実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

第37回特別研究指定校(活動期間:平成23〜24年)

西宮市立北六甲台小学校の活動報告/平成23年度4月〜7月
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セールスポイント

  • デジタル教科書をいつでもすぐ使用できる環境づくり
    各学年の情報教育推進委員が中心になって、学校共用パソコンと各クラス設置の教育用パソコンに、国語(書写含む)・算数のデジタル教科書をインストールし、いつでもすぐにデジタル教科書を活用できる環境整備をした。

  • デジタル教科書を使った授業研究の実施(6年国語と算数)
    5月30日、6月13日とデジタル教科書を活用した授業公開を実施した。デジタル教科書の機能、活用の仕方の啓発ができた。その後、全担任がデジタル教科書を活用した授業を実施した。

  • デジタル教科書の実践事例集(国語・算数)の作成
    各担任が効果的であった授業を一つあげ、それを1学期の実践事例集としてまとめた。

  • デジタル教科書「活用一覧表」(1学期分)と活用した場面での「振り返り」(1学期分)の作成
    1学期の教材で「活用できそうな場面・機能」を一覧表にし、活用の手引きとした。また、活用後の「振り返り」を一覧表にまとめ、今後の参考になるようにした。

  • デジタル教科書、フラッシュコンテンツを使用した「基礎・基本の時間」の実施
    全校で週1時間実施している「基礎・基本の時間」にデジタル教科書、フラッシュコンテンツを使用した。

実践経過

4月
  • 「基礎・基本の時間」全体研修会
  • 情報教育推進担当者が、全教員に「基礎・基本の時間」におけるデジタル教科書活用例を提示後、実際に操作してみる。

 
5月
  • デジタル教科書活用研修会 
  • デジタル教科書全体研修会
    (株)東京書籍の担当者を講師に迎え、全教員がデジタル教科書の説明を受けた後、実際に操作してみる。
  • デジタル教科書体験自主研修会
    若手教員中心の自主研修会であったが、ベテラン教員も加わり、ほとんどの教員が参加する研修会となった。 

  • デジタル教科書を活用した授業研究会
  • 5月30日(月)6年 国語「イースター島にはなぜ森林がないのか」
  • 導入…挿絵のモアイ像の「挿絵拡大提示」、イースター島の「説明の視聴」〈写真@〉
  • 展開…本文を要約させるために、キーワードに「付箋」を付けて注目させる。本文の理解を深めるためのイースター島の「説明の再視聴」。
  • 終末…「筆者からの動画メッセージ視聴」など、   
  • 校内で初めてデジタル教科書を活用した授業研究会を実施した。
    〈写真@〉
6月
  • フラッシュコンテンツを活用した外国語活動全体研修会
  • 櫻井苦楽園小学校校長先生を講師に迎え、師範授業参観後、研修会を実施した。

  • デジタルカメラ活用全体研修会(校内体育実技研修会と兼ね)
  • (株)casio計算機の担当者を講師に迎え、全教員が体育の授業時のデジタルカメラの有効な活用法の説明を受けた。その後、体育実技研修会を行い、実技研修の様子を実際にデジタルカメラで撮影した。

  • デジタル教科書を活用した授業研究会
  • 6月13日(月) 6年 算数 「対称な形」
  • 授業で使用する教具を挿絵からプリントアウトして提示。
  • アニメーション機能を使った確かめ(線対称な図形を対称の軸を折り目にして折り重ねる動画)。〈写真A〉
  • 教科書の定義をプリントアウトして提示。
  • 対称な図形(教科書にある挿絵)にマーカー機能を使って対称な軸を児童に書き込みさせる。
  • 教室にある身近な対称な図形をデジタルカメラで撮り、書画カメラで拡大提示。
  • 見つけた形を書画カメラで黒板に拡大提示し、提示した形に対称な軸を児童にチョークで書き込ませる。
  • 〈写真A〉

    デジタル教科書、デジタルカメラ、書画カメラなど、ICT機器をいろいろと盛り込んで、市内公開授業研究会を実施した。 

  • 電子黒板活用全体研修会 
  • (株)EPSONの担当者を講師に迎え、全教員が電子黒板の説明を受けた後、実際に操作してみる。

7月

 

  • デジタル教科書を使った授業実践例集(1学期分)作成
  • 各担任が効果的であった授業を一つあげ、それを1学期の実践事例集としてまとめた。

  • デジタル教科書活用一覧(1学期分)と振り返り一覧(1学期分)の作成
  • 1学期の教材で「活用できそうな場面・機能」を一覧表にし、活用の手引きとした。また、活用後の「振り返り」を一覧表にまとめ、今後の参考になるようにした。

 

成果と課題

  • 学期始めに、学習評価システムについて丁寧にわかりやすく説明し、5月に全校生を対象としてガイダンスを実施したことにより、学習評価システムにいての理解が深まり全校生に定着し、生徒の学習に対する意欲も高まってきている。

  • 校内授業研究会など機会に、教師も生徒よさを見取ろうとする授業改善への意識が見られ、授業にもさまざまな工夫が行われるようになってきている。

  • 学期末の校内研修会では、「学びの質の高い姿」を全職員で共有化するために、各先生がどのような基準で活動評価を行っているか今後も情報交換を行っていく必要がある。また、各教科で「学びの質の高い姿」を生徒に明示し、生徒が自己評価できるように改善していくことが課題であることを確認した。
 

裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

  • デジタル教科書という新しいコンテンツが入ったことに抵抗や戸惑いが生まれてくるか心配したが、全教員が進んで活用していることは嬉しい。

  • デジタル教科書にはいろいろな機能が付いているので全て使いこなすには、時間がかかる。

  • デジタル教科書を使って、写真や図・動画などを提示すると、児童の反応がよく、分かりやすいので、次も使ってみようと思える。

  • デジタル教科書を使っての第1回目の研究授業を、ICT機器利用に抵抗のあるベテラン教員(担任をもっている教員の中で最年長者)が、率先してしたことは、他の教員の刺激になった。

  • 映像を流すことで理解が深まることもあれは、先入観を持たせてしまうこともあるので、提示の仕方はよく考えないといけないのでは。

  • 「子どもに何を理解させたいのか」、「めざす子ども像」は、その一つの手段としてデジタル教科書などICT機器があることを忘れてはいけない。

  • 教師の立ち位置パソコンの操作など、慣れないときは注意しないと、児童の表情や反応を見逃してしまうこともあった。

  • ガイダンスで全職員で生徒一人一人にあたることで、学習面以外の友達関係なども見えて教師同士の情報交換できた。

  • デジタル教科書は効率よく教えることができる。しかし、画像を提示して、教師が理解しただろうと思うことででも、実際に作業させるとできないこともあった。

  • 手探り状態からのスタートではあるが、今まで研究で培ってきたことを大事にしながらデジタル教科書などのICT機器を有効に活用していきたい。

解説と講評

コメント:和歌山大学 准教授 豊田充崇 先生

■ はじめに

 北六甲台小学校は、西宮市の北部、中国自動車道にほど近い住宅地内の高台にあり、見晴らしのいい校舎からは、山々の緑の中に建物が点在するといった風景が目に留まります。
 まず、学校を訪問すると職員全体の年齢層の若さに驚かされます。おそらく、国内の平均的な学校よりも、「ひとまわり」は違うのではないでしょうか。
 この活気溢れる学校は、「学びを深める子どもの育成〜デジタル教科書の活用で基礎学力の確かな定着を図る」という研究テーマを掲げていますが、実際に取り組みを始めると、「デジタル教科書」にとどまらず、ICT機器全般について、「どん欲」に研修を進めているのが特徴です。そのため、外部講師や企業派遣によるICT関連研修を数多く取り入れてきています。

■ すばやい!「ICT活用」の浸透

 「ICT活用初心者且つ校内で一番の年長者が見本をみせる」といった"スローガン"を掲げた授業研から始まった「デジタル教科書」の活用ですが、既に「まずは使ってみる」という段階は全員クリアーしており、共通認識や相互の教え合いが自然形成されてきているように思います。
 これらの一学期間の取り組みは、素早く「事例集」や「活用一覧表」にまとめられ、成果の抽出が前倒しされています。年度末にまとめて・・・ではなくて、いい意味で「走りながら考えている」状況だといえます。
 年度当初は、「ICTを使わなければならない切迫した空気」が、ほんの2,3カ月で、どう使えば子ども達の学びを深めるのかといった視点を持ち、その効果は従来と比較してどうかを冷静に判断できるまでに至っているともいえます。
 デジタル教科書の利用に際しては、できることの探索は終わり、既に「できないこと」をどう工夫していくかといった段階に入ろうとしている先生もいるほどです。

■ ICT活用をきっかけとした「授業改善」へ

 また、一学期を通してデジタル教科書を活用することで、従来のアナログの良さつまり掲示物や板書の重要性に気づき、発問の重要性も再認識できているようにも感じました。この点、「ICTを活用するための研究」ではなく、『ICT活用をきっかけとした授業改善・学力向上を目指した取り組み』であることが浸透されているといえます。

■ 学校教育目標へのアプローチ

 少し話は逸れますが、学校教育目標の一番目に「聴く」を掲げているのも特徴的だと感じました。これはとても日本人の気質に合致した目標ではないかと思うのです。とかく"主張が弱い"と言われがちな国民性ではありますが、それを否定的に捉えず、まずはきちんと「他人の考え方を聴き、受け止める」そしてそれから自分の思いを伝える段階に向かうという考え方には非常に共感できました。
 ここに、ICT活用の効果がどう絡むかといったことも検討課題の1つですが、この点、2学期から統一フォーマットで記述していく学習指導案に、「聴く」を意識した項目と「ICT活用」という2軸が盛り込まれました。この2つの項目が独立したものではなく、クロスするポイントを探っていくことで、学校教育目標と特別研究指定校として掲げた研究テーマとの接点を具体化できるのではないかと期待しています。

■ 今後の展開について

 現在、デジタル教科書活用の学習効果をどのように検証するのか、ICT活用授業の評価をどう示すかといった点が課題として出されています。客観的な学習効果の測定は教育界の大きな課題ではありますが、ICT活用における指導者側の実感や児童の個別エピソード等をできるだけ多く拾い上げ、長期的な検証を進めていきたいと思います。
 あと、副次的な成果として、教師自身が情報機器を授業に活用しだしたことで、児童らの情報機器の活用にも関心がいくようになっているようです。そもそも、児童らも家庭でインターネットを学習や遊び等に活用しているし、ケータイやオンラインゲームで楽しんでいるはずです。そういった実態を見据えて、いわゆる「情報モラル教育」へのアプローチも検討されてきています。

 以上、まだ初回の報告ですので、総括的な文章は抜きにしておきますが、2学期はできるだけ校内に足を運び、先生方のイノベーションを捉えてみたいと思います。

 
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