中学校における実践研究推進のモデル
広島県三原市立幸崎中学校のパナソニック教育財団の実践研究助成(特別研究指定校)の期間が終わった。平成22年度及び23年度,幸崎中学校の教師たちは,小規模校のハンデをものともせず,思考力や表現力の育成とICT活用の接点の追究に大きな成果をあげた。例えば,それは,思考力や表現力の育成にICT活用が多様な形で位置づけられていることに代表されよう。筆者は,平成24年2月13日に幸崎中学校を訪問した際に3つの授業を見学したが,同校のレポートにまとめられているように,各授業におけるICT活用は,異なる趣をもったものであった。1年生の数学では,指導者によってデジタル教材の利用が試みられていたが,2年生の英語では,インターネット上のショッピングサイトに,生徒がアクセスしていた。3年生の国語では,生徒が,書画カメラと大型ディスプレイによって自身のノートを拡大提示して,発表活動に従事していた。
ICT活用のこのようなレパートリーは,どこから生まれるのだろうか。それは,幸崎中学校の教師たちが,量的・質的に豊かな(教師としての)学びを繰り広げたからであろう。まず,量的には,平成23年度の校内研修が18回を数えていることに注目したい。たいへんな厚みである(特に中学校としては)。また,例えば各教師がICT活用レポートを事前に作成しておき,校内研修会ではその交流を図るといったプロセスに象徴されるが,幸崎中学校の教師たちの学びは,18回の校内研修会だけにとどまらない。その前後にも,時間的・空間的な広がりを見せているのだ。
さらに,質的には,研究授業後の協議会をワークショップ型で運営したり,三原市教育委員会や同中学校教育研究会とタイアップして他校の教師に授業研究会に参加してもらったりして,異なる教科間や学校間で授業づくりのアイデアを積極的に環流させている点に注意を払いたい。以前にも紹介・解説したが,ある日の授業研究会の協議結果を次の授業研究会の冒頭に確認してから協議を始めるといった,授業研究の連続・発展に関するアプローチも見事である。
幸崎中学校の特別研究指定校としての取り組みは,授業におけるICTの活用においても,それを発展させるための校内研修の企画・運営に関しても,秀逸であったと思う。とりわけ,教科担任制の指導体制を採る中学校において,教師たちが,授業づくりについて,教科をまたいでコミュニケーションを繰り広げたり,コラボレーションを展開したりすることの可能性やそのための工夫について,よきモデルを示してくれた。
残るは,それを,どのように維持し,発展させるかであろう。既に,「次年度以降,今回の成果をどのように展開するのか」について,学校としての考えを幸崎中学校の教師たちは整理している。たくさんの課題等が浮き彫りになっているが,すべてを同時に解決することは難しいであろうから,それに優先順位をつけて対応してもらいたい。また,各課題等をどのようにして解決していくのか,具体的な行動計画を早めに策定することが望まれよう。いずれの課題も,簡単には解決できないものではあるが,幸崎中学校の教師たちには,学ぶ意欲の高さや授業づくりのアイデアの豊かさがある。それによって,リストアップされた課題も次第に解決するであろうと,筆者は確信している。
これらのアドバイスとエールをもって,筆者のコメントの締めくくりとするとともに,アドバイザーとしての役割を終えることとする。