実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

第36回特別研究指定校(活動期間:平成22〜23年)

三原市立幸崎中学校の活動報告/平成23年度1月〜3月
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セールスポイント

「ICT活用レポート」による校内研修(2月13日)

大阪教育大学の木原俊行教授を迎え,2年間の取組みの総括を行った。教科ごとに「ICT活用レポート」を作成し,個々にその報告を行った。

ICTを活用しての成果として,@ICT活用意欲や技能の向上, A教材研究の深化, B授業改善, C生徒の学習意欲の向上 の4点が挙げられた。

課題としては,@教材作成・開発の時間確保,AICT機器と板書の使い分け,B生徒の技能の個人差 等が挙げられ,ICT活用が活発化するほどさらなる環境整備が求められることも課題とされた。

また,今後に向けては,@ICT環境の更なる整備と教師のスキルの向上,A生徒自身によるICT活用を取り入れた授業づくり,B開発・作成した教材の共有化(校内・市内)等の意見が出た。

この後,木原先生から本取組みを継続発展させるための指導・助言を受けた。

実践経過

(1) 第16回 校内研修(1月18日)
本年度の活用をまとめるために,教科ごとに「ICT活用レポート」を作成することとし,様式を提示した。内容は「成果」と「課題・今後に向けて」の2項目とし,「成果」には,ICT活用の場面と目的・ICT活用の工夫・ICTを活用したことで自分自身が最も成長した部分の3点,「課題・今後に向けて」には,ICT活用をして課題になったこと・今後取り組むべきことの2点で記述することを確認した。
 
(2) 第17回 校内研修(2月13日)
大阪教育大学の木原俊行教授,高知大学の島田希講師を迎え,校内研修を実施した。今回は,数学(1年)・英語(2年)・国語(3年)のICT機器を活用した授業公開を実施し,その後,教科ごとに作成した「ICT活用レポート」を基に研修し,木原教授のご指導をいただいた。(研修の内容は上記)
授業公開でのICT活用は次のようなものであった。
  • 数学(1年:空間図形の基礎)では,自作パワーポインで前時までの復習をし,デジタル教科書のアニメーションを用いて説明した。
  • 英語(2年:比較級)では,インターネットを利用して買い物のシミュレーションを行い,前時までに学習した比較級を使った会話練習をした。
  • 国語(3年:「ありがとう」と言わない重さ)では,生徒が自分のまとめの意見を書いたノートを書画カメラで撮影し,電子黒板に取り込んで全体に提示し,文章を押さえながら発表した。
 
(3) 第18回 校内研修(3月19日)
2年間の研究をまとめた成果報告書を基に研修を実施した。成果と課題を整理し、確認するとともに,次年度に向けての学校としての取組み,個々の取組みについて考えを出し合った。また,新たに導入したICT機器やデジタル教科書を使用した年間指導計画の作成を確認した。
 
 

成果と課題

成果
  • 教科型教室にICT機器が常備され,活用意欲が高まった。
  • 授業に積極的にICTを活用するようになり,それぞれの得意技ができた。
  • 生徒によりわかりやすい教材提示の方法や授業での効果的な活用の仕方を考えて授業を設計するようになった。
  • 生徒の家庭学習を授業で活用するようになった。
課題
  • 生徒の知識の定着を図ることやコミュニケーションとしての活用が不充分。
  • 電子黒板と板書の使い分け。
  • 教材作成・開発の時間確保。
  • 作成・開発した教材の共有化。
  • 生徒のパソコン技能の個人差。
  • 生徒の記録の残し方(紙媒体・データ保存・バックアップ等)。

裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

2年間の研究指定であったが,異動等により2年間通して本研究に携わったのは6名のみである。本研究主題の理解,種々のICT機器の活用の技能等の差をカバーしながらの研究推進であった。さらに本年度は年度途中に研究主任の交代(日本人若手英語教員米国派遣事業により6ヶ月間の米国派遣のため)があり,研究計画の実施,研究冊子や研究報告の作成等厳しいものがあった。
 

2年間の実践を終えての感想

  • 事前に作成した資料だけでなく、授業中に生徒が書いた作文やその日の宿題などをその場ですぐ見せられるようになり、視覚的資料を多く提示できるようになった。
  • 電子黒板や書画カメラなどのICT機器がそろっている状態で教員生活がスタートしたので、ICT機器があることが当たり前で授業を行うときになくてはならない存在になっている。
  • ICT活用により生徒の理解・思考が深まり、本質的な高まりにつながった。保存機能や視覚的効果も大いに役立った。
  • ICTを活用することで生徒の理解度が高まることが実証できた。体育では自分の体の動きを見たり、そこから課題を見つけて修正していくという学習にICTを活用した。すばやい動きを客観的に映像で見ることは課題解消へ向けて効果的であった。
  • 1学年1クラスなので作成した資料が一度しか使えず、教科教員も一名なので改善していくことが難しかった。また、少々もったいなかった。
  • 教材研究の深化により習得方学習において効果が認められたが、活用型学習にまで教材研究や作成を深められなかった。特に生徒自身によるICT活用を取り入れた授業づくりがほとんどできなかった。教師のスキルの向上とともに生徒のICT活用能力の向上についての取組みが必要である。
  • ICT機器は充実しつつあるが、インターネットの転送速度やパソコンの処理能力が不充分なため、授業に支障が出ることが多かったので、さらに環境設備を整える必要がある。
  • 1教室でノートパソコンを8台使った授業では、電源用量の確保を充分にしなければいけないという課題があった。
 

次年度以降、今回の成果をどのように展開するのか

  • 市内の教員に実践を広く紹介する。(教科部会などで)
  • 1単元の中で一度はICTを活用し、生徒が使用する場を作る。
  • 教科だけでなく、その他の時間でも生徒を中心としたICT活用を考える。
  • パワーポイント等を使い、ある程度の時間(1ヶ月など)をかけて生徒に作品を制作させ、全体で見合う場を設定する。
  • 生徒が自由に使えるパソコン、デジタルカメラを用意し、作業する場があるといいと思う。(掲示物の作成や張り替えを任せられる。)
  • 今後もいろいろな活用方法を見つけて取り組み、授業研究などで他教科との交流を行っていきたい。
  • ICT活用については、これまでにいくらか提示されているので、それらの実践を体系化してまとめ、次の実践のときに応用しやすいようにしたい。
  • ICT機器を活用しながら、生徒同士を練り合わせる手立てを実践や校内研修の中で深める必要がある。
  • 本年度も技の分析や友達の演技を見て評価し合う学習スタイルをとったが深まりが足りなかったので、次年度はさらにポイントを絞って話し合う学習スタイルをとりたい。
  • より日常的・継続的なICTの活用を授業で行っていきたい。また、ICTを生徒がどんどん活用していく授業づくりをしていきたい。

解説と講評

コメント:大阪教育大学教授 木原俊行先生

中学校における実践研究推進のモデル

 広島県三原市立幸崎中学校のパナソニック教育財団の実践研究助成(特別研究指定校)の期間が終わった。平成22年度及び23年度,幸崎中学校の教師たちは,小規模校のハンデをものともせず,思考力や表現力の育成とICT活用の接点の追究に大きな成果をあげた。例えば,それは,思考力や表現力の育成にICT活用が多様な形で位置づけられていることに代表されよう。筆者は,平成24年2月13日に幸崎中学校を訪問した際に3つの授業を見学したが,同校のレポートにまとめられているように,各授業におけるICT活用は,異なる趣をもったものであった。1年生の数学では,指導者によってデジタル教材の利用が試みられていたが,2年生の英語では,インターネット上のショッピングサイトに,生徒がアクセスしていた。3年生の国語では,生徒が,書画カメラと大型ディスプレイによって自身のノートを拡大提示して,発表活動に従事していた。
 ICT活用のこのようなレパートリーは,どこから生まれるのだろうか。それは,幸崎中学校の教師たちが,量的・質的に豊かな(教師としての)学びを繰り広げたからであろう。まず,量的には,平成23年度の校内研修が18回を数えていることに注目したい。たいへんな厚みである(特に中学校としては)。また,例えば各教師がICT活用レポートを事前に作成しておき,校内研修会ではその交流を図るといったプロセスに象徴されるが,幸崎中学校の教師たちの学びは,18回の校内研修会だけにとどまらない。その前後にも,時間的・空間的な広がりを見せているのだ。
 さらに,質的には,研究授業後の協議会をワークショップ型で運営したり,三原市教育委員会や同中学校教育研究会とタイアップして他校の教師に授業研究会に参加してもらったりして,異なる教科間や学校間で授業づくりのアイデアを積極的に環流させている点に注意を払いたい。以前にも紹介・解説したが,ある日の授業研究会の協議結果を次の授業研究会の冒頭に確認してから協議を始めるといった,授業研究の連続・発展に関するアプローチも見事である。
 幸崎中学校の特別研究指定校としての取り組みは,授業におけるICTの活用においても,それを発展させるための校内研修の企画・運営に関しても,秀逸であったと思う。とりわけ,教科担任制の指導体制を採る中学校において,教師たちが,授業づくりについて,教科をまたいでコミュニケーションを繰り広げたり,コラボレーションを展開したりすることの可能性やそのための工夫について,よきモデルを示してくれた。
 残るは,それを,どのように維持し,発展させるかであろう。既に,「次年度以降,今回の成果をどのように展開するのか」について,学校としての考えを幸崎中学校の教師たちは整理している。たくさんの課題等が浮き彫りになっているが,すべてを同時に解決することは難しいであろうから,それに優先順位をつけて対応してもらいたい。また,各課題等をどのようにして解決していくのか,具体的な行動計画を早めに策定することが望まれよう。いずれの課題も,簡単には解決できないものではあるが,幸崎中学校の教師たちには,学ぶ意欲の高さや授業づくりのアイデアの豊かさがある。それによって,リストアップされた課題も次第に解決するであろうと,筆者は確信している。
 これらのアドバイスとエールをもって,筆者のコメントの締めくくりとするとともに,アドバイザーとしての役割を終えることとする。

 
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