この研究の目指すところは、シンキングツール等の考える技法を学年に系統的な位置づけをすることです。そして、シンキングツールとICT機器を組み合わせることによって思考力・判断力・表現力をより一層育てられるのではないかとも考えました。
しかし、研究開始当初は、シンキングツールが十分に活用できませんでした。そこで、財団ホームページにも掲載されている「思考スキルに焦点化した授業設計のためのパンフレット」を参考にしてみたところ、単元の中で、どの場面に思考スキルを考え、どのシンキングツールを使えばよいかがわかってきました。
さらに、研究を進めるうちに、シンキングツールとして3つのものを中心に考えるようになりました。ひとつはマップ。そして、ホワイトボードとタブレットです。
研究2年目の今年は、アンケート調査のほか、シンキングツールの活用が有効な場面を記録するエピソード記録もとっています。この2つを使って、どの学年・どの教科、どの場面での活用が有効なのかを考察していくつもりです。
「広げる」「深める」「つなげる」ということを
3つのシンキングツールの活用としてまとめたい
本校の実践研究を通じて、シンキングツールの活用意図が整理できることがわかってきました。
シンキングツールを使うと、子どもは、イメージやアイデアを拡げたり、考えを構造化することができます。
教師は、子どもの考えを把握できるようになります。
そこには、「広がり」「つながり」といったキーワードがあるので、子どもたちが何を考え、何にこだわり、何につまずいているのかが読み取れるツールにもなるということです。
当実践研究の目的は、シンキングツールの活用ではありません。そのため、今後は3つの項目に絞って、成果を整理していきたいと考えています。
一つは、バリエーション。教科・領域・活用意図がどのように広がっていくのかということです。二つ目は、事例考察。成果と課題を積み重ねていきます。最後は、段階です。学年の段階、あるいは経験値でどう違ってくるのか。つまり、「広げる」「深める」「つなげる」ということを2つのシンキングツールの活用としてまとめていきたいと考えています。
中川 一史 放送大学 教育支援センター 教授
本校の実践研究は「情報編集力」をキーワードに進めています。
情報編集力については、情報を選択する力と選択した情報の中から組み合わせる力の2つで捉えました。そして、情報科を要に、各教科の学習の在り方を明らかにしていきます。
実践研究をする中では、3つの活用類型が見えてきています。一つは、提示することによって、言語活動を活性化できるような拡大機能を用いた授業です。二つ目は、作品や動きを比較・検討することを活性化させるようなタブレットの保存機能を使った授業。三つ目は、学び合いを活性化するネットワークでの情報の相互性の機能を使った授業です。活動の狙いに応じたICTの活用があり、各教科の狙いを達成する上で、その活用が有効であることがわかってきました。
本年度は、各教科などの活動構成の中で、ICTの有効性を考えていき、来年2月の公開研究会を実施したいと考えています。
児童の視点・観点から活動の様子を教師が
見通す方法の整理につながると期待しています
本校には情報編集力をキーワードにしながら、実践研究をはじめる際に「情報編集力」というものをどう捉えるか、整理する時間が必要だったように思います。
情報編集力というと、子ども側の学力に関係することになりますので、その場面を紹介します。
例えば、2年生の図画工作の授業では、黒板に示されている内容をデジカメにもあらかじめ保存しておき、子どもが絵を描くときに、その資料を参考にし、描写方法を選びながら絵を描くという活動をしていました。これは、どのように活動が展開されて、そこでは子どもたちがどのような視点でICTに取り組んでいけば、情報を編集するところに、これまでにない工夫ができるかというを考えた結果だと思います。
このように、教師側からみると、自身によるICT活動に併せて 児童のICT活用を新たに見直しているところが特徴です。そして、 学習活動のデザインにおいて、児童の目線・視点から適切なICT活用を見通し・工夫する意識、力量が教師に必要だと、整理をされているところだと思います。
児童も教師も一緒につくる・えらぶ・みなおす活動ができてくるならば、情報編集力というのはまた新しい展開がみせられるのではないかなと考えています。 児童の視点・観点から活動の様子というのを改めて教師が見通す方法の整理につながるのではないかと期待しているところです。
新地 辰朗 宮崎大学大学院 教育学研究科 教授
今回の助成を受ける前から、伸ばしたい生徒の力を思考力・判断力・表現力として研究をしてきました。その手立てとして、生徒同士の学び合い・磨き合いの場を作ることができないかと考えていて、新たにICTを取り入れることとなりました。
1年目の取り組みとしては、教員全員がICTを取り入れた授業を行うこと、タブレットの導入、生徒のICT活用能力を高めることを意識して進めてきました。そして、これまでの研究の中で、ICTの特性が見えてきています。今後はその特性を活かした新しい授業の創作をしていきたいと考えています。
ICTを取り入れた、学び合い・磨き合いのある学習の継続を進めていけば、個で追及する場面や、考えをまとめる場面、まとめたものを発表する場面が増え、さらに生徒の思考力・判断力・表現力が育成されていくものと信じて、研究を進めてまいります。
日常のICT活用を目指している点と
これまでの学習基盤が良くマッチした学校です
情報化推進のキーとなるのは、「管理職のリーダーシップ」と「情報主任」であることがデータ的に明らかになっています。これを地で行ったのが、葵中学です。本校のように、管理職にリーダーシップがあって、情報主任が具体化する力を持ち、教職員のフォロワーシップが効いている学校というのは、研究の進捗が進みやすいと感じています。
その他の成功要因としては、確立された授業規律、「あおいタイム」というグループワークや意見集約の手法の全学年への浸透と各教科への波及効果、また、生徒への配慮の行き届いた評価などがあげられます。
700名を超える大規模校でのここまでの成功はレアケースです。よそ行きではない日常のICT活用を目指している点とこれまでの学習基盤が良くマッチした学校だと捉えています。
そして、今後は、これから来るべくタブレット1人1台体制の基盤を築けるように、生徒自身が学習場面での課題解決に最も適したツールを選択し、活用できることを目指して研究を続けていただければと考えています。
豊田 充崇 和歌山大学 教育学部 附属教育実践総合センター 准教授
1年目の取り組みとしては、(1)研究のための理論を整理し、(2)優位感覚タイプをみとる方法を確立、(3)教員のICTスキル向上に向けての研修を実施し、(4)授業での効果的な活用を進めて、これらを土台に、(5)優位感覚タイプに応じたICT活用の事例検証を進めてきました。
優位感覚というのは、視覚、聴覚、体感覚のどの感覚を通して物事を認識する傾向があるかということ。生徒それぞれの優位感覚を分析し、タイプに応じてICTを活用することで支援の工夫を考えていくのが、本研究です。
研究2年目となる今年は、これまでのICT活用をしたターゲットパーソンへの支援に効果があったかどうかをインタビューし、事例検証を積み上げています。
ICT活用の3段階を良く理解したうえで
実践研究に取り組んでいます
本校の研究はICT活用の3段階の研究に入りつつあります。1段階とは、とにかくICTを授業に使う段階。2段階とは、どういう授業場面で、どのようにICTを効果的に使うかを考える段階。そして、3段階とは、どういう子どもに、どのようにICTを使うかを考える段階です。本校の研究は、この3段階まで視野に入れていることに大きな意義があります。
さらに、指導案に工夫がみられることや、学習スタイルチェックシートを独自に作成し、その項目を教職員全員で何度も検討、改良を繰り返している点が評価できます。
今後の課題は、(1)ICTを活用した授業場面での生徒の内面過程(認知・情意過程)を把握する必要があるということ。(2)ICT研究を積み上げていくと同時に、他校への発信を考えることです。
本校の小規模校ならではの特性を活かしながら、研究成果が深まることに期待しています。
吉崎 静夫 日本女子大学 人間社会学部 教授
特別支援学校には、多様な課題を抱える多様な実態の児童・生徒がいます。そのため、実際の指導にあたっては、多種多様な教材・教具が必要です。しかし、これまで、その教材・教具の蓄積は個人レベルというのが現状でした。そこで、これをデータベース化し、学校レベルで共有すること、さらにネットワーク化することで奈良養護学校以外でも幅広く活用することを目的に、取り組みを始めました。
研究の期間は5年間で、最初の3年間では、自立活動の充実を目指しました。財団の助成を受ける平成25・26年の2年間では、確かな学びを育む授業についての検討を進めています。そして、これまで得られた成果を広く役立てられるようにと、教材共有ネットワーク(TMSN)をつくりあげました。この取り組みでは、本校だけでなく、他校や施設を訪問して実際のニーズを汲み取りながら、データベースの充実に努めています。
これからも、教材共有ネットワークをさらに充実させて、多くの方に利用していただけるように、情報発信を積極的に行っていく予定です。
6つの課題を解決しながら、
順調に研究成果を明示できています
奈良養護学校は、研究2年目を迎え、ほぼ順調に研究課題がこなされていると思います。
課題は以下の6つです。
1・2・5については、教材共有ネットワークシステムが立ち上がり、成果を実装して、現在稼働しており、多くの方が利用されていると聞いています。
ただ、3については、若干ですが活用の広がりがないようにも感じています。奈良養護学校内をはじめ、近隣の学校に働きかけ、連携をするなど、継続した教材開発が望まれます。
このようなネットワーク化されたデータベースは新たな情報の蓄積と普及活動による浸透が求められます。
そのためにも、奈良養護学校の教職員が一丸となって、今後も研究に取り組まれることを願っています。
※堀田先生は、成果報告会当日ご欠席のため、会場ではメッセージを読み上げました。
堀田 博史 園田学園女子大学 人間健康学部 教授