本校の実践研究も2年目に入った。視覚障害の生徒の職業教育でのICT活用という新しい分野での挑戦である。
視覚障害と言ってもその実態は生徒によって様々である。単なる視力の低下のみならず、極端に狭い視野、明るさの調整困難など、一人ひとり異なる。また、盲学校高等部とその専攻科には、中途失明の生徒が多く在籍し、従って年齢幅が非常に大きい。通常の高校生の年齢から、60歳代に及ぶ。このような多様な生徒の教育にこそ、ICT活用の教育効果が期待できるとされるが、現実には容易なことではない。
本校の場合、それに加え指導者の側にも、弱視から全盲まで視覚障害がある。盲学校における視覚障害教員の存在は、障害当事者としての共感的理解が得やすい点、生徒にとってのロールモデルの提供となる点など、その利点は大きい。しかし、全盲の教員にとっての教材作成や機器の操作は、これもまた容易なことではない。
これらの多くの困難を、本校の実践は克服しつつある。当初は晴眼者教員でさえケーブルの配線にも苦労し、機器の設定や操作に四苦八苦しながら研究が始まった。視覚障害のある教員にとっては、文字通り手探りである。
このような苦境脱出の原動力は、教師集団の団結力と、生徒の確かな学びであった。全盲の教員が、晴眼者教員とペアになってパワーポイントの教材を作成し、音声読み上げを併用しながら生徒に提示していく授業の様子は、感動的でさえある。生徒は、それぞれの見え方、見えにくさに応じた教材を手元で確認しながら、確実に学習を進めている。まさに一体感溢れる授業と言える。
本校の実践のもうひとつの特徴は、五感の活用である。視覚障害のある生徒の学習において、残存機能をフルに引き出すことと、触覚や運動覚と結びつけながら確かなイメージを形成していくことが不可欠である。とりわけ、鍼灸や手技療法を学ぶ生徒にとって、「静止画」の理解のみでは意味をなさない。対象を動的に捉え、自らの身体の動きをそれに同期させていくことが求められる。国家試験に合格するだけでなく、その資格を活かし治療者・施術者として自らの生活を維持しなければならない。教室での学びは、そのための認知的基盤の築きである。
本校の次の課題は、教育実践の記録と普及であろう。盲学校は県内では唯一、全国でも百校に満たない。児童生徒の実態は個別性が高い。どの学校でも、その一人の生徒のために苦労して教材を作成し、カリキュラムを工夫している。その学校では一人でも、他校には同様のケースがあるかもしれない。レアーケースを共有し、充実した教育を実現するには、データベースの構築とネットワークの形成が不可欠である。
本校の実践の更なる発展を期待したい。