■ 特別支援とICT
1.障害概念の変化
障害とは従来は、その人個人が負う病理的側面が重視されていた。薬や手術など医学的治療が試みられ、次いで教育やリハビリによって残された能力を引き出し高めることが行われる。もちろんそれらは障害のある人々にとってそのQOL(Quality Of Life)を高めるために大切な支援である。しかし20世紀後半から国連を中心とする世界的なノーマライゼーションをめざす運動の中で、障害概念の大きな変化があった。それは障害をその人個人の特性としてのみ捉えるのではなく、周囲の環境や社会との関係において捉えようということである。WHOによる国際生活機能分類(ICF)の提案(2001年)は、病理学的障害概念から社会的障害概念への転換としてその後の世界に大きな影響を与えることになる。障害を軽減しQOLを高めるためにはその人個人だけに目を向けるのではなく、環境や地域社会、支援技術などの改善に務めることを国連は提唱し、我が国においてもその方向性を国会で承認している。
2.障害者支援へのICT活用
このような状況の中で、ICT活用による環境改善や支援技術の発展は、障害者支援の分野で革命的変化をもたらしつつある。
この分野におけるICTの活用はこれまでも様々な面で取り組まれているが、まず特徴的なことは、障害に起因する生活上の不便や困難を補うという障害補償の側面である。それは既に、視覚障害で言えば眼鏡や音声読み上げ装置、聴覚障害の場合は補聴器などで一般的にもよく知られている。身体障害の場合には、意思表示や移動支援において進展が著しい。知的障害、発達障害の分野でも、情報提示の改善など通して効果的な学習の進展を可能にしている。
障害者支援において重要なことは、対象となる人々の障害の状態がさまざまで、それゆえ支援ニーズが一人ひとり異なるということである。したがって、教育者、支援者はまず、個々のニーズを十分に把握しそれに対応した指導カリキュラムや支援方法を作成しなければならない。さらにその方法をPDCAサイクルの中で検証し改善を図ることになる。
障害の状態が異なるということは、それに適切に対応する指導方法や教材の状態も個別性が高いことを意味する。とりわけ視覚の障害についは個別性が高く、学校教育の場面では、その児童生徒数が少ないことから見てわかるとおり、たとえばある指導方法や教材が最も適切である児童生徒はその学校で一人ということもある。そのための指導方法や教材の開発に教師は多大な努力を払うことになる。それがデータベース化され校内での蓄積や他校との共有が可能になれば、レアーケースであっても、共通して有効なケースがあるかもしれない。そのことによって、教師の労力が軽減でき、その分を児童生徒との触れ合いなど多様な取り組みに充てることができることになる。
データベースの構築や、今回のパナソニック教育財団の助成によって、他校との交流が促進されることは、一県に一校といった盲学校の場合、一般の学校以上に大きな意義があるのである。
3.徳島県立盲学校の実践
全国の盲学校と同様に、本校でも対象となる児童生徒は、年齢的にも障害の状態としても大変幅広いのが実態である。視覚障害は単に視力の問題だけでなく、視野、明暗など様々な側面がある。教室環境ひとつ見ても、教室を明るくすることが必要な生徒と暗い方が適している生徒を、カーテンで仕切って調整をしている。教材などをモニター画面で提示する場合も、その明度や文字の拡大率が一人一人異なる。
今回の取り組みで、生徒個々のIDでログインすることによって、一人ひとりに応じた環境でPCを起動できるようにするために多くの努力を払っているが、学習環境構築の入口として大きな意味を持っているのである。
カリキュラムの検討、教材の作成、データベースの構築はこれからの課題であるが、障害当事者である教員も含めて、チームでの取り組みがスタートしていることに期待したい。