実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

第36回特別研究指定校(活動期間:平成22〜23年)

京都教育大学附属桃山小学校の活動報告/平成22年度1月〜3月
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セールスポイント

人間力の向上にもつながる学び合い

教壇実践場での普通に存在するICT機器
 ICT機器を活用した授業実践を経験した学生にとって、必要に応じたICT機器の利活用は、当たり前になってきている。これらの意識を持った学生が春からは、現場の教員として教育実践を行うことになる。

先行研究に学ぶ
 先進授業に学ぶという研修会を実施した。このソフトは、慶應義塾大学の佐々木詩織先生が中心となり開発したソフトで、本校の教員もその開発に参加している。その良さを学び、次年度以降に本校の子どもたちの実態に合わせ活用していこうと考えている。

ICT機器の有効性を子どもたちも実感!
 自分の姿をデジタルカメラで撮影しチェックしたり、現象を画像で記録したりと、単なる記録だけでなく、目的意識をもって活用する子どもが増えてきた。また、子どもたち同士の教え合いも増え、この学び合いは人間力の向上にもつながると子どもたちの姿から再確認することができた。

実践経過

1月

6年図画工作
「町並みの風景を版画にしよう」

 児童自身が作品にするために選び撮影した風景の写真を、白黒の2色に変更して実際の風景と比較することで、これから版画として彫り進める際に、どの部分を残して黒く表現するのか、またどの部分を掘り下げて白く見せるのがよいのか等の、イメージ化や意識付けを視覚的に行えるように活用した。


5年道徳「しあわせってなんだろう」
 京都教育大学の学生による卒業論文の実践授業を実施した。教育実習だけでなく、学生の教壇実践の場でのICT機器の活用が見られた。授業にICT機器を活用している授業を見てきた学生は、ICT機器を利活用することを当たり前のこととしてとらえている。来年度からは、教師として実践の場でICT機器を使うことができることは、彼らにとって大きな力になっていくだろう。

 
2月 ○パナソニック教育財団 鍛治舍副理事長訪問(授業公開)

5年算数「割合を使って」
 問題の把握を電子ボードを用い視覚的な支援を行いながら進めた。視覚からのイメージの支援があり把握しやすいとの子どもたちの声も聞かれた。そして、個別の問題解決を行ったあとにグループの考えの交流にミニホワイトボード(写真左)を使い、掲示して全体の考えの共有を行った。写真は、さらにくわしく考えを書きながら述べている様子である。

1年体育「リズムダンス」
 デジタルカメラを観客に見立て、ダンスを披露。その撮影した動画をプロジェクターで拡大し、体育館の壁に投影する。自分たちのダンスを自分たちで見て、その動きや位置などをチェックし、イメージしたダンスになっているかを交流した。体育においては、イメージトレーニングは大切であり、とても効果的なことであると考える。

京都教育大学附属桃山地区学校園
研究発表会
5年&中学2年
理科「気体博士になろう」

 「気体の不思議な現象」を中学生が小学生にから伝授する。小学生は、次時以降に行う交流会の資料とするためにミニホワイトボードやデジタルカメラなどを用いて現象の読み取りと記録を行った。デジタルカメラの動画撮影機能は、今、目の前で起こった現象を瞬時に再生できるので、その場で現象を見返し、自然と交流する場が見られた。

6年 算数「図形の拡大と縮小」
 児童が自分のノートに書いた考えをクラス全体に広げる時に、実際に操作しながら説明する。これは、言葉だけでなく実際に操作を伴っているので、話している児童も説明しやすく、聞いている児童も視覚的なアプローチがあるので理解しやすい利点がある。


3年国語「新聞で学ぼう」
 教室の左前の大型テレビと教室右前の電子黒板を使い、写真や記事を提示した。真ん中のホワイトボードは、子どもたちの意見を書いたミニホワイトボードをはったり、板書に用いたりとスペースの有効利用もICT機器を用いる利点の一つである。また、写真の一部にタイマーを掲示することにより、時間の目安となり、見通しをもった活動を行うことができた。


先進授業研修会

6年音楽「単調と長調」
 先行開発されたソフトを使い、先進授業に学ぶという研修会を実施した。このソフトは、慶應義塾大学の佐々木詩織先生が中心となり開発したソフトで、本校の教員もその開発に参加している。このソフトを用い、今年度は先行授業の追試を行い、その改善点についての研修会を実施した。2人1組で授業を行ったことにより、必然的に交流が生まれ、子どもたちの意見の広がりが見られた。今後、このソフトを改善しよりよい授業を作っていきたいと考えている。

 
3月

1年国語「たぬきの糸車」
 実物を用意できる時は、実物に優るものはない。物語に出てくる破れた障子を準備したり、デジタル教科書を用いてイメージを広げたりして、よりわかりやすい授業を展開するためにいろいろな工夫をしている。

3年算数「重さ」
 重さを量る道具も、教材提示装置で大きく映し出すことにより、全体で共有して考えることができるようになる。はかりのゼロのメモリのあわし方などは、説明だけでなく、視覚的な補助で、より理解しやすい。

授業公開(訪問指導)・研修会
・・・震災により訪問指導は中止。授業及び研修は実施
5年国語・そうぞう「詩を味わおう・写真詩を作ろう」
 アングルやシチュエーションを意識してデジタルカメラで撮影してきた画像のイメージに合わせた詩をつくり、合成する場面の授業を実施した。子どもたちは、文字体や色などもイメージに合わせ選択して作成していた。また、子どもたちはその構成についてアドバイスや、方法を自然に教え合っていた。教材を間にコミュニケーションが生まれることを再認識した授業であった。

4年音楽「反復と変化を感じ取って『ペールギュント』を味わおう」
 授業の冒頭で、前時のふりかえりを電子黒板で提示した。このことで前時の学習を想起することができ、本時の学習にスムーズにはいることができた。また、電子黒板を使って児童が作成した図形楽譜を拡大表示することで、クラスの子どもたちどうしでその考えを共有することにつながっていた。

3年社会「今に残るむかし」
 写真の提示を電子黒板で行うことにより、ホワイトボードを大きく広く板書に使うことができる。また、教科書や小さな写真ではなく、大きく映し出すことでクラス全員で問題意識を持ったり、考えを交流したりと問題解決学習の支援となる。

成果と課題

<成果>

  • 普段の授業での活用が増加
     今年度当初は、使わなければならないという意識があったが、使うことによってその操作に慣れ、有用性を感じることができた。その結果普段の授業でも一つのアイテムとして使われるようになってきた。

  • 校務のペーパーレス化
     授業の実践ではないが、指導要録のデータ化や出席統計の処理ソフトの開発なども行い、活用しようとしている。今までは、難しいので取り組めないと思っていたことが、実際に実現可能なものとなってきた。教員の意識も積極的に取り入れてみようという風に変わってきた。日常的な取り組みの結果である。これからも実践していくことが大切である。

  • 子どもの意識的に活用
     健康安全委員会の活動の中で、ポスターを作成。よい例と悪い例を写真で見せて「あなたはどちらを選びますか?」と問いかけてみたり、正しい活用の仕方を例示してみたりと子どもたちの中にも活用が見られるようになった。視覚に訴えかけるアプローチでみんなが気持ちよく学校生活が送れることを考えることも広い意味での人間力につながるのではないかと考える。

<課題>

  • 人間力とICT活用というテーマに即した実践
  • 実践の共有とデータベース化
 

裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

 本期間は、本校の研究発表会の開催もあり、それぞれの研究教科での実践に時間を取られており、なかなか交流の時間がとれなかった。しかしながら、各授業の中に、ICT機器の活用が自然とはいるようになって来た。その現れとして、年度当初はICT機器に対するハードルが高く感じていた先生から次のようなコメントを聞くことができた。
・ちょっとしたことでも使ってみるとなるほどとおもうことがある。これなら使えるかもと言うところから始めようと思った。
・朝のスピーチや給食のお便りを読むときに、たとえば白川郷と出たら、 Webで検索し画 像を提示してイメージを広げることを繰り返しているうちに、子どもたちの方から「七草ってどんなの?」と資料を請求するようになってきた。
・やってみようと思った。やってみることの大切さを改めて感じた。
これは、実際にやってみたからの成果のひとつであると喜んでいる。
また、自作ソフトを仮に一人で作ったとしても、作ると見せたくなる。→もっとよくしたい。→誰かにみせる。という思考が働き、自然とコミュニケーションが生まれた。
 これは、自主的にミニICT講座のようなものが見られるようになり、教師の人間力の向上にも繋がっていると思う。
 また、教師がプレゼンテーションソフトの訂正や変更を電子黒板に写しながらやっていることで、子どもが見よう見まねで同じようなものを作ろうとしていた。わからなければ聞くという当たり前のことがここでも見られ、コミュニケーションがここにも存在する。これは「学ぶ」の語源でもある「まねぶ」そのものだと感じた。すっきりとした活用だけでなく、作っていく過程などをみせることにより広がることも多い事を感じた。
 まさに、まさにIT機器を使い「ICT」に変化しているのが実感できうれしく思っている。

 

1年間の実践を終えての感想

 人間力のテーマをいただき、「人間力について一年間ああでもないこうでもないと考えること」と「まずは、いろいろできるところからやってみようという実践」を行った1年間であった。「人間力とは何か」ということをいろいろな人で議論を行った。みんな思っていることは何となく同じであるが、感じ方は、様々である。その中で感じたものは、これまで大切に研究を進めてきた本校の創造性教育を人間力という視点から見直すと言うことであった。教育そのものが、人間の形成を担っているものであるから人間力の育成からずれることはないのである。
 これらの議論を集約し、来年度の実践につなげていきたいと感じている。
 また、助成を戴いて、子どもも大人も自由に使える機器の数が多いと言うことは、自然に活用する機会が増えると感じた。当たり前のことであるが、デジタルカメラにしても必要ならば学年で使用しても2人に一台で使うことができるという条件は、子どもたちが、撮影したいときに撮影したいものを撮影することができる。また、その場ですぐに見られる良さがある。これからは、PCやスレートが一人1台の時代も来るかもしれないということも感じた。そういう意味で、どのような力をもった子どもを育成していくべきか原点に立ち返って考えることができたことは有り難いことだと感じている。
 また、子どもたちをみとり、子どもたちにとってどのように利活用することが有効であるかということを改めて考えることの必要性も感じた。今後は、ICT機器の利便性にとらわれすぎず敢えて機器を使わないことも選択肢のひとつととらえていきたい。ICT機器のなかった時の授業(アナログ的な授業)とICT機器を活用した授業(デジタル的な授業)の両方の良さを考え、次年度も研究を進めたいと考えている。
 

次年度への思い(課題、目標など)

 上に記述した様に、1年目の成果を元に人間力をテーマに研究を進めていく。人間力とは大きなくくりであるが、成果を形に表せるように、教職員で協力して取り組んでいきたい。
 

解説と講評

コメント:白鴎大学 教授 赤堀侃司先生

1.ICTの活用について
 道具の活用の仕方が素晴らしい。その理由や背景を考えてみると、1つは、教育理念にあるような気がする。あえて教科書風に記述すれば、経験主義、構成主義に基づく学力観が基盤にあって、どうしたら子供達の思考力を引き出せるか、子供達自身の体験や知識を核にしながら、知識を構造化できるか、という子供の立場にたった研究を実践してきたと言えよう。新学習指導要領では、基礎基本の知識技能を活用して、思考力や判断力を育成すると明示しているが、本実践を読むと、そのような階層的な構造ではなく、基礎基本の知識や技能と、思考力判断力の知識が、相互的に関連しているように思われる。それを実証することはきわめて難しいが、その仮説を提示しているように思われる。
 ICTは道具なので、そのような知識や技能を生み出す支援(aid)をしており、その位置づけはこれまで変わらない。

2.人間力の関わりについて
 人間力についての文献は、代表的なOECDのキーコンピテンシー、経産省の社会人基礎力、文科省の学士力、21世紀の汎用的な能力など多くあるが、一般的には、コミュニケーション能力、計画実行評価に関わる主体的な学習能力などであるが、ICTの関わりを明確に述べた文献は、よく知らない。ICTは道具であり、有効に活用する能力がOECDのキーコンピテンシーの1つとして挙げられている。1に述べたような学習の道具としてのICTと、人間力のような能力育成としてのICTについて、実践的に今後検討を継続してほしい。例えば、道具としてのICTの活用と、情報活用能力のような関係かもしれない。
 
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