実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

第36回特別研究指定校(活動期間:平成22〜23年)

京都教育大学附属桃山小学校の活動報告/平成22年度4月〜7月
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セールスポイント

デジタル、アナログのそれぞれの良さを生かす

 これまでのアナログ的授業に、ICT機器の持つ特性を生かし、さらに有効的な質の向上をめざす。若い教師やこれから教師をめざす学生は、これまでの授業の良さを生かしつつそれに加えICT機器活用という新たな取り組みを始めた。まずは、教師自身が実践してみてその良さを実感し、検証しながら実践を行った。

ICT機器の整備

 現在、全普通教室に電子黒板、プロジェクター、教材提示装置を配置し、いつでもだれでもがすぐに使えるように配備している。その機器の有効利用のために本助成により、児童用のデジタルカメラ(40台)、子どもが使える統合ソフト、教材作成ソフトの学習環境を整備した。そして、全教員が活用できるように定期的に研修会を開き、機器活用を進めていけるような状態を目指している。

実践経過

4月〜7月にパソコン室システムの更新研修会、電子ボード導入研修会、新規購入ソフトの研修会をもった。
以下に日頃の活用実践の一部を紹介する。

4月 ○新入生への安全指導
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  • 1年 安全指導 「遊具の使い方」
    電子黒板に、事前に撮影した本校にある遊具の写真を提示し、遊具の使い方や、危険なポイントを電子ペンを用いてマーキングしながら説明した。子どもたちは集中して授業を受けていた。このことから視覚的な支援が有効であることを実感した。
○授業参観日
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  • 4年 算数「きまりをみつけよう」
    数の決まりを考え、自分なりの考えを電子黒板に電子ペンで書きこみ、説明をしていた。個々の考え方をクラス全員で共有することが出来た。また、画面を保存しておくことができるので、いろいろな考えを比較し、提示をすることもできた。

5月 ○授業力向上研修会 「言語活動の充実」
本校の元副校長川端健治先生を迎え、「確かな学力」や「豊かな社会力」を育てる「言語活動」の在り方〜 「ことばで伝え合う力」をどう育てるか?〜という内容で研修会を開いた。この研修会は本年度は、毎月1回開くことを計画している。理論的なことと、その理論が授業場面でどのように活用されるのかということを具体的な例をもとに講演していただいた。
6月 ○実習生への授業公開
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  • 6年 図工 「とびだす絵本」
    電子黒板に、カメラを常設し、教材提示装置と同じような活用を行った。この利点として、立体のものが提示できるだけでなく、カメラに写った画像に電子黒板の特性を生かし、直接画面に注意点を書き込んで指導に生かした。
  • 6年 算数 「分数のたし算とひき算」(教育実習生への授業公開)
    教員をめざす本学の教育実習生に向けて算数の公開授業を行った。その中で、電子黒板の上にアナログの資料を掲示し、電子黒板では子どもの考えを提示した。このことによって、個人の考えをクラス全体で共有することが出来、電子黒板の活用と模造紙の資料(アナログ)を合わせてうまく授業を進めることができた。
○授業力向上研修
  • 2年 「タンポポのちえ」川端健治先生
    本校の元副校長による研究授業を実施した。従来の授業で大切にしてきた視覚に訴える授業を実施し、アナログの良さを再認識することができた。
    これまでのアナログの良さを生かしつつ、デジタル教材をどのように活用していけばよいのかを考えるきっかけになる授業であった。ICT機器の活用は有効であるが、授業力向上は、やはり教師自身がその実践から学び、力量をつけていくことが大切であることを再認識することができた。
○日本生活総合学会全国大会(公開授業)
  • 5年そうぞう「いのちのつながり……」
    京都大学大学院情報学研究科との連携による開発ソフトを活用し、動物の体の特性について学習を進めた。その続きに、京都市動物園獣医の坂本英房先生が実物の標本や動物の誕生のVTRなどを用いて、お話の中でそのデータから予想したことを検証する授業であった。
○赤堀先生(パナソニック教育財団 審査委員)による訪問指導
  • 2年算数「1000までの数」(公開授業)
  • 5年そうぞう「動物の分類をしよう」(公開授業)


    その他、短時間研修として、電子黒板活用研修やフラッシュ教材ワンポイント研修会を15分〜30分の短い時間の設定で行い、その活用の共有を図っている。
 

成果と課題

  • 全教員が電子黒板を使う意識を持って取り組めた。使うことでみえてくるものがある。まず、教師がいろいろな方法で機器を使ってみることが大切であると感じた。また、教師が使っている姿をみて、機器に素早く順応したのは、子どもだった。教師と子どもが共に機器を活用して、実践を進めてくることができた。子どもの柔軟性は素晴らしい。
  • 将来教職につくだろう実習生が、最先端のICT機器を活用して実習を行うことは、これからの教育の向上につながると感じた。
  • 「人間力」とは何かが現在まだ模索中である。大きなテーマだけにそれぞれの考えの共有を図らなければならないと考えている。
 

裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

  • 教育実習の期間が長く、研究会としての実施は多くできないのが現状であるが、それをカバーするために、ミニ活用研修会を実施し、その共有化を図った。教師自らが、こんなことをしてみたと自然発生的に交流が生まれることもあり、みんなが試行錯誤を繰り返しながら実践を進めていくことができた。これからもこの様な交流を大切にしていきたい。
  • この研究を始めるにあたって、今までほとんどコンピュータを使っていない年代の方々が積極的に取り組もうとしている。実物を投影することや、タッチパネルで画面に直接書き込めることなどから初めて、全教室で新しい取り組みに前向きな姿勢が見られる。全校挙げての取り組みになっていることが、何よりも嬉しいことである。
 

解説と講評

コメント:白鴎大学 教授 赤堀侃司先生

1.授業デザインについて
 教材の工夫や授業デザインが優れており、さすが附属校という印象を持った。
 算数の2年生の山川学級では、鳥を電子黒板に提示して数を数えさせ、それが100羽以上になると、単純な数え方では効率的でなく、かつ正確ではないことに気づかせ、あるまとまりで数えることが優れた方法であることに導く。その方法も、各自が自由な発想で試行錯誤して、それらの方法を提示して、共有化を図るという授業であった。デジタル教材なので、鳥の数をコピーすることが容易であり、教材作成手段として、きわめて優れた使い方であり、そのきめ細やかな工夫や指導法は、敬服に値する。
 5年生の総合的学習(そうぞう)の平島学級の動物の分類の学習においても、子供の驚くべき発想の豊かさを、十分に引き出した授業であった。いろいろな動物の切り絵を自由に分類しなさいという指示で、大人の参観者も試みたが、そのほとんどは、魚類・両生類などの動物の分類学に基づく分類であったが、子供達は、大きさ、色、海や陸、羽などで、分類していった。子供の天分を見せつけられたような授業で、その発想を引き出す授業に感心するばかりであった。その中で、教材提示装置としての活用や教材ソフトの活用は、ICTの有効性を示した。

2.ICTの役割について
 桃山小学校では、人間力の育成というテーマなので、ICTは道具としての活用であり、中心におかなくてもいいと思われる。授業とICTの関わりや、指導方法については、京都教育大学の先生方からもご指導をうけておられて、先生方からきわめて的確なコメントがあり、安心して参加できた。

3.人間力の育成とICTの関わりについて
 人間力の育成について、少し文献調査が必要かもしれない。これについては、市川伸一先生(東京大学)の「学力から人間力へ」の単行本がよく知られているが、基本的な文献として、OECDのキーコンピテンシーがあろう。OECDでは、(1)道具を用いる力、(2)自律的に活動する力、(3)異質な集団で交流する力を上げているが、これらの力は、桃山小学校の、自立と共生の力、伝え合う力に、つながっている。(1)の道具には、ICTも言語も含まれている。この意味で、研究として深い内容に広がる可能性が高い。
 また、ACT21Sは、21世紀に求められる汎用的な学力として、アメリカを中心に研究されており、ジェネリックスキルとして注目されている。そこでは、(1)基礎的スキル(教科学力)、(2)情報・メディアのスキル(ICTの活用)、(3)学習とイノベーションスキル(コミュニケーション、創造性など)、(4)生活・職業のスキル(適応性、チームワーク、リーダシップなど)に分類している。
 我が国の生きる力は、OECDのキーコンピテンシーを基礎としていると言われているが、これらに共通する内容は、教科の学力に加えて、コミュニケーションやチームワークや道具を使うなどの、仕事をする上で必要とされる力であり、ICTが全面に出ると言うよりも、洗濯機や掃除機や車と同じ役割なので、汎用的な力を育成することを念頭におけばいいと思われる。
 これについては、次回に議論(コメント)したい。
 
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