個別のニーズに応じた特別支援教育
特別支援教育は障害のある児童生徒や特別な支援を必要とする児童生徒を対象に、個々の教育的ニーズに応えることをその役割としているが、学校教育法の改正によって、特別支援学校だけでなく一般の小中学校の通常の学級においても特別支援教育を行うこととなっている。
2014年1月、日本政府は長年の懸案であった国連障害者の権利条約を批准した。障害のある人々が社会に参加するための権利を保証し、社会参加を可能にしていこうというものである。学校教育では一人ひとりの教育的ニーズに応じた合理的配慮が行政や学校、そして教師に求められることになる。最大公約数を対象とするだけでなく、個に応じた特別の教育上の配慮を用意することが求められ、それをしないことは差別とされる。
これは幼稚園、小学校から大学までの教育機関ばかりでなく、就労、医療など社会生活全般にわたって適用される。いま、合理的配慮を可能にする有効なツールとして、ICTの活用が期待されている。
盲学校でのICT活用
本校の研究助成は、専攻科の鍼灸・マッサージ師等を養成するコースでのICTを活用した教育実践の試みである。対象となる生徒はいずれも視覚障害があるが、その障害の種類や程度は一人ひとり異なる。またその年齢は、10代から60歳過ぎまでと幅広く、人生のキャリアも様々である。このように多様な生徒の多様な特別支援ニーズに応えるために、ICTの活用が有効である。本校では、個人用ディスプレイに教材を提示する際に、拡大率や輝度を生徒の視力に合わせて調整するなど、印刷教材にない学習効果を生んでいる。また、学校ホームページに学習コンテンツを置いて家庭学習を可能にしたことも大きな成果である。
多感覚を活用した学習支援
特別支援教育でのICT利用のメリットの一つは、感覚モダリティの多様化ができる点にある。人間の認知機能において視覚がもたらす情報量は膨大であり、その視覚に障害がある場合に、視覚以外の感覚をいかに活用するかが鍵となる。本校では、マッサージなどの技術習得に際して必須である人体構造の理解に、模型を多用することによって触覚や運動覚を活用している。
教員のための支援ツールとして
本校には視覚障害のある教員も少なくない。これらの教員が授業を行う際のICT活用には、例えば音声読み上げソフトを使ってパワーポイントの資料を作成・提示するなど、一般の教員の場合以上の苦労があるが、その教育効果もまた大きなものがある。全国の盲学校等への波及効果を高めるためにも、指導事例のデータベース化と共に、障害教員のためのノウハウの集積が望まれる。