国立大学法人 大阪教育大学附属天王寺小学校

第50回特別研究指定校

研究課題

STEAM教育を通したカリキュラム・マネジメントの動的サイクルの実現
~カリキュラムに関わる教員の意識変容に着目して~

2024年度08-12月期(最新活動報告)

最新活動報告
今年度は、より具体的な授業に注目した研究会にするため「授業の会」と名称を......

アドバイザーコメント

小柳 和喜雄 先生
大阪教育大学附属天王寺小学校は,「STEAM教育」「カリキュラム・マネジメント」......

国立大学法人 大阪教育大学附属天王寺小学校の研究課題に関する内容

都道府県 学校 大阪府 国立大学法人 大阪教育大学附属天王寺小学校
アドバイザー 小柳 和喜雄 関西大学 教授
研究テーマ STEAM教育を通したカリキュラム・マネジメントの動的サイクルの実現
~カリキュラムに関わる教員の意識変容に着目して~
目的
  • ・カリキュラム・マネジメントを促進するための教員を向上させる。
  • ・個々の教員の学びの過程を分析し、効果的な研修方法を見出すとともに教員自身の学びをメタ的に振り返るシステムをつくる。
現状と課題
  • ・令和2年度の研究テーマであった「STEAM教育の実現」に取り組んだ教員とそれ以降に赴任してきた教員との間で、カリキュラム・マネジメントへの取り組みの差が生じている。
  • ・カリキュラム・マネジメントを実施した際の授業評価と学習評価の分析が十分できていない。
学校情報化の現状 業務改善のためのICT環境は整っているが、教員のICTに対する意識や知識・技能に差が生じている。この差を埋めるべく、具体的な活用方法を授業を通して検討をしていきたい。
取り組み内容
  • ・紙ベースで作成しているカリキュラムをデジタル化していく。
  • ・教員の個々の学びを記録(Record)していき、教員の意識向上のために活用する。
  • ・授業評価と学習評価を関連させてデータ化し、それをもとにしたカリキュラムの更新を行う。
成果目標
  • ・カリキュラムの修正・更新が、どれくらいできたか「量的」評価を行う。
  • ・他校でも実践可能なカリキュラムであるかどうか「質的」評価を行う。
助成金の使途 タッチスクリーンディスプレイ、ディスプレイ設置工事、ディスプレイ接続用PC、講師謝金、リーフレット製本、 実践記録用・保管用タブレット
研究代表者 國光 妙子
研究指定期間 2024年度~2025年度
学校HP http://www.tennoji-e.oku.ed.jp/
公開研究会の予定 7月29日(月)、1月31日(金)、2月1日(土)

本期間(4月~7月)の取り組み内容

(4月前半:研究体制構築期)*原則、毎週木曜日午後2時半から研修研究会議実施

〇新年度研修

  • ①(4/5)事前に撮影しておいた歴代PTA役員・学校長との対談動画を視聴しながら、学校教育目標や学校文化について、共有を行った。
  • ②(4/9)昨年度研究の成果と今年度研究の方向性について、研究部より説明し、理解を図った。

<本研究を推進するために共有したこと>

  • *積極的にSTEAM教育を実践していくために、授業コンセプトについて簡潔にまとめた「Conceptシート」(各教科をどのように関連させて、STEAM教育を実践していくのかをA4用紙1枚にまとめたもの)を作成する。
  • *教員ひとりひとりの問題意識を明らかにし、個々の授業力向上をめざして「Progressシート」(個々が感じている課題や問題意識をA4用紙1枚にまとめたもの)を作成する。
  • *毎週木曜日の会議の際に、個々の振り返りを行うこと。
  • ③(4/11)パナソニック教育財団初回訪問にて、特別研究指定校についての説明とアドバイザーの先生からのご助言を受け、2年間の研究の見通しについて共有した。
  • ④着任1年次授業実施
    (4/17)3年算数 (4/23)4年理科
    (4/26)4年国語 (5/ 2)4年体育

*基本的な授業とは?を共有することを目的とした研修授業

〇保護者向け集会実施

(4/8)本研究の意図・目的について、全校保護者集会にて説明し、理解を図った。

〇昨年度カリキュラムの見直しと今年度カリキュラム(案)の作成

(4/15)昨年度の実践を振り返ったり、新教科書の単元配列を見直したりしながら、今年度のカリキュラム(案)を作成した。

(新転任の先生方にも本校のカリキュラムの概要を知ってもらったり、各学年・各教科での取り組みを共有したりした。)

(4月末~7月中旬:研究第1ターム)

〇Progress授業実施

授業教科 実施学年 教員歴 本校勤務年数
4/11 理科 3年 30年 14年目
4/22 社会 3年 28年 25年目
4/22 社会 5年 13年 6年目
4/25 国語 6年 12年 6年目
4/26 国語 2年 9年 3年目
4/26 算数 2年 6年 2年目
4/26 体育 6年 9年 5年目
5/16 外国語 4年 30年 5年目
5/17 国語 5年 21年 4年目
6/ 4 総合 3年 19年 8年目
6/ 4 体育 2年 11年 2年目

(会議の時間を30~40分に限定しているため、個々の感想等は、Googleフォームを 活用して伝えるようにしている。)

全員が全ての授業を参観することはできないが、授業後に、それぞれの年齢や経験に応じて、問題意識に共感したり、助言したりする場を設定した。

〇STEAM教育の実践に向けての準備

(4/25 各教科で重視していることをまとめ共有した。この場は地域の公立小学校との合同研修として位置付けた。)

(5/9,5/23 Conceptシートを作成するために、低・中・高のグループに分かれて 話し合う場を設定した。)

〇研修コラム発行(6/6~6/27)

 STEAM教育を実践していくために、コラム形式で、本校のこれまでの研究の流れや、今、求められている力についてまとめた。(本校は令和2・3年度にSTEAM教育を研究テーマとしていたが、それ以降に着任してきた先生たちとの知識や経験の差をうめるため。)

6/ 6「なぜSTEAM教育なのか?」

6/13「STEAM教育を進めていくために」

6/20「STEAM教育を具体化するために」

6/27「STEAM教育の評価について」

〇第1回アドバイザー訪問・7/29公開授業研究会に向けての授業実践

 ここでは、学年(高学年は教科担任制のため、各教科)で検討したSTEAM教育の授業実践を行った。Conceptシートは学年主任が作成し、そのコンセプトに対しての自身の課題や問題意識を(学年主任以外の)各教員がProgressシートにまとめた。同じコンセプトで授業実践を行っても、個々のProgressシートが異なるため、それぞれの授業スタイルは、教員の個性が表出するものとなった。

学年 アプローチ 単元名 関連させている教科や内容
1年 テーマ ありがとうがいっぱい 生活・国語・道徳・(ICT)
2年 テーマ 野さい名人大作せん 生活・算数・国語
3年 トランス はっしん!147ぼうさい探検隊 総合・社会・国語・(ICT)
4年 インター インタビューでよろこview 総合・国語・算数
5年 テーマ 夏の情景を「デジタル暑中見舞い」で紹介しよう 国語・図工・(ICT)
テーマ 「庄内平野」の秘密を様々な視点でさぐると…? 社会・理科・算数・家庭科
テーマ わたしのオリジナル時間割を伝え合おう 外国語・総合・国語・社会
インター “絶対に当たる”天気予報クイズをしよう 理科・実生活・情報活用能力
6年 インター 宮沢賢治作品の魅力を伝えよう 国語・図工・算数
テーマ 目標を支える思いって何だろう? 道徳・特別活動
インター 臨海学舎の伝統を受け継ごう 体育・総合・道徳

(注)本校のSTEAM教育では、教科の統合度合いによって、以下のように分類している。

各教科個別の学習 Disciplinary アプローチ
(本校通称:教科アプローチ)
各教科で個別に概念とスキルを学習する
統合の度合い
低い
Thematic アプローチ
(本校通称:テーマアプローチ)
共通の主題やテーマに関して行うが、各教科で個別に概念とスキルを学習する

Interdisciplinary アプローチ
(本校通称:インターアプローチ)
さらに知識とスキルを深めるために、2つ以上の教科から深く結びついた概念とスキルを学習する
高い Transdisciplinary アプローチ
(本校通称:トランスアプローチ)
実世界の課題やプロジェクトに取り組むことで、2つ以上の教科の知識やスキルを活用し学習経験を形成する

4年「インタビューでよろこview」
(自分たちの学校生活を支えている方々へのインタビューを行った子どもたち。その想いを受けて、今度は自分たちができることはないかを考えている様子。)

6年「宮沢賢治作品の魅力を伝えよう」
 (宮沢賢治作品の魅力を伝えるポップを作成し、それを実際の近隣の書店で活用してもらえることが決定し、売り上げに貢献できるポップを考えている様子。)

アドバイザーの助言と助言への対応

  • ○トリオタイムや校時表の工夫等、カリキュラム・マネジメントが進められている。
    ⇒他校へ本実践を広めていくための工夫について、検討する。
  • ○STEAM教育を実践していく中で、先生方の個性が表出する授業になっているのは面白い。
    ⇒それぞれの授業の評価の在り方について、検討する必要がある。

本期間の裏話

 本校ですでにSTEAM教育を実践したことのある先生方と、新しく着任された先生方との知識・経験のギャップを埋めることが難しかった。そのために、Googleフォームを活用して個々の想いを聞いたり、課題図書を設定して読み合ったり、研究部が作成したコラムを読んでもらったり、試行錯誤を重ねてきた。その結果、「誰もがわからない・経験したことがないことに挑戦していくのが、STEAM教育を推進していくために必要なことだ。」という点は、共有できたのではないだろうか。それは、7月上旬に実施された、本校伝統行事の1つである「臨海学舎」での先生方のチーム力からも感じることができた。

 また、先生方が、挑戦していく姿勢を見せていくことで、保護者の方々も、新しいことに挑戦してみようという意識が強くなってきていることは、うれしいことである。

本期間の成果

  • ○全学年、Conceptシートを作成するという目標を設定したことで、全ての教員が、STEAM教育を実践することができた。
  • ○Progressシートを提案したことで、個々の課題・問題意識に注目することができた。

今後の課題

  • ○校内授業研究の効果的・効率的な進め方の検討
  • ○これまで実施したGoogleフォームの解答共有の方法や評価についての検討

今後の計画

  • ○夏休み以降の研修研究会議(校内授業研究授業)の計画作成
  • ○本研究実践をまとめた「教育ノート」(冊子)の発行

気付き・学び

  • ○実践者として、日々の授業や各教育活動を楽しんではいるが、それを、まとめたり、発信したりすることが十分でなかった。今後は、本校での取り組みを周知していくことにも重点を置いていきたい。

成果目標

 夏休み中に、4月からの取り組みを振り返り、カリキュラムの修正を行う。その際、「本校の子どもたちにとって深い学びとなったか」という視点と「他校での取り組みも可能かどうか」という視点で、カリキュラム評価を行う。その上で、この2つの視点をもちあわせている実践については、本校HPにて公開していく。

アドバイザーコメント
小柳 和喜雄 先生
関西大学
教授 小柳 和喜雄 先生

1.はじめに

 大阪のJR天王寺駅(東口)から,徒歩7分ほどで,大阪教育大学附属天王寺小学校に到着する。背の高いビルの多い町中に,緑に覆われた学校が現れる。学校の中に入ると,学校のシンボルのフクロウがお出迎えしてくれる。教育と研究の歩みが分かる多くの掲示物等とともに,明るく楽しく,季節感が感じられる学びの環境を学校が工夫し,手づくり感が良くわかる。出会う子どもたちが笑顔で元気に声をかけてくれるとともに,多くのおうちの方が学校の様々な場所で,活動し,学校の支援や保護者同士の交流を行っている。

 この度,大阪教育大学附属天王寺小学校は,「STEAM教育」「カリキュラム・マネジメント」「教員の意識変容」の3つを柱に,「STEAM教育を通したカリキュラム・マネジメントの動的サイクルの実現―カリキュラムに関わる教員の意識変容に着目して―」という研究主題に取り組んでいる。詳細は学校の報告に記されている。

2.研究テーマ

 4月11日に最初に伺った際には,学校の環境を見せていただき,これまでの学校の取り組み(とりわけ「STEAM教育」)とともに,学校全体でこの研究主題にどのようにこれから取り組んで行こうとしているか,その見通しについてお話を聞く機会をいただいた。「STEAM教育」に関しては,これまでの学校での研究成果に基づきながら,教科の統合度合いによって3つのアプローチを定め,授業者がそれぞれの授業実践の目的や内容から選択できる工夫がされている。1) 共通の主題やテーマに関して行うが、各教科で個別に概念とスキルを学習するテーマアプローチ,2) さらに知識とスキルを深めるために、2つ以上の教科から深く結びついた概念とスキルを学習するインターアプローチ,3) 実世界の課題やプロジェクトに取り組むことで、2つ以上の教科の知識やスキルを活用し学習経験を形成するトランスアプローチの3つである。この設定の工夫は,どのようなアプローチを取るかを授業者自身が意識化し,意思決定し,「STEAM教育」の積極的な取り組みに参画していく余地を持たせた工夫と思われた。

 そして課題となっていることとして,「カリキュラム・マネジメントの動的サイクルの実現」に向けて話も伺えた。職員室に行くと,壁に学校のカリキュラムが大きく掲示され,どのようにそれぞれの学びがつながっていくのか,情報の共有と各授業の関連の意識化を促す工夫がされていた。しかし印刷物のため動的サイクルに柔軟に築くことができず,そのデジタル化が課題という話を伺えた。

 また4月に教職員の異動もあったことから,全教職員参加の下,出発点の意識合わせを,この訪問時にも,重ねてする機会を作っていただいた。学校組織として研究課題の柱の一つでもある「教員の意識変容」にみんなで挑んでいこうとしている機運をつくってくれていることが感じられた。

3.研究テーマと関わる取り組みの工夫について

 学校の活動報告書に説明されているように、大阪教育大学附属天王寺小学校では,「STEAM教育」を積極的に実践していくために、次のようなユニークな進め方が取られている。

 学年(高学年は教科担任制のため、各教科)で検討した授業コンセプトについて簡潔にまとめた「Conceptシート」(各教科をどのように関連させて、STEAM教育を実践していくのかをA4用紙1枚にまとめたもの)を学年主任が作成する。そしてコンセプトに沿って授業デザインを,教員ひとりひとりが行い,それを通じて問題意識を明らかにし、個々の授業力向上をめざすために,「Progressシート」(個々が感じている課題や問題意識をA4用紙1枚にまとめたもの)というものを作成し,実践の振り返りをそのままにしない,時間を設定した(毎週木曜日の会議の際)、個々の振り返りを行う体制を築いている。このことは短期だけでなく中長期的に教員ひとりひとりの専門的な学びやその成長に生かす振り返りの工夫がされている。

 7月11日に訪問した際には,「STEAM教育」と関わって,「Conceptシート」と「Progressシート」を実際に運用した全学年ですべてのクラスで授業公開をしていただいた。先にも述べたが,教科の統合度合いによって設定されている3つのアプローチが,それぞれの授業の中で,まさによく理解できる機会となった。学年等で定めた「Conceptシート」に沿った授業ではあったが,その進め方などは,各教員に任されているため,その教員が大切にしている授業観,学習観が良くわかる機会となった。

 授業後には,グループに分かれた振り返りの研修に参加させていただいた。グループごとに活発な話し合いがされ,その記録もデジタルで残す工夫がされていた。このような一定の方向性の合意形成は学年団で,しかし実際の授業実践については,各教員が自由に舵を取れる組み合わせが,それぞれの教員の専門的な学びを支援し,互いに違いを認め合い,良いと思ったことは吸収していく学校組織の雰囲気を作り,目指されている柱の1つ「教員の意識変容」へも影響していく仕掛けと思われた。

 限られた時間ではあったが,この2つのシートを用いた取り組みは,他の学校が,ある教育のテーマ(STEAM教育に限ることないという意味で)に即して,「カリキュラムに関わる教員の意識変容」,職能成長支援をしていく取り組みを学校全体で考えるならば,とても参考になるアイディアであると思われた。

4.本取り組みを支えているもの

 7月11日に訪問した際に,本研究テーマとは直接かかわるわけではないが,学校が日常取り組まれているユニークな取り組みと遭遇する機会を与えていただいた。それは,1年生から3年生の毎日1時間目に共通で設定されている「トリオタイム(15分)とそれに続く基礎基本タイム(移動時間を入れて30分)」である。

 「トリオタイム」は,1学期と2学期でグループ編成が変わるということであったが,1学期は,同性を中心とした1年生から3年生が1つのグループになって学び合う(1年生は学校に入学してトイレ利用や教室利用などまだ慣れていないため,話しやすい同性を基軸にして編成する配慮等から)。1年生から3年生担当の全教員がそれぞれの得意分野を活かした学びの場の提供をする時間へ,1年生から3年生が1つになった各グループが定期的に変更しながら,参加し学び合う時間である。それぞれの教員が出店の世に,あるテーマと関わる学びの空間を用意し,そこに子どもたちを迎える仕組みのようであった。これは,子供たちが,1年生から3年生担当の様々な教員と出会う機会となる。教員も,1年生から3年生の子どもと出会う機会となるため,より一層子ども理解を豊かにしていく機会になる。

 これまで,1年生に対しては,6年生がペアになって導入プログラム行う取り組みなどを見せてもらってきたが,比較的年齢が近い3つの学年を活かしているところがユニークと思われた。3年生はリーダーの役割を果たし,2年生はその姿を見て学び,1年生は,2年生と3年生に同じクラスの友だちとは異なる少し上のお兄さんやお姉さんの知り合いができる仕掛けとなっている。学校に異学年の友達がいて,この時間は話し合い,学び合う活動が多いため,必然,自ら話す機会は多くなる。そして1時間目に設定されているので,待っている友達がいるため,遅れないようにみんな喜んでやってくるなど,いろいろな波及効果があるようであった。

 それに続く基礎基本タイム(30分)は,子どもたちは,それぞれ自教室に戻って学ぶ時間となる。担任は,クラスの子供たちの様子を見ながら,他の授業につながる活動の時間だったり,習熟の時間だったり,柔軟に内容を調整できるカリキュラムを運用していく際の潤滑油のような役割を果たす時間のように思われた。

 このトリオタイム(15分)とそれに続く基礎基本タイム(移動時間を入れて30分)」は毎日のことである。そのため積み重ねによる経験とそこから生まれる成果は,子どもにとっても教員にとっても,本研究課題の「カリキュラム・マネジメントの動的サイクルの実現―カリキュラムに関わる教員の意識変容」と,テーマの学びを経験する点で,「STEAM教育」の入り口の経験として,下支えになる取り組みとして意味を持つのではないかと思われた。

5.今後の期待

 以上の大阪教育大学附属天王寺小学校の取り組みは、他の学校にはなかなか見られない。しかし多くの学校にとって今後参考になることが豊富に含まれている。

 本校での取り組みを他の学校にも情報提供していくには,研究主題に即して,これから2年間,実践研究が進められる中で,どのような子供の姿をどのような取り組みが導いているのかを見つめていくことが重要となる。

 成果の評価(子どもの姿,行動や意識が変わることの評価)と取り組みの評価(その姿を導いた取り組みは何であったか,どのような工夫が生きたのか,一方で無理に行わなくても,あまり必要でないことは何であるのかなどを探る評価)を,視点を定めて行うことが意味を持ってくる。そのことは,本実践研究の理論的裏付けも明確にしていくことにつながると思われるからである。これからの取り組みに期待したい。

本期間(8月~12月)の取り組み内容

(7月末)7月29日(木) 夏季研修会『授業の会』開催

〇今年度は、より具体的な授業に注目した研究会にするため「授業の会」と名称を変更した。
(公開授業全16本)

〇参加人数385人/申込人数459人

〇参会者からの声(*特定の教科に関する内容ではなく、学校研究に関わる内容のもの)

  • ・熱心な指導や授業の工夫がとても素敵でした。子どもたちは夏休みの中で学習意欲を保つのも大変だと思いましたが、授業の工夫によって楽しく過ごせていました。とても学びになりました。このような場の提供に感謝しています。
  • ・計画的に進められていて学びになりました。
  • ・アイデアがたくさん詰まった授業ばかりでした。今後の授業づくりに活かしていきたいと思います。
  • ・今回の授業は若手の教員にとって勉強になる会であったと思います。夏休みに授業がみられる貴重な会を開催していただきありがとうございます。steam教育に力を入れることで子どもたちの課題発見能力、問題解決能力を育てるだけでなく教科の枠を超えて統合的に学びを深めることができると再確認しました。
  • ・普段の授業から教科だけて授業構成を考えるのではなく、その学習で働かせる見方考え方がどんなところとつながり、活かされていくのか考えながら授業づくりをしていこうと思いました。
  • ・授業の自然な流れにのって、児童の思考が深まっていった。感覚的なこと、経験的なこと、教科横断的な視点(国語科)、統計的なことなど、多面的に進む中で、深まっていく流れがすばらしい授業でした。大変勉強になりました!
  • ・1枚の資料からどんどん広がっていく学習。子どもたちの多様な見方・考え方を広げ、まとめられているあっと言う間の45分でした。前時とのつながりや次時以降の見通しもあり、子どもたちのワクワクした顔も素敵でした。資料の大切さや多面的な見方の面白さを感じる授業でした。
  • ・夏季休業が始まったばかりですが、早く子どもたちに会いたいと思える時間となりました。また学ばせていただきたいです。
  • ・各教科それぞれとても勉強になる内容でした。特に総合に関して、自分ごとのように考えさせるための手立ての重要性について知ることができました。
  • ・今回は夏休み前ということで、夏休み期間の活動も視野に入れた授業が多く見られた。夏休み中に、視点がブレることなく、問題意識を持続させて活動できるようにするために、事前の授業でどんなアプローチをすればいいのか、たくさん勉強になりました。子どもたちがみんな学ぶのが楽しいという表情で取り組んでいたのが素敵でした。学校の背景や実態は様々ですが、目指すべき最終目標はこれなのだと痛感しました。
  • ・教科書や指導要領になぞらえて、でも常に新しい生き生きと学べる場を見学させてもらえてとても勉強になりました。児童のみなさんもとても明るく、前向きに学びに向かっていて素敵な環境だなと思いました。私もまだまだこれからですので、精進してまいります。
    とても勉強になりました。

(7月末~8月)Webカリキュラム準備期間

 6月、8月に開催されたICT展に参加し、多くの商品の中からAndroidを搭載した電子黒板を選択した。その理由としては、以下の2点である。

  • ①PCに接続しなくても、GoogleのPlayストアを利用することができる
  • ②Wi-Fiを搭載しているため、本機だけでWeb閲覧ができる

この良さを生かして、現行の単元を配列した大型用紙に印刷した表を、「FigJam」を使ってデジタルへ移行することとした。

これまでExcelで作成していた単元配列表をFigJamに移行する作業のようす。1つの教科の単元をカード式で表現することができるため、指導時期の変更もドラッグアンドドロップで容易にできる。

電子黒板は、職員室と会議室に設置した。(この2台のデータはクラウド上で共有されている。)タッチパネルなので、操作もしやすい。

(9月~11月:研究第2ターム)

〇校内研究授業実施

 9月の教育実習期間、10月上旬の運動会を終え、研究授業をスタートさせた。(空き時間の先生が自由に参観できるスタイルのPro授業に対して、研究授業は、原則全教員が参観する授業とした。)ただし、指導案は、Proシートと本時略案のみのA4用紙2枚、とした。(STEAM教育の実践を行う場合は、これにConceptシートを加えた3枚となる。)

 開催日時についても、これまでは「毎週木曜日5時間目に実施」と決めていたが、今年度は、各自の忙しさや、実施したい単元の時期等を考慮して、自分で日時を決定することができるようにした。また今年度より、校内の研究授業に指導助言者として本学教授を招き、研究会議にも参加いただくことで、本学大学教授との研究連携をより一層深めるようにした。

 あわせて、各自で自由に行うことができるPro授業の実施も可能とすることで、例えば、「研究授業の前に一度授業を見てもらいアドバイスをもらいたい」「研究授業当日までの流れを知らせるためにPro授業をしておこう」等という思いからPro授業と研究授業を関連させ、活用する研究文化もできた。

<研究授業実施一覧> *STEAM教育の実践はSTと記載

授業教科 実施学年 教員歴 本校勤務年数 備考
10/16 算数 2年 6年 2年目
10/17 ST社会 5年 13年 6年目 9/17Pro授業実施
10/22 体育 4年 14年 7年目 10/17,10/21Pro授業実施
10/22 体育 6年 9年 5年目
10/24 国語 2年 9年 3年目
10/29 体育 1年 22年 1年目
10/29 体育 2年 11年 2年目
10/31 理科 4年 7年 1年目 9/24Pro授業実施
11/7 道徳 6年 14年 3年目
11/13 外国語 5年 13年 2年目
11/14 算数 3年 6年 2年目 10/3Pro授業実施
11/20 外国語 4年 30年 5年目
11/28 国語 5年 21年 4年目
12/5 ST理科 5年 30年 14年目 10/29Pro授業実施
12/5 ST算数 5年 16年 7年目

*その他:常勤講師や養護教諭も、それぞれ3年外国語(11/8),2年保健(11/21)のPro授業を実施した。

〇研究FES実施

 今年度は、運動会や学芸会のように、教員全員で同じ目的のもと、協力する1つの行事として「Futen(附天) Education Seed:通称FES(フェス)」の日を設定した。(注:本校の研究はまだまだ「種」である、という意味を込めている。今後、花を咲かせることも願い、Seedという言葉を選んだ。)

 このような場を設定することで、それまでに自ずと学年間・教科間で、どんな授業をするかについて話し合い、日常的な授業実践についても交流することができるような研究文化の構築をめざした。

 また、この日をPanasonic教育財団のアドバイザー訪問日や他校からの訪問日と重ね、外部の方々に本校の実践を見ていただくことで、私たち自身、やりがいや達成感を感じる場として位置づけることとした。

 1回目の7月と、2回目の11月を比較すると、学年全体で一緒に同じように進めていこうという流れから、各学年や個々の教員が、STEAM教育に挑戦するのか、Pro授業として個々の問題意識をもとにした授業をするのか、選択するようになってきたことがわかる。

<附天FESでの実践内容>

7/11開催 11/15開催
授業教科 実施学年 授業教科 実施学年
生活科ST 1年(全) 算数Pro 1年
生活科ST 2年(全) 生活科ST 2年(全)
総合ST 3年(全) 算数Pro 3年
総合ST 4年(全) 総合ST 3年
国語ST 5年 外国語Pro 3年
社会ST 5年 図画工作Pro 4年
外国語ST 5年 体育Pro 4年
国語ST 6年 理科Pro 4年
道徳 6年 外国語Pro 4年
体育ST 6年 総合ST 5年
国語ST 6年
総合ST 6年
体育ST 6年

本学教授を招いて行った校内研究授業後の討議のようす

〇外部視察を積極的に受け入れる

 私たち教員だけでなく、子どもたちや保護者も「本校の教育実践に興味をもっている方がいる」と実感することは、モチベーションを高めることにつながると考え、国内外からの視察依頼をできるだけ受けるようにしてきた。ただし、多忙感を高めることを避けるため、上記FESの日と重ねたり、公開学年を限定したりした。

<今年度受け入れた視察とその目的>

月日 来校者 目的
4/4 高槻市内の小学校 校内研究の在り方・校内体制
5/9 香港の小学校 STEAM教育・日本文化
6/28 上海の小学校 STEAM教育・日本文化
7/9 上海の小学校 STEAM教育・日本文化
11/15 津市の小中学校
つくば市の小学校
三重大学大学教授
STEAM教育
校内研究の在り方
校内体制
11/21 インドネシアの小学校
12/3
12/9
シンガポールの学校文化教育研究者 職員室での教員間のコミュニケーション観察

書写を教えているようす

花いちもんめをして一緒に遊んでいるようす

アドバイザーの助言と助言への対応

  • ○先生方が生き生きと取り組んでいるようすが伝わる。
    ⇒今年度は冬の研究会では、参会者との交流を重視した時間(話したかっ天・見たかっ天)という時間を設定し、学校全体で研究に取り組む楽しさを直接伝えていきたい。
  • ○研究評価について、検討していく必要がある。
    ⇒本研究の客観的評価については、これまで教員がGoogleフォームで回答したアンケート結果の分析を東京工業大大学の高松邦彦教授に依頼している。その結果については、冬の研究会でも報告する予定である。

本期間の裏話

 夏休みに、本研究の助成金を使って電子黒板を購入したことで、職員室に新しい文化ができた。もともとは、電子化されたカリキュラム表を大きく提示するために購入したものだったが、朝は、体温アプリ「Leber」の画面を開き、全校生徒の出席状況や体調確認を行うようになった。

 また、日中は、Googleカレンダーでその日の予定が映し出され、1日の流れや来校者を確認することが容易になった。このGoogleカレンダーには、行事の要項も添付されているため、「あれ?何時からだった?」「どんな流れだったかな?」という疑問も、画面をタップすることで必要な資料を提示することもできるようになった。(電子黒板の納品後、毎月の行事予定表を作成することをやめ、全教員Googleカレンダーで共有するシステムを新しくつくった。)

 1台の電子黒板が設置されたことで、職員室内の電子化がより一層進んだことで、情報の共有・確認が簡単に行うことができるようになった。

本期間の成果

  • ○お互いに授業を見せ合う文化が根付いてきた。
  • ○Progressシートで個々の課題・問題意識に注目することができたことにより、授業について日常的に相談する姿が見られてきた。

今後の課題

  • ○1年目の研究成果をどのようにまとめるか
  • ○本研究をどのようにして広めていくか(11月より本校HPを多言語対応へ仕様を変更済)

今後の計画

  • ○研究リーフレットの作成
  • ○本研究実践をまとめた「教育ノート」(冊子)の発行
    *1月17日発行予定(当初は12月発行を予定していたが、校内の研究授業を12月まで実施していたため、1月発行へ変更した。)

気付き・学び

  • ○今年度は4月当初から、「行事予定をGoogleカレンダーで共有したい」と提案していたが、「紙に印刷された行事予定の方が見やすい」「Googleカレンダーの良さがわからない」という理由で、実現することが難しかった。しかし、職員室に1台の電子黒板が設置されると、あっという間に流れが変わり、今では「Googleカレンダーって便利」という空気感に変わっている。業務改善をめざしたICT機器の使い方には、まだまだ可能性を感じている。

成果目標

 現在、冬の研究会に向けての準備を行っているが、今年度初めて開催する「話したかっ天・見たかっ天」の企画については、どのようにして参会者の方に「本研究についての理解を得るか」「本研究に興味をもってもらうか」という視点で、運営方法を考えている。そこで、より多くの参会者の方から、率直な意見や感想を得られるようにしたい。

アドバイザーコメント
小柳 和喜雄 先生
関西大学
教授 小柳 和喜雄 先生

1.はじめに

 大阪教育大学附属天王寺小学校は,「STEAM教育」「カリキュラム・マネジメント」「教員の意識変容」の3つを柱に,「STEAM教育を通したカリキュラム・マネジメントの動的サイクルの実現―カリキュラムに関わる教員の意識変容に着目して―」という研究主題に取り組んでいる。2024年8月~12月の取り組みについて,ここでは興味深かったことを取り上げてみたい。

2.カリキュラム・マネジメントの動的サイクルの実現と関わって

 4月に職員室に伺った際,壁に学校のカリキュラムが大きく掲示され,どのようにそれぞれの学びがつながっていくのか,情報の共有と各授業の関連の意識化を促す工夫がされていた。しかし印刷物のため動的サイクルに柔軟に築くことができにくいという話がなされていた。それが,11月15日に学校を訪問した際,職員室と会議室へのAndroid搭載の電子黒板の導入により,1学期に課題として伺っていたカリキュラム・マネジメントが動的なものに変わりつつあるという話を伺えた。詳細は学校の活動報告書に記されているが,実際にその使い方や導入から現在までの経過についても,様々なエピソードを伺うことができた。それは3つある。1つは,教員を動かしたのは,電子黒板上に絶えず情報が更新され,その情報が役に立つという実感を教師が持ち始めたことがあげられた(朝は,体温アプリ「Leber」の画面を開き,全校生徒の出席状況や体調確認を電子黒板上で行うことができる)。2つめは,カリキュラム・マネジメントの動的サイクルの入り口となる,月の行事予定や1日のスケジュールなどをGoogle カレンダーで教職員が共有できるようにしたことがあげられた(Google カレンダーでその日の予定が映し出され,1日の流れや来校者を確認することができる)。職員室や会議室の電子黒板で確認できることに加え,各教員がそれぞれよく用いている端末からそのスケジュールを共有できることが,職員室内の電子化を進めたという話であった。3つめは,カリキュラム・マネジメントの動的サイクルに移行するのに,Excel で作成していた単元配列表を FigJam で作成するようになり,1つの教科の単元をカード式で表現できるようにしたこと,指導時期の変更もドラッグアンドドロップで容易にできるようにしたことがあげられた。

 しかしそこには導入時の苦労もあり,職員に自身が良く使う端末を持参させ,一斉にその場でどのようにGoogle カレンダーやFigJamにどのようにアクセスするかなどを,力業で全職員に経験してもらう機会を作ったということもあったらしい。何が,カリキュラム・マネジメントの動的サイクルの実現に影響したかを聞けたのは,大変興味深かった。

3.カリキュラムに関わる教員の意識変容と関わって

 学校の活動報告書に説明されているように,大阪教育大学附属天王寺小学校では,学校で取り組んでいる「STEAM教育」や各教員が自身の職能成長や専門的な学びを促していく,ユニークな進め方が取られている。例えば,STEAM教育を実践していくことと関わっては,学年で検討した授業コンセプトについて簡潔にまとめた「Conceptシート」(各教科をどのように関連させて,STEAM教育を実践していくのかをA4用紙1枚にまとめたもの)を作成する。そしてコンセプトに沿って授業デザインを,教員ひとりひとりが行い,それを通じて問題意識を明らかにし,個々の授業力向上をめざすために,「Progressシート」(個々が感じている課題や問題意識をA4用紙1枚にまとめたもの)を作成する。なお「Progressシート」は,STEAM教育に限定されるものでなく,個々の教員が感じている様々な授業場面での課題や問題意識を視覚化し,見つめていくためにも使われている。そして実践の振り返りをそのままにせず,それらのシートの記述を用いて個々の振り返りを促す仕組みを築いている。

 学校の活動報告書に,「1回目の7月と,2回目の11月を比較すると,学年全体で一緒に同じように進めていこうという流れから,各学年や個々の教員が,STEAM 教育に挑戦するのか,Pro 授業として個々の問題意識をもとにした授業をするのか,選択するようになってきた」ことが記されている。また11月15日に学校を訪問した際に,学校の運営にコアとして関わっている教員チームから,「Progressシート」の作成をすることで,自身がこれまで教師として何を目指してきたかをあらためて問う姿が見られているという話をうかがえた。一方で研究 FES 実施を通して,自身の取り組みを,学年間や教科間で,そして教職員全体で学校の取り組みと関わって,日常の実践の中で交流をし,互いに授業を見て,考える機会を作っているいう話もうかがえた。

 それぞれの教員の専門的な学びを支援し,互いに違いを認め合い,良いと思ったことは吸収していく学校組織の雰囲気を作り,文化を築いていく歩みがこの期間でも取り組まれていることがうかがえた。これらのことは,まさに目指されている柱の1つ「教員の意識変容」へも影響していく仕掛けであることが良く伝わってきた。

4.今後の期待

 この取り組みを他の学校にも情報提供していくには,成果の評価(子どもの姿,行動や意識が変わることの評価)と取り組みの評価(その姿を導いた取り組みは何であったか,どのような工夫が生きたのか,一方で無理に行わなくても,あまり必要でないことは何であるのかなどを探る評価)を,丁寧につなげて見ていくことが意味を持ってくる。そのことは,本実践の理論的裏付けも明確にしていくことにつながると思われるからである。これからの取り組みに期待したい。