実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

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パネルディスカッションテーマ #03 第38回 特別研究指定校 成果発表  川崎市立平小学校 /京都市立一橋小学校
高槻市立芝谷中学校/福岡県立戸畑高等学校/徳島県立盲学校 

川崎市立平小学校の発表

川崎市立平小学校

情報活用能力の育成には、まず私たち教師がその能力をフルに発揮すること。つまり、教師が変われば、子どもも変わると実感しています

本校での取り組みの全体像は、(1)日常的に使える環境の整備、(2)日常的な授業改善、(3)情報教育のカリキュラムづくり、という3つの要素に集約できます。

なかでも、日常的な授業改善では、4つの工夫をしています。ひとつが、「日常的なプチ研修」です。短い時間でも気軽な研修を行っています。

二つ目は、「みんなで取り組む先行授業」。本校では教員が集まり、授業について考える風景は日常的です。実践研究期間中に実施した50本を超える研究授業すべてで、このような取り組みを行いました。

三つ目は、「部会だより・ポスターセッション」です。本校では、授業研究の際に、参観者にみていただきたいポイントを部会便りにまとめています。

最後は、「ワークショップ型の研究協議」。研究授業後の研究協議を分科会と全体会の2つにわけ、ワークショップの形式で行いました。これらの工夫により、私たち教師は共に悩み、考えを出し合うという日常的で協同的な学び合いができたと感じています。また、このことが学校全体の雰囲気をとても良いものにしていったような気がしています。

私たちの取り組みが、少しずつ子どもたちを確実に変えています。情報活用能力育成のためには、まず私たち教師が情報活用能力をフルに発揮していくことが大切です。つまり、教師が変われば、子どもも変わる。これが2年間の取り組みの中での実感です。

野中陽一先生

アドバイザーアドバイス


先生方が研究の過程で協働して学ぶことを楽しみ
その経験が授業実践に反映されました

実践研究を始める当初、先生方には次の3つのことを強くお話しました。
それは、(1)ICT機器の活用を研究するのではないこと、(2)カリキュラムの開発はゴールではないこと(その過程で授業改善を継続することが重要)、(3)子どもたちに情報活用能力を身に付けさせようと思ったら、教師の情報活用能力も不可欠ということです。

先生方には、戸惑いもあるようでしたが、平小のスキルを定めると、それぞれが情報教育について共通理解できるようになったようでした。

本校の特徴は、カリキュラムで育成すべき能力に対して、どのような学習活動や先生の手立てが必要なのかということを中心に、実践研究を積み重ねてきていたということが一つ。また、研究推進リーダーを2人体制として、先生方のチームワークの良いということです。さらには、教育センター指導主事や研究者の先生方を巻き込み、みんなで調整したり、カバーしながら実践をしたのも、成功要因のひとつだと考えています。なかでも、子どもも先生たちも情報活用の実践力の向上を実感していて、特に先生方は、実践研究の過程で協働して学ぶことを楽しみ、その経験が授業実践に反映されました。さらに研究成果に自信をもって、他の学校や地域に紹介し、広めているという成果が生まれたと、私は解釈しています。

※この文章は、パネルディスカッションにて担当校の実践研究についてご講評していただいた内容をまとめたものです。

野中 陽一
横浜国立大学 教育人間科学部附属教育デザインセンター 教授

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京都市立一橋小学校の発表

京都市立一橋小学校

研究成果である小中一貫カリキュラム・実践事例集・学習支援カードを、さらに広げる取り組みを続けています

本校では、情報を主体的に集め、論理的に思考する力を育成するために、国語科と算数科に絞って研究を進めました。さらに、情報活用の力を「集める」「まとめる」「伝える」に分類し、この中でも、情報を集める力に重点を置いて研究をしてきました。

そして、この「集める力」を育成するために、教師が意識することと、子どもが意識することの両面から実践を考えました。

教師側では、情報活用の実践力がどのような力であるかが明記された京都市による「情報教育スタンダード」を活用し、授業を組み立てました。一方、子ども側としては、情報活用の実践力を子どもたちがわかる言葉でまとめた学習支援カード(パワーチェックカード)を作成・配布して、実践研究を推進していきました。

これらの取り組みにより以下のような成果を得ています。

  1. 情報活用実践力の 小中一貫カリキュラムの開発
  2. 実践事例集の完成
  3. 学習支援カードの開発と活用

一橋小学校は閉鎖となり、3小学校・1中学校が合併し、東山泉小中学校となった現在、小中一貫カリキュラムを受けて、9年間を見通した学びに各教科で取り組んでいます。また、京都市では、一橋小学校での実践研究を市全体に普及させる活動を行っています。

堀田龍也先生

アドバイザーアドバイス


2年目に実践の教科を絞ったことで、情報活用の実践力を育成する授業を組み立てられました

一橋小学校の成果は大きく分けて、二つあります。一つは、本校が一貫して活用してきた学習支援カードの存在。 もう一つは、本校の研究の結果として、導き出された小中一貫カリキュラムとしての情報活用の実践力の系統表です。

情報活用の実践力の期待値を学年ごとに具体的な文として書き出し、関連する文をカテゴリーごとに線でつないでいくことで、情報活用の実践力の系統性が明らかになりました。

しかし、実践研究1年目の最初は混乱の中にあって、情報活用の実践力の定義は抽象的、かつ曖昧であるため、教員間で同じ能力イメージを持つまで、随分と時間がかかったように思います。 また、情報活用の実践力が幅広い能力なので、1時間の授業で身についたかどうかを検討することは困難で、授業研究として取り組むことが難しかったようです。 このことから、一つ一つの実践がはたして、研究として収斂していくのかについての不安も見られました。 しかし、2年目に、教科を絞ったことにより、算数科では、情報の取り出しを中心とし、 国語科では情報の整理と発信、そのための言語活動の充実を中核に据えることで、教科の目標を達成しながら情報活用の実践力を育成する授業を組み立てることに研究が包括されていきました。

※堀田先生は、成果報告会当日ご欠席のため、会場で読み上げられたメッセージをもとにまとめました。

堀田 龍也 東北大学大学院 情報科学研究科 教授

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高槻市立芝谷中学校

高槻市立芝谷中学校研究テーマ

ICT活用の目的を明確にするために、
STEP1・2といった授業設計をし、授業改善に取り組みました

実践研究1年目。私たちは大きく挫折しました。なぜかというと、ICTが使えればそれでよいという考えが強かったからです。本来、大切にしなくてはいけない授業設計ができていなかったと、反省しました。そこで、2年目からは、先生方それぞれが、ICT活用の目的を明確にできるように、教科会議を重視。授業をする前に、先生はどういう目的で授業をするかに重点を置いた、STEP1・2という段階的な授業設計をしました。

STEP1は「教師がICTを使い、わかりやすい授業を目指す」、STEP2は、「ICTを使い、生徒同士がつながる授業を目指す」をテーマにしています。

さらに、助成期間が終了し、研究3年目となった今年は、STEP3として、「生徒がICTを発表のツールとして使う授業を目指す」を定めて、取り組んでいます。

そして、これらの取り組みの成果でしょうか、学校自己評価生徒アンケートを実施したところ、「わかりやすく楽しい授業が多い」や「教え方や教材を工夫している先生が多い」という意見の比率が年々高まっています。

今年度と来年度は高槻市学校教育推進モデル校として研究を進めることとなりました。これまでの研究成果をさらに定着・普及できるように実践研究を継続していきたいと考えています。

寺嶋 浩介先生
長崎大学大学院教育学研究科
准教授

アドバイザーアドバイス


先生同士の交流する場を設ける工夫をすることで
研究を発展させ、その成果の共有を進めました

芝谷中学校の特徴は、授業研究文化があまり浸透していない地域で、若手教員がかなり多い都市部の中学校としてみんなで一歩踏み出し、ICTを活用した授業をまず実施してみることからスタートしたこと。さらに、教科内や教科を超えた教員間で連携し、工夫をしつつ、授業を改善していったことです。そして、次のような成果を生み出しています。
それは、(1)ICTを活用した授業バリエーションの広がり、(2)研究会や冊子などを通して、積極的に取り組みを公開、(3)地域の拠点校になりつつつあるなどの成果です。本校での取り組みがもととなり、高槻市によるICT基盤整理が進みました。

学校でのICT活用の進め方としては、STEP1で、一斉指導、わかりやすい授業のためのICT活用を進めたところに特徴があります。加えて、2年目以降は、STEP2で、一斉指導の割合が多い中学校の授業を見つめなおして、授業の改善を図りました。今年は、STEP3を設けて、それを少し発展させています。

先生同士の交流する場を設ける工夫をすることで、研究を発展させ、その成果の共有を進めることができた2年間だったと感じています。

※この文章は、パネルディスカッションにて担当校の実践研究についてご講評していただいた内容をまとめたものです。

寺嶋 浩介 長崎大学大学院 教育学研究科 准教授

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福岡県立戸畑高等学校

戸畑高等学校研究テーマ

授業者が生徒の実態から自身の授業の課題を踏まえることによって、ICTはその課題解決の大きな手立てとなりえます

本校は、生徒の6割程度が国公立に進学する学校です。新学習指導要領の実施に伴う学習内容の大幅な増加に反して、生徒たちの思考力は低下しているという現状の課題を解決するために、本校の財産となりうるデジタル教材の開発研究を行うことにしました。

助成を受ける前は、教室のLANが活用されておらず、演習の板書に時間がかかるだけでなく、教員一人ひとりがそれぞれの授業展開をしていたため、知見の共有等ができていない状況でした。そこから、8つの取り組みを始めました。

それは、(1)ノートパソコン・プロジェクタの整備、(2)各教科で制作した教材のデータベース化、(3)教科内で分担して教材を作成、(4)反復学習ができる教材を作成、(5)デジタル教科書の説明会・教材づくりの講習会、(6)復習プリントや反転学習用教材をホームページからダウンロードできる仕組みづくり、(7)ICT研修会・公開授業、(8)英語による課題研究発表会の8つです。

ICTの活用は、すぐに授業改善になるものではありません。しかし、授業者が生徒の実態から自身の授業の課題を踏まえることによって、ICTはその課題解決の大きな手立てとなりえます。ICTを活用することで、説明をシンプルにわかりやすくすることができますし、そこに生徒の活動を入れることに成功すれば、生徒の顔は常に上がり、そして、思考し、参加している授業となります。

2年間の取り組みの中で、目標としていた300を優に超える400もの教材を作成することができました。そして、時間的、空間的に共有できる「普及型教材の開発」が実現し、大きな成果となりました。

影戸 誠 日本福祉大学 国際福祉開発学部 学部長 教授

アドバイザーアドバイス


先生と生徒に焦点を当てた学校教育力の2つの戦略は進学校のモデルとして非常に良い成功事例です

本校の特徴は、学校教育力として、対先生、そして生徒の意識を常に確認しながら展開をしたということです。この先生と生徒に焦点を当てた学校教育力の2つの戦略は、進学校のモデルのひとつとして非常に良い成功事例だったと思います。

戸畑高校の先生方は、チョーク一本で良い授業をされていました。しかし、なぜICTを使うのかというと、生徒たちの集中力と理解度が高まることを実感されているからです。常に生徒目線で展開をされていたと言えます。進学校ということで、センター入試が念頭にあり、そこで成果を出すということが求められていた高校の実践だったと感じています。

今後は、センター試験を念頭に置きながら、生徒の参加を組み入れていくことが課題です。先生が教科書の内容をしっかり伝える縦型の指導も大切ですが、さらに生徒同士がコミュニケーションを取りながら新しい知を発見する横型のモデルができてくると良いと考えています。

※この文章は、パネルディスカッションにて担当校の実践研究についてご講評していただいた内容をまとめたものです。

影戸 誠 日本福祉大学 国際福祉開発学部 学部長 教授

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徳島県立盲学校(現:徳島県立徳島視覚支援学校)

徳島県立盲学校研究テーマ

特別支援教育の先端的な取り組みとして
その成果を全校に発信し、ノウハウの共有を促進していきます

本校の生徒の多くは弱視で、弱視と一言でいっても、見え方が大きく異なっています。例えば、ピントが合わなかったり、視野が狭かったり、中心部分が見えなかったりと、さまざまな疾患があります。そのため、教員は個々に応じた教材を配布したり、生徒は自分にあった補助具を使って学習していました。しかし、その見え方は日々変化していることから対応しきれない時がありました。

そこで、ICT環境を整え、ホームページを活用した自己学習システムを構築することにしました。ICTを使うことによって、資料をデジタル化し、資料の大きさや色を自由に変えられるようにすることで、生徒の学習効率が上がると考えたのです。2年間の実践研究を通して学習に有効なデジタル教材が作成でき、生徒の利用が促進されました。

ICTは、視覚に障がいのある者にとって、学習のみならず、生活に欠かせないものとなってきています。この活用の広がりが、ひいてはQOLの向上につながると感じています。

この研究が特別支援教育の先端的な取り組みとして、他の小学校などの弱視学級や難聴学級の支援になるうえ、子どもたち自身の社会自立の一助になると考えて、これからも本校の成果を全校に発信していくとともに、ノウハウの共有をしていきたいと考えています。

金子 健 明治学院大学心理学部 教育発達学科 教授

アドバイザーアドバイス


支援の個別性が高いだけにその成果を
定着・普及させることが今後の課題になります

特別研究指定校として、特別支援学校が選ばれたのははじめてのことでした。対象となる生徒は、視覚障がい者となりますが、障がいの程度がバラバラな上、10代から60代と幅広い年代が集まっています。それだけに、取り組みの要となるのが「支援の個別化」です。これに対して、提示の仕方を工夫したり、模型を利用してわかりやすくしながら進めていきました。しかし、個別性が高いだけに、定着・普及については難しい部分があるかもしれません。今後は、この個別化した指導のデータを蓄積していくことが求められます。

今回の研究にあたって、見えにくいものを見やすくすればよいということだけでなく、見えない部分をほかの聴覚や、運動感覚で保証し、それを統合していくことが必要だと助言してきました。これは小中学校などでのICT活用でも同じことかもしれません。とかく、画面の上での見え方にこだわるのではなく、体を動かすということです。いろいろな感覚を統合して、それを活用して概念化を図り、統合して学習を進めることの必要性を盲学校でも特に配慮していただきました。

※この文章は、パネルディスカッションにて担当校の実践研究についてご講評していただいた内容をまとめたものです。

金子 健 明治学院大学 心理学部 教育発達学科 教授

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成果報告会開催レポートメニュー

01ご挨拶イメージ

挨拶

主催者挨拶: 赤堀侃司
パナソニック教育財団
常務理事/白鴎大学 教授

来賓ご挨拶: 豊嶋基暢氏
文部科学省
生涯学習政策局
情報教育課長

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02第39回特別研究指定校による中間発表

第39回特別研究指定校
中間発表

  • 板橋区立上板橋第四小学校
  • 福岡教育大学附属
          久留米小学校
  • 岡崎市立葵中学校
  • 世羅町立世羅西中学校
  • 奈良県立奈良養護学校

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第38回特別研究指定校
成果発表

  • 川崎市立平小学校
  • 京都市立一橋小学校
  • 高槻市立芝谷中学校
  • 福岡県立戸畑高等学校
  • 徳島県立盲学校

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□番外編「Q&A」を読む

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パネルディスカッション CHECK

テーマ「学校において実践研究を定着・普及させるための秘訣  ~特別研究指定校の取り組みを通して~」

  • パネリスト:野中 陽一(横浜国立大学 教授)
  • 寺嶋 浩介(長崎大学大学院 准教授)
  • 影戸誠(日本福祉大学 教授)
  • 金子健(明治学院大学 教授)
  • コーディネーター:木原俊行 (大阪教育大学 教授)

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講評・まとめ、情報交流会

総括

吉崎 静夫 
(パナソニック教育財団
 評議員
 日本女子大学教授)

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情報交流会

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