実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

第36回特別研究指定校(活動期間:平成22〜23年)

京都教育大学附属桃山小学校の活動報告/平成23年度4月〜7月
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セールスポイント

人間力の定義を共通理解

人間力=ものごとの本質にせまっていく力
 ここでいう「ものごと」とは、「ひと・もの・こと」であり、そのもののもつ本質にせまっていくことが人間力ととらえ、今年度は研究を進めていこうと共通理解をしました。人間力という切り口からこれまで本校で昭和40年から実践を続けている創造性教育を学び直し、本校のめざす「未来の文化を担う人の育成」つまり、自立と共生の力をもった子どもの育成にむけ、必要不可欠な力は何かと考え定義しました。

いろいろなところでICT機器をどんどん活用

 いろいろな場面でICT機器も活用が広がっています。子どもたちの共通理解が必要な学級指導、児童会活動や委員会活動、修学旅行のしおり作りなど、その活用が広がってきています。また、教師以上に子どものICT機器の活用が広がり、何かを作るときも手書きの方がよいのかそれともパソコンを使って作る方がよいのかを考え、選択する姿が増えてきました。高学年では、自分たちで要求する姿も見られます。どんどんICT機器が道具として使われはじめています。

実践経過

4月

全学年 安全指導
 年度当初の安全指導において、「遊具の使い方」をプレゼンテーションソフトで作成し、クラスごとに全校同じ内容の指導に活用した。このことにより、同じ内容で子どもたちに伝えることができ、子どもたちの共通理解もはかることができた。

 
5月

委員会活動 安全委員会
 ぞうきんがきっちりと片付けられていると気持ちがよいものである。また廊下の右側通行は、守らなければ危険である。これらのことは、何度も繰り返しアピールしていく必要がある。健康安全委員会の子どもたちが、よりよい学校生活を送るために自分たちがモデルになり掲示物を作成した。この取り組みは昨年度から始まっている。

6年 国語「すみれ島」
 国語の時授業において本文をプレゼンテーションソフトで提示し、個の考えを全体のものにできるように活用している。本文をホワイトボードにプロジェクターで投影し、その部分をなぞる。そして、プロジェクターで投影を遮る。そのことにより、なぞった部分がホワイトボード上に残る。このことを利用して思考を焦点化していくことができた。また、同じ文を横に投影し、その根拠になる部分を考えることができた。残る良さと消える良さを利用できるのは、アナログとデジタルの融合のよさであると考える。

 
6月

1年 音楽「きしゃの はしる ようすを ひょうげんしよう」
 トンネルの向こうにどんな世界があるかを考え、膨らませるためにプレゼンテーションソフトでトンネルを抜けていく映像を作成した。トンネルをぬけた先を真っ白にすることで,自由に想像できるようにし、どんな世界で自分たちは汽車を走らせたいかを考えやすいようにした。また、子どもたちが表現したい世界の絵を、聞き手に伝わりやすいようにする大きく提示した。そして、その絵をバックにして子どもたちは、自分たちの思いを友だちに伝えることができた。

児童会活動「給食交流をしよう」
 学年を縦に割り活動するつゆくさ活動。これまでに、つゆくさ遠足、つゆくさ掃除と活動を行ってきているが、子どもたちの中から「給食を一緒に食べるともっとなかよくできるのではないか?」という意見がでてきた。 児童会で話し合った結果実施してみることとなった。子どもたちは、交流会の企画運営はもちろんのことその活動の様子を、写真とインタービューをもとにプレゼンテーションソフトでつくり、伝える活動を行った。

5年 家庭科「見つめよう!家庭生活」
 裁縫の学習で玉結びや玉どめなどは、経験による個人差が出やすいものである。なかなかうまくできずに苦労している児童もあったが,自作したDVDを繰り返し見たり,子ども同士で教えあったりすることにより個に応じたスピードで学習することができた。  このことを生かし、ボタン付けの授業でも活用し、子どもたちの技能の向上に生かしている。
   
7月

3年 社会「わたしたちのまち」
 「2万5千分の1の地形図」で読み取ったことを学級全体で共有するために電子黒板の拡大機能を使用した。また、実物の「2万5千分の1の地形図」をはりあわせで京都市全域を提示することで自分たちが「2万5千分の1の地形図」で読み取った場所が京都市全域のどの位置にあるのかを認識できるようにした。このように、デジタルとアナログのよさを生かしながら取捨選択して授業を行っている。

5年 算数「体積」
 集団解決の場面では児童が説明する機会がある。その時に、直方体などの実物を使いながら説明した方が、聞いている児童にとっても理解しやすい。その時、説明に要する実物が聞いている児童にも見えるよう、実物投影機を用いてテレビ画面に映し、説明の理解につながるようにした。さらに、より理解が進むよう、「スクールプレゼンター」のソフトを応用し、様々な解決方法を提示し、説明の支援になるように用いた。

成果と課題

<成果>

  • 人間力の定義を共通理解することができた。
     1年間悩み抜いた人間力を定義し、共通理解することができた。定義したことを生かして、これからも「子どもありき」の実践を行っていきたいと考えている。

  • 授業以外においてもICT機器の活用が広がってきた。
     教科や領域の授業以外でもいろいろな場面でICT機器の活用がみられた。委員会活動では、健康安全委員会(ポスター作成)、図書委員会(読み聞かせ)、給食委員会(食器の返し方)で活用していた。

  • 「こんぴゅうたあだより」の発行
     教職員のICT活用のサポートとなるように、新しく作ったソフトの紹介などを不定期発行だが、「こんぴゅうたあだより」として発行した。特に校務におけるソフトの使用方法などには、役立っている。「こんぴゅうただより」はかげのサポートをしてくれている。

<課題>

  • 共有を推進する必要がある
     毎日の学校での1日はめまぐるしく忙しい。その中で取り組んでいる授業実践だが、共有フォルダにアップすることを忘れがちになる。なんとかその財産を共有し、今後に生かすためにも全員ができるような対策が必要であると考えている。
 

裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

 なんと言っても1年間悩みに悩んだ人間力を共通理解できたことである。人間力というと漠然としていて、大きすぎてとらえることが難しかった。そこで本校における創造性教育を学び直し、その定義を狭めて自立と共生の力をもった子どもを育成するために必要な力は何かと言うことを考え定義した。この定義の元、これからも「子どもありき」を大切に実践を行っていきたいと思う。

 5月の国語の実践の消える良さは、ハプニングから見つけた良さである。子どもがプロジェクターのコードを誤って抜いてしまったことにより、ホワイトボード上になぞった部分だけ残った。これを見たときに思いついたのである。偶然のことであるが、これも使ってみるからこそ起きたうれしい出来事であった。

 また、専用のソフトは、簡単にいろいろなことができるのだが、そのソフトをマスターするのに時間がかかったり、そのソフトを他のことに流用したりしにくい。その善し悪しも考え活用していく必要があると感じた。

 

解説と講評

コメント:京都教育大学 教授 浅井和行先生

1.活動について
 桃山小学校では,人間力を「ものごとの本質にせまっていく力」と定義づけられた。これは,本文にも書かれている通り,桃山小学校が永年取り組んでこられた「創造性教育」における「自立と共生の力をもった子どもを育成するために必要な力」ということとの関わりでまとめられたものである。

 「人間力」という概念は,抽象的で,はっきり定義づけるのは難しい。「人間力」がどのような状況下で議論されるかによってその中身は少しずつ違ってくる。桃山小学校は,子どもたちが生活をともにし,学び合う場であるので,「友達との関わりの中で」という意味も含んでいると思われる。

 周りの人の気持ちがわかり,教えられなくても自分から温かい挨拶ができる,そして,何かを考える時に本質にせまっていくことができる,そんな「人間力」を身につけた子どもたちが大人になった時には,真の民主主義国家を形成できる人間に成長していることであろう。

 桃山小学校は,教職員も子どもたちも機器の操作の習熟に向けて積極的に取り組んでおられるだけでなく,教職員間で行われる議論は素晴らしく,その思考はとても深い。

 今後は,指導者用・学習者用デジタル教科書の活用にも取り組んでいただけるとさらに実践が進むと思われる。

2.他の学校の参考になると思われること(教職員間の恊働) 

 多くの学校で取り組まれていることではあるが,桃山小学校では,授業力をもったベテラン教員とICTの活用にたけた若年教員のコラボレーションがうまくいっている。

 
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