助成校が全国から集まり、行われる「グループディスカッション」や意見交換会は、自校研究を深められる良い機会です。
助成先は地域別に20のグループに分かれ、実践研究の概要を互いに発表しグループディスカッションを行います。
今回、特別研究指定校と一般のグループディスカッションに密着してみました。
川越市立新宿小学校 河上先生
春日部市立南桜井小学校 山口先生
日出学園小学校 円谷先生
稲垣 忠先生
東北学院大学教養学部 准教授
Scene 1 各校が実践概要発表
[ 川越市立新宿小学校 ]
子どもがうれしくなる授業
〜学ぶ喜びを引き出す
ICTを活用した協同学習 〜
本校児童の学力は全国的にみて平均的にもかかわらず、自信が持てない児童が多く、学力の2極化が激しくなっている現状があります。一方、教員は、ICT活用に積極的な人とそうでない人の2極化がみられ、低学年の先生はチョークと黒板を使っている方が多く、高学年の先生になると、デジタル教科書やプロジェクター、実物投影機を活用する傾向がみられます。
そこで、本校ではグループ活動に今年度から取り組むこともあり、タブレットを授業の中に取り入れて、授業力をアップさせていきたいと考えました。
児童には、国語や総合的な学習を含めて、インタビューをしたり、写真を撮ったり、調べたものをタブレットとホワイトボードで共有してもらいます。これにより、グループで情報の整理をしたり、結果をまとめます。そして、その結果をタブレットで撮影して、プロジェクターに映し、最終発表につなげていく予定です。学力の高低にかかわらず児童が協同することで、達成感や協調性、学ぶ楽しさ、人間性が育まれる可能性があると思っています。
[ 春日部市立南桜井小学校 ]
ICTを有効活用した体育科授業の実践
〜器械運動においてタブレットPCを
効果的に使用し明確なめあてをもって
取り組むことができる児童の育成〜
ICTを有効活用した体育科授業の実践ということで、器械運動に焦点を当て、マット運動と跳び箱運動での活用を企画しています。
使い方としては、まず、教員も子どもたちも使いやすくということを念頭に置き、基本はタブレット端末をスタンドに固定し、各自の演技の様子を録画します。そして、遅延映像を流して、それをもとに子どもたちがアドバイスを受けるというスタイルです。
これまでの体育の授業でも、めあてを決めて取り組んできたのですが、そのめあてを意識せずに取り組んでいる児童が多い。自分の体がどう動いているかを理解していないので、視覚的に見られるようにとICTの活用を考えました。子どもたちがタブレットを操作する場をなるべく多く作って、さまざまな課題別に活動していきたいです。
[ 日出学園小学校 ]
理科教育における
視聴覚機器の活用と表現力
本校では、中学受験をする児童が多く、その子どもたちは家庭での学習進度が速いため、授業で行う理科実験の結果をすでに知っています。ですから、基本問題はできる。しかし、実験観察が、自分の知識内を出ずに、自分の知っていること以外にはイメージをつなげられない、他の考えを理解しようとしない、という傾向が出てきてしまいました。そこで、自分の知識を表現する力を養うことを研究テーマとしています。
これまでも、教師の手元をテレビに映して、実験方法をわかりやすく伝える方法によって、一定の成果をあげてきました。さらに、今回の研究では、子どもたちがICT機器を使い、実験結果・記録を観察し、自分たちでその結果を発表してもらおうと考えています。
いわば、「やってみる」→「やってみたことを表現する」という段階ごとに、ICTを活用するということです。これにより、単に知識を得るだけでなく、なぜそうなるのかを自分で考える力を身に付けてほしいと思っています。
Scene 2 意見交換
このグループの研究は、国語・体育・理科とそれぞれ異なる教科でのICT活用となるものの、子どもたちがタブレットなどの端末を使って操作し、協働学習するという共通点がありました。ICTを使った協働学習によって、気づきを得たり、表現力を身に付けたり、学ぶ楽しみを感じさせる授業を実現させるという共通の目的を持っています。
一方で、公立校の2校では、ネットワーク環境が整っている状態とは言えず、そのような環境の中で、ICTを活用した授業を校内でどのように定着させていけばよいか、その工夫についての意見が交わされました。
タブレットのカメラ機能に絞って活用 本校の情報化は、これからという状況です。タブレットの使用は難しくないものですが、まずはカメラの機能に絞って活用しようと考えています。 |
誰でも使いやすい環境を整えること 現場で、細かい作業が必要になると、教員にも児童にも敬遠されます。まずは、使いやすさを第一に考えて、運用をしていきたいと考えています。 |
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興味を持ってもらえるツールを選択
助成金を活用して、虫眼鏡型のデジカメ「ぼうけんくん」を導入しました。このツールは、児童だけでなく年配の教員の好奇心をくすぐるようです。 |
ICTをどう普及させるかが、大切な視点 教科を絞ってICT活用の研究成果を追究した上で、他教科やより多くの校内の先生方へ展開していただくことで、学校全体のICT活用の活性化につながります。 |
Scene 5 ディスカッションを終えて
川越市立新宿小学校 河上先生(写真:左)
今回のディスカッションでは、専門委員の稲垣先生をはじめ、年代的に近い先生方がグループとなったこともあり、緊張せずに活発な議論ができました。そして、他校の情報化の状況を共有するだけに留まらず、校内の研究だけでは気づかなかったことや、具体的な改善策までご指摘いただけたので、自校の研究計画を点検する良い機会となりました。
今後は、全教員を含め、ディスカッションでお世話になった先生方にもアドバイスをいただきながら、より良い研究にしていけたらと考えています。
専門委員からメッセージ
実践研究がはじまったばかりのタイミングで行われるこのグループディスカッションでは、実践の深まりというよりも、不安感を解消するという意味合いが大きいと思っています。成果として、どこまで求められるのか、実際に学校で実践できるのかという不安があって当然です。しかし、他校の先生方と議論をする中で、取り組みのイメージが持てると、夏休み以降の研究が、がぜん違ってきます。だからこそ、この時期に議論をして、方針を作ることが重要です。そして、実践研究に取り組むうえで、研究助成の1年間が終わった後のことをしっかりと考えておいてほしいと思います。
稲垣忠先生
東北学院大学教養学部 准教授
実際に、実践はしたけれど、実践をして終わってしまうというパターンはありがちです。そのような事態にならないためにも、実践研究の成果として何を残すのかをある程度最初に想定しておいてください。
たとえば、ICT機器の活用の仕方であれば、A4一枚でもいいから、こんな形であれば使えますよといったガイドを作ってみたり、あるいは新しく赴任された先生に紹介するためのポスターにしてみたり、やったことを形に残すということです。実践研究が終わって機器が残るだけではなくて、ノウハウとして残すことを心がけてほしいと願っています。