実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

活動情報/第35回特別研究指定校活動情報/第35回特別研究指定校

日野市立平山小学校の活動報告/平成22年度8月〜12月
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セールスポイント

キーワードは、困っている子に「気づく力」と「愛」。
そして「子供達同士のコミュニケーション」。

研究2年目の集大成として、これまでの研究の礎の上に新たな試みを実践していく。
9月〜11月に行った研究授業での新たな試みは以下の3点である。

  • グループウェアソフト「スタディノート動画機能」を活用した協働学習の実践。
  • 個別支援システム「インタラクティブスタディ」を単元の導入で活用し、個別学習により新たな概念を学ぶ実践。
  • 個の特性に応じるために、インタラクティブスタディで自作教材に取り組む実践。

実践経過

9月 "「スタディノート」で深める意見交換と思考活動"
◇研究授業 『5年 合同』
≪作図方法を動画で示し、子ども達が互いの考え方を見せ合うことで、必要条件に気づく≫
 「合同」は、小学校段階では、中学で学習する三辺相等などの合同の3条件を理解する素地を養うことがねらいとなっている。本実践では、そのねらいを達成するためにネットワーク上で意見交換を通し学び合うことができるグループウェアソフト「スタディノート」に動画を取り入れた。
  1. 前時までに子ども達一人一人が合同な三角形を書くための必要条件を考えながら書き、その説明を一人一人が、ビデオ撮影した。
  2. 撮影したビデオ動画を「スタディノート」に貼り付けた。
  3. 合同な三角形を書いたときに使った条件を題名とし、データベース上に貼り付けた。
  4. データベース上の友達の書き方を見合い、自分との相違点や多様な書き方があることに気づいていった。

 友達の書き方を動画で見ることで、自分とは違う書き方があることや、二辺夾角では、「書き方は似ているけれど、選んでいる辺や角は違う。」といった意見も出され、学び合いを通して、合同な三角形の書き方の多様性に気づいていった様子が見られた。

 研究協議会で話題になった点は次の3点。

  1. 発問や指示を精選し、授業の本質にせまるようにすること。機器の操作に関する指示は最小限にとどめておくこと。
  2. 討論を深めるには、クラス全体からグループに分けるなど、その集団の編成をよく考えること。
  3. 授業の展開・指導方法のアイディア。子ども達自らが考えて3条件に分類するために、スタディノートポスター機能に動画と静止画を貼り付け、それをグループの話し合いにより分類し、3条件に気づかせる展開。このアイディアを受け、他学級においては、ポスター機能を活用したグループ学習を取り入れた。


10月 "新しい考え方を学ぶインタラクティブスタディ"
◇研究授業 『2年 新しい計算を考えよう』
≪単元の導入をインタラクティブスタディで学び、かけ算の意味を知る。≫

 これまでインタラクティブスタディにより、単元の終末に補充診断を行い、基礎的な学習内容の定着や習熟を深める学習を進めてきた。本実践はこれまでの診断・補充型ではなく、かけ算という新しい考え方を、インタラクティブスタディ教材を活用して学習できるように設定した。

 子ども達にとっては、既習内容ではなく、未知の内容をインタラクティブスタディで学んでいくという、新たな学習方法である。集中して画面をじっくり読みながら、アドバイスにしたがって自力で問題を解くことができた。

  • スモールステップ、マイペースで学ぶ個別学習を通して、たし算を使って計算するよりも、かけ算の記号でまとめて書けるよさや便利さに気づけた。そして何のいくつ分をかけ算の記号で表すことがわかるようになった。
  • つまずいている子どもや学級全体として不十分な点について把握することができるので、早速授業中や次の授業で重点的に指導をすることができる。

 研究協議会で学んだことは次の2点。

  1. 単元の初めにインタラクティブスタディを活用して学ぶことで、子ども達は常に思考しながら、新しい概念を身につけていくこと。インタラクティブスタディは基礎基本の完全習得だけでなく、子どもが本質を学んでいくものでもあること。
  2. インタラクティブスタディにより、個別学習の指導力を磨くことができること。目の前の子どもの力を引き出すには、誘導質問したり、説明しすぎてしまったりすることなく、声かけをうまく行うこと。


11月 "究極の個別学習"
◇研究授業 『わかくさ学級 数と計算』
≪「インタラクティブスタディ」を活用した一人一人に応じた個別学習≫

 特別支援学級の児童一人一人の発達段階や特性に応じた「インタラクティブスタディ」の教材を用意して個別学習を徹底した。教材は、「1〜10までの数」3コース(既存教材)、「ひき算」3コース(自作教材)、「たし算@」1コース(既存教材)「分数のたし算ひき算」、1コース(既存教材)の計8コースを用意した。

  • 自分のペースで学習をすすめ、個に応じた課題の理解を深めることができた。
  • 同じ課題で取り組む子同士で、教え合ったり学び合ったりする姿が見られた。

 研究協議会で学んだことは次の点。

 インタラクティブスタディで自作教材を作成する際には、提示する問題の内容やどのような順番でどんな問題を配列するかを、子どもの思考にそって示すことが大切である。



 

成果と課題

 本期間は2年間の研究の総まとめの時期であった。2年間の研究の成果が、子ども達の学力向上につながることを意識しながら進めてきた。
 基礎基本の完全習得をめざす個別学習支援システム「インタラクティブスタディ」は、どの学年も、年度当初に立てた年間指導計画通り着実に実施した。既存の教材を使うだけではなく、実際の教材作成の研修会(合宿)も行った。この研修成果を生かして、わかくさ学級では自分たちの作成した教材による研究授業を行い、より一人一人に応じた教材による学びづくりを目指した。
 さらに、これからの21世紀を生きていく子ども達に必要な思考力・表現力・コミュニケーション能力を高めるために、子ども達同士が学び合い考えを深める協働学習を実践した。高学年の研究授業ではその一例を示した。
 研究は、成果をまとめる段階にきたが、まだまだ私達の挑戦は続いている。12月末に、総務省の「地域雇用創造ICT絆プロジェクト」教育情報化事業の対象校に決定したので、2月中旬より児童一人一台の情報端末の教育環境が実現することになった。このことにより、今まではコンピュータ室でしかできなかったことが、いつでも教室で実現できることになる。引き続き、本研究のテーマである2本柱を実践していきたいと考えている。
 

裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

どの学年・学級も、算数で計画した単元の終末にインタラクティブスタディによる個別学習を取り入れているうちに、自分達も教材作成してみたいといった願いが生まれてきた。とりわけ、わかくさ学級の教員からは、「もっと一人一人のニーズに合った教材が欲しい。」という願いが強くなった。そこで、本校の研究を指導してくださっている東原義訓先生にお願いして、信州大学で教材作成研修(1泊の合宿)を行っていただいた。合宿は夏に1泊2日で行われた。この研修成果を夏の終わりに全教員で共有した。

 学んだことは次の3点。

  1. なぜその問題にしたかという根拠が大切。どういう意図でどういう問題を出すかが重要。
  2. 意味のある問題が必要。教科書に掲載されている問題はよく吟味されていることを痛感。
  3. 何を身につけさせたいのかが大事。これは通常の授業も同じ。足元はみな共通している。

 合宿の講師として、夜遅くまで補習に付き添ってくださった東原教授と長野の先生方に感謝の気持ちでいっぱいである。

 11月のわかくさ学級の実践は、この合宿に参加したメンバーを中心に、テレビ会議システムで東原先生にご指導をいただきながら、作成したものである。教材作成は、奥深いものであった。これからも積極的に取り組んでいきたい。

 

解説と講評

コメント:放送大学 教授 中川一史 先生

 授業力の高まりと教師集団としての成長をめざす平山小

 先日の公開授業のときに、ある学年でもっと早く来るはずの情報端末が、公開授業ぎりぎりに到着するハプニング(?)があった。しかし、授業者は予定通り授業を実施した。このことも、子どもたちの動きによりそう日頃の構えがしっかりできているからこそできることだと思う。この教師に限らず、本校の教員は「目の前の子どもたちが何を考え、何にこだわり、今どんな疑問をもっているか」にいつも注力している。この先、どんなに情報端末一人1台環境が実現しても、教師は情報端末と授業を行っている訳ではない。目の前の子どもたちのつぶやきが耳に入らずにパソコンの画面に右往左往するのでは、本末転倒だ。そんな中、授業で何を大事にすべきかという足もとをいつも大事にされている授業研究を高く評価したい。

 私が平山小に指導?助言として関わらせていただいていつも感じるのは、教師一人一人の授業に対する熱い思いと授業研究への探究心だ。
 五十嵐校長は、内外教育の「現場から考えるICT教育」の連載のご本人執筆担当の回(第6回)において、「若いから未熟であり、失敗も多くある」が、反面「失敗を恐れないで挑戦する意欲」があり、「まさにイノベーションの担い手としての存在」と述べている。さらに、「これから若い教員の取り組み・主張に謙虚に耳を傾けていくことが、これからの日本の新しい形を作り出していく日本の教育のあり方を考えるためのヒントとなる」としている。
 もちろん、本校の中堅・ベテラン教員の授業設計はすばらしい。だが、こういう校長の考え方が、教員集団に浸透し、それぞれのよさをさらに引き出していっていることは創造にかたくない。

 これからも、平山の授業研究と教師集団の成長に注目していきたい。

 
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