で教師の発問を記録し、授業中の教師の言葉を精選する。
  • ・振り返りを充実させる。
  • ・各教科でのICT活用やグループワークを通した主体的で協働的な学びを、総合的な学習の時間へ応用する。
アドバイザーコメント
木原 俊行 先生
大阪教育大学
教授 木原 俊行 先生

 榛東村立榛東中学校(以下,榛東中学校)がパナソニック教育財団の実践研究助成・特別研究指定校として,実践研究をスタートさせてから,1年と9ヶ月が過ぎた。研究指定期間は2年間であるから,あと数ヶ月で,榛東中学校の実践研究も,いったん,ゴールを迎える(もちろん,令和5年度以降も,その持続的な発展を確信しているが)。そのゴールで,榛東中学校は,数多くの成果を示すであろう。榛東中学校がこの度作成した活動報告書の中にも,すでにそれを確認できる。それは,同校が8月~12月にかけて取り組んだ,授業研究の手順である。その特長を,アドバイザーとして,筆者は解説しておきたい。

 榛東中学校の活動報告書をご覧いただきたい。10月24日の他校の教員に向けた授業公開を目指して,実にていねいなステップが刻まれていることが分かる。まず,夏休みの早い段階で,先進校視察の知見が教師間で共有化されている。そして,8月には指導案検討が実施されている。それも,活動報告書に「公開授業の1時間だけでなく、本時のねらいに迫れるように単元を構想していった」と記されているように,単元全体のデザインを視野に入れて進められている。

 9月には,校内全体で,あるいは授業改革委員会内で,模擬授業が試みられている。そして,榛東中学校の教師たちは,模擬授業の記録の分析にも着手し,授業公開前から授業改善に取り組んでいる。

 筆者も,10月24日に榛東中学校を訪問し,公開授業を見学させていただいた。どの授業においても,生徒がICTをツールや舞台にして学び合う場面が成立していた。それは,上記のようなプロセスをたどって,榛東中学校の教師たちが学び合いを重ねてきたから生まれたものであると,この度の同校の活動報告書の叙述にふれて,実感させられた。

 その後すぐに,榛東中学校の教師たちが,2段階(授業改革委員会で,校内全体で)で,公開授業の成果を確認し,次なる課題を整理していることも秀逸である。それゆえに,榛東中学校の教師たちは,次なる(12月6日の)|授業公開のために,すばやく,また課題を焦点化して,授業研究のサイクルをリスタートできている。榛東中学校では,授業研究のよきサイクルが1年間に何度も展開されている。これもまた,パナソニック教育財団の特別研究指定校らしい,すぐれた点である。

本期間(1月~3月)の取り組み内容

今学期は1月16日の校内授業研究会を軸にして、PDCAサイクルをまわした。

(1)授業の検討・分析

・1月11日 デザインシート(指導案)の検討

 総合的な学習の時間の授業デザインシートを基に、年間のカリキュラムマネジメントのうちの本時の位置づけや価値、目指す生徒の姿を中心に話し合いを行った。年間を通した活動のサイクルと、生徒の思考の軌跡を記せるよう、総合用のデザインシートを作成した。

(2)研究授業(2年 総合的な学習の時間)

・1月16日 2年総合「かくれ歴史大国・榛東の魅力を伝えよう!」

 本時は、生徒達が1年を通して学んできた榛東村の歴史について特別展を開くにあたり、「特別展示室の配置を話し合う活動を通して、各班の展示を関連付けさせながら自分たちが伝えたい魅力について考える。」をねらいとして行った。

発話記録より、主発問につながるまでに生徒と教師のやりとりの中で、教師が揺さぶりの質問を繰り返し、各班の生徒の思いを共有しながら本時の課題を焦点化していることがわかる。生徒は主発問を受け、必要感をもって対話に入っていった。

 子どもたちは内容の系統性やスペースの問題、相手への印象づけなど、様々な要素を根拠に、より良い展示の配置を目指して思考している。友達の意見を聞いて考えを変容させ、停滞・活性化を繰り返して思考を深めた。授業研究会では前時と本時の振り返りと発話記録を照らし合わせながら、本時の思考の変容を分析することができた。表情からも分析することができた。

(4)授業改革委員会・校内研修

・1月18日 研究授業のまとめ
  1. ①視点1・2を明確にすることで、視点3の学び合いの焦点化につながり、まとめも具体的になっていく
  2. ②視点3の学び合いを可視化することで、生徒の言葉を紡いでまとめをつくる材料になる
  3. ③前時の振り返りと本時の振り返りの比較をもとに、発話記録から根拠をつかむことで、生徒の思考の変容を見取ることができる

アドバイザーの助言と助言への対応

(1)授業デザイン、カリキュラムマネジメントについて

 本校の授業研究の5つの視点を1時間の授業で満たすのか、あるいは小単元の中で満たすのか、単元によって適した方法を選び実施していく。

(2)報告書の形式や流れについて

 本校が実施している、「子どもの学びに学ぶ授業研究の創造」というテーマは、報告書にまとめる上で非常にわかりにくい実践であり、伝え方の工夫が必要であるため、助言に沿ってまとめ方を変更していく。

本期間の裏話

 2年1組の総合的な学習の時間の研究授業では、「再発見!~私たちの身近なことを通して~」というテーマで活動を行ってきた。1月16日の研究授業では、小学生に向けてプログラム班がscratchというソフトを用いてつくった歴史や計算の問題を全員で体験し、良い点や改善点を出し合った。導入の体験では、動くキャラクターやBGMに笑いが起こり、小学校の歴史を忘れてしまっている生徒は「これなんだっけ?」と周囲の友達に聞きながら、小学生対象のゲームにも関わらず楽しんで問題を解く姿が見られた。算数は主にかけ算で、「6×8=」のような一桁同士から「28×15=」のような2桁、さらには3桁の問題も用意されていた。研究授業の記録をしていた私が「暗算で対応できない問題はどうするのだろうか?」と思いながら見ていると、ある生徒は「めんどくせぇなぁ」と言いながらも自分の机の中からおもむろに裏面に印刷がないプリントを取り出し、筆算で答えを求め、タブレットに入力した。周囲を見回すと、他の生徒も同様にペンを持ち、筆算した答えを打ち込んでいる。これがもし普通の計算プリントであれば、生徒達はそこまでしただろうか?むしろ、教師が「暗算でできない問題は筆算しましょう」などと指示を出せば、生徒の気分は下がるだけである。今回の授業で生徒のやる気に火をつけたのが、楽しい学習ソフトなのか、プログラム班(クラスの友達)が作ったという特別感なのかはわからないが、学習ソフトがクラスの生徒にとって、面倒なことも乗り越えられるほど魅力があったに違いない。わくわく学ぶ姿を引き出せる仕掛けに学びを得た。

本期間の成果

(1)前時の振り返りの活用

 前時の振り返りと本時の振り返りの比較から変容を見取り、その根拠を対話の発話記録から追う流れで学びの見取りを行ったことで、子どもがいつ、どこで、何をきっかけにして考えを変容させたのか、教師の主観ではなく学びの事実からつかむことができた。この流れを取り入れ、新たな授業研究の形を確立することができた。

【資料 前時の振り返りを座席表で表した様子】

本時の学びを経て「きめるのが難しくなった」という記述が加わった。この根拠を発話記録から分析する。(おしゃれ班の発話記録参照

(2)視点1・2での焦点化

 視点1・2で問題意識を高めたうえで、解決すべき課題を整理し焦点化していくことで見通しがより明確になり、生徒は必要感をもって学び合いに臨むことができた。その結果、思考が整理された状態で対話に入るため、軸がぶれることなく全員が課題解決に向けて取り組むことができ、スムーズなまとめにつながった。

2年間の成果

(1)ICT機器を活用した授業研究

「子どもの姿から学ぶ」というテーマを徹底し、対話の文字起こしや録音・録画を活用して発話や表情を分析することで、子どもの思考を正確に捉えることができた。子どもの姿を記録した学びの事実には大人の推測や思い込みが含まれないので、子どもの思考に沿った授業研究が可能になった。その結果、教師の見えないところで思考が深まる話し合いが行われていたこと、話し合いが活発に行われていても教師の意図とずれていること、沈黙にも意味があること、など様々な事実が見えた。

(2)授業研究サイクルの構築

「子どもの学びに学ぶ」を軸として行ってきた授業研究会であったが、内容は少しずつ変化し現在の形に辿り着いた。

  1. ①授業デザインシートの検討と模擬授業、プレ授業
  2. ②公開授業(録音・録画・手書きによる発話記録)
  3. ③前時と本時の振り返りの比較、学びの事実の確認、思考の流れの整理・分析

このサイクルを回し、授業デザイン・授業実践・授業研究の学びを日々の授業に繋げていくことが授業の底上げにつながった。

(1)(2)より生徒の学びの事実から分析する授業研究では、多くの知見が得られ、その結果、異なる意見をもつ他者と関わり、受けた刺激を生かしながら、多様で個性的な考えを見いだす生徒の育成が可能となった。

今後の課題

  • ・5つの視点を基にした授業デザインの継続
  • ・年間を通しての総合的な学習の時間のカリキュラムマネジメント
  • ・対話の場面だけでなく、授業全体を通しての見取りや分析

2年間を振り返って

 榛東中では2年間、「授業研究のサイクル」の構築に取り組んできた。代表授業を構想するときから、生徒の意識を中心とした授業デザインに取り組み、その授業を全職員が生徒役になった、「模擬授業」を実施することで、より生徒の姿に迫った。授業者は、ICT機器で録画された模擬授業の自分自身の発話記録とその生徒役の教師の姿を見て、自分の授業デザインを修正した。また、生徒役になった教師は、その自分の姿を実際の授業の時は、自分の生徒像と、実際の生徒の姿を比べながら発話記録を作成していった。代表授業の前には、前時の授業で行った授業の一人一人の生徒の振り返りを可視化した座席表にすることで、授業者も参観者も、そのクラスが、前時に何を学んでいたか把握したうえで、授業に臨むことができた。このような努力の積み重ねにより、授業後の発話記録では、学びが深まっているところや、対話の流れが変わった瞬間等しっかりとファシリテーターを中心とした話し合いの中で記載されており、この研究のスタート時には、発話記録に何を書いていいかもよくわからなかった中、このような成果物が作成できるようになってきたことは、まさに、教師の授業を見取る力が、養われて行っていることを示しており、本校の職員の大きな成果であるといえる。

成果目標

  • ・生徒の思考の変容を明確に分析できるようにする。
  • ・対話場面での教師の適切な介入について研究する。
  • ・対話からまとめへのつながりを工夫する。
アドバイザーコメント
木原 俊行 先生
大阪教育大学
教授 木原 俊行 先生

 榛東村立榛東中学校(以下,榛東中学校)がパナソニック教育財団の実践研究助成・特別研究指定校として,実践研究をスタートさせてから,2年近くの歳月が流れた。榛東中学校の実践研究の成果は,なんといっても,授業研究の手順の工夫である。

 それは,今回の活動報告書にも,よく表現されている。例えば,指導案たる,デザインシートの活用である。しかも,今回,その様式が練られた。総合的な学習の時間の授業では,教科指導以上に,「年間を通した活動のサイクルと、生徒の思考の軌跡を記せる」ことが大切であると考え,榛東中学校の教師たちは,その様式を改変している。また,発話記録の分析がていねいに行われている。研究授業後の授業改革委員会・校内研修では,授業づくりの5つの視点に基づいて,授業改善のための術が検討されている。これらは,特別研究指定校としての2年間の取り組みにおいて,一貫して榛東中学校の教師たちが重視し,その充実に努力を傾注してきたものである。

 授業研究,それを中核とする校内研修は,終わりなき旅路である。令和5年度以降も,榛東中学校には,特別研究指定校としての取り組みを発展させていただきたい。すでに,学校としては,次の3つの課題を認識している。

  1. ①5つの視点を基にした授業デザインの継続
  2. ②年間を通しての総合的な学習の時間のカリキュラムマネジメント
  3. ③対話の場面だけでなく、授業全体を通しての見取りや分析

 これらは,授業研究のサイクルの徹底を図るものである。榛東中学校では,授業改革委員会や授業研究時のファシリテーターが組織化されているので,これらの課題にきちんと応ずることができるであろう。

 それゆえに,榛東中学校には,授業そのものの多様化やデジタル化にもチャレンジしていただきたいと,筆者は考える。例えば,榛東中学校の授業研究で分析対象となっている「対話」であるが,「主体的・対話的で深い学び」の定義からすれば,それは生徒同士とは限らないであろう。より多様なパートナー(例えば他地域の中学生や専門家など)と協働を繰り広げる際にどのような姿を生徒が示すかも,追究していただきたい。また,今回の活動報告書に登場した「振り返り」であるが,それを生徒自身が蓄積し,自らの活動の再構築に役立てていく,すなわちデジタルポートフォリオとして活用する方向性も検討していただきたい。榛東中学校の授業研究のさらなる発展は,授業そのものの多様化やデジタル化に呼応するであろうし,それができる経験と意欲を榛東中学校の教師たちは有していると,筆者は確信している。