#05
パネルディスカッション
テーマ
「学校においてICTを活用した実践研究を定着・普及するための秘訣」
[パネリスト:第39回特別研究指定校アドバイザー]
中川一史(放送大学 教授)
新地辰朗(宮崎大学 教授)
豊田充崇(和歌山大学 教授)
吉崎静夫(日本女子大学 教授)
[コーディネーター]
影戸誠(日本福祉大学 教授)
佐藤慎一(日本福祉大学 教授)
成果報告会の後半では、特別研究指定校アドバイザーの先生方によるパネルディスカッションが行われました。ICTを活用した実践研究を定着・普及していくための秘訣をテーマに、校内体制づくりや研究推進時の留意点、成果を上げるためのポイントなどについて、それぞれの視点から提案していただきました。
ベテランと若手が融合した教師集団づくりを
今回の議論は、フィッシュボーンと呼ばれるシンキングツールを使って、パネリストの発言を整理しながら進行しました。コーディネーターの影戸教授が、定着・普及に必要な要因として提示したのは、「モデル化」「広報・伝達」「他校の欲するもの」「エビデンス」の4点です。
まず、「モデル化」のアイディアとして吉崎教授は、世羅町立世羅西中が取り入れているような「ICT」の項目を追加した指導案を例示。「ICT活用の場面やねらい、対象とする生徒を明確にすることで、活用の質が高まる」と提案しました。
研究を推進する体制づくりを解説した新地教授は、「大事なのは校長のリーダーシップと、授業力を高め合う教師集団の形成。特に若手とベテランの融合がポイントになる」とし、ベテランが持つ授業デザイン力と、若手が得意とするICT活用力がセットになることで教師集団の授業力が上がっていくと話しました。
豊田教授は、アドバイザーを務めた岡崎市立葵中の事例を基に、中学校での研究体制のあり方について言及しました。ICT活用を学力形成に必須のものとして重く位置づけたことや、全教員による研究授業とそれを支える研修体制、日常化して使える環境づくりなどの連動が成果につながったと分析。「一斉指導を大きく変えようとせず、それをベースにしながらICTを少しずつ取り入れて変えていくことが重要」と述べました。
支援体制づくりでは、子どもの力も活用を
校内でのICT活用をサポートする上で、ICT支援員の存在は大きいです。しかし支援員がいない環境だからと活用をあきらめるのではなく、むしろ子どもに手伝ってもらうことも大切です。機器の準備やメンテナンスまで、子どもの係や委員会が行っている学校もありますし、機器操作の得意な子どもが周囲に指導するといったことも可能です。その意味でも、子どもが自由にICT機器に触れられる環境づくりが重要です。
エビデンス選びの観点は、「説得力」と「実感」
中川教授は「他校の欲するもの」について、「参考になるのはグッド・プラクティス。しかし、多くの学校が陥りがちな活用を知っておくことも大切」と指摘。また、成果を他校に普及するためのポイントとして、「情報担当のミドルリーダーの振る舞い」を挙げました。
「広報・伝達」については、吉崎教授が「教育委員会との関係づくりが重要」、新地教授は「地域の先生方向けの研修の開催や、地域の研究会との結びつきを生かした広報も考えられる」としました。
「エビデンス」に関しては、中川教授が、「研究テーマを乗り越えたことを物語る上で、どのエビデンスを使えば説得力があるかという観点の他、教師が実感できるものであることも大切」と説明しました。また、吉崎教授は「ICTを使って効果があった場合とあまりなかった場合の違いはどこにあるのか。多くの事例を整理したうえで、上手くいかなかった要因を考察する作業も必要だと思う」と提言しました。
1人1台のタブレット環境に備えるために
1人1台のタブレット環境の実現が近づいています。教室内のツールには、黒板のようなパブリックなものと、ノートや教科書のようなプライベートなものがありますが、1人1台タブレットは、ある時はプライベートで、ある時はパブリックになるツール。だから扱いが難しく、授業設計への組み込みに難儀するのです。パブリックとプライベートの行き来を整理することが、1人1台環境に備えるひとつのカギになると考えています。
一般助成校にも専門家によるアドバイスの機会を
特別研究助成の素晴らしさは、期間の長さだけでなく、アドバイザーがいることです。学校は本当に必要な人に指導を受けられない環境にあるものです。だからこそ、専門家に定期的に指導してもらえることには大きな意味があります。残念ながら一般助成校にはアドバイザーがつきません。ですから一般助成校の先生方は、こうした成果報告会などの場を、アドバイスを受けるチャンスとしてぜひ活用してほしいと思います。
他校への普及につながるエビデンスを求めたい
この議論でも数多く言及されたエビデンスは、他校への普及という点でも重要です。自分たちもこんな実践をしたいと考えたとき、「この実践にはこんなにいいところがある」ということを、管理職や職員会での提案時に示せるデータが必要。アンケートやインタビューの結果を研究成果報告書に加えることは、自校の実践の成果を他校にも広げることにつながるのです。フィッシュボーンツールを埋めた各要素は、研究指定校の先生方の汗の象徴です。この成果を、ICT活用の実践研究の普及・定着のために、他の学校でもぜひ活用していただきたいと思います。
従来実践と新たな研究課題を組み合わせて
実践研究のモデル化では、明確な意義やビジョンの共有化が大前提になります。その上で、各校がこれまで取り組んできたことと、新たなに取り組むことを上手く噛み合わせることが重要。福岡大附属久留米小でも、従来から行ってきた学び合いの研究と、研究助成によるICT活用という新たな課題を巧みに接続しています。新規な研究としてではなく、これまでの実践の発展形として捉えられるようなモデルを校内に提示することが大切です。