実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

第36回特別研究指定校(活動期間:平成22〜23年)

三原市立幸崎中学校の活動報告/平成22年度1月〜3月
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セールスポイント

学習集団・ICTの活用をテーマに,授業研を実施(3教科)(1月31日)

(社会) 1年「東アジアの交流」:
資料(足利義満が明の皇帝に送った手紙)を電子黒板に映し,生徒に気づきを発表させた。その内容を電子黒板に記入していくことで足利義満が貿易をおこなった様々な理由に気づかせ,勘合貿易の内容について理解を深めた。
(英語) 2年「Unit7 My Favorite Movie」:
E.T.の登場人物の心情を理解した上で場面に即した登場人物へのメッセージを考えた。さらに,出来たメッセージを電子黒板に写し,生徒作文の中でより良い表現や間違いを全体で共有して理解を深めた。
(生活) 特別支援「ひもの結び方を学習しよう」:
ひもの結び方を学習した後,実際に蝶結びを生徒がやっている場面を録画して見せた。動画を見せることで,どこが間違っていたか,どうして出来なかったのかに気づき,少しずつできるようになった。

ICT活用をテーマに授業研を実施(3教科)(2月22日)

(美術) 1年「コラージュ」:
インターネットを使ってコラージュの素材を各自で選んだ(前時)。班で協力してテーマを考えながら,自分が選んだ題材を幸崎町の風景写真(背景)に貼り付け,偶然出来る意外性を楽しみ,作品を製作した。その後,作品を電子黒板で写しだし,どんな工夫をして作品を製作したか班ごとに発表しあった。
(社会) 2年「様々な特色を関連付けてみた日本」:
様々な情報収集方法(インターネット,統計資料,地図帳,教科書,プリントなど)を準備した。班で日本の様々な特色についてテーマを設定し,いくつかの情報を関連付けてまとめられるよう情報収集をした。
(体育) 3年「サッカー」:
サッカーのルールを確認するとともに,仲間で戦術について考えた。オフサイドについては,ユーチューブなどの動画サイトを見せることで,様々な場面を想定して,より実践に近い形で分かりにくいルールを簡単に教えることができた。

実践経過

(1) 学力向上のための実践交流会での発表
(1月8日)

 広島県で行われている様々な取り組みを交流する発表会で本校の取り組みを発表できることとなり,冬休み前から練習を始めた。
  本校の特色や取り組みを分かりやすく説明できるよう,生徒がパワーポイントを使ってまとめた。また,1年生の群読発表を中心に,本校の思考力・表現力を高めるための取り組みを発表した。練習の際,自分たちの発表の様子をビデオで撮影してチェックし,より良い姿勢・表現・声の大きさ等になるよう意見を出し合って,レベルアップを図った。
 
(2) パナソニック教育財団視察訪問
(1月24日)

 特別支援(生活),1年数学,2年英語,3年理科の授業を実施し,見学して頂いた。その後,理事長・大阪教育大学 木原教授・財団の方と教職員で懇談会を実施し,様々なご助言をいただいた。
 
(3) 第13回 校内研修
(1月31日)

 社会・英語・生活の研究授業を行った(内容は上記)。また,安田女子大学の片上教授にご来校頂き,指導・助言を頂いた。片上教授から,思考力・表現力を高めるための各教科における言語活動のポイントや,来年度の研究の進め方などについて大変有意義で具体的な助言を頂くことができた。
   
(4) 第14回 校内研修
(2月22日)

 美術・社会・体育の研究授業を行った(内容は上記)。また,大阪教育大学の木原教授にご来校頂き,指導・助言を頂いた。木原教授からは,教員・生徒によるICT活用の方法が充実してきたこと,言語活動の充実のためにICTをどう活用するか,校内研修をより充実させていくための提言等を頂くことができた。特に言語活動とICTの関連としては,情報収集の手段としての活用の他に,レポートをICT(パソコンのワード機能)を使って作成する,発表場面でのパワーポイントの活用など,具体的な例を挙げて頂き,大変参考になった。
 
(5) 第15回 校内研修
(3月22日)

 本年度の研修のまとめ,次年度の取り組み内容についての協議を行った。
 安田女子大学の片上教授に再び来校頂き,指導・助言を頂いた。思考力・表現力を高めるための取り組みの一つとして,生徒へのノート指導にさらに工夫し,各教科で統一した形式を出し(発展的な内容や生徒の工夫,思考の過程が分かるようなノート作り),協力してやってみること,学習集団での話し合いモデルの作成など,具体的に教えて頂き,大変参考になった。
 

成果と課題

成果
  • 1年間の活動を通して,徐々に教職員・生徒が電子機器(パソコンや電子黒板など)の操作方法に慣れてきたこと。そのため,少しずつICTの活用方法が多様化し,資料の提示や興味づけに利用するだけではなく,生徒が活用したり,電子黒板上に映し出された映像をもとに学習集団で話し合って思考を深めたりするなど,ICTの本質的な利用が少しずつではあるが出来るようになってきた。
課題
  • ICT活用に適した単元や教科がある一方で,適さない単元や教科がある。(例えば英語・国語などの教科は,字数が多いと画面が見づらいなどの課題が出てくる)全教職員で取り組んでいく際,どうしても取り組みに差が出来てきたり,より思考を深めるような使用方法が難しかったりする場合がある。

  • 生徒一人一人が主体となってICTを活用しようとする際,どうしてもパソコンの台数など制限があり,充分に使えない時があった。班活動で調べ学習をしたり,話し合ったりまとめたりするには普通教室の方が都合がよいが,逆に情報を得る際にはパソコン教室の方が都合がよい。教室の配置や機材の工夫などがまだまだ必要である。

裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

  • 1月中旬〜3月初旬にかけては高校入試・受験シーズンで,3学年担当教員を中心に生徒への指導や入試事務に追われた。そのため研修との両立が難しく,授業研の参観や授業反省に参加することが大変難しかった。この時期の校内研修の持ち方,授業者の選定など,来年度への課題となった。

1年間の実践を終えての感想

 「とりあえず,ICT(電子黒板)を使ってみよう」から取り組みが始まったが,実践を重ねるにつれて様々な活用をすることができるようになり,大変有意義であった。
 特に電子機器が充実したことは大きかった。授業で出来ることや生徒への情報(絵・ノート・グラフなど)伝達量が増え,その分,集団思考などの時間に当てることが出来るようになった。また,校内研修を重ねることで,他教科の実践を見る機会も増え,自分の教科にどうやって取り入れるかなど,授業の工夫・改善をする機会も増えた。
 その一方で,様々な課題が出てきた。どんな情報をどのくらい,どのように生徒に提示するか,教室環境の整備,画面の小ささ,黒板と電子黒板との兼ね合い,より思考力・表現力を高めるためにはどのように活用したらよいか・・・など次年度に向けての課題は多い。今後も研修を進めて,より良いものにしていきたいと思う。
 

次年度への思い(課題、目標など)

  • 今年度出てきた様々なICT活用の方法をもとに,さらに活用方法を模索していく。その際,より本質的活用(思考力・表現力を育成するためにどうICTを活用するか)をすることによって授業に取り入れていくことが出来るよう,実践を積み重ねていきたい。

  • ICTを,各教科の言語活動と関連付けてさらに生徒の思考力・表現力を高めるためにどのように活用できるか,研修を進めていきたい。

  • 授業の場面だけではなく,総合学習の時間や学校行事などで生徒自らがICTを活用して思考を深めたり表現を工夫したりする機会を増やしたい。

解説と講評

コメント:大阪教育大学教授 木原俊行先生

ICT活用のレパートリーを増やす
−広島県三原市立幸崎中学校の取り組みの特長−

 広島県三原市立幸崎中学校の教師たちは,3学期にも,実践研究の充実に,その努力を傾注している。平成22年度,同校は,3学期にも毎月校内研修会を開催しているが,最後はなんと3月22日である。3学期に,2度の授業研究会が設定されたが,そこでは,6つの研究授業が実施している(ちなみに,幸崎中学校には全学年単学級なので,すべてのクラスで複数回研究授業が実施されている)。同校の教師たちの研究への熱意には,いつもながら,頭が下がる思いである。

 幸崎中学校の教師たちの努力は,彼らのICT活用のレパートリーの広がりに結実している。筆者も,2月22日の同校の授業研究会に参加したが,そこでは,今まで同校では試みられていなかったタイプのICT活用が登場した。例えば,美術科の教師は,コラージュ作品を制作させる際に,子どもたちに,インターネットから素材をダウンロードさせていた。

 また,社会科の教師は,写真のような複線型のICT活用にも取り組んでいた。この教師は,日本の自然・人口・資源と産業・生活と文化などに関するデータを有機的に関連づけて我が国の特色を考察する場面を構成した。そして,子どもたちが追究に用いる情報手段を多様化し,ICTをそのような学習環境の一翼を担うものとして授業過程に位置づけたのである。ある子どもは資料を読み込み,ある子どもは友だちと議論を繰り広げているが,その傍らで,ある子どもたちは,ICTで必要な情報を収集していたのだ。

 さらに,保健体育科の教師は,電子黒板を用いて,サッカーのオフサイドトラップ等についての考察を子どもに促していたが,それも,彼にとっては,新しい挑戦であった(この教師は,1学期には,子どもたちが自身のマット運動の様子を自省できるよう,彼らに自らの運動の様子を撮影させ,分析させていた)。

 要するに,幸崎中学校では,各教師が,少しずつICT活用の幅を広げている。それによる授業改善の引き出しが増えている。そして,学校として,1年間にICT活用の多様な取り組みが蓄積されている。

 平成23年度もまた,幸崎中学校の教師たちのICT活用のレパートリーは増えるに違いあるまい。研究授業後の協議会において交わされるコメントの厚みやその内容の濃さから,それを筆者は確信している。

 
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