実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

活動情報/第35回特別研究指定校活動情報/第35回特別研究指定校

日野市立平山小学校の活動報告/平成22年度4月〜7月
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セールスポイント

キーワードは、困っている子に「気づく力」と「愛」。
そして「子供達同士のコミュニケーション」。

 研究2年目。今年度も信州大学の東原義訓教授のご指導のもと、昨年度の実践研究の成果を生かして、子供達の学びを深めていく授業を目指していく。
 4月から7月に毎月行った研究授業を通して、全教員が確認し学んだことは以下の3点である。
  • 本校の子供の実態から、学力の基盤となる基本的な生活習慣と学習規律、さらに「最後まであきらめないで学ぶ力」を身につけさせる必要があること。
  • 基礎基本の完全習得を図るために、インタラクティブスタディを継続して計画的に実施していくこと。その際、教師用画面から見える応答記録のデータを明日の授業に生かしていくこと。ここでのポイントは、困っている子に「気付く力」と「愛」。
  • 思考を深めるためには、どういう思考を深めさせたいのか(意図する思考力)を明確にし、そのための活動を考えること。その手段として、カブリ3Dソフト(動的図形ソフト)による操作活動と話し合い、電子黒板等を活用した発表討論、スタディノート上での意見交換等が考えられる。いずれにしても、コミュニケーションによって論理的思考が深められる。

実践経過

4月 "3D「カブリ」操作を通して深める子供の思考"
◇研究授業 『6年 一筆がき』
≪一筆がきができる図を子供自身が検証し、法則を発見していく≫
 教科書では1ページの特設単元として掲載されている一筆書き。オイラーの定理とまではいかなくても、一筆書きを通して、考える楽しさを味わい、それができる条件に気付かせることをねらいとした。操作活動に活用したのは、カブリ3Dソフト(動的図形ソフト)で作成した特注教材である。
 授業では、子供はカブリ3Dを試行錯誤しながら操作し、一筆書きができることを実際にパソコン画面を指でなぞりながら確かめていった。用意された4つの同じ図形をスタート地点を変えながら確かめ、「スタート地点によって一筆書きが出来るときと出来ないときがあること」に気づいた子供が、「1つの点からでている線の数」との関係性を発見することができた。
 研究協議会では、子供が挑戦する課題をスモールステップで導いていくことの大切さや、問題を発見できる素材の与え方、条件の与え方、そして、その条件のもとに自由に操作させるさじ加減がポイントであることが話し合われた。



5月 "データに基づく授業実践"
◇研究授業 『3年 わり算〜インタラクティブスタディ〜』
≪客観的なデータに基づく個への働きかけ≫
「わり算」の学習の定着を図るために、インタラクティブスタディを活用し、個に応じたペースで学習を進める授業を実践した。授業後に、東原教授の指導のもと、全教員で授業のデータ分析を行い、誤答の分析を通して、子供の学習状況の見取り方を学んだ。この日の校内研究日は、いわば、教師としての授業力の基礎となる「気づく力」を磨くための勉強会となった。
全教員で確認したことは次の4点である。
  1. まずは「困っている子」に気づけること
  2. その子にふさわしい手立てに気づけること
  3. その手立てを実際に行えること
  4. できたことをほめて自信をもたせること
インタラクティブスタディで学習した単元は着実に効果が出ている。今後の学力向上策としての課題は次の通り。

  • 教師用画面から見える応答記録のデータを明日の授業に生かすこと
  • 誤答のパターンから見えてきたことは、下の学年の指導に生かすこと。
  • 一斉指導と個別指導の違いをしっかり身に付けること。一人一人への気づきに基づいた声かけを行うこと。
  • 今回のデータ分析から見えてきた課題
     ・できない問題にぶつかったときにどうするか。
     ・最後まであきらめないでがんばる学習態度の育成
     ・問題文を最後までしっかり読ませる指導


6月 "電子黒板&実物投影機で深める発表討論と思考活動"
◇研究授業 『第4学年 分けた大きさの表し方を考えよう』
≪発表討論を通し、自分の意見をつなぎ、深めていく≫
 今回の授業を行うに当たって、前時にインタラクティブスタディ「分数新幹線」に取り組んで分数の基本的な意味について習熟を図り、そのデータに基づいた個の支援策をもって実施した。本時では、同分母分数の足し算の計算方法について、自分の考えを電子黒板と実物投影機を活用しながら発表し、討論する授業を実践した。
 電子黒板と実物投影機によって、視覚的にわかりやすくなり話し合いが焦点化されるという効果は言うまでもない。しかし、研究協議会では、どのように工夫するとうまく発表できて聴き合えるか、子供達同士の考えをつないでいくことができるかといった授業の基本ともいえることが主な話題となった。
 東原先生のご指導で全教員が学んだことは、「保証する学習成果を明確にすること」である。目の前の子どもがどう変わったかを、少なくとも最後に把握しなければならない。授業中の机間指導は、教師が自分の授業展開のために行うのではなく、子供の学習状況を見取るために行うものである。データ分析は子どものためにある。今回の研究授業は、もう一度初心に戻って「子供達の学力を伸ばすためのねらいを達成させる授業づくり」に向けて、常に自分自身の指導を振り返って課題意識をもつことの重要性を再認識させられた。



7月 "自作問題を解きあうことで深める基礎基本の定着とコミュニケーション能力"
◇研究授業『第1学年 もんだいづくりをしよう』
≪友達が作った問題を解くことで、算数の楽しさを味わい、コミュニケーション能力を高める≫
 今回の研究授業では、今まで学習してきた、足し算「あわせていくつ」「ふえるといくつ」、引き算「のこりはいくつ」「ちがいはいくつ」の学習を生かして問題作りをし、それをみんなで解き合うという授業実践を行った。友達が作った問題を解くことで、算数の楽しさをより味わうことができ、また、友達が解いた問題に丸付けをすることで、友達同士のコミュニケーションが深まっていくと考えた実践である。
 今回の授業では、上記の活動をよりスムーズにするために、ネットワーク上で意見交換を通し学び合うことができるグループウェアーソフト「スタディノート」を活用した。自分で作った問題をネットワーク上に提示し、その答えを子情報としてネットワーク上で返信してもらう。返信された回答が正解かどうかを見てスタンプを押してあげる。子供達は、とても喜んで学習していた。
 研究協議会では、「学年の段階を追った問題作りの活動ができるのでは。」「問題の矛盾点に気づいていた子もいるので、作った問題に対してそれがふさわしいかどうか気づいたことをスタディノート上で意見交換ができるのでは?」など活発な協議が行われた。また、入学して数ヶ月の1年生がスタディノートを自信をもって活用している姿に感嘆の声も聞かれ、同じ1年担任の若手教員からは、「できないと決めつけずに子供の可能性を信じること!」「コミュニケーションによって論理的思考が深められる!」と、大変力強い発言があり、全教員が1年生の子供達の姿から学んだ貴重な授業だった。


 

成果と課題

 今年度は、研究の第2ステージに移った。昨年度の実践の成果をより深め、学力向上が目に見える形にしなければならない1年である。そのために、子供達の学習状況を正確に見取り、そのデータに基づいた手立てを考え、ねらいを明確にした授業を行っていこうと努めている。毎回の研究協議でも、ICTの活用というよりは、教師の指導力や子供の見取り方が話題となっている。
 今後も、「困っている子に気づく力と愛。そして子供達同士のコミュニケーション」をモットーに、全教員で日々力を合わせて頑張っていく。特に、7月の研究授業の協議会で、教師になって2年目と3年目の2人の教師の名言は、すべての先輩教員と若手教員の心を打ち、やる気を前進させた。「子供達の可能性を信じてがんばりたい!」「無理だと決めつけてはいけない!大人が考えているより子供の力は素晴らしい!その力を伸ばしてあげたい!」
 

裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

 本校の研究は、多くの方々に支えられている。
 まずは、私達に多くの指導をくださっている東原先生と中川先生。そして研究授業には欠かさず出席してくださるパナソニック教育財団の則常さん。今や則常さんは本校のスタッフのような存在である。
 それから、日野市ICT活用教育推進室のメディアコーディネータさん。毎回の研究授業の前に東原先生とともに、授業設計の段階から一緒に話し合いに参加してくださっている。事前授業や本番の授業も教員と一緒になって授業に入ってくださっている。子供達からも人気があり大活躍だった。
 最後に教育センター所員である菊川先生。数学がご専門で、6年の研究授業では、カブリ3Dソフト(動的図形ソフト)による特注教材を、学年のニーズに応じて何度も作り直してくださった。
 多くの方々に支えられていることに感謝しながら、今後も子供達の学力の向上を目指し、全教員の力を結集して本研究に取り組んでいきたいと考えている。
 

解説と講評

コメント:放送大学 教授 中川一史 先生

 研究テーマは、「診断・補充教材による完全習得と発表・討議で高める数学的な思考力」である。テーマの通り、学校の研究としても、習得型学習と活用型学習を単元構成や年間の指導計画の中でうまく関連させて進めていると思われる。特筆すべきは、教員集団が、ICT活用に果敢に挑戦しつつも、いつも目線は、教師の指導力や子どものみとりにあることだ。
 教室や学校に新しいテクノロジーがやってきて、学習環境に変化があっても、教師はねがいをもち、子どもたちの実態を把握し、目標が何であるかを確認し、しっかりと教材研究することの重要性はいつの時代になっても変わらないのである。筆者は、教師が授業力の向上を目指す授業研究の1つの視点として、電子黒板やデジタルテレビなどの活用をぜひ検討していってほしいと願っている。そうすることで、ICT機器の活用は何かの教科に特化したものではないので、全教科的に、どこでどのような意図やタイミングでICT機器を使うことがどのような効果を生むのかを視点にして授業方法の再検討ができると考える。
 
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