実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

活動情報/第35回特別研究指定校活動情報/第35回特別研究指定校

日野市立平山小学校の活動報告/平成22年度1月〜3月
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セールスポイント

新たな学びの環境の中で、「未来の教室」の実現を目指す

「診断・補充教材による完全習得と発表・討議で高める数学的な思考力」をテーマに、2年間本研究に取り組んできた結果、学習形態も、従来の一斉学習に加えて、個別学習と協働学習をより重視するようになった。いわゆる「学びのイノベーション」である。 さらに、研究のまとめを発表する最終段階において、総務省「地域雇用創造ICT絆プロジェクト」の対象校に選ばれ、児童一人1台の情報端末が整備された。コンピュータ室でしかできなかったことが教室でも実現できる環境となった。この新たな学びの環境の中で、「未来の教室」の実現を目指している。

実践経過

1月 28日 研究発表会

<公開授業>

1年 「算数のお話をつくろう」
  (パソコン教室にてネットワーク型デジタルノートを使用)

2年 「形に名前をつけよう」
  (児童のデジタルノートを電子黒板で共有)

3年 「分けた大きさの表し方を考えよう」
  (個別学習対応教材と評価支援システム)

4年 「面積のはかり方と表し方」
  (スレート型PCの画面上の四角形を指で操作)

5年 「算数と情報−伝えたいことをグラフで表そう」
  (食育「平山ダイズプロジェクト」をテーマとした情報活用能力の育成)

6年 「生活の中の算数」
  (表計算ソフトで行う「感謝の会の予算案」のシミュレーション)

わかくさ 「長さの学習」
     (手元の拡大提示、個別学習)
★1年:「自分の問題、解いてくれたかな?」 ★2年:「一番驚くような三角形はどれかな?」
★3年:学年ブースで机の配置も工夫 ★4年:初めてのスレート型PCと出会う瞬間  
★5年:「何を伝えたいかでグラフの種類が決まる。」 ★6年:査定委員会の報告でさっそく修正検討
★わかくさA:ものすごい集中力!! ★わかくさB:大きく映してみんなで確認。

<研究発表会>

文部科学省 鈴木寛副大臣によるご挨拶(ビデオレター)
研究実践報告
基調講演 文部科学省 生涯学習政策局 坂東久美子局長
パネルディスカッション テーマ「デジタル教科書時代への期待」
  文部科学省 生涯学習政策局 齋藤晴加参事官
  信州大学教育学部附属教育実践総合センター教授 東原義訓先生
  放送大学ICT活用・遠隔教育センター教授 中川一史先生

2月 「地域雇用創造ICT絆プロジェクト」教育情報化事業の整備完成
一人1台の情報端末による授業が可能になる。

3月 一人1台の情報端末を活用した授業実践を全学年学級で行った。


 

成果と課題

 本研究の成果として、学力が向上したというCRTの 結果を出すことができた。このことを1月の研究発表会で、全国各地から多数集まってくださった参観者に報告することができた。発表後の反響も大きく、感想が多数寄せられた。
 日々の生活習慣や日常の授業など、目の前の子どもたちに向き合いつつ、「未来の教室」での学びの実現を目指して授業実践ができたことが大きな成果である。教師自身も日常的の授業において、より一層ねらいや達成すべき子どもの姿を明確にしながら、個別学習や協働学習に取り組もうとする意識が高まってきた。
 これらの実践は、今後、電子書籍として、閲覧することが可能になるので、是非見ていただきたい。今後は、教科を算数から全教科に広げて研究を続けていく。
 

裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

 一人1台の情報端末(タブレットPC)や70インチの発表ボードの一部が導入されたのは、研究発表の3日前。当日は、設置されたばかりの機器を使い、同時に授業を行ったにも関わらず、ネットワーク、ICT機器、そしてソフトがトラブルなく稼働した。このことは偶然でも、運がよかったわけでもなく、万全の準備で臨むことができたからである。情報環境の整備に細心の注意をはらい、緻密な事前テストと調整を行っていただいたこと、フェイルセーフの仕組みとバックアップ体制で臨んだからである。信州大学の東原先生には、指導者の立場を超えて、技術者としてお力をいただき、複数の関係企業の方々のコーディネートまでしていただいた。
 教師自身も、新たな機器の活用方法を短時間で身につけ、研究発表当日の授業実践を行った。日頃からICT機器を活用した授業実践をしている本校の教員にとっては、負担になるどころか、それ以上に、未来の教室における授業実践を、日本のどの学校よりも早く実践できたということが、全教員の喜びとなった。
 もうひとつ、今回の研究発表の大成功の裏には、日頃からコミュニティ・スクールである本校を支えてくださっている地域・保護者・PTAからの協力があった。特にPTAから会長を中心としたチームワークで、裏方のご支援とたくさんの笑顔のおもてなしをいただいた。

 

2年間(21・22年度)の実践を終えての感想

 私達の研究はまだまだこれからである。「授業づくりは教材研究が命」「児童一人一台の情報端末の可能性」「協働学習とICT」、これからも私達は、「できる可能性を信じ、決してあきらめない」気持ちをもち、目の前の子どもたちに向き合いながら、未来を担う子どもたち、そして未来の学校で学ぶ子どもたちのための学びのイノベーションを進めていく。
 最後に、この2年間でご指導いただきました信州大学教授 東原義訓先生、放送大学教授 中川一史先生、日野市教育委員会、パナソニック教育財団の皆様をはじめ多くの先生方および教育関係者の皆様に厚くお礼申し上げる。
 

次年度(22年度)以降、今回の成果をどのように展開するのか(課題、目標など)

 この2年間の研究はこれから深まり、広がっていく。
 総務省「地域雇用創造ICT絆プロジェクト」の対象校として、一人1台の情報端末(タブレットPC)を活用して、今まで以上に、一斉指導による学び(一斉学習)に加え、子どもたち一人一人の能力や特性に応じた学び(個別学習)、子どもたち同士が教え合い学び合う協働的な学び(協働学習)を実践できる環境が整った。2年間、パナソニック教育財団特別研究指定校として研究に取り組んだ成果を、さらに深めていく。
 我々が今感じているのは、児童一人1台の情報端末を活用した授業実践がより可能になることで、学習指導要領に示されている学習内容の配当自体が、新たな仕組みにかわる可能性があることである。私たち平山小学校の教職員は、これからも一丸となって研究に取り組み、日本の教育の最先端を走っている誇りと、日本の教育をリードしていく立場である自覚をもち、学びのイノベーションを進めていく。それが22年度以降の目標である。

解説と講評

コメント:放送大学 教授 中川一史 先生

平山小とICT

 言うまでもなく、今の子どもたちにとっては、現在普及している電子書籍端末やゲーム機、ケータイをはじめとした情報端末には抵抗感がなく、(それが大人にとって賛成であろうが反対であろうが)日常的に当たり前のように「そこにあるもの」である。このような状況の中で考えると、ある意味、自然の流れとして情報端末一人1台の教育活用の可能性を検討する必要も出てきたと思われるし、学校にある電子黒板やデジタルカメラなど、他のICT機器への抵抗感も少ない。
 しかし、一方で、まだまだ多くの学校では、教師の方に抵抗感やとまどいがあり、せっかくのICTが活かされないという話はよく聞く。もちろん、道具の1つに過ぎないので、使える箇所で使えば良い。そこを抜けるといろいろな効果や課題も見えてくると思う。そこで、平山小でいつも感じる特筆すべきことをあげながら、他校への留意点(参考)とさせていただく。

1)ICTと非ICTの使い分け・組み合わせの検討
 どんなにすばらしいICT機器やデジタル教材が登場しても、それだけで授業が成立するとは思えない。そうなると、紙の教科書とどのように併用していくのか、板書とどのように組み合わせるのか、その役割を十分に検討していく必要がある。つまり、うまく紙の教科書やノート、あるいは板書との役割分担を追究していくことで、より教育効果があがる可能性がある、ということだ。平山小の教師を見ていると、従来の授業スタイルである非ICT的な部分(黒板や教科書、実物、紙のワークシート、実験や具体物の操作など)と電子黒板等のICT機器と教科書のデジタル化教材などをうまく使い分けたり、組み合わせたりしている。

2)どんどん使ってみる&テクノロジープッシュに留意する
 先に述べたようにICTはあくまでも道具であるので、それにふりまわされない配慮は必要だ。しかし一方で、まずはどんどん使ってみて、「これはこういうことにも使えそうだ!」という発想や、教師間の情報交換そのものが、授業研究にもつながる。平山小では、テクノロジープッシュに留意しつつ、どんどん使ってみるということのおりあいをうまくつけているようにいつも感じる。

 いずれにしても、これはどのような授業形態にもあてはまることだが、従来の授業のやり方がベースにあることはまちがいない。情報端末やICT環境がどんなに向上しても、教師が個々の子どもをどのように把握しているのか、板書がどのようになっているのか、実験をどのように進めるのか、などが重要であることは変わりない。

 
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