実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

活動情報/第35回特別研究指定校活動情報/第35回特別研究指定校

横浜市立立野小学校の活動報告/平成22年度8〜12月
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ICT活用の定着

 機器操作の研修や授業研究会、そして日常の授業でICT活用を模索していく中、本校でのICT活用の形が見えてきた。それは、「子どもと材、子どもと子どもをつなごうとするとき」にICT活用の有用性を実感できたことである。これを本校の研究テーマと重ね、整理した。このことにより、教師の中でICTを活用する意図が明確になり、教科を問わず様々な場面でICTを活用する様子が見られるようになった。

研究発表会の開催

 10月29日、全国より300人を超える参加者を招いて、研究発表会を行った。発表会は、公開授業・各部会(ICT・社会科・生活科)での協議会・全体会としてのシンポジウムを行った。公開授業は10学級が行い、その内5学級がICT部会としての授業を行った。ICT部会(講師:和歌山大 豊田先生、富山大 高橋先生)では、授業の本質を高く評価していただく意見が多く聞かれ、そのような授業の中でICTを効果的に活用しているからこそ子どもの学びが本物になっている、との感想もいただいた。このことは、教師の一方的な伝達手段としてのICT活用ではなく、本校の目指している「『自分ごと』になるため」や「かかわり合う力を育てるため」のICT活用を、ある程度提案することができたからではないかと考える。
 シンポジウム(コーディネーター:横浜国大 野中先生 シンポジスト:文科省 澤井先生、関西大 黒上先生、玉川大 堀田先生、慶応大 鹿毛先生、本校研究主任 赤羽) では、「自分づくりに向けた学びの創造 〜教科の学びとICT活用〜」とテーマを掲げ、それぞれの先生方からご指導をいただいた。本校の学校教育目標「意欲・熱中・満足」を目指した「子どもの心に火を灯す」教科教育、その中で今後もICTを活用していく方向性を、あらためてご示唆いただいた。

実践経過

8月 7日  成果報告会参加
29日 研究発表会(10/29)の指導案・紀要原稿チェック
31日 第6回授業研(9/16)の指導案検討
9月 2日  ICT部会 研究会の部会提案を検討
7日  ICT部会 研究会の部会提案を検討
16日 第6回授業研究会
   (1年・2年・3年・4年・5年)
   <ICT部会講師> 
   大阪教育大学 木原先生
   関西大学 黒上先生
   横浜国立大学 野中先生
24日 玉川大学 堀田先生来校、視察
10月 14日 ICT部会 研究会の部会提案最終チェック
25日〜28日 発表会準備
29日 研究発表会
11月 2日  ICT部会 研究発表会反省取りまとめ
5日  重点研究推進委員会 今後の方向性を確認
9日  重点研究推進委員会 研究発表会振り返り
11日 重点研究全体会 研究発表会振り返りと今後の方向性を確認
18日 第7・8回授業研(12/2)の指導案検討
12月 2日  第7回授業研究会(音楽・総合)
14日 第8回授業研究会(算数・特活)
 

成果と課題

●成果

・教員の積極的なICT活用
 ICTを活用する意図を明確にしたこと、どのクラスにもある大型ディスプレイとの組み合わせで実物投影機を整備したこと、などにより多くの教員が積極的にICTを活用するようになった。
・本校のICT活用を発信
 発表会のICT部会の中で、板書記録や子どものノートなどアナログ的なものをデジタルで見せるよさについて協議することができた。併せて、シンポジウムで、学びの本質をめざした授業づくりを価値付けていただき、その中でより良いICT活用を目指す、という本校のICT活用のとらえ方についての考えを発信することができた。

 
 
●課題 ・子どもが自分の考えを加工・発信
 まず、日常の授業・学校生活の中で、子どもが「自分なりの意見・まとめ」をもてるよう教師が今以上に取り組んでいく必要がある。その上で、子どもがICTを活用した情報の加工・発信などに取り組むことで、子どもの意欲をより高める学習活動を行えるのではないだろうか。
機器整備
 多くの教員がICTを活用することで、ICT機器の整備や消耗品の補充が必要になってきた。整備については、担任を行いながらの活動となるため時間の確保や機器の専門性への対応など、学校独自に取り組むには限界を感じる面もある。また、消耗品についても予算の確保や、より効率よく無駄のない使用を日頃から意識していく必要がある。
・研究成果の数値化
 夏の成果報告会でも指摘されたことであり、昨年度来からの懸案事項であるICT活用による成果の数値化には踏み込めていない。これは子どもの活動や意欲、教師の手応えを数値化する技術を確立させていないためである。子どもや教師へのアンケートの分析などに今後も引き続き取り組んでいくとともに、既存の学習状況調査なども活用してきたい。
 

裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

○研究会後・・の授業公開?
 研究発表会には、多くの著名な講師の先生方に来校いただいた。そのため全国から参観者も多く、研究会後も講師の先生や参観者から話を聞いたという教員や学生、企業などからの問い合わせが相次ぎ、学校訪問や授業参観を行いたいという要望もあった。担当として私も学生の方に授業を見ていただいた。時間割の関係で、これまで研究で取り組んできた社会科ではなく国語を公開したが、実際授業を行ってみると子どもも私も違和感なく、いつものようにICTを使った授業を行えた。私以外の教員も授業だけでなく、保護者懇談会や研究会など様々な機会でICTを活用している場面を多く見かける。
 「つなげるICT」が浸透してきていることを肌で感じる今日この頃である。
 

解説と講評

コメント:横浜国立大学 准教授 野中陽一 先生

 2008年10月の立野小学校のICT活用状況は,「日常的に活用している」担任は一人もおらず,「時々活用している」が27%,「数回活用したことがある」が35%,そして,「活用したことはない」が38%であった。2010年7月の調査では,全員が「ほぼ毎日」(73%)あるいは「週1回以上」(27%)活用しており,学校全体でICT活用の日常化が実現した。

 この背景には,2009年12月「学校ICT環境整備事業」の全学級へのデジタルテレビの整備,2010年7月の全学級への実物投影機の整備がある。

 ICT活用に対する意識の変化も顕著であった。実践を通して「大きく分かりやすく見せることができる」というICT活用のメリットや効果を実感し,「実物投影機で子どものものと同じものを映すとわかりやすい。」,「拡大提示により子どもが集中する,視線が揃う。(それを確認しやすい)」,「子どものノートやワークシート等を拡大提示すると学習意欲が高まる。」といった気付きが生じている。

 多くの教員が「授業スタイル,流れは変わらない。」と述べていることから,これらの効果がこれまでの授業スタイルを踏襲したまま,つまり教員にとって授業の設計や実践において,大きな変更を迫られることなく,負担とならないかたちで生じていたことがわかる。また,計画的な活用から必要に応じて随時活用することが常設環境によって自然に生じていることや,教員も子どもも活用することに慣れ,積極的に活用しようと考えるようになったという意識の変化も見られる。

 活用の中心は,「実物投影機で教科書やノート・作品を映す」ことである。研究当初,電子黒板を追加3台導入したものの,2010年7月には全学級に実物投影機を整備することを多くの教員が要望したことからも,実物投影機のニーズが高かったことがわかる。教員が実際に活用した上でICT機器を選択し,整備を進めていくことも普及要因の一つであると考えられる。常設することで,教員がICT機器を含んだ教室環境の見直しを行い,活用するための工夫を重ねてきたことも重要なポイントの一つであろう。ICT機器の設置や活用の工夫は,研究授業の機会が多く,教員がお互いにICT活用の場面を見ることが可能だったことで広まっていった。日常的な活用や授業研究を通して,ICT活用の体験,便利さ,効果を全員が共有できたのである。

 なお,対象校の校内研究のテーマはここ数年一貫して「ともにかかわり合いながら「自分づくり」を進めていく子の育成」であった。特に研究授業では,学級全体での話し合い活動の場面が重視されていたことから,教員だけでなく児童も発表に使っている割合が高く,「子どものノート等を提示して共有化が図れ,子ども同士のかかわり合いが生まれる。」ことが重視されてきた。この点は,立野小学校のICT活用の特徴が現れている部分である。

 立野小学校のICT活用は,「慣れ親しむ」「試用する」段階を超え,デジタルテレビと実物投影機を中心としたICT機器が教室環境に埋め込まれ,印刷メディアや黒板と並び日常的な授業に「統合」されている段階にある。ICT機器の導入,活用は,従来の授業スタイルに埋め込まれてはいるが,「新しい方向づけ」や学校全体の教育システムに大きな変容が生じている訳ではない。学校研究として継続的に取り組んでいる「ともにかかわり合いながら「自分づくり」を進めていく子の育成」のための授業改善の方向性に沿ったICTを含んだ学習環境の構成とICT活用を含んだ指導が充実しつつある過程である。

立野小学校の取り組みは「ICT活用で学校や授業が変わる」ことを目指していはいない。「ともにかかわり合いながら「自分づくり」を進めていく子の育成」のためにICTをどのように埋め込んでいくか,という研究である。

 次のステップは,さらなる授業の質の向上であり,実物投影機と同様に多くの教員のニーズに合ったICT機器が現れない限り,新たなテクノロジーの導入、定着はないだろう。

 本稿は,下記の論文の一部を編集、加筆したものである。
 野中陽一, 山田智之, 中尾教子, 高橋純, 堀田龍也(2010)普通教室のICTが活用されるまでの過程に関する事例研究,日本教育工学会研究報告集, JSET10-5, pp.135-140

 なお,10月29日の研究発表会については,財団のWebページで詳しく紹介されているので,下記を参照していただきたい。  http://www.Pef.or.jp/20_diary/2010/diary_20101105a.html

 
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